出処は日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部米州課、日付は2017年4月、最新の情報である。ビジネスの視点から見たキューバの現状がよく分かる。これを要約・紹介しながら、自説を展開してみようと思う。
1.キューバ経済の実力
わかりやすい絵なので引用させて頂く。
出処はECLAなので確実だが、キューバ側がまともな数値を報告しているかが問題。
これが正味のキューバ経済である。ドミニカ並みの貧困国だ。ただしメキシコは石油でもうけている。パナマは運河でもうけている。ドミニカは出稼ぎでもうけている。キューバは何もない。
アメリカの禁輸は以前続いている。ソ連崩壊時のどん底から見ればよくぞここまで這い上がってきたという感じだ。
2.「経済とは何か」を考えてみよう
人々の生活は決して楽ではない。同じように政府の財政も大変厳しい。
ただ、そんな中でも医療・教育の無償はいまだに続けているのだ。耳にタコができるくらい何度も聞いているだろうが繰り返しておく。無料なのだ。


これは社会主義だからというだけではない。中国では医療費は全額自己負担だ。昔は無料だったが経済が厳しくなったときにやめてしまった。
キューバはどんなに苦しくてもやめなかった。
あまつさえ、チェルノブイリの子どもたちを養育し、世界の若者に医師への道を開き続けてきた。ハイチやインドネシアの大災害のときは率先して医療チームを派遣した。
これは政治の根っこにヒューマニズムを据えて来たからだ。「キューバの社会主義はまず何よりもヒューマニズムなのだ」ということは、頭に入れておいてほしい。
3.貿易と経済の厳しい実情
そうは言ってもカスミを食って生きていくわけにも行かない。率直に現状を見ておくことも必要だ。

率直に言って、ベネズエラにおんぶにだっこの状況だ。原油が1バレル100ドルのときはベネズエラも鼻息が荒かった。
キューバはベネズエラから潤沢な原油の供給を受けた。その代わりに医療教育のために人的資源を送り貢献した。
このバーターが成功した結果、キューバはふたケタの経済成長を続けることが出来た。キューバの経済規模はソ連崩壊前の水準に復した。
一方、80年代に500万トン以上の生産を上げた砂糖産業は見る影もなく衰退してしまった。その代わりに観光産業が発達し、砂糖の目減りを補っている。

観光客はここ10年足らずで3倍化し、観光収入も1.5倍化している。ただこのままではキャパの不足が足かせとなりかねない。
キューバ経済のもう一つの柱となっているのが、在米キューバ人の家族送金だ。これは今まで厳しく制限されてきたのだが、国交正常化に伴いほぼ自由化された。

まだ急増というほどには至っていないが、それでもこの10年間で送金額はほぼ3倍化している。2015年実績では330億ドル、3兆6千億円というからすごいものだ。
ただしこの金には多少なりとも反政府的な色がついており、貰った人間にしてみれば不労所得であるわけだから、いろいろトラブルを生じかねない金でもある。
幸いなことに、米国内の反カストロムードは弱まりつつあり、送金の政治的意図はあまり気にしなくても良くなってきてはいる。

ギャラップ社の調査では2015年を境に、「キューバ・シー」の声が上回るようになった。在米キューバ人社会でも反カストロ・共和党よりも親カストロ・民主党の割合のほうが高くなっている。時代は変わりつつあるのだ。
キューバの経済改革
ソ連崩壊とその後の経済危機のあいだ、キューバは自立経済を模索した。中国風に言えば改革・開放と市場経済の導入である。
率直に言えばこれらの「改革」が順調に推移しているとは言い難い。それは「改革」がジャングルの掟の導入であり、キューバが目指してきた「ヒューマニズムにもとづく政治」とは根本的に相容れないところがあるからだ。
しかしこの「苦痛を伴う改革」が避けて通れないものであることは、施政者の一致した認識となっている。
それにしても、私などが見れば、もうすこし大胆にやってもいいのではないかと思うが…。

キューバ経済の今後
ということで、ジェトロが描く明日のキューバ経済。と言うより短期見通し。
ご覧のようにかなりショートレンジの経済見通しとなっているから、本当はもう少し長期的・構造的な経済開発の視点で論じなければならないのだが、ジェトロという組織の性格上やむを得ないのであろう。
経済構造から言えば、一つは外資導入をどこまで進めるか。もう一つは第三次産業を如何に民間に委ねるか、ひっくるめて言えば資本の論理・市場の論理・多ウクラード社会の論理をいかにヒューマニズムの論理のもとに包摂するかが勝負の分かれ目であろう。
「ディーセント・ワーク」の基準をどこに置くかがポイントになると思う。
蛇足ながら、キューバと北朝鮮の違い
キューバは北朝鮮と似ていなくもない。まず第一に破産国家だ。金を貸してくれる国はない。第二にキューバ革命以来、アメリカの経済封鎖が続いている。アメリカに逆らいたくなければ、キューバとの貿易は遠慮するに越したことはない。第三に、それでもアメリカに逆らい続けている。強烈なイデオロギー国家だと言ってもいい。
しかし似ているのはここまでだ。
キューバは公然と、あるいはひそかに支援する国家に囲まれている。ラテンアメリカ諸国の真の思いはキューバと同じだ。強烈なイデオロギーではあるが、それはラテンアメリカの共通のイデオロギーだ。
もう一つ、アメリカの経済封鎖は今や世界中から非難されている。日本さえその合唱の輪に加わっている。
北朝鮮は政治的にもイデオロギー的にも世界から孤立しているが、キューバはそうではない。孤立しているのはアメリカだ。
最後に、繰り返しになるが、キューバの社会主義イデオロギーは、まず何よりもヒューマニズムに根拠をおいている。たしかに民主主義とか政治的自由とかに問題はあるかも知れないが、「弱者に目をやる優しさ」、ヒューマニズムこそが政治にもっとも必要とされているのではないか、そんな気がする。


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