下記の記事が大変優れているので、その要約を上げておきます。一部私の見解も混じっているので、記事の責任は私にあります。興味のある方は本文をご参照ください。

東洋経済オンライン 2018/09

岩崎 博充 「リーマン破綻から10年で世界は変わったのか…今も続く恐怖と後遺症、次に来るリスク

はじめに

リーマン・ショックから10年、世界は様変わりした。
世界はアメリカを筆頭に景気回復を遂げつつある。
日本は相変わらず日銀による異次元の量的緩和を続けている。

リーマン・ショック以前には存在しなかった極右政権が数多く誕生した。とりわけトランプ大統領の出現は世界の様相を一変させた。彼らは一見、グローバリズム・自由貿易主義とは真逆の政策をとっているように見える。

一方で、リーマン・ショック後に湧き起こった「ウォール街の占拠」運動は、ウォール街の強欲主義を厳しく糾弾し、格差社会を糾弾する運動となった。

リーマン・ショックが人類にもたらしたもの

リーマン・ショックがこの世界に残したものは何だったのか。それを列挙しておきたい。

<金融市場にもたらされた影響>

Ⅰ.作り出された「過剰流動性」

① 流動性の枯渇

リーマン・ショックは、急激な流動性の枯渇が引き金となった。

アメリカでリーマン・ショックが終熄した後も、欧州の通貨危機は長期にわたった。実体経済も足を引っ張られた。

その対策として取られたのが大規模な金融緩和、とりわけ量的緩和政策だった。

② 量的緩和(QE)

米連銀のバーナンキ議長は流動性の枯渇に対応するために、量的緩和政策を導入した。長期国債などを購入することでマネーを大量投入した。

ベース・マネーは、約8720億ドル(2008年8月)から2兆6480億ドル(2012年1月)となった。4年間で3倍となったことになる。

ヘリコプターからお金をばらまくようだということから、「ヘリコプター・ベン」と呼ばれた。

欧州中央銀行や日本銀行なども、これに追随した。異次元の量的緩和によって、世界経済は平常に復した。金融危機は過剰流動性によって避けられたといえる。

③ 過剰流動性のツケ

日本銀行だけがいまも依然として量的緩和を続けているが、FRBやECBは緩和縮小(テーパリング)に入っている。

しかし世界にはマネーがあふれている。過剰流動性は至るところでバブルを引き起こしている。世界は、今後大きなツケを払わなくてはならないかもしれない。

Ⅱ.金融モラルの崩壊

投資銀行などの自己勘定による金融取引はリーマン・ショックの原因の一つとなった。

このためボルカールールが定められ、投資銀行の閉鎖と銀行の市場取引の規制が導入された。

しかしトランプ政権によりボルカー・ルールは骨抜きにされつつある。投資銀行は復活し、CEOなどの責任はほとんど問われなかった。

金融業界にとって何よりも大切なモラルが崩壊し、結局は「やった者勝ち」の世界が生み出されつつある。

<政治、国民生活への影響>

Ⅰ.格差社会の拡大

「ウォール街の占拠」運動は、世界が保有する資産の半分を1%の富裕層が独占している現実を明らかにした。

しかしそれから10年近く、格差社会は一向に縮小せず、ますます拡大している。

Ⅱ.極右勢力の台頭

デマ宣伝を運動形態とする極右の運動が広がっている。その背景には、100年に一度の金融危機があったと考えるのが自然だ。

リーマン・ショックの発生直後にオバマ政権が誕生し、8年間の苦闘の末に金融危機を抑え込んだ。しかしその間に膨らんだ大衆の不満はオバマの目指したものとは逆の方向に向かった。

ヨーロッパでは、長引く不況を背景に移民排斥を唱える人々が勢いを増している。

<リーマン・ショックは終わったのか>

過剰流動性を是正する過程が、大きな矛盾を生み出す可能性がある。

Ⅰ.資金量の減少

まず金融市場から資金が消えていく。

FRBはすでに2520億ドル(28兆円)の保有資産を減らした。FRBやECB、日本銀行の3行を合わせた買い入れ額は、この1年でゼロになる見込みだ。

Ⅱ.ドル金利の引き上げ

資金の減少は金利の上昇と投資の減少を招く。

金利の上昇は
①ドル高(円安)
②株価の下落
③新興国資金の逆流(新興国通貨安)
をもたらす

とくに新興国市場からの資金引き上げは、新興国通貨安をもたらし、ドル債務の増加となる。トルコ、南アフリカ、イラン、ベネズエラの悲劇は、明日のすべての新興国の悲劇となるかもしれない。

一方における貧困の蓄積は、他方における富の蓄積をもたらす。世界的な格差の拡大に拍車が掛かる。
強いドルを背景としたアメリカの金融支配力は格段に強化される。