時代区分というのは、どうしても先学の基準に従わざるを得ず、無批判に受け入れがちだ。しかしある程度素養を積んでくると、やはりムラムラと反骨心が湧いてくる。やはり根っからのへそ曲がりなのであろう。

縄文→弥生は良いとして古墳時代という時代区分が適切かどうかは以前から疑問に思っていた。そもそも両者を分けるカテゴリーがまったく異種なのが胡散臭い。さらにそれが飛鳥・奈良時代という首都による政治区分になっていくのは、ものさしとしての意味を根本的に疑わせる。尺貫法とメーとる法を混用するがごときである。

まあこれは言葉の問題だが、私は歴史的観点の延長から先史時代も区分すべきだと考えている。つまり人間社会の有機的構成の高度化を尺度に考えるべきだと思う。これはマルクス主義でも唯物史観でもなく、人類史として考える以上当たり前の話である。そのうえで、具体的な手がかりとなる考古学的遺物から、もっとも歴史区分を反映するものを取捨選択して、それを時代のマイルストーンとして採用すべきではないかと考える。

その意味ではトムソンの旧石器・新石器・青銅器・鉄器という区分は発想としては的確なものだと考える。しかし、そのことがトムソン分類の妥当性を支持するわけではない。



私は、人間が生き延びることができるようになった三大発明というものを想定する。それは水の利用手段、火の利用手段、そして狩りの手段である。

この3つを確保することによって、しかも集団として具備することによって、人間は他の動物に対する優位性と相対的安定を獲得できるようになった。

おそらくこれが石器時代という時代の本質的特徴なのだろう。そして3つの生活手段が多様化することで人類社会は飛躍的に発展していくことになる。

ではそれぞれについて見ていくこととしよう。

水の利用というのは貯水と運搬、そして利水(農耕)に尽きる。それについて画期となるのはツボ・カメの使用と灌漑設備だ。前者は縄文式土器と水田耕作を重要なエポックとして押し出すことになる。

火の利用というのは着火や炉の作成などの安定化技術、調理による食材の多様化、金属の精錬技術などが挙げられる。

狩りの手段は実に多様だ。だからたぶん時代区分のメルクマールにはならないだろう。中では鉄が大きな変化をもたらしたものである。狩りは農耕の発達により一旦傍流の活動となるが、その後“マンハント”、すなわち戦争が人間社会のルーチンとなるに従い巨大な発展を遂げていく。火薬の発明、飛行機の発明、核兵器の発明は人類の大量殺戮史の分岐点となっていくだろう。しかし古代の世界ではとりあえず置いといてよい。

新たな時代区分の提唱

もちろん誰も聞いてくれないことを承知の上で、言っておきたい。

まず石器時代だが、これは厳密には無土器時代というべきであろう。これに対抗するのが縄文時代だ。縄文時代も旧石器時代であることは間違いない。中国の長江文明も最後まで石器時代の基盤の上に成立していた。しかし、そのことにどれほどの意味があるのだろうか。

こうして1万年ほど前から土器時代が始まる。これにより旧石器人の生活は飛躍的に発展し、縄文人が形成される。これを縄文時代ということは妥当である。であれば、それとの対比として無土器時代を「旧」石器時代と言うことは、悪くはない。

これについで主要な社会変化をもたらしたのは、農耕文明への移行であろう。これをどう画期として位置づけるかは難しい。難しいから弥生時代としてしまう。これは便宜的であるが有効な設定だと思う。

ただ、これは縄文後期における雑穀栽培の意義を過小評価している可能性がある。稲作のみが農耕ではないことに強く留意すべきであろう。夏・殷・周の中国文明は稲作なしに出現している。それは弥生時代の到来のはるか前のことである。

これ以降には技術学的な画期は、あまり目立たない。明治維新まで、ある意味では万世一系の世界が続いているとも言える。

ただし中国を見ると、大きな変化が矢継ぎ早にあって、それに伴って社会のあり方が何度も根本的変容を受けている。

それが紀元前3千年の小麦栽培、紀元前2千年の青銅器、そして紀元前1.5千年の鉄器である。いずれも内発的、自生的な技術ではなく、おそらくは新疆 回廊を通じたメソポタミアからの流入である。

これらのうち鉄器のみが日本に社会変動の要因をもたらしている。だから弥生時代をベタで描くことは納得出来ないのだ。

その画期がいつ頃なのかよく知らないが、政治状況や戦争(大量殺戮)の発生などを考えると紀元前後のことではないかと推量している。

私は紀元550年頃、倭国滅亡と蘇我氏の全権掌握まで続くその時代を「大乱時代」、あるいはいっそ「倭王朝時代」と呼びたいと思う。

以上をまとめるとこうなる。()内が通称である。

1.無土器時代(旧石器時代)

2.土器時代(縄文時代)

3.稲作時代(弥生時代)

4.鉄器時代(大乱時代)

* 新石器時代は日本では存在しない。稲作時代の後半に青銅器(銅鐸など)が入ってきたが実用性はなかった。