9日日経三面のトップ記事。
一言で言って、とても苦心したあとが見える記事だ。中でも記事につけられた各国の立場の変化を表した表は、この間の世界の流れをあからさまに示している。
もちろん、日経の基本方針は政府や主要メディアと変わりはない。その中で精一杯の表現だろう。
何よりも数字が「亀裂」の意味を語る。

人権理事会の基礎知識

国連人権理事会は人権侵害への対処を担う組織で、ジュネーブに本拠を置き、47カ国の理事国で構成される。ことの性格上、先進国が途上国に上から目線で容喙する傾向があった。このため国連総会の管轄下に入ることを定めた機構改革が行われた経過がある。
そうすると、理事国なのにあまり人権を尊重しない国が選ばれてしまう危険もある。このためそういう国を排除できる条項も設けられている。それが今回の総会決議である。
有効投票の3分の2以上の賛成で理事国資格を停止できる。棄権は有効投票ではないから、いくら増えても関係ないのだが、「積極的な棄権」はけっこう危険だ。

投票の結果: 世界の過半数は反ロシアだが、NATO諸国を支持しない

キーウ周辺での民間人殺害を受け、ロシアの人権理事会理事国の資格停止をもとめる決議が、国連総会に提出された。投票参加国は175カ国、共同提案国(ガチガチの賛成国)は58カ国である。採決ではこの58カ国に加え35カ国が賛成に回った。これで総数93カ国だ。

これに対し「非賛成国」は100カ国に達した。これだけの圧倒的なキャンペーンにも関わらず賛成国は半数に達しなかったのである。非賛成国というのは3種類あって、反対、棄権、無投票ということになる。

非賛成というのは2つに分かれると思う。一つはロシアは間違ったことはしていないという見方で、これは当然ガチガチの反対だ。もう一つはロシアは間違っているかもしれないが、資格停止されるほどのことではないという反対、あるいは資格停止という処分は誤っているという反対だ。
普通は保留になるが保留がないから棄権に回る。無投票も棄権の一種だが、このような採決自体がバカバカしい、賛成国の “上から目線” が気に入らないという意見かもしれない。

この辺を分析する手がかりとなるのが、前回、前々回の採決時から投票態度を変えた国の分析である。

記事ではこう書かれている。

「際立ったのが、反対・棄権票の急増だ。3月24日の決議と比べ、反対国が5倍化した。増えたのは前回の棄権国からの転換だ」

棄権票は約5割増えた。18カ国が反対に回ったことを考えると、その意味はさらに重大だ。そしてその結果、前回賛成国の3割が非賛成国となった。

過去3回の総会決議の投票数をみると、世界はNATO諸国と非NATO諸国に分裂し、ロシアの侵攻拒否においては概ね一致するが、非NATO諸国はそれ以上のお付き合いはご遠慮させていただきたいと言い始めていることがわかる。しかもその構えがますます強化されていることがわかる。

その表に進もう。

これは全部の国を集めて数字的に処理したものではなく、主な国々の主な意見をアナログ的にまとめたものである。したがって編集者の主観がかなり入り込んだものとなっている。
国連投票結果

意見の特徴を拾う

記事の本文には、この表そのものの分析はない。「読み取ってください」ということなのだろう。だから私なりに読み解く。

① 国連の役割を問う
「棄権→反対」意見で共通するのは、国連総会の役割を問う声だ。
ロシアが悪いのはわかるが、国連は裁判所ではない。こういうふうに世界の民衆の声をイエスかノーかに裁断することが果たして良いことなのか。
むしろ国連が率先して紛争解決に向けてイニシアチブを取るべきではないか、というものだ。
私としてはまことに正論だと思う。1ヶ月の間に3回も採決を行い、そのたびに加盟国に政治的踏み絵をふませることが、事態の解決に結びつくとは思えない。それはまさに現実の進行が示していることだ。

② 事実は未解明→処分は急ぎすぎ
人権理事会が設置した調査委員会が独自調査を行い、虐殺事件の真相を明らかにすべきだ。理事国の権利を剥奪する行為は大変重い。当事者が責任を否定している以上、事件の解明を終えてから処分を検討すべきだろう。

③ 人権侵害の疑いがあれば理事国になれないのか
率直に言って人権侵害の疑いをかけられている国は中国をはじめ相当数ある。日本も入管での人権侵害、慰安婦・徴用工での未解決問題を抱えている。
人権問題をことさらに強調する、NATO諸国の「ダブル・スタンダード」に対する途上国の不信感は根強い。「虐殺」を持ち出して特定の国を攻撃する手法は、先進国の常套手段である。
口には出さなくても、そのような通奏低音が存在するのではないか。

大まかにいえばこのような論点となる。いずれも新旧植民地主義の歴史をふくめ根深い問題であり、国連を使ったロシア攻撃はもはや困難となったと考えて良さそうだ。