森谷尚行先生が唐突に逝った。3回のガン、頻回の血圧上昇発作、喘息による呼吸困難をしぶとく生き延びたが、最後はあっさりと土俵を割った。

何か西郷ドンがなくなったみたいで、これで全国・北海道の民医連運動が一つ完結したような気がする。

一つ、森谷先生のためにも言っておきたいことがある。

それは私の名で出版した「療養権の考察」が、事実上は私と森谷先生の共作だということである。

私と森谷先生は「療養権の考察」を70年代以降の民医連運動、とりわけ医師集団の実践の理論的総括と考えており、強固な構築物と考えている。

森谷先生は執筆には直接携わっていないが、問題意識を共有し、私に著作を促し、イメージを提供し、普及に尽力してきた。

療養権の核心となるアイデアは、医療が病者と医療者の共同の営みであること、それは教育や福祉・介護など多くの社会的過程に通底するものだということだ。

さらにそれらの活動は病者が主体となる療養活動に付き添う形で展開され、社会がそれを権利(療養権)として擁護する中で発展していくものだ。それが「労働」か否かは社会組織により規定される。

ただ、この考えを理解し主体的に評価できたのは森谷先生と私だけだった。(鈴木篤先生に評価してもらえたのは嬉しかった)

この思想は70年~80年代という時代が生んだものだ。戦線が急拡大し、社会運動としての医療実践、医療労働者の運動、医療サービスの改善を求める市民運動などが混然となり、百花斉放の趣を呈してた。さらに介護の分野が浮上していた。

医療戦線の統一が喫緊の課題であろうという視座を私たち二人は共有していた。「国民の生存権」の内容を時代に合わせ具体的に展開し、これを中核にしながら各分野の戦いを整序するという論点整理が求められていると感じていた。そのための哲学的、法学的、経済学的、組織論的考察がこの著作の主題である。

残念ながら、この著作はもはや歴史的遺産に過ぎなくなり、ほぼ忘却の底に沈みつつある。
森谷先生の遺徳を偲ぶに当たり、この思想はぜひとも一つ押さえておいてほしいものである。