March 09, 2025
Peoples Democracy
(PCIM)

米帝国主義の大統領が平和主義者になることはあり得ない
Impossible for a President of the Imperialist US to be a Peacemaker


by Vijay Prashad



はじめに

2月28日、トランプ米大統領がゼレンスキー大統領とともにホワイトハウスの大統領執務室に座った。そのときトランプは「私は平和推進者として記憶されることを望む」と語った。

トランプがロシアとウクライナの間で合意を結ぶ必要性について語ると、ゼレンスキーは慌てだした。

この2人は、同じ資本主義社会のなかで異なる利害関係を代表する。だから、この戦争の性質についても、戦争終結の可能性についても意見が合わなかった。

ゼレンスキーはロシアを徹底的な侵略者とみなしており、ロシアのプーチン大統領が安定した平和に同意することは決してないだろうと感じている。言い換えれば、ロシアと国境を接する国を統治するゼレンスキーは、プーチンが権力を握っている限り、ロシアとの平和はあり得ないと考えているのだ。

一方トランプは、ロシアはNATOを含む不安定化勢力によって戦争に追い込まれたのだと考えている。NATOは、ロシアの戦車がウクライナに侵攻するずっと前に、プーチンが望んでいた安全保障を保証できたはずだと考えている。
(それはケナンからキッシンジャーへと続く米外交界の保守本流の考えでもある)

トランプの状況認識では、クリミアとドンバス地域を除くウクライナ全土からロシア軍を撤退させるというロシアへのシバリが可能だという判断がある。
そして、それをロシア側の譲歩とし、その交換条件として、プーチン大統領に一定の安全の保証を与える。
クリミアとドンバス地域では、すでに構成人口が変化しており、ロシア人として暮らすことを望むロシア語話者が多数派となっている。

ホワイトハウスでの会話の中で2人の間の溝は決定的となった。カメラの前での会話はしばしば中断され、ゼレンスキーは何度かトランプの発言を遮って、米国大統領の状況認識に異議を唱えようとした。

約40分間の押し合いが続いた後、J・D・ヴァンス副大統領が会話に割って入った。ヴァンスは、ゼレンスキーが2024年の選挙で民主党とともに選挙活動を行ったことを指摘し、トランプに感謝していないと批判した。さらに過去3年間ウクライナに与えてきたものに対して、米国民に敬意を払っていないと非難した。これで会話は事実上終了した。合意はなかった。
トランプは興奮した声で、ゼレンスキーが世界を「第三次世界大戦に引きずり込もうとしている」と繰り返した。


トランプは本当に「平和主義者」なのか

この会話の後の欧州を中心とした騒ぎは、一つはウクライナ戦争の将来をどう見るかという問題、もう一つは、ウクライナのヨーロッパ同盟国は米国が撤退したあと、同じレベルの支援を提供し続けることができるかどうかという問題についてであった。後者には、戦争の最初期にイーロン・マスクが提供した通信用のスターリンク衛星も含まれる。

しかし、対話の会場に響き渡った本当の声は、そしてトランプが何度も繰り返してきたのは、彼が「平和主義者」だということだ。
この主張はやみくもに否定されたり、退けられたりするべきではない。きちんと退けられる必要がある。

トランプのウクライナでの行動と米軍削減計画を誤解すると、平和構築の表面的な要素と解釈される可能性があり、実際にそう解釈されてきた。
しかし、これは表面的な解釈だ。米国帝国主義は健在だ。それは変わっていない。変わったのは、今後の期間に米国が従う戦略だ。

これを理解するために、ウクライナと軍事削減という2つの側面を順に見ていこう。


反覚醒主義(wokeism)で共通する米ロ

トランプはウクライナに並々ならぬ関心を持っている。しかしその理由は、分断された同国に平和をもたらすためではない。標的は大国ロシアである。

トランプはロシアを西側諸国の自然な同盟国とみなしている。米国とロシアの間の緊張を解消することは、地政学的に見て当然のことだ。トランプには自由主義、覚醒主義(wokeism)、共産主義を西側文明への脅威とみなす白人キリスト教保守派の世界観がある。そしてロシアはその世界観に完全に合致している。

補注:覚醒主義(wokeism) Wokeはアフリカ系アメリカ人の造語(AAVE)に由来する形容詞で、もともとは人種的偏見や差別に対する警戒心を意味する。リベラル勢力は、「醒めた 」思想を擁護する。反覚醒運動はヴァノンらによる対抗思想で、一種の汎白人主義である。
Stay_Woke

2025年1月下旬にダボスで開催された世界経済フォーラムで、トランプの側近でイーロン・マスクの友人でもあるアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、「覚醒イデオロギーという精神的ウイルス」を「西側文明の基盤を破壊している伝染病」と表現した。
そして「フェミニズム、平等、ジェンダー・イデオロギー、気候変動、中絶、移民」という「同じ怪物の頭」を次々と並べ立てた。「西側諸国は危険にさらされている」とミレイは言い、「覚醒イデオロギーという癌」を撲滅しなければならないと述べた。

この考え方は、トランプ大統領の元顧問であるスティーブ・バノン氏によって裏付けられており、ロシアでは、ロシアの価値観は西側の「悪魔的」価値観(プーチン大統領が2022年9月にクレムリンでの演説で使用した言葉)よりも優れていると示唆する右派による「反覚醒」運動が展開されている。

ロシアのブルジョアジーの一部は、プーチン大統領が米国と和平を結び、制裁を緩和することを望んでおり、ロシアと中国の緊密な関係が逆転することを厭わない。実際にも、中国との間には貿易不均衡があり、それは中国側に有利である。そのことで、ロシアの金融家の間に不満が生じている。

共通の価値観という点でも、プーチン政権の陣営内には大きな分裂がある。その最も重要な発言者の多く(ラブロフ外相など)は、キリスト教保守派とは明確に一線を画している。
それとは逆に、2022年に中国と締結した「無制限」のパートナーシップに基本線を置く現実主義の外交をロシアにとって重要なものと考えている。この価値観に抵触するものであれば、それを犯してまで西側諸国との完全な和解を求めるべきではないと考えている。

ラブロフや他の現実主義者にとって、反覚醒派との思想的つながりは弱く、プーチンはボリス・エリツィンの弟子であり、欧米がソ連没落時にとった仕打ちを痛感している。現在米国が二級白人ゼレンスキーを処分している様子を見て思い出すであろう。帝国主義陣営との同盟は永続的でも相互に有益でもないことを。


根底的不信はトランプも同じ

それはトランプも同様だ。トランプのアジェンダは完全に米国にとって最良の取引を得ることであり、それ以上でも以下でもない。中国人が言う「ウィンウィン」の取引に至上の価値を置く思考法であることに、疑問の余地はない。

トランプは、「ウクライナ戦争の費用を負担すべきなのは米国ではなく欧州だ」と頻繁に発言している。この言葉は「ロシアであろうとヨーロッパであろうと、我々には関係ない」という考えの表現である。ロシアへの軸足を置くことは戦略の基本ではなく、完全にコミットしているようには見えない。

もし欧州諸国が資金を調達できれば(可能性は低いが)、そしてもし彼らがまともな軍隊を編成できれば(さらに可能性は低いが)、トランプ氏は彼らが東部や北部ウクライナのどこかの小さな町で自分たちの徴兵兵を無益な戦争に巻き込むのをただ座って見ているだろう。

トランプ氏の現実主義的な政策を推進しているのは戦争自体を終わらせることではなく、米国の戦争支援を終わらせることだ。
トランプ大統領がウクライナへの支援を終わらせたいのは、世界に平和をもたらすためではなく、米国の資産を統合して米国の産業基盤を再建し、中国を脅迫し威嚇するために米国の軍事資産を再配置するためだ。
(この文章が発表されたのは、米ウクライナ共同声明発表の前日。このあたり、さすがのプラシャドもイデオロギー的裁断が先走っています)


ヘグゼスと軍事革命

米国の防衛予算全体は、トランプの第2期政権の終わりまでに増加するだろう。これは平和主義者の軍隊ではなく、世界にとってより危険な米国軍隊を作ろうとする試みである。

ピート・ヘグゼス国防長官率いるトランプの軍事チームは、軍事費を8パーセント削減すると発表している。しかし、これは米国の軍事活動すべてを削減するものではない。彼らはこれを国防総省の官僚機構から切り離し、米国政府の致死的対抗核戦略の一環として「アイアン・ドーム」防衛プロジェクトに移したいと考えている。そこには「先制攻撃禁止」政策へのコミットメントはない。

米国における軍事革命は、ドナルド・ラムズフェルドの時代に遡る。彼は、2001 年初頭、ジョージ・W・ブッシュ政権の国防長官の承認を受けるため米国上院に出席した。その際彼は、「軍事革命」の必要性について長々と語った。

ラムズフェルドが言いたかったのは、軍隊はもはやベトナム戦争や朝鮮戦争のような物量戦争を戦うのではなく、より機敏になり、より致命的で効率的な武力行使をするために先進技術を駆使しなければならないということである。

この革命(ハイテク戦争への移行)はラムズフェルド・ドクトリンとして知られるようになったが、その 3 つの要素は、ミサイルを含む航空攻撃に大きく依存し、敵の軍隊を壊滅させ、小規模な特殊部隊が探知される恐れなく活動できるようにし、通信と ISTAR の先進技術を活用することであった。

補注:ISTAR intelligence, surveillance, target acquisition, and reconnaissance (情報収集、監視、目標捕捉、偵察)の頭文字を取ったもの。目標捕捉を除いたISR活動は、作戦計画策定のための3つのアイテムとされる。

ラムズフェルドの教義は、ローテクのイラク相手では機能しなかった。しかしラムズフェルドは時代を先取りしていた。
戦場の技術は劇的に向上し、ドローンは空中援護とISTARの両方の能力を提供している。ピート・ヘグゼス国防長官は、軍の改革は単に予算を削減することではなく、「殺傷力、戦闘力、即応性」を向上させることだと述べている。資金を失うのは、無駄が多く軍事革命に従わない分野だけだ。しかし、それ以外の点では、米軍は強化される。

トランプ政権のプロジェクト2025の青写真では、軍に関するセクションは元軍関係者クリストファー・ミラーが執筆した。ミラーは、削減された予算のもとでも、陸軍は5万人増員でき、海軍は水陸両用艦艇を維持し、空軍はF-35Aの調達を増やすことができると書いている。
ミラーは付け加えている。プロジェクト2025の改革が成功すれば、米軍はより平和的(平和主義者の軍隊)ではなく、より凶暴になる。そこにヘグゼスの軍事革命の考えと矛盾するものは何もない。


より根本的な分析が必要だ

トランプが今後どのような行動を取るか、予測は難しい。彼の言葉を鵜呑みにすると、混乱してしまうだろう。トランプや彼の MAGA チームのあれこれの発言に憤慨するのは、気をそらすだけだ。

第二期トランプ の大統領就任によって動き出した政治力学について、より根本的な分析が必要だ。

トランプは平和主義者ではない。パレスチナ人は彼が併合主義者であり、戦争屋であることを知っている。トランプは、世界で最も強力な国であり続けるために、米国を強化するための新たな選択肢を模索している。