エル・システマの国ベネズエラ なぜ“人権抑圧”と非難されるのか

ある新聞ではベネズエラは人権を抑圧し、表現の自由を認めず、医薬品も与えない。そのために多くの人々がいのちの危険にさらされ、国を逃げ出している…と書き立てています。
果たしてそうでしょうか。
私達は文章やデータでも、それらが根拠のないデマだと証明できます。
しかしそれより前に、私達はベネズエラの人たちの真心を示すことで、「そんなことはありえない」と証明することができます。

それがエル・システマの活動です。

これまでずっとベネズエラでは貧しい人たちは教育や医療、文化や芸術から遠ざけられきました。
20年前、「それは間違いだ。貧しい人たちにも文字や薬やバイオリンが必要なんだ」と叫んで大統領になった人がいます。それがチャベスという人です。

彼は石油のバルブを左に、民衆の側に開きました。こうしてエル・システマという音楽教育のシステムが花咲きました。
そして貧しい子どもたちによる世界的なオーケストラが出来上がりました。

お金持ちは、「そんなことはバラマキだ」といって民衆の側にたった政治、教育、医療をやめさせようとしました。そんなことをするから経済がおかしくなるのだと言うのです。
そしてお金持ちの意見を聞かない政治は民主主義ではないと批判し、暴力的な攻撃を繰り返しました。

考えてみてください。“お金持ちの意見を聞かない政治は民主主義ではない”のでしょうか。
それは逆でしょう。
お金持ちの意見を聞かない政治こそ民主主義でしょう。強いものに味方はいらない、弱いものにこそ政治は寄り添わなくてはいけないのです。

あなたはエル・システマを支持しますか? そして「そんなことはバラマキだ」という意見をきっぱりと拒否できますか?

ぜひそうしてください。私達はお金持ちがお金持ちであることに別にこだわりませんが、貧しい人が惨めであることは許せません。なぜなら私達がお金持ちになる確率は1億分の1ですが、貧乏になる確率はいつも2分の1だからです。



1975年 経済学者で音楽家のホセ・アントニオ・アブレウが「音楽の社会運動」をはじめた。
最初の活動はカラカス市街の地下駐車場スペースに集まり共にアンサンブルを演奏することだった。
その時に運動を支えるボランティア・システムとして、エル・システマが創設された。

「音楽の社会運動」というのは、平ったく言えば「音楽で子どもたちを貧困と犯罪から救う」こと、そのために「エル・システマを暴力から隔絶されたサンクチュアリーにする」ことである。
アブレウの考え: 音楽は最も高度な価値、連帯、調和、相互の思いやりと言ったものをもたらす。それは全共同体を統一させる能力と、崇高な感情を表現する能力を持つ。
だから音楽は、社会の発展の要因として認識されなければならない。
1979年 日本人ヴァイオリニスト小林武史がスズキ・メソードに基づいて指導を開始する。
現在は国家が支援する財団であり、正式名称は「ベネズエラの児童及び青少年オーケストラの国民的システムのための国家財団」と呼ばれる。
200のユース・オーケストラと、それらに演奏技術を身につけされる器楽練習プログラムを担っている。
過去 30 年で100 万人の子供たちが活動に加わった。いまも30万人の子どもたちが練習に参加しているが、その70%は貧困層の出身である。
2007年 チャベス大統領は参加者を100万人に増やすプログラム「音楽の使命(Misión Música)」を発表した。
彼はエル・システマを監督するのではなく、貧困層への補助とサービスの拡大と並行させるようにした。
2007年 米州開発銀行(IDB)はベネズエラの音楽教育システムを経済的に評価した。
エル・システマが教育してきた200万人以上の若者の調査を実施し、学校での落ちこぼれと犯罪による経済的損失とを秤にかけた。
エル・システマへの投資は、1ドルあたり1.68ドルも社会に還元されているという結果が導き出された。
エル・システマの成功は世界に広がり、60以上の国・地域で音楽による地域青少年活動が取り組まれている。

シモン・ボリバル・オーケストラ
話はやや複雑である。
最初に作られた選抜メンバーによるオーケストラは「国立青少年オーケストラ」である。
しかしここを卒業した音楽家が成長してきたとき、「シモン・ボリバル・オーケストラ」が結成された。これは現在も活動しているが、最近になって国立青少年オーケストラから移った年少のメンバーが、もう一つのオーケストラを結成した。
このために、従来からのシニアオーケストラは「シモン・ボリバルA」と呼ばれるようになり、ジュニアのほうが「シモン・ボリバルB」と呼ばれるようになった。
つまり125のユース・オーケストラの上に、全国規模の選抜オーケストラが、3つあるのである。
2007年に世界ツアーをおこない、センセーショナルな歓迎を受けたのは「シモン・ボリバルB」である。

追加 ちょっと嫌なこと
オーケストラの指揮者だったドゥダメルがベネズエラ国籍を捨てスペイン人女性と結婚したと言う。人間誰でも豊かになりたいし、その権利はある。
彼はエル・システマを擁護することで国際メディアの十字砲火を浴びていた。そのことは十分同情に値する。しかし貧しい人たちを足蹴にする権利はないだろうと思う。
とにかく世の中ひっくり返っている。