まず背景として北海道電力(以下北電)のお家の事情。Diamond Onlineが簡潔にまとめている。

2012年に年次決算が赤字に落ち込んだ。その後3期連続の赤字となった。原発の停止に伴い火力発電所の比重が高まった。燃料費を吸収するために電気料金の値上げを迫られた。
燃費効率の良い厚真発電所への集中が進んだ。厚真の設備利用率は2010年の64%から13年には85%まで増加した。この間リスク分散のための設備投資は行われず、ひたすら泊原発の再開が目論まれた。
14年には3年連続の赤字決算となり、自己資本比率は5.4%にまで落ち込んだ。この赤字に対応するため北電は2年連続の電気料値上げを断行した。
これらの場当たり的な保安・経営方針に対し各界から懸念がいついだ。15年の10月には経済産業省の専門家会合が「北海道電力においては、過去最大級の計画外停止が発生しても大丈夫なよう準備すべきだ。そのために多重的な需給対策を講じるべき」と提言したが、北電幹部には聞き入れられなかった。
16年に北電の真弓明彦社長は、あくまで「泊再稼働によって供給面の正常化を図りたい」と発言し。泊再開と厚真への集中で保安上の懸念、経営上の不安を抑え込む姿勢を強調した。そして「泊原発の新規制基準に対する対応として2000億~2500億円を投じる」と突き進んだのである。
その後もいくつかの機会はあったが、それらはすべて経営上の理由からスルーされた。17年には石狩湾新港のLNG火力発電所を稼働させる方向で話が進んだが、最終的には「道内の電力需要が伸びなかったため」という理由で、稼働を2~3年遅らせることが決定した。
動くことのない原発の維持費は年間700億円、これまで5千億円が注ぎ込まれたことになる。
三重苦
そして今年3月期決算、自己資本比率は10.5%にまで戻したが、キャッシュフローは7期連続のマイナスに終わった。
ある意味で、企業モラル的には全島停電の方向は定まっていた。もはやこれが宿命だったと言っても良い。後はいつ起こるかという問題だけだったのかもしれない。

その時何が起きたのか
いまだよくわからないところがある。報道記事だけが頼りなので、情報が錯綜しているところもある。どこがよくわからないのかは記事の中で明らかにしていく。

(宮尾さんの2018.12.12レジメに詳しいタイムテーブルが載っていたので、引用させていただきました)

6日午前3時8分

地震発生。震度7という北海道ではじめての強度の地震が、苫東厚真発電所から14キロの場所で起こった。もっとも震源に近い地震計は安平町追分駅近くのもので、ここでは加速度1,505ガルを記録している。

 

 発電所では3台の発電機がフル稼働していた。発電量は165万KWであった。これは道内発電量の半分に当たる。


午前3時9分 1分後に2号機、4号機が、地震動を感知し緊急停止した。2台の発電機の出力は合計で115万キロワットだった。1号機は地震感知器がついてないため稼働を続けることができた。

3時9分 北電は、一部地区への電力供給を強制的に止めて需要を抑える「負荷遮断」を複数回実施し、札幌を除く全道の強制停電を行う。同時に本州からの送電も増加させた。

3時11分 札幌の電気使用量が徐々に増加。各家庭がテレビをつけたためとされる。北電は知内・伊達の重油火発の出力を上げることで対応を図る。

3時21分 苫東火発1号機(35万キロワット)、急速に出力を落とす。地震の検知機能がないため止まらないできた。しかしタービンに重大な障害を負った。

午前3時25分
2号機、4号機が停止した後も稼働していた1号機が止まった。
このとき厚真火発の他に奈井江、知内、伊達の3火発が稼働していた(ともに2基中1基)。これら3基は急激な出力変化に耐えられず、自動停止した。これにより北海道内で稼働中のすべての発電機が停止し、ブラックアウト状態となった。


ここで一休みして説明に入る。
厚真火発(輸入炭専焼)は道内需要量310万キロワットの半分以上の165万キロワットを供給するスーパー火発、言い換えればそれ自体が一極集中のヤバイ存在である。

ただし厚真だけが発電所ではない。以下世に倦む日日  ブラックアウトの謎より引用する。
北電の持つ水力発電所の設備は強大で、主な発電所だけで12ヵ所あり、その発電能力は全体で165万kWに達する。
北電管内の太陽光発電による発電量は132万kW、風力の発電量は38万kWあり、合わせて170万kWに達する。
つまり自然エネルギーによる発電量だけで、厚真発電所の電力生産量の2倍の規模に達する。
主要電源
      日刊「赤旗」より
これにプラスして火発がある。発電能力は以下の通り。
奈井江(石炭 最大35万KW)、知内(重油 最大70万KW)、伊達(重油 最大70万KW)。これは過旗報道によるもので、他については申し訳ないが調べていない。砂川が突如稼働したり、苫小牧が音無しのままだったりと分からないことも多い。
しかしかなりのものになると思う。したがって、いったん全面的な「負荷遮断」を行った上で逐次範囲を区切った再稼働を図るなら、数時間のうちに全面再開することは可能なはずだ。
世耕弘成経産相が大見得を切ったのもそういう計算を元にしていたのだろうと思う。それが当てが外れたのには何かウラがあるはずだ、と私は睨んでいる。


泊原発が危機一髪
6日午前3時25分 第1回目の全電源喪失。これにより冷却用プールの燃料棒を冷やせなくなった。非常用ディーゼル発電機6台を使って冷却は維持された。

その後いったん外部電源が確保されるが、ふたたび喪失。外部電源の喪失状態が続く。

午後1時 喪失から約9時間半後、外部電源が復活。水力発電所の電気を優先的に送り電源を確保したとされる。


ここで原発に関する説明

もし泊が稼働していたらどうなっただろうか、それは原発大好き人間が言うように「救い主」になっただろうか。いえいえそうではありません。
火力発電所が停止することで電力の需給バランスが崩れると、泊原発から発電された電力は「出口」を失う。普通の火発ならここでブレーキが掛かって緊急停止する。
しかし原発は止まらない。
原子炉内にはやがて蒸気がたまってくる。それを排出し、制御棒を注入して核反応を抑え、炉内を冷やすため冷却水を注入する。
これらの操作にはすべて外部電源が必要だ。(すみません、引用先忘れました)
震源地から100キロ、震度はわずか2であり、地震による直接的影響はない。停電による二次被害、すなわち人災である。危険なのは地盤ではなく、北電という会社の経営基盤、安全基盤、技術基盤の脆弱性なのだ。
原発派(大方、北電社内からだろう)のページにこんな記載があった。
泊原発1~3号機は運転を停止しており、原子炉内に核燃料は入っていない。非常用発電機は最低でも7日間稼働を続けることが可能だ。
原子炉に入っていないけれど冷却槽内には入っている。冷却槽がどこにあるかぐらい誰でも知っている。いまだにこんなダマシをしているんだ! 我々はポストフクシマ世代なんだよ。



6日早朝 官邸で地震災害についての関係閣僚会議

朝8時 世耕経産相、「北海道電力に数時間での停電復旧を指示」と報道。結局約束は実現せず。

60万キロワットを送ることが可能な本州からの支援ケーブル、系統電源の喪失により自動停止していることが判明。系統電源とは送電のために必要な電源で、北電から供給されなければならない。

6日午後12時 北電が記者会見。水力発電を動かし、火発を順次稼働させると発表。厚真発電所の修復に一週間を要するため、この間道民に節電を要請する。

午後4時 砂川発電所を動かし始め、全体の11%への供給を回復。

6日午後4時 北電の真弓明彦社長が会見。「すべての電源が停止してしまうのは極めてレアなケースだと思う」と述べ、失笑をかう。また緊急停電対応については「あまりに強い揺れで急激な供給力の喪失があったため、間に合わなかった」と説明したそうだ。
17分あれば、揺れが収まってからトイレまで行って便座を上げてスボンを下げてパンツを下げて便座にまたがる暇はあるだろう。「間に合わなかった」という表現が遅刻した学生の言い訳みたいで、思わず苦笑してしまう。

道民の一人として、このときのムカつくような怒りを共有している。夕方くらいまでには直ると思ってたから「おいおい、大丈夫かよ」という感じだ。しかもこいつらまったく「済まない」などとは思っていない、「すみませんが節電に協力してください」という“すみません”しか言ってない。
「きわめてレアなケース」ではなく「あってはならないケース」なのだ。百歩譲って「きわめてレアなケース」だったとしても、それはこちらの言うセリフで、北電側には「きわめてレアなケース」が何故起きてしまったのかを説明する義務があるはずだ。なぜならそれは「レアなミス」なのであり、あなたが起こしたミスだからだ。
医者はミスを犯したときの対応について、40年も前からそのように教育されている。
暗闇の狸小路
     暗闇を迎えた狸小路 スマートホンが道を照らす
7日 原発再稼働派の池田信夫、「大停電の再発を防ぐには、泊原発の再稼動が不可欠だ」と主張。ホリエモンこと堀江貴文も「これはひどい。泊原発再稼働させんと」とツィッター。電源喪失の情報は東京では伏せられていたのだろうか。

8日 北海道電力の真弓明彦社長が記者会見。供給電力は350万キロワットまで回復したがピークに比べ1割不足しており、計画停電を検討していると発表。

11日 厚真発電所の点検結果と復旧の見通しを公表。1号機はボイラー管2本の破損、2号機はボイラー管11本が損傷。タービンから出火した4号機は冷却後に点検予定。

12日夜 経産省、北海道停電について「速やかに検証に着手したい」と改めて表明。経済産業省の認可団体「電力広域的運営推進機関」などから停電前後のデータ提出を受けるとする。

14日 北海道電力の真弓明彦社長が「謝罪」会見。ブラックアウトまでの経緯については「検証中」とする。経産省の出方を見ながら小出しに「謝罪」をしているが、本気度ゼロ。

15日 発電機が耐震基準上、最低の震度5相当だったことが判明。東日本大震災後、社内で耐震基準の見直しを議論し、「変更は不要」との結論をだしたという。

19日 苫東厚真火力発電所の1号機(35万キロワット)が復旧。地震前のピーク需要を上回る供給力を確保する。

19日 「電力広域的運営推進機関」が有識者らによる第三者委員会を設置。