日韓GSOMIAの消滅で一番困るのは日本だ

というわけで、タイムテーブルをつらつら眺めていると、意外な事実が浮かび上がってくる。

それは、「日韓GSOMIAの消滅で一番困るのは日本だ」ということである。

1.GSOMIAとはなにか

まずGSOMIAについて基礎知識。

軍事情報包括保護協定: General Security of Military Information Agreement というのが正式名称だ。

GSOMIAとは国家間で共有される秘密の軍事情報が、第三国に漏れないよう保護するための協定である。
日本はアメリカと2007年に最初のGSOMIAを締結して以降、欧州主要国5カ国とも協定を結んでいる。

ちなみに韓国は33カ国と結んでいる。

日韓GSOMIAは2016年11月に締結された。締結にあたっては韓国側には相当抵抗があったらしい。

とりわけ重要なのが、北朝鮮のミサイル発射に関する情報共有である。締結以来少なくとも25回の発動があったという。

日韓の間には安保同盟はない。アメリカをハブとする間接関係でしかない。その意味で日韓GSOMIAは「日米韓3国の疑似同盟の象徴」(香田)にもなっている。

2.「やめて損するのは韓国側」はウソ

香田氏はGSOMIAを破棄することで被害が大きいのは韓国側だと言っている。これはどう考えてもウソだ。ここ数年間、核実験やミサイル発射の第一報は明らかに韓国発だ。近いのだから当たり前である。

第二に、イージスで軌道を計算したりして対応を考えるのは日本だからできるのである。
1994年の核開発危機のときも明らかになったのだが、北朝鮮から見て韓国をやっつけるのに別にミサイルはいらない。超ローテクで十分だ。

国境線に並べた長距離砲が一斉に火を吹けば、ソウルや仁川などあっという間に「火の海」となる。
だから金日成が脅しをかけたときに、米軍関係者は密かにソウルから逃げ出したのである。

第三に、ミサイル発射という情報がチョクで日本に伝えられれば計算はできる。しかしその情報はアメリカ大陸での迎撃には役に立つかも知れないが、日本で間に合うかというとそうでもなさそうだ。

結局、イージスのシステムは米国に役に立つだけかも知れない。

ところが、金正恩が米朝交渉の手みやげに長距離ミサイルの開発を中止すると確約すれば、米国はイージスなどいらなくなる。短距離ミサイルで韓国が消滅し、中距離ミサイルで日本が消滅しても、「ご愁傷さま」で終わりだ。

今回の一連の経過でも、あのボルトンでさえ口先介入にとどまっているのが、米国がこの問題でさほど真剣ではないことの証拠だ。

ということで、もっとも深刻な影響を受けるのは日本だということになる。

3.日本の最終目標は核武装か

北朝鮮が核兵器とミサイルとを確実に保持したとき、しかも長距離ミサイルの放棄という形で米国と妥協が成立したとき、これまでの対中脅威論では対応できない問題が生じる。

つまり、日米軍事同盟とアメリカの核の傘と、GSOMIA+イージスを核とする対北朝鮮防衛システムでは、確実な抑止力とはなり得なくなっているのである。

ここから日本軍国主義のファッショ的自立という可能性が浮かび上がってくる。米国の核の傘戦略から大量報復機能の確保、核抑止力の保持戦略への移行である。

大本では、米国のもつ軍事力の威力の下での従属的関係を続ける。
しかし米国の軍事的支配力の低下によって生まれる権力の空白は、自らが覇権を主張することによって埋めていく…これがファッショ的自立の総路線である。

もはや、よくも悪しくも日本を世界支配戦略につなぎとめるアーミテージ=ナイ路線は消失した。
安倍政権というより、日本の右翼的支配階級は、このような代替路線を想定しているのではないか。