鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

AALA関連記事は「aala_newsの編集日記」http://blog.livedoor.jp/aala_news/ に移りました(6Nov.2023) 中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 「ラテンアメリカの政治」(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ )がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。

カテゴリ: 10 国際政治/経済

カストロ、最後の非核・平和論(2010)

後編

05 人類の歴史を終わらせないために

人類は20万年足らずの歴史しかない。 それまではすべてが自然のままでした。30億年以上にわたって地球上で発達してきた生命の法則が、自然の法則を満たしていたのです。 人間、つまりホモ・サピエンスという知的生命体は、たかだか80万年までしか遡れない。 
200年前は、すべてが事実上未知の世界でした。 今日、私たちは種の進化を支配する法則を知ることができます。科学者、神学者、そして最も敬虔な宗教家でさえも、当初はダーウィン理論に反対していた。
地球上の誰もが、人類という種が消滅することを望んでいません。だからこそ、私は核兵器だけでなく、通常兵器もなくすべきだと考えています。イラン人にもイスラエル人にも、区別なくすべての民族に平和の保証を提供しなければならない。天然資源は必要な人全てに分配されるべきです。 
そうすべきです! そうなるという意味ではありませんし、簡単にできるということでもありません。しかし、再生可能なエネルギー源をすべて開発したとしても、資源が限られた世界では、人類にとって「分配」以外の選択肢はないでしょう。
もうすぐ70億人の人口ですから、人口政策を実施する必要があります。私たちは多くのものを必要としています。そして、私たちは考えます。人間には困難を理解し、それを克服する能力があるのだろうか?

チョスドフスキー  
あなたが言ったことで、トルーマンについての言及は非常に重要です。
トルーマンは、広島は軍事基地であり、民間人に被害が及ぶことはないと言っていました。
つまり軍事関係者以外の死者が出たとしても、それはたまたまの巻き添え被害に過ぎないというわけです。このような「巻き添え被害」という概念は、被害を小さく見せかけるのに大変便利な考えなので、1945年以来今日に至るまで、アメリカの核ドクトリンにおいて連綿と続いています。 
それは現実に起きていることの説明ではなく、軍事作戦とプロパガンダをくっつけるための虚構の概念です。
1945年にはこう言われていました。
 広島が軍事基地であったと断定し、人口の密集する大都市であったという事実を否定し、その上で「10万人を殺すことで人類を救おう」(Let’s save humanity by killing 100,000 people)と呼びかけたのです。 しかし現在では、このような粗暴なウソはより洗練されたフレーズに代わり、核兵器はより進化しています。 
つまり、私たちは人類史という時間軸と、地球レベルという空間軸での核戦争の脅威を扱っているのです。米国の政治的・軍事的言い分の根底には大嘘とペテンが隠されている。彼らは世界規模の大災害へと私たちを導くでしょう。そして最後に自分たちのついたウソでみずからも大怪我をするでしょう。
あなたは、「知的な人類」は20万年前から存在していると言いました。しかし、その知性が、メディア、情報機関、金融機関といったさまざまな機関に取り込まれ、今、私たちを滅ぼそうとしているのです。
私たち人類は自分たちの作り上げた嘘を信じ、核戦争という最後の日へと自らを導いています。アインシュタインが明確に述べているように、次の戦争が最後の戦争になることを理解せずに…。核戦争は決して人類の存続を保証するものではなく、世界と人類に対する脅威なのです。

フィデル・カストロ
教授、とても良い言葉です。 巻き添えとなるのは、人類かもしれません。
戦争は犯罪であり、そのように記述する新しい法律は必要ありません。ニュルンベルク以来、戦争はすでに犯罪であり、人類と平和に対する最大の犯罪であり、あらゆる犯罪の中で最も恐ろしいものであると考えられてきたからです。

06 核戦争だけでなく戦争行為そのものに反対すること

チョスドフスキー

ニュルンベルクのテキストには、はっきりとこう書かれています。「戦争は犯罪行為であり、平和に対する究極の戦争行為である」
 ニュルンベルク文書のこの部分はよく引用されます。
第二次世界大戦後、連合国はこれを敗戦国に対して使おうとしました。それが妥当でないと言っているわけではありません。しかしドイツや日本に与えた犯罪を含め、連合国側が犯した罪については一切触れられていないことも確かです。とくに核兵器使用の罪がそれに当てはまるでしょう。
戦争は核戦争以前に、私にとって重大な問題です。その際、戦争の犯罪化は基本的な側面であると私には思われます。私は戦争の廃止について話しているのです。戦争は犯罪行為であり、排除されなければならないのです。
問題は、彼らが司法制度や裁判所も支配していることです。だから、裁判官も戦争を支持するならば犯罪者なのです。その際、私たちにできることは何でしょうか?

フィデル・カストロ   
核戦争に反対することは「思想の戦い」の一部です。世界が核による破局に突入しないよう行動すること、要求すること、それは生命を守ることです。もし人間が自分の存在、自分の人々、自分の愛する人たちの存在を実感していれば、米軍の指導者たちでさえも、核兵器廃絶の実現へ向けて行動するでしょう。 
たしかに彼らは命令に従うように軍隊人生で教え込まれている。その教えの中には戦術核や戦略核の使用による大量殺戮もありえます。彼らは命令に従うよう教えられるが、その命令の中には、戦術核や戦略核など大量殺戮兵器も少なくないからです。
これに対し戦争に反対することは「政治の闘い」です。戦争のすべてが狂気の沙汰である以上、政治家は戦争の真実を国民に伝える義務から免れることはできません。       

チョスドフスキー
あなたが言いたいのは、次のようなことだと思います。
現在、人類史的に大事な議論は、人類の未来を脅かす核戦争の危険に焦点を当てることである。いっぽう戦争の発生を防ぎ、世界平和を確立するためには戦争を回避するための政治的・外交的戦略が必要になる。
さらに戦争の発生する条件を抑え込むためには戦争の理由、社会や経済について議論し、戦争の原因を解決しなければならない。そうなって初めて、基本的なニーズに基づいた生活の維持・向上を計画することができるということですね。
 
フィデル・カストロ
そのとおりです。私たちが行ったすべての分析から見て、資本主義は生き残ることができません。いづれ別のシステムへの転換が必要です。ただ、資本主義システムと市場経済は人間の生活を窒息させるものですが、一夜にして消滅することはないでしょう。かなり長い移行期がある。 
それに対して、武力に基づく帝国主義、核兵器、そして現代技術により殺傷能力を著しく高めた通常兵器は、人類の生存を望むなら、どうしても早期に消滅させなければならないのです。


07 メディアから発せられるプロパガンダにどう立ち向かうか

チョスドフスキー 
さまざまな出来事に与えられるメディアの報道と、メディアから発せられるプロパガンダの問題があります。
まず最初の問題はメディアの不作為です。あなたがおっしゃるように、人類に対する脅威があれば、世界中の新聞の一面を飾るべきです。たとえ下級将校であっても、その結果がどうなるかを知らないで核兵器の発射ボタンを押してしまえば、それによって人間社会の全体が犠牲となりかねないからです。
ここでは、メディア、特に西側諸国が、今日の世界に潜在的に影響を与える最も深刻な問題をいかに隠しているかについて話して見たいと思います。
第一に、メディアは核戦争の危険性を真剣に受け止めなければなりません。ヒラリー・クリントンもオバマも、イランに対するいわゆる予防戦争で核兵器を使うことを考えた事があると発言しているからです。
私たちはどうすればいいのでしょうか。イランという国は、少なくとも目下、誰にとっても危険のない国です。そのような国に対する一方的な核兵器の使用発言について、あなたはどう思いますか?  あなたならヒラリーとオバマにどう答えますか。   

フィデル・カストロ
私はその件に関して2つのことを知っています。まず最初は「何が議論されたのか」ということです。これは最近明らかになったことですが、米国の安全保障会議の中で遠大な議論が行われたことです。これらの議論がどのように行われたかは、ボブ・ウッドワード記者が明らかにしました。バイデン、ヒラリー、オバマ…、彼らが議論の中でどのような立場をとったのかがわかったのです。
もう一つの事実、誰が戦争に強く反対したのか。軍部と議論できたのはオバマだけだったのですそしてそこまでして彼に助言を与えたのは共和党員コリン・パウエルだけであった。彼はオバマがアメリカの大統領であることを思い出させ、関係者にアドバイスを促した。私たちは、このメッセージがすべての人に届くようにしなければならないと思っています。
さて、これらの情報を多数に知らしめる方法は何だろうか。私たちは何か編み出さなければなりません。十二使徒の時代、彼らには何百年も先があった。しかし、私たちには先がないのです。

08 米国、カナダ、欧州の反戦運動は分裂している

チョスドフスキー
脅威はイランからもたらされると考える人もいれば、彼ら(イラン人)はテロリストだと言う人もいて、運動そのものに多くの誤情報が存在するのです。
それに、世界社会フォーラムでは、核戦争の問題は、左派や進歩派の人々の間の主要な議論にはなっていません。冷戦時代には、核戦争の危険性が叫ばれ、人々はそのような意識を持っていました。
前回、ニューヨークで開催された国連の核不拡散に関する会議では、非国家主体、テロリストによる核の脅威が強調されました。オバマ大統領は、核攻撃の潜在能力を持っているアルカイダが脅威であると言いました。 オバマ大統領の演説を読むと、テロリストは小型の核爆弾、いわゆる「汚い爆弾」を製造する能力を持っていると示唆しています。これらは[問題の歪曲]と[強調事項のシフト]の方法です。

フィデル・カストロ
オバマの部下が吹き込んで、彼に信じさせたのはそういうことなのです。
問題は、あなたが語っていることが真実かどうかということです。ある特定の問題に関連してこれらの情報を収集する場合、集められた事実の集合の中に真実が存在しているかどうかが問題になります。私たちは本質の開示に集中しなければならないと思います。

チョスドフスキー
キューバ革命に関連する重要な側面があるので、質問させていただきます。
私の考えでは、人類の未来に関する議論もふくめて、社会全体が核戦争の脅威にさらされるなら、何らかの形で、行動だけでなく、思想のレベルでも革命を起こす必要がある。この点についていかがでしょうか。

フィデル・カストロ
その議論は実践的なものです。核戦争をめぐる真実を拡散するためには、「情報通の大衆」(the informed masses)にどうやって接触できるかを考えなければなりません。その解決策は新聞ではありません。インターネットです。インターネットは安価で、よりアクセスしやすい。
通信社でもなく、新聞社でもなく、CNNでもなく、インターネットで毎日配信されるニュースレターです。私はインターネットを通じて毎日100ページ以上に目を通しています。今回もそういうニュースを探してあなたに接触しました。

ところで昨日、あなたは、アメリカでは少し前に世論の3分の2が対イラン戦争に反対していたのに、今日は50数パーセントが対イラン軍事行動に賛成していると主張していましたね。

チョスドフスキー
ここ数ヶ月、世間ではこう言われていました。 こんな看板がニューヨークで出ていました。「確かに核戦争は非常に危険であり、脅威であるが、その脅威はイランからやってくる」と。そのメッセージの要点は、イランを世界の安全保障に対する脅威と宣伝することでした。考えてみればまったくおかしな話で、イランは核兵器を持っていない。そのため核の脅威は現実には存在しないのです。
とにかくそういう状況で、代替メディアの限られた流通経路の中で、このプロセス(メディアの偽情報)を逆転させる能力は限られています。

フィデル・カストロ

それでも私たちは闘わなければならない

チョスドフスキー

そう、私たちは闘い続けている、そのメッセージは「核戦争になったら、巻き添えになるのは人類全体である」ということです。インターネットは戦争を回避するための働きかけの場として機能し続けるでしょう。
なぜなら、人類全体が米国とその同盟国の核兵器によって脅かされているからです。なにせ彼らは核兵器を使うつもりだと公言しているのですから。       

フィデル・カストロ

もし反対がなければ、抵抗がなければ、彼らは核兵器を使用するでしょう。彼らはみずからに騙されている。軍事的優位と現代技術に酔いしれ、自分たちが何をしているのか分かっていない。彼らはその結果を理解していない。彼らは、優勢な状況を維持できると信じている。しかし、それは不可能です。

チョスドフスキー

あるいは、これが単なる通常兵器の一種であると信じている。          

フィデル・カストロ

そうです。彼らは騙されていて、まだその武器が使えると信じているのです。
アインシュタインが「第三次世界大戦はどんな武器で戦うかわからないが、第四次世界大戦は棒や石で戦うだろう」と言いました。そのことを、彼らは覚えていないのです。自分たちが別の時代にいると信じている。
 そこで私はこう付け加えた。「その棒や石を扱う人がもはやいないのです。それが現実なのです。

チョスドフスキー

核の問題はもう一つあります。核兵器の使用は、必ずしもある日突然に人類の終焉をもたらすわけではないということです。なぜなら、放射性物質の影響は蓄積されるからです。
核兵器にはいくつかの異なる結果があります。ひとつは、広島の現象である戦場での爆発と破壊、そしてもうひとつは、時間とともに増加する放射線の影響です。          

フィデル・カストロ 
ラトガース大学(ニュージャージー州)のアラン・ロボックが、反論の余地のない形で示しました。これによると、核兵器保有国8カ国のうち下位2カ国が戦争を起こすだけで、「核の冬」が到来する。スーパー・コンピューターを利用した計算で明らかにされました。
さらに8カ国が保有する25,000発の戦略核のうち100発が爆発すれば、噴煙により日光は遮断され、地球上の気温は氷点下となります。その結果、長い夜が約8年間続くでしょう。 
私は国際会議の席上で光栄にも彼と会話することができました。彼は研究結果のあまりの恐ろしさに「恐慌状態」に陥ったそうです。そして「考えたくない、なかったことにしたい」と大声で叫んだそうです。

09 通常戦争が制御不能な核戦争へ転化する道すじ

ある仮定からから入リましょう。イランで戦争が起きれば、必然的に核戦争になり、世界規模の戦争になります。だから昨日、安保理で事実上「戦争やむなし」を意味するような合意を認めるのはおかしいと言ったわけです。わかりますか?
とりあえず今のところ、イラン人が武力行使で対応することはなさそうだが、実際に戦闘が始まれば、それが局地的なものにとどまることはないでしょう。
もしそれが通常の戦争であれば、それはアメリカやヨーロッパが(負けることはないにしても)勝てない戦争です。その戦争の行き詰まりを強行突破しようとすれば、核戦争に発展する可能性が高いと私は考えている。その際、仮に米国が戦術核の使用を誤れば世界中が混乱し、やがて米国は事態をコントロールできなくなるでしょう。
オバマはどうするでしょうか? 彼は何をすべきかについて、ペンタゴンと熱い議論を交わします。アメリカやイスラエルの兵士が数百万人のイラン人と戦っている国の大統領、オバマの状況を想像してみてください。
サウジアラビアはイランで戦うつもりはないし、パキスタンやその他のアラブやイスラムの兵士も戦わないだろう。そんな時、イランに対して戦術核を使えばイラン人が諦めると考えるのは間違いです。世界には激震が走るだろうが、その時はもう手遅れかもしれない。

チョスドフスキー
彼らは通常の戦争に勝つことはできない。         

フィデル・カストロ
つまり、彼らは勝つことができない。

チョスドフスキー
彼らは国全体を破壊することができるかも知れません。しかし軍事的にみて、彼らが勝つことはできません。         

フィデル・カストロ
あなたがおっしゃる問題は複合的なものです。それは何よりも政治的な判断です。軍事的に破局に向かう時系列の中で、その国を破壊し続けることにどのような経済的見返りがあるのでしょうか。国民の前にそれを提示できるのでしょうか。
アメリカ国民はいずれ反応するでしょう。アメリカ国民はしばしば反応が鈍いですが、最後には必ず反応します。アメリカ国民は自国の犠牲者、死者に反応するのです。
ベトナム戦争では、多くの人がニクソン政権を支持しました。彼はキッシンジャーに同国での核兵器の使用を提案したこともありました。しかし、彼は核攻撃という犯罪的な手段をとることを思いとどまったのです。(編注:ニクソンはベトナムからの「名誉ある撤退」honorable retreatを唱えて大統領に当選した)
ニクソンは、アメリカ国民から戦争を終わらせる義務を負っていた。交渉し、ベトナム南部を引き渡さなければならなかった。しかしアメリカ国民はそれを支持した。

10 戦争からは何も得られない

戦争が始まれば、イランでは多くの人命が失われ、石油施設の大部分は破壊されるでしょう。私のメッセージは、今の状況では、イラン人に理解してもらえないかもしれません。
もし戦争になったら、アメリカもイランも世界も、何も得られないというのが私の考えです。通常戦争だけにとどまるのはありえないことですが、もしそうなれば、アメリカは取り返しのつかないほど負けるでしょう。さらに戦いが通常戦争にとどまらず世界規模の核戦争に発展すれば、全人類が敗者となるのです。

チョスドフスキー
イランは、相当な通常戦力を有しています。陸軍だけでなく、ロケット弾も相当なものだ。イランには自衛能力がある。

フィデル・カストロ
銃を持った男が一人でも残っていれば、その間、彼はアメリカが倒さなければならない敵である。

チョスドフスキー
そして銃を持った男は数百万人いる。

フィデル・カストロ
そしてその数百万人は、多くのアメリカ人の命を犠牲にしなければ収まらないだろう。残念ながら、アメリカ人はそのときになってから初めて反応するでしょう。 もし今反応しなければ、次に反応するのは、すでに手遅れになったときでしょう。私たちはできる限り広範囲にこのことを明らかにしなければなりません。 
キリスト教徒が迫害され、カタコンベに連れ去られたことを思い出してください。殺され、ライオンのエサとして投げ棄てられた。それにもかかわらず、彼らは何世紀にもわたって迫害に耐え、自分たちの信念を貫いた。しかし、彼らはその後も自分たちの信念を守り続け、後にムスリムにも同じことをしました。そうした歴史の教訓がなぜ忘れ去られようとしているのでしょうか。 

チョスドフスキー
イランの問題に戻りましょう。 私は、世界の世論が戦争のシナリオを理解するうえで非常に重要だと考えています。あなたは、アメリカが戦争に負けるとはっきり言っていますね。イランはアフガニスタン駐留のNATO軍よりも多くの通常戦力を保有しています。

フィデル・カストロ
アメリカはイランに450ヶ所の攻撃目標を設定しています。そのうちのいくつかは戦術核弾頭で攻撃しなければならないとされています。それらは山間部にあり、地下に建設されているためです。 これらのポイントでは多くのロシア人職員と他国籍の人々が死ぬでしょう。多くのアメリカ人が支持し、メディアによって無責任に宣伝されているこの一撃を前にして、イランはどのように対抗するのでしょうか。
彼らがどのような戦術をとるかはわからないが、もし自分が彼らの立場だったら、軍隊を集中させないことが最も望ましいと思います。なぜなら、軍隊が集中すれば、戦術核兵器による攻撃の犠牲になってしまうからです。それは一瞬、イラン軍が敗走し四散してしまったように見えるかも知れません。しかし分散はしているが、孤立はしていない。約1000人の大隊規模のユニットが適切な対空兵器を持って配備されています。
すべての戦闘部隊は、さまざまな状況下で何をしなければならないかをあらかじめ知っておかなければならない。地形は砂地で、どこに行っても塹壕に潜って身を守る必要があり、常に構成員の間に最大限の距離を保っていました。
とにかく恐ろしい相手です。アフガニスタンもイラクも、イランでぶつかるものと比べれば、「冗談のようなもの」なのでしょう。
***

The interview was conducted in Spanish.

Our thanks and appreciation to Cuba Debate for the transcription as well as the translation from Spanish.

***
蛇足ながら、下記も参照願います。いつの時代にも、どこの世界でも、同じようなことを考える人はいるものだとおもいます。人はそれを「賢者」と呼ぶのでしょう。

カストロは言う。「核戦争が起これば、全人類の命が巻き添えになる。

いまそれは急速に現実化する可能性がある」

 

By Fidel Castro Ruz and Prof Michel Chossudovsky

 

チョスドフスキーという人はGlobal Researchの編集主幹で、この会見でインタビュアーを勤めている。積極的に意見を述べており、インタビューというより対談となっている。

 

……………………………………………………

 

最初に(チョスドフスキーーによる背景説明)

 

ウクライナの最近の情勢を踏まえ、2010年に掲載したこの記事を再掲載する。今日、軍事的エスカレーションは大変なことになっている。それは第三次世界大戦のシナリオにつながりかねない。和平プロセスをただちに開始し、両国が和平協定を結ぶことが何よりも重要である。

この年、アメリカはイランに対して軍事作戦を企てた。おそらく多くの人は真相を知らないはずだ。その詳細は、今なお世間から隠蔽されている。

これを憂えたカストロは、各国政府に向けてメッセージを発した。そして「核戦争では、巻き添えで全人類の命が奪われることになる。私たちは勇気を持って、次のように宣言しよう。核兵器も通常兵器も、戦争に使われるものはすべて、この世から消滅させなければならない」と訴えた。

このメッセージの内容をより深く知るために、私はハバナでカストロと長時間の議論を交わした。会談は広範で実りあるものとなった。私たちの共通認識はこうだった。

「世界は危険な岐路に立たされている。私たちは歴史の中で重要な転換点を迎えている」

 

カストロの各国政府宛書簡 20101015

 

新たな戦争で核兵器が使用されれば、それは人類の終焉を意味します。

このことは、アインシュタイン博士が以前から予見していたことです。アインシュタインは、核分裂が数百万度の熱を発生させることを知っていました。そして広範な円形地域内のすべてのものを蒸発させるほどの破壊能力を持つことを予測しました。

今日、核兵器の使用による戦争の危険が差し迫っています。米国とイスラエルによるイランへの攻撃準備は、放置すれば、必然的に核紛争へと発展するでしょう。私はいささかの疑いも抱いていません。

世界の人々は、政治指導者に「生きる権利」を要求しなければなりません。人類の命がこのような危険にさらされるとき、誰も無関心でいるわけにはいきません。

アルベルト・アインシュタインはこう断言しています。「第三次世界大戦がどんな武器で戦われるかは知らないが、第四次世界大戦は棒と石で戦われるであろう」

しかし、世界的な核戦争になれば、その棒や石を使える人は地球上からいなくなるでしょう。なぜなら、アメリカの政治家や軍人は、罪のない人々を殺すことを正当化するために、いつもこう断言します。戦争ではやむを得ず「巻き添え被害」が発生する。それは罪のない人々に死をもたらすことを正当化する言葉のトリックです。そして皆さん、核戦争で「巻き添え」となるのは全人類の命ではないでしょうか。

だから、「核兵器も通常兵器も、戦争に使われるものはすべて消滅させなければならない!」のです。

皆さん、そう宣言する勇気を持とうではありませんか!

 

フィデル・カストロ・ルス

 


対談は進み、両者の意見は以下の点で一致した。
 イラン・イスラム共和国に対して軍事作戦が開始された場合、米国とその同盟国は通常戦争に勝つことはできないだろう。② それでも勝ちにこだわれば、それは核戦争に発展する可能性がある。
「それでも勝ちにこだわる」のは、米政権が今もなお「イランに戦術核を使えば、世界はより安全になる」という命題だ。この不条理な命題と自家撞着にどう立ち向かうのか。この問いに応えるため、フィデル・カストロが提示した中心的な概念は、「思想の戦い」である。

 

 思想の闘い”Battle of Ideas”とはなにか

 

遠大な「思想の戦い」だけが世界史の流れを変えることができる。その目的は、地球上の生命を破壊しかねない核戦争という事態を防ぐ想像力である。

企業メディア(ロイターやCNN)は思想を覆い隠す隠蔽行為に深く関わっている。彼らの情報操作は、核戦争がもたらす壊滅的な影響を矮小化するか、あるいは言及しないかのどちらかである。

人々は現状がほんとうに深刻なのだということを理解するべきだ。そして戦争への流れを変えるために、社会のあらゆる場面で力強く行動しなければならない。

 

*「思想の戦い」は、革命闘争の過程の一部である

 

カストロのもとめた決意は、世界の世論に事実を知らせ、そのことによって「不可能を可能にする」ことだ。そして未来に対する究極の脅威である軍事的冒険(the military adventurism)を阻止することだ。

メディアの流す偽情報の洪水によって、限定的な核戦争があたかも「平和の道具」であるかのようにみなされている。世界の機関や国連さえもふくむ最高権威によって容認されるようになっている。そうなったら、もう後戻りはできない。人類は自滅への道をまっしぐらに突き進むことになるのだ。

 

*「思想の戦い」は世界の人々の運動として展開されなければならない

 

人々は、戦争を挑発する軍事的意図と政治的宣伝に反対して結集しなければならない。政府や選挙で選ばれた代表者に圧力をかけ、町や村、自治体の地域レベルで反戦運動を組織し、メッセージを広げ、熱戦争のもたらす真の意味について仲間に知らせるなら、この戦争は防ぐことができる。

必要なのは、「戦争は正当だ」と主張するさまざまな論調に挑戦する草の根の運動であり、「戦争は犯罪だ!」と宣言する世界的な人々の運動なのである。

「思想の戦い」とは、戦争犯罪人の政権首脳と対決することだ。世界的な戦争に賛成を強要する米国主導のコンセンサスを突き破ることだ。数億人の人々の考え方を変えることだ。そして核兵器を廃絶することだ。つまり、「思想の戦い」は、真実を取り戻し、世界平和の基盤を打ち立てることだ。

 

紹介文の最後に、この対談におけるフィデル・カストロの発言のエッセンス(Havana, October 15, 2010)を掲げる。

 

*米国以外のすべての国は通常戦争では米国には勝てません。同時に核戦争は通常戦争の代替手段とはなり得ません。米国以外のいかなる国が核戦争をはじめても、米国はそれを甘んじて認容する気はまったくありません。それは必然的に米国の介入を招き、世界的な核戦争になるでしょう。

*地球上の誰も、人類という種が消滅することを望んでいないと思います。だから、消えるべきは核兵器だけでなく、通常兵器をふくめたすべての武器であるというのが私の考えです。 

*平和の保証は、すべての民族に分け隔てなく与えられなくてはなりません。

*核戦争で巻き添えになるのは、人類のすべての命です。 

*核兵器も通常兵器も、戦争に使われるものはすべて消え去らなければならなりません。そのように宣言する勇気を持ちましょう!

*世界が核による破滅nuclear catastrophe)に導かれないように要求すること、いまそれは、生命を守ることと同じです。

 

 

 



consortium news
May 19, 2023

中国と制裁された者同士枢軸
China & the Axis of the Sanctioned


By Juan Cole


リード

中東におけるアメリカの外交的影響力の低下は明らかだ。それは中国の外交攻勢のためだけではなく、30年にわたるワシントンの無能、傲慢、二枚舌を反映したものである。

以下本文

2枚の写真の類似性と相違点

イラン国家安全保障会議のアリ・シャムハニ事務局長とサウジアラビアのムサード・ビン・モハメド・アル・アイバン国家安全保障顧問の間に王毅(中国外交トップ)が立っていた。彼らは相互の外交関係を再構築する合意を行い、ぎこちなく握手をしていた。

三国会見

その写真を見て、少なからぬ外交畑のベテランは、イスラエルのラビン首相とPLOのアラファト議長を両脇にしたビル・クリントン大統領の写真を思い浮かべたはずだ。それは1993年に、オスロ合意に合意したときに、二人をホワイトハウスの芝生で接待したときのものだ。
White_House_1993

その懐かしい瞬間そのものが、ソ連崩壊後にアメリカが得た無敵の権威の最後の名残だった。それは1991年の湾岸戦争におけるアメリカの圧倒的勝利がもたらしめたものでもあった。

今度の写真は、その後の30年間の中東におけるワシントンの無能さ、傲慢さ、二枚舌によってアメリカが失った巨大なものを反映した変化であった。
そしてもちろん、その失地を埋めた中国外交の象徴でもあった。

サウジ・イラン和解 中国側の思わく

サウジ・イラン和解の余震は5月初旬に起こった。議会でUAE(アラブ首長国連邦)に中国海軍基地が極秘裏に建設されるという懸念が高まった。 UAEは何千人ものアメリカ軍を受け入れているアメリカの同盟国である。
UAEの施設は、軍が使用しているアフリカ東海岸のジブチにある小さな基地に追加されることになる。そこはUAE軍が海賊対策のために建設したものである。
予定された中国の基地は海賊対策、紛争地域からの非戦闘員の避難、そしておそらくは地域スパイ活動に使用されることになるであろう。
(編注:自衛隊の拠点は、米軍基地に隣接するジブチ国際空港の敷地を借用・設置されている。P-3C哨戒機2機と整備補給隊より成る。さらに支援隊が別途配置)

しかし、中国がイランの「アヤトラ」(シーア派の宗教指導者)とサウジアラビア王政の緊張を冷まそうとする理由は、中東への軍事的野心からではなく、両国から大量の石油を輸入しているからである。
もうひとつの理由は、習近平の野心的な「一帯一路構想」(BRI)である。 
この構想は、ユーラシア大陸の陸上と海上の経済インフラを拡大し、地域貿易の大幅な拡大を目指すもので、もちろん中国がその中心である。

中国はすでに中国・パキスタン経済回廊に数十億ドルを投資しており、湾岸産石油を北西部(新疆ウィグル)へ輸送しやすくするため、アラビア海の港グワダル(パキスタン)の開発にも投資している。

イランとサウジアラビアが戦争状態にあることは、中国の経済的利益を危険にさらす。
思い出してほしい、 2019年9月のことだ。
イランないしその手先、アル・アブカイクの巨大な製油所コンプレックスにドローン攻撃を仕掛け、日量500万バレルの油田を停止させた。
サウジは現在、中国に毎日170万バレルという途方もない量の石油を輸出しており、今後ドローンによる攻撃(あるいは同様の事態)が起きれば、その供給が脅かされることになる。
中国はまた、イランからも1日120万バレル(推計)もの石油を輸入している。これはアメリカの制裁のためである。
2022年12月、全国的な抗議デモが習近平のコロナ封鎖措置の終了を余儀なくさせた。中国の石油需要は2022年比ですでに22%増加している。
つまり、湾岸情勢がこれ以上不安定になることは、中国共産党にとって今一番避けたいことなのだ。
もちろん、中国はガソリン自動車からの脱却を目指す動きの世界的リーダーでもある。いずれは北京にとって中東の重要性ははるかに低くなるかも知れない。しかし、その日はまだ15年から30年先のことだ。

中国が調停役になったのはアメリカのせいだ

中国がイランとサウジの冷戦に終止符を打つことに関心を抱いていたことは明らかだ。しかし、なぜイランとサウジはこのような外交チャンネルを選んだのだろうか? それは結局のところ、アメリカのせいだ。
アメリカはいまだに自らを "不滅の国 "と称している。しかし、その言葉が今も当てはまるとしても、アメリカの不可欠性は今や目に見えて低下している。イスラエルの右翼によるオスロ和平プロセスの破壊、2003年の無理無法なイラク侵攻と戦争、そしてトランプ大統領によるイランへの醜悪な対応といった失策の連続がアメリカへの失望をもたらしている。
ヨーロッパから遠く離れていても、テヘランはNATOの勢力圏に入ったかもしれない。それはオバマ大統領が莫大な政治資金を投じて実現しようとしたことだ。しかしその代わりに、トランプはプーチンと習近平の腕の中にテヘランを直接押し込んだ。

事態は確かに変わっていたかもしれない。
オバマ政権が仲介した2015年の包括的共同行動計画(JCPOA)核合意によって、イランが核兵器を製造する現実的な道はすべて閉ざされた。イランの最高指導者が長年、大量破壊兵器はいらないと主張してきたのも事実である。もし大量破壊兵器が使用されれば、それは敵味方を問わず膨大な数の非戦闘員を殺戮することになり、イスラム法の倫理とは相容れない。

イランの聖職指導者を信じるかどうかは別として、JCPOAはこの問題を無意味なものにした、 
JCPOAは、イランが運転できる遠心分離機の数、ブシェールの原子力発電所で使用するウラン濃縮のレベル、備蓄できる濃縮ウランの量、建設できる原子力発電所の種類に厳しい制限を課したからだ。
国連の国際原子力機関(IAEA)の査察団によれば、イランは2018年までその義務を忠実に履行していた。なぜなら法令違反には厳しい罰則が与えられていたからだ。これはトランプ時代の皮肉である。
イランのハメネイ師は、ロウハニ大統領が常任理事国との間で結ばれた、条約に署名することを許した。それは ワシントンが制裁解除を約束した見返りとしてである。しかしそれは実現することはなかった。

トランプと米議会の一方的制裁継続

2016年初め、安保理は2006年の対イラン制裁を解除した。
しかしそれは無意味な行いであった。というのも、すでにそれまでに、米議会はイランに一方的な制裁を加えていたからである。議会は財務省の対外資産管理局を配備し制裁を発動した。核合意後でさえ、議会共和党はその解除を拒否した。イランがボーイング社から民間旅客機を購入することも、共和党は拒否した。そのために250億ドルの取引が水に流れた。

さらに悪いことに、このような制裁は、それに違反した第三者を罰するように設計されていたことである。ルノーやトタルエナジーのようなフランス企業は、イラン市場への参入を熱望していたが、制裁措置違反への報復を恐れていた。

結局のところ、米国はフランスの銀行BNPに対し、制裁を回避したとして87億ドルの罰金を科した。要するに、議会共和党とトランプ政権は、イランが取引に応じたにもかかわらず、このような厳しい制裁を継続したのである。イランの企業家たちが欧米とのビジネスを心待ちにしていたにもかかわらず…
要するに、テヘランは北大西洋貿易協定への依存度を高めようとした。結果、欧米寄りの軌道に引きずり込まれる可能性があった。しかし幸か不幸か、そうはならなかった。

ネタニヤフが核合意の一方的破棄を画策

イスラエルのネタニヤフ首相が(当時も今も)JCPOAに反対するよう強く働きかけていたことも忘れてはならない。彼は前例のないやり方で、オバマの頭越しに、議会に協定を破棄するよう働きかけたのだ。
その妨害役としての努力は、2018年5月、トランプがJCPOAを破棄するまで日の目を見ることはなかった。ネタニヤフ首相はトランプを騙して、核合意を無力化することに成功した。彼が「騙されやすいトランプ大統領を説得してこの措置を取らせた」と自慢する姿がテープに撮られた。
イスラエルの右翼は、最大の懸念はイランの核弾頭だと主張していた。そしてJCPOAを阻止した。
しかし結局、イスラエルが2015年の取り決めを妨害したことで、イランはあらゆる制約から解放されたのだ。
ネタニヤフ首相と志を同じくするイスラエルの政治家たちはJCPOAに憤慨していた。
それがイランの民生用核濃縮プログラムにしか対処していないこと、レバノン、イラク、シリアにおけるイランの影響力の後退を義務づけていないことに。

彼らの怒りを受けて、トランプはイランに対して金融と貿易の禁輸措置をとった。その結果、イランとの貿易はますますリスクの高いものとなった。
トランプは自らの基準(そしてネタニヤフ首相の基準)、すなわちオバマの成果をぶち壊すことで大成功を収めた。

核合意破棄後のイランの動き

彼のおかげで、イランの石油輸出は日量250万バレルからわずか20万バレルにまで減少した。それにもかかわらず、同国の指導部は2019年半ばまでJCPOAの要件に従い続けた。それからは、イランはJCPOAの条項を反故にし始めた。
イランは現在、高濃縮ウランを生産し、核兵器製造の可能性にかつてないほど近づいている、 
しかし、イランはいまだに軍事核開発計画を持たず、指導者たちははそのような兵器を望んでいないと主張し続けている。
現実には、トランプ大統領の「最大限の圧力作戦」は、この地域におけるイラン政府の影響力を破壊しただけだった。レバノン、シリア、イラクでは、ハメネイと保守派の力が復活した。

しばらくして、イランは中国に石油を密輸する方法を見つけた。国内市場向けにのみ操業する小規模の民間製油所をトンネルにして転売するやり方だ。これらの企業は国際的に無名で資産もなく、ドルも扱っていなかった。アメリカ財務省には対抗する手段がなかった。
こうしてトランプと共和党は、イランが経済的存続をもとめて中国に深く依存するようになり、中東で台頭する中国の重要性が増すための道を清めた。
ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻したとき、原油価格は急騰し、イラン政府に利益をもたらした。バイデン政権はその後、トランプ大統領がイランに科したような最大限の圧力をかけた制裁をロシアに科した。当然のことながら、イランとロシアは貿易と武器取引を模索し、新たな「制裁対象枢軸」が形成された。
イランとロシアは貿易と武器の取引を模索し、イランはウクライナでの戦争のためにモスクワに無人機を提供した。

反イラン・親米路線が破たんしたサウジ

サウジアラビアについては、その事実上の指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が最近、より良い助言者を得たようだ。
2015年3月、彼は南隣のイエメンで、フーシ派反乱軍が同国の人口の多い北部を占領した後、破滅的で壊滅的な戦争を開始した。
(訳注:フーシ派:ザイード派シーア派(Zaydi Shiite)の集団で、「神の助手」を名乗る軍事集団が中核を形成する)

サウジは主にゲリラ部隊に対して航空兵力を投入していたため、戦闘の効果は限定されていた。その作戦は失敗に終わろうとしていた。サウジ指導部は、フーシ派の台頭と回復力をイランのせいにした。
イランは確かに「神の助け手」に資金を提供し、武器を密輸していたが、戦いの本質はサウジに対する長い不満を抱えた地元民の抵抗だった。
8年後、戦争は壊滅的な膠着状態に陥った。

サウジアラビアは他の地域でもイランの影響力に対抗しようとした。北隣シリアのアサド政権を倒すため、原理主義的なサラフィー派反政府勢力を支援して介入した。
これに対し、2013年にレバノンのシーア派集団ヒズボラがアサドを支持して介入、2015年にはロシアが空軍力を投入した。中国はアサドを非軍事支援し、戦後復興を支援している。
中国は最近もアサド政権をアラブ連盟に復帰させるために尽力した。中国の仲介を受けて、サウジアラビアは連盟復帰を承認した。(原注:シリアはアラブの春の真っ只中だった2011年に連盟を除名されていた)。

2019年後半には、アブカイック製油所攻撃をきっかけに、ビン・サルマンがイランとの争いに敗れたことはすでに明らかだった。
サウジアラビアは何らかの出口を模索し始めた。サウジはイラク首相マハディに接触し、イランとの仲介を求めた。マハディ首相は、イラン革命防衛隊エルサレム旅団のカセム・ソレイマニ将軍をバグダッドに招き、サウド家との新たな関係を検討させた。マハディ首相は、イラン革命防衛隊エルサレム旅団のカセム・ソレイマニ将軍をバグダッドに招き、サウド家との新たな関係を検討した。

忘れもしない2020年1月3日、ソレイマニは民間旅客機でイラクに飛んだ。そしてバグダッド国際空港でアメリカの無人爆撃機によって暗殺された。暗殺を命じたのはトランプで、彼はソレイマニがアメリカ人を殺しに来たと主張した。
トランプはサウジとの和解を阻止したかったのだろうか?
結局のところ、アメリカの核心的関心はサウジアラビアと他の湾岸諸国をイスラエルを盟主とする反イラン同盟に取り込むことだったのだ。それがトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーのす繰り上げた "アブラハム合意 "の核心であった。

中国の台頭とアメリカの没落

ワシントンは今や、外交官たちのパーティーではスカンク扱いだ。イラン側は調停役としてのアメリカ人を金輪際信用するはずがない。
サウジアラビアは、新たなヘルファイア・ミサイルが放たれないよう、交渉の内容が漏れるのを恐れたに違いない。

2022年が終わる頃、習近平はサウジの首都リヤドを訪れた。そこでイランとの関係が話題になったことは明らかだ。
今年2月、イランのエブラヒム・ライシ大統領が北京を訪れた。中国外務省によれば、習近平はすでに2国間の調停に個人的にコミットするようになっていたという。

そして台頭する中国は、ついに中東の調停に乗り出すことを提案した。その一方で、習近平は「域外の一部の大国」が「私利私欲」のために「中東の長期的な不安定化」を引き起こしていることに苦言を呈した。和平調停者としての中国の新たな名声は、やがてイエメンやスーダンのような紛争にも及ぶかもしれない。ユーラシア、中東、アフリカを視野に入れる大国として、北京は「一帯一路」構想の妨げを可能な限り平和的に解決させたいと望んでいる。

中国は3つの空母戦闘団を保有する勢いだが、それらは自国の近くで活動を続けるに留まる。
中東における中国の軍事的プレゼンスに対するアメリカの懸念は、今のところ本格的なものではない。
サウジアラビアとイランのように、双方が紛争に疲弊している場合、北京は誠実な仲介者の役割を果たすことができるし、その準備もできている。

しかし、たしかにこれらの国々が相互の関係を回復し、集団的発展の方向にかじを切ったことは大きな意義を持つし、それを実現した新興大国・中国の外交力も目覚ましいものがあるが、大きな目で見ると、それはむしろアメリカの信頼性が驚くほど低下していることの反映である。
どれは、長い目でみると、30年にわたる偽りの約束(オスロ)、大失敗(イラク)、気まぐれな対イラン政策の結果である。
振り返ってみると、アメリカの政策決定は、帝国主義の押し付けと分割統治策略に頼るばかりで、実質的なものは何もなかったように見える。




以下の記事は、ワシントン・ポスト紙無料記事の、AALAニュース編集部による和訳である。なお訳出にあたって、Googleの無料翻訳機能を活用し、その出力結果を一部修正したが、速報のための仮訳として理解いただきたい。(SS)
……………………………………………………

The Washington Post
June 2, 2023 

オピニオン: 米国はもはや世界が味方であると思い込んではいけない

Opinion  The United States can no longer assume
that the rest of the world is on its side


By Fareed Zakaria


この間、新興国で見てきたこと

私は、この国の国のトップの一人であるスレイマン・ソユル内相の言葉を聞いて唖然とした。その時私はトルコの最近の総選挙を追っていた。
ソユル内相はバルコニーから群衆に向かって演説していた。
選挙の勝利に歓喜する彼は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、トルコに "問題を起こす者は誰でも、たとえアメリカ軍でもやっつけてやる"と約束した。
以前からソユルは、「親米的なアプローチを追求する者は裏切り者とみなされる」と宣言している。
トルコはNATOに約70年間加盟しており、国内に米軍基地があるということを覚えておいてほしい。

エルドアン自身、しばしば反欧米的なレトリックを用いている。選挙第1ラウンドの約1週間前、彼は対立候補をこう罵った。「赤ん坊殺しのテロリストや西側諸国に約束したことは口をつぐむだろう」(ちなみに“赤ん坊殺しのテロリスト”というのはクルド人ゲリラのことだ。おそらくフェークだろうが…)

エルドアンはこうした下品さの最も極端な代表者だろうが、反欧米的言動を弄するのは彼だけではない。
多くのコメンテーターは指摘している。世界の人口の大半は、プーチンのウクライナ侵攻作戦と闘おうとか、西側諸国と足並みを揃えようとか考えてはいない。
この戦争自体が、より広範な現象を浮き彫りにしている。まさに発展途上国の中でも強力な国々が、反欧米、反米の姿勢を強めているのだ。

昨年10月、ブラジルでルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバが大統領に選出された。そのとき、多くの人々は安堵のため息をついた。気まぐれなポピュリストであったジャイル・ボルソナロに代わり、伝統的で親しみのある中道左派の人物が大統領に就任したことが理由である。
しかし、ルーラは就任して数ヶ月の間に、ブラジルの位置を激変させた。彼は欧米を痛烈に批判し、ドルの覇権主義に怒り、ロシアとウクライナが戦争の責任を等しく負っていると主張する道を選んだ。
今週、彼はベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を接待している。ルーラはマドゥロを賞賛し、彼の政権に制裁を課しているワシントンを批判した。
彼は独裁者マドゥロの正当性を否定するアメリカが許せないのである。

以前、南アフリカのシリル・ラマフォサ大統領は、西側諸国と強い結びつきを持つ、実務的でビジネスフレンドリーな穏健派という評判だった。
しかし、いま南アフリカはロシアと中国の軌道に近づいている。同国はロシアのウクライナ侵攻を非難することを拒否した。それどころか、ロシアと中国の海軍を受け入れて合同演習を行っている、 
南アは最近米国から、ロシアへの武器供与を行っていると非難されている。しかし南アフリカは、この疑惑を否定している。

インドはどうだろうか。モディ首相は、ウクライナ戦争ではロシアに敵対するつもりはないと述べた。インド軍への先端兵器の主要供給国であるロシアと事を構えるつもりはない。
西側諸国とロシア(さらには中国とさえも)との関係のバランスを保ちたいというインドの態度は一貫している。
米印関係に関する最も著名な学者の一人であるアシュリー・J・テリスは、次のようなエッセイを書いている。
「ニューデリーが将来、北京との危機に際して米国の味方をすると考えない方が良い」と、ワシントンに警告するエッセイを書いている。

いったい何が起こっているのだろうか?
米国は、世界有数の新興国家となぜこれほどまでに対立を抱えているのだろうか?

新興国は "思い上がりと偽善 "に満ちた国、アメリカが嫌いだ

こうした態度の根底には、2008年に私が "the rise of the rest"(その他の国々の台頭)と表現した現象がある。
過去20年の間に、国際システムに大きな変化が起きた。かつては人口が多くても貧しかった国々が、縁の下の力持ちから主役の座に躍り出たのだ。
かつて世界経済に占める割合はごくわずかであった「新興市場」は、今や世界経済の半分を占めるまでになった。
これらの世界史的な現象は「新興国の台頭」といってもいいだろう。

*これらの国々が経済的に強くなり、政治的に安定し、文化的な誇りを持つようになると、ナショナリズムも強まった。
*そしてそのナショナリズムは、国際システムを支配する国々、つまり欧米諸国と対立するものとして定義されることが多い。
*これらの国々の多くはかつて欧米諸国によって植民地化されたため、欧米諸国が自国を同盟やグループにまとめようとすることに本能的な嫌悪感を抱いている。

ロシア専門家のフィオナ・ヒルは、ウクライナ紛争を背景にこの現象を考察し、次のように指摘する。
新興国のもつ根強い不信感のもう一つの要因は、米国がルールに基づく国際秩序を支持していると聞いても、それを信じないことである。
彼らはワシントンを "思い上がりと偽善 "に満ちていると見ている、とヒルは言う。アメリカは他国にはルールを適用するが、軍事介入や一方的な制裁では自らルールを破っている。貿易や通商の開放を各国に促しておきながら、いざとなればその原則を破っている。

アメリカの衰退ではなく、他のすべての台頭(the rise of the rest)が新しい世界だ

2008年に私が書いたようにアメリカの衰退ではなく、他のすべての人々の台頭が特徴である。
かつてチェス盤の駒であった世界の広大な地域が、今やプレーヤーとなり、自分たちの、しばしば誇り高く自律的な動きを選択しようとしている。
彼らは簡単に屈服したり、おだてに乗ったりたりはしない。
海外で正義を説くだけでなく、自らも自らの国で正義を実践すること、その実践に基づいて説得することが必要だ。
このような国際舞台をしっかりと演じることが、アメリカ外交の大きな課題である。

果たしてワシントンはその任務を果たせるのだろうか?

以下の記事は、NYタイムズ紙無料記事の、AALAニュース編集部による和訳である。なお訳出にあたって、Googleの無料翻訳機能を活用し、その出力結果を一部修正したが、速報のための仮訳として理解いただきたい。(SS)

……………………………………………………

The NewYork Times
March 11, 2023

オピニオン|中国との対立で得をするのは誰か?

Who Benefits From Confrontation With China?


By The Editorial Board
The editorial board is a group of opinion journalists whose views are informed by expertise, research, debate and certain longstanding values. It is separate from the newsroom.


米中関係変化の理由はアメリカの中国に対する対決姿勢の強まりだ

アメリカの中国に対する対決姿勢の強まりは、アメリカの外交政策における重大な変化である。その背景、利害得失についてはより広範な評価と議論が必要である。
過去半世紀というもの、米国は経済的・外交的関与を通じて中国を再構築しようと試みてきた。トランプ政権の場合は、より厳しい経済的・外交的攻撃を通じて行われた。
バイデン政権はこれとは対照的に、中国を変えさせるという考えは棚上げし、中国の行き過ぎを牽制するという方式を優先している。

ホワイトハウスは中国との経済関係を制限し、軍事利用可能な技術への中国のアクセスを制限しようとしている、 
米国は長年中国との関わりが深い国際機関から手を引き、中国の近隣諸国との関係を強化しようとしている。
ここ数カ月、アメリカは中国への半導体輸出を制限し、今週はオーストラリアが原子力潜水艦を獲得を支援する計画を進めた。政権はまた、特定の中国企業に対するアメリカの投資に新たな制限を課そうとしている。
こうして中国をアメリカの国益への脅威と見なすことで、共和党の有力議員、軍部や外交政策の専門家の多く、そして経済界を含む幅広い支持を得て行動している。

米国の対中政策は間違っていたのか?

ブリンケン国務長官は、昨年5月のジョージ・ワシントン大学での講演で、政権の中国政策を明確にした。ブリンケンは対中国政策は失敗だったと断じた。 
「米国は国際機関のルールに従うよう中国を説得したり、強制したりすることにほとんど成功していない。
中国は、国際秩序を再構築する意図を持ち、そのための経済力、外交力、軍事力、技術力を持つ唯一の国である。中国はますます他国に優先事項を押し付けようとしている。北京の支配力拡大は、過去75年間にわたり世界の進歩を支えてきた普遍的価値観から我々を遠ざけることになる。

中国との関係強化は期待したほどの成果を上げていない。中国は資本主義を受け入れたが、それは社会や政治体制の自由化に向けた第一歩にはならなかった。
実際、中国の国家主導型資本主義は、他国の自由民主主義の健全性を損なっている。
米国は、ウイグル族のイスラム教徒に対する弾圧や知的財産権の軽視など、深刻な相違が残る問題について、中国の指導部に圧力をかけ続けている。

中国はまた、南シナ海や台湾海峡での軍事行動や、アメリカ上空での気球の航行など、憂慮すべき挑発行為を繰り返している。
米政府高官によれば、中国はロシアへの軍事援助を検討しているとのことである。この動きは米国との緊張を意図的にエスカレートさせることになる。

対立から利益は生まれない、良きライバルとなるべき

しかし、米国と中国の関係は、さまざまな問題を抱えながらも、多大な経済的利益をもたらし続けている。両国は毎日、何百万もの正常で平和的な交流によって結ばれている。また気候変動のような共通の問題を抱え協力する基盤がある。

アメリカ人の利益は、中国との対立を最小限に抑えながら、良きライバルとしての意識を強調することによって最大限に実現される。
口先だけで冷戦を引き合いに出すのは見当違いだ。二つの関係がまったく異なるものであることは、一目見ただけで理解できる。
アメリカは相手の足元をすくうよりは、より速く走って勝てるように集中すべきだ。それには教育や基礎科学研究への投資を増やすなどが考えられる。

中国の行動やレトリックもまた、視野に入れておく必要がある。超大国の基準からすれば、中国は依然として自国第一主義である。
対外関係は、特に自国周辺以外では、主として経済的なものにとどまっている。
中国は近年、国際問題でより積極的な役割を果たすようになった。イランとサウジアラビアの関係を再構築するために中国が果たした役割は、良い例である。
しかし、中国は自国の社会的・政治的価値観を他国に押し付けることは関心がない。

米中両国には共通の課題がある

中国の指導者たちは、対決的な姿勢をとることで一致しているわけでもなさそうだ。米国人は中国人と、互いに安心感を与えあう必要がある。

アメリカも中国も、多くの同じ課題に直面している。
*所得格差の時代に、習近平国家主席が「共通の繁栄」と呼ぶものをどのように確保するか。 
*資本主義の重要な創造力を失うことなく、資本主義の最悪の行き過ぎをどう抑制するか。 
*高齢化する人口と、仕事以上のものを人生に求める若者をどうケアするか。 
*気候変動をどう抑え、その破壊的影響にいかに対処するか。
などで共通している。

アメリカの中国戦略の中核は、同盟国との関係強化にある。それは適切な政策である。米国は同盟国とのあいだで時間をかけて、経済的利益と国家目標との整合性を調整すべきであろう。
インド太平洋地域の同盟国との関係を強化することも必要である。「私たちは彼らに負けないようにと頑張っています。それが世界中の人々の心をつかむことに繋がるからです」と、行政管理予算局のシャランダ・ヤング局長は語った。

孤立主義の復活 国際関係からの離脱傾向は間違いだ

しかし米国は、中国と長年にわたって関わってきた国際機関から手を引くべきでない。例えば、世界貿易機関(WTO)には、貿易紛争を裁くために設立された上訴裁判所がある。
しかし同裁判所は、最近任命された判事が任期を終えたため、2年以上運営されていない。新しい判事は米国の支援なしには設置できないが、バイデン政権はその支援を拒否している。

米国はWTOの貿易ルールを策定する委員会からも手を引いている。WTOの専門家であるシンガポール経営大学のヘンリー・ガオ教授によれば、習近平氏が2021年11月、アメリカの重要な目標である国有企業に関するルール作りの場としてWTOを利用することを提案した。しかしアメリカはその件についてあまり関心を示さなかった、 

そういう態度は間違いだ。ルールに基づく国際秩序の構築は、20世紀における最も重要な成果のひとつである。それにはアメリカが主導的な役割を果たしたのだ。
米国が様々な国際制度に参加しなければ、それを維持することはできない。

バイデン政権はトランプ政権時代の対中貿易制限を継続。それだけでなく、いくつも新たな制限を課した。これも疑わしい戦略である。競争を制限することは短期的には利益をもたらすだろう。しかし、ここ数十年のアメリカの経済成長は、グローバルな貿易部門で競争に打ち勝つことによってもたらされてきたのである。


競争は苦痛だが有益でもある

競争は苦痛であると同時に有益でもある。連邦政府がインフラ、研究、技術教育に対して行っている大規模な投資の価値は、著しく低下している。
なぜならアメリカ製品の市場規模を制限したり、健全な外国との競争からアメリカ企業を保護するような措置によって競争力が押し下げられているからだ。

米中対立への路線転換は、気候変動への対応など全人類的課題や、本来一致しているはずの課題でも協力を難しくしている。

これまで中国政策の多くは、国防のために必要であるとして正当化されてきた。国家安全保障への配慮は、ある種の対中貿易を制限する根拠とっている。
しかし、それは保護主義的措置を正当化する事になりかねず、決してアメリカの利益にならない。
長期的に見れば、アメリカの安全保障の最善の保証は、アメリカの繁栄と世界との正常な関わり以外にない。
それは中国にとっても同じだ。

(題名とは逆で得をするのが誰かは曖昧だが、損をするのがアメリカだということははっきりしている、というのが論者の言い分 SS)

以下の記事は、アジア・タイムズ紙無料記事の、AALAニュース編集部による和訳である。なお訳出にあたって、Googleの無料翻訳機能を活用し、その出力結果を一部修正したが、速報のための仮訳として理解いただきたい。(SS)
……………………………………………………


Asia Times
MARCH 30, 2023

オピニオン: 中国の外交的勝利は米国の失敗がもたらす
ーー米国は、他国民を排除すれば、いずれ自分も排除される

OPINION China’s diplomatic wins rise from America’s losses
ーーUS is learning the hard way that if you treat everyone else as a pariah
you are eventually treated as one yourself



By CHRISTOPHER MCCALLION

ここ数週間の中国の外交的な動きは、ワシントンの外交政策関係者やメディアの間にさまざまな警戒感を生んでいる。
「アメリカの影響力が新しい敵対的な "世界秩序 "に取って代わられようとしているのではないか?」と。

現在の出来事をバランス・オブ・パワーの観点でとらえることが、「なぜこのような事態になったのか」を説明するのに役立つ。
中国の習近平国家主席はモスクワを訪問し、中露の "限界なきパートナーシップ "を確認した。
その同じ週に、国際刑事裁判所(ICC)はプーチン大統領の戦争犯罪に対する逮捕状を発行した。
今月初め中国は、湾岸諸国のライバル同士サウジアラビアとイランの間で、国交回復を成功させた。
2月下旬、北京はウクライナ戦争に関する12項目の和平案を発表し、キエフは懐疑と開放の両義的姿勢を示した。
習近平はモスクワ訪問の最後に、プーチン大統領にこう語った。
「われわれが一緒にやれば、世界の変ぼうを作り出すことができる」

アメリカのコメンテーターたちはこう見ている。
中国が「ユーラシア・ブロックのリーダーとして台頭しつつある。何世代にもわたって外交を支配してきた同盟関係や対立関係は根底から覆された。そして「反米を主軸とする世界秩序が形成されつつある」

問題は、この対立がヒートアップして核保有3カ国を第三次世界大戦の瀬戸際に追いやるのか、それとも「冷戦 ver.2」の幕開けを告げるだけにとどまるのかだ。
第三次世界大戦も冷戦2.0も我々は回避できるのか、また、中国の外交的な誘いかけにこれほど好意的な聴衆が登場したのはなぜなのか。
これらの問いに関心を持つ人はほとんどいないようだ、 

特筆すべき例外は、ファリード・ザカリアの最近のコラム、「アメリカの一極集中は外交エリートを堕落させた」というもの。
これによると、「わが国の外交政策は、要求を出し、脅しや非難をし、という行動に終始することがあまりにも多い。相手の意見を理解したり、実際に交渉したりする努力はほとんどなされていない」のだ。

バイデン政権が国際政治を「民主主義対独裁主義」の闘争と決めつけ、アメリカが同盟国以外との有意義な外交を避けていることを考えれば、ワシントンが北京、モスクワ、テヘラン、リヤドとの関係から締め出されるのは当然である。
北京は最近、アメリカが中国を「封じ込め」ようとしていると、異例なほど強い言葉で述べた。
この評価は、台湾に対するアメリカの関与がますます明確になっていることや、西側諸国が中国への技術輸出を制限していることを考慮すれば、正確なものと思われる。

「欧州の指導者たちはプーチンをICCに引き渡すべきだ」というブリンケン国務長官の発言は、「ルールに基づく国際秩序」を守ると主張する米国の偽善性を自ら暴露している。
想起せよ、ICC(国際司法裁判所)は米国がその権限すら認めていない組織である。

それだけではない。ブリンケン発言はモスクワの政権交代が米国の公式方針であると宣言したに等しい。
それは、ウクライナ紛争をより難航させ、危険なエスカレーションの可能性を高める恐れがある。
ICCはプーチンに逮捕状を発行することで、ウクライナ紛争の最終的な解決を含め、モスクワがもはや西側諸国と通常の外交を行えないようにしたにすぎない。

これによって、戦争終結を交渉する調停役は西側諸国からは出現しないことが明らかになった。調停役は西側出身者でもなく、西側の意向を反映する国や組織でもない、ということになるだろう。

バイデンはトランプ政権のイランに対するタカ派路線を継続した。そしてJCPOA核協定の復活に失敗した。その一方で、テヘランの宿敵であるサウジアラビアを“のけ者” pariah にした。

バイデン政権は一方で、テヘランの宿敵サウジアラビアを「のけ者」にした。
こうして何十年にもわたりこの地域のお気に入りだったにもかかわらず、アメリカはリヤドでもエルサレムでも影響力を失いつつある。
サウジアラビアとシリアも和解寸前にある。こちらはモスクワの仲介によるようだ。

中国が中東で交渉を仲介し、関与を強めていることは、アメリカにとって悪いこととは言い難い。
フリードマンが最近書いているように、アメリカがこの地域からの離脱し、その「空白」を中国が埋めたとしても恐れる必要はない。
実際、皮肉屋の現実政治家は望んでいる。北京がわれわれの足跡をたどるほどに愚かであることを。

過去数十年間のアメリカ外交のスコアカードは、決して芳しいものではない。アメリカは、ユーラシア大陸における覇権国の出現を避けようとしてきた。
それなのにアメリカは他の2つの大国を、同盟関係にまとめあげてしまった。それは主にアメリカへの反発によって結ばれたものである。

中東のパワーバランスは力勝負だ。さほど繊細なものではない。米国はすべての当事者に対して相対的に最大限の影響力を行使できる。米国はそうやって、湾岸地域の主要な二人のプレーヤーを引き離す方法を見つけた。つまり、誰が誰を孤立させるのか、という話だ。
外交政策当局はイランに敵対する同盟を形成しようと頑張ってきたが、誰かを " 除け者 " として扱えば、やがて自分自身も除け者になってしまう可能性がある。

Christopher McCallion is a Fellow at Defense Priorities. This article is republished with the kind permission of Defense Priorities


より
6/17 2023
国際情勢と中国外交(1)

1.中国外交の基本的性格
A) 歴史的国際的立ち位置
*強烈なナショナリズムに基づく国民国家(nation-state)の建設
*世界第2位の経済大国として、アメリカに対抗する国として、あるべき姿の模索
B) 外交主体の問題意識
国家建設主体としての問題意識とは異なる経過を取っている。
*善隣友好
平和共存5原則(領土保全、相互不干渉、相互不侵略、平等互恵、平和共存)に基づく国家関係
*大国(米ソ)との対抗
「三つの世界」論、反覇権闘争
*21世紀外交→習近平外交

2.習近平外交の成立
A) 模索期 12年12月総書記就任から14年11月まで
* 戦略的に軍事を重視し、遅れていた軍事力を伸ばした
* 軍事優先路線は日米両国との軍事リスクを増大させた
B) 中央外事工作会議(14年11月)
「中国の特色ある大国外交」路線を打ち出す。
「実事求是」「調査研究」の原点に立ち返り、実践を通じて外交戦略を形成。
C) 中央外事工作会議(18年6月)
「中国の特色ある大国外交」路線の具体化:6つの長期的基本方針
①歴史観と役割観を踏まえた情勢把握
②人類運命共同体構築を目標とする国際統治システム
③「一帯一路」建設の推進
④安定的な大国関係の推進
⑤周辺諸国との関係改善
⑥途上諸国との関係発展(その際途上国を「天然の同盟軍」と規定)

3.「特色ある大国外交」の柱
以上の経過を踏まえ、現在展開されている「特色ある外交」を分野別に見ていく。
A) 中米関係
18年会議の6つの柱のうち第1の柱が激突する。すなわち
*「世界のグローバル化」を踏まえ(歴史観)
* 「国際社会の多極的平和共存にふさわしい国際秩序」の実現を目指す(大局観)
* 「一帯一路」建設を通じて大国としての役割を果たす(役割観)
これは米国に対する真っ向勝負である。
なおこの項で、浅井氏は
「台湾、南シナ海島嶼(西沙,南沙、東沙)が中国の領土であることは、本来、歴史的、法的に議論の余地はない」と断言するが、西沙・南沙については保留する。
B) 中ロ関係
*両国は長期的基本方針のうち①~③を共有する。
*現実的関係:社会主義圏の崩壊以来、積み上げてきた実績もある。米西側との非友好的ないし敵対的関係とは対照的に長大で安定しか領国国境が最大の戦略的資産となっている。
* 中露関係強化の最大の成果が「ドルの武器化」に対する「脱ドル化」の進展が挙げられる。
C) 周辺諸国
中国外交にとって、周辺諸国との関係は常に緊張を強いられる。それは欧州諸国の「ロシア嫌い」(Russophobia)のすさまじさに比肩する。
国際世論に圧倒的影響力を振るう西側メディアは反ロ反中に全精力を集中している。
D) 途上諸国
途上諸国との関係では、「一帯一路」に基づく経済協力関係が確実に進展している。
途上諸国が重債務に陥っている問題を中国の責任とする米・西側諸国の主張は、事実に反している。
中国が仲介したイランとサウジアラビアの外交関係回復は世界の政治地図を塗り替えつつある。

これを近日開催予定の北海道AALAの学習資料として使いたいのだが、いまいちスッキリしない。もう少し他もあたってみた上でアラブ世界の団結、脱ドル化、資源の自律化、BRICSSと対外債務など非欧米諸国の共通課題と中国の果たすべき役割がもっと整理した形で提示されることが望ましい。
またとくに非核非戦の課題での非同盟諸国のイニシアチブと中国ロシアの立場が接近する展望について積極的に打ち出してほしいと思う。



Global Researchの最近号に面白い記事が載った。10年以上も前、まだ生存中のフィデル・カストロとの対談だが、あえて掲載する。理由は読んでもらえば分かる。
元の文章が部分掲載で、尻切れトンボになっている。訳出分は掲載分の全訳に近いが完全訳ではない。今となっては流行遅れの部分(例えばチリの炭鉱の生き埋め→生還事件)、アンゴラ作戦、カストロの長広舌は刈り取った。当時の米・イラン関係については編注で組み込んだ。それでもかなり長いので覚悟してほしい。(訳 SS)

Global Research
June 03, 2023
原文発表はNovember 2010

主見出し
Global Research and Cuba Debate 19 November 2010
“In a Nuclear War the Collateral Damage would be the Life of All Humanity”
Fidel Castro

サイド見出し
Conversations with Fidel Castro. The Threat of Nuclear War is Real. "The imminence of a dangerous and probable war that could very rapidly evolve towards a nuclear war"


 カストロは言う。「核戦争が起これば、全人類の命が“巻き添え”になる。
いまそれは急速に現実化する可能性がある」


By Fidel Castro Ruz and Prof Michel Chossudovsky

……………………………………………………

前編

以下が対話部分

01 通常戦争と核戦争

チョスドフスキー 
人類全体に影響する基本的な問題についてお話する機会をいただき、大変光栄に思っています。
まず最初の質問ですが、アピールで語られた言葉で、「核戦争のリスクが “ホモ・サピエンスに対する脅威” である」というのはどういうことでしょうか?

カストロ
数年前から、特にここ数カ月は、戦争の危険が間近に迫っているような気がします。しかもそれは、通常戦争から核戦争へと急速に発展する可能性があります。
世界の動きを見る場合、これまでは資本主義システム全般と、帝国主義の専制政治が人類に課している危険と困難の分析、いわゆる「帝国主義論」に力を注いできました。
いまや米国は資本主義の盟主であるだけではありません。人々と社会の最も基本的な権利の侵害者です。それは自分勝手な論理を好き放題、世界に押し付けています。

チョスドフスキー
冷戦時代、60年代以降はソ連とアメリカの間にMAD(相互確証破壊)と呼ばれる“紳士協定”が結ばれていました。核の不使用と平和共存の体制が継続していました。しかし核不拡散体制は冷戦終結とともに終わりました。冷戦後、特に2001年9月11日以降、アメリカの核ドクトリンは、自分に好都合なように書き換えられ始めました。これが「再定義」(定義変更)と呼ばれるものです。

カストロ
私は半年前のイラン危機発生いらい、核戦争の危険が差し迫っている感じるようになりました。 2010年6月9日、国連安保理はイランが行っている高度濃縮ウランの生産を非難し、決議1929号を採択しました。12カ国が賛成票を投じ、1カ国は棄権、2カ国(ブラジルとトルコ)は反対票を投じました。
決議採択の後イラン情勢は緊張度を増しました。戦闘部隊を組み込んだ米空母1隻と原子力潜水艦1隻が、エジプト政府の支援を受けてスエズ運河を通過しました。イスラエルからの海軍部隊も加わり、ペルシャ湾とイラン近海に向かいました。
米国とそのNATO同盟国が課した経済制裁は、乱暴で不当なものでした。軍事脅迫と経済制裁は政治状況をひどく複雑化させ、世界を戦争の瀬戸際に立たせました。

02 イラン制裁に反対しなかったロシア・中国

チョスドフスキー 
安保理決議のあと、ロシアと中国もイランに対する軍事協力を削減しまし。特にロシアは、防空のためのS-300システムを提供してきましたが、決議の数カ月後には軍事協力を凍結しました。イランの防空体制非常に深刻な状況に直面しています。ロシアや中国に対する脅しは、イランと戦争になったとしても一切介入するなという脅しです。アメリカやNATOにとって、これは中東での戦争を拡大する地固めなのです。これが昨今(2011年)の中東をめぐるシナリオだと思います。
ロシアや中国に向けられる脅威には、さまざまな種類があります。南シナ海、東シナ海、カシミール、台湾海峡など、中国の国境が軍事化されています。
欧米諸国はイランの防空システムを弱体化させ、その状況下で、イランとの戦争に道を開こうとしており、そのための合意を形成しつつあるのです。 

フィデル・カストロ
私の意見だが、ロシアと中国は拒否権を行使すべきだった。アメリカに妥協をしたために、状況がより複雑になっています。イランにS-300を供給するという契約が結ばれていたのにロシアは破棄してしまった。
中国にとって石油エネルギー確保は非常に重要なことです。なぜなら、中国は最も経済成長率の高い国だからです。経済が成長すれば、石油やガスの需要も大きくなります。
最悪のリスクは、イランで戦争が起きたら、その戦争はどういうふうに進展するかということです。本格戦争になったら、勝負は決着がつかず泥沼化するでしょう。イランは良く訓練され、強い戦意を持った何百万人もの戦闘員を持っています。 
中東の人々は欧米に対し強い憎しみを持っています。イスラム世界に対する戦争に勝とうなどと考えるは全くの狂気です。アフガニスタンの人々は、アメリカの無人機によって毎日殺されています。イラク人は、ブッシュがはじめた戦争が起きてから、100万から200万人の同胞が死ぬのを見てきました。中等の人々の怒りに勝てる武器はありません、核兵器を除いては…

フィデル・カストロ
通常戦争でアメリカが負けるのは確実です。何百万人もの人々を相手にした通常戦争には誰も勝てません。彼らは疾風のように現れて、疾風のように去っていきます。蝶のように舞い蜂のように刺します。彼らは、アメリカ人に殺されるために、自分たちの軍隊を一箇所に大量に集中させるようなマネはしません。
私はゲリラ戦士でした。当時は持てる戦力をどう使うかについていつも真剣に考えていました。戦力を一箇所に集中させるというミスは決してしませんでした。戦力が集中すればするほど、大量破壊兵器による犠牲者が増えるからです...。

ミシェル・チョスドフスキー 
あなたの指摘は最も重要なポイントです。中国とロシアの安保理での決定、すなわち決議1929の支持は、彼らにとって甚だしく有害です。
ロシアは兵器の輸出ができなくなり、その主な収入源が凍結されてしまいます。イランはロシアの兵器の大事な顧客であり、ハードカレンシーを獲得できる収入源です。イランからのドルがロシアの消費財経済を支え、国民のニーズを満たしていました。
中国も同じです。中国はエネルギー源へのアクセスを必要としています。国連安保理決議はイランに害を与えるだけでなく、実はそれ以上にロシアと中国に害を与えるのです。だからこれは非常に深刻です。
 
フィデル・カストロ
私は一般的な状況をこう見ています。通常戦争ならアメリカが負けるでしょう。かといって核戦争は誰にとっても代替案にはなりません。なぜなら、核戦争は必然的に世界的なものになるからです。
イランの現状にはとんでもない危険が内在します。戦争の道を突き進めば、それは結局、核戦争になってしまうからです。

ミシェル・チョスドフスキー 
つまり、アメリカとその同盟国は、通常戦争には勝てない。だから核兵器を使おうとしている。しかし、それも勝てない戦争である。そればかりか人類は「巻き添え」を食ってすべてを失う、ということですね。

フィデル・カストロ・ルーズ 
この戦争では、誰もが敗者になるでしょう。核が解き放たれたら、ロシアは何を得るだろう? 中国は何を得るのだろう?  どんな戦争になるのだろう? 世界はどう反応するだろうか? 世界経済にどう影響するのか?
しかしもっと深刻な影響があります。それは、核兵器を通常の戦術兵器に変えてしまおうとするペンタゴンの試みです。

03 核兵器が通常兵器に転用される?

今日のニュースでは、「広島と長崎の市民が、核兵器が通常兵器に転用されることに強い抗議を示している」と書いてありました。
読みます。「アメリカは臨界前核実験を行った」 続けます。「米国の核実験は広島と長崎を憤慨させている。彼らは“臨界前”というのは嘘だと言っている。長崎県の中村法道知事は、記者会見でこのように述べた。「オバマ大統領が核兵器廃絶のリーダーシップを発揮してくれることを期待していただけに、深く遺憾に思う」 
ワシントンは、「これらの実験が包括的核実験禁止条約(CTBT)に違反しないと考えている。なぜなら核エネルギーを放出することはないからだ。それは核兵器の “安全性” を維持するために必要だ」
彼らのいう安全性というのは使う人の安全性であって、使われる=狙われる人の安全性とは全く関係ないのです。

チョスドフスキー  
イランに対する脅威の問題に戻りましょう。核兵器通常戦争に勝てなかった場合に、通常戦を補完するために使用される可能性があります。これは明らかに、イランというよりは人類に対する脅威です。
なぜ私が心配するか、冷戦後、「人間の顔をした核兵器」という考え方が生まれたからです。「核兵器は本当に危険なものではない、民間人に危害を加えるものではない」というもので、核兵器のレッテルが変更されました。今や彼らのクライテリアによれば、「戦術核兵器」は通常兵器と何ら変わりません。米軍の軍事マニュアルには、「戦術核兵器は民間人に害を与えない兵器である」と書かれています。
したがって、このような事態が発生する可能性があります。すなわち、「イランを核兵器で攻撃する作戦に従事する人たちは、それが人類全体に恐ろしい結果をもたらす危険性に気づいていない」という可能性です。
彼らはこう言います。「私たちの基準によれば、この戦術核兵器は民間人にとって安全な兵器であり、冷戦時代に配備されたメガトン級の巨大核兵器とは異なるものである」
そう言う人たちは、そう言うからには、ひょっとしてその言葉を信じているかも知れません。だから、世界の安全保障を脅かすことのない兵器として、イランに対して使用することができると考えているかも知れません。
それは極めて危険です。彼ら自身が自分たちのプロパガンダにハマってしまって、それを信じているのですから…。しかしそれは違います。それは軍隊の中、政治機構の中ででっちあげられた内部プロパガンダにすぎません。
2002年から2003年にかけて「戦術核兵器」カテゴリが再分類されました。そのときエドワード・ケネディ上院議員は強く警告しました。「それは正しくない。それは通常兵器と核兵器の境界を曖昧にする方法だ」
しかし10年後の今、それが現在の私たちのデフォールトです。いまや核兵器がカラシニコフと変わらないと考えられている時代なのです。大げさかも知れませんが、核兵器は今やペンチやのこぎりのように道具箱の中の道具の一つなのです。そこから使用する兵器の種類を選ぶのです。核兵器は通常戦争の舞台で使用される可能性があります、
核兵器が通常戦場で限りなく通常兵器に近い武器として使用され、それが地域核戦争シナリオ、さらには世界核戦争という想像を絶する事態に発展するかも知れないのです。

フィデル・カストロ
戦術核の威力は幅があります。広島型原爆の3分の1から、広島型の6倍の威力に及びます。しかし小型原爆の代表として広島型を考えることはおよそ非人間的です。それは一発の爆弾で10万人を即死させました。その6倍の威力、2倍の威力、同等の威力、30%の威力を持つ原爆…実にばかげた比較です。
作戦地域の軍隊にも使用できる人道的兵器として使おうという試みもあります。これも使用基準の容易化を考えれば、恐ろしいほど非人道的な兵器となります。使用指示する者にとっても、指示を受けてボタンを押す人間にとっても、それは当然のようにこなすべき日常業務となるのです。

チョスドフスキー  
私は将来的にも、核兵器が中央集権的な司令機構(戦略司令部など)の承認なしに現場で使用されるようになるとは考えていません。しかし、アメリカ大統領や最高司令官の承認、例えば冷戦時代のRed Telephone といった手続きなしに使用するようになる可能性は存在すると思います。 

フィデル・カストロ
ペンタゴンとアメリカ大統領との間には歴史的に対立がある。そのことを考えると、ペンタゴンがどう判断するかについては、ほとんど疑問の余地はありません。

04 通常兵器とは次元の違う核の被害

チョスドフスキー 
もう1つの要素があります。 私が知る限り、戦術核兵器の配備は、NATOに加盟しているヨーロッパのいくつかの国によって行われています。 ベルギー、オランダ、トルコ、イタリア、ドイツがそうです。 このように、「小さな核爆弾」はたくさんあります。
その際忘れてならないのがイスラエルです。イスラエルが単独で戦争を始めるかというと、それは戦略的にも意思決定的にも無理があります。通信も兵站も何もかもが一元化された現代戦では、大規模な戦争の開始は一元的に決定されるでしょう。しかし、米国がイスラエルに先制攻撃の許可を出せば、イスラエルは行動するかもしれない。
イスラエルとイランとの戦争は、レバノンやシリアの国境地帯で通常の小競り合いから始まるという筋書きを描くアナリストもいますが、それは論理的可能性のレベルです。しかしその小競り合いが軍事作戦をエスカレートさせる口実となる可能性はあります。

フィデル・カストロ
昨日10月13日、レバノンでは大勢の人々がアフマディネジャド(当時のイラン大統領)をみずからの国民的英雄のように歓迎しました。実はレバノン人もイラン人同様に敢闘精神を持っています。そのことを考えるとイスラエルの懸念も理解できます。
レバノンには、第2次中東戦争の頃の3倍の迎撃ミサイルがあります。この兵器に対抗するためには攻撃ミサイルだけでは不足で、空軍による爆撃が必要です。そのため、イスラエルがイラン攻撃に専念できるのは最初の3日間ではなく、最初の数時間だけです。これはイスラエルに加わった新たな不安です。
ほかにも懸念材料があります。レバノンの保有する兵器は、闇市場で買ったカラシニコフではなく、性能の安定した、修復可能なイランの制式兵器の一部です。
ほかにもイランの通常兵器の中には、カスピ海で他国の水上戦艦と戦うための何百というロケットランチャーがあります。軍関係者はフォークランド紛争の経験から、水上艦艇は1発、2発、3発のロケット弾をかわすことができると知っています。しかし、大型の軍艦が雨あられと降り注ぐロケット弾から身を守ることができるでしょうか。
核兵器が登場する前の先の大戦で何が起こったか。通常兵器の破壊力だけで5千万人が死亡しました。それどころか19世紀に行われた戦争でさえ、すでに非常に破壊的なものでした。しかし今日の戦争は既にそれとは次元の違うものです。
核兵器が使用されたのは、トルーマンが使いたかったからです。トルーマンは、ウランから臨界量を生み出す広島原爆と、プルトニウムから臨界量を生み出す長崎原爆の両方を使ってみたかったのです。この2つの原爆で約10万人が即死しました。そのあとさらにどれだけの人が傷つき、放射線の影響を受け、後遺症で死んだり、その二次的影響にどれだけ長い間苦しんだりしたか、はかり知れません。
大規模な核戦争が来れば、もう一つの核の被害がもたらされます。それは核の冬をもたらすでしょう。
私は、戦争が起こった場合の危険性について、それがもたらすかもしれない直接的な被害について話しているのです。
 限られた数の核兵器さえあれば十分です。インドやパキスタンといった、最も力のない核保有国のひとつが保有する程度の量で十分なのです。その爆発は、人類が生き残ることのできない核の冬を作り出すのに十分なものです。核の冬は8年から10年続くので、生存は不可能でしょう。 数週間もすれば、太陽の光も見えなくなってしまうでしょう。



May 5, 2023
jeffsachs.org

お金は世界を回る、そして世界は進歩する
Money Makes the World Go Round – And Development Succeed


By J.D.サックス


経済発展のための4つの投資

経済発展と貧困の解消の鍵は投資です。 国家は4つの優先事項に投資することで、繁栄を実現します。 
最も重要なのは、質の高い教育や医療など、人への投資です。 
次に、電気、安全な水、デジタルネットワーク、公共交通機関などのインフラです。 
3つ目は、自然を守る「自然資本」です。 
そして4つ目は、企業への投資です。 
これらすべてに重要なのはファイナンスです。必要かつ十分な規模とスピードで投資すること、そのための資金を動員することです。

投資の対象となる世界は一つ、原則はWin-Winだ

原則的に、世界は相互に繋がったシステムとして運営されるべきです。
教育、医療、インフラ、ビジネス資本が充実している富裕層は、人的、インフラ的、自然的、ビジネス資本の整備が急務である貧困層に十分な資金を供給する必要があります。お金は豊かな国から貧しい国へ流れるべきです。 
新興国が豊かになれば、その利益や利子は、やがて投資のリターンとして豊かな国々に還流していきます。 

これは、Win-Winの提案です。 豊かな国も貧しい国も利益を得ます。
貧しい国は豊かになり、豊かな国は自国の経済に投資するよりも(コストが低い分)高い利益率を得ることができます。

なのに、不思議なことに、国際金融はそうはしません。 豊かな国は、主に豊かな経済圏に投資します。 貧しい国々は、貧困から脱却するのに十分ではない、ほんの少しの資金を得るだけです。

世界の最も貧しい半分(低所得国と低中所得国)は、現在、年間約10兆ドルの資金を生産しています、
 一方、世界の最も豊かな半分(高所得国と高中所得国)は、約90兆ドルの資金を生産しています。
豊かな半分から貧しい半分への融資は、おそらく年間2~3兆円になるはずです。しかし実際には、その数分の一に過ぎないのです。

投資の偏りはなぜ生まれるのか…カントリーリスク

問題は、貧しい国への投資はリスクが高すぎると思われていることです。 短期的に見れば、たしかにそうです。 
例えば、ある低所得国の政府が、公教育資金を調達するために借金をしようと考えたとします。教育への投資は経済的リターンは非常に大きいのですが、その回収には20〜30年かかります。
現代の子どもたちは12~16年の学校教育を経て、ようやく労働市場に参入するからです。 
しかし、現在の融資期間は平均5年くらいで、しかも自国通貨建てではなく米ドル建てであることが多いのです。

ある国が今日20億ドルを借り入れ、5年後に返済するとします。 
5年後、政府がその20億ドルをさらに5年ローンで借り換えることができれば、それでいいのです。 5年ごとに5回借り換えることで、借金の返済は30年遅らせることが出来ます。
その頃には、経済が十分に成長し、新たな融資を受けなくても借金を返済できるようになっているはずです。 

しかし、その途中のある時点で、国は債務の借り換えが困難になる可能性があります。しかもかなり高い確率で。 

パンデミック、ウォール街の銀行危機、選挙の結果をめぐる紛争などが投資家を脅かし、還流を促すかもしれません。 その結果、20億ドルの借り換えをしようとしても、金融市場から締め出されることになるかも知れません。 
手元に十分な資金がなく、新たな融資も受けられないまま、債務不履行となり、最後はIMFの緊急治療室に収容されることになるかも知れません。

何故貧しい国がリスクを負わなければならないのか?

多くの救急病院がそうであるように、その後に起こることは、見ていて楽しいものではありません。 
政府は公共支出を削減し、社会緊張を高め、外国債権者との交渉が長期化することになります。こうしてこの国は深刻な財政・経済・社会危機に陥ってしまうのです。 

それを事前に知っているムーディーズなどの信用格付け会社は、その国に "投資適格 "以下の低いスコアをつけることになります。その結果、貧しい国々は長期的な借り入れができなくなります。 
政府は長期的な投資をする必要があるのに、短期的な融資しか受けられない。その結果、政府は短期的な思考と投資に追い込まれます。   

また、貧しい国々は非常に高い金利を支払っています。
米国政府は国債を発行するのに30年の借入で年4%以下の金利を支払います。これに対し、貧しい国の政府は5年の借入しか出来ず金利も10%以上支払うことが多いのです。 

IMFは、貧しい国の政府に対して、あまり借りないようにとアドバイスしています。 
つまり、IMFは、将来の債務危機を避けるためには、教育(や電気、安全な水、舗装された道路)を見送ったほうがいい、と政府にアドバイスしているのです。 
これは悲劇的なアドバイスです! それは、貧困から脱出するのではなく、貧困の罠にはまることを意味します。 

状況は耐え難いものとなっている 

世界の貧しい半分は、豊かな半分から言われています。
エネルギーの脱炭素化、国民皆保険、教育、デジタル化社会の実現、熱帯雨林の保護、安全な水と衛生の確保、などなど。 
しかし、豊かな半分はなぜか、10%の金利で5年間の融資を受けながら、これらすべてを実行せよと迫るのです! 

問題は、世界最高の目標にあるのではない。目標は手の届くところにあります。しかしそれは、十分な融資があればの話です。問題は、グローバルな連帯感の欠如なのです。 

貧しい国々が必要としているのは、もうちょっと多くの資金であり、4%の30年ローンです。10%以上の5年ローンでは辛い。   
単純に、有り体に言えば、貧しい国々は、グローバルな金融アパルトヘイトの終焉を求めているのです。 

低開発ゆえのリスクを減らす二つの方法

そのためには、2つの重要な方法があります。 
第一は、世界銀行と地域開発銀行(アフリカ開発銀行など)による融資を5倍程度に拡大することです。 
これらの銀行は、30年、4%程度で借りることができ、その有利な条件で貧しい国々に融資することができます。 
しかし、その規模はあまりにも小さい。 
世銀と地域開銀が規模を拡大するためには、G20諸国(米国、中国、EUを含む)が多国籍銀行に多くの資本を投入する必要があります。

第二の方法は、貸出条件の緩和です。信用格付けシステム、IMFの債務助言、借入国の財務管理システムの貧困国向け修正などがそれに該当します。 これらのシステムは、長期的な持続可能な開発に向けて再構築される必要があります。 
もし貧しい国々が5年ではなく30年の借金を可能にすれば、その間に金融危機に直面することはないでしょう。
より正確な信用格付けとIMFのより良いアドバイスに裏打ちされた適切な長期借入戦略が設定されれば、貧しい国々はより有利な条件でより多くの資金を利用できるようになるでしょう。 

主要国は今年、世界金融に関する会議を4回開催する予定です。6月にパリ、9月にデリー、9月に国連、そして11月にドバイで。 

大国が力を合わせれば、解決できます。終わりのない、破壊的で、悲惨な戦争をするよりも、そちらのほうが彼らの本当の仕事のはずです。  

了 (訳と中見出し SS)

紹介
East Asia Forum
23 May 2023

Sullivan’s speech sounds US retreat from free trade over China

サリバン演説、中国との自由貿易の停止を示唆


Author: James Curran, University of Sydney


以下紹介

ジェイク・サリバン国家安全保障顧問が4月下旬にワシントンで行った講演は極めて重要だ。その講演は米中関係、米豪関係について語られたが、事実上ほとんどが米中関係の今後の見通しに終止した。

アメリカは世界市場から撤退しようとしている

Sullivan

サリバンは演説の中で、「中産階級のための外交政策」を重視すると語った。
これは2016年にドナルド・トランプが叫んだ「米国の核心部が空洞化する」というアピールが、今もなお米国政治の大きな懸案となっていることを示している。それは現政権の、貿易、経済、国家安全保障の相互関係についての構想も示している。
サリバンはまず、バイデンの当選以降の諸事実を列挙した。
それによれば、米国は主要な貿易・経済分野において関与と規制を強めた。そのいっぽう国内産業政策を強化し、製造業とハイテク産業への支援を大幅に強化している。
一言で言えばトランプばりの『アメリカ・アズ・ナンバーワン』思想にもとづく経済の内向き化だ。
その結果、世界貿易機関(WTO)のルールに基づく国際経済秩序は支えを失い漂流している。それは強固な政治力を持たないオーストラリアにとって深刻な問題だ。

サリバンの「新しいワシントン・コンセンサス」?

バイデン政府は、経済的なパートナーシップとか、世界市場を機能させる調整役から身を引こうとしている。これについてのワシントンの専門家筋の反応は厳しいものだ。
著名な外交アナリストであるウォルター・ラッセル・ミードは次のように述べている。
最近の経済の方向づけは、際立った特徴を示している。それは第二次世界大戦直後を特徴づけていた米国経済システム、すなわち閉鎖的で強力に規制された戦時国家の経済システムへの回帰を目指すものである。

ブルッキングス研究所のライアン・ハスは、次のように述べている。
サリバンの演説は、米国が「国際経済の舞台でフィクサー機能を放棄しようとしている」ものだと見ている証拠だ。サリバンのスピーチは、このような傾向が米国の政治だけでなく、歴史にも反していることを示す。
サリバンの演説は、米国の主張が自国の政体の中で猛威を振るうだけでなく、自国の歴史に対して反論していることを示す。
サリバンの言う「新しいワシントン・コンセンサス」は、ビル・クリントン元大統領の貿易政策(北米自由貿易協定、WTOの創設、中国の加盟など)を真っ向から否定するものである。それはフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」のテーゼを火炙りにしようとしている。
1989年にベルリンの壁が崩壊し、自由民主主義と西欧資本主義が勝利したとフクヤマは主張した。そして「今必要なのは、その福音を、福音を持たない哀れな土地に広めることである」と述べた。

しかし、サリバンはいま、法と秩序の勝利についてではなく、資本主義の勝利がもたらした大混乱について話している。
ラリー・サマーズ元米国財務長官が言うように、「この政権は第二次世界大戦後に我々が築き上げた伝統とはやや異なる世界にいる。彼らはより多国籍でグローバルなやり方を好んでいる」
例えば米国は、CPTPPに参加する方向性を一切排除している。

(訳注:CP/TPPはComprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnershipの略。日本語では「TPPに関する包括的及び先進的な協定」。アメリカ抜きで調印されたTPPの実施を目指す協定である。平成30年 3月 8日 サンティアゴで署名)

対中国政策:縁切りからリスク回避への転換

この演説と4月下旬のイエレン財務長官の演説は、バイデン政権の中国政策のさまざまな切れ端をつなぎ合わせようとするものである。
彼らは、ワシントンが北京から「デカップル」縁切りするのではなく、「デリスク」リスク回避するのだと強調している。
二人とも、中国との対立を避け、協力すべき領域について提示している。
しかし、どちらもワシントンの反中国熱のエスカレートに真剣に挑戦しているとはいえない。
サリバンは、米国がしばしば口にする嘆きを同じように表現した。
「中国を国際経済の仲間入りをさせても、彼らの価値観は変わらなかった」
サリバンの演説は、「足元に火がついた」アメリカの中堅層の不満や不平を暗黙のうちに踏まえている。しかし、「米国の中産階級のための外交政策」が、台湾をめぐって中国と交戦する決意まで含むのかどうかまでは読み切れない。
また、2024年以降の将来の政権が、この自己本位の保護貿易と経済的孤立への道という構想をそのまま引き継ぐかどうかは不明である。

パートナー国関係の見直しと、抵抗する『同盟国』

サリバンの発言には他の疑問も生じる。たとえそれが明示的に取り上げられなかったとしてもだ。
ひとつは、米国の同盟国やパートナーも米国の示す方向に従うかどうかということだ。
サリバンが焚き火に放り込んだような新自由主義の貿易協定に、ほとんどの国がいまだにこだわりを持ち続けている。そして市場アクセスの削減ではなく、拡大を求めている。とりわけ死にかけたCPTPPを救った日本はそうである。
米国には同盟国やパートナーが存在する。その中にはサリバンの視野に入るものもあれば、そうでないものもある。サリバンが重視するのはEUだ。バイデンのインフレ抑制法には自動車産業保護主義が含まれる。その自動車産業保護主義にはEUが反発している。
それにもかかわらず、サリバンの声明は欧州連合が重要なパートナーとして含まれている。カナダも同じように重要なパートナーとして含まれている。

しかし韓国と日本はリップサービスしか受けていない。
そしてさらに、彼の演説は東南アジアへの風当たりが強い。それは、どちらか一方の側に近寄ることを避けたいという東南アジアの願望をいっそう強めている。
イギリスとオーストラリアは、AUKUSを巡ってこれだけの動きを呼んだにもかかわらず、米国の対外関係の主軸には含まれていない。
もしサリバンの発言が現実となって、オーストラリアが重要なパートナーから外れるようなことになれば、オーストラリアの経済的ニーズや目標に対する米国の関与は不確かなものになる。

米中の板挟みとなったオーストラリア

例えば次のようなオーストラリアの長所が指摘されるかも知れない。
リチウムやニッケルを輸出し、米国の兵器産業に資金を提供し、米国の武器輸出の市場となっている。また、太平洋地域、日本、韓国、東南アジアの一部で一定の影響力を持つ。
しかしオーストラリアは、米国の不快感を知りつつ、重要な資源と農産物をワシントンの敵である中国に輸出している。(それは米国自身も同様であるが、慰めにはならない)。
「ワシントン・新コンセンサス」から生じる貿易と安全保障に関するこれらの不安は、東京、ソウル、台北、そしてもちろん北京でも確実に検討されている。キャンベラでも、この問題を念頭に置いて、迅速に行動を起こすべきである。

…………………………………………………………………………………………………………

オーストラリアの支配層の動揺が率直に語られた記事である。ネオリベラリズムの波に乗って経済成長を遂げたオーストラリア支配層が、米中対決の強化の中で荒波に揉まれ、疎外感に打ちのめされているている姿が描かれている。
個別の事情を通り越して、米国がもはや世界の盟主たり得なくなる状況がやってくるかも知れない、それ以前に、対米従属路線のこれ以上の強化が破滅を招きかねないという危機意識があり、自立路線への転換が避けられないのではないかという予感が世界に拡散している感じが分かる。

今年に入ってから、もう一つの国際ニュースの世界では激動が始まっています。
20年前私たちは、ありもしない大量破壊兵器を口実とした「アメリカ帝国主義」のイラク侵攻に抗議して世界中で立ち上がりました。サッカー競技場のウェーブのように太陽の進行と一緒になって順番に、世界で1千万の人が集会とデモに参加しました。
その時人々は、迫りくる世界の危機に心を痛めるだけではなく、「もう一つの世界は可能だ」(Another World is Possible! )と、その後に必ずやってくるはずの明るい未来への期待に胸を躍らせていました。
その後20年、残念ながら期待された「もう一つの世界」は実現しませんでした。それどころか1%による収奪がさらに進行し、いまやグローバルなディストピアが実現したかのようにさえ見えます。その最たるインフェルノがウクライナ戦争でした。
しかしウクライナ戦争の1年、超富裕層の政治的、軍事的、金融的ツールとしての「アメリカ帝国主義」の内部崩壊が始まりつつあります。そしてその瓦礫の下から新たな世界の萌芽が見え始めています。まさに「もう一つの世界」は可能であるにとどまらず、その足音を響かせ始めているのです。

*それはすでに2年前、中南米で始まりました。キューバなどに押し込められた変革の力は、いまや南北アメリカ大陸での米帝国主義の経済的包囲と反共攻撃・暴力的介入を完全に打ち破りました。
*昨年からのウクライナ戦争がもたらした最大の変化は、アメリカ帝国主義の力の二大源泉の一つ、「経済制裁」が重大なほころびを見せたことです。最強の制裁対象国である中国とロシアが、資源と金融を巡って共同することで、西側諸国の金融封鎖に耐え切りました。最近では経済支配層さえ「ドル支配の黄昏」を認めるようになっています。
*欧米諸国以外の新興国・途上国は、慎重ながら、明らかにアメリカ帝国主義のイデオロギーである「人権と民主主義」から距離を取るようになりました。それは数次にわたる国連総会や人権理事会でのディベートに典型的に示されています。
*新興国・途上国は、アメリカの自分勝手な経済支配、資源収奪、金融脅迫に怯えながら暮らして来ました。その根源にドル支配があります。いまロシアの経験に見習いながら、人民元決済の組み込みによりドル支配から脱却しようという動きが広がっています。それは中国とロシアのブロック、BRICS機構の拡大、すべての非欧米諸国のパートナーシップという3つの流れに集約されつつあります。
*ここ1,2ヶ月の最も目覚しい変化は、中東情勢に現れています。イエメンの和平への動き、サウジとイランの関係正常化。OPEC+によるエネルギーシフト、そしてシリアのアラブ世界への復帰です。アラブの米国離れが可能だとすれば、それは政権が民衆の立場に寄り添うこと以外にありません。それが実現すれば、イスラエルも根本的な政策変更を余儀なくされるでしょう。
*これら米帝国主義からの離脱の流れは、欧州諸国にさえも広がりを見せています。今年の冬のエネルギーをどう確保するかをふくめて、欧州にはもはや切り札はありません。アメリカは本当に欧州のためを考えているわけではありません。それはノルドストリームのパイプライン爆破事件で明らかです。このままアメリカに従い続けるのなら、欧州は中国、ロシア、中東、アフリカなどすべての市場を失うことになるでしょう。
*最後に強調したいのは、米国自体でもネオコンの王朝が自壊しつつあることです。ネオコンは超富裕層の増加と歩調を合わせて成長してきました。世界中で我が物顔にのさばる彼らは、支配層の中でも孤立を深めつつあります。尻馬に乗って、自らデマゴーグに成り下がった商業メディアも、このままでは活路を失うことになるでしょう。

皆さん、これが2023年年央の世界の断面です。この断面は「もう一つの世界」へと向かう世界の流れが生み出したものです。それは平和の流れ、99%の非富裕層の流れ、すべての国の対等・多国間主義の流れ、法治主義の流れ、持続的発展を目指す流れが合流したものです。

この流れを目の当たりにすることが出来たこと、それを次の世代につなぐことができただけでも、長生きしてよかったと実感します。

133号の短信欄に掲載した国連人権理事会の採決結果が尻切れ状態になってしまいました。改めて、全文を掲載します。

Geopolitical Economy 
2023-04-06

世界の多数は制裁に反対、支持するのは米国と欧州のみ
国連人権理事会の採決

West vs the rest: World opposes sanctions, only US & Europe support them


By Ben Norton



リード

経済制裁は、経済戦争の手段であり、公式には国際法に違反する一方的強制措置とみなされている。
国連人権理事会で、圧倒的多数が一方的制裁を非難する決議に賛成した。強制措置を支持したのは、米国、英国、EU加盟国、グルジア、ウクライナだけであった。

以下本文

4月3日、国連人権理事会は、「すべての国に対し、一方的な強制的措置の適用、継続、執行、遵守をやめるよう求める」決議案を、賛成33国、反対13国で可決した。

この決議(A/HRC/52/L.18)は、「このような措置は国連憲章と国家間の平和的関係を支配する規範と原則に反する。よって、その排除を強く求める」と述べている。

この決議は、非同盟運動を代表してアゼルバイジャンが提出したものである。

投票の内訳を見ると、欧米諸国とそれ以外の国とがいかに鋭い対立を示しているかがよくわかる:

UN-Human-Rights-Council-sanctions-2023
図 The UN Human Rights Council vote condemning sanctions on 3 April 2023 (左クリックで拡大)

賛成(=制裁反対) 33カ国
反対(=制裁賛成) 13カ国
棄権         1カ国

決議文には次のように記されている。
「特定の国によって、圧力の手段として、このような政治的・経済的圧力を含む措置が一方的に適用され続けられることを強く非難する。特に後発開発途上国に対してである、 
特定の国による政治的・経済的圧力は、これらの国々の政策を歪め、自らの自由意志で政治、経済、社会システムを決定する権利を行使するのを阻止する結果となる」
これは、米国政府がキューバとベネズエラを封鎖し、社会主義政権を転覆させようとしていることを指しており、それが明らかに国際法に違反していることを意味している。

決議は以下のように付け加える。
「制裁は対象となる人々の人権に対する深刻な侵害を引き起こし、女性や青年、さらに子どもや高齢者、障害者に特に影響がある」
同文書は、過去の国連総会や人権理事会の決議、人権高等弁務官事務所による報告書などから多数を引用し、一方的な制裁の影響を非難した。

欧米による一方的な制裁の発動は、ここ数十年で急増している。
2021年末の米国財務省のレビューによると、同年に米国の制裁を受けた当事者は9,421件で、2000年に比べ933%という驚異的な増加を見せている。世界人口の3分の1以上が、制裁対象国に住んでいる。

The Tricontinental
APRIL 13, 2023

IMF発のウソの数々

So Much Lying from the International Monetary Fund


By Vijay Prashad



リード

Vijay Prashadは言う。「南半球の貧しい国々は新たな資金調達の手段を模索し始めた。本物の開発理論に基づいたプロジェクトを推進するためにはそれが必要だ」


本文

カマラ・ハリス副大統領の空手形

驚くべき報道が流れた。3月下旬にガーナを訪問したカマラ・ハリス米副大統領は、次のように発表した。

*米国財務省技術支援室が「2023年にアクラに常駐顧問を配置する」 
*財務省は常駐顧問を通じて中長期的な改革を立案し、その執行を支援する。
*これらの措置により、債務に持続可能性を持たせ、競争力のあるダイナミックな国債市場を支える。
ガーナはたしかに、この分野で大きな課題を抱えている。対外債務が360億ドル、国内総生産に対する債務比率が100%を超えている。

ロイター通信はこれについて、ガーナがバミューダを拠点とする金融アドバイザー、ラザードと代理人契約を結んだと報じた。ラザードはパリを拠点とするロスチャイルド社との協議に入る。ロスチャイルド社は、ガーナ最大の債権者である国際債権者グループの筆頭代理人である。

なんと有り難いことか、米国政府は、これらの裕福な債権者たちに、債務の一部を帳消しにする(いわゆる「ヘアカット」)、あるいは債務返済のモラトリアム延長を働きかけるのではなく、ガーナに「技術顧問」を提供したに過ぎないのだ。

IMF1

12月、ガーナはIMFの拡大信用枠を通じて、3年間で30億ドルを受け取る契約に調印した。その見返りとして、"国内資源動員の増加と支出の合理化 "を含む「広範な経済改革プログラム」を受け入れた。ガーナ政府は自国民に対して緊縮財政を行うことになった。

この合意の時点で、ガーナのインフレ率は54.1%まで上昇していた。2023年1月には、電気、水道、ガスと言った公共価格、そして住宅価格が1年間で82.3パーセントも上昇した。
世界銀行の試算では、ガーナの貧困率はすでに23.4%に達していた。 
貧困率の上昇は、電気・水道料金の値上げや食料品価格の上昇、それに消費税増税の累積的影響によるものであり、それは"わずかな増加 "にとどまると予測された。
国内債務の再編によってもたらされる公共支出の削減は、ガーナの約3,300万人のほぼすべての人々にとって「絶望」を意味する。

米国政府の「常勤常駐アドバイザー」に期待できることはなにもない。彼らが、永久的な債務危機事態と化したガーナ経済への評価をおこない、現実的な解決策を提示することはないだろう。
ガーナのユーロ債130億ドルのうち、かなりの部分を占めるのがユーロ債である。英国のAbrdnやAmundi、米国のBlackRockをはじめとする債権者がそれに該当する。彼らが事態解決の計画立案に当たって焦点とならないことは、最初から明らかである

中国はガーナの対外債務の10%未満しか保有していない。それなのに米国は、「中国のためにガーナ経済が破壊されつつある」と非難するのは安易な責任転嫁である。

ガーナのナナ・アクフォ=アドゥ大統領はハリス副大統領ににこう言った。
「アメリカでは(アフリカ)大陸での中国の活動に対して強迫観念があるようだ。しかしここではそんな恐怖感はない」

新植民地主義はアフリカを束縛し、我々はアフリカ開発の代替案を模索する

私たちの「三大陸」誌の最新号では、「生命か負債か:新植民地主義はアフリカを束縛し、我々はアフリカ開発の代替案を模索する」と題する記事を載せている。そこでは、永続的な債務危機に苦しむ国々への実践的な政策提案を行っている。
そこには
*累進的な税制の構築、*国内銀行インフラの改革、*IMFの債務緊縮の罠に代わる資金源の構築、*地域主義の強化などの提案が含まれている。

IMFや世界銀行というシステムが、自分たちの正統性から逸脱した国を容赦なく罰することを考えれば、わずか10年前といえども、このような政策は考えられなかった。
IMF2

今では、欧米に代わる開発資金源が到来しつつある。確かにそれは主に中国からだが、Global Southの他の国々からもやってきている。 
その結果、貧しい国々が、自主的な開発理論に基づいた独自の国家的・地域的計画を構築する可能性が開かれたのだ。
前号で書いた通り、 
「開発計画は、資金調達の機会を一度ならず数回にわたりとらえなければならない。 また、IMFの力の隙間を突いて、財政・金融政策を推進する必要がある。
そのようにしてアフリカの人々の抱える問題を解決することが計画の骨子となる。 それが裕福な債券保有者とそれを支援する欧米諸国の要求に屈しないための条件である」
アフリカ政治経済共同体(CAPE)が発表した「IMFは絶対に答えではない」と題する声明から、私たちの資料の根拠となる原則が生まれた。
この声明は、「競争ではなく協力を促進する新しい種類の制度的装置」の必要性を指摘した。その中には「米ドルをバイパスする通貨制度の確立」も含まれている。

なぜ、脱ドル化がこれほど重要なポイントなのか。この問いに対して、米国上院議員マルコ・ルビオほど明確な洞察を示した人物はいない。
彼は言った「5年後には制裁について話す必要はなくなる。ドル以外の通貨で取引する国が多数となり、我々には制裁する能力がなくなるからだ」

CAPE声明が指摘するように、ドルへの依存は米国による制裁を可能にするだけではない。それはなによりも「IMFの条件付けの強力なレバー」なのだ。
また声明は、「アフリカ国家の開発課題を実現するためには、そのための能力と自律性を回復し、再活性化することが急務である」と指摘している。これには、国家が税収を動員し、その資金を自国民の尊厳を築くために使う能力を高めることが含まれる。
現代における開発を考える場合、まずは各国の主権を尊重した新しい形の開発資金調達を図らなければならない。それとともに、資金調達における国家機関の役割ももう一度考えなければならない。

世界銀行とBRICS銀行(新開発銀行)

4月中旬の世界銀行総会では、シティグループとマスターカードの元幹部であるアジャイ・バンガ氏が総裁に任命される予定となっている。1946年に初代総裁が任命されて以来、14人目の米国人総裁となる。

バンガは開発の世界での経験がない。商業銀行の前は、米国のファーストフードフランチャイズ「ピザハット」と「ケンタッキーフライドチキン」のインドでの立ち上げに携わっていた。

一方、BRICS銀行と呼ばれる新開発銀行は、新総裁にブラジルの前大統領であるディルマ・ルセフ氏を選出しました。ルセフ氏は、ブラジルの絶対的貧困撲滅プログラムにおける豊富な経験をもって、BRICS銀行にやってくる。
民営化という宗教を推進するバンガ世銀新総裁とは異なり、ルセフ氏は、所得移転プログラム「ボルサ・ファミリア(家族手当)」や社会保護プログラム「ブラジル・セミセリア(極貧のないブラジル)」といった強固な国家政策に取り組んできた。新しい職場ではこれらの経験を生かすことになる。

資料にもあるように、BRICS銀行の出現は、南半球の他の機関とともに、すでにIMFや世界銀行に圧力をかけ始めている。
とりわけ
*新自由主義的な債務緊縮モデルの押し付けは無限定なのか、そこには限界があるのか。
*政府が国家の主権と住民の尊厳を高めるためには、最低限資本からの独立と、資本への規制とコントロールが必要だが、そのための新たなツールは必要なのか、
などに関して意味のある回答を求めている。

『始まりのための長い道のり』

10年前、ナイジェリアのミュージシャン、セウン・クティがアルバム『始まりのための長い道のり』というアルバムを発表した。その中に「IMF」という曲がある。

この曲はIMFの政策を痛烈に批判したもので、ジェローム・バーナードが監督したビデオでは、アフリカのビジネスマンが買収され、最後にはゾンビになってしまう。その過程を通してIMF批判が展開されている。

ミダス王が物に触れると、金に変わる。IMFが人に触れると、人はゾンビになる。
この論文の図は、Seunのミュージックビデオのイメージに基づいている。この曲は催眠術のようだ。

ピープルパワー
IMFは嘘ばかりだ
ピープルパワー
IMFはこれだけ盗む
ピープルパワー
IMFはこれだけ殺す
ピープルパワー
IMFはだまし続ける
ピープルパワー
IMFは脅し続ける
ピープルパワー
IMFは犠牲を押し付ける
ピープルパワー
………………………………………………………

Vijay Prashadは、インドの歴史家、編集者、ジャーナリストです。Globetrotter の執筆者兼通信員。LeftWord Booksの編集者であり、「三大陸」研究所の所長である。中国の重陽金融研究院上級研究員。





geopoliticaleconomy
2023/04/06

世界各国が米ドル価値を引き下げようと動いている:
中国、ロシア、ブラジル、ASEANの脱ドル化 

Countries worldwide are dropping the US dollar:
De-dollarization in China, Russia, Brazil, ASEAN

By Ben Norton


リード

世界各国が米ドル覇権に代わる通貨を求め、世界的な脱ドル化の動きが活発化している。
中国、ロシア、ブラジル、インド、ASEAN諸国、ケニア、サウジアラビア、UAEなどでは、現地通貨を使った貿易が始まっている。

以下本文

世界各国が米ドルの覇権に代わる通貨を求め、世界的な脱ドル化の動きが活発化している。
中国とロシアは各自の自国通貨で取引している。北京とブラジルも二国間貿易でドル使用を減らしている。
UAEはフランス企業を通じて、中国にガスを人民元で売っている。
ASEANの東南アジア諸国は、貿易を脱ドル化し、地域独自の決済システムを推進している。ケニアは自国通貨でペルシャ湾の石油を買っている。
経済メディアの総本山、、フィナンシャル・タイムズ紙でさえ、「多極化した通貨世界」が出現しつつあることを認めている。

中ロ経済が、もう一つの世界経済の基軸に

3月に習近平主席がモスクワを訪問した際、プーチンは、二国間の貿易の3分の2がすでにルーブルと人民元で行われていることを明らかにした。
Xi-Putin-meeting-China-Russia-Moscow-2023-1536x864

プーチンは言った。"二国間貿易で自国通貨がますます使われるようになることが重要だ。自国通貨での決済を引き続き推進するべきだ。そして、両国の市場における金融・銀行機構の相互的なプレゼンスを強化する」
さらに「我々は、ロシア連邦とアジア、アフリカ、ラテンアメリカとの取引に中国人民元を使用することを勧める」と付け加えた。

UAEの自立傾向とオイルダラーの回避

習近平がモスクワを訪問した1週間後、中国は初めて人民元を使ってUAEから液化天然ガス(LNG)を購入したと発表した。この契約は、中国海洋石油公司とフランスのトタルエナジー社の間で交わされたもので、欧州企業が人民元での取引に本格的に乗り出していることを意味する。
フランスのメディアRFIは、この取引を「北京はガス・石油の取引における『ペトロダラー』としての米ドルを弱体化させようしており、その試みの大きな一歩だ」と評した。

報道はさらに、上海石油天然ガス取引所のグオ・シュウ会長の言葉を引用した。彼は「これは多通貨による価格づけ、決済、国境を越えた支払いを促すものだ」と述べた。


ブラジル・ルーラが描く経済自立の展望

3月30日、中国とブラジルが、互いの自国通貨である人民元とレアルで貿易することで合意した。2つの国は世界で最も人口の多い国と6番目に人口の多い国である。

中国のメディアネットワークCGTNは次のように報じた。

「"世界第2位の経済大国 "中国と "中南米最大の経済大国 "ブラジルが、直接の貿易・金融取引を行うことになった。ドルを介さず人民元とレアルの直接交換を目指す」

中国はブラジルにとって最大の貿易相手国であり、2022年には両国は1505億ドル以上の貿易を行った。左派のルーラ大統領は、ラテンアメリカが地域貿易のための新しい通貨発行を呼びかけており、これを「Sur」と呼んでいる。

中国とブラジルによる貿易合意の2日前、ディルマ・ルセフ前ブラジル大統領は上海で新開発銀行(NDB)総裁に正式に就任した。NDBは通称BRICS銀行。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国が、米国主導の世界銀行に代わる銀行として設立した。

ディルマはルーラの盟友、ブラジル労働者党の左派に属する。2022年の演説で、ディルマは米中対立は「2つのシステムの対立」であり、新自由主義と社会主義の闘いであると分析した。そして米国の制裁と「ドル覇権」を非難し、ラテンアメリカが「モンロー・ドクトリンと決別する」ことを呼びかけた。

東南アジア諸国の脱ドル化と中国への接近

*東南アジア全体の動き

東南アジアの国々も脱ドル化を進めている。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の財務相と中央銀行総裁が28日、インドネシアで会合を開いた。ニュースサイト「ASEAN Briefing」によると、会議の最大課題は「金融取引において米ドル、ユーロ、円、英ポンドへの依存度を下げ、現地通貨での決済に移行するための議論」であった。
同ニュースによれば、2022年11月にASEANは、地域貿易で現地通貨を使用できるようにする、国境を越えたデジタル決済システムを開発することで合意したと述べている。

*インドネシアの動き

同メディアは、インドネシアの中央銀行が現地での決済システムの構築も計画していると付け加えている。インドネシアのジョコ大統領は、地方行政に対し、地元銀行が発行するクレジットカードの使用を開始し、外国の決済システムの使用を徐々に停止するよう促した。ジョコ大統領は、ウクライナ紛争をめぐる米国+EU+同盟国のロシアへの金融制裁を引き合いに出し、インドネシアは地政学的な混乱から身を守る必要があると強調した。
インドネシアは、アメリカに次いで地球上で4番目に人口が多い国である。

*マレーシアの脱ドル化への挑戦

もう一つの東南アジアの国、マレーシアも脱ドル化を公に提唱している。マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は3月31日、北京で中国の習主席と会談した。そこでは米ドルの覇権を弱め、「アジア通貨基金」を創設する計画が話し合われた。これは、ドルを世界の基軸通貨として確立した1944年のブレトンウッズ会議から生まれた、米国主導の国際通貨基金(IMF)に対する正面からの挑戦である。
アンワルは、中国海南省で開催されたボアオ・フォーラムで、「アジア通貨基金」の創設を提案した。
1200x-1

アンワル構想についてブルームバーグが報道している。
その記事では、アンワルが「マレーシアがドルに依存し続ける理由はない」語っている。
同メディアは、マレーシアの中央銀行が、東南アジアの国が自国通貨であるリンギットを使って中国と取引できるように、決済メカニズムを開発していると付け加えた。
Bloombergはこう指摘する:
マレーシアの指導者のコメントは、シンガポールの元政府関係者が議論してからわずか数ヶ月後のことだ。シンガポール関係者はこう問いかけた。
「ドル高によって自国通貨が弱体化し、経済政策の道具と化すリスクを我々は負っている。このリスクを軽減するために、ASEAN地域の経済は何をすべきなのか」
食料品の純輸入国であるマレーシアをはじめとするアジア諸国にとって、ドル高は頭の痛い問題である。"経済的国家戦略 "とは、わが身に降りかかるかも知れない「経済戦争」の遠回しな言い方である。米国が国際法に反して地球上の国々に課してきた一方的な制裁が裏目に出ている
(キューバ、北朝鮮、イラクのフセイン政権、セルビア、リビアのカダフィ政権、イラン、シリア、ベネズエラ、ニカラグアetc、そしてロシア)
多くの国が、自分たちが次の標的になることを恐れて、金融面での代替策を模索しているのである。

米金利引揚げの影響を世界が負わされている

いま、米国連銀(FRB)が絶えず金利を引き上げているため、ドルが強くなりすぎて他国の通貨を傷つけ、輸入品を高くしている。
米国の同盟国であるインドでさえ、脱ドルへのヘッジを図っている。ロイターによると、ロシア最大の国営企業ロスネフチが、同じ国営企業であるインド石油会社と、ドバイ価格ベンチマークを使用する売買契約を結んだ。
ロイターは次のように書き進める。「これまでの通常の石油価格は、欧州が支配するブレントベンチマークにより決められて来た。これを放棄する決定は、ロシアの石油販売のアジアへのシフトの一部である。ロスネフチのセチンCEOは2月、アジアがロシアの石油の最大の買い手となったことから、ロシアの石油価格は欧州以外で決定されるだろうと述べた」

原油価格: 「北米」「欧州」「アジア」の3種類がある。北米の指標原油はWTI、欧州は北海ブレント原油、アジアはドバイ原油。ロシアは欧州に追随してきたが、制裁開始後にドバイにシフトした。

そればかりではない。アフリカ大陸のいくつかの国も脱ドル化を提唱している。3月、ケニアはサウジアラビアとUAEの国有企業と、同国の現地通貨シリングを使って、信用取引で石油を購入する契約を結んだ。アフリカ諸国は、必須だがより高価な輸入品の代金を支払うため、ドル準備高が不足しがちである。

世界有数の新聞社であるフィナンシャル・タイムズは、3月の記事で、こうした動きが歴史的なものであることを、控えめな表現で認めた。それは「多極化する通貨世界」への移行の一部であると()。
フィナンシャル・タイムズ紙の編集委員長で米国担当編集者のジリアン・テットは、「米国の銀行の混乱、インフレ、迫り来る債務上限争いがドルベースの資産の魅力を低下させている」と書いている。
彼女は、BRICSという言葉を最初に広めた元ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニールが「ドルはグローバル金融においてあまりにも支配的な役割を果たしている」と述べていることに言及した。
とはいえ、それが非欧米諸国によるドル支配の拒否であることは認めていない。

Financial Times
MARCH 31 2023

Currency wars: Prepare for a multipolar currency world

通貨戦争: 通貨多極世界に備えよ



by Gillian Tett 

リード

今月、ロシアと中国がワシントンで新たな動揺を巻き起こしている。その主な理由は、両国がウクライナを巡って南側諸国との間に外交的結束を固めたことにある。
先週、習近平がモスクワを訪問した際にも、「通貨」の話題があった。プーチンは、「ロシアとアジア、アフリカ、中南米の国々との間の支払い」でドルに代わって人民元を採用することを公約した。
モスクワは中国との貿易で人民元の利用を拡大するだけでなく、すでに中央銀行の外貨準備高人民元を組み込んでいる。それは、「有毒」な米国資産へのエクスポージャーを減らすためである。

これは重要なことなのだろうか?

最近まで、ほとんどの西洋の経済学者はこう答えていただろう。「とんでもない」(heck, no!)
なぜなら彼らは、ずっとこう考えてきたのである。
中国の資本勘定があまりにも閉鎖的であり、そのことが、通貨「元」の普及を妨げていると。しかし、今、そのような言い方は影を潜めている。プーチンの発表は、エコノミストたちに異常な精神的ショックをもたらしている。
その理由のひとつは、米国の経済支配力の弱体化にある。
*今月起きた米国銀行業界の混乱、*依然収まらないインフレ、*迫り来る債務上限を巡る混乱…。それらの結果、ドル建て資産の魅力が低下しているという懸念が根底にあるためだ。
自由主義右派の経済学者ピーター・シフ氏は今週書いた。「ドルはまたもや銀行救済の資金調達のために引き下げられようとしている」
そしてアメリカの右派に広く見られる意見と同じ不干渉主義を主張した。
一方、ジム・オニール(Bricsという言葉を提唱したゴールドマン・サックスの元エコノミスト)は今週論文を発表し、「ドルはグローバル金融において、支配者としての役割を果たしている。それはあまりにも包括的にすぎる」とする、新興国リスクの削減を呼びかけた。

しかし、米国にはそんなことを言っている余裕があるだろうか

習近平がモスクワを訪問する前、すでにサウジアラビア政府が中国への石油輸出の一部を人民元建てで請求することを発表している。フランスでは初の人民元建て液化天然ガス販売が行われ、ブラジルでは中国との貿易の一部に人民元が採用されている。このような報道が立て続けに拡散していることも、ドルの独占支配に対する不安を煽る要因となっている。
たしかに今現在、このような形だけのジェスチャーで、ドル高に打撃を与えるような兆候はまったくない。しかし、しかし国際金融の流動化は着実に進んでいる。世界の外貨準備に占めるドルの割合は、1999年の72%から最近では59%にまで低下している。これは、各国中央銀行が投資資金の多様化を進め、導入資金への通貨ペグを破棄しているためである。
また、各国中央銀行のデジタル通貨がホールセール(銀行間取引)にまで波及すれば、理論的にはこの多様化はさらに加速される。その背景には各国中央銀行がドル以外の通貨で直接取引することを容易にしていることもある。

ドルは依然、圧倒的に強い しかし…

とはいえドルは依然として債券市場を支配している。その結果、海外で保有されるドルの量は今世紀に入って急増している。昨今の議論で見過ごされている肝心な事実がある。国際金融研究所のチーフエコノミスト、ロビン・ブルックスが最近指摘している。最も重要な事実、それは「ドルがG10および新興市場通貨に対して記録的な強さを保っている」ことである。
最近の銀行危機でも、多くの世界の投資家がドル紙幣を手に入れようとしたため、連邦準備制度理事会は他の中央銀行と連日スワップ・プログラムを行った。
ジョージ・メイソン大学メルカトス・センターの研究員、デビッド・ベックワースはこの動きを次のように見る。
「このようにドルスワップ枠の利用を強化することは、一見国際化の波及に見えるが、それは皮肉にも、世界のドルシステムのネットワーク効果をさらに強化することになる」
アメリカの財政問題を考えると、ドルは、美人コンテストで優勝するには値しないかも知れない。しかし不美人コンテストに登場するほどのものでもない。多くの投資家は、非常に醜い為替世界の中では最もマシな選択肢だと考えている。 
なぜならユーロや人民元の資本市場は根が浅く、狭く、ネットワーク効果が弱いからだ。

ネットワーク効果: ネットワーク効果(network effect)とは、利用者が増えるほど、製品の価値に加えサービスのインフラとしての価値が高まること。ネットワーク効果で優位に立てば利用者はさらに爆発的に増加する。 https://makitani.net/shimauma/network-effect

しかし、これでプーチンの脅威を完全に無視できると結論づけることはできない。その前に、 昨年発表された「貿易インボイシングに関する示唆に富む調査結果」(経済政策研究センター)を見ていただきたい。

インヴォイス制度の粘着性(stickiness)に疑問符

10年前、IMFのギタ・ゴピナス副代表は「ドルには、それを支えるもう一つの要因がある。それはインボイス制度の粘着性(stickiness)である」と主張した。それはいままで常識だった。
しかし現在、この考えは徐々に変化している。中国の貿易が拡大するにつれて、「粘着性」を振り切るように人民元の使用量も増加している。
CEPRはこのことに関連して次のように述べている。
「これは中国の資本勘定開放度が低いことを考えると、驚くべきことである。従来の常識とは逆に、資本勘定が閉鎖的であることが人民元の国際化の決定的障害となるとは限らない。今後、人民元の基軸通貨としての役割が拡大する可能性は否定できない」

貿易インボイス制: 貿易取引の現場では「送り状」と呼ばれることもある。インボイスには3つの役割がある。国内では3つの書類に分かれるが、貿易取引ではインボイスに一元化。
①納品書(輸出者、輸入者は誰か)。②明細書(荷物がどこからどこへ、誰から誰に送られるか)、③請求書(内容物、価格、数量など)。https://lab.pasona.co.jp/trade/word/558/


すでに2000億ドルのオフショア人民元市場が出現している

このオフショア通貨は、中国の対外貿易や支払い、請求書発行や決済に使用され、すでに清算や支払いの世界的なネットワークになっている。
CEPRは、今後数年のうちに、オニールが予想した「通貨多極化型の世界」が出現する可能性があると予測している。しかし、それはプーチンや習近平が望むほど劇的な変化ではないし、ワシントンの警戒論者が恐れるような変化でもないだろう。

経済政策研究センターCEPR ): 経済政策を専門とする左派のアメリカのシンクタンク著名な 貢献者には、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ スティグリッツロバート ソローが含まれる。

私の考えでは、これは中期的には賢明な選択である。それが単に多極化の一パターンにすぎないとしても、米国の政策立案者には衝撃となる可能性がある。なぜなら米国が必要とする対外資金は無限だからだ。

投資家も政策立案者も、今後数ヶ月間は貿易請求書の詳細について注視する必要がある。
プーチンのハッタリは無力化し、政権の命は風前の灯火になるかもしれない。

終わり(訳:SS)


2023-02-25
GeopoliticalEconomy

マハティール、第三次世界大戦を予言

Ukraine conflict ‘caused by Europeans’ love of war, hegemony’,
says Malaysia’s ex leader


Mahathir-Europe-Ukraine-war-hegemony-1536x864


By Ben Norton

リード
マレーシアの最も長く首相を務めた最年長の元首相マハティール・モハマッドは次のように言った。
「現在のウクライナとロシアの戦争は、ヨーロッパ人の戦争好き、覇権好き、支配好きによって引き起こされている。それはすでに第三次世界大戦の始まりとも言える。欧米の対ロシア制裁により、世界は供給不足に追い込まれ、それに耐えなければならなくなった」
マハティール氏は、次のように付け加えた。「東アジアにおける無責任な挑発にも米国は責任を負っている。台湾に武器を提供し、米国の最高幹部ナンシー・ペロシを派遣し分離主義勢力を支援した。

以下本文
マハティールは1981年から2003年まで、そして2018年から2020年まで再びマレーシアを率いた。マハティールは、欧米の新自由主義経済と「ワシントン・コンセンサス」を長年にわたって批判してきた。彼は、帝国主義が資本主義に根ざしていることを強調してきた。
マレーシアの元指導者は、米国が台湾をめぐって中国との戦争を誘発しようとしていると非難している。

2月24日のツイッター発言の全文は以下の通り:

以下引用
私はこの記事を書くことを躊躇している。私はロシア人に味方していると非難されるかもしれない。しかし、そうではない。
現在のウクライナとロシアの戦争は、ヨーロッパ人の戦争好き、覇権好き、支配好きの連中が引き起こしたものだと思う。
ロシアは、第二次世界大戦の対独戦争において西ヨーロッパ諸国(アメリカ、カナダを含む)のパートナーであった。しかしドイツが敗れた瞬間、西側諸国は自分たちのパートナーであったロシアを「次の新たな敵だ。だから、ロシアとの戦争に備えなければならない」と宣言した。
そして、ロシアに対抗する軍事同盟を結ぶためにNATOが設立された。これに対抗して、ロシアはワルシャワ条約機構を立ち上げた。こうして冷戦が始まった。
その結果、世界は西と東のどちらかを選ばなければならなくなった。
ロシアがワルシャワ条約機構を解体し、ソビエト連邦の国々がロシア本国から離脱した後も、NATOは解散しなかった。
それどころか、ロシアの覇権から解放された国々は、ロシアの敵としてNATOへの加盟を促された。東欧の旧社会主義共和国がNATOに加盟し、ロシアに対する直接的脅威が高まった。ロシアは弱体化したのに、ロシアに対する圧力は強まった。
そんな中で、ロシアは軍事力を再構築し、単独で強力な西側同盟に立ち向かう事になった。NATO軍がますますロシアに接近して、演習を行った。このため緊張が高まった。挑発されたロシアは、ウクライナへの侵攻で先手を打とうとした。
その侵攻は、第三次世界大戦の始まりと解釈しても不自然ではない。核兵器を使うという話も出ている。すでに世界は、ロシア制裁の跳ね返りによるエネルギー不足、ロシアの報復による物資不足を我慢しなくてはならなくなった。
極東での挑発もある。米国の高官が台湾を訪問したことで、中国と台湾の緊張が高まった。どちらも重武装化している。アメリカは台湾に多くの武器を売り、中国はより好戦的になった。
マレーシアですら物資不足とインフレに見舞われている。いまや各国が「プランB」を準備する必要に迫られている。なぜならこれは第三次世界大戦の始まりかもしれないからだ。
(プランB: contingency planとも呼ぶ。非常時に備えた計画
以上

注意:これは私訳であり試訳です。恣意訳のところもあります。カタカナを減らすよう努力しましたが、専門用語が多いため誤訳もあると思います。引用はご遠慮ください。

MFA China
2023-02-21 11:12

The Global Security Initiative Concept Paper



Ⅰ.背景

安全保障の問題は、あらゆる国の人々の幸福、世界の平和と発展という崇高な大義、そして人類の未来に関わるものである。

今日、私たちの世界、時代、歴史はかつてないほど変化しており、国際社会は、これまでにないいくつものリスクと課題に直面している。

地域的な安全保障の焦点はくすぶり続けている。地域紛争や混乱は頻繁に起こっている。COVID-19のパンデミックはなお続いている。一国主義と保護主義の機運は著しく高まり、伝統的・非伝統的な安全の脅威はたがいに絡み合っている。

平和、開発、安全保障、ガバナンスの欠落(deficits)は拡大し、世界は再び歴史の岐路に立たされている。

課題山積の時代。しかし、同時に希望に満ち溢れた時代でもある。私たちは、平和、発展、相補の協力という歴史的な流れは止められないと確信している。
世界の平和と安全を守り、世界の発展と繁栄を促進することは、すべての国の共通の追求であるべきだ。

中国の習近平国家主席は、国際安全保障イニシアティブ(GSI)を提唱した。そして各国が連帯の精神で対処すること、根底から変化しつつある国際情勢に適応し、複雑で絡み合った安全保障上の課題に、ウィン・ウィンの考え方で対処することを呼びかけています。

GSIは、国際紛争の根本原因を排除し、国際的な安全保障ガバナンスを改善すること、不安定で変化する時代にさらなる安定と確実性をもたらすための国際的な共同努力を推進すること、そして,世界の堅固な平和と発展を促進することを目的としています。


II. 核心となるコンセプトと原則

1. 留意(stay committed):共通した、包括的で、協力的かつ持続可能な安全保障という展望に向かい前進する

2014年、習近平国家主席は、共通、包括、協力、持続可能な安全保障のための新しい構想を提起した。それは国際社会から広く認められ、支持されている。
この新しい安全保障ビジョンの本質は、共通の安全保障という概念を提唱することである。
まず全体的なイメージとしては、すべての国の安全保障を尊重し、保護することである。
この安全保障構想の本質は、新たに提唱された“共通の安全保障”(common security)の概念にある。
「共通の安全保障」においてはすべての国の安全保障が尊重され、保護される。
伝統的域と非伝統的領域の両方で安全を維持する、全体的なアプローチを目標とする。
また、安全保障機構を強化するために協調する。
政治的対話と平和的交渉を通じて安全保障を実現する。このための枠組み作りをめざす。
そして、開発を通じて社会・経済不安の温床を摘み取っていく。それによって紛争を根絶やしにする。このような生活の安全保障こそが持続可能な安全保障である。
私たちは、安全保障が道徳、正義、正しい考え方に裏打ちされたものであるよう目指す。それによってこそ、強固に確立され、持続可能な安全保障となると信じている。

2. 留意:すべての国の主権と領土の一体性を尊重する

民族自決権の平等と内政不干渉は、国際法の基本原則である。それは現代の国際関係を支配する最も基本的な規範である。
 私たちは、大小、強弱、貧富の差にかかわらず、すべての国が国際社会の平等な一員であると信じている。
国家の内政は外部からの干渉を許さず、その主権と尊厳は尊重されなければならない。また、社会システムと発展の道を独自に選択する権利は支持されなければならない。
民族自決に基づく独立と平等は支持されなければならない。すべての国が権利、規則、機会の面で平等を享受できるよう努力しなければならない。

3. 留意:国連憲章の目的と原則を遵守する。

国連憲章の目的と原則は、2つの世界大戦の苦い教訓に対する世界中の人々の深い反省を具現化したものである。
これらは、人類の集団安全保障と恒久平和のために設計された制度である。
今日、世界で起きているさまざまな対立や不正は、国連憲章の目的と原則が古くなったからではなく、それらが効果的に維持・実施されていないために起きている。
私たちは、すべての国に対して、真の多国間主義を実践することを求める。
私たちは、国連を中核とする国際システム、国際法に裏打ちされた国際秩序、国連憲章に裏打ちされた国際関係の基本規範を堅持する。
そして、国連の権威と地位を堅持することである。それは国際的な安全保障制度の主要なプラットフォームとしての条件である。
冷戦的な考え方、大国主義、ブロックに分かれての対立、覇権主義は、いずれも国連憲章の精神に反するものである。それらは抵抗・拒否されなければならない。

4. 留意:どの国も安全保障上の懸念があるだろう。懸念が正当であれば真剣に受け止める。

安全保障の観点からすれば、人類は不可分な共同体である。
ある国の安全保障が他の国の安全保障を犠牲にすることがあってはならない。安全保障上の利益という点ではすべての国が平等である。私たちはそう信じている。

すべての国の正当かつ合理的な安全保障上の懸念は、真摯に受け止められ、適切に対処されるべきである。無視されるようなことが続いたり、制度を理由に議論を拒否されたりしてはならない。
いかなる国も、自国の安全保障を追求する一方で、他国の合理的な安全保障上の懸念を考慮すべきである。
私たちは、個人と全体の安全、伝統的・非伝統的な安全、安全保障の権利と義務、安全と開発の間の不可分性を提唱する。そしてこのような「不可分な安全」の原則を支持する。
普遍的で相互に共通する安全保障を実現するためには、バランスのとれた、効果的で持続可能な安全保障体制が構築されなければならない。

5. 留意:対話と協議を通じて、国家間の相違や紛争を平和的に解決する。

戦争や制裁は紛争の根本的な解決にはならず、対話と協議のみが相違の解決に効果的である。
我々は各国に対し、戦略的コミュニケーションを強化し、相互の安全保障上の信頼を高め、緊張を拡散させ、相違を調整し、危機の原因を根本から除去するよう求める。
(Strategic communication:多分、安全保障戦略の相互のすり合わせ)

主要国は正義を守り、対等な立場で協議を支援し、関係国の意思に照らして平和のための協議を促進し、善処し、調停しなければならない。

国際社会は、危機の平和的解決のためにあらゆる努力をはらい、紛争当事者が対話を通じて信頼を築き、紛争を解決し、安全を促進することを奨励すべきである。

一方的な制裁やロングアーム司法権を乱用することは、問題の解決にはならず、さらなる困難と複雑さを生み出すだけである。
(遠距離管轄権:ある国の司法が他国在住の被告を自国の法で裁く権利。治外法権の逆概念)

6.留意:伝統的・非伝統的な領域の双方において、安全保障を維持する

今日の世界では、安全保障の概念も拡大している。安全保障はより相互に関連し、国境を越え、多様化している。
これに伴い、伝統的な安全保障の脅威と非伝統的な安全保障の脅威は、相互に絡み合うようになってきている。
我々は、すべての国が国際調整機関における広範な協議、共同貢献、利益共有の原則を実践し、地域の紛争やテロ、気候変動、情報安全保障、生物学的安全保障などの国際課題に取り組む。
(global governance:この場合は国際紛争を解決するための法的調停システム)
持続可能な解決策を見出し、安全保障の国際的調整を促進し、安全保障上の課題を予防・解決するために、複数のチャンネルを探っていく。
それらのための解決法を開発し、関連ルールを改善していくための協調的な努力が必要である。

7.小括

これら6つのコミットメントは相互にリンクし、相互に補強し合っている。それは弁証法的に一体となった有機的な全体である。
これら6つのコミットメントは相互にリンクし、相互に補強し合っている。それは “弁証法的” に一体となった有機的な全体である。
その中では、共通、包括的、協力的、持続可能な安全保障という展望が、概念的な指針となっている。 
それらを一つの言葉にまとめると次のようになる。
まず、すべての国の主権と領土保全を尊重することが大前提である。ついで、国連憲章の目的と原則を遵守することが、第一の基準である。さらに、すべての国が抱く正当な安全保障上の懸念を真剣に受け止めることは重要な原則でありる。対話と協議を通じて国家間の相違や紛争を平和的に解決することは必須の選択である。
そして最後に、伝統的な領域と非伝統的な領域の両方における安全保障の維持は、固有の要件である。


III. 協力とその優先順位

すべての国が平和で安定した対外環境を享受し、国民がその権利を十分に保障され、幸福な生活を送ることができるようにする。
そのために恒久的な世界平和を実現することは、私たちの共通の願いである。

同じ船に乗る乗客のように、各国は連帯して、人類が安全保障を共有する共同体を育み、恐怖がなく普遍的な安全を享受できる世界を築く必要がある。 
これらの平和構想を実現するために、中国は、国際安全保障イニシアティブ(GSI)の枠組みの下で、すべての国や国際機関・地域機関と二国間・多国間の安全保障協力を行い、安全保障概念の調整と利益の収束を積極的に推進する用意がある。
中国は、すべての当事者に対し、相互学習と相互補完を追求し、世界の平和と平穏を共同で促進することを望む。そのために、以下のような側面において、他国との協力を実施することを求める:

1.「平和のための新たなアジェンダ」への参加

国連事務総長による「平和のための新たなアジェンダ」や「私たちの共通アジェンダ」で提示されたその他の提案の策定に積極的に参加する。
紛争予防を強化する国連の取り組みを支持し、平和構築アーキテクチャを十分に活用し、紛争後の平和国家の構築を支援する。
中国・国連平和発展信託基金の事務総長平和安全予備基金(the Secretary-General’s Peace and Security Sub)をさらに活用し、安全保障問題における国連の役割をより大きくするよう支援する。

国連が平和維持の任務を遂行するための能力強化を支援する、
 平和維持活動の三原則である「当事者の同意、公平性、自衛と任務の防衛を除く武力の不行使」を堅持する、 
政治的解決を優先し、症状と根本原因の両方に対処するために全体的なアプローチをとる。
平和維持活動に十分な資源を提供する。アフリカ連合(AU)が自律的な平和維持活動を行うために、十分かつ予測可能で持続可能な資金援助を提供することを支持する。

2. 主要国間の関係強化

主要国間の協調と健全な交流を促進し、平和的共存、全体的安定、均衡ある発展を特徴とする主要国関係を構築する。
主要国は、国際的な平和と安全の維持という重要な責任を担っている。主要国に対し、平等、誠実、協力、法の支配を尊重し、国連憲章および国際法を遵守する上で、模範となることを要請する。
相互尊重、平和的共存、互恵の協力を堅持し、非紛争・非対立の原則を堅持し、違いを留保しつつ共通の基盤を求め、違いを調整する。

3. 核の安全を確保

「核戦争に勝つことは決してできない。決して戦ってはならない」というコンセンサスを堅持すること。
2022年1月に核兵器保有5カ国の首脳が発表した「核戦争の防止と軍拡競争の回避に関する共同声明」を順守する。核戦争のリスクを低減するために、核保有国間の対話と協力を強化する。
核兵器不拡散条約(NPT)に基づく国際的な核不拡散体制を守り、非核兵器地帯の確立に向けた関連地域の国々の努力を積極的に支援する。
核の安全に関する国際協力を推進し、公正かつ協力的で互恵的な国際核保安システムを構築する。

4. 大量破壊兵器とBC兵器その他について

第76回国連総会で採択された「国際安全保障の文脈における平和的利用に関する国際協力の促進」決議を完全に実施する。
国連安全保障理事会1540委員会、化学兵器禁止条約(CWC)、生物兵器禁止条約(BWC)などの枠組みによる協力を実施する。大量破壊兵器の完全禁止と徹底的な破壊を推進する。不拡散輸出管理、バイオセキュリティ、化学兵器に対する防護などの分野において、すべての国の能力を向上させる。

世界の通常兵器管理のプロセスを支持する。
アフリカの意思を尊重することを前提に、小型武器・軽兵器管理に関する中国、アフリカ、欧州間の協力を支持する。アフリカ連合による「銃声の聞こえぬ大陸を」運動の実施を支持する。
人道的地雷除去に関する国際協力・援助を積極的に行い、能力の許す限り、被害国に援助を提供する。

5. 地域紛争の解決のために

国際的および地域的なホットスポット問題の政治的解決を促進する。 関係国が率直な対話とコミュニケーションを通じて、相違を克服し、地域紛争を解決することを奨励する。
内政不干渉の前提の下、国際社会が地域紛争の政治的解決に建設的に参加することを支援する、 
公正さと実用性を基本姿勢とし、主に和平交渉の促進という手段を通じて、症状と根本原因の両方に対処する道を探る。ウクライナ危機などの地域紛争の対話と交渉による政治的解決を支援する。

6. 東南アジア諸国との協力

ASEANを中心とした地域安全保障協力の仕組みとアーキテクチャを支持・改善し、ASEANの合意形成と互いの快適なレベルを受け入れるという方法を堅持する。地域諸国間の安全保障対話と協力をさらに強化する。
「ランカン江・メコン協力」(LMC)の枠組みの下で、非伝統的安全保障分野における協力を促進する努力を支持する。LMC特別基金の下で関連協力プロジェクトを実施し、地域の平和と安定を共同で守るための地理情報システムのパイロット地域となるよう努力する。

7. 中東の平和と安定のために

中東の平和と安定の実現に関する5項目の提案(相互尊重の提唱、公平と正義の堅持、不拡散の実現、集団安全保障の共同促進、開発協力の加速を含む)を実施し、中東の新たな安全保障の枠組みを共同で確立する。

中東諸国が対話を強化し、関係を改善し、すべての当事者の安全保障上の懸念を受け入れ、地域の安全を守る内部勢力を強化する。アラブ諸国連盟(LAS)その他の地域組織を支援するための前向きな機運と努力を支援する。

 国際社会は、パレスチナ問題の公正な解決を早期に実現するために、パレスチナ問題の2国家間解決を進めるための実際的な措置をとり、より大規模でより権威と影響力のある国際平和会議を招集すべきである。

8. アフリカの平和と安定のために

AUその他の地域機構の安全保障への努力を支持する。アフリカ主導のテロ対策活動に財政的・技術的支援を提供する。さらにアフリカ諸国が独立して平和を守る能力を強化するよう支持する。
アフリカの問題にアフリカの方法で取り組むことを支持し、アフリカの角、サヘル、大湖地域等での地域紛争の平和的解決を促進する。
「アフリカの角の平和と発展に関する展望」を積極的に実施し、「平和・統治・発展のための会議」の制度化を推進し、協力プロジェクトの立ち上げに積極的に取り組む。

9. ラテンアメリカの平和と安定のために

ラテンアメリカ・カリブ海諸国が、「平和地帯宣言」に記載した約束を積極的に履行することを希望し支援する、 
そして、ラテンアメリカ・カリブの地域機関が、平和と安全を守り、地域の紛争地域を適切に処理するために積極的な役割を果たすことを支持する。

10. 太平洋島嶼国

気候変動、自然災害、公衆衛生に関する太平洋島嶼国の特別な状況と正当な懸念に高い関心を払い、その努力を支援する。「青い太平洋大陸のための2050年戦略」の実施を支援する。
島嶼国が非伝統的な安全保障上の脅威に対処する能力を向上させるために、資材、資金、人材の提供を増加させる。

11. 海洋及び国境河川の安全

海上の対話と交流、実務協力を強化し、海上のトラブルを適切に処理する。海賊や武装強盗を含む海上の国際犯罪に協力して取り組み、海上の平和と静穏、シーレーンの安全を共同で保護する。
国境を越える河川の上流国と下流国に対し、国際協力に積極的に取り組み、対話と協議を通じて関連する紛争を解決する。国境を越える河川における船舶の安全を確保し、水資源を合理的に利用・保護し、国境を越える河川の生態環境を保護するよう呼びかける。

12. 強化:国際テロへの対処

世界的なテロとの闘いにおける中心的な調整役としての国連の役割を強化すす。
国連総会および安全保障理事会のテロ対策決議と国連国際テロ対策戦略を完全実施し、国際社会を支援する。 
安全保障理事会が指定したすべてのテロ組織と個人を共同で取り締まる。
発展途上国のテロ対策能力を高める必要がある。このため、より多くの国際テロ対策資源を途上国に提供すること。

テロを特定の国、民族、宗教と関連付けることに反対する。
新興技術が世界のテロとテロ対策に与える影響が強まっている。それに関する研究と対応を強化する。

13. 情報保安分野における国際協力を深化させる

中国は「情報保安に関する世界基準作り」を提唱している。すべての当事者の意思を反映し、利益を尊重するデジタル管理に関する国際規制を策定するよう呼びかける。
情報保安に関する中国・LAS協力計画と中国・中央アジアのデータ保安についての協同計画を実行し、様々なサイバー脅威に共同で対処し、開放と包摂、正義と公正、安全と安定、活力と活力を特徴とする情報空間の国際管理システムの確立に取り組む。

14. バイオ領域の保安とリスク管理の強化

バイオセキュリティ・リスク・マネジメントを強化する。
責任あるバイオ科学研究を共同で提唱し、すべての関係者が自主的に「科学者の行動規範のための天津バイオ研究保安ガイドライン」を広げていく。
研究所のバイオ保安能力の構築を共同で強化し、バイオ保安上のリスクを低減し、バイオ工学の健全な発展を促進する。

15. 情報技術に関する保安

中国は、人工知能(AI)及びその他の新興技術に関する国際安全保障ガバナンスを強化し、潜在的な安全保障リスクを予防・管理する。そのため軍事的応用の規制やAIの倫理的規制の強化に関する「基本的見解」を発表している、 
そして、AI保安管理に関する国際社会との情報交流を強化し、幅広い参加による国際的なメカニズムの確立を促進する。
そのため広範な合意に基づく管理機構、基準、規範を開発する用意がある。

16. 宇宙空間における国際協力

宇宙空間における国際協力を強化し、宇宙空間における国際秩序を保護する。
国際法に基づき宇宙空間での活動を行い、軌道上の宇宙飛行士の安全と宇宙施設の長期的かつ持続的な運用を確保する。
宇宙空間を平和的に利用するすべての国の平等な権利を尊重し、これを確保する。
宇宙空間における兵器化と軍拡競争を断固として拒否し、宇宙空間における軍備管理に関する国際的な法的手段について合意を形成する。

17. 保健医療と安全保障

世界保健機関が公衆衛生における国際的管理において主導的な役割を果たすことを支援する、 
COVID-19やその他の主要な世界的感染症に共同で対応するために、世界的な資源を効果的に調整し動員する。

18.  食料・エネルギー安全保障について

世界の食料・エネルギー安全保障を守る。国際農産物貿易の円滑な運営を維持し、安定した穀物生産と円滑なサプライチェーンを確保する。
食料安全保障問題の政治化・武器化を回避するため、行動調整を強化する。
国際的なエネルギー政策の協調を推進し、エネルギー輸送を確保する。そのため安全で安定したエネルギー環境を作り、世界のエネルギー価格の安定を共同で維持する。

19. 国際犯罪への対策

国連の国際組織犯罪防止条約を完全かつ効果的に実施すること。
すべての国に対し、国際犯罪と闘うための国際条約、条約、協定の締結・参加、制度的取り決めを奨励する。
国連の国際薬物統制3条約を支持し、国際薬物統制システムを保護し、国際社会における協調、責任の共有、相互の誠実な対応を実現する、薬物問題がもたらす課題に共同で取り組み、薬物の害のない人類共通の未来を持つ共同体を構築する。
各国の主権を尊重した法執行協力を積極的に行い、法執行能力と保安能力を共同で向上させる。
開発途上国のために、自国の安全保障上のニーズに対応したより多くの法執行官を養成するためのグローバルな研修システムの確立を支援する。

20. 持続可能な開発の展開に伴う持続可能な安全保障の推進

気候変動への対応、安定的で円滑な供給・産業チェーンの維持に向けた各国間の協力を推進する、 
持続可能な開発にともない持続可能な安全保障を促進する。このために、国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施を加速させる。


IV.  協力のための基礎と構造

1. 国連機関を中心とすること

総会、関連する国連委員会、安全保障理事会、関連機関、その他の国際・地域機関において、平和と安全に関する広範な議論と意思疎通を行う。
また、安全保障上の課題に対処するために、国際社会の合意を得るための共通の計画や提案を、それぞれの委託に基づいて行う。

2. アジア地域の協力機構

安全保障協力を段階的に実施する。また、類似または同一の目標を達成することが必要である。このために上海協力機構、BRICS協力、アジア交流・信頼醸成措置会議、「中国+中央アジア」メカニズム、東アジア協力の関連メカニズムなどの役割を活用する。
また、湾岸地域における多国間対話プラットフォームの構築を促進し、アフガニスタン周辺国外相会議や中国・角アフリカ平和・ガバナンス・開発会議などの調整・協力メカニズムの役割を発揮させる。

3. 国際安全保障イニシアチブ(GSI)に関する機構・組織

GSIに関するハイレベルな会議を順次開催し、安全保障分野における政策発信を強化する、 
政府間の対話と協力を促進し、安全保障上の課題に対処するための国際社会における相乗効果をさらに促進する。

4. 国際対話プラットフォーム

中国・アフリカ平和安全保障フォーラム、中東安全保障フォーラム、北京向山フォーラム、世界公共安全保障協力フォーラム(連雲港)及びその他の国際対話プラットフォームが、安全保障に関する交流と協力の深化に貢献することを支援する。
政府、国際機関、シンクタンク、社会組織がそれぞれの利点を生かし、グローバルな安全保障ガバナンスに加わる。このための新たなプラットフォームを提供する。より多くの国際安全保障フォーラムの設立を推進する。

5. 非伝統的安全保障の領域での能力向上 

非伝統的安全保障の領域における管理能力を向上させる観点から、テロ対策、サイバー保安、バイオ保安、新興技術などの分野における安全保障上の課題への対応に関する交流と協力のための国際基準と仕組みを構築する。
大学レベルの軍事科学、警察機関などの交流と協力をさらに奨励する。
中国は、グローバルな安全保障問題に対処するための専門家を育成するために、今後5年間で5,000件の研修機会を他の発展途上国に提供する用意がある。

終わりに

GSIは、開放、包摂の原則に則りすべての関係者の参加を歓迎する。そして共同して豊かな明日を実現したいと望む。そのため、相互協力の新たな形態と分野を積極的に模索する。
中国は、平和を愛し、幸福を希求するすべての国や人々とともに、あらゆる種類の伝統的・非伝統的な安全保障上の課題に取り組む。
地球の平和と平穏を守り、人類のより良い未来を共同で創造し、平和の松明が世代から世代へと引き継がれ、世界中で輝き続けるよう、取り組むつもりである。

以上


DemocracyNow
MARCH 07, 2023
Economist Joseph Stiglitz on How War, COVID & Climate Crisis
Cause Economic Crises Around the World


はじめに

国連事務総長は、富裕層が自分たちの利益のために世界経済を操作していると非難しました。
本日は経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏に、戦争、パンデミック、気候変動がいかに世界中で経済危機を引き起こしているかについてお話を伺います。
またFRBによる金利引き上げは、すでに借金に苦しんでいる南の国々にとって借入コストの上昇を意味します。それは「南半球」の状況を悪化させています。
スティグリッツはノーベル賞受賞の経済学者で、コロンビア大学教授、経済諮問委員会の前議長です。現在、ルーズベルト研究所のチーフエコノミストでもあります。最新刊は「不満の時代の進歩的資本主義」というタイトルです。

AMY GOODMANによる背景説明

COVID-19が急速に世界中に広がり、世界の多くが機能停止してから約3年、ロシアがウクライナに侵攻してから1年余りが経ちました。パンデミックと戦争という2つの出来事は、世界経済を大きく変貌させました。一部の人々は富を急増させたが、何十億もの人々が苦しんでいます。
今週初め、国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、カタールのドーハで開催された後発開発途上国首脳会議の開会式で演説しました。
ウクライナ戦争によるエネルギーと食料の価格高騰を受け、生活費の危機は日に日に厳しくなっています。さらに、紛争、干ばつ、飢餓、極度の貧困の影響が加わり、貧困と不公正を永続させるのに格好の大風となっています。私たちはこの大嵐を終わらせなければなりません。
この嵐を終わらせるためには、大規模かつ持続的な投資が必要です。後発開発途上国は大規模な財政・経済支援を必要としています。私たちはみな、それらの国が支援に値することを認識しなければなりません。
みなさんの国にとって、極度の貧困の撲滅と飢餓の終焉をはじめとする「持続可能な開発目標」を推進することは、“2030年につながるグラフ”の線以上の意味を持ちます。それは生死に関わる問題なのです。あなた方がそこから引き返したり、どこか遠い国の話だと割り切るのは受け入れがたいことです。
引用ここまで

世界経済の現状について、ノーベル賞受賞の経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏をお招きしてお話を伺います。彼はコロンビア大学の教授で、経済諮問委員会の前議長です。現在、ルーズベルト研究所のチーフエコノミストでもあります。
Democracy Now!にお帰りなさい、ジョーさん、歓迎します。ご一緒できてうれしいです。
 今はとてもとても難しい時代です。国際的な経済危機、高騰するインフレ、切り下げられた通貨、そして壊滅的な債務危機に直面する世界中の国々を見て、国連事務総長が語った、今日の世界の危機についてフォローアップしていきたいと思います。それではまず世界の状況についてお聞かせください。

JOSEPH STIGLITZ: 状況はおっしゃる通りです。

今、私が懸念しているのは次の点です。
問題は過剰な総需要ではないのに、FRBは金融政策、つまり金利引き上げで解決しようとしていることであり、それによって状況がさらに悪化していることです。
現在の問題は供給サイドの中断によるものです。そのために需要の転換が起きています。これは戦争やパンデミックといった、まさにおっしゃるような力によって引き起こされます。
そして、率直に言います。
金利の引き上げは、経済を減速させ、失業率を高めます。それは私たちが直面しているインフレに対処するための正しい政策とは言えません。

AMY GOODMAN: 今日と明日、FRBのパウエル議長が議会で演説や質疑応答を行っていますね。
あなたは激しい批判をする人ですね。

JOSEPH STIGLITZ: その通りです。彼らは診断を間違えているのだと思います。
そのために、解決策は間違っているだけでなく、事態をさらに悪化させる可能性があります。
金利をゼロの水準から正常な水準に引き上げたのは、正しい行動でした。金利を正常化する必要があったのです。
しかし、金利を上げ続けることは、世界的に為替レートの切り下げにつながる効果をもたらしています。それは世界的な債務危機を悪化させることになる。
すでに債務超過に陥っている国では、返済がさらに困難になるでしょう。
しかし、それは国際的に見た話です。今は米国に話を戻します。米国におけるインフレの主な原因の1つは住宅です。
住宅分野において、金利を上げるとはどういうことなのか。それは住宅への投資を減少させ、問題をさらに悪化させます。
今はどういう環境なのか。それは供給側の反応が遅れていること、そして需要の内容が変化しているところに特徴があります。だから住宅関連分野にはより多くの投資が必要です。
しかし、パウエルの反応は、投資を減らすことだけです。

JUAN GONZÁLEZ: 私から一つ質問です。経済学に詳しくない人のために、なぜ金利の上昇は、特にグローバル・サウスにとって不利なのか教えて下さい。
世界の他の地域から投資資金が米国債に逃避することは分かります。その上で、米国への資金還流が、南の国々の債務や通貨価値にどのような影響を与えるのでしょうか。

JOSEPH STIGLITZ:  資金が他の国々を離れ、米国やドルに向かうと、ドルの価値が上がり、自国の通貨の価値は下がります。
それはそれだけの話しですが、問題は、彼らが借りたお金です。それは圧倒的にドル建てです。
だから、海外で稼いだお金も、国内で稼いだお金も、借りたお金に比べれば価値が低くなってしまいます。彼らが支払うのはますます難しくなります。
第二に悪いことは、通貨の価値が下がるだけでなく、支払わなければならない金利が高くなることです。
第三に悪いことに、ドル金利の上昇が意図するところは、世界経済の減速にあります。そのため、輸出に大きく依存しているこれらの国々は、販売できる製品量が減ることになります。
自国の経済の価値が下がるのです。国内金利も高くなる。
だからIMFや世界銀行は、債務危機を警告しています。
FRBが今やっていることは、世界的な債務危機をより悪化させる危険性を高めています。このまま行けば、貧しい国々はさらに貧しくなっていくでしょう。

JUAN GONZÁLEZ: ウクライナ戦争がもたらしたもうひとつの影響についてお聞きします。
ここ数十年、新自由主義の支持者たちは、自由貿易こそが世界経済の発展の鍵であると主張してきました。
しかし、今おっしゃったように、COVIDでのサプライチェーンの問題やウクライナ戦争によって、自由貿易を前提としたロジスティックの欠陥が一気に露呈しました。
世界のどこからでも商品を手に入れることができる経済システム下において、企業のほとんどがジャストインタイム生産を行っています。
パンデミックだけでなく、ウクライナ戦争が世界に与える影響も高まっている今、自由貿易の未来はどうなるのでしょうか。

JOSEPH STIGLITZ: あなたは、過去40年間にうまれた新自由主義と呼ばれる経済システムの主要な問題点を指摘しています。
まず第一に、それは近視眼的なものでした。
2008年の世界金融危機は、貧しいアメリカ人に融資した銀行が搾取、収奪を行いました。さらにクレジットカードの乱用、過剰なリスクテイクなどが引き起こしたものです。
しかし、このようなやみくもな行動には、「石油やガスが数十円でも安く手に入るなら、リスクに関係なくやってみよう」という考え方もありました。

私は2006年に自著で、ヨーロッパがロシアのガスに依存するようになったのは愚かだったと書きました。それは近視眼的でした。
プーチンはエネルギー源を扱う人物として信頼できませんでした。
残念ながらその予想は的中し、ウクライナ侵攻の後、ヨーロッパはエネルギー危機に直面することになりました。
つまり、新自由主義は市場に対して近視眼的であったということです。それを私たちは学びました。
もう一つ、ジャスト・イン・タイムの在庫生産システムは、私たちの経済を硬直した不自由なものにしてしまいました。
パンデミックの経済的影響は、この市場経済における根本的な誤りによって増幅されたのです。
さらに炭素と気候変動の問題があります。私たちはいつも、市場は炭素をただだと仮定して成り立っています。そのため、過剰な汚染に手を染めてしまうのです。
しかし、市場は経済に伴うリスクもないものと仮定して動いています。

だからいま、世界経済システムのあり方を見直すことになったのです。
 皮肉なことに、これは自由貿易を支持していた、たとえば共和党の側でも進行しているのです。
超党派のインフレ抑制法案、それからCHIPS法…、これらはいずれもWTOの基本ルールを無視して、アメリカ企業を優遇し、アメリカ生産を復活させようとするものでした。
米国内だけ見れば、これらは良い政策かもしれないが、国際貿易の規範に反しています。
ということで、私たちは世界の国際秩序を根本から考え直し、再定義しなければならないのです。

JUAN GONZÁLEZ:  中国と米国の緊張の高まりが世界経済、特に貧困層に与える影響についてお聞きしたいと思います。
最近、習近平国家主席が、米国は中国を包囲し、封じ込めようとしていると主張する声明を発表しています。さらに、先週、中国外務省が発表した声明は異常でした。
これは、中国が世界における米国の役割をどのように見ているかについての極めて批判的な概要となっています。
この声明では、米国は軍事的にも経済的にも、世界の暴力と不安定性の最大の原因であると主張しています。
この声明が、対中国強硬派の多くの人々に及ぼす影響をついて、どのようにお考えでしょうか。
とくに、中国が地球の製造業の中心地となったことを考えると、経済的影響は少なくないと思いますが。

JOSEPH STIGLITZ:  まず申し上げておきますが、そもそも私の最初の懸念は、皆が協力しなければならない地球規模の問題が数多くあることです。
私たちは地球温暖化の問題に取り組まなければなりません。私たちはパンデミックを乗り越えたところですが、ほとんどの疫学者は、再びパンデミックが起こる可能性があると信じています。
いつ起こるかわからないが、そのときは、必ず高いレベルの世界的な協力が必要になる。
ですから、このような両者の言葉のやり取りは、協力しなければならない分野での協力能力を低下させてしまいます。
いま双方が行っているような広範な攻撃は、私たちが必要とする協力的な行動をとることを難しくしています。
もちろん、中国が香港の民主派に対して行ったこと、ウイグル族に対する行為について、私たちは声を大にして批判しなければなりません。その点については率直に言うべきだと思います。
同時に、私たちはもっと的を射た対応をしなければならないと思っています。

中国が発展途上国に壊滅的な影響を与えたいくつかの政策についても指摘する必要があります。
中国は、そのお金に含まれる利回り(the returns)を適切に評価することなく、多くの国々にお金を貸してきました。時には汚職の疑いもある。
しかし、各国が債務困難を抱えたとき、中国は債務の再編に消極的でした。スリランカはその犠牲者になっています。
債務危機が現実になれば、債務再編が必要になります。その際は中国や欧米の民間セクターを含めた包括的な債務再編が必要になります。
欧米の民間企業は、中国よりはるかにひどい。無謀な融資や、時には腐敗行為にも手を染めていることが多い。
だから、私はこの問題で一方的に中国に指を向けるつもりはない。これは世界的な問題なのです。
債務再編は必要でしょう。そして、これらの国に貸し出される資金が、生産的な目的のために貸し出されることを確認する方法を持たなければならないのです。貸し手を豊かにするためとか地政学的な理由であってはなりません。

AMY GOODMAN:  あなたはかつて、『3兆ドルの戦争:イラク紛争の真のコスト』を書かれています。この戦争から20周年を迎えようとしています。
いままたウクライナで大規模な紛争が起きています。最近バイデンが中国に警告しました。「ロシアを軍事支援するな。それはレッドラインだ」
興味深いのは、ほぼ同時にブリンケン国務長官が、6億ドルの米国製武器を台湾に提供すると発表したことです。
このことについて、またこれら2つの紛争の比較、とくに世界経済との関わりについてお聞かせください。

JOSEPH STIGLITZ: 私たちは、イラク戦争とアフガニスタン戦争の教訓の多くが、いかに学ばれていないかということを議論してきました。
私たちが指摘したことのひとつは、あの戦争がいかに高価であったかということです。当時、私たちは3兆ドルと見積もっていました。しかし、今となっては、その額は明らかにそれを超えています。おそらく、5兆ドルというのが底値の見積もりでしょう。
しかし、アメリカ国民は、この戦争にはこれだけの費用がかかると聞かされていたわけではありません。
政府、国防総省が使用する会計システムは、真のコストを隠蔽するように設計されています。つまり特別予算があるのです。議会でさえ、これらの戦争にかかる包括的な費用全体を十分に議論することはありません。

私はウクライナを支援し、ロシアの侵略に抵抗することを強く支持します。

その上で、公共政策の問題として、次のことが重要だと思います。
 私たちは、より透明性を高め、より大きな説明責任を果たし、この戦争のコストと理由を十分に検討する必要があります。

JUAN GONZÁLEZ:  アメリカや世界で拡大している所得格差についてお聞きしたいと思います。

先生がよくおっしゃる重要なポイントの1つですが、所得格差は市場原理によるものではなく、政治指導者が採用した具体的な政策の結果だということです。
次の大統領選挙に向けて、議会は経済に関する政策について、より多くの決断を下さなければなりません。
国内の所得格差の是正だけでなく、世界中で深刻化する所得格差を是正するために取り組むべき重要な課題は何だと思われますか?

JOSEPH STIGLITZ: そうですね、よく聞いてくれました。
私はしばしば、不平等や貧困は選択の問題であり、人々自身の問題ではなく、不平等をもたらす政策の枠組みの問題であると書いてきました。
その素晴らしい例が、バイデン政権がパンデミックに対応するためにとった行動です。この1年間で子どもの貧困を推定40~50%削減することができたのです。
このようなことは、過去にいつでもできたはずです。子どもの貧困からの脱却に、巨大な効果を与える政策を採用することができたはずなのです。
貧困の中で育った子どもたちは、勉強できず、生産的で有能な市民になれません。私たちが今日行うことは、将来の経済や社会に影響を及ぼします。
例えば、パンデミック時に支給された特別な非常食が、2月に終了してしまったことが心配です。
その結果、その緊急食糧支援によって貧困から抜け出した何百万、何千万という子どもたちが、今また貧困に逆戻りするかも知れません。

AMY GOODMAN: SNAPのことですね。Supplemental Nutrition Assistance Program.

JOSEPH STIGLITZ: そうです。推定では、2021年の貧困ライン以上の420万人がそれらに依存していました。SNAPの緊急支援策を導入した州では、その効果で貧困が10%、子どもの貧困が14%減少したのです。
ですから、私たちは今、貧困を増大させるような別の選択をしていることを認識すべきです。
さらにいえば、そのような一連の行動を私は不合理だと思います。

同時に、先ほど、連邦準備制度理事会が金利を引き上げ、景気を減速させるという話を少ししましたね。すべて小手先の操作です。
FRBが何をしようとしているのか、はっきりさせましょう。FRBはそれについて少し詳しく話しています。彼らは失業率を上げたいのです。
失業率が上がるということは、何百万人もの人が職を失うということです。何百万人もの人々が貧困に陥ることになります。何百万人もの人々の人生が壊れる。教育も中断されるでしょう。
そしてそれは、人口の中でも特に特定のサブグループに影響を与えることになります。例えば、FRBが何気なしに言います。 
「失業率を5%程度にすることを目標にしている」
政府が失業率をもっと増やせと言ているのです。信じられますか?
マイノリティにとっては、失業率がその2倍になるということです。若者のマイノリティは、その4倍です。
つまりFRBは、これらのグループの失業率が20%を超えることをもとめているのです。
FRBが今やるべきは、政府や財政当局に対し、セーフティネットの改善や、失業者の訓練プログラムの改善など、できる限りのことをするよう求めることでしょう。
社会の不平等をこれ以上拡大させないために、貧困に苦しむ人々の数を増やさないために、何かをしようとするなら、金利の引き上げはこれらの救済措置を伴わなければなりません。しかし私はそういう言葉を一度も聞いたことがありません。

AMY GOODMAN:  学生ローンの免除の問題も最高裁で争われていますね。

JOSEPH STIGLITZ: その通りです。
そしてまた、"ああ、これは莫大なマクロ経済効果をもたらすだろう "と言う人がいます。それは間違いです。
私たちは数字を見てきました。インフレへの影響はゼロであることは明らかです。総需要への影響も非常に小さい。 理由は明白です。これは一生の借金なのです。
石から水を搾り出すことはできないので、その多くはいずれにせよ返済されることはないでしょう。
しかし、返済しようと思っても、年間の返済可能額は低く、借金を減額するために新たな借金をする気力も能力もありません。

ですから、現実に裁判所で起こっていることは、何百万人ものアメリカ人青年の首に借金の鎖をかけるということです。
結婚できるかどうか、家を買うことができるかどうか、車を買うことができるかどうかなど、人生のスタートに影響を与えます。自分の能力に見合った仕事を探すことすら妨げられています。
そういう意味では、結末ははっきりしています。
アメリカの若者の首の周りにはそのような負債が鎖となっていて、そのために国家の生産性が損なわれるのです。

JUAN GONZÁLEZ:  先日、「ラテンアメリカ・カリブ海地域政府間協議体」(CELAC:
THE COMMUNITY OF LATIN AMERICAN & CARIBBEAN STATES)の財務閣僚会議で、コロンビアのホセ・アントニオ・オカンポ財務大臣が発表した提案についてお聞きしたいと思います。
CELACは初めて税制サミットを開催することになりました。
このサミットによって、タックスヘイブンの悪用や、特にお金を隠すことで有名なカリブ海諸国の脱税に終止符を打つことができるとお考えでしょうか。

JOSEPH STIGLITZ:  オカンポの提案は非常に歓迎すべきことだと思います。また、各国間の反応は、非常にポジティブなものだと思います。たしかにそれは一歩に過ぎませんが、重要な一歩です。
これは、タックスヘイブンが企業を誘致したり、少なくとも利益がタックスヘイブンで生み出されたように見せかけることを難しくするものです。
とは言え、これは重要な一歩ですが、もっと多くのことを行わなければなりません。
グローバルミニマム税という提案が国際的になされていますが、これはあまりにも軟弱です。15%しかなかったのです。25%にすべきです。
多くの国が15%を超える最低法人税率を設定しています。この合意によって一部の国で実際に税率が下がることが懸念されます。
ミニマム税が当該国にとっては事実上マキシマム税になり、より多くの企業がその分税金を払わなくなるのではと心配しています。

AMY GOODMAN: ジョセフ・スティグリッツさん、ご登場いただきありがとうございました。時間がありませんので、インタビューを終わります。


Oxfam
January 23, 2023

スティグリッツが不平等の現状を評価する

Checking in with Joseph Stiglitz on the state of inequality


リード
ジョセフ・スティグリッツが、戦争による利益供与、格差の拡大を企む政治家、そしてさらに希望の源について語る。オックスファムのスタッフとの対話。
オックスファムの不平等に関する第10回年次報告書の発表に先立ち、スティグリッツと語る機会を得た。彼はグローバル化と不平等に関して語った。

Joseph_E._Stiglitz
___________________________________________

今年のオックスファムのダボス会議報告書について

聞き手B: オックスファムはダボス会議報告書を発表しましたが、富の蓄積に関するショッキングな数字が目につきます。食料品やエネルギー価格が高騰しています。経済的不平等はどの程度深刻なのでしょうか。

Stiglitz: 私はいつもみなさんの年次報告書を楽しみにしています。ズバッと物事が表現されています。
以前の報告書では、世界の富の半分を持つ全ての金持ちをバス一台に乗せることができると言っていました。その数年後には、バスは必要ない、ミニバンで十分だと言っています。それほどまでに格差が広がっているのです。
COVID-19以降、世界的な不平等が露呈しました。今それはますます悪化sしています。まさしく異常な事態です。オックスファムの「不平等報告書」は、富裕層批判に焦点をあてています。
彼らのために多くの人々が職を失い、食糧や原油の値上げに直面して、非常に困難な生活を強いられています。そんな時代において、富裕な個人・企業がいかに強盗顔負けに儲けたことか、それは衝撃的なことです。
富の増大はまさに驚異的です。Oxfamのレポートから数字を拾いましょう。
2020年以降に新たに生まれた富は42兆ドルに相当します。1%の富裕層は、その3分の2近くを握りました。これは世界人口の下位99%のほぼ2倍に相当します。まさに驚異的な数字です。
しかし、パンデミックとパンデミック後の世界は、事態をさらに悪化させました。私が最も怒りを覚えたのは、世界中の人々が原油価格の高騰に直面しているとき、石油会社やガス会社が何百億ドルもの大金を手にし、自社株買いや一時的な配当などに回していたことです。

このようなアコギな儲けに対して課税することで、富を共有しようという提案がなされました。その利益の源泉は、まずはウクライナでの戦争でした。
しかし、その「超過利益税」が提案されると、彼ら(企業)は「とんでもない」と猛反対しました。ヨーロッパのいくつかの国は「超過利益税」を実施していますが、アメリカではやっていません。

「アメリカ復興法」の素晴らしい一瞬

聞き手A: その通りです。ところで、今アメリカでは、事情が少し改善してきているのではないかという声があります。それにはどうですか?

Stiglitz: それについては、ちょっと話が入り組んでいます。
2021年、バイデンが就任してアメリカ復興法が成立した直後、素晴らしい一瞬がありました。1年間で子どもの貧困を40~50%減らすことに成功したのです。これは驚異的なことです。
それは、私が長い間言い続けてきたことを、事実でもって示してくれました。
不平等とは選択である。私たちは、その気になれば、いつでも子どもの貧困を40~50%減らすことができたのです。しかし、バイデン大統領のような人物と、パンデミックのような瞬間をともにしたからこそ、私たちはその選択の結果を共有できたのです。
しかしその後、共和党、民主党の一部さえも、「よし、もっと不平等にしてやれ」(let's have more inequality)と言ったのです。信じられません。
このようなやり方は、私たちの未来を危険にさらしています。なぜなら、貧困の中で育った子どもたちは、ものを生み出す力が低いからです。
また貧困は一方に不満をもたらします。不満は、政治や社会、経済にも悪影響を及ぼします。
私たちの社会で、多くの子どもたちが貧困の中で育つことは、愚かなことだと私は思います。
もうひとつ例を挙げると、私がひどいと思ったのは 、FRBが「失業率を上げたい」と言い続けてきたことです。彼らは「それは多くの痛みを伴うだろう」と続けます。
もちろん、彼らは痛みを感じることはないでしょうが...。
失業率を3.7%から5.1%に上げるというのは、一見小さなことのように見えます。それらはたんなる数字のように見えます。しかしそれは生身の人間なのです。
失業率を1.4%引き揚げるとしましょう。すると、社会の底辺の人々、たとえばアフリカ系アメリカ人の若者では、失業率は5.1%ではなく、20%程度になります。そうなったら、私たちの社会はどうなってしまうのでしょうか。

富裕層への課税は富裕層にとっても必要

聞き手A: 極端な不平等と戦うためにできる選択肢の1つは、超富裕層への課税です。
というのも、世界の議論は「金持ちに税金をかけるべきか?」という問いかけでしたが、今は「金持ちにどれだけ税金をかけるべきか」という具体的な議論に移ってきているように感じるからです。
興味深い歴史があります。かつて米国は世界で最も累進的な税制を採用していました。1950年代から80年代前半にかけては、高額所得者の所得税率は平均で80%を超えていました。
超富裕層への課税率はどれくらいが妥当だと思いますか? 特に今の時代の億万長者には?

Stiglitz:  億万長者の多くは気付くべきです。彼らがその富の多くを運から得ていることを。
たしかに彼らは何か積極的に動き、何かを作り出しました。でも同じようなことをした人はたくさんいたのではないでしょうか。例えば、FacebookやMySpaceがそうです。たくさんの企てがあって、そのうちのひとつが当たるという、宝くじみたいなものです。
「いいね!」をクリックするとランクが上がるというアイデアを思いついたことが、結果的に大きなイノベーションであったと言えるかも知れません。
しかしそんなことに500億ドル、1000億ドル、1500億ドルの価値があるのでしょうか?それは市場が決めた価格に過ぎません。
今度はイノベーターの立場になって考えてみましょう。
たとえばもし、1000億ドルを手にしたのに、50億ドルしか持ち帰られないとしたらどうでしょう。
私が思うに、50億ドルや100億ドル以上の富の大部分を取り上げても、彼らはそれをやり遂げたでしょう...。つまりこれらのイノベーションの原動力は市場にあるのではなく、創造しよう、成功しようという意欲なのです。
富裕層の富の源泉はもう一つあります。彼らのほとんどは、その富の何分の一かを他人の労働から得ています。時には市場そのものが合法的に取り立てることもあります。億万長者の中には、露骨に労働者を酷使し、嘘をつき、ごまかそおうとする人もいます。
ですから、エリザベス・ウォーレン(民主党進歩派の上院議員)が提唱している富裕税は非常に合理的な税制だと思います。
(この案では、最も緩い場合、500億ドル以上の収入に対し1%、最も重い場合は50億ドルに対して3%の税を課す)
そして、この国の問題を一部でも軽減できるようしなければなりません。それは本当に長い道のりを歩むことになるでしょう。
私は、事業家が事業を成功させることに反対しているわけではありません。社会がよりよく機能するように成功の分前を分かち合うのが願望です。

富裕税の最高税率は70%くらいが妥当

聞き手B: 確認したいのですが、具体的に最高所得者の限界税率についてです。過去には90%以上の税率が設定されたこともありました。今日、このようなパーセンテージは現実的なのでしょうか?

Stiglitz:  財政学のトップクラスの経済学者たちが、利害得失を慎重に検討した結果、このような計算がなされました。
課税を強化すれば、上層部の人々は少しばかり働きにくくなるかもしれません。しかし、その一方で、より平等でまとまりのある社会を実現することで、私たちの社会は利益を得ることができます。それがさらなる成長を促します。
ということで、労働所得については、70%の税率が合理的というのが、一般的なコンセンサスだと思います。もう少し高くてもいいかもしれませんが、あまり細かい議論は無意味でしょう。
しかし、ここで話しているのは、富裕税についての話でもあります。私の考えでは、富(資産)には所得よりもっと高い税率をかけるべきなのです。なぜなら富の多くは相続された富だからです。私の友人の一人は、これを「精子の宝くじ」と表現しています。
資産への課税税率は低すぎます。株式の配当への課税は最高でも20%の課税です。株の取引による利益(キャピタル・ゲイン)も低い税率しかかけられていません。さらにアメリカでは、資産を子供に譲れば、株式取引税はただです。まったくなんということでしょう。

中低所得国における富裕層をどう取り扱うべきか

聞き手B: 億万長者について考えるとき、私たちはトップの富の集中について考えます。たとえばイーロン・マスクやビル・ゲイツを思い浮かべます。しかし、このようなグローバル・ノースの白人男性だけでなく、低・中所得国でも富が極度に集中しています。
そこでお伺いしたいのは、先進国以外でも富裕税による格差改善は実現可能なのでしょうか?
中低所得国では対外債務が山積みになっています。北側諸国からは緊縮財政の推進が押し付けられます。財政が逼迫している以上、政府は緊縮財政に走るしかありません。緊縮政策は明らかにエリートが推し付けたものです。またIMFという巨大な支配的外部勢力によって推し進められたものです。
しかし、中低所得国において富裕税は緊縮財政の代替案となりうるのだろうか、どれだけの効果があるのでしょうか。富裕層への課税はどれくらいの効果があるのでしょうか?

Stiglitz:  ああ、莫大な範囲があると思います。まず国際社会がやらなければならないことは、途上国に作られた資産の隠し場所、タックスヘイブンを閉鎖することです。この存在のおかげで、どれほどの富が逃げ出していることか...。
次に中国やインドなど新興国の富裕層への課税です。そこでは、億万長者の数が凄まじい勢いで増えています。その気になれば、それらの国々は米国同様にビジネスマンに課税できます。
新興国では、多くの富が国をまたいだ「共同市場」によって生み出されています。それは発展途上国や新興市場における富の蓄積を促進するものです。同時にそれは隠れた汚職の温床です。
国は原理的に、国民がどこで所得を得ようと正当に課税することができます。タックスヘイブンに逃すようなことはしません。もちろん完璧にはできていませんが、もっと徹底するべきです。国際的な税捕捉能力は重要です。他の国にもさせてはなりません。

新植民地主義の残滓との戦い

聞き手B: タックスヘイブンについて考え、その国際的な解決の方向に話が進んできました。
これからは解決の土台となる「多国間主義」について話を伺いたいと思います。
コロナのパンデミックの際、ワクチンに関する議論が闘わされました。あなたはとても大きな力を発揮しました。このような多国間協議の場では、貧しい国々が議論から締め出され、挙句の果てに不利な条件を突きつけられるということが多々見受けられます。
このような新植民地主義的なスタイルがいまだに残っていることに、私は驚きを隠せません。どうすれば、この時代遅れのやり方を変えることができるのでしょうか?

Stiglitz: 本当に良い質問ですね。あなたの言うとおりです。税に関する包括的な枠組みを作ろうとする努力は、より一層進んでいます。
しかし、貧しい国々はその場にいるのですが、その声に耳が傾けられることはありません。会話は、貧しい国の声が事実上聞こえないようにして構成されているのです。OECDの税制改革に関するイニシアチブの結果を見ても、それがよくわかります。発展途上国がどれだけの追加資金を得ることになるのかさえ公表しなかったのです。その理由は、予備的な計算をしたところ、途上国が手にするのはあまりにわずかな金額だったからです。だから、あなたが尋ねた質問「それをどう変えるか?」は正しいのです。
新しい地政学が生まれつつあります。冷戦時代には、第三世界の人々の心をつかむために、一種のライバル関係がありました。しかし、80年代後半に冷戦が終結すると、そのような競争はなくなりました。
新たな冷戦の時代に突入し、私たちは欧米の失敗を目の当たりにしている。一方でロシアのウクライナ侵攻を見ると、とても非道だと思う。 発展途上国や新興国からウクライナへと、私が期待したような支援がなかったことは残念です。しかし、彼らの怒りは理解できます。
彼らは欧米諸国にこう言います。「COVID-19で我々が死にかけたとき、あなたがたは知的財産を共有しようともしなかった。そして、今もその知的財産を共有しようとしない。あなたがたは私たちの命よりもファイザーとモデルナの利益を優先した。そして今、ヨーロッパで戦争が起こった。あなた方は我々に支援を求めているが、我々は食料品や石油価格の上昇を負担するという代償を十分支払っている」
だから、その怒りはよく理解できます。
それだけではありません。金融政策を変更して、より高い金利を支払わなければならなくしました。私たちの負債の多くはドル建てであり、その借金は膨らみ、金利は上がります。結局そうしなければ借金を返せないから、緊縮財政を強いられます。
新冷戦の新しい現実は、発展途上国にもっと注意を払うよう、米国とヨーロッパに強制するでしょう
。これが質問に対する答えです。

平等な世界のために何が必要なのか

聞き手A: あなたがおっしゃることは、世界中で一緒に仕事をしている人たちから聞いた話と、本当によく似ています。
最後の質問に移ります。
あなたは不平等と立ち向かってきました。時には、非常に難しく感じることもあるでしょう。平等な世界のために戦い続けるために、何が必要なのでしょうか?

Stiglitz: 私は、このような社会的不公正が存在する世界を受け入れることができないのです。より良い世界を作るために自分ができることをしていないと思うと、夜も眠れなくなります。
歴史的に見れば確実な進歩があったと思います。2歩進んで1歩下がるという感じもしますが。
『グローバリゼーションと不満』(Globalization and Its Discontents)を書いたころは、IMFや緊縮財政を批判していたがもっとひどい状況だったと思う...。
今、格差社会がより注目されています。
危機の中で資本市場を運営するためには、資本への規制が最善の方法かもしれないという発想があります。それと裏腹の関係で、緊縮財政は痛みを伴い、成長はおろか債務の支払いにも逆効果ではないかとの認識もある。「債務の持続可能性」(debt sustainability)というような新たな技術的発想についての新しい知見も蓄積しています。
私は、進歩や理性、進歩を信じる啓蒙主義に傾倒しすぎているのかもしれない...。
私は、かなり学術的な観点からこの問題に取り組んでいます。私は啓蒙主義的な価値観を強く信じています。もし共同で論理を立て実証するならば、理性と道徳的善性、つまりアダム・スミスが『道徳感情論』で語った共感が、私たちを正しい方向へ導いてくれると信じています。

聞き手B: 我々は世界の状況について考える厳しい一週間を過ごしてきました。その中で今日の話は貴重なものでした。
相変わらず、あなたはとても刺激的で、勇気を与えてくれました。
今日も時間を割いていただき、本当に感謝しています。ありがとうございました。


大和総研
2022 年 9 月 28 日

人民元決済システム(CIPS)は SWIFT の代替手段となり得るか 

https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/securities/20220928_023302.pdf

編集部による要約

はじめに

* 2022 年 2 月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシアへの金融制裁が決定され、主要銀行の多くが SWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されることとなった。
* 国際決済は主に送金情報伝達システムと実際の資金のやり取りを成立させる決済システムの 2 つで成り立つ。SWIFT が提供しているのは前者の送金情報の伝達に用いられるサービスであり、その普及率の高さから国際決済における事実上の国際標準規格となっている。
したがって、。SWIFT からの排除は国際決済における主な取引手段の消失を意味する。

かくの如き状況のもとで、SWIFT の代替手段として中国が運用する CIPS が登場した。
本稿では、CIPS の概要を示し、将来的に SWIFT の代替手段となり得るかを検討する。

1.CIPS の概要

CIPS は「人民元国際決済システム」( Cross-Border Interbank Payment )の略語である。
SWIFTがドル決済システムであるのと対照的に、CIPS は人民元決済システムである。

CIPS は、中国が人民元の国際決済のために構築したシステムである。決済システムに加えて送金情報の伝達機能を一部に有している。
CIPS への参加形態は直接参加機関と間接参加機関の 2 種類に分かれる。
直接参加機関は CIPS のシステム内に口座を開設しており、送金情報の伝達に CIPS の専用回線を使用できる。間接参加機関は国境を跨いで送金するためには、SWIFTを併用することになる。
CIPS への参加機関数は 2022 年 6 月時点で直接参加 76 行、間接参加 1,265 行、合計 1,341 行となっている。中国資本の銀行が主であるが、日米欧の大手銀行の中国法人なども幾つか参加している。

CIPS は SWIFT の代替手段となるか

(1)当面は SWIFT の対抗馬とはいえない
CIPS は送金情報の伝達機能を有するが、それは一部であり本体ではない。また、その機能はSWIFT から独立しているわけではない。
SWIFT は世界の 200 超の国、1万以上の金融機関等を内包し、多数の通貨に対応している。

(2)CIPS の今後を見定める 2 つのポイント

① CIPS 参加機関の広がり
今回のロシア制裁の結果、制裁時の代替手段として参加機関が増加した(欧州、アジア中心に81行)
② 国際取引における人民元決済の増加
人民元とルーブルの為替取引は、開戦後3ヶ月で1067%増加した。
人民元決済の取引国ランキングで
ロシアは香港、英国に次ぐ 3 位に浮上している。インドとロシア間でも人民元が決済に用いられている。ロシア国内では人民元建て社債の発行や人民元建て融資などが行われ、オフショア市場が形成されている。

ロシア以外では、サウジアラビアが石油取引の際に、人民元建て決済を用いる可能性が取り沙汰されている。

これらは現在のところ米ドル決済の制限を受けた国による一時的か
つ局所的な変化にとどまるが、将来的に制裁対象となる危険がある国においても、人民元による決済ニーズが定着する可能性がある。
………………………………………………………

このレビューは、お分かりのように影響を過小評価する方向にバイアスがかかっている。
にも関わらず、結論に書かれた将来の可能性については隠しようもなく示されている。

① CIPS は本来SWIFTに対抗するものとしてはデザインされていないが、それでも自家発電的な急場しのぎには使えるものだということが示された。

② ロシア経済を救うという点では大きな意義を持った。究極の制裁といわれたSWIFT排除が不発に終わった原因は、「人民元とルーブルの為替取引は、開戦後3ヶ月で1067%増加した」という一行に端的に示されている。

③ 人民元の立場から見れば、「中国経済とロシア経済がドッキングすればドル支配に対抗できる」という可能性を示したことになる。

④ 今後例えば「制裁対象となっている四大産油国(サウジ、ロシア、イラン、ベネズエラ)が人民元決済を拡大すれば、アメリカの勝手な制裁から身を守る可能性」もある。

ACURA Viewpoint
January 27, 2023

ウクライナ: 忘れられたベトナムの教訓

Ukraine and The Lost Lessons of Vietnam


by James W. Carden
(米露二国間大統領委員会の元ロシア担当顧問、および国務省政府間問題担当特別代表)

aircraft-carrier-2000x338-1

パリ協定50年

今日1月27日は、アメリカのベトナム戦争への参戦を事実上停止させたパリ協定調印から50年目である。ジョージタウン大学の国際問題研究者チャールズ・クプチャンは、ベトナム戦争の帰結の一つをこう語る。
「その最大の帰結はリベラルな国際主義者のコンセンサスを大きく揺るがせ、"孤立主義的衝動 "が大きく復活した」ことにある。

* 冷戦史の研究者ジョン・ランバートン・ハーパーは次のようなエピソードを記載している。
カーター大統領のポーランド出身のタカ派国家安全保障顧問、ブレジンスキーは、政権内のライバル、慎重で紳士的なサイラス・バンス国務長官を軽蔑していた。かれは「バンスはいい人だが、ベトナムで火傷をした」と評していた。

* 確かに、バンスと同世代の人たちは、ベトナム戦争の後遺症で深い幻滅を抱いていた。そして、「ベトナム・シンドローム」は不必要で裏付けのない海外介入に対する警戒心と疑念を示す略語として流通していた。
それは、理論的にはともかく、不必要な軍事的冒険に対する国防総省側の一種の抵抗であった。そして短期間ではあったが、時としてアメリカの最高レベルの政策に影響を与えていた。

* しかし、そのような抵抗は長くは続かなかった。 
第一次湾岸戦争が成功裏に終わったわずか数時間後、父ブッシュ大統領は「神かけて、我々はベトナム・シンドロームを完膚なきまでに叩き潰してやった」と宣言したのである。

* その1991年宣言から数十年間、わずか2年を除いて、米国は何らかの形で戦争を続けてきた。
直接の交戦国だったこともあり、非公式の共同交戦国だったこともあった(サウジアラビアのイエメンに対するグロテスクな戦争への関与がその典型)

* そして現在のワシントンの雰囲気は、「ベトナム・シンドローム」なるものが存在したことさえ想像できないものである。
バイデン大統領のウクライナ戦争への対処は、ワシントンのエスタブリッシュメントから絶賛され、いつもの面々から喝采を浴びている。

* しかし、これまでに800万人の難民と約20万人の戦死者を出した戦争が、ウクライナのNATO加盟と引き換えにするほどの価値があったのか。
外交上の賢明な関与によって現在の試練は避けられたかもしれない。そのことを考えれば、バイデン政策が本当に成功したと言えるのだろうか?

* 戦争は膠着状態に陥っているように見える。一方で、レガシー・メディアやさまざまなシンクタンクの論客たちは、モスクワの敗北と政権交代、戦場の着実な進展を保証し、まもなく勝利するとの声明を出すのに忙しくしている。(この状況は一夜にして逆転した)

ウクライナをめぐる独断と熱狂

* 政治学者で『歴史の終わり』『最後の人』の著者であるフランシス・フクヤマは、この9月にJournal of Democracyに寄稿し、次のように絶叫した。
「ウクライナは勝つ。ウクライナ万歳!」

* ワシントン・ポスト紙のリズ・スライ記者は1月初め、読者に次のように語った。
このまま続けば、ウクライナはゼレンスキー大統領が新年に掲げた「年末までにウクライナ全土を奪還する」という公約を達成できるだろうーあるいは少なくとも、ロシアの脅威を決定的に終わらせるに十分な領土を獲得することができるだろう。
欧米の政府関係者やアナリストもおなじように述べている。 

* 1月上旬には、元米軍欧州駐留軍代表のベン・ホッジス中将が、ユーロマイダン・プレスに対して、次のように語った。
「作戦の決定的な局面は...クリミアの解放だろう。ウクライナ軍は、クリミアにとって重要な物流網を破壊したり、混乱させたりすることに多くの時間を費やすだろう...。
それはクリミア解放につながる、あるいは条件を整える重要な部分となる。そして作戦は8月末までに完了するものと思われる」

* 2022年10月に報道された『ニューズウィーク』は、元ロシア議会議員の活動家イリヤ・ポノマレフの発言を報じている。そして「ロシアはまだ革命の瀬戸際ではないが...そう遠くはない」と読者に伝えている。

* ラトガース大学教授のアレキサンダー・J・モティルもポノマレフに同意している。
フォーリン・ポリシー誌の2023年1月の記事は、次のように題されている。
 「ロシアの崩壊に備えるべき時が来た」
モティルはさらに議論を進める。「政治家、政策立案者、アナリスト、ジャーナリストの間で、ロシアにとっての敗北の結果についての議論がほぼ完全に欠如している。これは驚くべきことだ」と断じた。そしてロシアの崩壊と統合の可能性を考えるよう急かしている。

* そして今週、かつてリアリスト政治学者であった『ナショナル・インタレスト』誌の編集者、ジェイコブ・ハイルブランから、「ドイツのウクライナへの戦車派遣は転換点である」という知らせがもたらされた。
いわく「ウクライナに戦車を送るというドイツの決断は、転機となる。
ウラジーミル・プーチンがウクライナに侵攻したことで、彼の政権の死刑執行令状にサインしたことは、今や明らかだ。

* かつてゴア・ヴィダルが突き放したように、「これほど日常的に、恐ろしいほど誤った“とんでも情報”を注ぎ込まれている人々には、ほとんど安息のときはない」

リアル・ポリティークの視点を失った米外交

ワシントンで交わされる外交政策の議論には、アメリカの利益という問いがないのが目立つ。
キエフの底知れないほど腐敗した政権に巨額の資金を配分することが、日常のアメリカ人にどのような物質的利益をもたらすのだろうか。
宗派的で狭量な「ガリシア民族主義」をウクライナ全体に押し付けることが、本当にアメリカの核心的利益となるのだろうか。(訳者注:ガリシア民族主義はスペインの地方政党。ガリシアはイベシア半島の西北端を占める貧しい州
NATOとロシアの代理戦争を長引かせることは、ヨーロッパとアメリカの安全保障上の利益を促進するのだろうか? もしそうなら、どのように?

ベトナムの教訓は遠い昔の話

実は、ベトナムの教訓はとうの昔に忘れ去られている。
いまワシントンのメディアや政界を牛耳る世代は、ベトナムがすでにバックミラーに映し出された時代におとなになった世代である。彼らは臆面もないリベラルな介入主義者であった。

バイデン政権のスタッフであるリベラル派の恥知らずな介入主義者たちは、特にボスニア内戦やルワンダ大虐殺のように、米国が十分に行動していないと一般に信じられていた1990年代に牙を研ぎ澄ましてきたのである。
そのため、ほとんど例外なく、現在政権の主体を担っている外交政策担当者たちは、9.11以降、アメリカの海外での誤った冒険をすべて支持してきたのである。

かつて一時的とはいえ、「ベトナム・シンドローム」に由来する正統な警戒心は存在した。しかし今日、ジョー・バイデンのワシントンにおける権力構造からはまったく失われている。
ベトナム・シンドロームは蹴散らされ、死んで、埋められた。
しかし、我々はまもなく、そのことを後悔するようになるかもしれない。

22nd International Meeting
of
Communist & Workers Parties


先月、ハバナで世界共産党会議が開かれた。こういう形での左翼勢力の結集にどれほどの意味があるかどうかは不明だが、 指導党思想がない会議であればそれなりに歓迎すべきであろう。
会議の模様を報道するHPがあって、そこに参加した各国共産党のHPがリンクされており、情報源としては貴重だろうと思う。
今では「左右の日和見主義」とか「2つの戦線での闘い」などというのは死語のようだ。名簿を見ていると、「えっ?」「えっ!」の連続である。母校の同窓会名簿をもらったときの感情にも似ている。
ここに転写しておく。

Contribution of the Communist & Workers' Parties

Host Party

三大陸誌「米国と新冷戦: その社会主義的評価 紹介」

 

三大陸誌「米国と新冷戦: 社会主義的評価 第一論文」

 

三大陸誌「米国と新冷戦: その社会主義的評価 第二論文」

 

三大陸誌「米国と新冷戦: その社会主義的評価 第三論文」

Report on Certain Political Developments
(Adopted at the Central Committee Meeting held on October 29-31, 2022) 
https://cpim.org/sites/default/files/documents/october2022-cc-report.pdf

下記は「インド共産党(マルクス主義)」(以下CPIM)の中央委員会への報告のうち、国際情勢に関する部分を翻訳、紹介するものです。


1.世界経済危機とウクライナ

A) 景気後退とインフレの同時進行

世界経済危機は深化している。コロナの時期よりも大きな被害が出るだろう。原因はもっぱら富裕国の利己的行動によるものである。10月IMFの世界経済見通しはこう言っている。
世界の成長率は2021年の6.0%から2022年には3.2%、2023年には2.7%に減速すると予測される。これは、世界金融危機とパンデミックの急性期を除けば、2001年以降で最も低い成長率である。
ブルームバーグの最新モデルでは、世界経済はコロナの最盛期を除けば、2001年以降で最も低い成長率となっている。
10月3日、国連は世界が不況に向かうという警告を発した。経済協力開発機構(OECD)も同じような予測を行い、次年度の世界経済成長率の予測が2.8%から2.2%に引き下げられた。これにより、世界のGDPが約2.8兆ドル失われることになる。
世界最大の経済規模を誇る米国は、3月に大幅利上げを開始した。2022年に入ってから、米FRBは5回連続で利上げを実施している。
世界中の中央銀行が金利の引き上げを余儀なくされた。食糧やガソリンの価格が大幅に上昇した。世界のインフレ率は、2021年の4.7%から2022年には8.8%に上昇すると予測されている。

B) ウクライナ戦争はロシアとアメリカ・NATOの戦争

第23回CPIM大会政治決議にはこう書かれている。
ウクライナは、ロシアと西側同盟である北大西洋条約機構(NATO)の間で一触即発の状況にある。
戦争はいまなお続いており、米国とNATOはウクライナに大規模な軍事支援を行っている。
私たちが指摘したように、これはまさにロシアとアメリカ・NATOの間の戦争であり、ウクライナがその舞台となっている。
米国防総省は2022年10月14日、ウクライナの緊急な安全保障と軍事的必要に対応するために、最大7億2,500万ドル相当の軍事支援を行う大統領令を承認した。

2020年1月、バイデン政権が発足して以来、米国はウクライナに183億ドル以上の軍事支援を行ってきた。2021年8月、ウクライナ危機が深刻化して以降、バイデン政権はウクライナのために国防総省の在庫から合計23品目の備品の引き渡しを承認した。さらに、米国はNATOの同盟国や友好国からウクライナへの追加支援を確保した。

いまやウクライナでは、核兵器や「汚い爆弾」を使うという脅迫が続き、危険な状況を作り出している。


C) あいつぐ経済制裁が国際経済に与える影響

米国、G7、EUはロシアに厳しい制裁を課した。その結果、ロシアは重要な金属や鉱物の輸出を停止せざるを得なくなった。ロシアは食糧不足に陥り、インフレが進行している。
とりわけエネルギー供給不足の危険が高まっている。

ロシアに対する石油制裁の影響は今のところ限定的である。しかしロシアはエネルギー供給の重要な一翼を担っているから、 世界経済はまもなく過去最大のエネルギー供給不足に見舞われる可能性がある。対ロシア制裁によりもたらされる、世界経済や各国のエネルギー安全保障への影響は深刻である。欧州連合(EU)諸国は今後、インフレの進行と深刻なエネルギー危機により、対ロシア戦争の矢面に立たされるだろう。

D) 石油・天然ガスもウクライナ戦争の重要な側面

Russian_Gas_Pipelines_NS_to_Europe.svg
Nord Stream ウィキペディアより

「ノルドストリーム」をめぐる情勢(ウィキペディアより): 今年9月26日、ロシアとドイツを結ぶ海底パイプラインでガス漏れが発生した。何者かによる破壊工作の可能性が疑われている

ドイツ政府は「Nord Streamパイプラインの爆発とそれに続くガス漏れについて、誰が損害を与えたか認識している」と主張している。しかし、安全保障上の理由で「誰か」について口をつぐんでいる。スウェーデンも「この問題は非常にデリケートで、収集したデータをどの国とも共有することはできない」と主張している。
ロシアは冬の間、無傷のNord Stream 2を使ってヨーロッパに275億立方メートルのガスを送るという提案を行ったが、ベルリンからは何の反応も得られなかった。これに代えてプーチンは、トルコに新しいガスパイプラインを建設することを提案した。
プーチン提案は米国と同盟国を驚かせた。これは、ロシアのNord Streamに対するリスクを回避するのに役立つ。なぜならNord Streamは複数の国の排他的経済水域(EEZ)を横断しているからだ。

ロシアの石油輸出を対象とした制裁措置は、12月5日に発効する予定である。ロシアの石油輸出は依然として好調で、EUはロシアに依存している。

欧州はこれまでのところロシア産への依存を断ち切れないでいる。原油価格の上昇と世界的なエネルギー供給の逼迫が圧力となっている。欧州では燃料用一般炭と液化天然ガス(LNG)が過去最高値となっている。これを背景に欧州各国はロシア産原油の禁輸措置を緩和した。調査会社ケプラーのデータによると、ロシア産軽油は8月の欧州向け輸出が前年より増加している。(日本経済新聞

ロシアの優勢は対欧州だけではない。ロシアの原油輸出は開戦から7ヶ月間で平均340万バレル/日。日量平均340万バレルに達している。これは 2021年同期比で17%増である。
その背景には、OPECが日量200万バレルの減産を決定し、それが世界の原油価格を押し上げている状況がある。それは、米国とサウジアラビアの二国間関係の脆弱性をも浮き彫りにしている。

E)ウクライナ問題に関するCPIMの原則的立場

インド共産党(M)第23回大会の政治決議は次のように述べている。
① この戦争は直ちに終結し、争点は協議と交渉によって解決されなければならない。
② 米国とNATOは、直ちに、東方への拡張を停止しなければならない。
③ 世界経済に壊滅的な影響を及ぼしている制裁措置は直ちに解除しなければならない。

2.世界経済危機と生活問題の浮上

A)インフレと窮乏化

世界的な経済危機とウクライナ戦争の影響で、人々の暮らしに深刻な負担がかかっている。とくに食料価格の騰貴は、世界中で非常に高い水準まで達している。
今年5月以降の世界銀行データでは、低所得国および中所得国のほぼ全てで高いインフレ率が確認されている。5%を超える物価上昇が記録された国は、低所得国の88.9%、低位中所得国の91.1%、上位中所得国の96%に達した。
とくに食料価格の高騰が、世界的な危機の引き金となっている。何百万人もの人々が極度の貧困に追いやられ、飢餓や栄養不良が拡大している。2022年10月の小麦、トウモロコシ、米の平均価格は前年に比べ、それぞれ18%、27%、10%高くなっている。
IMFの試算によると、食品と肥料の価格上昇の影響を受けた最貧国48カ国において、食料支援のために50億ドルから70億ドルの追加支出が必要となっている。さらに、今後12ヶ月の間に深刻な食糧不安が襲うものと予想され、その対策のために500億ドルの追加支出が必要である。
FAOの報告書は、「深刻な食糧不安を抱え、緊急支援を必要とする人々の数は、53の国と地域で2億2200万人に上る」と述べている。


B)世界的な反貧困運動の高まり

この数週間、世界各地でさまざまな分野の労働組合が大規模なストを決行している。それはインフレの進行により購買力が低下しているためである。賃上げをめぐる争議と並んで、労働者は労働条件や年金の改善を要求している。

EU諸国の動き

EU諸国では、同じ産業分野で短期間に複数のストライキが決行されている。それは労働者の過酷な状況を反映している。
英国では生活費の上昇に見合った賃金を要求し、ここ数カ月、何万人もの労働者が職場を放棄している。インフレ率は10%と過去40年間で最も高い水準にあり、労働者の生活費は、賃金を上回るペースで上昇している。労働組合が団交権を持つ部門でも、賃上げはインフレ率を下回っている。
国家統計局によれば、2019年には月平均19,500労働日がストライキによって失われていた。その数は2022年7月には、87,600日に達したよって明らかにされている。
鉄道では6月以降、ストライキが相次ぎ、鉄道網は 事実上停止している。ロイヤル郵便会社は8月からストライキを実施している。通信労組の組合員約11万5千人がこのストライキに参加した。BTとオープンリーチの約4万人の労働者は10月に初めてストライキに突入した。
イングランドとウェールズの弁護士は、6月以来、弁護料の値上げを要求する行動をとっている。この結果、数千の裁判が遅れている。150の大学で、約7万人の職員が給与と年金をめぐってストライキ権投票を行っている。教員組合、医療労働者、石油・ガス労働者、その他の部門でストが決行された。

オランダのバス運転手は、賃金と労働条件の改善を要求して、10月19日から21日まで3日間のストライキに入った。

スイスの建設労働者は10月17日に大規模な抗議デモ行進を行った。

フランスの労働者が、高騰する生活費に見合った賃金の引き上げを求め、全国的なストライキに参加した。主要な製油所の労働者が抗議行動を開始した。闘いは交通、学校、医療、市民サービス、エネルギーなどの部門に波及した。
10月16日、パリでは10万人以上の人々が超党派集会に結集し、生活費の高騰や気候問題に対処しないマクロン大統領に抗議した。この行進には、最近創設された左翼連合「新エコロジー・社会人連合」(NUPES)の活動家や指導者が参加した。
(NUPESはNouvelle Union Populaire Ecologique et Sociale の略。6月総選挙を機に結成された左翼連合)
フランス共産党(PCF)、「服従しないフランス」(La France Insoumise)、労働組合(労働総同盟など)の活動家や指導者が参加した。労働総同盟(CGT)などの労働団体からも参加した。

キプロスの労働者は10月15日、首都ニコシアの財務省に向けてデモ行進し、インフレと進行中の生活費問題に対抗するための具体的な行動を要求した。

ベルギーではベルギー労働者党(PTB/PVDA)が毎週開催している「怒りの金曜日」 集会の一環として、10月14日にブリュッセルのエンギー(Engie)社屋前でデモを行 った。そしてこの期間に同社が得た莫大な利潤に課税するよう、政府に要求した。
(エンジー社は、フランスに基盤を置く電気事業者・ガス事業者で、世界2位の売上高を持つ)

ギリシャでは、賃金と年金の引き上げ、安価な電気、燃料、食料、税の廃止、基本的な消費財の値下げと制限、債務の帳消しを求める大規模な集会が開催された。労働組合は他の大衆組織とともに、11月9日にゼネストの呼びかけを行った。

アメリカの動き

アメリカでは、生活費の高騰で一家の月々の支出が460ドルも増えたため、労働者階級が多くの抗議行動を起こしている。ミネソタ州では1万5千人の看護師が米国史上最大規模の民間医療機関のストライキに参加した。シアトルでは教師6,000人が授業を拒否した。また、10万人以上の鉄道労働者がストライキを行った。

その他の諸国の動き

同様の労働者階級の抗議行動は、ヨーロッパではドイツ、チェコ共和国、セルビア、ハンガリー、モルドバで、アフリカではチュニジア、ギニア、南アフリカ、ケニア、スーダン、中央アフリカ地域、ラテンアメリカではエクアドル、アルゼンチンで目撃された。


イランでは、女性の権利に対する攻撃に反対する大規模な抗議活動が行われている。経済状況の悪化に悩む多くの人々が、この抗議行動に参加している。これらの抗議は残忍に弾圧され、多くの死者が出ているとの報告がある。

パレスチナのヨルダン川西岸地区及び被占領地では、パレスチナ人に対する残忍な弾圧が行われている。今年に入って、184人のパレスチナ人がイスラエルの治安部隊によって殺害された。イスラエル当局は、ガザでの一連の襲撃に続き、ヨルダン川西岸地区の「パレスチナ人の人権」活動家と市民社会組織への攻撃をエスカレートさせた。
 これらの組織の多くは、すでに恣意的に非合法化されたものである。これらの襲撃は、イスラエルを批判する人々への攻撃を目的としている。それはイスラエルが国際法に著しく違反し、アパルトヘイト政策と何百万人ものパレスチナ人への迫害を行なっていることを覆い隠すためである。
いまもパレスチナ領土の不法占拠と ユダヤ人入植地の建設は続いている。


3.政治戦線 極右とのせめぎあい

この間、各国で相次いだ選挙結果は、第23回大会で指摘した政治的な右傾化の進行を示している。
インフレの高まり。価格上昇に引き合う賃上げが実現されないこと、そして社会民主・保守両党の経済政策の失敗が、国民の不満に拍車をかけている。
このような条件のもとで、宗教的感情や人種差別は、多くの国で極右勢力に利用されている。極右勢力はその勢いを加速させている。

イタリア 

イタリア議会選挙で、超保守派のジョルジア・メローニ率いる極右勢力「イタリアの兄弟」が44%の得票率を獲得し勝利した。
「イタリアの兄弟」は、ベルルスコーニ元首相が率いる「フォルツァ・イタリア」とマッテオ・サルヴィーニ率いる「反移民同盟」との間で連立政権を樹立した。イタリアではファシスト独裁者のベニート・ムッソリーニ以来の極右政権となる。
彼女の政治的キャリアは、ネオ・ファシストであるイタリア社会運動の青年団の10代の活動家として始まった。メローニは移民に猛反対し、保守的な「家族の価値」を支持する。メローニは断固として親米であり、強権的な国家安全保障政策を提唱している。
イタリアはGDPの135%という巨額の公的債務を抱えている。世界的な金利上昇に伴い、この債務の返済コストは上昇し、若者の失業率が高い(約25%)。そのことが民衆の不満を高め、極右が台頭する要因となった。

スウェーデンの右翼進出

スウェーデンの首相に、中道党のウルフ・クリスターソン党首が、3党の少数派連合の長として選出された。この連立政権には、初めて移民排斥派のスウェーデン民主党が含まれる。極右政党である スウェーデン民主党(SD)党は、同国の選挙で実質的な勝者となった。
極右政党であるスウェーデン民主党は、得票率を2〜3ポイント伸ばし、第2党に躍り出た。右派ブロックの得票率は49.7%で、左派ブロックを1議席上回った。
SDは、1990年代半ばにスウェーデンのネオナチ運動から生まれた政党である。それ以来9回の総選挙で連続して得票を伸ばしている。SDは反移民キャンペーンを通じて暴力犯罪に対する恐怖を利用することができた。
エネルギー価格の上昇、学校経営の破たん、医療へのアクセス困難といった有権者の懸念は、移民と犯罪に執拗なまでに焦点を当てることでそらされた。

ブラジルでのボルソナロの「健闘」

10月2日、ブラジルでは大統領選の第1回投票が行われた。2019年から大統領に就任したジャイル・ボルソナロ氏が予想以上に健闘した。最終的にルーラは48%の票を集め、ボルソナロは43%の票を獲得した。
数カ月前から世論調査では、左派のルーラ前大統領が2桁のリードを保っていた。ボルソナロ側は政府機構の乱用、巨額の資金投入、民主主義や制度に対する脅威を煽ることで反撃した。そしてメディア、ソーシャルメディアの支配を通じてフェイクニュースを拡散した。ペンテコステ派の説教師を使って国民の宗教的感情を操った。
どの候補者も50%の票を獲得できなかったため、10月30日に決選投票が行われることになった。
ルーラ候補は中道左派の元州知事で女性のチロ・ゴメス氏の票を獲得したい考えで、福音派はボルソナロを支持する。
(現実には、このCPIM中央委員会報告の後、決選投票が行われ、ルーラは僅差での勝利を収めた)


チリ新憲法案の国民投票における否決

チリの国民投票 チリの有権者は、ピノチェト時代の憲法に代わる新憲法を拒否した。 国民投票では、約62%が進歩的な草案に反対票を投じた。
否決された憲法案はきわめて進歩的なものだった。チリを「多民族国家」と宣言し、チリの先住民の権利を認め、中絶の権利など女性団体の主要な要求を盛り込んだ。また、政府機関の役職の50%以上を女性が占めることが認められた。
 しかし、条文のどこかに少しでも疑問を感じた有権者は、新しい憲法がもっと好みに合うことを願い、憲法全体を否決した。
否決された憲法は、世界で最も進歩的な憲法のひとつとなるはずだった。それはチリの先住民、環境、女性の保護を強化する道を開いた。また、医療や住宅などの社会財を提供することを国家に義務付けたものだった。
 今回の敗北は、独裁政権時代の現行憲法を支持するものではない。7月の世論調査では、74%のチリ国民が、否決された場合の新たな憲法改正手続きを支持している。

しかし、国民投票での敗北はチリの左派・進歩的勢力にとって後退であることは間違いない。

パキスタン選挙の結果

パキスタンで行われた予備選挙で、野党パキスタン・テヘレク党が議席の過半数を獲得した。 これは、与党連合にとって大きな打撃となる連合に大きな打撃を与えた。
また、この結果は、パキスタン国民が直面している経済的苦境を憂慮していること、そして新たな総選挙をもとめていることを示している。

英国の首相交代の意味 

英国議会の保守党の党首にリシ・スナックが選出され、首相に就任した。彼は今年になって3人目の首相となる。
英国史上初の非白人首相、2世紀以上ぶりの最年少だということ、国王よりも裕福と推定されるなど、さまざまに語られている。
しかし、注目すべきは、彼を選んだのが世界金融界だということだ。リシ・スナックはゴールドマン・サックスで、ヘッジファンドマネージャーをつとめた。金融界の生粋の出身者である。

CPIM第23回党大会政治決議は、スナックの首相就任について、「グローバル金融資本の支配力が強化された。経済だけでなく、多くの国で政治をますます左右するようになった」と指摘していた。

全面的な経済危機は、人々の暮らしに悲惨な影響を及ぼしています。そのため 保守党がますます支持を失う事態を招いた。
世論調査では、労働党が保守党に大差をつけてリードしている。しかし、労働党は保守党が追求する経済政策に対して、有力な代替案を提示することができているわけではない。
明らかに、保守党の議員たちは早期の選挙を望まず、それゆえ、解散・総選挙を回避したまま新しいリーダーを選出した。こうして2024年の任期満了まで政権にしがみつこうとしている。

上海協力機構(SCO)首脳会議が示す方向

2022年9月15日~16日にサマルカンドでSCO首脳会議が開催された。そこで議論された最も重要な問題は、加盟国の自国通貨を使用した貿易の拡大であった。
貿易における自国通貨使用のためのロードマップの作成と、代替的な支払・決済システムの開発は、SCOが近年取り組んでいる課題である。
ドルへの依存が益より弊害となる中、各国はドルへの依存度を下げ始めている。サマルカンド・サミットでは、加盟国首脳が、自国通貨による貿易を拡大するためのロードマップ案を承認した。これは、国際貿易の脱ドル化に向けた一歩となる。
IMFが発表している外貨準備高に関する統計によると 、各国がドル建て資産の保有高を減らしていることがわかる。2022年3月、世界の外貨準備に占めるドルの割合は58.8%に低下し、1995年以来の低水準となった。

中国共産党大会の評価

中国共産党第20回大会が2022年10月16日から22日まで開催された。
この5年間、中国共産党は100周年(1921年)記念に向け2つの目標、絶対的貧困の撲滅と中等度の繁栄の確立をかかげ活動してきた。そして「2021年までに中国に適度な豊かさのある社会を建設する」という最初の目標を達成した。

① 経済発展
そして世界的な経済危機のなかでも、共産党は国の経済をリードすることができた。2021年、中国の国内総生産は17.7兆米ドルに達した。それは世界の18.5%を占める。2013年から2021年までの年平均成長率は6.6%で、世界平均の2.6%を上回った。世界の経済成長への貢献度は平均38.6%で、G7諸国合計を上回った。
2020年には米国を抜き、初めて世界最大の貿易国となった。2021年には対外貿易額が6兆9000億ドルに拡大し、その座を維持した。中国の一人当たりの国民総所得は昨年11,890ドルに達し、2012年の数値から倍増した。
所得が増加し、教育や医療が改善された。これにより中国人の平均寿命は、世界平均を5.2歳上回る77.9歳となった。
② 党と国家の近代化
党綱領の改正は、1982年以降のすべての党大会の恒例行事となっている。
今回の綱領改正において、「中国の近代化の道を通じて、中華民族の若返りを各方面で進める」ことが党の中心的な任務とされた。
もう一つの大きな改正点は、「社会主義経済の基本的な制度(公有制を主軸とする制度と多様な制度を含む)」の原則を盛り込むことである。
もう一つの大きな改正点は、社会主義社会の原則に踏み込み、
* 公有制を主軸とし多様な所有制を併存させる
* 労働に応じた分配を主軸とし多様な分配を併存させる
* 社会主義経済の基本制度は社会保障の充実のために必要である
* 社会主義市場経済は、中国の特色のある社会主義の重要な柱である
という原則を盛り込んだことである。
③ 党規約を改正
2020年から2035年にかけて、中国をあらゆる面で現代社会主義の大国に建設する。社会主義現代化を実現するとの決意を盛り込んだ。
そして、2035年から今世紀半ばまで、中国を繁栄し、強く、民主的で、文化が発展し、調和のとれた、美しい偉大な近代社会主義国家に建設すること、これが第二の百年課題である。
(2049年の中華人民共和国建国100周年と重なる)

大会は、党規約前文に、より広範で充実した、より強健な中国を発展させるための記述を追加することに同意した。そして、より広範で充実した、より強固な人民民主主義を発展させること、民主的な選挙、協議、意思決定、管理、監督のための健全な制度と手続きを確立することに同意した。
党の規律に関する条項が改正され、特権を求める考え方や旧式の慣行に反対するために、あらゆるレベルの党役員に指示し、腐敗を抑制するための憲法条項が設けられた。

④ 党幹部の人事
大会では、新たな中央委員会と中央紀律検査委員会が選出された。 新たに選出された中央委員会は、習近平を総書記に再選した。政治局常務委員(総書記を含む)7名が選出された。うち4人が新規選出であった。また、習近平は中央軍事委員会主席にも再選される。

以下国内情勢の論評 省略

米核戦略の凶暴化について
反核医師集団の当面の任務

下記は11月3日開かれた北海道反核医師の会総会でのフロア発言をメモとして起こしたものです。
この日は記念講演として川崎哲さんの「核兵器禁止から廃絶へ」というお話があり、終了後のディスカッションの時間でお話させていただきました。

なにぶんにも、3分スピーチでほとんど骨組みだけですが、
詳細については下記をご覧ください
http://shosuzki.blog.jp/archives/89174879.html
(三大陸誌「米国と新冷戦: 社会主義的評価 第一論文」)
をざっくりと紹介しました。
ご覧のように結構長くて重い文章なので、なかなか読んでいただけないと思います。そこで音楽ビデオ風に聞かせどころを押し出しました。
結果的には、メモ書きのつもりがだいぶ膨らんでしまいました。

1. 絶滅論の始まり

今から40年ほど前、世界を震撼させたのが世界核戦争の可能性と、それによってもたらされる「核の冬」、人類絶滅の予想図です。
それは当時、米大統領に就任したレーガンが打ち出した宇宙戦争戦略でした。
当時の時代背景はこうなっていました。アメリカを盟主とする資本主義諸国とソ連、中国、新興独立国が東西に分かれて対立していました。
その中でアメリカは新興独立国への各個撃破戦術を強め、直接の武力制覇、ときによっては核使用も辞さない危険なものでした。
現在では朝鮮、キューバ、ベトナムで具体的な核攻撃計画が実行寸前にまで至ったことが明らかになっています。
中でももっとも核戦争の危機が差し迫ったのが、1962年のキューバ・ミサイル危機でした。
それまでアメリカ国民は、もし核兵器が使用されたとしても、本国とは遠い世界の話だと思っていました。それが国内の主要都市がことごとく核の標的となり、自らの生存が脅かされていることに気づき愕然としました。
このとき全ての世界の人々にとって、世界核戦争と人類の絶滅は現実的で具体的な課題となったのです。

2.核抑止戦略への移行

資本主義諸国のソ連・中国・新興独立国への敵意は変わることなく続きますが、核問題はちょっと特別だという認識が広がりました。
戦争指導者たちは、「核兵器は使用する兵器ではなく核戦争を抑止するための兵器だ」という奇妙な理屈を持ち出して、通常兵器との差別化を図りました。
そのような戦略は主に米ソの間で進められ、「恐怖の均衡」に基づく相対的な安定がもたらされました。これを「相互確証戦略」といいます。
それ以外の国は両国の「核の傘」の下に入ることを求められましたが、新興独立国の多くは、それを「偽りの平和」だとし、軍事的従属を拒否しました。非同盟とは何よりも非核同盟でありました。

3.レーガン戦略と反核運動キャンペーン

1980年にレーガンが大統領に就任すると、「核の均衡」路線は投げ捨てられ、対ソ封じ込め路線が復活します。
多頭核弾頭と大陸間弾道弾(ICBM)を頂点とする核戦略に代わり、弾道弾は撃ち落とす、あるいは発射の瞬間に敵のミサイル基地を瞬殺する戦略が開発されようとしました。
このとき世界中の科学者が先頭に立って反核運動に立ち上がりました。
それが人類の絶滅の危機を訴えた「核の冬」キャンペーンです。このキャンペーンは米ソの科学者がタッグを組んで進められ、世界の年間平均気温が生存不可能な水準まで下がると推定しました。
これが「核の冬」仮説です。この仮説は世界中に反響を呼びました。「世界反核医師会議」(IPPNW)もこの時期に結成され、ノーベル賞を受賞しました。

4.核は抑止力から攻撃力へ

このキャンペーンのおかげもあって、核兵器増強の動きは一定の沈静化を見せました。しかしソ連・東欧諸国が崩壊すると、唯一の超大国となった米国はふたたび核支配を目指すようになります。
米外交主流派は「核抑止時代の終わり」という報告を発表しました。
そのなかで、旧式化したロシアの戦略核のすべてを一度の核攻撃で破壊できるとし、核が抑止力にのみ留まる必要はなくなったと述べました。
そしてこう結論しています。
「ロシアの指導者たちは、もはや生存可能な核抑止力を当てにすることはできない。なぜなら、米国は通常兵器と核戦力の両方において、現代の軍事技術のあらゆる次元で優位にたったから」である。
そして反撃を考慮しなくて良い核兵器は、抑止力ではなく先制攻撃能力だと規定しました。
ということで、核をめぐる「私たちの選択」も様変わりしている。かつての選択は核抑止戦略を是とし認めるか否かであった。大国間の約束事で作られた仮想世界だが、ある意味ではそれで済んでいた。
しかしアメリカの核戦略が凶暴化し、「先制攻撃症候群」に陥ったいま、そのような選択肢はもはや残されていない。いま私たちの前に提示されているのは、米国が全世界で展開する「核のチキンレース」に目下の同盟者として参加するかどうかという選択だけだ。それは選択というにはあまりに虚しい、アメリカに自らの運命を預けるかどうかの選択であり、とどのつまりは選択権を放棄するということだ。


5.各個撃破政策から対ロ対中の正面戦へ

最近の核戦略のもう一つの特徴が、比較的小さな国を個別に撃破するやり方から最大の仮想敵国を正面に据えて、これを打ち破る戦略への転向です。
この戦略は必然的にチキンレースの様相を呈してきます。非常に危険な賭けです。
しかし米国は、核戦力の差を根拠にして、勝利を確信しているようです。だからひょっとすると彼らはチキンレースだとは思っていないかも知れません。
私は、ウクライナ戦争のもっとも恐るべき本質はここにあると思っています。

6.「核の冬」への攻撃と反撃

米国の軍産複合体が核戦争の勝利と生き残りを確信するのには、「核の冬」への対抗キャンペーンが成功して、国際反核世論が弱まっていることへの侮りもありそうです。
メディアと軍は、「核の冬」の主張が何らかの形で「誇張」されたものと非難しました。警告を鳴らす科学者を変わり者であるかのように描きました。
その典型が「核の秋」論です。彼らは、地球の全休温度が摂氏20度下がっても「それは秋だ」とし、ゆえに「核の冬は誇張だ」と主張しました。
その手口は、現在に至るまで何十年にもわたって、核戦争の影響を軽視するために使われてきた。

7.いま一度「核戦争の脅威」を科学的に確証し、核先制攻撃論者に反撃を

「核の秋」論への反撃はすでに始まっており、その欺瞞性も明らかにされていますが、っメディアの権力より姿勢も相まって、まだ多くの市民の共通認識とはなっていません。
大国間の戦力バランスという抑止力が失われている今、各戦力の使用を防ぐ力は世界の平和勢力の戦いにかかっています。
40年前の国際反核平和勢力の盛り上がりをもう一度再現することが求められています。若い人の多くは、核の冬という言葉を聴いたことがないかも知れません。
科学者や医師などが、もう一度運動の先頭に立つことが求められていると思います。

詳細については下記をご覧ください
http://shosuzki.blog.jp/archives/89174879.html
(三大陸誌「米国と新冷戦: 社会主義的評価 第一論文」)


三大陸誌「米国と新冷戦: 社会主義的評価 第一論文」

 

「絶滅論」に関するノート:
21世紀のエコロジーと平和運動のために


“Notes on Exterminism” for the Twenty-First-Century Ecology and Peace Movements”

 

John Bellamy Foster  オレゴン大学社会学教授、『マンスリー・レヴュー』編集者)

本論文は202251日付「マンスリー・レビュー」誌に初出 

cover
     ………………………………………………………………………………

 

Exterminism(絶滅論)について

Exterminism(絶滅論)は、反核平和運動の中で、英CNDの指導者トムソン(Edward Palmer Thompson)が使い始めたことばである。キリスト教の終末論(Apocalypse)とは異なる、現代的概念である。初出は雑誌 “New Left Review” 1980年版「絶滅論と冷戦」(Exterminism and the Cold War)。(編集部)


tompsonbook
………………………………………………………………………………………

目次

はじめに EP・トムソンと「絶滅論」
A)『文明の最終段階である絶滅論についてのノート』
B)絶滅論の気候・生態学的危機への適応
C)核兵器によるホロコーストの脅威がふたたび

1.核の冬(Nuclear Winter)と科学史上最大のバッシング

A 「核の冬」問題の提起

(B)「核の冬」論への空前のバッシング
(C)エルズバーグの暴露: 軍・政府は「核の冬」を知っていた
(D)「核の冬」論の再興
(E)核兵器は人類の「終末装置」

2.米国の核戦略の変遷

  A)マクナマラの相互確証破壊(MAD

(B)レーガン戦略: 強力なカウンターフォース戦略への復帰

C)ネオコンと「最大主義」(Maximalist)戦略

(D「核の優位を確立したアメリカ―核抑止時代の終わり」
(E)ロシアの対抗核戦略

3.新冷戦と欧州劇場

  A)核脅迫はアメリカ帝国主義の主要な圧力手段

(BNATOの東方進出とウクライナ

C)ウクライナ紛争の開始

4.二つの視点から見た絶滅論

  A)気候変動と環境問題

(B) 社会主義が唯一の解決の道



はじめに EP・トムソンと「絶滅論」

A)『文明の最終段階である絶滅論についてのノート』

1980
年、『英国労働者階級の形成』の著者であり、「ヨーロッパ非核運動」(Europe Nuclear Disarmament, END)の指導者であった英国の偉大な歴史家・マルクス主義理論家EP・トムソンは、画期的なエッセイ『文明の最終段階である絶滅論についてのノート』を書いた。

Thompson_at_1980_protest
            E
P・トムソン(wikipedia より)

 

その後、世界は大きな変化を遂げたが、トムソンのエッセイは、現代の中心的な矛盾にアプローチする上で、依然として有用な出発点となっている。現代の特徴は、生態系の危機、COVID-19の大流行、新冷戦時代の到来、そして現在の「混沌の帝国」である。これらはすべて、現代の資本主義政治経済のなかに深く埋め込まれた特徴から生じている。

 

トムソンにとって、絶滅論とは生命の絶滅そのものを指すのではない。地球規模の熱核交換に直面してもいくつかの生命は残るので、むしろ、最も普遍的な意味で「我々の現代文明の絶滅」に向かう傾向のことである。しかし絶滅論は文明論にとどまるものではない。それは物理的な大量殺戮を意味し、その結果が人類のマジョリティーの絶滅に結びつき、「経済、政治、イデオロギーなどの社会特性」を喪失する方向に突き動かす。


B)絶滅論の気候・生態学的危機への適応

 

この「絶滅論ノート」が書かれたのは、1988年に気候学者のジェームズ・ハンセンが米国議会で地球温暖化について証言し、同年、国連の「気候変動に関する政府間パネル」が発足する8年前のことである。したがってトムソンの絶滅論は、現代社会のもう一つの新たな絶滅論的傾向である地球規模の生態学的危機を直接には扱っていない。それはあくまでも、核戦争に正面から取り組んだことの理論的成果である。

 

しかし、絶滅論の方法論的視点は社会生態学に深く根ざしたものであった。つまり、現代社会における絶滅論的傾向は、「人類の生態学的生存の必須条件」に直接対立するものを内包している。それは非核運動にとどまるものではない。それは「社会的に平等で、生態学的に持続可能な世界を求める世界的闘争」を要求していると見なされるのである。

 

1991年にソ連が崩壊し、冷戦が終結した。第二次世界大戦以来、地球を覆っていた核の脅威は収束したかに見えた。その結果、トムソンの絶滅論は非核運動の理論という枠を超えて、地球規模の生態系の危機という文脈で考察されるようになった。そして生態系の危機自体が「多数の絶滅」の直接の原因であると見なされるようになったのである。

C)核兵器によるホロコーストの脅威がふたたび

 しかしこの10年間の新冷戦の到来によって、核兵器によるホロコーストの脅威は再び世界の関心の中心に戻ってきた。2022年のウクライナ戦争は、2014年に米国が仕掛けた「マイダン・クーデター」と、それに伴うキエフとウクライナのロシア語圏ドンバス地域の分離共和国との間の内戦に端を発している。それが今やモスクワとキエフの全面戦争に発展してしまったのである。


それは2022227日、ロシアがウクライナへの軍事攻勢の3日目のことであった。NATOの戦争への直接介入を警戒するロシアは、「非核戦争か核戦争かを問わず、核戦力を厳戒態勢に置く」と宣言した。この日以来、核兵器はふたたび不吉な世界的意義を持つようになったのである。

 

主要な核保有国間の世界的な熱核戦争の可能性は、冷戦後のどの時期よりも大きくなっている。

①地球規模の生態系の危機(気候変動だけでなく、地球をふくむ太陽系惑星のレベルの安定も、地球が人類の安全な住処となるために不可欠である)が進み、

地球規模の核による消滅という直接的脅威が増大する、

という、2つの絶滅の傾向に取り組むことが必要なのである。

 

この2つの地球規模の存亡にかかわる脅威は弁証法的に相互関連している。ところが、ソ連・東欧崩壊に始まった米国の一極支配の数十年の間に、核絶滅論は大きく変容した。この間、世界の関心が他に向けられる中で、核絶滅論に対する歴史的理解も更新を迫られている。この問題にアプローチするにあたっては、まず最近数十年の変容についてあらためて理解を深めなければならない。


キーとなる疑問は次の二つである。
冷戦終結から30年を経て、不可逆的な気候変動の危険が迫っている今、地球規模の熱核戦争の脅威が再び地球を覆っているのはなぜなのか。
相互に関連するこれらの地球規模の存亡の危機に対抗するために、平和運動や環境運動の中でどのようなアプローチが必要なのだろうか。

これらの問いに答えるには、「核の冬」論争、カウンターフォース・ドクトリン、世界的な核の覇権を求める米国などの問題を取り上げることが必要である。そうした検討を踏まえた上で、初めて、今日の資本主義が破局的事態に陥り、それが地球規模の存亡の危機をもたらしていること、そしてその全容を認識することができるのである。



1.核の冬(Nuclear Winter)と科学史上最大のバッシング

 

A 「核の冬」問題の提起
1983
年、米ソ両国の大気科学者チームは、核戦争が「核の冬」をもたらすという予測を立て、主要な科学雑誌に掲載された。この予測は、レーガン政権が戦略防衛構想(通称スターウォーズ)と核兵器によるハルマゲドンの脅威を背景に、核兵器を増強していた時期に行われた。

レーガン
            スターウォーズ計画を発表するレーガン


100以上の都市でメガファイヤーが発生し、地球規模で熱核反応が起きると、大気中の煤煙が太陽放射を遮り、地球の平均気温が大幅に低下することが分かったのである。その結果、地球温暖化とは逆の方向に気候が急激に変化し、1ヶ月で世界全体(少なくとも半球全体)の気温が数度、あるいは「数十度」低下し、地球上の生物に恐ろしい結果をもたらすことが分かった。

このように、地球規模の熱核交換による直接的な影響によって、何億人、あるいは10億人以上の人々が犠牲になるが、間接的な影響ははるかにひどく、核爆弾の直接的な影響に巻き込まれなかった人々でさえ、飢餓によって地球上のほとんどの人々を絶滅させるだろう、というのである。

 

「核の冬」の論文(セーガンら 1983年)は、当時の核軍拡競争に大きな影響を与え、米ソ両政府を瀬戸際から引き離す役割を果たした。

米国のパワーエリートは、「核の冬」におけるシミュレーションモデルを、スターウォーズ計画に向けられた核軍需産業と国防総省への直接攻撃と見なした。そのゆえに、「核の冬」は史上最大の科学的論争の一つとなった。しかし、「核の冬」の提示した科学的結論そのものは、別に複雑でもなく極端と言うほどのものでもはなかったので、論争は科学的というよりも政治的なものであった。

核の冬

NASAの科学者が最初に「核の冬」として提起した仮説モデルは、「単純すぎる」と反論された。「核の冬」ではなく「核の秋」という、当初想定されていたよりも極端ではない影響を示す研究がなされた。しかし「核の冬」という概念は科学モデルによって何度も何度も検証されたのである。

 

ターコ教授の見解NYタイムズ「核の冬論者は後退する」と題する記事はとても面白い。19901月、食い下がる記者に対しターコはこう述べる。「核の冬だけで人類が全滅するとは信じていない。それは、カール・セーガンを含む他の人々の憶測だ。…私の個人的な意見では、人類は絶滅しないだろうが、私たちが知っている文明は確実に絶滅するだろう」(編注)

 

とはいえ、「核の冬」研究に対する国民と政治指導者の最初の反応が、核兵器解体を求める強力な運動を生み出した。それは核軍縮と冷戦の終結に貢献するものであった。

しかし、米国の核戦争マシンの背後には、強力な軍事的、政治的、経済的利害関係があり、すぐにこれに対抗することになった。

B)「核の冬」論への空前のバッシング

 そこで、企業メディアは政治勢力とともに、「核の冬」説を否定するためのさまざまなキャンペーンを展開した。2000年には、大衆向け科学雑誌「ディスカバー」が、「過去20年間で最も偉大な科学的失敗20」の1つに「核の冬」を挙げた。しかし、この点に関してディスカバー誌が主張できたのは、1980年代に最も影響力のあった「核の冬」研究の主要科学者が、1990年までに撤退していた、ということだけである。


2000 1 20 日付「ディスカバー」、ジュディス・ニューマン記者の記事
。科学分野における20の失敗が列挙された。その4番目に核の冬をセーガンにフォーカスして攻撃を加えた。「最初の温度推定は間違っていた。全面的な核戦争は、北部の気候の平均気温を36 F下げるに過ぎない。これではせいぜい核の秋だ!」(編注)

 

地球規模の核交換による平均気温の低下は、当初考えられていたよりも幾分小さく、せいぜい北半球の平均気温が36°F20°C)低下する程度と推定されると主張した。しかし、この緩和された推定値は、依然として生命の絶滅を告げる終末論的なものであった。

 

「核の秋」論は科学史上最大の暴論の一つで、気候変動の否定を凌ぐものである。メディアと軍は、核の冬に関するこれらの科学的知見が何らかの形で「誇張」されたものと非難し、頭から否定したのである。

 

地球の全休温度が20度下がっても、「それは秋だ」とし、それをもって「核の冬は誇張だ」と主張する手口は、現在に至るまで何十年にもわたって、核戦争の影響を軽視するために支配者層で使われてきた。

 

ペンタゴン資本主義の場合、このような否定の動機は明らかだ。核の冬に関する科学的結果を放置すれば、「勝てる」チャンスのある核戦争を戦う計画が無意味になる、という現実にあったのであろう。

 

大気圏の影響を考慮すれば、地球規模の惨状を特定の核戦争地域に限定することはできない。想像を絶する影響は、地球規模の熱核交換から数年のうちに、地球上のごく一部の人口を除いて、すべてを破壊してしまうだろう。それは、相互確証破壊(MAD)が想定していたものさえ超えている。


C)エルズバーグの暴露: 軍・政府は「核の冬」を知っていた

ダニエル・エルズバーグ1931年生まれ。ハーバード大学卒業、海兵隊に3年在籍後、国務省・国防総省・ランド研に所属。71年「ペンタゴン文書」を暴露。その後平和運動に携わる中で、2017年「世界滅亡マシン 核戦争計画者の告白」を発表。すでに60年代から軍・政府は「核の冬」を認識していたことを暴露した。

ウォーターゲート事件で有名なダニエル・エルズバーグは、かつて先制核攻撃を含む核戦争計画の重要な参加者の一人でもあった。一触即発で第三次大戦になりかねなかった事件など、知られざる歴史的事実も知っている。そしてそれをもふくめて、これまで心の内に秘めてきた米国核政策の内実を明らかにしている。それが5年前に発表された著書「世界滅亡マシン」である。


核戦争の壊滅的な影響は、核計画者たちによって常に軽視されてきた。エルズバーグが著書の中で指摘しているように、米国の戦略アナリストが提示した全面的核戦争による死者の推定値は、「核の冬の発見以前から」、当初から「とんでもない過小評価」だった。

なぜなら、都市人口全体に最大の影響を与える核爆発による都市の火災を、その惨状を推定するにはあまりにも難しいという疑問のもとに、意図的に省いていたからである。
エルズバーグ
エルズバーグはこう書いている。 

60年代の時点でも、熱核兵器が引き起こす熱風嵐は、核戦争における最大の死因となると予測されていました。

さらに、キューバ危機から約21年後に最初の「核の冬」の研究がなされるまでは、誰も認識しなかったことですが、生き残った人類の3分の2も先制攻撃の間接的影響によって深刻な影響を受けるということです。

これらの影響は、都市への攻撃で無視されてきたもう一つの副産物、火煙です。統合参謀本部は事実上、火を無視することで「火のあるところには煙が立つ」ということを無視してきました。 

しかし、私たちの生存にとって危険なのは、熱風嵐によって上空に押し上げられる煙なのです。たとえ非常に大きな火災であっても、それはすぐに雨で洗い流されます。危険なのはそういう煙ではなく、核兵器が大都市の上空で爆発すれば必ず発生し、成層圏まで達する火柱と火煙なのです。

このような複数の火災による猛烈な上昇気流は、何百万トンもの煙と煤を成層圏に舞い上げ、雨で洗い流されることなく、すぐに地球を取り囲んで、10年以上にわたって地球上のほとんどの太陽光を遮断するブランケットを形成するでしょう。

このため太陽光が減少し、世界中の気温が下がり、すべての収穫がなくなり、すべての植物を食料とする動物がなくなり、ほぼすべての人間が餓死することになるでしょう。南半球の人口は、核爆発による直接的な影響はほとんどない。しかしそうであっても放射性降下物によって、ユーラシア大陸、アフリカ、北アメリカと同様にほぼ全滅することになるでしょう」

引用ここまで

「核の冬」論文に対する当初の反撃よりも悪質なのは、その後数十年にわたって、アメリカとロシアの核戦略担当者が核開発計画にオプションを盛り込み続けたことだ。こうして都市とその近郊の上空で、両国が互いに何百もの核弾頭を同時爆発させる計画が出来上がった。その結果「核の冬」を引き起こすに十分な火煙が上層大気中に満たされ、我々自身をふくむ地球上のほぼすべての人々が、飢餓死へと導かれることになったのである。

 

これがエルズバーグの結論である。

 

米国国防総省の2008年版マニュアルには、核兵器が都市で爆発した場合の影響について20ページ以上にわたって記載されているが、熱風嵐については一言も触れられていない。

 

国防総省における内部検討に際しては、核の冬に関する当初の研究は否定されなかった。それどころではない。21世紀の核の冬の研究は、1980年代初頭の研究よりもはるかに高度なコンピューターモデルに基づいて、当初のモデルで想定されたよりも低いレベルの熱・核交換で核の冬を引き起こすことができることを明らかにしている。


これらの経過を鑑みると、ペンタゴン資本主義が核戦略そのものに組み込んだ「絶滅論」には、より強力なドライブがかかったと言える。この点が重要である。

 

これらの新しい研究の重要性は、『ディスカバー』誌が、過去 20 年間の「最も偉大な科学的過誤」 のリストに核の冬を含めてからわずか 7 年後の 2007 年に、「核の冬の再来」と題する記事を掲載し、以前の記事を実質的に否定したことに象徴されている。

 E.サーマン「核の冬が帰ってきた」ディスカバー誌 May 3, 2007 副題は「核拡散は古い恐怖(核の冬)に新しい生命を与える」となっている。



D)「核の冬」論の再興

最新の研究から核の冬に関するいくつかの報告を上げておきたい。

新しい推計

  (朝日新聞20228月より)

 

2007年から現在に至るまで、主要な査読付き科学雑誌に掲載された新しい一連の「核の冬」研究は、これだけにとどまらない。

 

スーパーフライ級対決

インドとパキスタンの間の核戦争を想定した検討が行われている。報告によれば、双方合わせ15キロトン(広島サイズ)の原爆100発を使うとすると、第二次世界大戦の全死亡者数に匹敵する直接死者が発生し、さらに長期的には世界の飢餓による死者や苦しみが生じる。

原子爆弾が爆発すると、35平方マイルが大火災になる。燃えた都市からは500万トンの煙が成層圏に放出され、2週間以内に地球を一周する。それは降雨では除去できず、10年以上残る。

煙が太陽光を吸収し水の沸点近くまで加熱される。このためオゾン層は2050%減少し、人類史上かつてない紫外線Bの増加が起こる。肌の白い人は約6分で重度の日焼けをし、皮膚がんも急激に増加する。

煙は一方で、日光の地上への到達を遮るため、世界の食糧生産は2040%減少する。その結果、世界で20億人以上が餓死する可能性がある

 

スーパーヘビー級対決

米国、ロシア、中国、フランス、英国の5大核保有国が参加する世界規模の熱核反応が起きたら、どんな被害をもたらすかという想定に基づく検討もある。米国とロシアの戦略核兵器を合わせただけでも、広島原爆の780倍の爆発力を持つ。(195060年代に開発されたメガトン級の爆弾は、その後製造されていない)

戦略核兵器が1発都市に落ちれば、260400平方キロ(1620キロ四方)の市街地を覆う大火災が発生する。地球規模で熱核兵器が使用された場合、15千万から18千万トンの黒い炭素の煤と煙が成層圏に放出される。それは20年から30年間上空に残り、太陽エネルギーの70%、南半球では35%が地表に届かなくなる。

真昼の太陽は真夜中の満月ほどの明るさになり、世界の平均気温は
12年の間、毎日氷点下になり、北半球の主要な農業地域ではさらに低くなる。平均気温は最終氷河期の気温を下回る。降水量は最大90%減少する。人類の大半は飢餓で死亡する。

 

E)核兵器は人類の「終末装置」

 

ハーマン・カーンは、1960年に出版した『熱核戦争について』の中で、核戦争が起きたら地球上のすべての人が死ぬという「人類滅亡機」(ドゥームズデイ・マシン)という概念を提唱した。

 

ハーマン・カーン:当時ランド社所属で「恐怖の均衡」を根拠とする核戦略を研究。キューブリック映画の「ストレンジラブ博士」のモデルと言われる。

 

カーンはそのような機械の製造を提唱したわけではない。彼は逆に、核戦争からのサバイバルを許さない「人類滅亡機」という仕組みこそが、核戦争を予防する究極手段となることを示唆しただけである。それは完全で取り消し不能の抑止を達成するばかりでなく、核戦争という選択を交渉のテーブルから取り除くためのもっとも安価な代替手段となるであろう。

 

核の冬のモデルを開発した科学者カール・セーガンやリチャード・ターコと同様に、元核戦略家であるエルズバーグも、今日の核保有国の戦略兵器は、もし爆発すれば実際の終末装置となる、と発言している。

 

ひとたび核兵器の全面発動システムが起動すれば、地球上のほとんどの人口が直接死と間接死とを問わず死滅することはほぼ確実であろう。



2.米国の核戦略の変遷

 

A)マクナマラの相互確証破壊(MAD
モスクワがワシントンと大まかな核パリティを達成した1960年代からソ連が崩壊するまで、米ソ冷戦の核戦略は「相互確証破壊(MAD)」という考え方が主流であった。

この原則は、双方が数億人の死者を含む壊滅的な被害を受ける可能性を意味し、事実上、核パリティに相当する。

核の均衡(パリティー): 米ロの二極体制で核の競争関係を安定させるために生み出されたパリティ(均衡)。それぞれがほぼ同数の核兵器を保有すること、確実な第二撃能力(確証破壊能力)を持つことで、結果的に全面核戦争に至る可能性を低下させた。しかし、これが三極体制に移行すると、それぞれの国に対して同時にパリティを追求することは不可能である。(クレピネビッチ

 

しかし、「核の冬」の研究が示すように、全面的な核戦争の結果は、それすらはるかに超えて、地球上のほとんどすべての人類(および他のほとんどの生物種)の滅亡に至る。

 

にもかかわらず、ソ連よりはるかに多くの資源を持つ米国は、冷戦初期の米国の核の優位性を回復しようと動き始めた。そのために核の冬の警告を無視し、MADを超越した米国の「核の優位性」の方向を目指したのである。

 

核優位性とは、核パリティに対して「報復攻撃の可能性を排除する」ことであり、「先制攻撃能力」とも呼ばれる。

 

ワシントンの公式な防衛態勢は、核保有国や非核保有国に対して絶対的な核優位を確保し、必要であれば先制核攻撃を行う可能性をふくむようになった。この戦略変更はきわめて重要である。

 

カーンは、「世界滅亡マシン」の概念の導入に加え、米国の代表的な戦略立案者の一人として、カウンターバリューとカウンターフォース(countervalue and counterforce)という重要な用語を作り出した。

 

カウンターフォースは、敵の核兵器施設を標的とし、報復を防ぐ戦略を意味する。いわばMADと結びついた従来型対抗手段である。これに対しカウンターバリューとは、敵の都市や民間人、経済などを標的にすることで、敵の持つすべての価値の完全な消滅を目指す。それは第二撃攻撃を許さないという点でMADの否定につながる。

 

カウンターフォース戦略はケネディ政権の下でロバート・マクナマラ国防長官が導入したものである。当初は、都市や民間人ではなく相手の核兵器を攻撃する「ノーシティ」(No Cities)戦略として捉えられた。(その後もそのような文脈で正当化されることがあるが間違いである)。


しかし、マクナマラはすぐにカウンターフォース戦略の欠点、すなわち核の優位性の達成(または否定)を目的とした核軍拡競争を誘発することに気づいた。

 

さらに、「先制」反戦力攻撃は都市への攻撃を伴わないという考え方は、最初から間違っていた。核司令部の多くは都市にあり、先制攻撃も第二撃攻撃も核司令部(都市)を標的とせざるを得ないからだる。

 

そのため、彼はノーシティー戦略を間もなく放棄し、核抑止のための唯一の真のアプローチと考えるMADに基づく核戦略を採用したのである。この米国の核戦略は、1960年代と70年代の大半を占め、ソ連との大まかな核のパリティ、ひいてはMADの可能性を受け入れていたことが特徴であった。

 

 

B)レーガン戦略: 強力なカウンターフォース戦略への復帰

 

しかし、これはジミー・カーター政権の最終年に崩壊した。1979年、NATOがソ連の核兵器に対抗する核武装巡航ミサイルとパーシングIIを欧州に配備することを認め、欧州の反核運動に火をつけたのである。


その後レーガン政権になり、アメリカは「カウンターフォース戦略」を全面的に採用した。レーガン政権は、米国本土を防衛できる包括的な対弾道ミサイルシステムの開発を目指し、「スターウォーズ」を導入した。その後、これは非現実的なものとして放棄されたが、その後の政権における他の対弾道ミサイルシステムへとつながった。

 

また、レーガン政権下では、MXミサイル(後に平和製造機“ピースメーカー”と呼ばれる)の配備を推進した。これは、ソ連のミサイルを発射前に破壊することができる反撃兵器とみなされていた。

 

これらの兵器はいずれも、先制攻撃によりソ連軍殲滅をもたらし、生き残ったソ連軍のミサイル反撃を対抗弾道ミサイルシステムで迎撃する戦略に沿ったものであった。

 

カウンターフォース兵器は、「カウンターバリュー」攻撃のような都市破壊ではなく、堅固なミサイルサイロ、移動式陸上ミサイル、原子力潜水艦、指揮統制センターを正確に狙うものであるため、より高い精度が要求されるようになった。

 

まさにこの点で、米国はソ連に対して優位に立った。1979 年に計画された核弾頭搭載ミサイル運搬システムのヨーロッパ配備に始まるこの大規模な核軍備増強は、1980 年代のヨーロッパと北米における大規模な核戦争抗議行動と、トムソンによる絶滅論批判と核の冬に関する科学的研究を引き起こした。

 

軍備管理協会のヤンネ・ノーランは「カウンターフォースは、いまもなおアメリカの核戦略の聖域であり、核の優位性を保障している」と語っている。

 

 

C)ネオコンと「最大主義」(Maximalist)戦略

 

1991年にソ連邦が崩壊し冷戦が終結した。米国は直ちに、新たなビジョンに転換する作業を開始した。それは、米国が地球全体を永久に支配するという一極集中の立場を貫くものだった。

 

19922月、父ブッシュ政権のもとでポール・ウォルフォウィッツ国防次官が発表した「国防政策ガイダンス」がその始まりである。

 

それは、ロシアがふたたび大国化するのを阻止するために、西側の支配地域を旧ソ連領やその勢力圏内にまで地政学的に拡大しようというものであった。

 

一方、核軍縮の流れの中で、エリツィン政権下のロシアの核戦力が低下していった。米国はこの機会を逃さなかった。そして抑止力の強化からさらに進んで、核の優位性を実現しようとはかった。そのために、既存の核兵器体系をより技術的に進んだ戦略兵器に置き換える「近代化」を図ったのである。

 

冷戦後の世界において、対抗兵器を推進し続けることで核の優位性を追求する米国の戦略は、当時の核政策をめぐる議論において「最大主義」(Maximalist)と呼ばれ、MADに依存する「最小主義」(Minimalist)を主張する人々によって反対された。

 

結局、最大主義者が勝利し、新世界秩序は、ウクライナを究極の地政学的・戦略的軸とする NATO の拡大と、絶対的核優位と先制攻撃能力という最大主義的目標を追求する米国によって定義されるようになったのである。

 

 

D「核の優位を確立したアメリカ―核抑止時代の終わり」

 

2006 年にリーバーとプレスは、外交問題評議会の機関誌であるフォーリン・アフェアーズに画期的な論文「核の優位を確立したアメリカ―核抑止時代の終わり」を発表している。

 

同誌日本語版から内容紹介を引用する。

近いうちに、アメリカが核の先制攻撃によってロシアや中国の長距離核のすべてを破壊し、反撃能力を一度に粉砕できるようになる日がやってくる。この核のパワーバランスの劇的なシフトは、アメリカが核システムを持続的に改善し、ロシアの核兵器がしだいに時代遅れになり、中国の核戦力の近代化がゆっくりとしたペースでしか進まなかったことの帰結である。われわれのシミュレーションでも、ロシアの戦略核のすべてを一度の核攻撃で破壊できるという結果が出ている。相互確証破壊の時代、核抑止の時代は終わりに近づきつつある。今後、問われるのは、核の優位を手にしたアメリカが、国際的にどのような行動をとるかだろう。

 

その中で米国は「核の優位性」、すなわち先制攻撃能力を獲得しつつあり、これは少なくとも冷戦終結後からの米国の目標であったと主張した。彼らが言うように、「いまワシントンは実際に、核の確実な優位性を求めている」

このような先制攻撃能力をワシントンの手のうちに入れたのは、冷戦後に加速した核近代化と新しい核兵器であった。

核武装巡航ミサイル、海岸近くまで侵入しミサイルを発射できる原子力潜水艦、核巡航ミサイルと重量核爆弾を搭載した低空飛行のB-52ステルス爆撃機などの兵器は、ロシアや中国の防衛をより効果的に突破することができる。


より精度の高い大陸間弾道ミサイルは、堅固なミサイルサイロを完全に撤去することができる。監視体制を強化すれば、ロシアの移動式ミサイルや原子力潜水艦を追跡して破壊することも可能になる。

 

一方、米国の原子力潜水艦に導入されるより精度の高いトライデントII D-5ミサイルは、堅固なミサイル発射台に使用するため、より大容量の弾頭を搭載している。

 

米国がリードしてきたより高度なリモートセンシング技術は、移動する陸上ミサイルや原子力潜水艦を探知する能力を大きく向上させた。他の核保有国の衛星を標的とする能力があれば、当該国の核ミサイル運搬能力を弱体化し、必要とあれば排除できる。

 

最近 NATO に加盟した国やロシアの国境付近または国境に戦略兵器を配備することは、核兵器がモスクワ や他のロシアの目標を攻撃する速度を高め、クレムリンに対応する時間を与えないことになる。

 

米国がポーランドとルーマニアに設置したイージス艦の弾道ミサイル防衛施設も、たんなる防衛にとどまらず、核武装したトマホーク巡航ミサイルを発射できる攻撃兵器となる可能性がある。

 

核ミサイル防衛施設は、主に米国による先制攻撃への報復に対抗する場合に有効で、生き残って相手側に発射されたミサイルを限定的に撃ち落とすことができる。しかし、これらの対弾道ミサイルシステムは、先制攻撃を受けた場合、膨大な数のミサイルとデコイ(オトリ)に圧倒されるため、効果はほぼゼロとなる。

 

ここ数十年、米国は反撃のための高精度の非核航空宇宙兵器を大量に開発してきた。それらは敵のミサイルや指揮統制施設を狙った反撃に使用される。人工衛星による精密照準が可能であり、反撃効果において核兵器に匹敵するといわれる。

 

リーバーとプレスの論文(2006年)によれば、「今後 10 年間に北京が生存可能な核抑止力を獲得する確率は低い」とされる。かくして米国の大規模な先制攻撃を前にして、ロシアの抑止力の生き残りは疑問視される。

 

「我々の分析が示唆するものは深刻だ。ロシアの指導者たちは、もはや生存可能な核抑止力を当てにすることはできない。なぜなら、米国は通常兵器と核戦力の両方において、現代の軍事技術のあらゆる次元で優位に立とうとしているから」である。これが ”優位性の進行“と呼ばれるものだ。

 

2010年米ロ間で新戦略兵器削減条約(New START)が調印された。しかしそれは、核兵器を制限する一方で、一方が他方の軍備を破壊することを可能にする対抗兵器の近代化競争を阻止することはなかった。むしろ、核兵器の数を制限したことで、米国が優位に立つカウンターフォース戦略がより現実味を帯びてきた。

 

核報復兵器の生存能力には3つの環境基盤がある。第一に撃たれ強い強靭なミサイル基地、第二にその存在の秘密性、そして群れをなす小魚のような数の多さである。


それらをふくめて核兵器の優位性をワシントンの目標とした米国は、冷戦時代に結ばれた主要な核条約から一方的に離脱し始めた。

 

2002 年、ジョージ・W・ブッシュ政権下で、米国は対弾道ミサイル条約から一方的に脱退した。2019年、ドナルド・トランプ政権下で、ワシントンはロシアが中距離核戦力条約に違反しているとして脱退した。2020年、再びトランプ政権のもと、米国は他国上空の偵察飛行に制限を設けた「オープンスカイ条約」からも脱退した。これに続き、2021年にはロシアが脱退した。

 

これらの条約からの脱退は、核の優位性を追求するワシントンにとって、対抗力の選択肢を広げることができ、有利であったことは疑いようがない。

 

 

E)ロシアの対抗核戦略

 

米国が全体的な核優位性を追求する中、ロシアは過去 20 年間に核兵器システムの近代化を試みてきたが、反撃能力の点で明らかに不利であった。

 

ロシアの基本的な核戦略は、米国の先制攻撃によって自国の核抑止力と報復能力が事実上消滅することへの懸念によって決定される。そのため、信頼できる抑止力の再確立に努めてきた。

 

コロンビア大学ソルツマン戦争平和研究所のシンシア・ロバーツは、2020年に「ロシアの核抑止力政策に関する啓示」で次のように書いている。

 

米国が通常兵器戦争と核戦争の両方で戦略的戦力をさらに向上させることは、「ロシアの核抑止力に穴を開け、モスクワに実行可能な第二撃のオプションを与えない」ための継続的努力の一環である。そして最終的には、「断末魔」に陥ったロシアが、核抑止力に訴える可能性を完全に排除するものだと認識している。

これがロシアに与えられた「啓示」である。

 

ロシアはMADを主体にしながらも「抑止が失敗したら全面戦争」という従来型の姿勢である。これに対し米国は、「核を先制使用し、さらに段階的にエスカレートする」という最大限の核「防衛」態勢をとっている。

 

しかし、近年、ロシアと中国は戦略兵器技術とシステムにおいて飛躍的な進歩を遂げている。

先制攻撃能力を開発し、核抑止力を無力化しようとする米国に対抗するため、モスクワと北京は、ミサイル防衛と高精度ターゲットにおける米国の優位に対抗するために、非対称の戦略兵器システムに目を向けたのである。

 

大陸間弾道ミサイルの弱点は、極超音速(通常、音速の5倍以上と定義される)に達するものの、大気圏突入時には弾道の予測可能な弧を描くことである。そのため、奇襲性に乏しく、目標が予測できるため、理論的には対弾道ミサイルで迎撃することができる。

 

大陸間弾道ミサイルを格納する強固なミサイルサイロも明確な標的であり、現在では核・非核を問わず米国の高精度衛星誘導ミサイルに対してはるかに脆弱である。

 

このような基本的抑止力への脅威に直面したロシアと中国は、「空力的機動」が可能な極超音速ミサイルの開発を米国に先駆けて進めている。

 

超機動性(Supermaneuverability):元はAIを駆使した航空機の曲芸飛行。核ミサイルに本機能を与えようとする技術。
Supermaneuverability
Wikipedia より

テキスト

自動的に生成された説明

 

ロシアは、単独でマッハ10以上に達するとされる極超音速ミサイル「キンザール」と、もう一つの極超音速兵器「アバンガルド」を開発した。ロケットで加速すると、マッハ10という驚異的な速度に到達する。

 

中国は、マッハ6に達する「ウェーブライダー」極超音速巡航ミサイルを持っている。中国の故事にちなんで「暗殺者の棍棒」と呼ばれるこの兵器は、より優れた武器を持つ敵に有効な兵器である。

 

またロシアと中国は、人工衛星で操縦する高精度の核兵器や非核兵器での米国の優位性を排除するために、対衛星兵器の開発を進めている。いわゆる核の優位性は他の主要な核保有国の技術力を考えると、結局ワシントンの手に負えるものではない。

 

さらに、カウンターフォース戦略によって引き起こされる核軍拡競争は、基本的に非合理的である。それはMADシナリオで想定されるよりもはるかに大きな結果をもたらす一連の熱核爆発を引き起こし、双方で数億人の死者が出る。

「核の冬」とは、世界的な核の応酬で地球全体が成層圏を回る煙と煤に包まれ、ほとんどすべての人類が死滅することを意味する。

 

この現実を考えると、全面的な核戦争に勝利することを前提とした米国の核態勢は、都市部での火災の役割を否定し、それによって煙が上空に舞い上がり、太陽の光のほとんどを奪ってしまうため、特に危険であると言える。

 

F)核の優位性を追求することは狂気への道

 

核の優位性を追求することは、MADから狂気(madness)へと導く。

 

エルズバーグはこう書いている。

 

互いに首を斬り合って共倒れするという図は、どうやっても避けるわけにはいかない。うまいことやれるという図には根拠がないことが明らかだ。

米ソ間の核戦争は、両当事者にとってだけでなく、世界にとっても容赦ない破滅になることが事実上確実である。

政策立案者は、このような「地球規模の殺戮の引き金となる脅威」は存在しないと信じているかのように行動している。それだけだ。

 

3.新冷戦と欧州劇場

 

A)核脅迫はアメリカ帝国主義の主要な圧力手段

 

トムソンは、「絶滅論ノート」や1980年代の欧州核軍縮運動の指導者としての一般的な立場から、次のように語った。

 

ヨーロッパで起こっている核軍備増強は、軍事技術的要請の産物である。それは国際外交の潮流とは無関係に、技術革新や非核戦争の技術向上によって推進力を与えられている。

 

エルズバーグは 1981 年にトムソンとダン・スミスによって編集された『抗議し、生き残る』の米国版への序文で、1949 年に始まる一連の事例を列挙している。

 

そこではアメリカ帝国主義が他国に「引き下がれ」と圧力(核兵器、非核兵器を問わず)をかけるために、核先制攻撃の脅しを用いてきたことを明らかにした。1945年から1996年までの間だけでも、25件の核による威嚇が記録されており、それ以降も繰り返されている。

 

核攻撃に対する対抗兵器を充実させることで、ロシアや中国のような主要な核保有国に対しても核優位が確立され、それによってふたたび核の威嚇に訴える可能性が現われたことを示している。この意味で、脅しとしての核戦争の利用は、米国の戦略に組み込まれている。

 

マグドフとスウィージーは、このアプローチ全体を、「核のチキン・ゲーム」と呼んだ。そこでは米国が最も攻撃的なプレーヤーである。

 

「核のチキンゲーム」は、冷戦が終わってもそれで終わったわけではない。ズビグニュー・ブレジンスキーはカーター政権の国家安全保障顧問であり、冷戦後のNATO拡大の主要な立役者の一人である。

 

彼の影響を受けた米国の国家安全保障政策は、彼が「グランドチェス盤」と呼んだユーラシア大陸に対する米国の究極の地政学的ヘゲモニーを追求し続けている。

 

ブレジンスキーによれば、対ソ戦における究極のチェックメイトとは、ウクライナを戦略的核同盟としてNATOに加盟させることであった。

(しかし、ブレジンスキーは地政学的な戦略を提示する際に、核問題を慎重に排除した)。

 

BNATOの東方進出とウクライナ

 

ロシアは大国として終わりを告げ、場合によっては様々な国家に分裂し、それによって米国は地球全体に覇権を示すことになる。

 

冷戦後の米国の一極支配を恒久的な世界帝国にするためには、NATOの東方拡大が必要であった。

 

NATOは、クリントン政権下の1997年から、西ヨーロッパとウクライナの間のほぼすべての国を大西洋同盟に編入している。ウクライナこそはロシアの心臓を抉る短剣であり、東方進出の旅の究極の目的地である。

 

ここまでは、米国が主導するNATO拡大戦略と核の優位性を求めるワシントンの動きが、ほぼ一直線に進んでいることが示されており、一種の一体感があった。

 

NATOのウクライナへの軍事的進出を前に、ロシアが自国の安全保障の問題を考えざるを得なくなったことは、誰の驚きでもないだろう。

 

かつてワルシャワ条約機構やソ連の一部であった11カ国をすでに包含するNATOの拡大が始まって10年、『フォーリン・アフェアーズ』で米国の核の優位性が強調されてからわずか1年、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2007年のミュンヘン安全保障会議で「単極モデルは今日の世界では容認できないばかりか不可能」と明確に宣言し、世界を驚かせたのである。

 

しかし、ブレジンスキーがユーラシアの「地政学的要衝」と呼んだ地域に進出し、ロシアを致命的に弱体化させるという長期戦略に沿って、2008年のブカレスト首脳会議でNATOはウクライナを軍事戦略的(核)同盟に参加させる方針を明確に表明している。

 

2014年、ウクライナでは米国が仕組んだマイダン・クーデターにより、同国の民主的に選ばれた大統領が退陣し、代わりにホワイトハウスが選んだ指導者が就任し、ウクライナは右派・超国家主義勢力の手に渡った。

 

ロシアは、クリミア半島を自国の領土とせず、ロシア語を話すクリミア人に、ウクライナに残るかロシアにつくかを選択させる住民投票を実施し、クリミアを自国の領土としたのである。

 

このクーデター(カラー革命)は、キエフによるロシア語圏のドンバス地域への激しい弾圧を引き起こし、キエフ(ワシントンの支持)とロシア語圏のドンバス共和国であるドネツクとルハンスク(モスクワの支持)の間でウクライナ内戦を引き起こす結果となった。

 

2014年から2022年初頭にかけて14,000人以上の死者を出したウクライナ内戦は、2014年に紛争を終わらせ、ウクライナ内のドンバス共和国に自治権を与えるという意味のミンスク平和協定に調印したものの、その後の8年間は低調に推移していた。

 

C)ウクライナ紛争の開始

 

20222月、すでにキエフ政権はウクライナ東部のドンバスの国境に13万人の軍隊を集結させ、ドネツクとルハンスクへの攻撃を開始していた。

 

ウクライナ危機が深刻化する中、プーチンは、ウクライナの安全保障に不可欠なロシアの死守すべき生命線として、以下の項目を主張した。

 

ミンスク協定の順守:

この協定はロシア、ウクライナ、フランス、ドイツが合意し、ドンバス人民共和国が署名、国連安保理が支持したものである。それによって、ドネツクとルハンスクの自治と安全を保証することが可能となる。

NATOによるウクライナの軍事化に終止符を打つこと。

ウクライナはNATOの外側に留まる。

 

米国に促された NATO は、これらのレッドラインをすべて越え、ドンバス共和国との戦いでキエフに対する軍事支援を強化し、ロシアはウクライナを事実上 NATO に編入しようとしていると解釈したのである。

 

2022224日、ロシアはウクライナ内戦にドンバス側として介入し、キエフ政府軍を攻撃した。

 

227日、モスクワは冷戦終結後初めて核戦力の動員もふくめた厳戒態勢を敷いた。いまや資本主義大国同士の世界規模の核兵器ホロコーストの可能性が世界に突きつけられている。

 

ワシントンでは、ジョー・マンチン3世上院議員(民主党、ウエストバージニア州選出)などが、米国がウクライナに「飛行禁止区域」を設定するよう求めている。これは飛来したロシアの飛行機を撃墜することを意味する。そのようなことが起きれば、第三次世界大戦にエスカレートする可能性が高まるだろう。

 

4.二つの視点から見た絶滅論

 

A)気候変動と環境問題

 

気候変動が人類の存続を脅かす地球規模の脅威であるという認識は、今日では一般的なものである。化石燃料を大量に消費する資本主義の継続的な拡大が、その可能性を示唆しているのである。もし、数十年のうちに生産システムを根本的に変えなければ、産業文明が崩壊し、人類の生存が危ぶまれる可能性さえある。

 

これが、現代における環境絶滅論の意味である。

 

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、世界の平均気温を産業革命以前の水準から1.5、あるいは2以下の上昇に抑える合理的な望みがあるならば、2050年までに二酸化炭素の排出を完全にゼロにしなければならないとされている。この目標を達成しないと、地球が荒廃し人類と無数の生物種にとって安全な場所でなくなることを意味する。

 

気候変動は、9つの惑星の境界を越える問題に関連している。それは地球単独ではなく、地球を含む惑星群の生態学的危機の一部である。

 

気候変動は、種の絶滅、成層圏オゾン層破壊、海洋酸性化、窒素・リン循環系の崩壊、森林の消失、砂漠化に伴う淡水源の減少、大気へのエアロゾル負荷、新しい合成化学物質や新しい遺伝子形態などこれまで存在しなかったの創出など、気候変動そのもの以外の現象にも関連している。

 

さらに、COVID-19のような新しい人獣共通感染症の出現も、主にアグリビジネスによって加速された人間と環境との関係の変容に起因している。

 

しかしさまざまな環境問題の中でも、気候変動が現在の地球規模の生態系の危機の中心であることに疑いの余地はない。それは「核の冬」と同様に、文明と人類の種の存続を脅かすものである。

 

IPCCは、2021-22年の気候変動の物理科学とその影響に関する報告書で、「不可逆的な気候変動を回避するものの、今後数十年で地球規模の大災害が拡大する」というシナリオを、もっとも楽観的な予測として伝えている。

 

地球文明がかつて経験したことのないような異常気象にさらされる何億、何十億という人々の生命と生活環境を守るために、早急な行動が必要である。

 

これに対抗するためには、資本主義体制によって簒奪された人々が生き残り可能な条件を獲得するために、労働者と人民の、世界がかつて経験したことのないような大運動が必要である。そして言葉だけでなく平等に根ざした、生態学的に持続可能な世界を再構築することである。

(B) 
社会主義が唯一の解決の道

 

皮肉なことに、今日の気候危機の破滅的な性質に世界の注目を集めることを意図した2022年のIPCC報告書は、ロシアがNATOに反抗してウクライナ内戦に参戦し、地球規模の熱核交換の可能性への懸念が高まった4日後の2022228日に発表された。

 

つまり、全人類を危険にさらすグローバルな脅威である「炭素による皆殺し」の検討中に、「核による皆殺し」が突如として出現し、世界の関心がそちらに向いてしまったのである。世界が主要な核保有国間の戦争の可能性に目を向けたとき、「核の脅威」の前に全地球的規模の炭素脅威は、姿を隠してしまったのである。

 

オムニサイド(omnicide:人間の行動の結果、人類の絶滅すること。一般的には、核戦争による人類の絶滅こと、最近では生態系の激変による絶滅も指す。

 

地球温暖化と核の冬は、原因は別だが、気候の面では密接に関連している。それらは世界が何らかの形で地球上のほとんどの生命を滅亡させる瀬戸際にあることを示している。

 

地球温暖化によって人類は生存不能となり、核兵器によって数億人が死亡する。その結果、数日から数カ月にわたって地球が冷え込み、飢餓によって世界の人口の大半が死滅する。

 

人類の存続を脅かす気候変動の破壊的な影響が、権力者たちによって否定されているのと同じように、核戦争の惑星全体への影響も否定されている。核の冬に関する科学的研究によれば、地球上のすべての大陸の人口が事実上消滅することになるという。 

 

さらに、地球温暖化が進み、地球文明が不安定になった場合(自然科学者は世界の平均気温が4上昇した場合に起こりうると予測している)、資本主義国家間の競争が激化し、それによって核爆発、つまり核の冬の危険性が高まるのである。

 

今日、私たちは絶滅論と人類の生態学的要請のどちらかを選択する必要に迫られている。現在、人類を脅かしている二つの地球規模の存亡の危機の原因物質は同じである。

 

それは資本主義であり、帝国主義勢力の肥大化である。それは非合理だ。限られた地球環境と指数関数的に増大する資本蓄積とは両立し得ない。

 

この無限の脅威に対する唯一の可能な解決は、エコロジーと平和の両方に根ざした普遍的な革命的運動である。それは現在の地球の組織的破壊と決別し、生態学と平和の両方に根ざした普遍的な革命運動、すなわち、社会主義である。

 

 

 

 

Who Is Leading the United States to War?

Deborah Veneziale
Deborah Veneziale

誰が米国を戦争に導くのか?
デボラ・ヴェニツィアーレ


目次
はじめに
1.米国の支配的なエリートの中で、誰が戦争を提唱しているのか?
(A)タカ派リベラルと新保守主義(ネオコン): 好戦的外交政策エリートの合流
(B)共和党と新保守主義(ネオコン)の支配
(C)タカ派リベラルと新保守主義 同一性と差異性
(D)ディープ・ステートの担い手 外交問題評議会(CFR)
2.ネオコン、タカ派リベラル、外交問題評議会が反中国で協調
(A)反ソから反中国へ 主要敵の変更
(B)トランプ当選による外交政策の撹乱
(C)バイデンの勝利とCFRコンセンサスの再開
(D)ブリンケンと「戦争好きの仲間」たち 
3「新冷戦論」は、米国外交の堕落を過小評価するもの
(A)国際関係の緊張をもたらす最大の要因
(B)もはや問題は貿易不均衡ではない
4.アメリカの軍産複合体と戦争への衝動
(A)軍産複合体の特別の役割
(B)軍産複合体による国家の私物化
(C)アメリカ軍国主義に対する国内の抵抗力の弱体化
(D)資本家階級内に対中・ロ慎重派はいなくなった
(E)極右の台頭と反中国の大合唱
(F)米国の三権分立は機能していない
5.私たちは戦争しなければならない運命にあるのだろうか?
(A)対中戦争へのキャンペーンは始まっている
(B)反戦闘争の伝統だけでは平和は維持できない
(C)米国の対中強攻策は失敗に終わるだろう


はじめに

米国が戦争への強欲な意思を強めていることを世界が感じ取っている。 ウクライナ危機の進展の中で、米国とNATOは、ロシアとの代理戦争をエスカレートさせる一方、中国に対する包囲網と挑発を強化し続けている。

この戦争への意図は、2022年5月15日のNBC「ミート・ザ・プレス」のコーナーで、米国が中国に対して戦争を仕掛けるシミュレーションが行われた際にも表れていた。 この「戦争ゲーム」は、ワシントンD.C.の著名なシンクタンクである「新アメリカ安全保障センター」(The Center for a New American Security:CNAS)が主催したものである。

MTP-Gaming-Lab
    MAY 13, 2022 CNAS Gaming Lab on Meet the Press

CNASは台北経済文化代表処、ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団、軍事産業(レイセオン、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクス、ボーイング)が資金援助を行っている。さらにFacebook、Google、Microsoftなどのテクノロジー企業なども資金を提供している。

最近、議会と国防総省の両方からの戦争に向けたサインが発信されているが、このシミュレーションは、それらの警戒すべきシグナルと一致している。4 月 5 日、米戦略軍司令官チャールズ・リチャードは、議会で証言した。そこで彼はロシアと中国が米国に核の脅威をもたらすと主張した。また、中国は自国の利益のために核の威圧を利用する可能性が高いと主張した。

その直後の4月14日には、米国の超党派の議員団が台湾を訪問した。5 月 5 日、韓国は NATO 傘下のサイバー防衛組織への加盟を発表した。6月、NATOは年次首脳会議で、ロシアを「最も重要かつ直接的な脅威」とし、中国を「我々の利益に対する挑戦者」と位置づけた。このNATO首脳会談に韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランドが初めて参加した。首脳会談は将来的にNATOアジア支部が結成される可能性を示唆した。 

さらに8月2日には、バイデン政権で3番目に高い地位にあるペロシ下院議長が、米空軍に護衛されて台湾を訪問し、北京を露骨に挑発する事態となった。バイデン政権の積極的な外交政策に直面し、疑問を抱かずにはいられない。


1.米国の支配的なエリートの中で、誰が戦争を提唱しているのか?

このような好戦性はどこから湧き出てくるのだろうか。それを抑制する仕組みは、国内にあるのだろうか。

本稿では、3つのグループが先導しているという結論を導き出した。

第一に、バイデン政権では、タカ派リベラルとネオコン派という、かつて互いに競合していた二つのエリート外交政策グループが戦略的に融合している。彼らは、1948年以来この国のエリート層における最も重要な外交政策のコンセンサスを形成し、米国の戦争政策を新たなレベルに押し上げた。

第二に、米国の大ブルジョアジーは、その長期的利益を考慮し、中国を戦略的ライバルとする考えでコンセンサスに達している。そして外交問題評議会(CFR)を通じて、政治エリート層の外交政策に対する強固な支持を確立している。

第三に、いわゆる民主的なチェック・アンド・バランス制度は、この好戦的な政策の広がりを抑制することが全くできなくなっている。その理由は複合的であり、米国憲法の構成上の問題、極右勢力(Qアノンなど)の拡大、選挙費用の巨大な膨張などが挙げられる。


(A)タカ派リベラルと新保守主義(ネオコン): 好戦的外交政策エリートの合流

米国には「自由主義的介入主義」の伝統がある。初期の代表はハリー・トルーマン、ジョン・F・ケネディ、リンドン・B・ジョンソンなど民主党大統領である。その思想的ルーツは、「アメリカは民主主義のために世界の舞台で戦うべきだ」というウッドロウ・ウィルソンの考えにまでさかのぼることができる。ベトナムへの侵攻は、このイデオロギーに導かれたものであった。

ベトナムでの敗戦後、民主党は外交政策として介入を求める声を一時的に抑えた。しかし、民主党の上院議員ヘンリー・ジャクソンは、反共産主義者、介入主義者とともに、「新保守主義運動」を推進するようになった。新保守主義者は、ジャクソンの支持者や元スタッフを含め、1970年代後半、ソ連の拡張主義に立ち向かうという理由で、共和党のレーガンを支持した。これがタカ派リベラルと呼ばれるものである。

(ヘンリー・ジャクソン(Henry Martin "Scoop" Jackson) 1912年生まれ。上院議員として国防・安全保障政策、エネルギー政策、環境政策で活動。「ボーイング社の上院議員」とも呼ばれた、リベラルなタカ派であった)

1991年のソ連邦が崩壊し米国の単独行動主義が台頭した。このあと父ブッシュ政権に結集した新保守主義者が米国の外交政策の主流となった。その思想的指導者であるポール・ウォルフォウィッツは、ヘンリー・ジャクソンの元側近であった。

ウォルフォウィッツ(Paul D. Wolfowitz)1943年生まれ。国防副長官、世界銀行総裁などを歴任。代表的なネオコンの論客の1人であり、親イスラエル派・親台派である

ソ連崩壊からわずか数カ月後の1992年、当時国防次官だったウォルフォウィッツは、「国防政策指針」を発表した。このガイダンスは、米国が永続的な一極集中の立場を維持することを提唱。また米国の軍事力を旧ソ連の勢力圏とその周辺に拡大し、ロシアの再大国化を阻止することを主張している。

(B)共和党と新保守主義(ネオコン)の支配

ジョージ・H・W・ブッシュ、その息子ジョージ・W・ブッシュ、ビル・クリントン、バラク・オバマの外交政策は、軍事力の投射による米国主導の一極集中戦略であった。第一次湾岸戦争は、ソ連の弱体化により、米国が主導権を握った。その後、米国とNATOがユーゴスラビアを軍事的に解体した。

9.11以降、ブッシュJr.政権の外交政策は、ディック・チェイニー副大統領、ドナルド・ラムズフェルド国防長官ら新保守主義者によって完全に支配されることになった。タカ派リベラルと新保守主義者はともに対外的な軍事介入を熱心に主張してきたが、歴史的には両者の間に2つの重要な違いがあった。

第一に、リベラル・タカ派は、米国が国連などの国際機関に働きかけて軍事介入を行うべきと考える傾向があり、新保守派は多国間機関を無視する傾向があった。

第二に、リベラル・タカ派は欧米の同盟国とともに軍事介入を主導しようとしたが、新保守派は単独での軍事作戦や国際法違反を平然と行う傾向が強かった。ハーバード大学の歴史学者であるニール・ファーガソンが言うように、新保守主義者はアメリカ帝国の「称号」を喜んで受け入れ、世界の覇権国家として、どんな国をでも一方的に攻撃した。


(C)タカ派リベラルと新保守主義 同一性と差異性

共和党と民主党は歴史的に独自の政策提言機関を発展させてきたが、外交戦略に対するアプローチが別個であると考えるのは誤解である。確かにヘリテージ財団のようなシンクタンクは共和党寄りの新保守主義の拠点であり、ブルッキングス研究所や後に設立されたCNASのように民主党寄りのタカ派リベラルの拠点であったところもある。

しかし、これらの組織では、両党の議員がそれぞれ働いており、その違いは所属党派ではなく、具体的な政策提言が中心となっている。実際には、ホワイトハウスや議会の背後には、非営利財団、大学、シンクタンク、研究グループなどからなる超党派の政策立案ネットワークがあり、企業や資本家の思惑を政策提言や報告書にまとめているのである。

もう一つよくある誤解は、いわゆる自由主義には進歩的側面があり、社会開発を促進し、国際支援を行い、軍事支出を制限するというものである。

しかし、1970年代半ばに始まった新自由主義時代の特徴は、国家を市場原理に従属させ、医療、食糧援助、教育などの社会支出を緊縮する一方で、無制限の軍事支出を奨励するものである。この新自由主義政策のもとで、大多数の国民の生活の質は著しく損なわれてきた。

共和党も民主党も、新自由主義の原則に従っている点では違いはない。バイデンの2022年の年間予算には軍事費の4%増が含まれており、COVID-19の大流行の際には、米国政府は5兆ドルの刺激資金を提供した。そのうち1兆7千億ドルが直接企業の懐に入ったとされる。これらの事実に象徴されるように、バイデンも新自由主義の原則に忠実に従っている。

新自由主義は、特に南半球に壊滅的な影響を及ぼしている。新自由主義は発展途上国を債務の罠に引きずり込み、国際通貨基金や世界銀行に際限なく債務を支払うよう強要してきた。


(D)ディープ・ステートの担い手 外交問題評議会(CFR)

外交政策において、第二次世界大戦後、最も影響力のある米国のシンクタンクは「外交問題評議会」である。このシンクタンクは、様々な支配階級の資金源から資金提供を受けている。

外交問題評議会Council on Foreign Relations CFR外交問題・世界情勢を分析・研究する非営利の会員制組織。外交誌『フォーリン・アフェアーズ』を刊行。二大政党の中枢は外交問題評議会によって強く結合されており、米国が実質的な一党独裁と言われる根拠になっている。またCIAの謀略工作には外交問題評議会メンバーが関与していることが多いとされる。(Wikipedia)

評議会の創設者レベルの企業メンバーには、エネルギー(シェブロン、エクソンモービル、ヘス、テルリアン)、金融(バンクオブアメリカ、ブラックロック、シティ、ゴールドマンサックス、JPモルガンチェース、モルガンスタンレー、ムーディーズ、ナスダック)、テクノロジー(アクセンチュア、Apple、AT&T、シスコ)、インターネット(Google、メタ)など各界のリーダーたちが名を連ねている。現在の役員には、ブッシュ・シニアの中東担当主席顧問であるリチャード・ハースや、オバマの国防長官であるアシュトン・カーターが名を連ねている。

ドイツの雑誌『シュピーゲル』は、CFRを「米国と西側世界で最も影響力のある民間機関」、「資本主義の政治局」と評している。また、ワシントン・ポストの元上級編集者兼オンブズマンであるリチャード・ハーウッドは、同評議会とそのメンバーを "米国の支配体制に最も近いもの "と呼んでいる。

CFRの政策提言は、同年8月のペロシの台湾訪問を前に、2022年1月に「台湾問題への対応で日米の連携を強化する」と提言しているように、米国ブルジョアジーの長期戦略思考を反映したものである。

これらの様々な機関のスタッフが選挙でどの政党の候補者を支持しようとも、この長年にわたる超党派の協力ネットワークは、ワシントンにおける一貫した外交政策を維持してきた。このネットワークは、他国が国際情勢に関与する権利を否定する米国至上主義の世界観を推進する。このイデオロギーは、南北アメリカに対する米国の支配を宣言した1823年のモンロー・ドクトリンにさかのぼる。今日の米国外交のエリートは、このドクトリンの適用範囲を西半球から全世界に広げている。

このグループの外交政策立案者は、党派を超えた相乗効果と所属党の乗り換えが一般的である。 このグループは、米国の外交政策を支配する政治エリート、資本家集団とその代理人、そして「ディープ・ステート」(影の国家:軍と一体化した情報機関)と密接に結びついている。


2.ネオコン、タカ派リベラル、外交問題評議会が反中国で協調

(A)反ソから反中国へ 主要敵の変更

今世紀に入り、共和党に結集した新保守主義者は、中国よりもロシアの崩壊と非核化を懸念していた。しかし、2008年頃から、米国の政治エリートは、中国が今後も力強い経済成長を続けるだろうと考えるようになった。その指導者も、米国の影響力に屈することないだろう。ゴルバチョフやエリツィンのようにひざまづく人物は登場しないだろうと、考えるようになった。

この時期から、新保守主義者(ネオコン)は中国に対して完全に対立的なアプローチを取り始め、封じ込めを追求するようになった。同時に、一部の親民主党のタカ派リベラルがCNASを設立し、当時の国務長官ヒラリー・クリントンが、米国外交の戦略転換「アジアへのピボット」を策定・実行に移したのである。

それは当時まだ共和党陣営にいた新保守派が賞賛したものである。ヒラリーは、政治評論家でCFRの上級研究員であるマックス・ブートから「強い声」と賞賛された。彼は2003年に、「『帝国主義』という言葉が持つ歴史的な負の遺産を考えると、米国政府がこの言葉を受け入れるべきではない」と書いた。

NATO をウクライナまで拡大し、ロシアと対峙することは、新保守主義者とタカ派リベラルにとって、今日でも最優先事項であることに変わりはない。両者とも、中国との対決を強化するためにロシアとのデタントを提案する現実主義者には反対である。


(B)トランプ当選による外交政策の撹乱

しかし、2016年にトランプが当選したことで、CFRのコンセンサスに一時的に乱れが生じた。 ジョン・ベラミー・フォスターが「ホワイトハウスのトランプ:悲劇と茶番」で書いたように、前大統領は白人の下層中産階級を基盤とするネオファシスト運動の動員によって権力の座についた面がある。

大資本のエリートの中で、当初彼を支持したのはごく一部の人たちだけだった。

その中には、海運大手ユーラインのオーナーであるディック・ユーライン、建材小売業ホーム・デポの創業者バーニー・マーカス、極右メディアであるブライトバート・ニュース・ネットワークの出資者ロバート・マーサー、銀行王アンドリュー・メロンの孫ティモシー・メロンなどが含まれる。

シリアからの撤兵やアフガニスタンからの撤退開始、北朝鮮との外交接触に見られるように、トランプは世界情勢への関与を縮小し、下層・中層ブルジョアジーの短期的利益を優先させようとした。トランプの政策はヘンリー・キッシンジャーら外交政策リアリストの支持を得た。そして新保守主義者を動揺させた。


(C)バイデンの勝利とCFRコンセンサスの再開

トランプ大統領に対する選挙戦では、オバマ以前にブッシュ政権を支持していたネオコン・エリート300人ほどが、2020年の選挙では民主党を支持した。その中には、外交政策のオピニオンリーダーとなり、バイデン政権に強い影響を与えた前述のマックス・ブートも含まれている。

バイデンの下でCFRコンセンサスが再開され、ネオコンとタカ派リベラルは、この国の戦略的方向性について完全に一致するようになった。中国の台頭を共同認識することで、この数十年間見られなかった両者の結束が醸成された。

この結束は、以下の国際情勢論に基づくものである。

1.他国の政治に積極的に介入し、「自由と民主主義」を推進するためにあらゆる努力を払う。
2.欧米の経済・軍事支配に挑戦する国家を許さず、自律的な傾向を持つ政府は排斥する。
3.ロシアと中国を主要ターゲットとして、あらゆる手段で世界覇権を確保する。

2021年5月、オバマ政権下で国務副長官を務めたアントニー・ブリンケンが国務長官に就任した。ブリンケンは、「米国はルールに基づく国際秩序」を守ると宣言した。「ルールに基づく国際秩序」とは曖昧な概念である。それは、国連を基盤とする広範な制度を指すのではなく、米国の言うなりになる国際機関や安全保障機関が取り仕切る「秩序」を指す言葉である。

このようなブリンケンの姿勢は、リベラル・タカ派が国連や他の国際的な多国間組織に従うという建前を公式に放棄したことを示唆している。ただしそれらが米国の命令に従う限りにおいては利用するのであるが…。

2019年、著名な新保守主義者ロバート・ケーガンは、アントニー・ブリンケンとの共著を表し、トランプのアメリカ・ファースト政策の放棄を促した。彼らはロシアと中国の封じ込め(包囲網形成と弱体化)を求めた。アメリカの敵対国に対しては「予防外交と抑止」政策を提案した。つまり必要と判断されればどこでも軍隊と戦車を投入する方針だ。

ロバート・ケーガン(Robert Kagan): 1958年生まれ。ブルッキングス研究所上席フェロー。ネオコンの代表だがリベラルホークを自任。「軍事力を重視するアメリカと、ほとんど重視しないヨーロッパ人が「火星人と金星人」ほど異なっており、もはやアメリカはヨーロッパに何事も期待していない」と述べた(2002年 ウィキペディア)

ちなみに、ケーガンの妻であるヴィクトリア・ヌーランドは、オバマ政権で欧州・ユーラシア問題担当国務次官補を務めていた。ヌーランドは、2014年のウクライナのカラー革命・クーデターの組織化と支援に重要な役割を果たした。彼女は米国が同国の「民主化促進」のために費やした数十億ドルを自慢してきた。

ビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland) 1961年生まれ。叩き上げの外交官。オバマ政権下で国務次官補を務め、ウクライナ問題に深く関わった。ウクライナ対応をめぐりEUを「fuck EU」と侮辱し、後に謝罪した。

 彼女は現在、バイデン政権で政治問題担当国務次官を務めており、ブリンケン長官、ウェンディ・シャーマン副長官に次ぐ国務省第3位の地位である。彼女が師と仰ぐのはリベラル・タカ派のリーダー、マドレーン・オルブライトだ。そしてその精神的後継者でもある。


(D)ブリンケンと「戦争好きの仲間」たち 

ケイガンやブリンケンが主張するタカ派的な方向性は、核瀬戸際政策を提唱する NATO のシンクタンク「大西洋理事会」がさらに一歩踏み込んだものであった。「大西洋理事会」内の「スノークロフト戦略・安全保障センター」のマシュー・クローニグ副所長は2月、米国による戦術核兵器の先制使用を検討するよう主張した。

この小さな「戦争好きの仲間」(coterie of warmongers)から、ウクライナ危機の真の推進者である2つのエリート外交グループの深い統合を容易に見て取ることができる。この危機の進展は、この好戦的グループが採用した次のような一連の戦術を明らかにするものである。

1.NATOに対する米国のリーダーシップを強化し、(国連ではなく)軍事同盟を対外介入の主要なメカニズムとして使用すること。

2.動揺的な地域に対する主権と安全保障の主張を認めず、そのことによって、いわゆる敵国を戦争へと挑発すること。

3.戦術核兵器の使用を計画し、いわゆる敵対国の領土内またはその周辺で「限定核戦争」を実施すること。

4.敵国を弱体化させ転覆させるためのハイブリッド戦の実施。
一方的な強制措置によって敵対国を弱体化させ転覆させる。そのために、経済制裁と金融、情報、宣伝、文化的措置、さらにはカラー革命、サイバー戦争、法律戦争、その他の戦術を組み合わせる。

ウクライナで望ましい結果が得られれば、同じ封じ込め戦略が間違いなく西太平洋でも再現されるであろう。

戦略的連携といっても、気候変動など重要度が低いと思われる他の問題では、政策エリートが必ずしも一致しているわけではない。しかし、この問題でも、米国は欧州にロシアからの天然ガス輸入を止めるよう要求している。

バイデンの気候変動特使であるジョン・ケリーは、このような動きが環境に悪影響を及ぼす可能性があることについて、曖昧な態度を取り続けている。なぜなら米国は、欧州で販売するロシアのガスを米国産のガスで代替したいと考えているからだ。


3「新冷戦論」は、米国外交の堕落を過小評価するもの

(A)国際関係の緊張をもたらす最大の要因

近年、世界の進歩的勢力は、米国が進める攻撃的な世界戦略に対する懸念を表明するために、しばしば "新冷戦 "という言葉を用いて、いくつかの国際キャンペーンを展開している。しかしこれらの論調は、現在の米国外交におけるいくつかの重大な堕落を、過小評価するものである。

旧ソ連との冷戦は、ある種のルールと底流をなしていた。米国は政治的、経済的にさまざまな手段で圧力をかけ、ソ連の国家転覆を図ったが、同時に、双方は互いの利益範囲と安全保障上の必要性を認め合った。しかし、米国は核の敵対国の国境を変えようとはしなかった。

今日はそのようなことはない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「米国は核戦争に勝つ能力を示すべきだ」と公然と宣言した。このような挑戦的姿勢は、外交政策エリートの主張によって裏打ちされたものである。彼らは、ウクライナと台湾は西側軍事境界線上の戦略的結節点であり、そのため必守の場所であるという

このような好戦的姿勢には内部から疑問の声も上がっている。冷戦時代の指導者キッシンジャーでさえ、現在の米国の外交政策に懸念と反対を表明し、次のように主張している。

「中国とロシアを分断するのが正しい戦略であり、米国がこの2つの核武装国家に対して同時に直接戦争を仕掛けるのは不適切である。二正面作戦は危険な結果をもたらすだろう」

米国資本家階級は対中戦争の準備を進めている。ワシントンは貿易戦争とテクノロジー戦争を通じて。米国を中国から経済的に切り離そうとしてきた。このプロセスはトランプ政権によって開始され、バイデンのリーダーシップの下でも継続されている。しかし、この政策は意図しない結果に拍車をかけている。

一方では、グローバルなサプライチェーンが形成されてきたことから、米国や欧州の製造業は中国からの輸入に大きく依存するようになっている。巨大なインフレ圧力にさらされたバイデンは、それを緩和するために、貿易戦争の関税を縮小するよう求めているが、それは国内の強力な反対に遭っている。

一方、中国は貿易戦争とテクノロジー戦争の圧力により、外需主導の経済成長から「内部大循環」経済への移行を促進している。それは中国産業構造の輸出への依存度を下げ、国内消費への依存度を高めている。その結果、国際的サプライチェーンの逼迫が長引くという皮肉な結果をもたらしている。


(B)もはや問題は貿易不均衡ではない

パンデミック以降、米中間の商品貿易は表面的には増加しているように見える。しかし、米国の対中関係の基本的な論理に変化が生じていることに注目しなければならない。米国ブルジョアジーは、対中同盟を強化し、ワシントンの好戦的な戦略を支持しているのである。

このような状況は、経済的、思想的な要因から生じている。

ひとつには、米国をはじめとする西側諸国のGDPの数字が、南半球の工場での労働による貢献を覆い隠していることである。例えばアップルの米国での高収益は、米国のGDPの数字に現れているが、実際の高収益の源泉は、フォックスコン工場のある中国の深圳、重慶などの大量に効率的で低コストの高度生産労働力によって生み出された余剰分である。

Foxconn Technology Group_鴻海科技集団:電子機器受託生産では世界最大の企業グループである。台湾に本社を構え、生産拠点は主に中華人民共和国にある)

 中国は、前世紀末には低賃金の未熟練労働者による大規模工場の時代であった。現在では大きく発展し、きわめて高度な産業・物流・社会インフラを構築し、2019年現在、世界の製造業の28.7%を占めている。サプライチェーン全体を中国からインドやメキシコに移転するには、数十年にわたるプロセスが必要で、たんに低賃金というインセンチブに基づくだけなら移転は不可能だ。

米国経済において、中国市場に売上を大きく依存している部門はほとんどないが、米国の半導体メーカーは例外である。ボーイング、キャタピラー、ゼネラルモーターズ、スターバックス、ナイキ、フォード、アップル(17%)などの大手企業は、中国からの売上が25%未満である。S&P500企業の総収入は14兆ドルだが、中国国内での販売に関連するものはそのうちの5%にもならない。

米国のCEOは、中国に対する米国の外交政策の方向性に反対することはないだろう。なぜなら、成長する中国国内市場への長期的なアクセスを拡大するための明確な道筋が、今のところ提示されていないからだ。こうした姿勢は、2022年5月のディズニーの決算説明会でも示された。ボブ・チャペックCEOは、中国市場へのアクセスがなくても同社の成功に自信があると表明している。米国の主要産業全体で、このような「我関せず」の姿勢は一般的だ。

しかし以下の産業分野では話が違ってくる。

ハイテク・インターネット産業 

アメリカ人の富豪トップ10のうち9人が現代の時代精神であるハイテク/インターネット産業に従事している。電気自動車メーカーTeslaのCEOであるElon Muskは例外だが、彼の最初の富もインターネット産業からもたらされたものである。

過去数十年のアメリカの富豪リストと比較すると、製造業、銀行、石油といった伝統的な分野の富豪は新興ハイテクエリートに追い越されている。ハイテク・インターネット産業のエリートたちは、中国市場参入の難しさから反中感情を抱いている。

製造業

米国の製造業は、依然として中国の生産能力に依存している。米国の製造業に対する一貫した投資と技術革新は、新自由主義時代に事実上放棄された。

オバマやトランプは製造業の北米へのニアショア化を呼びかけたが、それはほとんど達成されていない。米国の対中製造業投資は、テスラの上海のメガファクトリーという特筆すべき例外を除いて、近年減少している。

テスラの場合でも、イーロン・マスクが宇宙開発企業スペースX社を通じて、米国政府や軍からの調達契約を数多く獲得していることは重要である。 同社の衛星システム「スターリンク」は、2021年に2度にわたって中国の宇宙ステーションと「異常接近」し、中国から批判を浴びた。

中国人民解放軍は、米国がスターリンクシステムの軍事化を図る可能性があると警告した。戦争中のウクライナでスターリンクのサービスが展開されたことは、この動きの証拠となる。マスクがツイッターを買収する可能性があってもなくても、同社の欧米政府との関係や中国・ロシアへの志向が変わることはないだろう。

金融

米国の金融業界は、中国の資本市場がさらに開放されることを長い間期待してきた。彼らの究極の望みは、中国を明白な新自由主義路線に導くような中国の政権交代である。

ハンガリー生まれの米国の有力な金融王で慈善家のジョージ・ソロスの反中国的な態度はよく知られている。2022年1月、ソロスはこうツイートしている。

「中国の習近平は、開かれた社会が今日直面する最大の脅威である」

 この発言は、JPモルガン・チェイスのCEOであるジェイミー・ダイモンが2021年11月に「多国籍銀行は中国共産党より長生きする」と宣言した後のものである。ダイモンはこの発言について、後に冗談だったと謝罪している。ダイモンはまた、中国が台湾を統一しようとすれば、激しい軍事攻撃を受けるだろうとほのめかした。その後もこの脅し文句に対して謝罪もしなかった。

こうした敵対的な態度は、中国政府が資本規制を強化し、米国証券取引所から中国株を相次いで上場廃止するなど、中国の資本市場がウォール街の望む方向に進んでいないことに対応したものである。

ジェームズ・ダイモン(James "Jamie" Dimon)1956年生まれ。ギリシャ系移民の子で権力闘争の中を勝ち残った。JPモルガン・チェースを16年にわたって率いるが、強引な経営には批判も多い。

投資コングロマリットであるバークシャー・ハサウェイの2022年の年次株主総会で、チャーリー・マンガー副会長は、「中国はまだ投資する価値がある」と発言している。マンジャーにとって中国は、より良いビジネスに低価格で投資できるため、余分なリスクを負うだけの価値があるのだ。しかし、この場合でも、マンガー氏は、中国政府を "人権侵害 "を行う "権威主義政権 "とするインタビュアーの前提を受け入れた。

チャーリー・マンガー(Charles Munger) 1924年生まれ。ウォーレン・バフェットが会長を務める投資持株会社バークシャー・ハサウェイの副会長。バフェットとは異なりキリスト教徒の共和党員。


小売・消費者セクター

 米国の小売・消費者産業は、長い間、中国の競合他社に圧迫されてきた。 2021年3月、ナイキなどが強制労働という誤った理由でウイグル産綿材料をボイコットした。その直後、ナイキは広告を発表し、中国人に対する差別的なステレオタイプを助長していると批判された。すでに中国ブランドの「アンタ」に差をつけられ始めていたナイキのシェアがさらに低下する結果となった。

さらに、両国の文化・娯楽産業には大きな断絶があり、2021年の中国での興行収入は国産映画が85%を占める。かつて中国の映画ファンに人気があったマーベルのスーパーヒーロー映画は、イデオロギーの問題から中国市場に参入できず、2021年の中国での興行収入はゼロとなっている。当然のことながら、中国での上映はされていない。
ドクター・ストレンジ

 これらのケースは、中国の消費者市場に参入するという商業的利益と、中国の政策に反対するという政治的イデオロギーとの間の二者択一を、米国企業が判断したものである。


4.アメリカの軍産複合体と戦争への衝動

(A)軍産複合体の特別の役割

米国の軍産複合体は、帝国主義の利益に向けて、経済、技術、政治、軍事部門間の戦略的協力を強化するという特別な役割を担っている。

 2021年には、ロッキード・マーチン、ボーイング、レイセオン・テクノロジーズ、BAEシステムズ、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクスの世界上位6社の米政府への売上高は合計1280億ドルを超えている。

アマゾン、マイクロソフト、グーグル、オラクル、IBM、パランティア(極右派ピーター・ティールが設立)などの大手ハイテク企業も、米軍と密接な関係を築き、その一角を形成しつつある。それらはここ数十年で数百億ドル規模の契約を数千件結んでいる。

ハイテク産業は情報帝国のデータ収集という戦略的役割を担っている。それは米国のメディアとソフト・メディアの中心を占めている。そしてグローバル・サウスに対するデジタル支配を行っている。その重要性のため、彼らは法的規制や独禁法適用の脅威から免れ続けてきた。

米国は軍事的優位を確保するために、兵器、コンピュータ技術(特にシリコンチップ)、高度通信(衛星サイバー戦争を含む)、バイオテクノロジーの分野で巨額の支出を行っている。米国政府は、2023年予算の一部として、公式に8,130億ドルの軍事費を要求している。この予算には、予算全体の他のセクションに隠されている追加の軍事費は考慮されていない。国防総省は、今後10年間で少なくとも7兆ドルの予算が必要だと主張している。

(B)軍産複合体による国家の私物化

新自由主義の下での国家の私物化は、過去40年間、米国政府と民間企業との間の回転ドアのスピードを加速した。 議会議員、上院議員、政策・安全保障アドバイザー、閣僚、大佐、将軍、両党の院内総務などの政府高官が、政治的インサイダーの地位を利用して民間利益団体に情報を垂れ流した。それは彼らが数百万ドルの富を得るための手段となってきた。

政府官僚機構の中では、「国家安全保障」という言葉が、個人と企業の強欲と過激な軍拡のための蛇口をさらにこじ開けている。

第一世界のこの一般的な形態の下では、合法化された腐敗がある。企業はしばしば公職を去った後の役人に報酬を提供する。これらは合法的な賄賂である。つまり基本的に在職中に提供されたサービスに対する賄賂の後払いである。元公務員は退任後に以前公務員として支援した企業、有利な議決権を提供した企業、政府契約を締結した企業に、有給職員、役員、顧問として雇われる。

このような動きが蔓延している顕著な例として、以下のようなものがある。

① ビル・クリントンは、2001年にホワイトハウスを去るとき、1600万ドルの負債を抱えていたとしているが、20年後の2021年には、推定8000万ドルの資産まで膨らんだ。

② 衝撃的なほど平然と、オバマ大統領の下で現役の国務長官ヒラリー・クリントンと会っていた。私的利益団体の154人と電話会談を行い、そのうち少なくとも85人が、合わせて1億5600万ドルをクリントン財団に寄付している。

③ 退役した「4つ星将軍」(陸軍大将)で、トランプ政権下で国防長官を務めた、ジェームズ・"マッド・ドッグ"・マティスは、退任後CNASの理事を務めた。彼の純資産は、軍から「引退」してから5年後の2018年には700万ドルに膨らんだ。これは幅広い軍需企業からの多額の支払いによって得たもので、その中には大手防衛企業ジェネラル・ダイナミクスの株式とオプションの60万ドルから125万ドルも含まれていた。

④ バイデン大統領の下で国防長官を務めたロイド・オースティンは、かつてユナイテッド・テクノロジーズやレイセオン・テクノロジーズなど複数の軍需産業企業の取締役を務めていた。オースティンは、700万ドルの純資産の大部分を、四つ星将官を「引退」した後に得た。

2009年から2011年にかけて、米軍トップの将官の70%以上が、退職後に軍事請負会社に天下りしている。将軍たちは、国防総省からの報酬と民間軍事請負業者からの支払いを同時に受け取ることで、二重取りをしている。2016年だけでも、25人の大将、9人の提督、43人の中将、23人の副提督など、100人近くの高級将校が民間軍事請負会社のドアをくぐった。

トランプ政権では、オバマ時代の多くの官僚が民間企業に転職し、世界の大企業にコンサルティングや助言を行い、バイデンの下で再びホワイトハウスに戻ることになった。

この回転ドアの驚異的な象徴として、バイデン政権は、オバマ政権の元職員チームが2017年に設立したコンサルタント会社WestExec Advisorsから15人以上の高官を任命している。この会社は、「戦略的競争時代の中国関連リスク管理」などを報告、顧客に「比類のない地政学的リスク分析」を提供すると宣伝している。

 同社は巨大技術産業と米軍の協力を促進し、ボーイング、パランティア、グーグル、フェイスブック、ウーバー、AT&T、ドローン監視企業のシールドAI、イスラエルの人工知能企業ウィンドワードなどを顧客に持つ。

バイデン政権で活躍するWestExecの卒業生には、ブリンケン国務長官、アブリル・ヘインズ国家情報長官、デビッド・コーエンCIA副長官、エリー・ラトナー国防次官補(インド太平洋安全保障問題担当)、ジェン・プサキ元ホワイトハウス報道官らがいる。

WestExec

Fig. The WestExec to Biden administration pipeline, part one. Graphic: Soohee Cho/The Intercept.


(C)アメリカ軍国主義に対する国内の抵抗力の弱体化

1973年、アメリカは徴兵制を廃止した。その後、米軍は巧妙に、そして誤解を招くように、自らを「志願制の軍隊」と呼ぶようになった。これは、アメリカの海外での戦争に対する国内の反対運動、特にベトナム侵略戦争に反対する声を上げていた富裕層や中流階級の子供たちの反対運動を抑えるために行われた。

この措置は、「より専門的で献身的な兵士を選ぶ」という名目で正当化されたが、実際には、ブルジョアジーは貧しい労働者階級の家庭の経済的弱点を利用したのである。というのも貧しい労働者の家庭は、技術訓練と安定した収入を得ることで吊られたからである。

戦争技術の進歩は、米国が侵略された国の民間人や敵兵や民間人を殺す能力を高めた。同時に、米軍兵士の死亡率も下げた。例えば、2001年から2021年までの2兆2000億円をかけた対アフガニスタン戦争では、24万1000人の死者(7万1000人以上の民間人を含む)が出たが、そのうち米軍兵士は2442人、1%に過ぎなかった。 米軍の死者数の減少により、米国の戦争行為に対する国内の感情的なつながりは弱まり、民間軍事請負業者の台頭によりさらに鈍化している。

2010 年代半ばからは、イラクとアフガニスタンにおける米軍のほぼ半数が民間軍事請負業者に雇用されていると推定された。 2016年には、世界最大の民間軍事請負業者であるACADEMI(ブラックウォーターの後身)が、世界最大のプライベート・エクイティ企業アポロに推定10億ドルで買収された。

ブラックウォーターUSA: 1997年にアメリカ海軍特殊部隊SEALsを退役したエリック・プリンスが、民間軍事会社「ブラックウォーターUSA」を創設。警備会社と違うのは直接戦闘への参加も業務としていること、政府、米軍、CIAと密接な関係を持つことである。株式非公開の企業で、内部情報はほとんど公開していない。2014年のウクライナのクーデターでは、アメリカ風の戦闘服に身を包んで英語を喋り、AK74と見られる自動小銃で武装した部隊が150人~300人規模で現れた。これもブラックウォーターとされる。

かくして完全志願軍(オール・ボランティア・アーミー)とは程遠い、完全傭兵軍(オール・マーシナリー・アーミー)と表現すべき実態が明らかになっている。米国は、過去に100カ国以上に侵略したり軍事作戦へ参加したりしている。しかし外国による侵略や大規模な民間人の犠牲を経験したことがない。そのことが、好戦主義に拍車をかけている。

米国だけが特別という思いは、下記のような事情により形成された。

現在の政治エリートの世代は冷戦の終結後成長した。それは米国の一人勝ち時代で、「歴史の終わり」と定義される時期であった。したがって「自国は無敵である」と錯覚する時代であった。米国は、中国が台頭するまで、国内外に深刻な挑戦者を経験したことがない。その結果、このエリートは世界観において非歴史的であり、誇大妄想にとらわれている。この組み合わせは極めて危険である。

将軍、政治家、ハイテク企業、民間軍事請負業者からなる軍産複合体は、米国の軍事力の大規模な拡張を追求している。今日、ワシントンのほぼ全員が、その口実として、ロシアだけでなく中国も利用している。その一方で、彼らの多くは、イラク、アフガニスタン、シリア、リビアなどの途上国で介入を繰り返し戦争犯罪を犯している。


(D)資本家階級内に対中・ロ慎重派はいなくなった

いま米国では「中国は悪者だ」の大合唱が起きている。それに対抗する有力な個人資本家はほとんどいない。対抗する者は手懐けられるか排斥されるのが関の山である。ニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナルの論説欄が公然と反対意見を述べたり、自制を求めたりすることはほとんどない。

2020年の大統領選挙期間中、マイケル・ブルームバーグが「中国共産党は国民に応えている」と述べ、習近平主席を独裁者と断じるのを拒んだ。このことで彼は、「中国に甘い」と激しく批判された。ブルームバーグはどうやら手懐けられたようだ。バイデン政権下では、戦争ヒステリー症候群に加わり、2022年2月には国防総省、国防革新委員会の議長に就任している。

世界的な経営コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーは、中国との経済的関与の拡大を支持してきた。こうしたマッキンゼーの見解に対して批判が高まり、ニューヨーク・タイムズ紙は「世界中の権威主義者や腐敗した政府の地位を高める手助けをしている」と非難した。その結果、米国のビジネス界におけるマッキンゼーの影響力は大きく低下している。

しかし少数ではあるが、ブリッジウォーター・アソシエイツの創設者で億万長者の投資家であるレイ・ダリオのように、米中関係に対して楽観的な見方を示し続ける人物もいる。

重要なことは、現在の米国ブルジョアエリートの上層部は以前よりはるかに強大だということである。彼らは多くの産業に分散投資している。そのため一つの産業が短期的な経済的リスクを負っていても、それをカバーし米国戦略の「全体像」に合致することができる。一昔前の億万長者が単一産業に集中していたのとは対照的である。

「米国の攻撃を受けた中国が転覆され、中国市場が完全自由化される」という夢が実現したあと、彼らはそこから得られる大きな長期的リターンを想定できる。現在の億万長者たちは、短期的には損失を被るリスクを承知の上で、米国の中国封じ込めを支持する気になる。彼らはより共通した意識を持っており、資本家間の矛盾が激化することはない。

上に述べたように、この大ブルジョワジーは、非営利財団を通じてシンクタンクや政策グループの大部分に資金を提供し、米国の政策議論や提案を形成している。

中流エリートの中には、主に知識人からなる極右のリバタリアン孤立主義者の小グループがあり、ケイトー研究所がその代表である。この政治ネットワークは、米連邦準備制度や対外介入に反対し、ウクライナにおける米国の役割に反対する発言をしている。しかし、米国の外交政策の場では周縁化されており、大きな影響力を行使していない。

カール・マルクスがかつて指摘したように、資本家は常に「戦闘仲間の集団」 "band of warring brothers "であった。この集団は、武装した男女、情報機能員、スパイの大規模かつ恒常的な組織を持ち、これによって近代国家を維持している。

2015年、米国では430万人が「機密」「秘密」「極秘」(“confidential”, “secret”, or “top secret”)の政府資料にアクセスするための認証を持っていた。 選挙結果にかかわらず、この国家機構は最終的にその支配力を発揮し、米国の外交政策を導くことができる。それはトランプ政権が独自の外交政策を実行できなかったことで証明された。


(E)極右の台頭と反中国の大合唱

米国の支配ブルジョワエリートと中産階級の中国に対する敵意は、人種差別的な根を深く持っている。トランプの4年間の任期は、オルト・ライトと呼ばれるポピュリストと白人至上主義の統一連合が形成された時期と重なっている。

オルト・ライト(alt-right): Alternative Rightの略。伝統的保守に代わるべき過激右翼を意味する。フェミニズム、移民やイスラムを否定。指導者のバノンはトランプ政権の首席戦略官を務めたが、のち袂を分かつ。

この運動の口火を切ったスティーブン・バノンは、白人至上主義サイト「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」の元会長で、当然のことながら、米国で最も活発に反中国運動を展開している一人である。
バノンやトランプ自身は「白人労働者階級」からの支持を自慢したがるが、彼らの主要な支持基盤は実際にはプアホワイトや労働者階級ではない。オルト・ライトの支持基盤は低中流階級にある。世帯年収が7万5千ドル前後の白人が中心である。共和党はこのネオファシストの票田を創出することで、選挙で利益を得ている。

オルト・ライトは大資本家の個性を讃え、エリートの仲間入りをするために上昇志向を持つ傾向がある。一方で、この集団は、自分たちの富への道を阻むエリート主義の政治的・文化的指導者たちや労働者階級に対して憎悪を表明する。

1951年、米国の著名な社会学者C.ライト・ミルズは、米国の中産階級を次のように特徴づけている。

結局、彼らは後方支援者である。 短期的には、彼らは威信のために騒々しく立ち振る舞うだろう。長い目で見れば、彼らは権力の道に従うだろう。なぜなら、結局のところ「威信」というものは権力によって決定される他ないからだ。
一方、政治市場においては「新しい中産階級」はセットで売りに出される。彼らから「十分に立派で、十分に強い」と思われる者が現われ、おそらく彼らを手に入れることができる。ただし今のところ、誰も彼らに本気で入札していない。
トランプ政権は、経済状況の悪化に伴う下層中間層の憤りを中国に向けた。

米国経済は、2008年のサブプライムローン危機から完全に回復していない。金融緩和政策によって大資本家が莫大な利益を得る一方で、労働者階級や下層中間層が大きな損失を被ったのである。後者は、自分たちの状況に怒りと不満を抱き、代弁者を切望していた。そしてトランプに同調し、彼の重要な票田となった。白人至上主義、人種差別を伴う資本主義、新冷戦思考の力を借りて、中国を敵として徹底的に弾圧するのが、そのやり口である。

今日、中国に対する敵意は、アメリカ国民の間に広く浸透している。中国は自由世界の宿敵であり、米国にとって最大の脅威であるという印象が、主流メディアやインターネット・プラットフォームによって強調されてきた。

この危険な風潮に反対する人々の言論の自由はますます制限されてきている。ロシアや中国の視点を認めたり、米国の対外政策を批判したりすることは、強い世論の批判にさらされる。米国は1950年代のマッカーシズムの時代と重なり、ある意味では1930年代初頭のドイツをさえ連想させるような社会になっている。

(F)米国の三権分立は機能していない

憲法:
米国の政治制度におけるチェック・アンド・バランスと三権分立の本質について、部外者はしばしば誤解している。 ヨーロッパの憲法改正が社会的な革命運動によって行われたのとは異なり、米国憲法は、もともと奴隷所有者を含む財産所有者のグループによって制定された。

奴隷所有者を含む財産所有者のグループによって、財産所有者のために制定された。ヨーロッパの憲法が指し示すベクトルとは逆方向である。彼らは何よりも群衆の騒動が支配するのを恐れていた。

選挙制度:
大統領選挙における州ごとの「選挙人団」のような仕掛けは、もともと南部の奴隷保有州など地方の小さな州の利益を守るために実施されたものである。それは国民の大統領への直接投票(一人一票)を阻害するものである。この非民主的な制度は、憲法改正という困難で負担の大きい手続きによって守られているため、ブッシュ・ジュニアもトランプも、相手候補より少ない得票にもかかわらず大統領に就任できたのである。

選挙権侵害:
最終的には黒人や女性、財産のない人にも投票権が拡大されたにもかかわらず、有権者の権利剥奪は今日まで続いている。2021年現在、19の州で合計34の有権者抑制法が制定されており、これらの州では最大で5500万人の投票権を制限することができる。

司法の不公正:
一方、選挙で選ばれたわけではない最高裁は、選挙法を歪め、アファーマティブ・アクションを打ち消し、宗教団体が市民権を侵すことを認めるている。2010年の「市民連合」に関する最高裁判決は、選挙への民間・企業献金に対する制限を撤廃した。それは、選挙を資金力の勝負の場とした。2020年の選挙では、大統領選、下院選、上院選の全体の支出額は140億ドル(約1兆円)に達した。

政治資金の不公正:
金銭的な競争だけでなく、心理的・技術的な競争もある。ソーシャルメディア、行動経済学、ビッグデータに基づくテクノロジー・ツールが、選挙プロセスの形成に大きな役割を果たす。これらのツールは非常に高価であり、政治が富裕層にとってほぼ独占的なゲームであることを保証するのに役立っている。

2015年、米国上院議員の富の中央値は300万ドルを超えている。このような議員によって構成された議会と政府は、国民によってチェックされたバランスが良い政府とは言い難い。


5.私たちは戦争しなければならない運命にあるのだろうか?

(A)対中戦争へのキャンペーンは始まっている

2014年、中国の最高指導者に就任したばかりの習近平は、オバマ米大統領(当時)に「広い太平洋は中国と米国の両方を包み込むのに十分な広さだ」と述べた。この宥和的な呼びかけを拒否して、当時のヒラリー・クリントン米国務長官は演説した。

「米国は太平洋をアメリカの海と呼ぶことができる。我々はミサイル防衛で中国を包囲するだろう」

2020年、英国の経済ビジネス研究センター(CEBR)は、2028年までに中国が米国を抜いて世界最大の経済大国になると予測した。この閾値はその後、米国のエリートを悩ませ続けている。近年、米国の外交政策と世論は、その前に中国を封じ込めるための熱い戦争の準備に執着している。ウクライナでの代理戦争は、この熱い戦争の前哨戦と見なすことができる。

米国では、戦争準備のためのイデオロギー的な動員はすでに本格化している。ネオ・ファシズムの歯車は回り、マッカーシズムの新時代が到来している。いわゆる民主政治はブルジョア・エリートの支配のための隠れ蓑に過ぎず、それが戦争マシンのブレーキになることはないだろう。

米国には1億4千万人の労働者と貧困層がおり、1千7百万人の子供たちが飢餓に苦しんでいる(パンデミック以前に比べて6百万人増加)。このクラスの一部は、米国の温暖化政策へのイデオロギー的な支持を表明しているが、この支持は彼らの利益と正反対である。

1兆ドル近い軍事予算は、医療、教育、インフラ、その他の人権を保証するための資金提供や、気候変動との闘いを犠牲にしているのだ。


(B)反戦闘争の伝統だけでは平和は維持できない

 歴史的に見ると、米国の黒人運動やフェミニスト運動などの進歩的なグループは、反戦闘争の強い精神を持っていた。マーティン・ルーサー・キング牧師やマルコムXなどの指導者は、東南アジアにおける米国の侵略に対して国内の抵抗運動の波を築くために勇敢に闘ったのである。

悲しいことに、今日、米国の一部の(全てではない)進歩的指導者たちは、ワシントンの反中国キャンペーンに異議を唱えようとせず、もっと悪いことには、その支持者にさえなっているのである。

米国には、道徳的に重要な声を上げる人々がいる。しかし、新冷戦に反対する少数の進歩的なグループが、新疆での大量虐殺を正当化するとの疑いで中傷されていることに注意しなければならない。米国の政治体制は、このような社会の一部からの声を冷酷に排除するように働いているのである。

米国とその同盟国は、NATOを通じて世界的な軍拡を積極的に進めているが、世界の大多数は彼らの戦争遂行を歓迎していない。

2022年3月2日、国連総会は第11回緊急特別会合を開催し、ロシアの侵攻を非難する決議案に対し、世界人口の半分以上を占める国々が反対または棄権を表明した。

一方で、世界人口の85%を占める国々は、米国が主導するロシア制裁に賛同していない。戦争をエスカレート・長期化させ、モスクワと北京を切り離そうとするワシントンの試みは、大規模な経済的混乱につながり、米国の統治に大きな否定的反応をもたらすだろう。インドやサウジアラビアといった国々でさえ、ロシアの外貨準備を凍結し、ドルの覇権を強化する米国の行き過ぎた行動を深く憂慮している。

ラテンアメリカではもう一つの事態が進行しつつある。2022年6月にロサンゼルスで開催された米国主催の米州首脳会議では、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアが出席を拒否された。この判断に同調しなかったメキシコ、ボリビア、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの大統領は首脳会議に出席しなかった。中南米では、さほどまでに米国の支配に対する抵抗が強まっている。

 しかし、注意すべきことがある。国連のような国際的なプラットフォームは、実際には米国の戦争を抑制することはできない。なぜなら米国は、自国のルールに基づく国際秩序以外に拘束されることを拒否しているからである。

(C)米国の対中強攻策は失敗に終わるだろう


バイデン政権はウクライナに大規模な軍事支援を行い、長期戦を演出してロシアを最大限弱体化させ、政権交代を実現させようとしている。また関係回復時の「米中共同声明」の精神を逸脱し、さまざまな形で台湾海峡を不安定にさせている。

たしかに米国は大きな軍事力を持っているが、その経済力は恒常的な衰退と危機の状態にある。ジョン・ロスがこの研究の中で示しているように、米国の経済的優位は衰えつつあり、中国の経済的ジャガノートによって終焉を迎えるかもしれない。

さらに、米国はNATOの同盟国とともに、複数の深刻な経済的、生態学的困難に直面している。米国が主導する欧州戦争は、戦争に絡んで起きた問題を悪化させるだろう。この戦争によって、ヨーロッパは、インフレと社会的に無駄な軍事支出の増加とともに、GDP成長率の低下、あるいはマイナス成長を余儀なくされるだろう。

米国は、気候変動に対処するための構築戦略を事実上放棄している。その際限のない戦争の追求が気候の破局を悪化させたことは言うまでもない。そして、皮肉なことに、経済的分離を求める政治的コンセンサスにもかかわらず、米国企業は中国への発注を増やし続けている。実質的なデカップリングは、現状では不可能なのだ。

しかし、米国は経済的に崩壊するだけではないだろう。

戦争、制裁、経済の切り離しを求める米国の動きは、自国の経済にダメージを与え続け、世界の食糧供給網を危うくするものである。その結果、世界的な社会不安は、米国経済をさらに弱体化させ、ドルの覇権に対する反発を強めるなど、その支配に対するさらなる挑戦を生み出すだろう。

中国の比較的安定した社会統治、強力な国防、平和の外交戦略、米国の力に屈しない姿勢は、中国の楊潔篪国務委員が言うように、「強者の立場から」進めることができ、いずれ米国は中国と戦争して勝てるという幻想を捨てざるを得なくなるであろう。

中国が強力な社会主義主権国家であり続け、「人類が未来を共有する共同体の構築」や「世界開 発構想」といったグローバル・ガバナンスのための代替政策を推進し続けることは、「南半球」の利益 につながるものである。

BRICSや非同盟運動など、世界の多くの人々が共通の関心を持っている「南半球」の多国間プロジェクトを活性化させることに、直ちにコミットしなければならない。

世界の人口は、その大部分が南側諸国に位置している。彼らは米国に抵抗し、戦争に抵抗し、平和を求めなければならない。

過去に傲慢と慢心で行き過ぎた帝国は数多くあった。米国は、その最初の帝国ではない。ほかの帝国同様、いずれその力は終焉を迎えるだろう。

終わり






三大陸誌「米国と新冷戦: 社会主義的評価 第三論文」

第三論文 米国を国際軍事侵攻へと駆り立てるもの

What Is Propelling the United States into Increasing International Military Aggression?

John Ross


目次

はじめに
1.米国はいかにしてウクライナを戦争に駆り立てたのか
2.米国の世界戦略が強度を上げた
3.台湾問題:米国のもう一つのレッドライン
4.米国の経済的比重はどう変化したか
(A)旧冷戦時の経済差
(B)現在における中国との経済差
(C)金融マクロ指標から見た中国との差
5.米国は覇権を放棄するだろうか?
6.米国は政治問題を軍事的な領域に移そうとする
(A)ウクライナでの軍事パワーの活路
(B)米国は東アジアへの進出を強化
7.ウクライナ戦争から学ぶべき教訓
8.米国の軍事行動に人道水準の限界はない
9.米国の軍事政策には硬軟の局面がある
10.第二次世界大戦前の状況と現在の比較
11.米国の軍事侵略に対抗する二つの主要勢力
12.米国が直面する選択
結論


はじめに

ウクライナ戦争に至る出来事は、この間20年以上にわたって続いてきた流れを質的に加速させるものである。その流れとは、米国の国際的な軍事侵略路線のエスカレーションである。

ウクライナ戦争以前の戦争では、米国が軍事的対決を行うのは発展途上国だけであった。それらの国は核兵器を持たず戦力もはるかに弱かった。具体的に例を上げるなら、それは1999年のセルビア空爆、2001年のアフガニスタン侵攻、2003年のイラク侵攻、2011年のリビア空爆などである。

しかし、今回の戦争の主因はこれまでとは質的に異なる。それは北大西洋条約機構(NATO)のウクライナへの拡張を基調とする軍事対決である。

米国は、NATOのウクライナへの進出がロシアの国益と真っ向から対立することを認識していた。大軍と膨大な核兵器を保有する、ロシアというトラの尾を踏むことになるのを、米国は認識していた。ウクライナへの進出は、ロシアの設定したレッドラインを越えることになるが、米国は最初からそのリスクを負う覚悟があったと考えられる。

米国はウクライナでの戦争に自国の兵士を(まだ)投入していない。それは世界大戦を引き起こし、核の破滅を招く恐れがあるからである。しかし実際には、ウクライナがロシアに対する代理戦争を行っている。米国は、ウクライナのNATO加盟の可能性を残すと主張した。それだけでなく、開戦に至るまでウクライナ軍の軍事訓練を行ってきた。

そして開戦後の現在は、ウクライナへの直接の軍事援助を行い、大量の軍事兵器を供給している。さらに衛星情報などの提供も行っている。これまで米国のウクライナへの援助は約500億ドルにのぼる。


1.米国はいかにしてウクライナを戦争に駆り立てたのか

米国とその同盟国は、少なくとも2014年以来、ウクライナの軍隊を訓練するために数百人の教官を派遣するなど、ウクライナ戦争のために準備してきた。

これは、1990年のイラク湾岸戦争時のアプローチと似ている。ウクライナにおける戦争準備計画は、ワシントンが地政学的な目標を達成するために作成したひな型を用いている。

ロシアは2014年のクーデターを皮切りに、しだいにウクライナ情勢に吸い込まれて行った。その時、ネオナチの支援を受けた反ロシア勢力がキエフで政権を握ったのである。それは米国の企図によるものである。

当時、ウクライナ軍は強力な軍事力を持っていたわけではない。1991年にソビエト社会主義連合共和国(U.S.S.R.)が崩壊し、その後の「改革」によって、ウクライナ軍は大きな打撃を受けた。軍のインフラや装備は数十年にわたり放置された。資金不足により老朽化し、将校や兵士の士気も低下していた。

ロシア連邦共産党中央委員会のヴャチェスラフ・テテキンは当時のウクライナ軍の水準についてこう語った。「ウクライナ軍は戦いたいとも思わないし、戦いたくても戦えなかったのです」

2014年のクーデター後、ウクライナ新政権は戦争計画を始動した。国家予算では社会福祉の改善がストップされた。それは軍備増強に流用され、再投入された。

2015年から2019年にかけて、ウクライナの軍事予算は17億ドルから89億ドルに増加し、2019年にはGDPの6%を構成するまでになった。対GDPにおいて、ウクライナは欧米のほとんどの先進国よりも3倍も軍事費に費やしていることになる。莫大な資金は、同国の軍備の修復と近代化に注ぎ込まれた。そして、最終的に軍の戦闘能力が再確立された。

ここで、2014年から15年にかけて、ウクライナ東部のロシア語圏地域で戦闘が行われた。そのときの空軍の実情は惨憺たるものだった。「ドンバス戦争」と呼ばれたこの戦闘では、ほぼすべての戦闘機が使い物にならず、大幅な修理を必要としていたため、ウクライナ軍部隊はほとんど空中支援を受けられなかった。

しかし、2022年2月までに、空軍は約150機の戦闘機、爆撃機、攻撃機を戦闘可能な水準に整備していた。また、ウクライナ軍の規模も飛躍的に拡大した。注目すべきは、その内容である。テテキン(前出ロシア共産党中央委員)のデータによると、2021年末、兵士への報酬は3倍になった。さらにドンバスとの軍事境界線沿いには強力な防空基地が建てられた。これらの軍事力の強化は、この地域で紛争を引き起こそうとした米国の狙いを示すものである。

このように対ロ戦争を準備したにもかかわらず、ウクライナ軍はロシアに到底まともに対抗することができなかった。戦力バランスは明らかにキエフに不利であった。しかし、米国はそんなことはお構いなしだ。あえて言えば、米国はウクライナをロシア軍の大砲の餌食に差し出そうとした。

テテキンによれば、
「米国は、軍備を強化した新ウクライナ軍に対して、2つの選択肢を考えていた。1つはドンバスを征服し、クリミアに侵攻すること。2つ目の選択肢は、ロシアの武力介入を誘発することだった」

2021年12月、米国の強い影響下にあるウクライナ軍の危険性が高まっていることを認識したロシアは、危機を打開するために、NATOに一連の安全保障をもとめた。とくにロシアは、ウクライナの加盟を含むNATOの東方拡張の停止を要求した。その時、15万人に及ぶ戦闘可能なウクライナ軍部隊のほとんどが、ドンバスの近くに集中していた。西側諸国は、ウクライナがドンバスへの侵攻の準備を本格化させてていることを知りながら、ロシアの要求を無視した。

テテキンは言う。
彼らが行動を開始すれば、ドネツクとルガンスクを完全に破壊し、何千人もの死者を出して、数日以内に現地部隊の抵抗を打ち砕くことができるだろう。
ウクライナ紛争は、米国による軍事的侵略のステップアップであり、質的エスカレーションである。それは基本的に二つの面から明らかである。

① 米国がウクライナのNATO加盟の「権利」を主張するという政治的事実と、
② 米国がウクライナ軍を増強するという軍事的事実。

つまり米国はウクライナでの軍事衝突を準備して来たのである。そんなことをすればロシアとの直接対決が避けられなくなるのを知った上でだ。


2.米国の世界戦略が強度を上げた

したがって、ウクライナ危機をグローバルに評価する上で重要なのは、米国の世界戦略が単に発展途上国に対する軍事的な脅しから、ロシアのような非常に強い国に対する侵略にまで強度を上げたことだ。前者も常に不当ではあるが、大国との軍事衝突や世界大戦の直接の危険は低い。一方、米戦略がロシアのような非常に強い国に対する侵略にエスカレートしていった場合は、世界的な軍事衝突の危険性に結びついていく。

したがって、米国で軍事的侵略を強硬化させている「内部の矛盾」を分析することが極めて重要である。その際念頭に置くべきことは、

① それは一時的なもので、その後、米国はより融和的な路線を再開するのだろうか。
② それとも、軍事的エスカレーションの増大は、米国の政策の長期的な傾向なのだろうか。
というトレンドの見極めである。

もちろん、これはすべての国にとって最大の関心事であるが、とくに米国を除く唯一の強大な国家である中国にとって重要である。


3.台湾問題: 米国のもう一つのレッドライン

その鍵となる例をたった一つだけ上げる。それは、米国のロシアに対する侵略がエスカレートするのと並行して、米国は中国への攻撃をもますます強化しつつあるということだ。

米国は中国経済に対する関税を課すだけでなく、中国を非難する国際キャンペーンを組織的に展開して来た。新疆ウイグル自治区の状況を自国の外交政策に利用するだけでなく、各種の経済制裁をかけることによって新疆ウイグル自治区を弱体化させようとした。

そして今、台湾をめぐって「一つの中国」原則を侵食し、中国の対外政策を弱体化させようとしている。

以下、台湾関連で米国の行動を列挙しておく。

① バイデン大統領が米大統領就任式に台北代表を招いた。これは米中国交樹立後初めてのことである。
② ナンシー・ペロシ下院議長が2022年8月2日に台北を訪問した。下院議長は米国大統領継承順位で、正副大統領に次ぐ第3位に序せられている。
③ 米国は、台北の国連への参加を要請した。
④ 米国は台北への軍需品・装備の販売を強化した。
⑤ 米国から台北への訪問団が増加した。
⑥ 米国は南シナ海での軍事展開を拡大し、台湾海峡に米軍艦を定期的に派遣している。
⑦ 米軍の特殊作戦部隊は台湾の地上部隊や台湾海軍の兵士を訓練している。

ウクライナとロシアとの関係と同様に、「一つの中国」政策は中国の最も基本的な国益に影響を及ぼす。そのことを米国はことを十分に認識しているはずである。1972年にニクソン大統領が北京を訪問して以来、50年にわたり、「一つの中国」政策は米中関係の基礎となってきた。これを放棄することは、中国へのレッドラインを越えることになる。

米国は、ウクライナでロシアのレッドラインを意図的に踏み越えることを決めた。それと同じように、米国は「一つの中国」政策を捨て、中国と争う形に移行しようとしているのだろうか。そのような米国の中ロ両国に対する挑発が一時的なものか、中長期にわたるものか、あるいは永久的なものなのだろうか。

この問題については、「米国の軍事的エスカレーションの傾向は続くだろう」というのが筆者の明確な見解である。しかし、このような戦争の危険もはらむ問題はきわめて深刻であり、現実的にも甚大な影響を及ぼす。だからたんなるコケオドシや危機煽りのプロパガンダは許されない。

そこで、米国が今後さらに軍事的侵略をエスカレートさせようとする背景を、事実に基づき、客観的かつ冷静に検討してみたい。さらに、この危険な米国の政策に対抗しうる潮流と、それを悪化させかねない危険な潮流とを、それぞれについて分析してみたい。


4.米国の経済的比重はどう変化したか

最も本質的な事実に還元すれば、米国の軍事侵略政策をエスカレートさせる主要な力は明らかである。
それは、第一に、世界的な生産において米国経済の占めていた圧倒的な比重が、継続して失われていることである。
そして第二に、それにも関わらず米国の軍事力と軍事費の世界的優位性が保たれたままであることである。

このパラドキシカルな変化は、人類にとって非常に危険な時代、すなわち、米国が経済的衰退を軍事力の行使によって補おうとする時代を生み出している。

この解釈は、米国の途上国への軍事攻撃や、ウクライナにおけるロシアとの対立の激化を説明するのに役立つ。これからの世界にとって重要なのは、この軍事的優位確保への衝動が、中国との対立の激化を含めてさらに拡大するのかどうかである。さらに論を進めるなら、その衝動は世界大戦さえも視野に入れているのだろうか。

この問いに答えるためには、米国の経済・軍事情勢を正確に分析する必要がある。

(A)旧冷戦時の経済差

まず経済だが、第一次冷戦時代が始まった頃、1950年にアメリカは世界のGDPの27.3%を占めていた。
 これに対し、当時最大の社会主義経済国であったソ連は、世界のGDPの9.6%を占めていたに過ぎなかった。つまり、アメリカはソ連の3倍近い経済規模を持っていたのである。

第二次世界大戦後の全期間を通じて、ソ連のGDPがアメリカのGDPに近づくことはなく、1975年には44.4%にしかならなかった。ソ連の経済力がピークに達したときでも、アメリカはソ連の2倍以上の経済規模を持っていた。かくして旧冷戦時代、米国は少なくとも生産高でソ連を大きくリードしていたのである。

現状に目を向けると、米国が世界のGDPに占める割合は、1950年当時と比較してかなり減少している。米国が世界のGDPに占める割合は、測定方法にもよるが、およそ15%から25%である。

(B)現在における中国との経済差

米国の経済的ライバルである中国は、米国とほぼ同じ経済規模になりつつある。為替レートの変動により、実際の生産高とは多少関係なく変動する市場為替レートでも、中国のGDPはすでに米国の74パーセントに達している。それはソ連が達成した水準をはるかに上回っている。しかも、中国の経済成長率は以前から米国を大きく上回っているから、今後さらに米国に迫っていくことになる。

2021年までに、購買力平価(PPP、各国の異なる物価水準を考慮した通貨価値)で計算すると、世界経済資産の84%は米国以外の国に分散している。同じ指標で見ると、中国の経済規模はすでに米国を18%上回っている。国際通貨基金(IMF)の購買力平価予測によれば、2026年までに中国の経済規模は米国を少なくとも35%上回るとされている。中国と米国の経済格差は、かつてソビエト連邦が達成したものよりはるかに縮まっている。

旧冷戦時代、ソ連は製造業生産で米国を追い越すまでにはついに至らなかった。一方、さまざまな要素を考慮すると、どのようにみても、中国は圧倒的に世界最大の製造業大国となった。

最新のデータである2019年、世界の製造業生産に占める中国の割合は28.7%であるのに対し、米国は16.8%である。つまり、製造業生産の世界シェアは、中国が米国の170%に達している。物品貿易に目を向けると、トランプが仕掛けた貿易戦争で米国が中国に敗れたことは、トランプと彼の母国にとっていささか屈辱的でさえある。

 2018年、トランプの登場前、中国はすでに他のどの国よりも多くの物品を貿易していたが、その時の物品貿易は米国の110%程度に過ぎなかった。2021年には、中国の物品貿易は米国を31パーセントも上回っている。財貨の輸出という指標に限定すると、米国にとって状況はさらに悪い。 2018年、中国の輸出は米国の輸出を58%上回り、2021年には中国の輸出は米国のほぼ2倍に達した。

まとめると、米国の対中制裁にも拘わらず中国は圧倒的に世界最大の物品貿易国になった。それだけでなく、米国はトランプ政権とバイデン政権が仕掛けた貿易戦争で明確な返り討ちを浴びたのである。


(C)金融マクロ指標から見た中国との差

さらに基本的なマクロ経済の指標から見ていこう。

まずは実質資本投資の源泉であり、経済成長の原動力である3つの貯蓄(家計、企業、国家)である。この点で中国がリードしていることは確実である。2019年の最新データによると、中国の総資本貯蓄額は、6兆3000億ドルに相当する。これは米国の4兆3000億ドルに対し、絶対値で56%上回る。

しかし、この数字は中国のリードを大幅に控えめに計算している。中国の強度の減価償却率を繰り込んでいないからだ。それを考慮すると、中国の年間純資本創出は3.9兆ドルに達する。これは米国の0.6兆ドルに対し、635%も高い。つまり、中国は毎年、資本ストックを大幅に増やしているのに対して、米国はほとんど増やしていないのである。

その結果、周知のように1978年からの40年間だけでなく、対中制裁後の直近に至るまで、中国は経済成長において米国を圧倒的に上回ってきた。インフレ調整後の価格で、国際金融危機の前年の2007年以降、米国の経済成長率は24%であるのに対し、中国の経済成長率は177%である。つまり、中国経済は米国の7倍以上のスピードで成長している。平場の競争では、中国が圧勝しているのだ。

生産性、技術、企業規模において米国がリードしているため、全体として見れば、米国の経済力は中国よりまだ強いが、両国の差は米国とソ連の間よりもはるかに縮まっている。

ともあれ、二つの超大国の経済力が正確にはどうであろうと、それは関係ない。純粋に経済的な観点から見れば確かなことは、我々はすでに世界的な多極化の時代にいるということだ。いずれにせよ米国が世界経済における圧倒的優位性を失ったことは明らかである。 


5.米国は覇権を放棄するだろうか?

このような米国の経済的後退により、特に西側の一部では、次のように考える人が出てきた。 米国の敗北は避けられない、あるいはすでに起こっているとする考えである。中国の一部の人々も同様の見方をし、中国の総合力はすでに米国を追い越したという見方をしている。

 このような経済決定論的な見方は間違っている。

レーニンの有名な言葉にあるように、「政治は経済に優先する。それを承認することがマルクス主義のABCである」ということを忘れている。政治については、毛沢東の有名な言葉にあるように、「政治権力は銃口から芽生える」のである。(著者の中国観などには首肯できない所があり要注意 訳者)

米国が経済的優位性を失いつつあるからといって、この経済的趨勢を放置することはありえない。この経済的な流れが平穏にゴールへと続くことを許すこともありえない。彼らは命がけの抵抗を試みるであろう。米国は、経済的に中国や他の国に負けているという事実を彼らなりに受け止め、経済的敗北の結果を取り返すために、より軍事的・謀略的な政治手段へと打って出るだろう。


6.米国は政治問題を軍事的な領域に移そうとする

戦争は政治の延長である。戦争は政治を規定することもある。経済バランスと政治・軍事バランスが乖離している状況のもとで、すべての国にとっての危険は、経済的力関係の変化に関わらず、米国が軍事的優位を失っていないことである。実際、米国の軍事費は2位以下の9カ国の合計を上回っている。

ただし核兵器の分野だけは、ロシアとほぼ互角である。これはロシアがソ連から核兵器を受け継いでいるためである。一般的に国が保有する核兵器の正確な数は国家機密だが、米国科学者連盟による推計によると、2022年時点で米国は5,428個の核兵器を保有している。これに対しロシアは5,977発である。
またロシアと米国はそれぞれ約1600個の戦略核弾頭を現役で配備している。この核兵器数は中国よりはるかに多い。

 一方、通常兵器の分野では、米国が他国を大きく引き離している。これにより、米ソの「旧冷戦」と現在の「新冷戦」とでは、米国の政策に経済的・軍事的立場の違いが生じているのである。そしてそれが、米国を攻撃的な政策に呼び込む根底にある。

 旧冷戦時代には、米ソの軍事力はほぼ同等であったが、すでに述べたように、米国の経済力ははるかに大きかった。従って、旧冷戦時代の米国の戦略は競争を経済的な領域に移そうとするものであった。80年代のレーガンの軍備増強も、対ソ戦争そのものが目標ではなく、ソ連経済に打撃を与えるために軍拡競争を仕掛けたものであった。 その結果、冷戦は緊迫しながらも熱い戦争に発展することはなかった。

現在のアメリカはその逆で、経済的な相対的地位は非常に弱くなったが軍事力は依然大きい。そのため、だから米国は政治的な問題を軍事的な領域に移そうとする。これは、人類が非常に危険な時代に突入したことを意味する。

米国は平和的な経済競争では負けているかもしれないが、軍事的には依然として中国に対して優位を保っている。そうなると、米国は「直接」と「間接」の軍事的手段を使って、中国の発展を止めようとする誘惑に駆られる。

米国は自国の軍事力を誇示するために、「直接的」手段と「間接的」手段の両方を用いている。後者は今のところ、中国との正面戦争という最も極端な「直接的」手段の可能性よりもはるかに広範なものである。これらのアプローチには、すでに使用されているものもあれば、議論されているものもある。

「間接的」手段には、例えば

① ドイツや欧州連合のように、諸国家を米軍に対して軍事的依存関係に置く。その上で中国に対してより敵対的な経済政策をとるよう圧力をかける。

② 世界の経済的多極化をストップさせ、米国が一方的に支配する軍事同盟を再建する。これは明らかにNATO、クワッド(米国、日本、オーストラリア、インド)、そして他のいくつかの国々との関係で見られることである。

③ 中国と経済的に良好な関係にある国に対して、その関係を弱めさせようとすること。これは特にオーストラリアで顕著であり、最近は他の国でも試みられている。

一方、中国やロシアの同盟国に対する軍事挑発の可能性や、台湾をめぐる米国との「限定的」戦争に中国を引き込もうとするアプローチも検討されている。


(A)ウクライナでの軍事パワーの活路

米国が直接と間接の軍事的圧力を統合的に用いる最新の例がウクライナである。

ウクライナ戦争勃発後、『フィナンシャル・タイムズ』紙の米政治評論家、ジャナン・ガネッシュはこう書いた。
「アメリカはウクライナ戦争で最終的な "勝者 "となるだろう。ドイツは同国初の2つの液化天然ガス(LNG)ターミナルの建設を進めた。それが完成したのは、ロシアのウクライナ介入からわずか3日のことだった。
① もしパイプラインが使用することなく閉鎖されるなら、2026年までに、米国がドイツのLNG供給国のトップになるだろう。それによってたしかにドイツのエネルギー輸入のロシア依存は解消されることになる。
② ドイツは同時に国防予算の増額を表明した。そのことで米国が担っているNATOの財政的・物流的負担をドイツが肩代わりすることになり、そこにも米国のメリットが生まれる。
ヨーロッパはアメリカとの(経済的)結びつきが強まり、同時にアメリカへの(軍事的)依存度が下がり、NATOへの貢献と自立を迫られる。米国にしてみれば、ウクライナ戦争が思っても見なかった巨大な前進をもたらす可能性がある」

たとえ外交の魔術師キッシンジャーでさえも、クレムリンがひょっとして侵攻することを当てにして、こんな計画を立てることはできなかったろう。

(B)米国は東アジアへの進出を強化

ウクライナの戦争は、米国のアジア回帰を終わらせるどころか、それを強化することが可能になる出来事かもしれない。

アジアに関しては、中国のアジア戦略の目標は、環太平洋地域から米国の影響を排除することである。この6週間はその任務の重大さを教えてくれるものであった。日本は中国の戦略を警戒しており、キエフ政権の味方、つまり米政府の味方をするために、目一杯頑張っている。かくしてアメリカは軍事的圧力を使って、ドイツと日本の経済的従属性を高めることに成功した。

このほかにもさまざまなバリエーションが考えられるが、共通するのは、米国が軍事力によって経済的な弱体化を補おうとしている点である。このように考えると、米国はすでに軍事力を直接的・間接的に利用する基本政策に熟達していることが分かる。

中国は米国よりも急速に経済発展を遂げているため、軍事力もいずれは米国と同等になる可能性がある。しかし、中国が米国と同等の核兵器を保有するには、仮にそのような政策に踏み切ったとしても、何年もかかるだろう。通常兵器を米国と同等にするには、高度な空軍や海軍をはじめ、膨大な技術開発や人材育成が必要なため、さらに長い時間がかかると思われる。

したがって、米国はさらに長期にわたって中国より強力な軍隊を持つことになり、米国は経済的地位の低下を軍事的手段で補おうとする誘惑を永久に持ち続けることになる。


7.ウクライナ戦争から学ぶべき教訓

ウクライナ戦争に至る経過から、二つの根本的な教訓が得られる。

第一は、米国に思いやりを求めても無意味であることを確認したことである。

1991年のソ連邦解体後、ロシアは17年間、米国との友好関係を築こうとする政策をとってきた。エリツィン政権下で、ロシアは屈辱的なまでに米国に従属させられた。プーチン大統領時代、ロシアは米国のいわゆる対テロ戦争とアフガニスタン侵攻を直接的に支援した。これに対して米国は、NATOがロシアに対して口にした「一歩も前進しない」という約束をことごとく破り、ロシアに対する軍事的圧力を積極的に強めて来た。

第二に、それらの歴史的経過は、ウクライナ戦争の教訓がロシアだけでなく、中国や世界全体にとっても極めて重要であることを明確に示している。

ロシアは核兵器において米国と対等な唯一の国であり、中ロの良好な関係は、米国が中国への直接攻撃政策をとらないための大きな抑止力である。ウクライナにおける米国の狙いは、まさにロシアの政策を中国との関係を弱める方向で、根本的に変更させることである。すなわちモスクワに “ロシアを守らない政権” 「ロシアの国益を守らず、米国に従属し、中国に敵対する政権」を樹立することである。

それが実現すれば中国は単騎となり、米国の軍事的脅威に大きくさらされることになる。ロシアとの長い北方国境がアメリカとの境界となり、戦略的脅威となる。つまり、ロシアと中国の国益が同時に損なわれるのである。

ユーラシア経済同盟の執行機関であるロシアの委員、セルゲイ・グラズィエフは言う。
「アメリカはまず貿易戦争で中国を正面から弱体化させようとした。それに失敗したアメリカは、世界の地政学と経済の弱点と見なすロシアに主要な打撃の方向を移したのだ。アングロサクソンは “永遠のロシア嫌い”(Russophobic ideas)思想を実行してわが国を破壊し、同時に中国を弱体化させようとしている。なぜならロシアと中国が戦略的同盟を結べば、それは米国にとってあまりにも手強いからだ」


8.米国の軍事行動に人道水準の限界はない

米国の侵略政策は、経済的地位の低下と軍事的強さの両面から押し出されてくるため、米国の侵略の範囲に国内レベルでの限界はない。歴史は明らかに示している。米国が敵国を国ごと破壊するほど、最も暴力的な形態で軍事侵略を行うのもいとわないことを…

例えば朝鮮戦争では、米国は北朝鮮のほぼすべての都市と町を破壊した。推定で建物の85%が破壊されたという。ベトナム戦争中のインドシナ半島での爆撃はさらに大規模だった。1964年から1973年8月15日までに、アメリカ空軍はインドシナ半島に600万トン以上の爆弾や兵器を投下している。それに加えて、米海軍と海兵隊の航空機は東南アジアで150万トンの爆弾を投下した。爆弾・ナパーム弾に加え、悪名高いエージェント・オレンジのような化学兵器も使われた。その化学兵器により、恐ろしい奇形が生まれた。 

ミッシェル・クロッドフェルターの『航空戦力の限界』が述べている。
「これは、第二次世界大戦と朝鮮戦争で使われた弾薬をはるかにしのぐ量である。第二次世界大戦と朝鮮戦争でアメリカ空軍が消費した軍需品は215万トンであった。すなわちヨーロッパ戦線で161万3千トン、太平洋戦争で53万7千トン、朝鮮戦争で45万4千トンである」

エドワード・ミゲルとジェラルド・ローランドは、ベトナムでの空爆をさらに検討し、次のように指摘している。
「ベトナム戦争での爆撃は、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線と太平洋戦線を合わせた爆撃の少なくとも3倍(重量比)、朝鮮戦争の約15倍であった。戦前のベトナムの人口が約3千2百万人であることを考えると、米軍の爆撃は国民1人当たり数百キロの爆薬に相当する。
広島と長崎に投下された原爆は、それぞれ1万5千トン、2万トンのTNT火薬に匹敵する威力を持っていた。インドシナ半島での米国の爆撃は、広島と長崎の原爆の100倍の威力があったことになる」

イラクへの侵攻において、アメリカは劣化ウランのような恐ろしい兵器を用いて、イラクを荒廃させる覚悟を決めていた。そして実際にそうした。劣化ウランは、米国の攻撃から何年もたった今でも、恐ろしい先天性欠損症を引き起こしている。2011年のリビア爆撃で、米国は、アフリカで一人当たり最も豊かな国の一つであり、先進的な福祉を持つ国リビアを衰退させた。いまやリビアは部族間の対立が復活し、奴隷が公然と売買される社会になってしまった。

挙げればきりがない。要するに、米国はどんな犯罪や残虐行為まで人道水準を下げるかの限界はない。米国が対応できないものはないのだ。

もし米国が、中国からの経済的挑戦を排除するために核戦争を起こすことができると仮定するならば、彼らがそうしないという確証はない。
米国内には確かに反戦運動があるが、それは米国政府が核兵器を使用することを決定した場合に、それを阻止できるほどの強さには至っていない。米国には、中国に対して戦争を仕掛けることを妨げるような十分な内部制約がないのである。

しかし、米国の侵略に根本的な内的制約がないとしても、外的な大きな制約があることは確かである。

第一は、他国の核兵器保有である。だからこそ、1964年の中国初の核実験の成功は、国家の偉大な業績として当然評価されるのである。(著者の主張には賛成できない。核はチキンレースの対象にはならない:訳者)

中国の核兵器保有は、米国による核攻撃に対する基本的な抑止力である。にもかかわらず、中国は敵国と異なり、核兵器の先制不使用政策をとっており、自制と防衛的軍事態勢をとっていることがわかる。


9.米国の軍事政策には硬軟の局面がある

米中ロの全面的な核戦争は、人類史上前例のない軍事的大惨事となる。そのような戦争では、最低でも数億人の死者が出るだろう。そうなる前に米国の軍事的侵略のエスカレーションを防ぐことができれば、それに越したことはないのだが、その可能性はあるのだろうか?

第二次世界大戦以降の米国の政策の全体的な傾向には、明確でロジカルなパターンがある。米国が強い立場にあると感じるときその政策は攻撃的である。逆に弱体化していると感じると融和的になる。このことは、ベトナム戦争の前後で最も顕著に現れているが、それ以外の時期にも見られる。

第二次世界大戦直後、アメリカは自らを強い立場と考え、朝鮮戦争に踏み切った。朝鮮戦争に勝てなかった後も、1950年代から1960年代にかけて、米国は中国を外交的に孤立させようとするほどの自信に満ちていた。国連に中国の席を与えず、世界の国との国交を断絶させ、外交的に孤立させようとしむけた。

しかし、アメリカはベトナム戦争に失敗し、大きな敗北を喫した。ベトナム人民は中国やソ連の大規模な軍事支援を受けながら、民族解放を闘いとったのである。ベトナム戦争の敗北は、1975年のベトナム戦争終結以前から、アメリカの国際的地位を低下させ、融和的な政策につながって行った。1972年、ニクソンが北京を訪問し、中国と完全な国交を樹立したことが象徴的である。

1972年以降、アメリカはソ連とのデタント(緊張緩和)政策を開始した。しかし1980年代に入ると、ベトナムの敗戦から立ち直ったアメリカは、当時のレーガン大統領のもとで、再び積極的な干渉政策に転じる。

このように、米国が強いときには攻撃的になり、弱いときには融和的な態度をとるというパターンは、2007年8月に始まった国際金融危機の前後にも見られる。リーマンショックに始まった国際金融危機は、米国経済に深刻な打撃を与えた。その結果、米国(オバマ政権)は国際協調を重視するようになった。

世界の経済大国と人口の3分の2が参加するG20は、1999年に設立されたが、毎年開催されるようになったのは2007/8年の経済危機以降である。2009年、G20グループは、米国を中心とした国際的な経済・金融協力の主要勢力となることを宣言した。特に、弱体化した感のある米国は、これらの分野で中国に対してより協力的な姿勢を示すようになった。

その後、国際金融危機から立ち直った米国は、中国に対する姿勢がますます攻撃的になり、トランプ大統領の対中国貿易戦争の開始で最高潮に達した。つまり、米国は自分が強くなったと感じるやいなや、攻撃的になったのである。


10.第二次世界大戦前の状況と現在の比較

歴史的な比較として、第二次世界大戦に至るまでの状況と比較してみよう。

1931年、日本の軍国主義が強化され、中国東北部(満州)が侵略された。それに続き1933年にはドイツでヒトラーが政権を握った。これらが、第二次世界大戦への直接的なきっかけとなった。しかしこの時点で、戦争は必然的なものではなかった。

日本軍国主義とドイツ・ファシズムの最初の勝利は、1931年から1939年にかけての連合国側の一連の不決断と挫折の結果、日本軍国主義者とドイツ・ナチスに対峙できなかった結果としてもたらされた。それが世界戦争へとエスカレートしていったのである。

中国の支配政党である国民党は、1930年代の大半を日本撃退ではなく、中国共産党との戦いに集中させた。一方、アメリカは、1941年に真珠湾攻撃を受けるまで、日本を止めるために介入することができなかった。

ヨーロッパでは、イギリスとフランスは、ヴェルサイユ条約によってナチス・ドイツの再軍国主義化を阻止する権利があったにもかかわらず、それを阻止しなかった。さらに、1936年、ヒトラーの支援を受けたフランシスコ・フランコが起こしたファシスト・クーデターと内戦に対し、スペインの正統な政府を支持しなかった。さらに、1938年のミュンヘン宥和では、ヒトラーによるチェコスロバキアの分割要求に屈服した。

今日、私たちは、第二次世界大戦の始まりとなった1931年と同じようなパターンを見ている。世界大戦をもいとわない軍国主義派は、いまはアメリカでは多数の支持を受けていない。しかし彼らはアメリカの外交・軍事政策集団の中に、今のところ少数の周辺勢力としてではあるが、たしかに存在している。

米国がベトナムのときのように政治的敗北を喫した場合、中国やロシアとの正面戦争に直接移行することはないだろう。しかし、中期的には、1931年の日本の中国侵略や1933年のヒトラー政権のように、限定的な闘争で勝利を収めれば、大規模な世界的軍事衝突に向かう可能性が出てくる。

“決意を込めた闘い”だけが、そのような世界的な紛争を防ぐことになる。

 目前のウクライナ戦争、「一つの中国」原則を放棄する企て、ラテンアメリカを中心とする多くの国々への経済戦争などに“決意を込めた闘い”を挑み、決して米国を勝利させないないことが最も重要なのである。


11.米国の軍事侵略に対抗する二つの主要勢力

米国の軍事的侵略に反対する2つの強力な勢力がある。

第一は、中国である。中国の経済発展は、単に国民の生活水準を向上させるだけでなく、最終的には中国が米国と同等の軍事力を持つことを可能にするために重要である。中国は米国の軍事的侵略に対する究極の抑止力になる可能性が高い。

第二の強力な力は、米国の侵略に反対する多くの国々である。その中には、「南半球」の国々も含まれている。西側の国でもなく中国でもない国々は、単に道徳的な観点からだけでなく、直接的な自国利益の観点からも非米となる。なぜなら米国は、その経済的失敗の結果を軍事的・政治的手段によって非米諸国に押し付け、取り返そうとするから、必然的に他の多くの国々の利益に反する行動を取ることになるからだ。

米国の勝手な行動の影響を示す例のひとつが、次のようなものである。

第一は、ロシアとウクライナは小麦と肥料の世界最大の国際供給国であるため、米国がウクライナ戦争を挑発したことで、世界の食糧価格が大幅に上昇したことである。

第二は、中国の通信会社ファーウェイの5G通信開発への参加を禁止したことである。それは次の結果を意味する。すなわちファーウェイ参加禁止措置に同意したすべての国の住民は、通信料金をより多く支払うことになる。

米国はドイツにロシアの天然ガスではなく、米国の液化天然ガスを購入させようとするが、それはドイツのエネルギー供給を不安定にし、価格を高騰させる。ラテンアメリカでは、各国が国家の独立の政策を追求しようとしても、米国が妨げようとする。もちろん米国でも、中国の輸出品に関税をかけると、米国の家計の生活費が上がる。

米国の攻撃的な軍国主義政策は、結局のところ他国に皺寄せされ、その国の国民が負担することになる。こうした事実は、米国の政策とその結果に対する抗議を生み出す。

この相互に補強しあう2つの力のうち、まず第一に取り上げられなければならないのは、中国自身の発展力である。中国自身に発展力があり、米国の政策がますます世界の圧倒的多数の人々に敵対しているという事実、この2つが相互に補強しあって、米国の侵略を妨げる主な力となる。

したがって、中国の発展を米国の攻撃に反対する国際勢力と一体化させることは、地球人口の大多数にとって最も重要な課題である。

中国の指導者が直面している複雑な問題を、国外のわれわれは完全に把握することはできない。中国の指導者たちは、世界を平和と持続可能な地球へと導くだけでなく、革命の約束を果たす必要がある。

革命戦争の間、そして革命成立後に農民と労働者に求めた犠牲は多大なものだった。その犠牲が報われることを証明するという、重大な責任を指導部は負っている。その犠牲こそが、中国の現在の地位を可能にした力だからだ。


12.米国が直面する選択

経済的覇権を失うとともに、軍事的侵略性をエスカレートさせる米国の動きは、すでに始まっている。 ウクライナにおいて、米国は強力な核兵器を持つロシアに直接かつ強力に挑戦し、核戦争の潜在的な危険性を高めている。同時に、ドイツなどの同盟国には、自国の利益を損ってでも米国の政策に従属するよう最大限の圧力をかけている。

しかし、米国は、軍事的侵略をエスカレートさせることによる利益とリスクを秤にかけている。そして全面的な軍事力の行使をまだためらっている。米国はNATOをウクライナまで拡大すると脅した。その結果、ウクライナ戦争を引き起こし、より強力な武器と情報を手に入れた。しかしまだ直接軍を投入し攻撃する勇気はない。

このことは、米国の国家機構の最高レベルには、まだかなりの不確実性が存在することを示している。これらのことは、ロシアと中国の関係に直接影響し、ウクライナ戦争の帰趨が世界全体にとって極めて重要な意味を持つ。

中ロ両国の友好関係は、米国の戦争の脅威に対して、経済的にも軍事的にも手強い障害となる。このため、米国の政策の中心的な戦略目標は、ロシアと中国を分離することである。もし中ロの分断が実現できれば、米国は軍事力の行使を含め、彼らを個別に攻撃する能力を高めることができる。


結論

米国は、中国や他の国々に対して、経済分野だけでなく、特に米国の軍事力の直接・間接行使によって攻撃的な行動を増やすだろう。そして、そのやり方で失敗したときのみ、戦術の継続をためらうだろう。当然ながら、米国に融和的な手法を選択させるために、あらゆる機会を利用しなければならない。

しかし、米国が宥和政策を選択するは、冒険政策が破たんした場合のみだ。そして宥和政策は戦力を再編成し、新たな攻撃的政策を開始するための一時的なものである。我々はそのことを踏まえておくべきだ。米国の侵略政策を打ち破るためには、経済、軍事などの分野で中国の国内社会が総合的に発展できるかどうかに大きく依存する。このことは、米国の侵略に苦しむ他の国々の利益にもつながる。

中国自身の国内開発についで、米国の侵略を阻止する最も重要な力が登場する。それは世界の大多数を占める民衆であり、とりわけ米国の政策によって立場を悪化させられている国々(キューバ、イラン、ベネズエラなど)である。

米国の軍事力に基づく侵略が、直接と間接を問わず、どの程度激化するかは米国が決めるものではない。それは、個々の闘争で人々がどれだけ抵抗し、米国がどれだけ挫折するかによって決まる。米国は成功すればするほど、より攻撃的になり、弱体化すればするほど、融和的になるだろう。したがって、短期的には、ウクライナでの戦争の結果が、より広い地政学的現実にとって極めて重要である。

米国の攻撃的な外交政策の見通しを水晶玉で見ることはできないが、米国の攻撃性は、大きな敗北を喫しない限りさらに規模を増大し、エスカレートするだろう。それは経済的弱体化と軍事的強さの組み合わせから明らかである。

(編集部: 見出しは編集部のつけたものです。注釈、引用文献は省略しました。ご希望の方は原文をご参照ください)

 

三大陸研究所雑誌

「米国と新冷戦:その社会主義的評価

 

The United States Is Waging a New Cold War: A Socialist Perspective

 

1.「社会主義のための三大陸研究所」の紹介

この論文集は、キューバに本拠を置く「社会主義のための三大陸研究所」の発行するウェブ・マガジンの特集号(913日号)を翻訳したものです。

研究所の名前は、1966 1月にキューバで開催された三大陸会議に基づいています。会議は民族解放、非同盟、社会主義の方向性を打ち出しました。

論文集の編集には「社会主義のための三大陸研究所」のほか、社会評論誌「マンスリー・レビュー」、平和運動団体「冷戦ノー」が関わっています。

 

2.「AALAニューズ」の紹介

今回、冊子を翻訳出版したのは、日本AALA連帯委員会でウェブ情報誌「AALAニューズ」を発行している編集部です。

20186月以来、110号にわたりAALA世界の情報を発信してきました。ウクライナ紛争発生後はウクライナ問題にも注力しています。

 

3.特集号の内容紹介

全体を紹介した部分と、3つの論文からなっています。

 

紹介 ヴィジェイ・プラシャード

1.21世紀のエコロジーと平和運動のための 絶滅論 ノート」 ジョン・ベラミー・フォスター

2.誰が米国を戦争に導いているのか? デボラ・ヴェネチアレ

3.何が米国を国際的な軍事的侵略の拡大へと駆り立てているのか?」 ジョン・ロス

 

この記事では「紹介」 ヴィジェイ・プラシャードを掲載します。その後第一論文、第二論文、第三論文を別記事として掲載します。この記事からそれぞれにリンクを貼りましたので、これに沿ってお進みください。
お詫び 第一論文のリンクが切れていました。つなぎなおしましたのでよろしく。

…………………………………………………………………………………………………

紹介 ヴィジェイ・プラシャード

読者の皆さんへ

この論文集は、「マンスリー・レビュー」、「冷戦ノー」、「三大陸:社会分析研究所」の三者による共同制作です。ぜひご一読いただき、友人と共有し、機会があれば議論してください。

(ヴィジャイ・プラシャド(Vijay Prashad) インド出身の歴史学者ジャーナリストトリニティ・カレッジ南アジア史教授

貴重な人間の生命と地球の寿命が危機に瀕しています。この事実を無視することはできません。世界中のほとんどの人は、私たちが本当に直面する問題をなんとか解決したいと思っています。

この戦争は、欧米のエリートが「優位な権力を維持したい」という狭い欲望に駆られて起こした紛争です。私たちはそれに引きずり込まれることを望んではいません。

私たちは何よりもいのちを肯定したいのです。


キッシンジャーの言葉

2022年5月23日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官がウクライナについて語った言葉が印象に残っている。

キッシンジャーは、
「米国を中心とする西側諸国は、その場のムードに巻き込まれるのではなく、ロシアが満足するような和平合意を実現する必要がある」
と述べた。

キッシンジャー
ヘンリー・キッシンジャー

「この先も戦争を続けるのであれば、それはウクライナの自由のためではなく、ロシアそのものに対する新たな戦争になる」とキッシンジャーは言った。

西側外交のエスタブリッシュメントからのコメントのほとんどは、目を丸くしてキッシンジャーのコメントを否定している。

しかし、キッシンジャーは、単純な平和主義者ではない。

彼はアジアに新たな鉄のカーテンを作るだけでなく、西側とロシア・中国との間で、公然かつ致命的な戦争がエスカレートする危険性を示唆したのである。

キッシンジャーの上司であるリチャード・ニクソン元大統領は、国際関係の「狂人理論」についてよく話していた。

ニクソンは参謀のボブ・ホールドマンに、ホーチミンを脅して降伏させるために「核のボタンに手をかけている」と言ったという。


「長期的利益のための短期的苦痛」

2003年の米国のイラク侵攻を前に、私は米国国務省のある高官に話を聞いた。その人が言うには、ワシントンでは「長期的利益のための短期的苦痛」という単純なスローガンが一般的な理論だという。つまり、他国のために、そしておそらく米国の労働者のために、短期的な痛みを容認するというのが一般的な考え方だというのである。

戦争が引き起こす混乱と殺戮によって、経済的困難に陥るかもしれない。しかし、もしすべてがうまくいけば、この代償は、長期的な利益につながるだろう。なぜならそれは、米国が第二次世界大戦の終わりから保有してきた優位性を今後も維持することができるためだ。

話を聞いていて「うまくいけば」という運任せの前提が恐ろしく、背中がゾクゾクしたことを憶えている。

しかし、それと同じくらいに私が驚いたのは、誰が苦痛に直面し、誰が利益を享受するのかということに対する冷淡さであった。ワシントンでは、石油や金融の大企業がイラクを征服して得られる利益を享受することが、何よりも重要視されていた。

イラク人や労働者階級の米兵が悪影響を受ける(最悪の場合は死ぬ)ことは、そのための代償に値すると語られていたのである。極めてシニカルな意見である。

この「短期的な痛みと長期的な利益」という態度こそ、米国のエリートたちの決定的な幻覚である。人間の尊厳や自然の生命をまっとうしたい当たり前の願いを、彼らは容認しようとしない。

「短期的な痛みと長期的な利益」という思考は、米国とその西側同盟国によるロシアと中国に対する危険なエスカレーションを規定している。


「ユーラシア大陸の統合」の阻止

米国の姿勢で印象的なのは、「ユーラシア大陸の統合」というプロセスを阻止しようとすることである。統合こそは歴史的必然と思われるのだが。

08年のリーマンショックは、米国の住宅市場の崩壊と欧米の銀行セクターにおける大規模な信用危機をもたらした。その後、中国政府は他の南半球諸国とともに、北米や欧州の市場に依存しないプラットフォームの構築に軸足を移した。

2009年のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の設立、2013年の「一帯一路構想」(BRI)の発表などがそれである。

それはロシアのエネルギー供給と膨大な金属・鉱物資源保有量を下支えとしており、中国の産業・技術力は、政治的志向を抜きに、多くの国々をBRIとの関連付けに引き込んだ。その中には、ポーランド、イタリア、ブルガリア、ポルトガルなどが含まれ、ドイツは現在、中国にとって最大の実需貿易相手国となっている。

ユーラシアの統合という歴史的事実は、米国と大西洋岸のエリートの優位性を脅かした。この脅威が、米国があらゆる手段を使ってロシアと中国の両方を「弱体化」させようとする危険な試みを後押ししているのである。

ワシントンでは、古い習慣が支配的であり続けている。それはデタント(緊張緩和)理論を否定し、核の永続的な優位性を求めてきたのである。米国は、その核覇権を維持するために地球を破壊できるような核戦力と態勢を整備してきた。


ロシアと中国を弱体化させる戦略

ロシアと中国を弱体化させる戦略には二つある。

第一に、米国が課すハイブリッド戦争(制裁や情報戦など)のエスカレートを通じてこれらの国々を孤立させようとするものものである。

第二に、これらの国々をバラバラにした上で、弱体化させ解体しようとするものである。

第三に、これらの国々を支配し、帝国による支配を永続化しようとするものである。

………………………………………………………………………………………………

三論文の紹介

本巻の3つの論考は、ウクライナで今まさに顕在化している、米戦略の長期的な動向を詳細かつ科学的に分析したものである。


月刊誌『マンスリー・レビュー』の編集員ジョン・ベラミー・フォスターは、米国の「エスカレーション支配」戦略論をスキーム化している。

ジョン・ベラミー・フォスター(John Bellamy Foster)は、アメリカ合衆国社会学者。専門は、マルクス主義政治経済学環境社会学現在オレゴン大学の社会学教授および『マンスリー・レヴュー』編集者

アメリカは「核の冬」、つまり全滅の危険を冒してでも、核問題で優位に立ちたいと考えてきた。それは「チキンゲーム」の発想である。

* チキンゲーム: 相手を屈服させようとして互いに強引な手段をとりあう争い(デジタル大辞典)

ロシアと米国が実際に保有する核兵器の数にもかかわらず、米国はロシアと中国を破壊できると信じる対抗兵器体系を全面的に発展させてきた。なぜならアメリカは、ロシアと中国の核兵器を破壊し、これらの国々を服従させることができると信じているからだ。

この幻想は、米国の政策立案者の退屈な文書の中だけでなく、時折、大衆紙にも登場する。そこではロシアに対する核兵器の先制攻撃能力が重要なカギであると主張される。


イタリア在住のジャーナリスト、デボラ・ヴェネチアーレは、米国における軍国主義の社会的基盤を掘り起こす。

デボラ・ヴェネチアーレDeborah Veneziale)はベネチアに在住するジャーナリスト。三大陸研究所の研究員として協力している)

彼女は、米国がロシアや中国に対する対決戦略をどのように支えてきたかを分析する。そして戦略策定にあたって政治エリートの諸グループが存在することを明らかにする。

それはシンクタンクや軍需関係企業、政治家やその「使い走り」たちの構築する狭く濃密な世界である。彼らは自らの優位を天賦のものと考え、チェックアンドバランスという憲法の保護機能を否定している。

米国の富裕層400人の純資産の合計は、現在3兆5千億ドル近くになる。世界の経済的エリートはその多くが米国出身である。彼らは不法なタックスヘイブンに脱税した40兆ドル近くをため込んでいる。それが可能なのは、米国のエリートが世界の社会的富に対する並外れた支配力を持っているからだ。それを確保するために、彼らは紛争に首を突っ込み制裁をせかす。



「冷戦ノー」のメンバーであるジョン・ロスは、「米国はウクライナ紛争を通じて、全世界に対する軍事攻撃を質的にエスカレートさせた」と書いている。

ジョン・ロス(John Ross): 中国経済研究者。英反戦団体「冷戦ノー」メンバー)

この「一連の戦争」は、米国が大国ロシアと直接対決する意思を示し、台湾を「ウクライナ化」することで中国との対立をエスカレートさせようとしている(二正面作戦)ために緊張の度合いを強めている。そして、とても危険なものとなっている。

ロスは主張する。
「米国を抑制することができるのは、中国しかない。最大の武器はその政策的弾力性であり、主権とそのプロジェクトを守るための関与である」と。

南半球では、米国による外交政策の押し付けに対して苛立ちが高まっている。世界のほとんどの国は、ウクライナ戦争を自分たちの紛争とは考えていない。世界は人類にとってもっと深刻で広範な困難に直面しており、ただちに対処する必要性に迫られているからである。

アフリカ連合のムーサ・ファキ・マハマット代表が2022年5月25日に次のように述べたのは、そのことを物語っている。「アフリカは、遠く離れたロシアとウクライナの紛争の巻き添えになっている」

ウクライナは空間的に遠いだけでなく、アフリカ、アジアやラテンアメリカの国々の政治的目標から見ても遠いのである。


以上がプラシャドによる紹介です。このあとは個別論文のリンクに移動してください。





TeleSur
20 September 2022

地政学的対立が国際法の基礎を掘り崩す



Photoguterres

20日、グテーレス事務総長が国連総会(UNGA)で導入となる演説を行った。

世界は機能不全に陥っている

私たちの世界は大きな問題を抱えている。格差はますます深くなり、不平等が拡大している。そして、課題はさらに広範なものとなっている。

ウクライナ紛争、気候緊急事態や生物多様性の損失、途上国の悲惨な財政状況などの危機が、人類の未来と地球の運命そのものを脅かしている。

国際社会が巨大な世界的機能不全に陥っている。我々の時代は大きな劇的な試練に直面している。しかしその課題に取り組む準備も意志形成も、いまだできていない。

我々は全面的に行動するよう求められている。いまこそ諸国諸勢力が集団的に行動することが求められている。

地政学的な対立が困難を強めている

「地政学的な対立は、安保理の活動を弱めている。それは国際法を弱め、民主的な制度に対する人々の信頼と信用を弱めている。それは、あらゆる形態の国際協力を弱めている。
私たちはこのままではいけない。


化石燃料企業の超過利益に課税を

国連事務総長はすべての先進国に対し、化石燃料企業の超過利益に課税するよう求めた。

そして、その資金を気候危機による損失や被害に苦しむ国々や、食料・エネルギー価格の上昇に悩む人々に振り向けるよう呼びかけた。

国連事務総長は「化石燃料企業とその支援者の責任を問う必要がある」と指摘した。

そして、「再生可能エネルギーはすでに化石燃料より安価で、従来より3倍の雇用を生み、エネルギー安全保障と価格安定の道筋となる」と述べ、再生可能エネルギーへの移行を求めた。

世界インフレがやってくる

世界規模の供給インフレと言うのは1970年代のオイルショック以来だそうだ。

大まかに言って4つの要因が複合している。

第一は世界的な農業生産の不振だ。温暖化が関連してる可能性は否定できない。あるいは周期的なものかもしれない。

第二はコロナだ。世界の生産が止まり、とくに第三次産業、人間的活動、社会的活動が壊滅的打撃を受けた。ただこれにはいつとは確言できないにせよ、いつかは終わりは来る。そしておそらくはリベンジ消費の高まりが来る。

第三に脱炭素の機運の高まりだ。それはあまりに性急に過ぎ、あまりに先進国主導型だ。

化石燃料への投資の冷え込みがもたらす供給不安は、今後30年にわたり先進国に年0.5%の物価押し上げをもたらす。また従来型エネルギーに依存する川上産業を担う新興国の不安を増す。

第四にウクライナ危機で原油・LNG価格が暴騰した。今後さらにレアメタル、基礎食料などの高騰も予想される。実はロシアの経済規模は決して大きくない。GDPは米+EUのわずか5%である。にも関わらずこれだけの影響が出るのは、西欧の脱炭素議論で、エネルギー安保の視点がすっぽり欠落していたからである。

これまでも西欧はLNGで何度もロシアに揺さぶりをかけられてきた。日本でも東北大震災の後ロシアのLNGに依存しようとする動きがあった。しかし結果として、円高を奇貨として、スポット買いで当座をしのぎながら購入先を確保していった。
…………………………………………………………………………………………………………………………

日経19日記事「難度増すインフレ退治」では、米国の消費者物価は8%上昇しているが、その半分はエネルギー・食品などコア商品の供給制約によるものが占めている。

そこに来たウクライナ危機の影響はコア中のコアに集中するから、数字以上のものがある。


新興国は不況下の利上げへ

日経新聞の2月11日記事(本田史記者)だが、ウクライナのとばっちりで、1ヶ月遅れの掲載。
典型例としてブラジルが挙げられている。
今度は必ずしも「ボルソナロがアホだから」というわけではなさそう。
貧乏神が三役揃い踏みの不景気になっている。
各国利上げ
世界各国の政策金利の推移、新興国が特異的な上昇を示している

1.干ばつによる不作
輸出作物もふくめての不作なので、食料品高騰+輸出の減少がダブルできている。つまり需給インフレと金詰りのスタグフレーションだ。
2.オミクロンによる生産低下
ただでさえブラジルと言えば新型コロナなのだが、オミクロンの流行で新規感染者は過去最多の水準だ。これが消費需要の冷え込みを招いて、GDPを押し下げている。これは第三次産業に頼る低所得者層から就業機会を奪っている。
3.通貨不安が深刻に
上記の2つが深刻化しつつあるその時に、FRBの金融 “正常化” が襲う。現下のインフレが “モノ不足” という需給バランスの不均衡に起因しているのに対し、これを金融引締めというサプライで痛めつけるのはいかにも理屈に合わないのだが、先進国の場合は膨大な資金がだぶついているからまだしのげる。新興国や途上国では、強烈な “貸し剥がし” と資金還流が起こるのが目に見えている。
まさに “失われた10年” の再現である。

これが新興国中でも最大規模のブラジル経済にどのように現れているか。
本田記者は以下のような数字を列挙する。

1.インフレだから金利引き上げ

1月の消費者物価指数は前年比10.28%上昇。主要な原因は干ばつによる農産物価格の高騰だ。これに対し中銀は2月に政策金利を10.75%に引き上げた。物価上昇率を上回る利率を設定することで、フローを抑え込もうというわけだ。

2.金利上げればGDPは下がる

昨年第3四半期のGDPはすでにマイナス成長。むしろ金融緩和と財政出動が求められる場面だ。
ここで物価上昇を上回る政策金利を設定すれば、スタグフレーションに移行する可能性が強い。言ってみれば愚の骨頂だ。
新興各国の経済
GDP、インフレ率、公定利率の三つ編み模様だ


3.それでもやらなければならない理由

インフレが100%を越すハイパーインフレとなれば、通貨不安が拡大し経済の底が抜ける。
貿易関連で言えば、輸入コストが増加し、さらなるインフレ要因となる。
それだけでなく資本関係でドル建て債務の増加をもたらす。
ようするに、経済の実情とは逆に、為替の状況はさらなる引き締めをもとめる。これが新興国=金融弱者の悲しい性だ。
通貨レアルの対ドル相場は足元で5.2レアル。すでにコロナ前より4分の3に減価している。


4.FRB金利改定に怯える中南米

ここからは私見、本田記者とは関係ない。

今後FRBは利上げを前倒し実施する予定で、引き締めのスピードも加速する可能性がある。
ある朝、銀行に出勤してコンピュータを作動したら、投資残高がゼロになっていたという悪夢が予想される。

なぜ中南米ばかりがいつも標的にされるのか、それは中南米の独自市場が出現するのを、米国政府が許さないからだ。国家は永遠に米国の裏庭であることを、企業は米企業の下請けであることを、国民は米国市民のペットであることを強要される。独自性を望めば、その動きは徹底的に押さえこまれる。

70年代には軍事独裁を操るCIA、90年代にはIMFの皮をかぶった米商務省、いまは人権団体の皮をかぶった米国務省がその先頭に立っている。「カラー革命」が最近流行りの手法だ。

teleSUR
3月15日
グテーレスの警告: ウクライナ紛争の途上国への影響
UN Warns of Global Consequences of Russia—Ukraine Conflict

https://www.telesurenglish.net/news/UN-Warns-of-Global-Consequences-of-RussiaUkraine-Conflict-20220315-0001.html

リード

世界の食料価格指数は過去最高水準に達している。
グテーレス国連事務総長は、国連担当記者との会見を開き、あらゆる手段を講じて飢餓の暴風と食料システムの崩壊を回避することが必要だと強調した。
以下はグテーレス談話の要点

食糧危機と飢餓の懸念

ロシアとウクライナは、何種類もの資源の世界的供給国です。

両国は世界のヒマワリ油の半分以上、小麦の約30パーセントを産出しています。ウクライナだけで、世界食糧計画における小麦供給の半分以上を賄っているのです。

まさにその領土で、重大な紛争が進行しています。

一方ではサプライチェーンが寸断される中で、食料、燃料、肥料の価格が高騰しています。輸入商品の到着は遅れ、コストは高騰しています。もし到着したとしても、その価格はとんでもないものになります。

もともと紛争以前から、途上国は記録的なインフレ、金利の上昇、差し迫った債務返済によって苦しめられてきました。その上、COVID-19の大流行に苦しめられ、そこからの回復に必死でした。

途上国の対応能力は、資金調達コストの指数関数的な上昇によって失われました。資金欠乏と過重債務が最貧層を苦しめています。そしてそれが世界中で政情不安と不安の種をまいているのです。

穀物価格はすでに2007年から2008年にかけて記録された食糧暴動の時の価格を超え、「アラブの春」の始まりのときのレベルを超えました。

いま世界の食料価格指数は過去最高水準にあります。飢餓の暴風と食料システムの崩壊を回避することが、まさに急務となっています

農産物や資源価格の高騰によって、最も大きな打撃を受けるのが途上国です。先進国指導者に訴えたいのは、政府開発援助や気候変動対策を犠牲にして軍事予算を増やそうとする誘惑に負けないことです。

ウクライナ戦争はまさにその悪い見本です。それは、化石燃料への世界的な依存が強まることで、、エネルギー安全保障、気候変動対策、世界経済が翻弄されていることを示しています。それが地政学上の典型的な事象となっているのです。



パンデミックと気候激変にウクライナが追い打ち

ウクライナの戦闘の背景となっているのは、新型コロナのパンデミックと地球を襲う気候の激変です。

国連はこの複雑な状況を乗り越えるために、事務総長直属機関として「食料、エネルギー、金融に関するグローバル危機対応グループ」を設置することを決めました。

繰り返しますが、戦争のさらなる激化は人類すべてを脅かすものです。それゆえ、対話、外交、平和への道を開くことが、これまで以上に急務となっています。

この観点から、国連事務局は敵対行為の即時停止、国連憲章と国際法の原則の確認、それに基づく真剣な交渉の推進を呼びかけるものです。

Global Times(環球時報)

US wages global color revolutions
to topple govts for the sake of American control

TRUE COLORS OF ‘DEMOCRACY’

カラー革命は米国が世界を支配する手段
“民主主義”のほんとうの色

https://www.globaltimes.cn/page/202112/1240540.shtml

環球時報編集部
Published: Dec 02, 2021

はじめに

民主主義の名のもとに、どれだけの悪が行われてきただろうか。
戦争を輸出し、「カラー革命」を引き起こし、暴力的なイデオロギーを煽り、経済的な不安定さを助長する...。

 こうして米国は、世界中に流血と混乱の痕跡を撒き散らしてきた。

 「民主主義のモデル」が輝きを失いつつあるというのに、米国はいまだにいわゆる民主主義サミットを通じて排他的な同盟を組もうとしている。

 「アメリカ流の民主主義」の本質を暴くために、環球時報はアメリカの4つの民主主義的覇権主義の罪を暴く記事を連載している。これはその第2弾である。


「カラー革命」は火薬を使わない戦争

2003年のグルジアは「バラ革命」、2004年のウクライナは「オレンジ革命」、2005年のキルギスは「チューリップ革命」、そして2011年のアジア・アフリカは「アラブの春」という具合である。

 この数十年、アメリカは「カラー革命」というなの、「火薬を使わない戦争」を世界各地で計画・実行してきた。そうやって「アメリカの価値観」を必死で輸出してきた。

米国は「民主主義」の名の下に直接軍事行動を起こすのではなく、他国の内政に介入して政府を転覆させてきた。それが世界支配を強化するための手段として、より効率的かつ経済的だと判断し、カラー革命を好んで使うようになった。

Republics_of_the_USSR.svg

過去30年間にいくつもの政府が倒された。そのうち、このような「非暴力革命」によって転覆させられた政府が90%以上を占めている。

それより前の冷戦時代、アメリカは64回の秘密裏の政権交代、6回の公然たる政権交代を試みた。(“Covert Regime Change: America's Secret Cold War”, by Lindsey A. O'Rourke)

しかし、革命が残したものは、平和でも西欧風の民主主義でもなく、対象国の大混乱、破壊、カオスであった。それが今日の世界の不安定の原点である。


世界でつづく「カラー革命」という名の惨劇

20世紀後半から、中央アジア、旧ソ連、東欧諸国をカラー革命が席巻している。これらのカラー革命を掘り下げていくと、その背後には必ずアメリカの黒い手が見えている。

ユーラシアの国々は、米国が反政府感情を煽り、政権交代に躍起になっているカラー革命の最悪のターゲットとなっている。

バラ革命

2003年末、アメリカはグルジアの大統領だったエドゥアルド・シェワルナゼを議会選挙の開票に不正があったとして辞任に追い込んだ。そして親米野党の指導者ミハイル・サーカシビリを大統領に推した。これが "バラ革命 "と呼ばれるものである。

オレンジ革命

グルジアに続き、2004年10月にはウクライナでも同様の光景が繰り広げられた。米国がウクライナの選挙で「不正」をでっち上げ、地元の若者を街頭へと押し出し、暴動をあおった。

そしてここでも親米反ロの野党指導者ヴィクトル・ユシチェンコを大統領に就任させたのである。この事件は "オレンジ革命" と呼ばれる。


チューリップ革命

2005年3月、アメリカは中央アジアのキルギスの野党を議会選挙の結果に対する抗議に駆り立てた。抗議行動は最終的に暴動へと発展した。

それは“チューリップ革命”と呼ばれ、アスカル・アカエフ大統領が政権を放棄し、逃亡することで幕を閉じた。

2020年10月、ロシアの対外情報局局長セルゲイ・ナリシキンは、米国がモルドバでも「カラー革命」を起こそうと計画していると非難した。ナリシキンは声明で、米国はロシアの近隣諸国の内政に乱暴な干渉を加えてきたと指摘した。


アラブの春

アラブ諸国における「アラブの春」の反乱の背後にも、米国がいた。

反政府デモと暴力の波は、いくつかの国で内戦を引き起こし、そこに住む人々に不安と荒廃をもたらした。

 この地域は大きな変化を遂げたが、多くの国はこの運動が与えた大きな打撃からまだ立ち直っていない。

北京師範大学政治・国際関係学院の副院長であるZhang Shengjun氏は、「カラー革命は、どれもみな米国の世界支配への意志と密接に連携してきた」と語る。

「近年、米国は中国の発展を封じ込めるために、中国に関連する国や地域にもカラー革命の戦術を実施しようとしている」とZhang氏は指摘した。




元旦の日経新聞。
三面トップにわけのわからない見出しが並ぶ。
主見出しは
食料高騰、世界揺らす
それはわかるが、脇見出しが
異常気象・脱炭素で10年ぶり高値
となる。

「どっちなのさ?」と思わず聞きたくなる。日経というか、我が国経済界の戸惑いが如実に現れた見出しだ。異常気象が問題なのか、脱炭素が問題なのか、なんともわからない。
実のところはどうなのか、本音はどちらなのかを探ってみる。

リード
ますリード。こう書かれている。
  • ①国際的な食料価格は10年ぶりの高水準となった。
  • ②政情不安や格差拡大のリスクも高まっている。
  • ③相次ぐ異常気象や新型コロナ禍の影響で、穀物の供給が不安定になっている。
  • ④その中で脱炭素化の進展が需要と生産コストを押し上げている。
  • ⑤22年は食料を始めとするインフレへの対応が世界の重要な課題となる。
まことにごもっともな話だが、全体として脈絡がない。もっと言えば年寄りの愚痴みたいにとりとめがない。
どこが何故、問題かと言うと、④が唐突に差し込まれているからである。これさえなければ、①から⑤への流れは流れる水のごとく自然である。
(ただし「食料を始めとするインフレ」という表現は吟味が必要だが…)

これはある意味で、日本の経済界の脱炭素に対する「いらだち」の表現とも見て取れる。しかしそれは仕方がないのだ。今までつけを溜め込んできた報いが来たともいえる。

ただ、前回の文章でも触れたように問題は、今必要なのはロードマップなのであって、タイムテーブルではないということだ。それだけは強調しておきたい。

ということで本題に入っていきたい。

Ⅰ)食料高騰の原因・背景

① 異常気象→不作→供給不足

下の図は過去10年間の「食料価格指数」(FAO調べ)の変化を示している。中央値の2015年を100としている。
食料価格変動

あまり紛れはない。指数はこの1年で一気に27%上昇している。つまり、単純に異常気象による不作と考えられる。

菜種(食用油)の国際価格は7割、粗糖、小麦は2割強上がった。カナダは熱波に襲われ菜種生産が3割減少した。農業大国ブラジルは、90年ぶりの干ばつに見舞われた。主要作物では、特にとうもろこし価格に影響している。

天変地異ではないか、この2年間に関してはコロナ→ロックアウト→労働力不足→生産減少というパターンも見られた。マレーシアでは労働力不足によりパーム油生産が大幅に減少した。

② 食品需要の増加

コロナによって、在来需要は著減しているが、それを上回る新規需要が発生している。これにより価格の下押し要因が相殺された。

とくに中国の公私にわたる「爆買」が目立っている。

さらに食品価格の高止まりが続くと見た投機筋が大量の資金を投入する動きを見せている。

③ 脱炭素による直接間接の影響

記事では2つのファクターを上げている。この記述で驚くのは、押し上げ要因として真っ先にバイオ燃料への食料の転用が挙げられていることだ。
「すでに米国の大豆油の約4割、ブラジルのサトウキビの5割程度がバイオ燃料に使われている。搾油工場の増強計画も相次ぐ」

これが温暖化ガスのネットゼロの計算に組み込まれているとすれば、先進国の環境論の思想的頽廃を感ぜざるを得ない。

そしてその次に生産・流通コストの増大が挙げられる。

肥料の原料となるアンモニアは大量の燃料を消費する。その燃料が石炭からLNGに変換されると、コストは1割強も上がるされる(市場リスク調査機関調べ)。

④ インフレ・スパイラルの形成

記者の強調したいのは、おそらくこういうことだろう。

異常気候は短期要因だが、脱炭素の流れは中長期要因だから、数値以上に蓄積効果をもたらす。

両者の効果は作用機序が違うから、一本道のロードマップではなく、複合的・相乗的に作用する。そこにスパイラルが形成される可能性がある。

ここで記事は食糧問題専門家の違憲を引用する。
「10年前は食料高騰後に生産が急拡大し、需要増に対応できた。脱炭素を背景とする今の食料高は長引く可能性があり、新興国が混乱すればさらなる供給制約を生む」

Ⅱ)食料価格高騰の影響・帰結

下図は左側に原因、右側に影響・帰結を表したものである。右側に4項目が並べられているが、やや羅列的である。
構図


① 新興国のインフレ

ブラジルでは消費者物価が18年ぶりのスピードで上昇している。

② 通貨安とインフレ

新興国のインフレは、物不足によるものだけではない。

米国でインフレ加速を受けて利率引き上げが始まろうとしている。これを受けて新興国のドルが還流し、通貨安インフレが広がろうとしている。

さらに投機が拍車をかけようとしている。各国政府は投機禁止措置に動き始めている。

③ 低所得層に背負わされるインフレの重荷

食料インフレは、とりわけ食費比率(いわゆるエンゲル係数)の高い貧困者を直撃する。日本では支出に占める食費の割合が2年前に比べ0.5%増えた。

これに対し株高で潤う超富裕層は、ますます多くの富を受け取るようになった。「世界不平等データベース」によると、上位0.01%の富裕層の資産は世界総資産の11%に達している。

④ 政権基盤の脆弱な国での混乱

11年の「アラブの春」同様に、いくつかの国では物価上昇がパニックを生み、政治混乱を引き起こす可能性がある。

中東やアフリカのいくつかの国では、これらの政治危機はすでに顕在化している。 



結局、結論は不明。かすかに感じられるのは「パンデミック下で脱炭素モラトリアムはないのか? 新型コロナによるダメージは、それほど軽微なものなのか?」という怨嗟にも似たつぶやきだ。


DECEMBER 30, 2021
Tricontinental: Institute for Social Research


https://thetricontinental.org/newsletterissue/we-dance-into-the-new-year-banging-our-hammers-and-swinging-our-sickles/

2021年ニュースレター 第52号

三大陸人民連盟編集部からのご挨拶
「槌を叩き、鎌を振るい、新年を迎えよう」

PS-Jalaja-India-We-Surely-Can-Change-the-World-2020.
  photo: P.S. Jalaja (India), We Surely Can Change the World, 2021.



親愛なる友人の皆さん、

今年はほろ苦い年でした。いくつかの貴重な勝利と、いくつかの破滅的な後退を味わいました。

一番恐ろしい経験は、COVID-19のパンデミックにさいしてのものです。

北の国々は、医療機器からワクチンに至る資材を、公平かつ民主的に配分できませんでした。それがデルタやオミクロンなど、さまざまな変種を生み、私たちはそこからギリシャ文字を学びました。

ワクチン接種率の低い国としては、ブルンジ、コンゴ民主共和国、ハイチ、南スーダン、チャド、イエメンが挙げられます。例えばブルンジでは、2021年12月15日時点で1200万人の人口の内、0.04%しかワクチン接種を受けていません。この調子では70%の接種率に達するのは2111年1月になります。


貧困とワクチン接種の遅れ

それらの国は世界で最も貧しい国々です。主な産品は多国籍企業によって途方もなく低価格で買われます。それは本質的に取引ではなく強奪です。

2021年5月、WHOのテドロス事務局長は「ワクチンは世界によってアパルトヘイトされている」と述べました。それから半年以上が経ちましたが、状況はまったく変わっていません。

(訳注: アパルトヘイトとは、かつての南アフリカで、少数の白人支配者が大多数の黒人住民を奴隷扱いした政策です。それは差別と抑圧だけではなく、黒人を居住区というゲットーに押し込め、隔離するものでした)

そのような状況のもとで、南アフリカでオミクロン変異株が発生しました。11月下旬、アフリカ諸国連合のワクチン供給機構のアラキヤ共同議長はこう述べました。
オミクロンは、世界が公平で緊急かつ迅速な方法で予防接種を行なえなかった結果だ。オミクロンは、世界の高所得国による「ワクチン」の退蔵の結果だ。
率直に言って、それは私には受け入れられない。
12月中旬、アラキヤはWHOのワクチン対策の特別特使に任命されました。彼女は先進国との交渉にあたっています。

彼女の交渉は個別の条件闘争では達成できません。

それは「ムンバイでの生活がブリュッセルでの生活と同じくらい重要であり、サンパウロでの生活がジュネーブでの生活と同じくらい重要であり、ハラレでの生活がワシントンDCでの生活と同じくらい重要である」ことを認めさせる、思想闘争となるでしょう。


4つのアパルトヘイト

ワクチン・アパルトヘイトは、医療アパルトヘイトという、より広範な差別の現象形態です。

今の時代には医療をふくめて4つのアパルトヘイトがあると言われています。それは食料、金融、教育のアパルトヘイトです。

例えば食料アパルトヘイトですが、国連食糧農業機関によると、アフリカの栄養不足の人々の数は2020年には2億8,160万人に達しています。これは2014年以来8,910万人増加しています。


それでも人類は進歩している

これらのアパルトヘイトにもかかわらず、人類のためのいくつかの重要な進歩が実現しています。これらの前進面は強調する必要があります。

中国の人々は前世紀までの極度の貧困を脱却しました。過去8年間で1億人近くの人々が絶対的な悲惨さから抜け出しました。

インドの農民は、農業改悪三法を拒否して闘い、1年の苦闘の末に勝利しました。これは、長年にわたる闘いによる最も重要な勝利です。

ラテンアメリカの民衆はボリビア、チリ、ホンジュラスで左翼政権を樹立しました。

私たちは今から1年前、トランプがバイデンに変わってもアメリカの侵略と支配の姿勢は変わらないと考えました。

その通りバイデン政権もハイブリッド戦争を通じてキューバ革命とベネズエラ革命プロセスを打倒しようと図りました。しかしそれは失敗し、それどころか重大な後退を余儀なくされました。これは西半球の人々にとって大きな可能性を与えています。その傾向は、22年5月、ブラジルでルラがボルソナロの残虐な統治を終わらせることを示唆しています。


アフガン危機の理不尽

もちろん、これは完全なリストではありません。これらは、進歩のベンチマークのほんの一部にすぎません。すべての進歩が明確であるわけではありません。

それがアフガンの例です。米国はタリバンとの戦争に敗れ、ついにアフガニスタンから撤退することを余儀なくされました。しかし残されたアフガンの人々の苦しみは残されたままです。3900万人近くの人々が飢餓に苦しんでいます。

米国は、タリバン政権が国連諸機関の中に正当な地位を占めることを妨害しています。さらにアフガニスタンが米国の銀行にある95億ドルの外貨準備にアクセスすることを阻止しています。

米軍撤退前、アフガニスタンのGDPの43%を対外援助が占めていました。国連開発計画は、国のGDPが21年中に20%減少し、22年以降はさらに30%減少すると計算しています。

国連報告は、2022年末までに、1人当たりの所得が2012年のレベルのほぼ半分に減少するだろうと予測しています。その結果、アフガニスタンの人口の97%が貧困ラインを下回ると推定されています。

このまま行けば、今年の冬は大量の飢餓死の出現が、現実的な可能性を秘めています。


世界の貧困と不平等

貧困はアフガニスタンだけの問題ではありません。最近発表された「世界不平等報告書2022」は、世界で最も裕福な10%が全体の富の76%を所有していること、世界の貧しい半分の人びとは私有財産の2%しか所有していないことを示しています。

ジェンダーによる差別も深刻です。労働分配を男女で比べると、男性65%に対して女性は35%に過ぎません。



最後に餞の詩が掲載されていますが、訳せるほどの力はないので原文でそのまま載せます。

作品名は“Arash-e Kamangir” (射手アラシュ)

イランの共産党員詩人Siavash Kasra’iが1959年に発表した Elegy の一部だそうです。

I told you life is beautiful.
Told and untold, there is a lot here.
The clear sky;
The golden sun;
The flower gardens;
The boundless plains;

The flowers peeping up through the snow;
The tender swing of fish dancing in crystal of water;
The scent of rain-swept dust on the mountainside;
The sleep of wheat fields in the spring of moonlight;
To come, to go, to run;
To love;
To lament for humankind;
And to revel arm-in-arm with the crowd’s joys.

 

日経新聞「脱炭素加速 インフレ圧力」より

最近わかったことがある。加速しつつあるインフレはコロナ後の景気回復に伴う揺れ戻しが原因ではない。
コロナ後インフレは、ある意味(株高)ではもうとっくに来ているし、ある意味(実需回復)ではまだ来ていないと言える。

しかしいまのインフレは、そのどちらでもない。いまのインフレは、資源開発の鈍化による人工的インフレだ。パリ協定が成立した後、「座礁資産」化を恐れて、炭素エネルギーへの開発投資が縮小した。これが慢性的な商品・輸送力不足を生んでいる。

それは下手をすると庶民を生活苦となって襲い、新興国や途上国にもっとも過酷なしわ寄せをもたらす最悪のインフレとなる可能性がある。
27日の日経新聞では、これを「グリーン・インフレーション」と呼んでいる。

グリーフレーション
 
この図ではすべての影響を列挙しているが、当面最大の問題は、OPECの生産調整を象徴とする供給サイドの模様眺めである。

記事の内容に入っていく。

1.何が起きているか

まずは天然ガス(LNG)の需要急増である。これは3つの要因に支えられている。石炭供給の減少、原油採掘量の停滞、再エネの異常気候による低下である。
それではLNGの供給は需要に応じて増加しうるのか。ここが問題で、LNGも脱炭素の主敵のひとつなので、供給元の開発意欲は低い。21年の開発投資は世界で3千億ドル。これはピークだった14年に比べ26%少ない数字だ。

つまりエネルギー資源としてのLNGへの過度の集中、しかしLNGは増産どころか減産の危険すらある。これは位相的とは言えず、構造的インフレというしかない。


2.LNGの価格高騰は何をもたらすか

LNGの需要急増は価格高騰をもたらす。欧州のLNGは12月に入ってMW/時 24,000円まで上昇した。これは1年前の5倍である

「風が吹けば桶屋が儲かる」のはなしではないが、LNGが上がれば、電力料金が上がる。電力料金が上がれば、電力を必須とする非鉄金属の生産価格が上昇、そもそも商品が市場から消滅する。


3.需給インフレは金融には解決できない

FRBは利上げの早期実施で対応しようとしている。しかしそれは有害無益の可能性がある。需給インフレは需給関係の調整を通じてしか解決できない。そうでないと、それはスタグフレーションという地獄への扉を開けることになる。

それは資源インフレという形で新興国から手足をもぎ、高金利という形で新興国から資金を奪い、脱炭素計画の最悪のコース、「新興国や途上国を原始時代の生活に突き落とすことにより、脱炭素を実現するというコース」を辿らせることになる。

いま大事なのはタイムテーブルではなく脱炭素社会へのロードマップなのではないだろうか。


というわけで、第一生命経済研究所のHPから


という記事、著者は柏村 祐さんという方だ。

1.仮想通貨と暗号資産

2009年、ビットコインが登場した。このときは仮想通貨という呼称だった。

その後2018年に、金融庁は呼称を暗号資産に変更、一本化すると発表した。

しかし市中では相変わらず仮想通貨のほうが一般的である。
そもそも「通貨」を「資産」扱いする理屈が無理だ。

仮想通貨はインターネット上でやりとりできる通貨で、法定通貨とも交換できる。


2.話題となったリブラ

仮想通貨の代表が「ビットコイン」や「イーサリアム」だ。しかしこれらは価格の変動が大きく、1日に数十万円も価格が上下する。

したがって投機的投資の対象とはなっても、決済手段として通貨代わりに利用するのは難しい。

これに関して、2019年6月にフェイスブックが「リブラ」を提唱した。

フェースブックは、外国送金のコスト、送金時間の改善を目指した。そして途上国の人々の金融アクセスを実現しようと図った。

これが決済通貨を目指すステーブル・コインの先行モデルとなっている。


3.米国政府は積極推進へ

米国の金融安定理事会はこの提起に対し積極的に反応した。そして20年10月に『グローバル・ステーブルコイン』の規制・監督・監視に関する報告と勧告を発表した。

主な内容は、
1.従来型仮想通貨の不安定性を通貨と紐付けることにより安定させるもの
2.決済の効率化に大きな進歩をもたらす
3.一般大衆の金融アクセスを容易にし、サービスの恩恵を及ぼす可能性がある
とし、推進姿勢を明確にした。

その上で、運営会社が価値総額と同額の現金やCPを準備金として積み立てることをもとめている。

要するに誰でもできるわけではなく、一攫千金の夢もない、一種の決済銀行である。


4.ステーブル・コインの拡大

11月現在、Tether、USD Coinなど70種類におよぶ「ステーブルコイン」が存在する。市場規模は800億ドルに達している。

一方で、米商品先物取引委員会は、テザー社が虚偽表示を行ったと告発するなど、取締り姿勢を強めている。

ということで、ドル支配力の強化のための手段ではあっても、ドル支配体制を侵食し、アナザーワールドを作り上げる可能性はほぼない。



恥ずかしながら、最近はほとんど赤旗を読まなくなってしまった。
そもそも活字離れといえば聞こえはいいが、活字を読んでいると小一時間で辛くなってくる。

眼科の先生には、まだ眼鏡で調整可能と言われているが、そろそろ眼内レンズの適応かとも思う。

それだけではないのだが、貴重な活字読み可能時間を有効に使いたいので、どうしても日経新聞が優先になってしまう。

というわけで、本日は25日の日経土曜版、一面右肩の記事
「デジタル通貨で貿易決済」というもの。
脇見出しは「東京海上 最大1ヶ月が即時に」となっている。

これからの計画という段階なのだが、手続き的には以下の通り。

1.輸出元企業は船会社から電子化した船荷証券を受け取り、輸出先に送信する。

2.輸出先は船荷証券を受け取り次第、輸出元のデジタル通貨口座に代金を支払う。

3.デジタル通貨(ステーブル・コイン)で貿易代金の決済を行うと、1ヶ月かかっている決済が瞬時にでき、コストも3分の1に下がる。

計画を担うのは「NTTデータ」と「スタンデージ」社。2年後の導入を目指す。

話だけ聞けば、決済型に特化し、ドルと連動するデジタルコインということで、デジタル人民元と発想は同じだ。

img20211230_15141525

このドル連動型の仮想通貨は世界中で急速に広がっている。

JPモルガン・チェースはすでに昨年から国際決済に特化したデジタル通貨「JPMコイン」の運用を開始している。

ただこの手のデジタル通貨は、真の意味で暗号通貨と言えるのか? 主催機関の母国や支配国、端的には米国の干渉を拒否できないのではないか。

このシステムでは米国によるドル支配は弱まるどころかむしろ裾野を広げ強化されるばかりではないか。とにかく、ステーブル・コインについて勉強が必要だ。

中国ブリーフィング

採取更新 2021128

決裂から再開へ: バイデン以後の米中経済関係タイムライン

US-China Relations in the Biden-Era: A Timeline

 

バイデン政権の発足

2021120日 バイデンが第46代大統領に就任。一連の大統領命令に署名する。そこではCOVID-19、気候変動、不平等と人種差別などの解決を優先した。中国との交渉は急がないと語る。

 17日目:25日 ブリンケン米国務長官が楊潔篪(ようけっち)と電話会談。ブリンケンは人権を強調し、楊は内政への干渉をやめ、中国の主権を尊重するよう求めた。

 22日目:210日 バイデン大統領と習近平が最初の電話会談。米国側は経済慣行、人権、台湾に関する懸念を強調し、中国は相互尊重、協力、対話に焦点を合わせた。

 50日目:310日 バイデン政権は、コロナ対応のため中国発の医療製品への関税を除外。

 51日目:312日 Huaweiを含む5つの中国企業が、米国の新しいブラックリストに 選ばれる。これにより投資・供給・購買に制限が課せられる。

 31757日目 香港での北京の政策に関連して、24人の中国・香港当局者を制裁。これらと関係した外国の金融機関は、米国の制裁の対象となる。

 

最初の大規模な決裂

5860日目:31820日 アンカレッジでの最初のハイレベル会議。米国からブリンケンとサリバン、中国から楊潔篪と王毅が出席。双方が公開の場で非難を応酬。

米国は「ウイグル、香港、台湾、サイバー攻撃」などを指摘。楊潔篪は、米国が中国を「見下している」と非難する。

 62日目:322日 EU、米、英、カナダがウイグル問題で中国を共同制裁。中国は 10人のEU市民と4つの団体を報復制裁。

HM、ナイキ、アディダス、バーバリーなどがウイグルでの強制労働に懸念を表明、中国はボイコットで応答。

 79日目:48日 米国商務省、中国のAT企業7社の活動を禁止。米企業のこれらとの取引を禁止。

 79日目:48日 上院外交委員会のメネンデス委員長ら、超党派の「2021年の戦略的競争法」で合意。

「中国の世界的な影響力に対抗し、米国のリーダーシップを維持する」ことを目的とする。300ページにわたる広闊な制裁法案。

 87日目:416日 ジョン・ケリー元国務長官(現気候変動問題担当特使)が上海を訪問。バイデン政権の高官による中国への最初の公式訪問となる。

「気候危機に取り組み、パリ協定の実施を完了し、グラスゴーでのCOP26を成功させるために協力する」ことで合意。

 87日目:416日 日本の菅義偉首相が訪米。「台湾海峡の平和と安定の重要性」について認識を一致。「中国の台頭に対抗するために同盟を強化すること」で合意。

 132日目:61日 イエレン財務長官と中国の劉鶴副首相との電話会談。「米中経済関係が非常に重要である」との認識で一致。

 134日目:63日 バイデン大統領、防衛技術部門の中国企業59社に、上場と対米投資を禁止する大統領令。

 139日目:68日 米国上院が「2021年の革新と競争法」を可決する。

制裁条項に加え、さらに2500億米ドル以上を投じ、5Gイノベーションを促進する。

 141日目:610日 全国人民代表大会、反外国制裁法を承認。米国とEUの制裁に対抗するための法的基盤。

 

G7NATOと「疑似多国間主義」

 142日目:611日 楊潔煥とブリンケンの電話会談。ブリンケンは、香港、ウイグル、台湾の問題を指摘し、コロナウィルスの発生源問題にも触れた。

一方で、朝鮮半島の非核化、イランとミャンマーなどでの「共有された世界的課題」、気候危機などについて米中協力の可能性を指摘した。

楊は「一つの中国の原則」を強調し、米国の「疑似多国間主義」を批判した。

 613144日目 G7首脳会議。ウイグル、香港、コロナで中国を非難。「世界経済の公正で透明な操作を推進し、非市場政策や慣行に挑戦する」と声明。

 145日目:614日 北大西洋条約機構(NATO)会議、「中国の表明した野心と断定的な行動は、国際秩序に体系的な課題を提示している」とし、「対ロシア同盟」から「対中国」への衣替えを宣言する。

中国は、「NATOは中国の軍事力を誇張してはならない。中国はNATOに対しいかなる挑戦も行わない」と反論。

 154日目:623日 米国、ウイグルからのソーラーパネルの輸入を禁止。中国の関係5社への制裁も強化される。

 170日目:79日 米国、23の中国企業を「人権侵害と虐待に関与している」とし、経済ブラックリストに追加。

 175日目:714日 米国上院、「ウイグル強制労働防止法」を採択。ウイグル自治区からの商品が強制労働によって製造されていると仮定する無茶苦茶な推定を前提とする。

 184日目:723日 中国は7人の米国市民と団体に「反外国制裁法」を適用。ヒューマン・ライツ・ウォッチや「香港民主主義評議会」が対象となる。

大橋英夫氏によれば、

米国は議会、G7NATO、人権NGOなど持ち駒のすべてを晒した。しかし明瞭な効果を上げたものはなく、外交は膠着状態に入った。シャーマン国務副長官が訪中したが、格段の成果はなかった。

年表ではこの後62日にわたり記載が途切れるが、大橋氏はこの間の経過を細かく追っている。

 

雪解けの兆し?

8月末 ケリー気候変動担当大統領特使が訪中。韓正副首相、楊潔篪、王毅とオンライン協議。

8月末 新駐米大使秦剛が着任、対話と協力を呼びかける。

99日 米中首脳電話協議。「両国の利益が重なる分野、利益・価値観/認識が異なる分野に関して開かれた率直な関与をすること、競争を紛争にしないことを確実にするための協議を行うこと」で合意。米国側は台湾・ウィグルに言及せず融和的姿勢を示す。

921日 国連総会、一般演説。バイデン大統領は「競争はするが紛争にはしない。新しい冷戦や分割された世界を望んでいない」と語る。習近平はこれに応じて「海外での石炭火発計画の停止」を宣言。

 246日目:924日 Huawei CFOの孟晩舟が中国に戻り、中国勾留中のカナダ人2人が解放される。カナダのトルドー首相は、北京との貿易関係を維持することに熱意。

924日 QUAD首脳会議。人類的・抽象的価値を謳い上げる。米中関係修復の煙幕の可能性。

258日目:106日 チューリッヒでサリバンと楊潔篪が会談。バイデン大統領と習主席が、年末までにオンライン会議を開くことに合意。

このあとネオコン系のブリンケンは対中交渉から外れ、サリバンが交渉の主役となる?(鈴木)

 274日目:1022日 米国の諜報当局が、人工知能・量子コンピュータ、バイオテクノロジー、半導体、自動制御システムの5つの技術分野で、米国の企業や研究機関と中国との交流に警告。

 278日目:1026日 イエレン財務長官と劉鶴副首相とのビデオ会談。マクロ経済政策のコミュニケーションと調整を強化することで合意。

 278日目:1026日 連邦通信委員会(FCC)は、中国最大の国営通信会社の米国内での営業許可を取り消し。

逆に、議会では、超党派での対中強硬論が強まる。バイデン政権の「変節」する勢力も出現。中国政府の補助金に対する通商法301条の適応を迫る動きも(大橋)

 293日目:1110日 米国と中国が、気候変動対策に関する共同宣言を発表。「気候に関しては、協力がこの仕事を成し遂げる唯一の方法」と述べる。

 298日目:1115日 バイデン大統領と習近平国家主席が、最初のビデオ会議。二国間関係、台湾への態度、コロナ問題、気候危機とエネルギー、北朝鮮・アフガンなど、3時間半以上にわたる。

 299日目:1116日 米中は互いのジャーナリストに対するビザ制限を緩和。

 314日目:122日 米国証券取引委員会、上場廃止措置に伴う規則を中国企業にも適用。

 318日目:126日 バイデン政権は人権問題を理由に、外交または公式の代表者を北京22冬季オリンピックとパラリンピックに派遣しないと 発表。
中国は「スポーツの政治化」に反対し、「断固たる対策」を講じる と述べる。

 

トム・クランシーの「レッド・オクトーバーを追え」という小説があって、本質は反共・暴力主義のひどいものだが、潜水艦同士の虚々実々の駆け引きはそれなりに趣向が凝らされていて息も継がせぬ面白さだった。ジョン・フォードの「駅馬車」が面白いのと同断だ。
この小説は実話をもとにしているらしい。

1975年11月にソ連のストロジェヴォイ級駆逐艦を盗み、忠実なクルーとともにレーニン主義に改革を起こそうとしたヴァレリー・サブリン少佐の行動がもとになっています。

ソ連軍はすぐに軍艦を沈め、サブリン少佐が欧米に亡命しようとしていたと主張。クランシーはこの出来事にインスピレーションを受けて小説を書いたと言われています。
コタク・ジャパン・ブロマガ

しかし広い大西洋ならともかく、水たまりみたいな南シナ海で原潜同士が追っかけっこというのでは、溜まったものではない。

次のような話もある。これはケネディ大統領の時代、キューバ・ミサイル危機のさなかに起きたほんとうの話だ。

1962年10月17日正午頃、アメリカ軍航空機がキューバの海上封鎖線上で、ソ連の潜水艦B-59に対し爆雷を投下。艦長は航空母艦に向けて反撃核魚雷の発射を決定、戦闘マニュアルに基づき核魚雷の発射準備に入る。乗組士官のひとりヴァシーリ・アルヒポフが強く反対し、発射を制止。
キューバ・ミサイル危機年表

ともあれ、ゴタゴタのきっかけを作ったのは中国。これは間違いない。香港、尖閣、ウィグルと違い南沙諸島問題では中国に一点の大義もない。
中国がASEANとのあいだに多国間協議の窓口を開かないことには、問題の解決の展望は見えてこない。このあたりを回って、しばらくは「水面下の動き」が続くのだろう。

以下の拙文を参照されたい。
中国における「中核的利益」突出の時系列

10月4日 日経新聞のオピニョン面には

FT紙のウィートリー記者の主張「IMFは信頼できるのか」が掲載されている。前世紀末には飛ぶ鳥落とす勢いで、「世界はIMFが仕切るのか?」とさえ思わせたが、たしかに最近はとんと話も聞かなくなっている。

金余りの世界で「最後の貸し手」の出番がなくなった

記者によれば、原因は主要国の中銀による大量の資金供給なのだそうだ。リーマンショックとその後の欧州金融危機以来、「最後の貸し手」であるIMFの出番を待つまでもなく、各国から金が溢れでている。

高利回りを求める投資家が、IMFと同じ金利とゆるい条件で融資を申し出る。わざわざ厳しい条件付きのIMF融資を受ける理由がなくなった。

新型コロナの流行はさらなる中銀の流動性供給を招いた。過剰融資の傾向はさらに強まった。だからIMF幹部は「中銀が我々を失業させた」とぼやくのである。


IMFの業態変化は成功していない

こうした状況のもとで、IMFの主要業務は従来型の緊急流動性支援から、経済発展支援に軸足を移しつつある。世銀的役割への移行である。その際の資金とされたのがIMF準備資金の特別引き出し権(SDR)である。それは国を指定した融資ではなく、年度ごとの配分形式だ。

そしてその配分をめぐり不正疑惑が発生している。しかもゲオルギエバ総裁その人に関わる疑惑だ。疑惑は中国への融資枠に関わっており、米下院では金融サービス委員会がゲオルギエバの適性に疑問を投げかけた。彼女は疑惑を否定しているが、米国の後ろ盾を失ったIMFが、今後苦境に立たされるのは間違いないだろう。


2020年代の世界の特徴 その3 「進歩勢力」と連帯

かつて「81カ国声明」(81カ国共産党・労働者党代表者会議 1960年)というのがあって、3つの革命勢力が規定されていた。

すなわち社会主義体制・新旧植民地の反帝勢力・資本主義国で社会主義を目指す勢力である。3つ目の「資本主義国で社会主義を目指す勢力」として主にヨーロッパの社会主義運動が措定されていた。

ところが社会主義体制が消滅し、西欧諸国でもアメリカへの従属は明らかなものとなりつつある。

今日ではアメリカ以外のどの国においても、アメリカへの軍事的・金融的・外交的従属を断ち切る任務を抜きに多数派革命はできない。否応なしに世界の諸国の進歩的運動は一本化することになるだろう。

だから、思想・信条の違いはあっても、すべての国は連帯が必要だ。そして、その運動の骨組みは非同盟運動の枠組みとかなり類似したものになるのではないか。なぜなら、今日の時代において非同盟であるということは、アメリカと軍事同盟を組まないということだからだ。


アメリカの巨大複合体への反撃と連帯

アメリカの巨大複合体はみずからへの従属を迫り、それに従わないものに対しては、フェイクを取り混ぜたイデオロギー攻撃を仕掛け、国際法に反する経済・金融封鎖で首を絞め、暴力的な挑発を仕掛け、最終的には武力侵攻も辞さない。これを撥ね退ける戦いにおいて、まず必要なのは連帯だ。

同じ敵との、同じ闘いには、当然、敵からも同じ攻撃がかけられる。それを闘う仲間として理解し合ううことが大事だ。場合によっては闘い方に批判も出るだろうが、全体として連帯していく必要がある。大事なのは、間違っても巨大複合体の仕組んだ思想攻撃に同調しないことだ。とくに西欧諸国がアメリカへの無批判的同調を強めている現在、このことは重要だ。

保留点を明確にすることは連帯しないということではない。「批判」は連帯運動が対等であるための条件であって「踏絵」ではない。「アメリカ民主社会主義」(サンダース派の青年たちが結成した全国組織)の運動方針にはこう書かれている。
私たちは国際連帯に向けて努力しなければなりません。私たちの任務の一部は、このアメリカで帝国主義に立ち向かうことでなければなりません。


2020年代の世界の特徴 その2 「主要な敵」

帝国主義という言葉を使わなくなったのは、アメリカ以外に帝国主義と呼べる存在はなくなった、というのが逆説的な理由だ。

が、概念的にもアメリカはレーニン的な「帝国主義」の枠組みを大きくはみ出している。


1%の人は誰なのか、何処にいるのか

これまでの議論の積み上げから類推すると、第一候補は軍産複合体である。第二候補は投機的金融業界である。第三はGAFAなどのハイテク企業である。

この中で金と力を持っているのは第一候補の軍産複合体をおいてない。他は許認可でがんじがらめになっており、吹けば飛ぶようなものだ。


21世紀初頭の軍産複合体と現在の複合体はどう違うのか

現在の巨大複合体は、かつての軍産複合体に財務省・連銀がくっついて、マネーの出口を支配したことに特徴がある。

それが2008年リーマン・ショックとその後の欧州金融危機の期間に、連銀の三次にわたる量的緩和結果として起きたことである。

それは軍・財・銀複合体と呼ぶべきエイリアンだ。軍事脅迫に加え経済脅迫を加えることによって、多くの国々が膝を屈した。

バイデンの国際政治

トランプ政権の相次ぐ暴走を社会実験と見たバイデンは、その経済制裁の手法を体系化し、奇天烈なフェイク攻撃に代え「人権攻撃」を制裁の口実として用いるようになった。

この攻撃の方法はかつての冷戦戦略と瓜二つである。
ただ、この「バイデン・ドクトリン」とでも呼ぶべき戦略体系はさらに詳しく分析する必要があろう。

2020年代の世界の特徴 その1

ヴァージル・ホーキンスさんはこう言っている。
シンプルに、わかりやすく、ひと言で何かを言い表せば、「なるほど」と思う人はいるでしょう。
しかし、国際社会で起きている出来事は、そんなに単純ではありません。「複雑さを犠牲にせずに分かりやすく書く」ということが大事です。
まさにそのとおりなのだが、現実にはそのような思考過程をたどるには、私の脳の老化はもはや進行しすぎている。

ということで、一言コメント集みたいなもので、議論に参加したい。

今回は「主要矛盾」ということで、とりあえず以下のようにつぶやいてみることにする。

第一の問題、もっとも根本的な矛盾は、階級的矛盾の激化だ。社会システムそのものが貧富の差を猛スピードで拡大しつつある。そして拡大された貧富の差が、社会システムを傷つけ、破壊しつつある。この先に断崖が待っていることは疑いない。

第二の問題は、政治矛盾の激化だ。この間に不寛容や反理性など、さまざまな混乱を内に秘めつつも、99%の人間が社会改革を求めて結集しつつある。世界は1%対99%の闘いに収斂しつつある。

第三の問題は、米国を中心とする支配層が、根本的矛盾から目をそらせるために人工的に作り出している矛盾の「激化」だ。第一の柱は米中対決論であり、第二の柱は「人権外交」攻勢だ。
これらは「バイデン・ドクトリン」として定式化されつつある。


フォーリン・アフェアーズ 
June 17, 2021

はじめに

気候変動、パンデミック、核拡散、大規模な経済的不平等、テロ、汚職、権威主義など、米国が今日直面している国際課題は未曾有のものである。

それは世界の人々の共通の課題である。それは、どんな国でも単独の力で解決することはできない。

地球上で最も人口の多い国である中国は言うまでもなく、文字通りすべての人々の国際協力を強化する必要がある。

ところがいま、米中関係をゼロサムの経済的および軍事的闘争とする見方がワシントンで出現し、急速に成長し、コンセンサスとなりつつある。これは悲惨で危険な傾向である。

このような見方が広まると、それだけ世界が切実に必要とする国際協力が困難になるだろう。


これまでの米中関係

我々の中国観がどれほど急速に変化したかは、注目に値する。

20年以上前の2000年9月、アメリカの企業団体と両政党の指導部は、中国に「恒久的な通常の貿易関係」の地位、つまりPNTRを与えることで合意した。

全米商工会議所、全米製造業者協会、企業メディア、諸官庁の外交政策専門家は、中国との経済協力を促進することで合意した。

それは、中国の成長市場は米国経済にとっても大事であり、中国へのアクセスを米国企業に与えることが必要だという合意である。

合意には一つの前提があった。中国経済の自由化は、民主主義と人権に関する自由化を伴うだろうという予想である。

この政治的ポジションは間違いなく正しいと見なされてきた。

ブルッキングス研究所のニコラス・ラーディは、2000年の春にはこう主張した。
「国際社会は中国に実質的な経済改革を追加するよう求めている。しかし中国の指導部は未だに重大な経済的および政治的リスクを冒している。そういうとき、PTNRは中国の改革に重要な後押しを提供するだろう。
逆に、PTNRを米国が受け入れなければ、中国の世界貿易機関(WTO)加入に伴う重要なメリットを米国企業が得られなくなる」
同じ頃、保守派のアメリカン・エンタープライズ研究所のノーマン・オーンスタインはもっと率直に言った。
「米中貿易は、アメリカ企業にとっても、中国の自由の拡大にとっても良いことだ。それは明白であり、そうすべきだ」
それは私には、オーンスタインほどには明らかではなかった。だから当時、私はPTNRに反対した。

私と、多くの労働者は、アメリカの企業は中国に移っていくだろうと考えた。
それは中国で労働者を飢餓賃金で雇うことを意味する。それを許すことは、底辺への競争に拍車をかけ、アメリカでの正統な仕事が失われ、アメリカ人労働者の賃金を下げることになるだろう。
そしてそれがまさに起こったことである。

約20年間で、約200万人のアメリカ人の雇用が失われ、40,000以上の工場が閉鎖され、アメリカ人労働者は賃金の停滞を経験した。

2016年、ドナルド・トランプが勝利したのは、米国の貿易政策に反対するキャンペーンを行ったことによる。


中国は楽観できない

一方、言うまでもなく、中国の自由、民主主義、人権は拡大していない。中国はより権威主義的な方向に進み、自由と民主主義は大幅に削減された。

中国は世界的な舞台でますます野心的になっている。

ワシントンの政治の振り子は、中国との自由貿易増大と市場参加の機会増加という過度の楽観主義から、中国によってもたらされる脅威についての過度な警戒に変わった。

その背景には、通商関係の発展で中国がより豊かに、より強くなり、そしてより権威主義的になったことが挙げられる。

2020年2月、ブルッキングス研究所のアナリスト、ブルース・ジョーンズは次のように書いている。

「中国の台頭は、世界第2位の経済大国、最大のエネルギー消費国、そして第2の防衛支出国の出現をもたらした。その結果、世界情勢は不安定となった。
大国間の競争の新たな現実に立ち向かうことは、これからの時代のアメリカの政治的手腕が問われる課題だ」

数ヶ月前、共和党のトム・コットン上院議員は、中国の脅威を冷戦中のソ連の脅威に比較した。そして中国共産党がもたらす脅威の高まりにふさわしい組織対応を行うべきだと主張した。

先月、米国国家安全保障会議のアジア問題最高責任者カート・キャンベルはこう語った。

「対中国政策においては、“関与”と呼ばれた期間が終わり、今後は“競争”が支配的なパラダイムになるだろう」


2つの中国観は、ともに間違いだ

20年前、アメリカの中国に関する経済的・政治的観点は間違っていた。今日、中国の見方は変わったが、それはまたもや間違っている。

かつて政府・諸機関は中国に対する自由貿易と開放性の美徳を称賛した。今はその代わりに、「新しい冷戦」のドラムを打ち鳴らし、中国を米国への存在の脅威だと煽っている。

私はすでに、「米中冷戦」を国防予算のさらなる拡大の口実としている軍産複合体の政治家やエージェントがいるとの話を聞いている。 


「新コンセンサス」に挑戦することが重要だ

20年前には「関与」という古いコンセンサスに挑戦することが重要だった。
今は同じように、この新しいコンセンサスに挑戦することが重要だと私は信じている。

確かに中国政府は私が反対し、すべてのアメリカ人が反対すべき多くの政策を実行する。それは世界の平和と民主主義に脅威を与えている。

技術の盗難、労働者の権利と報道の抑圧、チベットと香港で起こっている抑圧、台湾に対する脅迫的な行動、そしてウイグル人に対する凶悪な政策などがそれである。

米国はまた、中国の積極的な世界的野心についても懸念すべきである。米国は、中国政府との二国間協議や国連人権理事会などの多国間機関において、これらの問題を引き続き強調すべきである。

その際、米国が同盟国などに二重基準を設けず、一貫した態度を維持するべきである。それだればアプローチははるかに信頼でき、効果的である。


アメリカ人は敵意と恐怖によって国民を団結させようとする誘惑に屈してはならない

いま、中国とのゼロサムの世界的対立を中心に外交政策を組織しようとする試みがある。

しかしそれは、より良い中国の行動を生み出すことにならず、政治的に危険であり、戦略的に逆効果となるだろう。

その教訓となる前例がある。9/11の攻撃を受けての世界的な「対テロ戦争」である。

あの時アメリカ政府は直ちに、テロ対策が外交政策で最優先されなければならないと結論付けた。

それからほぼ20年と6兆ドル、国民の団結が一連の果てしない戦争のために利用された。それは人的、経済的、戦略的観点から莫大なコストをもたらした。

それは米国の政治に外国人排斥と偏見を引き起こした。アメリカのイスラム教徒とアラブのコミュニティに大きな災難がもたらされた。

今日では、中国に対する執拗な恐怖感情のもとで、反アジアの憎悪犯罪の増加を経験している。

米国は最近の歴史のなかでもっとも激しく分裂している。

過去20年間の経験は、アメリカ人が敵意と恐怖によって国民の団結を築こうとする誘惑を拒否しなければならないことを教えている。


我々はどのように前進すべきか

sanders
バイデン政権は、権威主義の台頭を民主主義への主要な脅威として正しく認識した。

大事なことは、民主主義と権威主義の間の対立は、いまや米国対中国ではなく、米国など先進国とそうでない国とのあいだで起こっているということだ。

民主主義が勝つつもりなら、それは伝統的な戦場ではない。武器によって勝つのではなく、民主主義が権威主義よりも良い生活をもたらすことを実証することだ。

私たちはアメリカの民主主義を活性化し、働く家族の長い間無視されてきたニーズに対処しなければならない。そのことによって、政府に対する人々の信頼を回復しなければならない。

生活はいまや危機にある。私たちは、医療、住宅、教育、犯罪対策、移民などの多くの分野で生活インフラを再構築し、環境破壊と戦わなければならない。何百万もの雇用を創出し、正当な報酬を保証なければならない。

これは、アメリカ国民のニーズによりよく応えるためだけではなく、中国や他の国との競争力を高めるためでもある。

私たちの安全と繁栄は、世界の、あらゆる場所の人々とつながっていることも認識しておく必要がある。他の裕福な国々と協力して、世界中の生活水準を高めることが大事である。

グロテスクな経済的不平等は、権威主義勢力が自らの政治力を構築し民主主義を弱体化させるするための武器となっている。
経済格差を縮小することは私たちの利益とつながっている。 

バイデン政権は、世界共通の最低法人税を要求した。これは底辺への競争を終わらせるための良い一歩である。

しかし、私たちはさらに大きく考える必要がある。世界共通の最低賃金は、世界中の労働者の権利を強化し、何百万人もの人々にまともで威厳のある生活の機会を提供する。

それは、多国籍企業が世界で最も貧しい人々を搾取する能力を低下させる。


世界の人々の生きる権利への貢献

貧しい国々が世界経済に統合する際にだいじなことは、生活水準を下げるのではなく上げることである。それを助けるために、米国と他の豊かな国々は持続可能な開発への投資を大幅に増やすべきである。

アメリカが繁栄するためには、世界中の他の人々が、「米国は同盟国であり、米国の成功が私たちの成功である」と信じる必要がある。

バイデン大統領は、世界的なワクチンイニシアチブ(COVAX)に40億ドルの支援を提供し、5億回のワクチン投与量を世界と共有すると宣言した。
また、 貧しい国々がワクチンを自国で生産できるようにするWTOの知的財産権放棄を支援した。

中国がワクチンを提供するために取った措置は認めるに値する。しかし米国はさらに多くのことを行うことができる。

世界中の人々がアメリカの国旗を見るとき、それは無人機や爆弾ではなく、救命援助のパッケージに付けられ国旗であるべきである。


グローバル・システムへの試み

米国と中国の労働者がともに真の安全と繁栄を享受するためには、企業の貪欲と軍国主義よりも人間のニーズを優先する、より公平なグローバルシステムを構築する必要がある。

米国では、偏見に火をつけながら、企業や国防総省にさらに数十億ドルの税金を渡そうとしている。このようなやり方では、グローバル・システムの目標を達成することはできない。

アメリカ人は、中国の弾圧、人権の無視、そして世界的な野心についてナイーブであってはならない。

アメリカ人は、米国、中国、そして世界中のすべての人々の権利と尊厳を尊重する世界的な規範を強化することに関心を持っている。

しかし、中国との対立を求める超党派の動きが強まると、これらの目標が後退し、両国の権威主義的で超国家主義的な勢力に力を与えるリスクが生じる恐れがある。

それはまた、気候変動、パンデミック、核戦争がもたらす破壊などの脅威と戦うことにおいて両国が持つ共通の利益から注意をそらすことになる。

中国と相互に有益な関係を築くことは容易ではない。しかし、私たちは「新しい冷戦」派よりもうまくやることができるだろう。

AALA ニューズ No.74 (2021年3月10日)のスマホ版を発行しました。

AALAニューズ74号の内容は以下のとおりです。

★(ミャンマー)3月4日のエンジェルと “Everything will be OK”

★今、開かれる ベネズエラのあらたな未来への扉」=おおさかAALA3月号

★感情的な中国政策はダメだ、死活的利益を優先せよ=グラハム・アリソン

★中国との対決戦略の方が好ましい理由=日本政府当局者

★「AALAニューズ」編集会議の報告=鈴木 頌(編集責任者)


今回はワードから落としたので、改行のずれはありません。
ただし写真のブログへの転載は難しく、今回も挫折しました。
PDF版(正式版)は、日本AALAの AALA ニューズへ行ってください。

課税新時代3: グローバルな課税権力

1.いまいちど「合意課税」について

この号は「合意課税」そのものに焦点を当てている。だからこれまでの2号は、前書きに過ぎないとも言える。

しかしその割には合意課税(単一税)がいかなるものかについて、あまり説明されていない。何か唐突に各論に入っていってしまう。

一応、辞典の記載を紹介しておく(

Financial Dictionary)

①ある国がある法人に対して所得税をかけること。
②ここまでは普通の法人税だが、その際に、企業の全世界所得と該当法人の所得への各国の貢献度により、割当税額が定められる。
③その割当税率は多国間交渉にもとづいて国際的に定められる。
④これにより所得移転や租税回避による節税技法が阻止される。

2.合意課税実現のために必要なこと…情報確保

まずは企業活動に関する国別の情報を集約するという技術的困難。

もちろん企業はできているだろうが、国家は管理できていない。

これについては、2016年の「パナマ文書事件」のあと、相次いで立ち上げられたFATCA・CRSのシステムによってかなりオープンになった。

3.合意課税実現のために必要なこと…国際協調

もう一つの必要条件は国際的な徴税主体を形成することだ。これについては諸富さんが適切に表現されている。
国民国家を超える世界政府を生み出すのではありません。現行の国家徴税主権は維持されます。その上で多国籍企業の全体利益はケーキにナイフを入れるように切り分けられ、各国に配分されます。
このような21世紀型の新しい課税権力を、私は「ネットワーク型課税権力」と呼んでいます。

4.課税権力グローバル化の背景

これまでの話とかなりだぶるところがあるので省略。

5.日本では何が必要か

「消費税を上げなければ社会保障は確保できない」神話を打ち破らなければならない。

社会保障の原則は所得の再配分だが、消費税は所得の再配分ではなく逆進税である。

そうではない道があることを国民に知らせる運動が必要だ。

OECDのタイムスケジュールでは、今年半ばまでに合算課税と最低法人税率導入で最終合意に達することを目指している。

「夜明けは近い」のだ!

課税新時代2: 税逃れ

この号は内容多彩、ちょっととりとめがなくなっていて、見出しの付け方が難しい。

1.租税体系上、無形資産が重要に

これは新しい提起で、とても大事なところだと思う。

普通の資産は当然ながら形がある。地代(土地所有権)も、国家で保障される限り、現物としての価値を持つ。株や証券も時価相当の価値を持つ。

ところがいわゆる知財権、特許や著作権、商標権は、国家の枠を越えて価値を持つようになっている。

しかもこの資産は移動コストがゼロで、租税回避地への移転は容易である。

有形資産があればそれを無形化して海外子会社に集中させれば、法人税負担はほぼゼロとなる。


2.脱税分がそっくり富裕層に

税引後利益の増加は、配当の増額や株価の上昇を通じて株主の資産に反映される。

これまでの資本主義とは異なる株主資本主義が広がり、経済システムを歪めていく。

この歪曲が租税回避の動きを加速している。それは大企業の中でも、国内企業と多国籍企業との間に格差をもたらしている。

こうして一握りのグローバル企業と超富裕層による世界制覇が進行していく。


3.「租税位回避産業」

今や世界経済の一角に「租税回避産業」と呼ばれる産業分野が成長しつつある。

その中心を担うのがデロイト、アーンスト&ヤング、KPMG、プライス・ウォータハウス・クーパースという4大会計事務所である。

彼らは租税のがれの対策を立案し、提示し、支援している。

4つを合わせれば従業員は25万人に登るとされる。それだけの利益が上がっているということだ。


5.OECDの提案した「合算課税」方式

最近、OECDが新しい国際化税方式を提案し話題になっている。それが「合算課税方式」(Unitary Tax
)である。

OECDは無形資産を用いた多国籍企業の税逃れが深刻になったことを受け、国際税制の抜本改正を考えるようになってきた。

それは多国籍企業のグループ全体の利益をまず合算することである。要するに国際機関が多国籍企業めがけて投網をかける。

そして全体利益を切り分けて、各国に配分していくことにする。利益や隠れ利益の評価、無形資産、按分率などについてはこれからの話しだ。


OECDは正式名を経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)という。もとはマーシャル・プラン受入国の連合で西欧諸国を中心としていた。現在は世界37カ国が加盟しているが、ヨーロッパの影響力が比較的強い。

25日付「赤旗」から、3回連続の「課税新時代」というインタビュー記事が始まった。
語り手は諸富徹さんという人で、兄弟経済の教授。

1回目の主見出しは「画期的な解決策浮上」というキャッチーなもの。

1.経済グローバル化に伴う税体系の激変

この間に経済のグローバル化が進んだ。その結果、20世紀を支えた「応能負担の原則」が消滅した。
そして租税回避策がシステム化された。

2.所得再分配機能の喪失

各国政府は所得税の最高税率と法人税率を引き下げることで、引き止めを狙った。

これが「租税競争」と言われるものである。

また各国政府は税収源として、租税回避しにくい消費税を上げ、社会保険料を引き上げた。

その結果、税制構造はますます逆進的で不平等になった。

税金の本来持つべき所得再分配機能は失われた。

3.税制変化と格差拡大

「グローバル化による格差拡大」の要因は、再分配後要因と前要因に分けられる。

後要因としては、税制が所得再分配機能を果たさなくなったことである。

前要因としては、株主資本主義の広がりがある。

企業内においては、株主への配当が優先されるようになり、買収対抗のため内部留保を積み増す結果、給与その他の割合が減少した。

その結果、企業外においては消費・需要が減退し、それに伴って中間層の没落がもたらされた。

4.国家機能の減退を止める

究極の問題は、企業が国境を超えて活動しているのに、国家は国境を超えられないというギャップにある。

国家の最大機能の一つである徴税機能が毀損されている。

これに対する対処法は「課税能力のグローバル化」、すなわち国際協力しかない。

諸国家の課税能力を結合させてネットワークを形成する必要がある。

これがOECDの国際課税ルール作りはこれを示している。

ということで記事は終わっていて、以下は次号でのお楽しみということになっている。


ただしこれについては、すでにこのブログでもあつかっている。 


↑このページのトップヘ