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Geopolitical Economy
2025-01-12
マイケル・ハドソン 「ドルの兵器化は裏目に出ている」
US weaponization of the dollar is backfiring
リード
トランプは、世界の石油とLNGの供給をコントロールすることを目指す。それとともに、米ドルの支配力を金融システムの隅々に根付かせたいと考えている。しかしその戦略は、各国のドル離れの加速化をもたらす結果となっている。
以下本文
「われわれが勝ち、あなた方が負ける」
トランプは、他国を踏み台にして、アメリカをさらに強くするという計画を推進してきた。彼のモットーは、「われわれが勝ち、あなた方が負ける」“we win; you lose” である。
しかし本来、ビジネスの原則は両者が互いに恩恵を受けることである。この原則に背く計画は、彼の想像とは逆の効果を生むだろう。したがってこのようなことを繰り返していても、アメリカの経済に大きな変化はないだろう。私はこれを「ハドソンの(裏目の)法則」と名付けている。
トランプ大統領の下で “we win” が続けられるなら、その反作用もピークに達し、米国経済を痛めつけるする可能性がある。アメリカの、他国を攻撃する行動はすべて裏目に出て、アメリカの政策に少なくとも2倍の犠牲を強いることになるかもしれない。
いま、外国がアメリカの政策的侵略の犠牲者となり、それが常態化している。わたしたちはそれを目前にしている。アメリカの対ロシア経済制裁がそうであることは明らかだ。
アメリカが他国を攻撃すれば、等価交換のルールのもとで、アメリカも必ず返り血を浴びることになる。
アメリカ自身が反作用を回避しようとすれば、同盟国がその代償を負うことになる。その典型がノルド・ストリームの切断だ。この陰謀により、西欧諸国は深刻なエネルギー危機に陥った。しかしそれは、アメリカがLNG輸出を急増させることににつながった。
(訳注:ドイツはバルト海底を走るパイプラインによって、ロシアからエネルギー供給を受けていた。23年、米国はこれを爆破した。ロシアは販売先を失いドイツは購入先を失った。アメリカは自国のLNGを売りつけることで大儲けした)
その代償は、数年後に跳ね返ってくるだろう。米国の政策からの独立を宣言する欧州諸国の国民の怒りで、米国は欧州とNATOを失うことになるかもしれない。
経済封鎖は既得権益層からの反発を覚悟しなければならない
NATOの軍事指導者は、どっちつかずのヨーロッパとの決別を望んでいる。そのために、ロシアと中国に対する制裁(より強力な禁輸)を要求している。さらにその後に続くのは、ロシアと中国が輸出材の販売をさせないようにするカウンター制裁である。
過去に我々は、米国の外交政策にそぐわない行動を取ろうとする国々に対して、米国の政策を押し付けるために関税を使うトランプのやり方を見てきた。それは関税の理不尽で乱暴な引き上げという方法である。
この提案には共和党の既得権益層からの反発が多く、最終的に彼の提案を承認しなければならないのは議会である。トランプの関税操作はおそらく多くの既得権益を脅かすことになるだろう。
少なくとも当面、政権の初期段階でこれを大きな戦いにすることはできないだろう。なぜなら、彼は2016年以来、彼と対立してきたFBI、CIA、軍を一掃するための戦いに忙殺されることになるからである。
ドルを兵器化するという試みは、これまでの貿易制裁に匹敵する効果があるのか?
真のワイルドカードは、“ドルを武器として用いる” というトランプの脅しである。通貨を絡めた外交政策は、財務や金融当局ではなく行政府の管理領域の下にあるからだ。
アメリカ政府の外交圧力の手段として、世界の石油取引と主要なメディア・プラットフォームの支配権がある。これらの連動した動きによって、トランプは反撃の恐れなく他国を傷つけることができる。少なくともそうなりたいと考えている。それが彼の考える交渉であり、取引なのだ。
『フィナンシャル・タイムズ』紙のジリアン・テットの記事では、トランプが提案する「マガノミクス」について、スタンフォード大学のマッテオ・マッジョーリ教授の指摘を引用している。(補注:Make America Great Again-nomics)
マッジョーリは、「中国のパワーが製造業に依存しているように、米国の地政学的パワーは金融サービスに依存している」と推定している。
つまりトランプは、金融を通じて世界の石油とLNGの供給をコントロールすることを目指す。それとともに、通貨の優勢を背景に、世界をアメリカの金融パワーの前にひざまづかせるつもりでいる。
そんなトランプにとって、ドルに代わる通貨を求めるBRICS諸国は目の敵となっている。最近も「ドル支配を脅かすような動きは容赦なく罰する」と脅した。
世界各国は米国の独占資本の管理下にある情報技術を必要としている。また石油メジャーの支配する原油やLNGを必要としている。それと同様に、決済や信用取引のために、米ドルと金融市場へのアクセスを必要としている。これが米国の金融支配力の源である。
ウクライナ戦争が始まった直後、米国は、SWIFT銀行決済システムからロシアや他の国々を遮断しようとした。しかし、ロシアと中国が独自の予備システムを構築したため、その計画はうまくいかなかった。
ドル戦争にはもう一つの手段がある。それははるかに悪辣で暴力的なものだ。預貯金の接収である。アメリカはイングランド銀行にベネズエラの金塊を没収させ、国内右派の野党に提供させた。この銀行強盗はうまくいった。
ついでEUと米国は、ロシアが保有する3000億ドルのドルとユーロを没収した。これがみごとに功を奏した。G7はロシアと戦うためにウクライナに利子(約500億ドル)を提供した。
しかし米国が白馬の騎士であるわけがない。利子補給の前に、米国はウクライナの外貨準備高をすべて差し押さえている。この金がウクライナの再建に使われるとは思えない。それは、アメリカの資産収奪のパターンをシンプルに反映しているだけだ。
カダフィがリビアの金塊を利用して、アフリカの中央銀行が保有するドルに代わる金ベースの通貨を作ろうとしたとき、米軍はリビアの金塊を奪った。
同じことがシリアでも起きている。アメリカは、征服の戦利品として石油輸出だけを残し、撤退する際にシリアの金塊を奪った。アフガニスタンの金準備についても同様だ。
つまり、米国は金が世界の通貨システムで再び重要な役割を果たすことを期待しているのだ。 (さらに侮辱的なことに、米国当局がイランにパーレビ時代の預貯金を最終的に返したとき、これをイランへの贈り物と呼んだ。そして米下院はこの“偽善”を激しく攻撃した)
金融政策は実体経済で裏付けられなくてはならない
中長期で見て大きな問題は、このような米国の金融政策がどれだけ積極的に機能するかということだ。他国を遠ざけてしまうことにはならないのか? アメリカの国際的な駆け引きが、自滅的なものになる可能性はないのだろうか?
それはアメリカだけ見ていても片付かない。ここでは、金融支配の試みに対して、世界の通貨制度がどのように進化していくのかをかたらなければならない。
私には、そのような試みは実現不可能に思える。アメリカをふくめどの国も、金融だけで国際的な権力を基盤にできると考えるだろうか? そろばんから富が生まれると考えるのだろうか。
すべての国が金融と貨幣を生み出すことができる。しかし、すべての国が工業化できるわけではない。(アメリカやドイツの場合は再工業化)
米国は非工業化し、新自由主義的な民営化政策によって、債務返済、健康保険料、不動産費用といった莫大な社会負荷を経済に課した。
FIRE(金融・保険・不動産)部門はGDPに占める割合を高めているが、その収入は実際には「製品」に対するものではない。それは物質的富を生み出しているのではなく、生産・消費経済からレンティア部門への移転支出をもたらしているだけである。
補注: レンティアとは働かずに資本から収入を得る人のことです。これは利回りを生み出す資産の所有を通じて行われます。(Wiki)
信用と賃料のコストが上がれば、GDPも上がる。その結果、アメリカのGDPは、中国やその社会主義市場経済よりもはるかに「空っぽ」なのだ。
「ハードマネー」派は過去の世界に生きている
今日の貨幣はコンピューター上で作られる。強力で自給自足的な国家や地域グループであれば、独自の貨幣を作ることができる。銀地金や金地金を基軸とした通貨や債務を持つ必要はもはやない。
共和党の右派はいまなお「ハードマネー」信仰に囚われている。「ハードマネー」派は、かつての金為替本位制を懐かしみ、政府による貨幣発行は本質的にインフレであると主張している。
彼らが昔の金為替本位制を切望していることを考えると、トランプ氏は過去の世界に生きているといえる。それが彼を天才たらしめているのだろう。2つの相反する見解を同時に持ち、それぞれがもう一方の見解と矛盾する独自の論理を持つことができるのだから。
金が中央銀行の主要資産であった過去の世界では、アメリカは非常に強かった。第二次世界大戦後、朝鮮戦争が勃発した1950年までに、米国財務省は世界の中央銀行の金の80%を独占することができた。
第二次世界大戦後、他国は米国の輸出品を買い、ドル建ての債務を支払うためにドルを必要とし、ドルを得るために金を売った。
しかし1971年までには、米国の対外軍事支出は限界に達し、米国の支配力を消滅させてしまった。私が1967年に作成した統計によると、米国の国際収支の赤字、つまり米国の金を流出させていた赤字は、すべて海外での米国の軍事費であった。
中央銀行の通貨準備高は、金ではなく、主に米国債で構成されるようになった。ドル紙幣と米国債の発行権が米国の力の源となった。これが、1972年に拙著『超帝国主義』で述べた変化である。
しかし、金融を武器化しようとするアメリカの企てが強まると、情勢は大きく変化した。各国はドルをこれ以上保有しないようにしただけでなく、金を米英に保管したままにしておくことも避けるようになった。ドイツでさえ、その金準備をニューヨーク連邦準備銀行から自国に送り返すよう求めている、
1930年代、第二次世界大戦が間近に迫る中、安全を求めるヨーロッパ資本はアメリカへ雪崩を打って流出した。逃避資本が殺到して以来、ヨーロッパの中央銀行が保有する金の多くは、ニューヨーク連邦準備銀行で保管されてきた。
国内通貨と同様、金のような純粋な資産でない限り、国際通貨は負債である。
強調米国が金を米国政府や民間の負債に置き換えることができたのは、それが国際決済の基盤を提供したことが大きい。そのため、国際準備資産として「金と同じ価値がある」ように思えたのだ。これが国際情勢の恒久的な状態になるとは思えない。
誰でもお金を作ることはできる。しかし、それをどうやって受け入れるか?それが現在のアメリカが直面している問題だ。米国の債務が増大するにつれ、他国が自国の対外貿易、融資、投資の支払いにドルを使う必要性が本来ないのであれば、ドルはいつまで他国に受け入れられるのだろうか。
貨幣は公的債務である。
紙で発行されようが電子的に発行されようが、最終的には税金として受け入れられることでその価値を保っている。しかし、トランプと共和党は減税を望んでいる。納税のためにドルを手に入れる必要がないなら、なぜドルを保有するのか?
ドル戦略は対外債務問題と連動する
ドルを支持基盤のひとつは、債務国の存在だ。グローバル・サウスをはじめとする債務国経済は、積み上がった対外債務を支払うために、ドルを手に入れなければならない。しかし、それはいつまで続くのだろうか。
IMFや世界銀行は債務国に対して破壊的な政策を取り続けている。その他にもワシントン・コンセンサス政策に沿って、債務国を搾り取る仕組みができあがっている。こうして積み上がった対外債務を支払えば、自国の経済成長に投資する資金はなくなる。
そのとき、債務国は米国の債券保有者や銀行の利益と、自国経済の利益、どちらを優先するのだろうか?
別の言い方をしよう: 債務国は鉱業権やインフラ、公営企業を売却し、借金を返す資金を調達することを余儀なくされている。それもこれも為替レートを維持するためなのだ。システムは彼らに不利なように操作されているのだ。
この問題は、他の多くの通貨に対するドルの為替レートの上昇によって、今日さらに悪化している。この問題に立ち向かおうとしているトランプの考えは、非常に混乱している。
一方では、ドルの為替レートを下げたいと語っている。ドル切り下げによって、アメリカの輸出競争力を高めることができると考えているのだ。
しかし、米国経済は新自由主義のもとですでに非工業化しすぎており、当分の間、工業力を回復させることはできない。したがって、いま無理にドルを下げることは、米国の輸出を促進する手段としては非現実的だ。
トランプ大統領は、株式市場や債券市場の好況を煽るために低金利政策を続けると話している。一般的には金利引き下げは高い金利を支払う外国への資本流出につながる。カナダなど多くの国にとってはその通りだ。しかし米国経済は違う。
一次から三次までの量的緩和(QE)の際は、当然ながら金利引き下げをともなった。しかしそれは、実際には外国資本を呼び込み、ドルの為替レートを上昇させた。
同じようなことが1980年にも起きた。ポール・ボルカーが20%という超高金利をつけた後、一転して金利を引き下げた。このとき、債券市場は史上最大の上昇を見せた。同時に株式市場も活況を呈し、海外投資家を惹きつけた。
まず、トランプ大統領の低金利政策への期待がカナダ為替市場を活発化した。昨年10月以降、カナダドルの為替レートは下落し、米ドルは1.34カナダドルから1.44カナダドルに上昇した。ついでユーロにも反映し、ユーロのドル相場は1.12ドルから1.03ドルに下落した。ほぼ1:1のイーブンだ。
グローバル・サウス諸国の通貨は、米ドル建ての債券やその他の融資を維持しようとした結果、大きな圧力にさらされている。良くも悪くも、今年はドル高になりそうだ。
トランプ大統領は、単純にお金を刷ることができるというドルの「法外な特権」を維持したいと明言しており、他国は自国通貨高を防ぎ、ドル流入を再利用して米国債を買い続けることで為替の帳尻を合わせ、輸出に打撃を与えないようにしている。
しかし危険なことに、この連邦債という借用書は、財政赤字が爆発するにつれて高騰している。これにともない、延滞や債務不履行が増加している。連邦準備制度理事会(FRB)の安易な信用供与が、いつまでこうやって、株価や債券価格を上昇させ続けられるか、ということに焦点が絞られてきたようだ。
外国資本はいつ、どこへ逃避するのか?
最大の脅威は商業用不動産で、古いビルが空室率の上昇に直面しているため、住宅ローンの返済予定額が現在の賃貸収入を上回っている。ロンドンの金融シティ地区、ウォール街をはじめとするアメリカの金融センターは、高層ガラス張りの建物で、アメニティも、眺望も、雑居ビル街も、窓を開けることによる新鮮な空気もない。
古いビルの入居率は40%まで低下している。住環境としては最悪だから、住宅用に高級化することもできない。
消費者部門では、状況は一層深刻である。自動車ローン、クレジットカード、学生ローンの滞納が深刻化している。何かを諦めなければならない。
これら諸々の事情は、米国の金融市場だけでなく、国際収支にも影響を与えるだろう。外国資本が米国から安全な場所に逃避するよううながすファクターとなるからである。
安全への逃避が米国へではなく、米国から離れるのは、100年以上ぶりのことである。
米国経済は、労働力のアウトソーシングによって非工業化を進めてきた。そして金融利益を極大化させるように再設計されている。つまり、米国の産業力は、金融化された非工業化に取って代わられたのだ。
いまBRICSが米国の覇権主義から集団的に自らを守ろうとする動きを見せている。それは、経済の望ましい組織化方法における選択という動きを内包している。
それは、経済システムの根本的な断絶と分裂を意味している。金融資本主義は略奪的なシステムとして拒絶する必要がある。そしてトランプ大統領は、ドル離れを進める国々に対して制裁を課すことで、まさにその金融資本主義を推し進めようとしているのだ。
仮訳 鈴木頌
仮訳 鈴木頌
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