北海道新聞の夕刊に、東直子さんという歌人が、山田航第一歌集「さよなら バグ・チルドレン」の紹介を書いている。この文章自体が大変良いのだが、図書館に行って縮刷版でも見ていただくしかないでしょう。

作者の山田航さんという人は「二十代半ばの若さで有名な賞を立て続けに受賞した注目の新人」だそうである。

いつだって こころと言葉を結ぶのが 下手だね どうしても固結び

世界ばかりが輝いてゐて この傷が痛いのかどうかすら わからない

たぶん 親の収入超せない僕たちが ペットボトルを補充していく

鳥を放つ。 ぼくらは星を知らざりし犬として 見るだろう 夜空を

打ち切りの漫画のやうに 前向きな言葉を交はし 終電に乗る

地下鉄に轟いたのち すぐ消えた叫びが ずっと気になってゐた

いつも遺書みたいな喋り方をする友人が 遺書を残さず死んだ

雑居ビル同士のすきま 身を潜め 影が溶け合う時刻を待った

ウーム… と、すぐには言葉がない 暗い その透き通った暗さの底がひりひりと輝いている 暗さの底にやさしい顔の人がいる

ただ時代の心象風景を鮮やかに切り取ってはいるが、時代を超えるようなものを掬い出しているのか、となると、またしてもウーム… である。

しかしそれを“甘え”といってはいけない。世の中、十分以上に厳しいのである。出来上がり、目標を喪失した砂のような社会のなかで、突き放した自己に寄りかかり、硬質な美意識を持ち続けることが、かすかな甘みをかもし出しているのだと思う。

評者の東さんは「打ち切り」という言葉に情念の尻尾をつかんだようだ。