ゼレンスキー・イリュージョンの破裂

この間、トランプがゼレンスキーをやっつけるシーンは、あまりに刺激が強すぎて、とても痛快とは言えなかった。

ただ、あそこまでやらないと、ひとびとの抱くゼレンスキー・イリュージョンは消し去ることはできなかったろうと思う。それはある意味でトランプが世界を相手に打った大ばくちであった。
それは今のところ、まだ成功したとは言えないだろう。そうかんたんに呪縛が解けるとは思えない。
いまやゼレンスキー・イリュージョンはほとんど宗教、「正義教」の域に達してる。最初は風船のようにふくらませたフィギュアだったのが、3年間の間に分厚く塗り固められ、今や聖人かと見まごうほどだ。

彼は俳優であり、トランプがほめたようになかなかの役者だ。最初から半袖の肌着姿で映像に登場し、戦闘状態のリアリティーを強調した。まもなくそれは彼のフォーマルウェアーとなり、周囲もそれを認め称賛した。彼はその姿で世界(片側の世界)の寵児となった。

私たち年寄には、それはポパイのイメージと重なる。横ジマの水兵服から太い腕を突き出し、ほうれん草の缶詰めを食えば、たちまち無敵の男となる。ただポパイは陽気だがゼレンスキーはしかめ面が定番だ。

しかめ面といえばもうひとりのしかめ面がいる。侵略者で邪悪な世界の支配者プーチンだ。そして正義の味方ゼレンスキーのこの上ない引き立て役だ。「正義教」の信者にとって二人は格好のアイコンだ。それは勧善懲悪の芝居の筋書きの登場人物だが、彼らの後ろには黒幕があって、その影からNATOがウクライナを操っているという構図を、このバイブルは見事に覆い隠している。

この黒幕を引きちぎったのがトランプだ。

露悪趣味のトランプは、ゼレンスキーを操っていた自分の姿までさらした。そうして肌着姿のゼレンスキーを、「部下のくせに失礼だ、敬意を示せ」と叱責した。たしかにそうだ。全盛期のワイズミューラーでもターザン姿でホワイトハウスを訪問することはなかろう。
しかし、そうさせていたのが自分たちであることを忘れてはいけない。

zerensuki
  せめてこのくらいの服装ならもう半年持ったかも

その瞬間に英雄ポパイの偶像は破裂した。世界のアイコン、ゼレンスキーは自由と抵抗の象徴ではなくなった。いまはまだ欧州の英雄だが、明日にはそうではなくなるだろう。

これまで欧州の指導者と戦争貴族たちは幸せだった。ゼレンスキー大明神を奉っていれば、金は米国が出してくれ、戦争も続けさせてもらえた。ウクライナの人々が塗炭の苦しみを味わおうと、自国の人民が貧困に陥ろうと、我が身は安泰であった。

三年経ってもそのぬるま湯から出ようとしなかったから、トランプにまで愛想を尽かされた。いま「正義教」のお題目をなおいっそう声高にすることで、その場を取り繕おうとしているが、もはやそれでは立ち行かないだろう。

ついでにもう一つの集団幻想

もう一つの集団イリュージョンは、「無垢なユダヤ人」信仰だ。信者数は少ないが教義ははるかに強力で、しかも年季が入っていて、とても一朝一夕に克服することはできない。しかしこの「反セミティズム」という暗黒の世界にもようやく一筋の光がさして来た。

「ホロコーストを実行したユダヤ人」という忌まわしいレッテルは、これからイスラエルの指導者について回ることになるだろう。
ついでだが、第二次大戦下のレニングラードでナチスによるホロコーストが仕掛けられた。百万の人が飢えと病気でなくなった。プーチンもそんな家族の一人であることも付記しておこう。