多分、読者の皆さんより少し前に行き過ぎたようだと思います。

FATCAについてわかりやすく言うと、「外国の銀行の口座の金にも税金をかけますよ」ということだ。

と言っても、これは米国の話。

「アメリカ人が世界中に持っている口座をすべてチェックして、アメリカの財務省が把握します」という法律がFATCA法ということになる。

こういう法律が数年前に可決されて、いろいろ準備した後、14年の7月からすでに実施されている。

これで、世界中どこにも金を隠しておくことはできなくなったわけで、実に画期的なシステムなのである。

ただしこれはアメリカ政府が強引にやったことで、日本がそうしようと思ってもできるものではない。

どこがどう強引か。

米国の法律を諸外国に勝手に適用することはできない。だからアメリカ政府は各国政府と交渉して協定を結ぶことになる。というより否応なしに結ばせるわけだ。

この手の押し付けは、これまでもスーパー301条とか、キューバ禁輸法とかいろいろやってきた。米国というのはそもそも勝手な国なのだ。

これに対して、世界には3つの対応があった。ひとつはこの法律の積極面を受け止め、双方向の情報提供システムとする方向だ。

FATCAを使えば、ドイツ政府は米国にあるドイツ人の口座を知ることができる。他の国とも同じような協定を結べば、すべての外国口座を知ることができる。

FATCAを一つの基準にして、各国がお互いに情報交換をすることで、脱税の抜け道を塞ごうという考え方だ。これはヨーロッパを中心に世界の主流となっている。

ふたつ目は日本だ。報告義務は果たすが、相互主義は要求しない。つまり米国にある日本人口座の情報は頂かなくて結構。変にもらってしまうと、かえってややこしくなるということだ。

そして三つ目が、米国政府の要求を拒否するという態度だ。パナマはこれを選択した。その結果がこの度の「パナマ文書」事件だ。ICIJに悪気があるわけではないが、米国がこれを利用していることも間違いない。

実は、こういう暴露方式はスイスやルクセンブルグでも繰り返されてきた。その結果、両国は屈服し、アメリカに従うようになっている。

これからどうなるか

まずFATCAがこれからの世界基準となることは間違いない。やり方は強引だが、中身自体は間違っていないからだ。

ヨーロッパ諸国は、いまやFATCAの世界基準化に乗り出した。それがOECD(先進国機構)の提唱するCRSだ。

この徴税方式の良い所は、取引とか外形資産への課税ではなく、あくまで所得(現ナマ)への課税であることだ。ブンブン飛び回っているところを捕まえるのではなく、ねぐらを襲うのである。

そのかわり、投機資本とか高速取引などには無力だ。また、ビジネスを行い稼いだ対象国に税が還元されるとは限らない。多国籍企業の本拠の国(すなわち米国)に優しい税金となる可能性がある。

CRSのスキームはそこをなんとかしようとしているが、アメリカはそれには反対だ。「どこの国でどう稼ごうと関係ない。自分の国の会社が稼いだ金だから、その税金は自分のものだ」というのだろう。だからCRSには入ろうとしない。

ここが、これから最大の問題になっていくだろう。日本はFATCAにさえいやいや同意しているくらいで、「世界一企業に優しい国」の面目躍如といったところ。世界標準から見れば周回遅れとなっている。

菅官房長官が「パナマ文書のことなど調べるつもりはない」といったのにはそういう背景があるのだ。