民族対立を煽る形でアルメニア好戦派は政権を握ってきた。国内においては野党を力で抑圧してきた。パシニャン現首相は、そういう好戦派政権の民衆抑圧をはねのけて首相に当選した人である。
そのパシニャンの政権下で今回の事態が起きたことに、ことの複雑さを感じてしまう次第である。
ユダヤ人と同じようにアルメニア人も、祖国の住民の何倍もの人々が“ディアスポラ”として欧米諸国で暮らしている。イスラエルには、国民の意志よりも在米ユダヤ人マフィアの思惑とキリスト教右翼の圧力により政策決定がなされていく現実がある。それと同様の機序がアルメニアにも働いている可能性がある。
国家間の原則に立ち帰ろう
色々経過はあるが、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンの自治州であり、アルメニア人の比率がいかに高かろうと、国家の主権はアゼルバイジャンが握っている。したがってここで軍事組織を結成し国家主権を無視するような行動があってはならない。
これが法の形式である。周辺国も政治的立場や宗教的立場を越えて共通の立場に立っていた。
ただしナゴルノ・カラバフのアルメニア人がより高度の自治を欲し、場合によってはアゼルバイジャンからの独立を目指すのなら、それはそれで運動としては保障されなければならない。
ロシアの干渉を排除しよう
こういう形で、過去には妥協と合意がなされてきて、それはかつての「母国」であるロシアによっても担保されてきた。
ただロシアはその事によって産油国アゼルバイジャンを牽制し引き止めたいという隠された願いもあるから、この紛争に対して厳正中立という立場では決してなかった。むしろマッチ・ポンプのように対立を利用してきたこともある。
細川ひなこさん によれば
ロシアはミンスク・グループの共同議長国家の一国として仲介に一役買っている一方で、アゼルバイジャンとアルメニアの両国に武器供給も行っており、アゼルバイジャンに至っては、輸入武器の8割がロシアからの物であるという。
一方で、現在、アルメニアとは協定を結び軍隊を常駐させており、有事にはアルメニアの防衛を行うことにもなっている。このような行動の裏には南コーカサス地方における影響力を保持するという目的がある。
朝日新聞(論座)は今回のアゼルバイジャンの行動についてトルコとエルドアン大統領の思惑を非常に重視しているが、これは紛争のパワー・ゲーム化(どっちもどっち)の視点であり、大変気になる。
トルコにはアルメニア人大虐殺の暗い過去があり、アルメニア側はこの黒い歴史を、情報操作に最大限活用しようとする意図が感じられる。
事態の根本原因は他国の領土に侵入するアルメニア側の拡張主義にあり、これに対して国際的に制約を加えていくことがもっとも重要な視点であろう。
アゼルバイジャンはこのところ非同盟運動とイランへの接近を強めてきた。しかし、もともとはイランはアルメニアを支持していた経過がある。このあたり、まことに天変極まりない。
あまりうがったモノの見方をせずに、国際法の原則を維持しつつ、粘り強く事態の平和的解決をはかっていくことが大事であろう。
参考までに、アルメニア側から見た第一次ナゴルノ・カラバフ戦争の推移