「酸蝕歯」(Erosive tooth wear) というらしい。
どうもこの1年で歯がガタガタになりつつある。
変なのは、どこかが集中して悪化というのではなく、びまん性・多発性に、歯の先や角のところから崩れていくのだ。
どうも細菌感染というよりは蚕食という感じで、日本列島総崩れの様相だ。
この間、歯医者さんに行ったら、一度に4ヶ所も攻められた。まだあと数カ所は要加療という。
その時言われたのが、「胃酸のせいかもしれない」ということだった。
「えっ?」、まさに寝耳に水である。と言いつつ、そう言われてみて思い当たることがある。
この1年ちょっと、夜中の呑酸症状が出現するようになった。下部食道あたりの灼熱感、ときに吐き気を伴う。
就寝後1時間余で症状が出現し目覚める。いったん起きて、水分や牛乳をとってそのまま寝てしまうと翌朝はなんともない。
もちろん深酒をすれば出現頻度は高い。PPIが奏功する。ようするに典型的なGERDである。「歳をとったから」というのは当然だが、経過はやや唐突である。
酒量は確実に落ちている。外で飲む機会も減っているから、そんなに痛飲はしていないはずだ。
思い当たることは、タバコをやめた事、したがって体重が増えたことである。
問題は2つある。体重が増えたことがGERD出現の理由なのか、もう一つは、胃液が果たして口腔内まで上がってきて、歯を溶かしているのだろうかという疑問だ。
前者は心から納得するほどの説明ではないし、後者は相当マユツバである。
とりあえず、GERDとう歯の関係を調べてみよう。
日経電子版: 虫歯より深刻「酸蝕歯」 ちびちび飲み、歯には負担
というのがあった。
虫歯、歯周病に次ぐ第3の歯の疾患として、酸蝕歯が問題になっている。酸性の飲食物などで歯が溶けてしまう症状だ。
酸性度の高い飲食物というのは、ワイン、炭酸飲料、栄養ドリンク、かんきつ類、ドレッシングということで、私には関係のないものばかりだ。
ウィキによると、コーラ飲料はpH2.2で胃酸の数値(pH1~2)に近い(レモンのpHは2.1)。栄養ドリンクは2.5、黒酢飲料は3.1、スポーツドリンクは3.5であった。
中には、「夜のチビチビ晩酌は要注意です」という歯医者さんまでいる。酸性飲料と逆食の話を混同しているようだ。
ところが参考図には、こんなものがあった。
実は、由緒正しい「酸蝕歯」というのは、工場の酸性ガスの中で働く人や、逆流性食道炎の人などに起きるものと考えられてきたようだ。それが昭和40年代にコカ・コーラがバカ売れしたときに虫歯が大発生し、これが「酸蝕歯」注目のきっかけとなった。
今でも、酸蝕歯の重症例の多くは、逆流性食道炎や摂食障害の嘔吐(おうと)などで歯が溶けるケースなのだそうだ。
さらに別の記事では、喉頭炎、咽頭炎、副鼻腔炎、反復性中耳炎、後鼻漏症状などが関係するとされる。「中耳の中に胃酸の成分であるペプシノーゲンがたまり、難治性の中耳炎を起こした例も報告されている」そうだ。
もちろん、記事の性格上、根拠となるデータは示されていない。ある歯医者さんの言葉として紹介されている。記者のよく使う手だ。
というわけで、これ以上啓蒙的なページを探しても、納得できるようなデータは出てきそうにない。
学術論文を探すと、下記のものがあった。
長崎県口腔保健センターが去年発表したものである。知的障害者など約500名が対象となっている。
「結果」は省略して、「考察」のつまみ食い。
考察
① 酸蝕症の罹患率は26%、そのうち象牙質まで及ぶ重症例は7%とされる。障害者は施設で管理されているものが多いため、少なめになっている。
② 酸蝕症の48%に反芻癖や反復性嘔吐が認められた。これらのほとんどに自称、他害、コダワリなどの問題行動が見られた。
③ 一方、酸蝕症の71%がコーラ、ジュースなどの愛飲者であり、外因性の原因も考えられた。
④ 口腔内pHは全体にやや低値を示したが、多義的であり評価は困難である。
ということで、胃酸の関与についての評価は両義的であるが、少なくとも否定はできないと言える。
あとは以下の確認が待たれる。
1.GERDの側からの疫学調査。特に年齢との相関、除菌療法との相関。
2.ETW(酸蝕症)におけるPPI、SSRIの効果。