鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ 「ラテンアメリカの政治」がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。

カテゴリ: 10 国際政治/経済

そんなこと威張っても仕方ないが、習近平が詫びを入れた。私の言った通りになった。
経済通や中国通はみな不思議がっているが、そんなこと当たり前だろう。読めなかったアンタ方の程度が低いということだ。
だいたい、赤旗から日経まで、みんな中国を買いかぶりすぎている。



貿易は決済を以って完了する。決済は決済通貨なしに不可能である。中国が貿易を盛んに行えば行うほどドルの縛りを強く受けることになる。中国がドルという外貨をいくらたくさん持っていようと、それはドル決済システムを補強するだけの話でしかない。
これまで常に、中国の最大の弱点は通貨で、この弱点はまったく克服できていない。それどころかますますドルの罠に絡みとられているように見える。
かつて日本はプラザ合意でドルで累積した外貨を半分に減価された。さらに不均衡の是正ということでいいようにむしられた。ドルを決済通貨にするというのはそういうことだ。
中国にとって最後の手段は、ドル建て債務を踏み倒すかどうかだ。それはありうると見ている。ただしそれは日本とEUをふくめ、世界中で一斉に踏み倒すことができるかどうかにかかっている。その旗振りができるのは中国以外にないだろう。


情勢分析をするときに、つねに念頭に置かなければならないのは、リーマンショック以来の10年間で何が変わったのだろうか、それが政治の世界にどう反映されていくのかという視点であろう。
私はこの10年の力関係の変化を決めたのは、大量の通貨・ドルであろうと思っている。
QE、QE2、QE3という三次にわたる量的緩和策が世界のあり方を変えてしまった。
世界は身の丈に余るぜい肉をつけてしまった。ベッドから動けなくなってしまった超肥満者の状態にある。きわめて不健康な状態であり生命にも関わる。
量的緩和は窮余の策として必要であったに違いない。重病人に点滴をするのと同じである。治ったらやめればよい。しかしやめられなくなったら、どうなるのか。そのことは誰にもわからない。
とにかくそうなってしまっている体にいきなり根治療法をしても、体力が持たないから、できるところから少しづつ手を付けていく以外にはない。
何れにしても世界の通貨の99%を握る1%の人々に、これ以上金が回らないようにすることが一番肝心なことである。米中経済摩擦もその観点から見ていかなければならない。








米国・欧州における進歩派の前進 その2 ヨーロッパ

A) イギリス 「コービン現象」の現在
ブレグジット(EU離脱:ブリテン+エグジット)の着地点は見えない。なぜならそれは英国政治の真の焦点ではないからだ。
問題は長い間に蓄積されてきた社会的危機と、それを進めてきた保守党の政治に対する民衆の拒絶感である。ブレグジットはそれを逸らすための偽りの争点だ。

8年間の保守党政治のもたらしたもの
医療サービス(NHS)や各種行政サービスの切り詰め。公務部門労働者への厳しい賃金抑制。
これらが経済成長を急落へと押しやり、税収を急速に低落させる悪循環を招いた。

これらはミレニアル世代で特に深刻だ。公的住宅が不足し住居費は収入の50%に及んでいる。賃金と労働条件は低劣で、しかもそれらについての保証もない。
交通費、光熱費、娯楽費も高い。その結果多くの若者がローン漬け、カード漬けになっている。

社会的不公平の象徴となったのが、17年7月のグレンフェルタワー火災だ。この火災で70人以上が犠牲となったがその多くは低賃金の移民労働者だった。燃え上がる新建材の炎は、この国の貧困者への態度をあからさまに示すものだった。
musurimタワー住人
        住民の多くはムスリムだった

民衆の心をつかんだ生活改善の訴え
保守党政権はNHSの設備を売り払い、民営化を推進している。
NHSの民営化をやめる。保守党のやりかたにノーといおう。必要に応じて税金を適切に支出する。

政府のケチで、多くの命が犠牲になり、健康の不平等が拡大している。
富裕層が貧困層より26年も長生きしてるなんて受け入れられないよ。
我々は皆の医療、教育、住宅にきちんとお金が使われる社会に住みたい。
英国では123,000人の子供たちに家がない。保守党政権になって路上生活者が2倍以上になった。
10万戸の公的住宅を建設しよう、誰もが自分の住まいを持てるようにしよう。
最低賃金£10を実現する。従業員を正規の労働契約にする。
コービン演説
    ロイターより

17年6月選挙とその後の動き
保守党強化の予想は覆された。自由民主党は議席を激減させ、極右の英国独立党は唯一の議席を失った。
若者たちは、労働党史上もっとも左派の指導者、ジェレミー・コービンの下に結集した。23歳以下の青年の3分の2が労働党に投票した。
労働党の党員数は、ブレア時代の12万から60万以上に跳ね上がり、西欧最大の政党となった。
コービン派の中核組織「モメンタム」グループの組織員も10万を越える。
一方、保守・右翼の反撃も強まりつつある。
ロイター通信は論説で、右のトランプ、極左のコービンを2つの「おろか者政治」(ポピュリズム)と呼びその危険性を訴えてる。

今後、ブレグジットが暗礁に乗り上げた時どうするか。コービンは今年2月「EU離脱・関税同盟維持」の方針を出した。事実上は残留に近い。これで合意が形成されれば、保守党政権は吹っ飛ぶ。その先に「皆の医療、教育、住宅にきちんとお金が使われる社会」というもう一つの社会が作られる展望が開けている。

B) ドイツ左翼党の前進
長くなるので次のページへ

米国・欧州における進歩派の前進

4日の日曜日に全道教研集会でしゃべるのに大急ぎで書いています。

A. アメリカ:「民主的社会主義」が前進しつつある

いま米国ではトランプの暴政に対する反撃が強まりつつあります。おそらく1週間後に控えたいわゆる中間選挙で、明確な結果が出るでしょう。

この「中間選挙」というのは、その影響力から見て「中間」などというレベルではありません。上院議席の3分の1、下院の全議席、知事、州議会などが対象となっています。日本で言えば衆議院選挙と参議院選挙と一斉地方選を一度にやってしまうようなものです。日本ではこんなメガ選挙はありません。

いまのところ、各種世論調査を平均すると民主党48・8%、共和党40・5%となり、民主党圧勝の可能性があるようです。

ただし、そこで話題になるのはトランプがどのくらい目減りするか、選挙後にトランプの政策は変化するかどうか、というあたりに集中しています。ほんとうは世界史的に見れば、米国の中で真のリベラル進歩勢力がどれだけ前進するかが最大の焦点です。

ということを念頭に置きながら、とりあえずはサンダース派と呼んでおきます。サンダース派は中間選挙で、国民皆保険・銃規制・最賃引き上げを前面に据えており、これが有権者の支持を集めています。

7月に行われたある調査では、「革新」派と呼ばれる81人が、民主党内の各級予備選で勝利しています。これは3ヶ月前前の31人から急増しています。米国内の予備選では130人の青年・女性候補者が勝利しました。そのうち100人以上が民主党の候補者でした。

ギャラップ社の世論調査では、民主党員のうち57%が社会主義に「肯定的」な印象を持っていると回答しています。資本主義について同じ質問をしたところ、47%にとどまりました。このような結果は調査を始めて以来の10年間で初めてのことです。サンダースはこれを受けて、「社会主義は多くの米国人の支持を集め主流になった」と述べています。

このような情勢の変化の中で、サンダース派にとって最大の勝負となるのがフロリダ州知事選です。予備選を勝ち抜いて民主党の知事候補となったアンドリュー・ギラムは、タラハシーの市長を務める39歳の黒人青年です。非白人層の青年、女性が熱い支持を寄せています。もし勝利すればフロリダの史上初となる黒人知事ということになります。
ギラム
       フロリダ大学構内で演説するギラム候補

B. 民主的社会主義の背景

我々はサンダース派と呼んでいますが、実はそういう人的なつながりというレベルではなく、すでに一つの政治集団が形成されています。「アメリカ民主主義的社会主義者」(DSA)といいます。それは目下のところ民主党の中の派閥を形成していますが、いずれ独自性の高い政治結社へと発展していく可能性を持っています。

オカシオ・コルテスはDSAについてこう語っています。
「モラルある豊かな現代社会において、すべての人が十分に教育を受け、医療の機会や住居を得られること。基本的な経済的社会的尊厳を受けるべきこと、これらを主張する組織はDSA以外にない」
C. 社会主義を志向する労働運動
DSAは青年の自主的組織ですが、さらに米国労働運動の伝統に根ざしたしっかりした組織がその背景にあります。それが社会運動的労働運動(Social Movement Unionism:SMU)という運動です。
これは組織というよりはAFL-CIOがうちだしたキャンペーンですが、明確に社会主義を志向したものです。SMUは、労働組合の目的を組織維持でなく「社会正義の実現」とそのための組織の拡大におきます。
そのため、組織化の対象を従来顧みられなかった女性、マイノリティ、低賃金労働者などに拡大し、企業だけでなく、NGO、地域コミュニティ、宗教コミュニティとの連帯を重視しています。
具体的な取り組みとしては、ビル清掃労働者の組織化、訪問介護ヘルパーの組織化、ホテル・レストラン従業員の組織化、ファストフード労働者の最低賃金獲得要求などの運動などです。
こうした運動が、いざというとき労働者の闘争を支えてくれるのです。
SMUのたたかいの中で、最低賃金要求のたたかいは最も知られたものです。過大な生活負担に苦しむ労働者・国民の切実な要求として多くの支持を得て大きく前進しています。
アメリカの労働者の運動は、そのまま貧困者の運動でもあります。労働運動を担っているのはかつてのような華やかな大工場労働者ではありません。公立学校の教師、公的病院の看護師、消防士、バス運転士など一言で言って貧困者の中のエリートです。自らも厳しい生活に喘ぎながら、もっと苦しくもっと差別されている人たちに、サービスを提供する仕事をしています。
アメリカの労働者の生活は本当に厳しい。都会のアパートの家賃は1LDKで35万円です。さらに過大な医療保険代・医療費はよく知られています。
彼らが「社会正義が最優先される社会」すなわち「社会主義」の社会を志向するのは当然でしょう。


昨日の記事で3つの脆弱性と書いたが、通貨システムの脆弱性、国家財政基盤の脆弱化は良いのだが、金融システムの脆弱化という表現が正しいのかが我ながら気になる。
金融システムと言うと銀行を中心としたハード的な概念になってしまう。たとえばBISの規制強化みたいなものが金融を代表するのかと言うと、むしろそういうものはますます辺縁化しつつあるのではないかという感じもする。
そういう意味ではまさしく「金融システムの脆弱化」なのだが、金融と言うにはもっと広くて漠然としたマーケットがあるのではないか、そこがタガが外れて暴走しているのではないかという感じがする。
我々がこれまで語ってきた市場の需要・供給曲線というのは商品世界のバランスだった。しかし今我々が目の前にしているのは商品を中心として動く世界ではない。それは利子を駆動力とし貨幣を媒介として形成される需要・供給曲線の世界である。
貨幣を媒介とするというのは正確に言うと貨幣の取得権(SDR引き出し権)なのだろう。話がややこしくなるのでとりあえず貨幣にしておくが、金融市場というのは貨幣の取得権の売買が基本となる市場であろうと思う。
それで思い出したのだが、以前マルクスの資本論第3部を学んでいる時に「信用市場」という概念にこだわっことがある。結局私の基礎学力不足のために、それ以上進むことはなかったのだが、今考えてみるとこの「市場」の失調がリーマンショックの本質ではないかと考えてみたくなった。
これまでも過剰生産恐慌に加えて金融恐慌という概念はあったし、マルクスもそれを描いている。

しかし、マルクスの予見したものは「金融恐慌」という枠組みをはるかに超えた、「信用市場」のメカニズムの破綻がありうるということだ。
おそらく商品市場が経済の土台で、その上にそびえるのが信用市場というもう一つのメカニズムなのだろう。マルクスは商品を手がかりに資本主義の生産システムを全面分析していくのだが、その上に信用市場が成立し、独自の論理で動き始めること、そして信用の創出過程の秘密を解き明かすことなしには、資本主義の全容は解明できないだろうということを予感していた。

日経新聞の株屋予想的分析にとどまらず、この課題への手がかりを見出していくことが「経済学」のなすべきことではないだろうか。

をご参照いただければ幸甚です。

1.宮崎さんは中国を買いかぶっている
宮崎さんの話を聞いていると、私はどうも中国経済を買いかぶっているのではないか思ってしまう。
マック価格というのがあるが、私はマックのハンバーガーは嫌いだから(モスバーガーは嫌いでない)、あまりピンとこない。それに対し居酒屋価格というのは大いに実感できる。
わたしが北京に行ったのは2004年のことだ。その時ホテルの隣の地元の人が行く食堂では腹いっぱい飲んで食って800円だった。
北京の物価は日本の10分の1、昭和40年ころの物価だなと感じた。韓国が5分の1だったから、その半分ということになる。
社会インフラはびっくりするほど遅れていて、ほとんど皆無と言ってよいほどだった。
詳しくは「中国の農村医療問題ノート」、「中国の社会保障」、「中国における失業と貧困問題」を御覧いただきたい。
これが15年前だ。それからいかに急成長を遂げたといってもまだ日本には及ばないはずだ。ただ貧富の差はすごいから、上流の人達は日本を追い越しているかもしれない。

2.中国のGDPは見掛け倒し
もう一つ、中国のGDP成長は見掛け倒しだということ。これはリーマンショックの時に相場に逆張りしたから膨らんだだけであって、働いて稼いで勝ちとったGDPではない。日本の高度成長とは中身が違う。
さらに言えば、巨額の投資を行ったにもかかわらず、GDP成長は減速しているわけだから、それは隠れ債務として積み上がっているはずだ。それがどこに潜んでいるかはわからない。こちらが専門家に聞きたいくらいである。公的債務として積み上がっていないのであれば、それは民間債務となっているはずだ。しかしそれは中国政府にとっては同じことで、かえってタチが悪いかもしれない。

3.中国は泣きを入れるだろう
日本でバブルが破綻したとき、凄まじい資産の減損が行われた。金融機関もバタバタと逝った。倒れなくても、例えばオリンパスのように、密かに莫大な不良債権を抱え続けた企業も少なくなかったはずだ。
超優良国日本ですらそうだったのだから、中国がバブル崩壊と人民元の売り浴びせに耐えられるわけがない。
だから中国は必ずどこかでアメリカに泣きを入れるはずだ。
米中の覇権争いだとか、米国が凋落しつつあるなどという見方は見当違いだし、中国経済の不当な買いかぶりだ。
私はそう思う。

4.「盛者必衰」史観の無力さ
宮崎さんの話は、結局米中貿易摩擦を世界史のレベルに還元してしまおうということで、しかもそれは唯物論と言うよりは「盛者必衰の理」という無常観に基づくものだ。
では日米貿易摩擦のとき、なぜ日本は敗れたのだろうか? なぜ中国なら勝てるのだろうか?
そこのあたりを上手く説明してもらえないと、お通夜のときの坊主の「法話」と同じで、屁のつっかいにもならない。
もしわたしがことわざで対抗するなら、「出る杭は打たれる」だ。おそらく鄧小平もそう言っただろう。
「いつかは中国は世界一になるだろう。しかしその時までは隠忍自重が求められる。今はまだ我慢のときだ」
米中の経済関係は基本的にはウィン・ウィンで推移している。トランプの中国批判は言いがかりに過ぎない。
ただしこの関係を続ける限り中国はさらに成長を続けるだろう。それは米国にとって脅威になるかもしれない。
そのように米国の一部勢力が考えたとしてもなんの不思議もない。中国は今もなお共産主義を標榜しているからだ。共産主義の名によって独裁政治を合理化しているからだ。

5.当面の主要な側面はGAFAの“開放”圧力だ
中国の成長が見掛け倒しもふくんでいるとすれば、アメリカの超巨大産業の成長は正味そのものであり、こちらのほうがはるかにでかい。
もし米中経済摩擦を論じるなら、衰亡しつつある米国の反撃と捉えるよりは、4大IT企業“GAFA”による知財攻勢の一環として位置づけたほうが情勢把握としては正確だろう。
日米経済摩擦を思い起こせば良い。たしかに最初はアメリカの自動車産業の悲鳴であったが、90年代に入って様子は一変した。彼らは次々に難題をふっかけ、日本の財産を食い物にし、ハイエナのようにたかり、すべてを奪って行った。
基本的には米国は貿易摩擦問題で決して受け身ではない。彼らは被害者ではなく加害者だ。このことをリアルにアクティブに受け止めるべきではないか。



リーマンショックは終わっていない

2008年9月15日に、リーマン・ブラザーズが経営破綻した。これに端を発して世界規模の金融危機が発生した。
金融危機はそれにとどまらず、生産の収縮、キャッシュフローの縮小、株価の全面安をもたらした。
それは脆弱な新興国にシワ寄せされ、財政危機と通貨危機をもたらした。
先進国は量的緩和を主要な手段として、乗り切りを図った。相次ぐ財政出動で国家基盤は掘り崩され、一方で金余り、金融の投機性は強まった。

要するに、リーマンショックがもたらしたものは、金融システムの脆弱化であり、国際通貨システムの脆弱化であり、国家財政基盤の脆弱化である。
その中で一方では世界中が金でじゃぶじゃぶになり、他方では富の偏在が前代未聞のレベルに広がったといえる。

これらの問題は解決されたのだろうか。これらが解決されない状態で、リーマンショックは終わったと言えるのだろうか。

リーマンショック10年を機に、これらの議論が深まることを期待したい。

「技術の本質」論のない覇権論は虚しい

宮崎さんは「米中の技術覇権争い」という考えを持ち出して、この視点から米中貿易摩擦を裁断しようと図っている。これについてはにわかに承服し難い。

まずは技術の本質論と、技術組織論についてポイントを抑えておきたい。

A) 生産技術の向上という点で、中国の発展は目覚ましいものがある。特に先進技術の場面では世界の先端を行く分野も出ているようだ。ただし、技術というのは総合力なのであって、ルチーン・レベルの高さ、技術の高度な安定性、オーディットの緻密度、人材・資金の組織度、営業事情に即応できる技術能力などの全般にわたって見ていかなければならない。
これは東北大震災の時に日本の技術の奥行きの深さにあらためて感じ入った記憶と重なっている。
こういう総合的な視点から見て、中国の技術水準は米国と覇権を争うレベルに達しているのか。私にはそうは思えない。

B) 軍事技術は民生技術とは別の次元で語られなければならない
原爆、水爆、大陸間弾道弾とソ連は米国に拮抗できるだけの軍事技術を担ってきた。中国も人工衛星を飛ばし有人宇宙飛行を可能にするまでに技術を高めた。北朝鮮は国民を飢餓状態に置きながら、ひたすら軍事技術に磨きをかけ、ついに核兵器とICBMを保有するまでに至った。
的を絞りコストを無視すれば、そういうことは可能なのである。

C) それにもかかわらず、往々にして軍事技術と民生技術とは混同される。
というより意識的に混同させられる。それは多くの場合、政治的に演出させられた「〇〇脅威論」である。そして皮肉なことに、この手の脅威論をおる連中こそがもっとも危険な「脅威」であることが多いのである。
技術の本質を人類の知的財産と考えるなら、それは確かに軍事と非軍事を問わず同じだ。
しかし政治・経済システムの中での“テクノロジー”という概念は組織であり、システムなのだということを踏まえなければならない。
それでなければ、そもそも技術に覇権がつきまとうことの説明ができないではないか。

ということを踏まえた上で、宮崎さんの議論に戻る。

宮崎さんの論点は3つある。
① 「中国の技術覇権を抑え込む」ことでは共和党・民主党を問わず米国内にコンセンサスがある。米国の政財界はこの点では一致して動くだろう。
② 国防総省が活発化し、中国脅威論を発信している。「このままでは米国の技術で開発された中国製兵器が米国に向けられる」というのが彼らの言い分である
③ 中国の二つの企業が世界の特許出願件数で1,2位になっている。個別企業レベルではすでに米国は中国に追い抜かれている。
宮崎さんはこれらの点をもって、「米中の技術覇権争い」の根拠としている。率直に言って、これは経済学者らしからぬ相当あらっぽい論理である。

ただこの記事は連載で、次の日にもう一つ記事が載るので、それをみてから判断したい。


赤旗経済面トップに、「米中貿易摩擦」と題する2日連続の囲み記事が掲載された。
語り手は宮崎礼二さん、聞き手は杉本記者である。
とりあえずお手軽に知識を吸収する目的で着手する。
1回目の見出しは「技術覇権争いが激化」というもので、経済摩擦の原因が技術開発と知財権にあることを示唆している。

貿易摩擦の事実経過
最初にこれまでの事実経過が提示されている。
今回の貿易摩擦激化は、トランプ政権が中国製品に追加関税を課したことに起因する。
追加関税の主たる理由は知財権侵害である。貿易収支の不均衡は表向きの理由にはなっていない。
これまで第1、第2弾が発動され、今週中に第3弾が発動される予定だ。関税額は第1、第2がそれぞれ500億ドルであったのに対し、今回は一気に2,000億ドルまでかさ上げされた。

報復競争の行方
中国は報復関税で反応しており、今回も報復するものとみられる。
しかし中国の対米輸出額は対米輸入額を大きく上回っているので、報復合戦は分がない。先に弾切れになる。
今回、中国は米国の2000億ドル追加関税に対し、600億ドルの報復措置しか取れない。
こうやって米国は、関税では対抗できないところに中国を追い込もうとしている。

いかが本文となる。全体として4つのQ&Aから構成されている。こちらで通し番号をつけておく。

1.トランプ政権の狙い…中間選挙対策
トランプ政権の狙いは2つある。一つは中間選挙対策である。もう一つは中国の先端技術の押さえ込みである。ここでは中間選挙対策に話を絞る。
トランプのもっとも期待する支持基盤はラストベルト(錆びた地帯)やアパラチア地方の工業地帯である。ここでは企業が消滅し工場が海外移転している。そのために労働者は没落し貧困にあえいでいる。
トランプは地域に苦境をもたらせたのが対米黒字国だとし、これらを非難することで支持を集めてきた。大統領選挙のときはメキシコが標的だったが、今回は中国が標的となった。

2.中国をやっつけても他の国に移転するだけ
中国が得意な輸出産業は、低賃金を武器とする労働集約型の分野である。追加関税の品目も服飾品や家具などの消費財に集中している。この分野の生産を、対中関税で米国に移すというのは非現実的な考えである。
現実にはすでにこの分野の生産拠点は中国を離れつつある。アパレル産業などでは中国からその他のアジア諸国への移転の動きが進んでいる。例えばカンボジアやバングラデシュは中国よりはるかに低賃金である。
中国をやっつけるトランプのやり方は、この流れを加速するだけである。それは決して米国に生産ももたらさないし、雇用ももたらさないだろう。

3.パリ協定から離脱する時代錯誤
トランプ政権は温室効果ガスの削減に反対しパリ協定から離脱した。アパラチア地方の人々は大喜びしているという。石炭火力発電が復活すれば、石炭を産出するアパラチアが潤うだろうと期待するからだ。
しかし石炭火発は本当に復活するだろうか。産業界はLNGから石炭に再シフトするだろうか。多分そのようなことは起きないだろう。そこには原発と同じように、環境問題だけではなく、経済合理性というもう一つの深刻な問題が横たわっているからだ。

4.中国の先端技術の押さえ込み
ここまではわかりやすい。しかしもう一つの狙いの方はちょっとややこしい。
杉本記者が宮崎さんに提起した質問は、「米中の技術覇権争いが浮上している」という、じゃっかん前のめりの判断が前提となっているが、はたしてそこまで事態は進行しているのだろうか。
そこまで言ってしまうのは米国側の「中国脅威論」宣伝に乗せられ過ぎではないか。
私には、まずはもう少し冷静な事実認識が必要である。

そのために、記事の追いかけを少し外れて、論点を整理しておこうと思う。(以下次項)

リーマン・ショック後の動き 金融政策を中心に

2008年

08年9月
9月 AIG国有化。AIGは大量のCDS(倒産保険)を扱っており、破綻すればリーマンとは比べものにならない位の大混乱が起きるところだった。
9月 日欧の中央銀行がFRBとのスワップ協定によりドル資金を供給
9月 米下院、共和党の反対で金融安定化法案を否決。誰もが予期しなかった事で。株式市場が大暴落!
08年10月
10月 欧米当局が金融機関への資本注入,銀行間取引の保証,預金保護の拡大等を実施。欧米主要中銀が協調利下げを実施する。
10月 米議会、共和党の賛成を得て「金融安定化法」が成立
11月 金融サミット(G20緊急首脳会合)の開催
11月 米FRB,事実上のゼロ金利を実施し量的緩和第1弾(QE1)を導入(2010年6月まで)

2009年
3月 10日、日経平均がバブル後最安値を更新(7054円)
4月 米クライスラー、GMが破たん
12月 ギリシャの財政悪化が判明,ギリシャ国債が格下げ

2010年
3月 欧州債務危機が勃発。EUとIMF,ギリシャに金融支援。
5月 欧州中銀,ユーロ圏内の国債買入れを実施。
ギリシャの債務隠し発覚を発端に、スペインやポルトガルやイタリアなどユーロ圏諸国の財務危機へと発展。ユーロの為替レートが暴落する。
7月 米,「金融規制改革法」(ドッド・フランク法)が成立
11月 米FRB,量的緩和第2弾(QE2)を導入
11月 EUとIMF,アイルランド、ポルトガルに金融支援

2011年
3月 東日本大震災が発生
3月 G7が円高阻止で協調介入を実施
4月 欧州中銀,2回にわたり金利引き上げ。1→1.5%に
10月 円相場,対ドルで史上最高値(75円32銭)
12月 欧州中銀が利下げし年初の1%に戻す。

2012年

3月 ギリシャ,事実上の債務不履行
6月 LIBORの不正操作問題が発覚
8月 「消費税増税法」が成立
9月 米FRB,量的緩和第3弾(QE3)を導入
12月 安倍内閣が成立。アベノミクスが開始される。

2013年
3月 キプロスで預金封鎖が勃発
3月 黒田日銀総裁が就任。インフレ目標(前年比2%)を立て、大規模な金融緩和策を発表。長期国債の大量購入に動く。
5月 円が4年ぶりに100円を割り込む。
6月 ユーロ圏、大量資本注入で合意。欧州中銀は0.25%まで利下げ。
2013年 サマーズ元米国財務長官、「長期停滞論」を提唱。世界的な需要不足と貯蓄余剰によって、潜在成長率が低下したと説明。

2014年
1月 新興国で通貨危機
シャドーバンキングの破綻懸念が高まった中国や、政権崩壊のタイ、経済不安のアルゼンチンやトルコなど、新興国の通貨が暴落。
2月 米FRB議長が交代(バーナンキからイエレンへ)。景気回復に伴い、量的緩和を縮小の方向へ
4月 日本で消費税を増税(5%から8%へ)
6月 欧州中銀,預金ファシリティ金利を△0.1%へ切り下げ。主要国では初のマイナス金利となる。
10月 FRBが量的緩和政策を終了。リーマンショック以降続いた金融緩和が終わる
10月 日銀,追加金融緩和を実施。国債購入を30兆円増加
11月 ロシアルーブルが変動相場制へ移行。経済の低迷でルーブルを支えきれなくなり、通貨バスケット制を放棄。

2015年
1月 ECBが量的緩和政策を開始。月額600億ユーロ相当の国債の買い入れを行っていくと宣言。
8月 中国ショック。当局は景気低迷や上海株式市場の暴落を受けて元安誘導へ転換。
12月 FRB、リーマンショック以降、初めて政策金利を利上げ。
12月 アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立される

2016年

1月 日銀、インフレ目標の達成困難なためマイナス金利導入を決定。
2月 原油安,中国のバブル崩壊,米国の景気減速懸念などから世界同時株安。
3月 中国と欧州中銀が追加緩和。
6月 消費税の10%への引上げを再延期
7月 英国でEU離脱の国民投票が可決。英ポンドは大暴落
12月 FRBが第1回目の利上げ。その後3回にわたり小幅引き上げ。

2017年 米国の成長率は名目で4.1%に回復。

ポピュリズムという言い方はやめよう

一部ジャーナリズムで盛んに使い始めたことから、今ではすっかりポピュリズムという言い方が浸透している。

それは社会学的用語としては正しいかも知れない。(それが社会学の弱点であり限界である)

しかし同じ大衆・庶民を基盤とし、その自発性に依拠し、彼らが抱える不満や怒りを代弁している点は似ているが、似ているのはあくまでそこまでである。

政治的スタンスもその最終目標もまったく逆の政治集団を、社会的同質性を根拠にひとくるめにするのは、政治的対決点がどこにあるのかをあいまいにするためのレトリックでしかない。

さらに悪いことはそれが上から目線であり、彼らの要求に対し冷淡で無関心であることの象徴となっている表現だからである。おそらく彼らの目は我々をもポピュリストとして眺めているだろう。

例えば、共産党と公明党・創価学会が底辺層の声を代表すると主張し支持者を奪い合ってきた状況が日本にある。
それをもって「共産党も公明党も貧困層を土台にしたポピュリスト政党だ」と、一絡げにすることは、まともな政治学者にとって自殺行為であると思われる。

ナチスもファシストもみな「社会主義者」を自称した。現在の言葉の使用法からすれば彼らこそ「ポピュリスト」の名にふさわしい。

政治学はさまざまな政治集団の性格を、その目的から規定し分類し評価しなければならない。それが政治学の使命である。

そしていま国民大衆の運動の進歩性を規定するのは、民主主義、平和主義、人権第一主義、立憲主義の4基準である。一言で言えば「リベラル民主派」である。

この4基準のいずれかに反する政治勢力はたとえ民衆に支えられた組織であろうと、反政府的組織であろうと支持することはできない。
社会学的に見て共感する余地があったとしても、政治学的には一線を画さなければならないし、場合によっては対抗関係に立たなければならないのである。

そう得心したとき、ポピュリズムという言葉がいかに民主派を見下して虚しく響くことか…

結局、リーマンショックのあとの10年間というのは、通貨対策と債務対策の10年であった。
それは目下のところ、成功したとは言えない。通貨は落ち着き危機は去ったように見えるが、見えないところでは、そのすべてが債務となって積み上がっているのである。

1.切り札は「量的緩和」だった
日米欧の金融政策 - JA共済総合研究所
古金さんという方のレポートだが、リーマン後の10年というタイムスパンを念頭に置いて分析されているところが参考になる。
2つの図で時間軸がずれていることに注意。
金融政策推移
いづれのエリアに置いても、量的緩和が最後の切り札になっていることがわかる。
3つのエリアを対照すると、ユーロ圏の特異性が目につく。
ECBの政策スタンスは今なお強力な金融緩和になっている。マネタリーベースの伸び率は高水準で、一方、実質政策金利は日米に比べ低くなっている。
古金さんはやりすぎだというが、10年間のマネタリベースで見れば、むしろ証文の出し遅れという感がある。
ユーロ危機のときにECBのPIGGS対応は遅く、助けること自体を躊躇していた。その結果、対応が遅れ、その分過剰な対応を迫られたのではないか。ドイツでの反対世論が強かったことも関係しているが、寄り合い所帯の弱点が露呈したのではないだろうか。
しかし助けると決めてからの判断は果敢である。守るべきものとしてのEU、ユーロ圏というコンセンサスがそれなりに存在しているものと思う。
日本の対応は当初は無策で、相対的金利高も放置されていた。13年から金利低下と量的緩和が同時に施行され、危機を脱出した形になっている。これがアベノミクスだ。

2.そして債務は残った
以下の図はいずれも東洋経済オンラインから拝借したものである。
債務推移
08年9月を境に世界は変わったと言える。それまでは債務は増えていたが、債務の対GDP比は不変であった。つまり、債務の増加は生産規模の増大の枠内で増加していたのである。
ところがその後の10年はGDPの増加なしに債務だけが増えているのである。
これは富の絶対的増加なしに富の偏在だけが進んだということを意味する。債務の増加は二次的なものだということがわかる。
政府債務の推移
政府債務の動向を見ると3つのことが言える。
①先進国では金融危機への対処のため一気に1.5倍ほどの財政出動をしたということ。
②しかし13年以降はほぼ蛇口を締めたこと。減らすところまでは行っていないが…
③新興国では「無い袖は触れない」から民衆に直接被害をかぶせたこと。
民間債務の推移

というブルームバーグの記事が面白い。
これは Four Big Risks to Watch 10 Years After Lehman: Sony Kapoor 
という文章の抄出・和訳らしい。


リーマン・ショック前夜に比べて、世界経済はもっと危険な世界になっているのか、4つのエリアで検証してみた。

1.過去最高の債務水準と質の劣化
世界の債務は過去最高に積み上がっている。質の劣化もある。
ソブリン・民間合わせた債務総額は237兆ドル(約2京6200兆円)となっている。これはリーマン前を70兆ドル上回る。
米国の公的債務は2008年にGDP比65%だったが、今では105%を超える。ユーロ圏の対GDP債務比率も上昇している。
AAA格付けはソブリン11カ国、米企業2社のみで、信用の質は低下を続けている。
各国の財政には景気を下支えする財政投入の余地がほとんどなくなっている。
今後予想される金融政策の正常化が債務コストを押し上げる可能性もある。

2.狭まる金融政策の対応余地
主要各国で量的緩和政策が取られた。それは中央銀行のバランスシートを前代未聞の水準に膨張させた。
政策金利はいまだ過去最低に近い。
ショック再来の場合、金融政策で積極的に対応する余地は限られている。この間取られた“大胆な金融政策”は、もう繰り返すことはできない。
それどころか、金融政策が波乱の原因になる可能性さえある。

3.政治的な混乱
2008年には強固だった政治的安定は、ほとんどの主要国で著しい混乱に陥った。
失われた10年に実質賃金は伸びず、経済面などで不安が強まった。
これまで脇役だった弱小政党が議会で存在感を増し、極右と極左の両方でポピュリズムが台頭した。

4.弱まる国際秩序と信頼の欠如
この10年間に国際的な秩序が弱まり、信頼が失われつつある。
G7やG20といった仕組みが崩れつつある。トランプ政権は、危機対応の枠組みを積極的に破壊しつつある。
常識ある政治センターの存在感が薄れている。とくにEUの求心力低下は深刻だ。


ということで、きれいにまとめられている。
実体経済への影響、失業率の高止まり、途上国経済の失速などは視野の外に置くのか、ポストリーマンの主役となったユーロ危機と円高不況はどう区分けされていくのか、などさらに検討すべき問題がある。
それと量的緩和が当初からとられていたかのような記述には、若干疑問が残る。オーソドックスな対策が成果をあげず、デレバレッジに歯止めがかからない状況の中で、否応なくQEに移行していったように見えるが…
何れにしてもリーマンショックを機に経済漂流の時代が始まり、それは10年を経た現在も着陸することなく続いている。
いわばリーマンショックは漂流元年となっていると言えるだろう。


スティグリッツがビットコインは匿名性が高いのでだめだと言ったそうだ。そうしたらビットコインの相場が見る間に下がってえらいことになっているらしい。
所詮縁なき世界ではあるが、経済学に倫理学を持ち込むのにもなんとなく違和感を感じる。
勉強もしないで言うのもなんだが、紙幣というのはもともと金の代用みたいなものだが、金はまったく匿名の商品であり、「純度X重さ」はどこの国が発行しようと同じはずだ。
汗水流して獲得したお金であろうと、麻薬を売って稼いだ金であろうと金の色に違いはない、まったくユニバーサルなものだ。
ところが現代における貨幣は不換で、その国の信用いかんにより決まる。さらにその信用は為替相場という形で日夜瀬踏みされる。金に比べればフィクションではあるが、逆に色々な規制に熟されて不自由になっている。
そして米ドルが兌換を停止して、世界のほとんどの国が変動相場制になってからは、むしろ為替相場が貨幣の形と働きを規定するようになっている。
であればいっそのこと、国家信用などというものを一切捨てて、相場にすべてを委ねようということになっても不思議はない。
その延長線上にあるのがビットコインではないか。これにより貨幣は匿名性と普遍性を“回復”することになる。
ただしその場合、貨幣の持つ2つの意味が失われる。一つは一定の機関による信用の裏打ちである。もう一つは金が労働により生み出された商品であるのに対し、生産物としての独自性の喪失である。
ただし後者はすでに失われているのだから、いまさら云々すべきものではない。
前者については少し吟味が必要だろうが、一番の問題は信用の裏打ちがなくても持続可能な流通手段となるだろうか。結局はドルという決済手段とどこかでリンクせざるを得ないのではないだろうか。
それは賭場という場所で通用するコインでしかないのだろうと思うが。

現在、問題となっているのはむしろ、取引のたびに常にドル決済を迫られる現在のシステムにあるのではないだろうか。
とくにトランプのような狂人がアメリカの大統領になると、世界の通商・貿易・投資がアメリカの恣意に翻弄されることになる。
その典型がベネズエラで、なんの罪もないのに経済制裁というペナルティーを科され、ドル決済を禁止された。「ドルを持ってこられても、ベネズエラの方とは取引できません。あしからず」という状況が現出されているのだ。同じようなやり方で1年前にアルゼンチンが攻撃され、おかげで政権が転覆されてしまった。
世界で一番米ドルが信頼できるから、みんなが使っているのに、「あんたは気に入らないから使わせません」ということが平気で行われるようになっては困るのだ。
もちろん国際通貨とビットコインとは目的も性格も違う。
しかしビットコインにはドル支配体制に対する風穴という側面もあるのではないか、こんなことも念頭に置きながら、もう少し勉強してみたい。

2018年1月14-15日、カイロでAAPSOの記念集会が開かれた。

参加者の構成
中東からはバーレーン、イラク、レバノン、モロッコ、パキスタン、パレスチナ、チュニジアの各国代表が参加した。アジアからはインド、ネパール、スリランカが参加しベトナムAALA連帯員会のグエン・ティビン会長がメッセージを寄せた。ヨーロッパからはギリシャとキプロスにとどまった。
ほとんどの国が1,2人の代表であるのに対し、主催国エジプトは書記局含め30人を送り込んだ。ロシアからも4人の代表が送り込まれているのは、会議の性格を予感させるものであった。
中国は代表は送らなかったが駐エジプト中国大使が挨拶を行った。文革時代の経緯を知る者にとっては、それだけでも注目されるものであろうが、内容もかなり踏み込んだものだった(田中)らしい。

議長の開会挨拶
60周年の意義を語るべき主催者挨拶だが、そのような骨太な話はなかったようだ。
一応植民地主義の克服、経済の持続可能な発展、社会正義の実現をあげ、一方で世界経済の危機とともに新たな課題が登場したとする。具体的にはテロと暴力の拡大、地域紛争、国家の解体などが列挙されている。
今後取り組むべきものとして10項目が挙げられたが、そのなかで最後の二項目。⑨組織が消滅した国での委員会の再建と⑩非同盟運動への積極的な参加が組織課題として提起されている。結構泣けるものがある。

中国大使の挨拶
カイロ駐在中国大使の挨拶はバンドン会議以来の中国とAA諸国との連帯の歴史に始まり、中国共産党19回党大会で打ち出されたAA諸国との関係強化の方針で結ぶなど、むしろ主催者挨拶より総括的だったようだ。
なお中国のAA諸国重視の政策は一貫したものであるが、湖錦湯時代には一時弱まった。また南沙問題を巡ってはASEANに対し高圧的な態度で臨むなど方針の揺らぎを感じさせたが、19大会で何らかの修復がなされているのかもしれない。少し勉強してみたい。

書記長の基調報告
「討論資料」が事前配布されていたようだが、これについては省略。
60年間を3つの時期に分けて総括している。
第一は創設以来の反帝、反植民地主義、AA独立運動に中心的役割を果たした時期である。
第二はソ連崩壊後、米国の一国覇権主義の下での闘いの時期とされる。
第三は中国やロシア、BRICSの台頭により新しい情勢が生まれつつある現在ということになる。
そのうえで書記長は現在の課題として、第一にトランプ政権の人種差別的な覇権主義とのたたかいをあげた。国際テロの拡大とエルサレム問題、北朝鮮危機はトランプ覇権主義の象徴とされた。そして無責任なトランプ政権の言動で不測の事態が起こる危険があると警告した。
第二の課題は富の集中と格差の拡大にいかに立ち向かうかということで、世界の人民のたたかいが求められるとした。

集会での討論における注目点
アメリカのベネズエラ干渉について議論になった。討論の議長は、ラテンアメリカが外国干渉に苦しむ事態は、AA諸国の現状と重なるとのべ、連帯を強化しようとのべた。
パレスチナに関しては力のこもった議論が展開されていた。とくにAAPSOがモロッコにパレスチナ人民支援委員会を結成したことが報告され、注目を集めた。

田中さんの発言
1.北朝鮮による挑発と米国による核脅迫の応酬は危険をもたらしている。我々は軍事解決に絶対反対で、対話による解決を求める。
2.憲法9条を守る戦いは北東アジアの平和にとっても重要だと考えている。
3.沖縄における反基地闘争は、いまなお重要な闘争である。
4.平和の課題での提起だが、核兵器禁止条約の批准運動に各国で力を入れるべきだと思う。
5.パレスチナ問題については、なかなか国民の理解が得られず苦戦している。
みたいなことが語られた。(すみません。うまくまとめられません)

AAPSOの最近の動向について

読んだきりにしてあったのですがもったいないので要約して掲載します。

AAPSOの説明をしようと思ったらえらく長くなってしまったので、独立した記事にして掲載します。

AAPSOというのは、アジア・アフリカ人民連帯機構の頭文字をとったもので、非同盟運動を非政府レベルで支える組織です。カイロに本部と書記局が常設されています。
AAPSOはその名のごとくアジア・アフリカ諸国を対象としたもので、ラテンアメリカの組織は加入していません。
別にラテンアメリカを排除したのではなく、第二次大戦後にアジアアフリカ諸国が独立を果たした際にその独立をどう守っていくのかを考えたからです。
ラテンアメリカの諸国はすでに19世紀のはじめにスペインやポルトガルからの独立を果たしており、形式的には民族自決権は問題になりませんでした。
1960年代の後半から、新植民地主義の攻撃が強まり、形式的には独立していても、事実上の植民地に逆戻りする例が多く見られるようになりました。
それはアジア・アフリカの新興独立国ばかりではなく、「アメリカの裏庭」となったラテンアメリカの諸国でも同様でした。
そのためにキューバが音頭を取る形でアジア・アフリカ・ラテンアメリカ人民連帯機構が結成されました。スペイン語の頭文字をとって、OSPAAALと呼ばれます。物品販売のコーヒーを「オスパール」というのはここから来ています。
日本のアジア・アフリカ連帯委員会は、新興国が社会体制の違いを乗り越えて相互に連帯することを謳ったバンドン会議の後に、アジア・アフリカの新興国の運動と連帯するということで結成されました。
日本は新興独立国でもなく、非同盟の国でもないので非同盟運動の参加国ではありませんが、日本のアジア・アフリカ連帯委員会はAAPSOの正式オブザーバーとして、当初より関わっています。
また1966年にOSPAAALが設立されると、連帯委員会はハバナの創立大会に二人の代表を送っています。
つまり日本AALA連帯委員会は、2つの組織を通じて非同盟諸国の運動とつながっていることになります。
ただし、OSPAAALは最近は開店休業状態となっており、日本の連帯委員会は個別に関係国の外交機関や非政府組織と連絡をとって連帯を図っているのが実情です。AAPSOについても事情は似たようなものなのですが、今年の1月に「AAPSO創立60周年記年集会」が開かれ、新しい動きがでてきました。
その集会に参加した田中靖宏さんが報告してくれた文章を、このあと要約していきます。


経済の仕組みとその変化をしっかりと整理している文章がなかなか見当たらない。

というより私がこのところ経済の勉強をサボっているのが一番主要な問題なのだが。

私の勉強がストップしたのは、欧州金融危機の後半のあたり。

スティグリッツらが日本の金融緩和策を支持したあたりから、筋道が見えなくなっている。

そこまでのレベルで一応議論を整理しておくと、

リーマンショックから欧州金融危機への移行というのは、基本的には資金の流動性の低下によるものであった。
1.デレバレッジ(逆テコ)が金融弱者を痛めつけた

これは直接の引き金としてはデレバレッジ(逆テコ)による極度の信用収縮であった。商品経済とは直接の関係がない金融不況だった。

2000年代前半の好況局面を通じて信用が極端に拡大し、通貨供給量を大きく上回る信用が形成された。それは見かけ上膨らまされた金融商品、簿価として計上された含み資産などである。

これら通貨の裏付けのない資金はリーマンの破産後、一気に店じまいをかけたが、通貨への還元力の弱い信用、逃げ足の遅い資金ほど大きな犠牲を受けることになった。

その通貨、決済通貨というのはドルである。とりあえずの金融危機が収束したあと、ドルは各国中央銀行に相対的に集中した。

ドルは札束で持っているのが一番強い。しかしそうはいっても、ハダカでさらすわけにも行かないから、どこかの金庫におさまっていなくてはならない。
2.預金の引き出し権が物を言う

そうすると手持ちの資金量は名目の預金量というよりは、その預金の引き出し権の多寡ということになる。怪しげな銀行の当座預金に100万ドル持っていたとしても、その100万ドルが引き出せないのなら意味がない。

では一番確実な銀行(預金先)はどこか、それは米連邦銀行を置いてほかはない。なぜなら彼らは輪転機を持っているからである。次に確実な銀行はどこか。それは日銀である。米連銀内に大量のドル預金を持っているからである。だから商品経済ではなにも円高になる理由などないのに円高になってしまったのである。

話が脇にそれたが、欧州金融危機は各国財務当局や、中銀の体力コンテストになった。そして弱者が敗者となり、勝者も著しく体力を消耗したのである。
3.量的緩和が決め手

この状況を打開するには、とにかく米連銀の輪転機を回すしかない。失われた信用の何割がドルの裏付けを得て復活すれば、経済がふたたび回り始めるのか、どこに資金を注入すればより効率的な回復が望めるのか、このへんはよく分からない。

とにかくバーナンキはグリーンバックスを刷りまくった。8年の任期のうち6年間、量的緩和QE1~3を続けたのである。

結果的に言えば、これは「流動性の罠」を抜け出すのに有効な方法だった。変な言い方だが、異端であり排斥されてきた方法であるにも関わらず成功したのである。

それは方法的にはサプライサイドの調整策であるが、需要創出という側面からはケインジアン的性格の濃いものである。
4.商品市場とは全く別の論理

私の印象としては、これは商品市場とは全く別の論理で動く、もう一つの市場経済世界である。

どうもこれを一緒にして語ってきたから話が混乱しているのではないだろうか。

我々がこれまで語ってきた市場の需要・供給曲線というのは商品世界のバランスだった。しかし今我々が目の前にしたのは商品を中心として動く世界ではなく、貨幣を中心として形成される需要・供給曲線の世界なのではないか。

このあたりはマルクスが資本論第3部で端緒的に触れたところであるが、彼の時代の信用システムはまだ十分に開花されたものではなかったから、理論も展開されたものではない。

むしろ究極的には商品と貨幣により形成される市場経済に規定されるものだという側面が強調された。

しかし信用制度が発達してくれば貨幣と信用により形成される市場が新たに出来上がり、その経済規模が実体経済の十倍以上に拡大すれば、信用市場を管理するためのノウハウは別個のものとして体系化されなければならないだろう。
5.国際決済通貨(ドル)市場の論理
それに加えてグローバル経済では、信用市場の主役は貨幣一般ではなく「国際決済通貨とその引き出し権」を真の貨幣=供給された決済力として考えていくべきであろう。といっても、どこが違うのか自分には何の答えもないが。
今はそういう時期を迎えているのではないだろうか。



人との待ち合わせのちょっとした隙に本屋に入り、ふらっと買ってしまった本がある。

題名に惹かれての衝動買い。

荻原博子「投資なんかおやめなさい」というものだ。

別に私は株なんかやらないし、どうでも良いみたいなものだが、ふんどしの文句が気になる「銀行・証券・生保 激怒必至」と書いてある。

さほど安い本ではないが、喫茶店でパラパラとめくるには格好のネタかもしれない。

まず「はじめに」から

過激な言葉が並ぶが、ようするに「投資ブーム」が作られたもので、仕掛け人が銀行・証券・生保だということ。こういう儲け話に乗ると大損するからやめときなさい。

ということで、これだけならむかしからのお話。

現代風の味付けはどこにあるかというと、

アベノミクス→金融緩和→金融機関の収益悪化→金融機関の株屋化

ということで、これもさほどの新味はない。

結局、今の「好景気」が金融バブルでありいずれ弾ける。荻原さんは東京オリンピック後にそれが来るだろうと言っている。

その際、「好況局面に入ったにも関わらず、金融緩和を続けているのは日本だけだから、不況になったときに世界のしわ寄せが日本に来るだろう」というのがミソといえばミソ。

それでどうするかというと、荻原さんのご託宣は「タンス預金」だ。

これはどうもいただけない。

年寄りはお金を増やそうとは思っていない。とにかく安全にしたいのだ。ところがいまの世の中安全な方法などというものはないのだ。

まず昔ながらのインフレリスクはある。これだけ金融緩和したのだから、いつ来てもおかしくはない。

もう一つは金融が自由化された以上、為替リスクはいつでもある。

この2つの資産リスクをヘッジしようとすれば、資産を貨幣形態資産と不動産形態資産に分散しなければならない。

もう一つは貨幣資産を邦貨と外貨に分散しなければならない。

この2つのリスク回避は、見た目には投資である。だから投資=資産の形態変化をそのままリスクと考えるのは間違っている。

問題は「儲け気分」をふくらませるかどうかだ。つまリは主観の問題だ。貪らなけければタンス預金よりリスクを回避できる確率は高い。

そういうわけで、20年前なら私は間違いなく荻原さんに全面賛成しただろうが、今は部分賛成にとどまる。

ここまでは結論部分について、その不正確さを指摘したのだが、論立て部分にも相当のあやふやさがある。

とくにインフレとデフレの問題、金融不況と実体経済の不況の問題、通貨問題については混乱状態である。

これらについては、いづれ別に記事を起こして行こうと思う。


いくつかのレビューでも明らかにされているように、ベネズエラの目下の経済的苦境はアメリカの経済封鎖、とりわけ金融封鎖によるものであって、政府の失策とか「社会主義の失敗」によるものではない。
ただ、それだけではなく、石油依存国家で実体経済をどう運営していくかという特殊なノウハウの問題も含んでいる。したがって下記の問題を留意しながら、分析を進めなければならない。
2012年08月12日 エコノミストはベネズエラを評価している より一部引用
何度も強調するのだが、この国の経済運営はオーソドックスな手法ではやっていけない。
この国の実体経済の規模をはるかに上回るすごい勢いでドルが行き来している。
しかもこいつは“オイルダラー”と言って、世の中で最も流動性が最も高く、投機性がもっとも強く、たちの悪い資金だ。いざとなれば瞬きするあいだに目の前から消えてなくなる。
この投機資本と国内経済と実体貿易はどこかで遮断しなければならない。収支は短期の資本収支も合わせて評価しなければならない。サウジのように貧困者を徹底して無視し、反抗者を徹底的に押さえつければ経済は安定する。
しかしチャベスのごとく貧困者の生活水準を引き上げれば、インフレは必至であり、放置すれば経済を破壊する。
さりとて、輸入自由化で物価を安定させようとすれば、たちまち巷には失業者があふれることになる。
こういう中で経済運営をした経験は日本人にはない。だから我々は個々の失敗について四の五の言うのではなく、こうした経験から虚心坦懐に学ぶべきであろう。
私は以前から、連帯運動というのは「学ぶ運動」だと考えている。与える運動ではなく、与えられる運動なのである。

さて、今日から気分を入れ替えて勉強再開しよう。グダグダぐらしにも少々飽きた。
今年はどんな年なのだろうかと、考えてみる。そうだ今年はリーマンから10年なのだ。
たぶん、リーマン・ショックを機に世の中相当変わっていると思う。
一番大きいのは、リーマン・ショックを機に世の中がふるいにかけられ、貧富の差が一段と進行したことだろう。
そしてこの格差がそろそろ究極的な所まで来て、世界中からWin-Winの関係がなくなってしまったことだろう。
世界の経済システムは、1980年のレーガノミクスの出現からネオリベラリズムが席巻し、第二次大戦後の民主的経済システムの崩壊が始まった。それにともなって巨大資本への富の集中が進み、ついに行き着くところまで行き着いた。
次の経済システムへの移行が本格的に求められるようになっている。それを実現するのも実のところ政治システムの変化を通じてしかありえない。
それが経済民主主義ということになるが、その場合、民主主義のあり方が鋭く問われることになってくる。
この間の世界の動きの中で、自由主義と民主主義を二つの柱とする近代政治システムは、二つのチャレンジを受けてきた。一つは権力の側からの「自由」をもとめるネオリベラリズムの動きであり、ひとつは「自由」の基盤の上に立たないポピュリズムの動きである。
これらの動きは、人類史を引き戻そうとする歴史的反動の流れにとって、車の両輪となる危険がある。同時に、これらとの闘いは社会を新たな人類史的段階へと推し進める変革の闘いと直接結びついている。
そういうわけで、今年は以上のような観点から「リーマン後の10年」をあと付け、とりわけ正統リベラリズムの観点から意味づける作業の年にしていきたいと思う。

リーマン・ショック後の10年(主な動き)


経済的出来事

政治的出来事

2008

リーマンショックが発生

オバマが大統領に初当選、変革を唱える。

2009

円高が進行、84円に。

民主党が勝利。鳩山政権が成立する

2010

ギリシャ債務が表面化
アメリカでFATCAが成立(外国口座税務規制)
中国GDPが日本を抜く。

ティーパーティー運動の躍進

2011

東北大震災+原発事故→GDP低下と貿易赤字。円高75円が相殺。

チュニジアから「アラブの春」→シリアで泥沼化
ウォール街占拠運動、2ヶ月にわたる

2012

欧州経済危機がスペイン、イタリアにも波及(PIIGS)、ユーロ95円まで下落

原発稼働ゼロに
英国がスターバックスの租税回避を非難。独・仏も英支援に回る

2013

アベノミクスの実施(異次元緩和)→円安・株高
デトロイト、自動車産業空洞化により財政破綻

習近平が国家主席になり、訪米・会談
米政府機関による盗聴が発覚
中国のPM2.5汚染が日本にも波及

2014

OPEC破綻、バレル100→40ドルへ
アイルランドが「ダブルアイリッシュ」を廃止(20年まで猶予)

消費税が8%となり、ふたたび不況へ

2015

東芝で粉飾決算が発覚
COP21でパリ協定
OECDがFATCAの双方向性を強めたCRSを提示
米財務省、欧州委員会のBEPS対策、とくにアップルへの追徴金課税について非難。
中国が一帯一路やアジアインフラ投資銀行などを打ち出す
日本の貿易収支黒字化

戦争法反対運動+野党共闘
ギリシャ選挙で反緊縮派が勝利。
ポルトガルで社会党を中心とする左派連合が政権に
ヨーロッパで難民問題が顕在化

2016

パナマ文書が暴露される。
ドイツ銀行が住宅ローンで経営危機に

英国民投票でEU離脱を決定
トランプの大統領当選+ポピュリズムの台頭

2017

トランプ、TPPとパリ協定離脱を決定

核兵器禁止条約が採択される。
サンダース・コービン・メランション現象



2000年に書いた金融グローバリゼーションの行方の一部です。北海道AALAの2000年版情勢報告から抜粋しています。
金融危機のもとでは、変動相場制絶対論でヘッジファンドのなすがままにされるのではなく、条件的に固定相場制の採用もありうるという経験です。

マハティールの「勝利」

 おおかたの東アジア諸国がIMFの指導に従うなかで,マレーシアはこれとは逆の方向に出ました.

 それまでマレーシアを支配してきたマハティール首相は,腹心のアンワルに(私のパソコンは「案悪」という素晴らしい宛て字を用意した)経済運営を委ねていました.マレーシアを金融危機が襲ったとき、アンワルはIMFの政策を導入して危機の乗り切りを計ろうとしました.
このやり方を不満とするマハティールは,強引にアンワルを更迭し、自ら危機対策に乗り出しました.

 マハティールの対応は「ヘッジファンドの行き過ぎた活動を規制すること」でした.彼は国際投機家ジョージ・ソロスを名指しで批判し、ソロスとアメリカ当局が裏でつながって、アジアを危機におとしめていると主張しました.

 当時,この非難は荒唐無稽と思われましたが,その後ブラジル金融危機に際し,IMFとアメリカ財務省,ソロスが一心同体であることが立証されました.
ブラジルの金融危機に際し,IMFはソロスの大番頭を経済相に就けるよう推薦し,その就任を待って融資を開始したのです.マハティールに言わせれば、「泥棒を金庫番に就けた」ようなものです。

 マハティールはまず為替取引きを停止しました。ついで株式・債権の短期売買を禁止しました.マレーシアの通貨リンギットは国外での取引きを禁止され、海外持ち出しを制限されることになりました.国内では1ドル=3.8リンギットの固定相場となりました.

 これらの政策はIMFの指導と真っ向から対決するものでした.

 マスコミの多くはマハティールのやり方を痛烈に批判しました。そして強引なアンワル下ろしと相まって,その独裁ぶりが書き立てられました.「マハティールはインドネシアのスハルト前大統領と同様、国民の怒りを受けて失脚するだろう」と噂されるようになりました.

 しかし大方の予想を裏切って,98年度のGDPは1%前後のマイナスにとどまりました.さらにその後は大幅なプラス成長に転じたのです.相場師たちはマレーシアを離れましたが,逆に半導体と家電関係の新規投資は急激に増加しました.

 99年9月1日,この措置の1年間の期限が切れました.世界が固唾を呑んで見守りました.マレーシア政府は50億~60億米ドルの流出を覚悟していました。しかし実際に国外に流出した資金は10億ドルに留まったのです.マハティールの大バクチは成功したと見ることができるでしょう.

 その後もマレーシア経済は順調な足どりを続けています.GDPは前年比で二桁を上回る増加を記録しています.外貨準備高は15億ドル前後増え、ビジネスも順調に伸びています。外国からの直接投資にも悪影響はみられません。

 マハティールは「先進国を中心とする国際社会は,経済の混乱がアジア各国の国内に波及するのを食い止めることができなかった」(それができたのは私だけだった)と胸を張りました.

「私の選ぶ今年の十大ニュース」と言いつつそれは一番最後。まず世間の選んだ十大ニュースから紹介する。

what's @DIME

1000人が選んだ「2017年の重大ニュース」ランキング(2017.12.12)

【1】スポーツ編ランキング

2位 横綱・日馬富士が弟子力士に暴行 傷害容疑で捜査(40.3%)

5位 プロ野球 大谷翔平が日本ラスト登板、来年からメジャーへ(22.6%)

7位 プロ野球ドラフト会議 清宮幸太郎内野手との交渉権を日本ハムが獲得(21.7%)

【2】芸能編ランキング

3位 元SMAP 香取、草なぎ、稲垣がジャニーズ退社(47.8%)

4位 松居一代と船越英一郎の泥沼離婚騒動(31.0%)

【3】政治編ランキング

1位 豊田真由子議員による騒動。「このハゲーーーー!!!」(64.4%)

2位 北朝鮮が弾道ミサイル発射、日本上空を通過、Jアラート発令(44.8%)

3位 森友学園、加計学園問題(44.4%)

7位 第48回衆院選、自民党が圧勝(22.5%)

8位 小池都知事が「都民ファーストの会」代表に就任(20.2%)

【4】海外編ランキング

1位 トランプ大統領就任(67.5%)

2位 金正男氏殺害事件(64.9%)

5位 ラスベガスで史上最悪規模の銃乱射事件、死傷者500人以上(31.0%)

6位 朴前大統領を逮捕(24.7%)

9位 カタルーニャ独立騒動(9.8%)

10位 トランプ大統領がメキシコ国境への壁建造の大統領令(8.8%)

【5】明るいニュース編ランキング

1位 将棋 藤井4段が29連勝、最多連勝記録を30年ぶりに更新(56.1%)

5位 「インスタ映え」が流行(19.3%)

【6】悲しいニュース編ランキング

1位 フリーアナウンサー 小林麻央さん 死去(55.3%)

2位 座間市9人バラバラ遺体事件で、白石容疑者逮捕(46.8%)

5位 横綱・日馬富士が弟子力士に暴行 傷害容疑で捜査(24.4%)

7位 九州北部豪雨(23.2%)

【7】怒りのニュース編ランキング

1位 座間市9人バラバラ遺体事件で、白石容疑者逮捕(51.1%)

5位 森友学園、加計学園問題(29.5%)

10位 神戸製鋼でデータ偽装(17.6%)
全部書くと大変なことになるので、私でも知ってそうなニュースだけ選んだ。全文はwhat's @DIMEへ

Yomiuri Online

こちらは読売新聞の「読者が選ぶ10大ニュース」投票のための資料情報なので使いやすい。しかし記事の選択にはいかにも読売新聞的なバイアスがかかっている。(もちろん前川さんのマの字も触れていない)

国内編

【1月】

韓国・釜山の日本総領事館前に慰安婦を象徴する少女像が設置る。政府は長嶺安政・駐韓大使と森本康敬・釜山日本総領事を一時帰国させた。

【2月】

安倍首相は10日、トランプ米大統領とワシントンで初の首脳会談を行った。沖縄県の尖閣諸島が日米安全保障条約5条の適用対象であることなどを共同声明に明記し、同盟強化の方針を確認した。

東芝、連結決算が4999億円の赤字になったと発表。8月に17年3月期の連結決算を公表し、最終赤字が9656億円に達したことが分かった。

【4月】

名護市辺野古沿岸部で埋め立て区域を囲む護岸の建設に着手した。県は7月、移設工事の差し止めを求め、国を相手取って提訴した。

宅配便最大手のヤマト運輸、個人向け宅配便の基本運賃を荷物一つあたり140~180円(税抜き)値上げすると発表。

【5月】

安倍首相、読売新聞紙上のインタビューで、自民党総裁として憲法改正を実現し、2020年の施行を目指す方針を表明した。

【6月】

テロ等準備罪創設を柱とした改正組織犯罪処罰法が15日、参院本会議で可決、成立した。

安倍内閣の支持率が前月比12ポイント減の49%に急落した。学校法人「森友学園」や「加計かけ学園」を巡る問題が響いた。

【7月】

東京都議選、「都民ファーストの会」が55議席を獲得し、都議会第1党となった。自民党は過去最低の23議席となり、歴史的惨敗を喫した。

稲田朋美防衛相、南スーダンPKOに派遣された陸上自衛隊部隊の日報を巡る問題の監督責任を取り、辞任した。

森友学園前理事長と妻を逮捕。補助金詐取容疑

【9月】

日産で無資格社員が検査。その後、スバル、神戸製鋼所、三菱マテリアルの子会社、東レの子会社で検査データの改ざんも次々と明らかになった。

【10月】

原子力規制委員会、柏崎原子力発電所6、7号機が新規制基準に適合していると判断し、事実上の合格証となる「審査書案」を了承した。

衆院選が22日投開票され、自民党が圧勝した。自民、公明の与党では計313議席となり、憲法改正の国会発議に必要な3分の2以上の議席を維持した。解散直前、小池百合子・東京都知事が希望の党を結成し、民進党は希望への合流を決定。小池氏が「排除」しようとした民進党内のリベラル系を中心に立憲民主党が結成され、民進党は分裂した。衆院選で立憲民主が野党第1党となり、小池氏は11月に希望の党代表を辞任した。

神奈川・座間のアパートで切断9遺体

【11月】

トランプ米大統領が初めて来日した。トランプ氏は安倍首相との会談で、北朝鮮への圧力を最大限まで高めることで一致。対日貿易赤字の是正に強い意欲を示した。

内閣府が9月の景気動向指数を発表。2012年12月に始まった景気の拡大期間が58か月になる。これは戦後2番目の「いざなぎ景気」(1965年11月~70年7月)の57か月を抜くもの。

みずほフィナンシャルグループ、26年度末までに従業員数を約1万9000人減らすなどの構造改革案を発表した。三菱東京UFJ銀行や三井住友FGも業務量を減らす方針。



国際編

【1月】

ドナルド・トランプ氏が第45代米大統領に就任した。環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、イスラム圏7か国からの入国制限の大統領令に署名。2月にフリン大統領補佐官が辞任するなど政権幹部の辞任も相次いた。

ニューヨーク株式市場でダウ平均株価(30種)の終値が、史上初めて2万ドルを突破した。

【2月】

北朝鮮の金正恩委員長の異母兄、キムジョンナム氏がクアラルンプール国際空港で、神経剤VXで殺害された。

【3月】

韓国憲法裁判所、朴槿恵大統領の罷免を決定。韓国検察は31日、朴容疑者を収賄などの容疑で逮捕した。朴容疑者側への贈賄容疑などでサムスン電子のイジェヨン副会長が逮捕された。

英政府は欧州連合(EU)離脱を正式通知した。離脱日時は「2019年3月29日午後11時」と発表した。

【5月】

仏大統領選で、中道のエマニュエル・マクロン前経済相が、極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏を破り当選。6月の国民議会(下院)選もマクロン新党が圧勝した。

韓国大統領選で左派の最大野党「共に民主党」のムンジェインが勝利した。9年ぶりに保守から左派に政権交代した。

トランプがFBIのコミー長官を解任。コミー氏はトランプからロシア疑惑の捜査中止を指示されたと述べる。米司法省はモラー元連邦捜査局(FBI)長官を特別検察官に任命した。

英中部マンチェスターのコンサート会場で「イスラム国」による自爆テロ。ロンドン中心部では車が歩行者に突っ込むテロが相次ぎ、3月には英議会議事堂付近で5人が死亡、6月にはロンドン橋で8人が犠牲となった。

【6月】

トランプ米大統領は1日、中国などに有利な内容で「不公平」だとして、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱すると表明した。

英国の下院選が8日、投開票され、メイ首相率いる与党・保守党が過半数割れし、事実上の敗北となった。

ロンドン西部の24階建て高層公営住宅で火災が発生し、死者は71人に達した。

【7月】

核兵器の使用や開発などを初めて法的に禁じた「核兵器禁止条約」が採択された。122か国が賛成、米英仏中露の核保有国や日本などは採決に不参加。採択に貢献した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」は10月、ノーベル平和賞の受賞が決まった。

【8月】

ベネズエラでマドゥロ政権が新憲法制定に向けて立法機関の制憲議会を発足させた。7月末の制憲議会選は野党勢力が棄権し、マドゥロ氏派が全議席を独占。国会から立法権を奪った

ミャンマー西部ラカイン州で、バングラから流入したロヒンギャ人問題、難民60万人超に達する。ロヒンギャの過激派集団が警察拠点を襲撃したことが発端となる。

【9月】

北朝鮮が6回目の核実験。弾道ミサイル発射も相次ぎ強行

【10月】

米ラスベガスで銃乱射、58人死亡

米がユネスコ脱退方針通知。ユネスコの「反イスラエル的な姿勢」などを理由とする。

米軍が支援するシリアの民兵組織「シリア民主軍」が、「イスラム国」が「首都」とするラッカを完全制圧した。7月10日にはイラク政府軍がモスルの奪還を宣言した。

【11月】

ジンバブエで事実上のクーデター。37年「独裁」を続けたムガペ大統領が辞任
………………………………………………………………………………………………………………………


それで私の選ぶ十大ニュース(というよりトレンド)は

1.トランプの大統領就任 イギリスのEU離脱などポピュリズムの伸長

2.サンダース・コービン・メランション現象

3.耐え抜いた野党共闘路線 連合の策動の失敗

4.東京都議選での怒り 政治劣化の進行 

5.「好景気」の下、相対的貧困化と絶対的貧困化の同時進行

6.神戸製鋼などものづくり産業のモラル低下

7.内部留保の際限のない積み上げと租税回避への怒り

8.資源価格の低下と途上国の苦境

9.原子力規制委員会の堕落

10.核兵器禁止条約の採択






の作成中に、何度か国際人権規約の条文に関連して発言してきた。「三つの権利」に即した運動として世界の流れを把握する以上、その拠り所としての世界人権宣言と国際人権規約にも触れなければならない。
まずはその形成過程を具体的に振り返ることから、その分析を開始したい。そして国際連帯の中心的理論課題に据えた日本国憲法、すなわち憲法25条の形成過程とその歴史的意義、国際的貢献の可能性についても探っていきたい。

まず年表であるが、主として下記論文により作成した。
まず、あらあらのターミノロジー
国連で定められた人権に関する法体系は国際人権章典(International Bill of Human Rights)とよばれる。これは世界人権宣言2つの国際人権規約、市民的、政治的権利に関する国際規約への第一及び二選択議定書より構成する。
さらに人種差別撤廃条約、国際人権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約など23の人権関連条約が人権体系を構成する


1941年 ルーズベルト大統領、年頭教書で「4つの自由」を主張。言論の自由・信教の自由・欠乏からの自由・恐怖からの自由の四つ。大西洋憲章・国際連合憲章の基礎となった。第2次大戦に参戦するための論理建てとなる。
1944 大西洋憲章が締結される。1.全体主義国家における人権の抑圧が戦争に繋がったとの反省に立ち、2.「恐怖及び欠乏からの解放」と「生命を全うできる平和の確立」をうたう。
1945  国際連合が発足。同時に発効した国連憲章は、前文と第1条で基本的人権および基本的自由をうたう。

前文: 「われらの一生のうちに二度までの言語に絶する悲哀」を前提に、基本的人権と人間の尊厳及び価値と、男女の同権…をあらためて確認

第1条: 人種、性、言語、宗教による差別なく、すべての者の人権および基本的自由を尊重する
1946 国連経済社会理事会内に人権委員会が設立される。国連憲章の具体化のため、単一の国際人権章典の作成を目指す。
1947年 第 4 回経済社会理事会、国際人権章典起草のための委員会を設け、5大国+豪、チリ、蘭を委員国に選出。
1948.12.10 国連第3回総会で「世界人権宣言」(Universal Declaration of Human Rights)が先行・採択される。条約ではなく,「人権に関し諸国家が達成すべき共通の基準」を示したもので、法的拘束力を持たない。東側諸国とサウジ、南アが棄権。

 「すべての人間は、生まれながらにして尊厳と権利とについて平等である」(第1条)

「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、門地その他の地位によるいかなる差別」も認められない(第2条)
3条~21条: 市民的、政治的権利
22条~27条: 経済的、社会的、文化的権利

1950年 第5回国連総会、規約草案には市民的及び政治的権利に加え社会権と男女平等の規定を含めることを決定する。また「世界人権宣言」の発表された12月10日を国際人権デーに指定する。
1951年 第6回国連総会、人権規約内容の膨大化に対応するため、A規約(経済的、社会的及び文化的権利)とB規約(自由権)に分割することで合意。ソ連などの諸国は、社会権と自由権に分けず1つの条約とするよう主張。
1954 第10回人権委員会、A、B両規約からなる第一次案の起草を終える。草案は国連第10回総会に提出される。その後国連総会第3委員会での逐条審議が続く。
1959年 児童の権利宣言が採択される。
1961年 世界人権宣言の趣旨を広げる国際民間団体としてアムネスティ・インタナショナルが結成される。
1965年 「人種差別撤廃条約」が締結される。
1966年12.16 第21回国連総会、国際人権規約を採択。

規約は

(1) 経済的社会的及び文化的権利に関する国際規約,
(2) 市民的及び政治的権利に関する国際規約,
からなる。
(1) はA規約、あるいは社会権規約と略される。
(2) はB規約、あるいは自由権規約と略される。
第1条は両規約共通で「人民の自決権」規定を置く。
自由権規約に関連する選択議定書がある。
1976年 国際人権規約が発効。
1979年 女性差別撤廃条約が締結される。
1979年 日本、国際人権規約を批准。ただしA規約中、公休日の給与支払い、スト権、高等教育の無償化の3点を留保。自由権規約の個人通報制度を定めた第1議定書を先進国で唯一批准していない。
1989年 子どもの権利条約が採択される。

第6条: すべての子どもは、生きる権利をもっています。国はその権利を守るために、できるかぎりのことをしなければなりません。

1989年 死刑廃止を目指す第2選択議定書が採択される。
2006年 国連人権委員会が人権理事会に改組される。
2012年 社会権規約第13条「中等教育及び高等教育の漸進的無償化について」の留保の撤回を閣議決定。(この時点で留保国は日本、マダガスカル、ルワンダの3カ国)


参考
1) 人権宣言(1948)の社会権(第22条から27条まで)の一覧
社会保障を受ける権利
働く権利、同等の勤労に対し同等の報酬を受ける権利、労働組合を組織し、これに参加する権利
休息および余暇を持つ権利
健康と福祉に十分な生活水準を保持する権利
教育を受ける権利
社会の文化生活に参加する権利
2) A規約(社会権)の第6条から15条
①労働に関する権利 第6条~第8条
②社会保障などに関する権利 第9条~12条
③教育・文化に関する権利 第13条~15条
この中の第11条が「相当な生活水準の享受に関する権利」となっている。
社会権には生存権(より基本的な)はふくまれない。市民的権利(自由権)のトップに「生存、自由、身体の安全に対する権利」が掲げられているが、ここでは生存権は自由権としてあつかわれる。

3) ワイマール憲法第151条第1項(1919年)「経済生活の秩序、経済的自由」
経済生活の秩序は、すべての人に、人たるに値する生存を保障することを目指す正義の諸原則に適合するものでなければならない。各人の経済的自由は、この限界内においてこれを確保するものとする。
4)憲法草案 GHQ案(46年2月)第24条 
法律は、生活のすべての面につき、社会の福祉並びに自由、正義および民主主義の増進と伸張を目指すべきである
5)憲法草案 政府案 第23条
法律は、すべての生活部面について、社会の福祉、生活の保障、及び公衆衛生の向上及び増進のために立案されなければならない

 

スライド1
チラシ

  

本日は発言の機会をいただきまことにありがとうございます。

この講演会の主催は「憲法を考える札幌市民集会実行委員会」です。その連続講演会の4回目の会議として本日の話が位置づけられております。」

これが本日の講演会のチラシです。立派なものを作っていただきありがとうございます。


スライド2

チラシの文脈では

Ⅰ 世界の平和の流れと憲法9条

Ⅱ 北朝鮮の核開発をどう見るか

Ⅲ 平和と安全に関する法体系のあり方

Ⅳ ラテンアメリカの平和への動き

…北朝鮮問題への国際的な視点を考察し、平和と安全の問題を考える…

 


 

チラシの文句を並べるとこういうことになります。

チラシの中味だとけっこう話が拡散しています。

どうしたら聴衆の皆さんの興味を拡散させずに話をまとめることができるかどうか、考えあぐねているところもあります。

とりあえずは、国際情勢をめぐるさまざまな話題を、究極的には日本国憲法に引きつけて、整理して行くようにと考えています。

これでは広すぎる、とりあえず一点に絞る


国際的な連帯運動の到達を踏まえ、憲法(とりわけ9条)の意味を考える

一応、このような方向で話しさせていただくということで、あらかじめご承知の上で聞いていただけるとありがたいと思います。

これはある意味で学ぶ活動だといえます。

もう一つだいじなのは、日本の護憲平和の運動を国際的に意味づけし、世界につなげる活動ですが、これは後で考えていきます。

皆さんのご期待と少し外れるかもしれませんが、ご容赦願います。

 


スライド3

21世紀型連帯運動の特徴

「国際的な連帯運動の到達」の意味するもの

1.すべての国際連帯の課題が、わたしたち自身の闘いと分かちがたく結びついている

中東・アフリカの平和の問題は、日本の憲法改悪の問題と結びついている。

わたしたちの運動は世界の運動と結びついたときに大きく発展する。

2.平和の課題だけではなくすべての闘いが連帯抜きに語れなくなっている

反TPP・反原発の闘い、超国家企業・投機資本との闘い、反共ポピュリズムとの闘い

響き合う各国の闘い(特にこの問題に触れたい)

 


 

スライド4

003年 イラク反戦ウエーブ

 

 2月14日~15日の24時間で世界で1千万人がデモに参加した。その多くはインターネットによるものだった。

オーストラリア(人口1千8百万人)では、2月14日にメルボルンで25万人、16日にシドニーで25万人のほか、アデレイド、ブリスベンでそれぞれ10万人など、総計75万人がイラク反戦集会・デモに参加した。

翌15日、ヨーロッパ諸国で空前の巨大な規模の闘いが爆発した。イタリアのローマでは300万人、1都市としては最大の反戦デモが行われた。
スペインでは全国で総計4百万とも5百万とも言われる人びとが街頭を埋め尽くした。マドリードで200万人、バルセロナで150万人、全スペイン国民の10人に1人が反戦闘争に参加したのだ。
ロンドンで200万人、パリで80万人、ベルリンで50万人など、かつてない規模の反戦集会・デモが開催された。

最後の大ウエーブは戒厳態勢下のニューヨークで巻き起こった。デモが禁止されたが75万人が参加した。最後のサンフランシスコでは25万人、市民の3分の1が参加した。

 

写真省略

 


 

スライド5

21世紀型連帯運動の三つの分野

21世紀型連帯運動は3つの分野に広がっている

Ⅰ 反軍事主義・平和構築のための闘争と連帯

Ⅱ 反貧困・反格差・経済民主主義を目指す闘争と連帯

Ⅲ 反ファシズム・立憲主義と民主主義を守る闘いと連帯

この3つの課題は

Ⅰ 平和に生きる権利

Ⅱ 人間らしく生きる権利

Ⅲ 自由に生きる権利

をめぐる課題、と言いかえることもできる。

(これは私の自慢の表です) 

 


スライド6

第Ⅰ分野 反軍事主義・平和構築のための闘争と連帯

21世紀の戦争は、大小の覇権思想とこれに対する報復が軍事主義の悪循環を形成して拡大してきた。

軍事主義とは何か

紛争の解決を国際法・国際的道義と国際機関を通じた合意によらず、軍事力(脅迫)で解決しようとする政治手法である。

覇権思想と軍事主義の2つを食い止める。とくに軍事主義の手を縛ることで平和の構築に向けて歩みださなければならない。

A) 中東における大小の覇権思想と軍事主義

B) 「新しい北東アジア」の構想を推進する

C) ラテンアメリカにおけるアメリカ覇権主義の危険な動向

D) 核兵器禁止条約の締結がもたらしたもの

E) 日本の平和主義国家から軍事主義国家への変貌を許さない

A) ~ E) それぞれが広範な内容をふくんでいるので、ここでは触れない。(「新しい北東アジア」の構想は後で触れる)

 


スライド7

国際テロリズムとの闘い

21世紀の戦争は、大小の覇権思想とこれに対する報復が軍事主義の悪循環を形成して拡大してきた。

国際テロリズムとは何か

大量破壊、暗殺、略取誘拐により政府の行動に影響を与える行動。とくに民間人(ソフトターゲット)に対する無差別攻撃が問題となる。

多くの場合、民族的迫害に対する歪んだ(絶望的)報復行動となっていることが多く、異端的宗教活動を背景とする狂信に支えられている。

土台となる闘い

軍事的報復思想の発生母体を崩し、平和の構築に向けて歩みださなければならない。この課題は反貧困・反格差の課題と、ある程度重複することになるだろう。

1.資源問題などでの富裕層の国際的な横暴を抑えること

2.領土問題などを利用する大小の覇権主義の芽を摘み取ること

3.民族差別を煽る極右・反動勢力の台頭と闘うこと

当面の対応

当面、国連などの国際協力を通じて、

1.異文化理解の強化 

2.貧困の削減と飢餓の根絶 

3.難民の受け入れと支援 

4.非軍事支援の強化

を推進していかなければならない


スライド8

第Ⅱ分野 反貧困・反格差・経済民主主義を目指す闘争と連帯

A) グローバリズムと経済問題の深刻化

1.ビッグバン 金融自由化: 投機資本の市場撹乱

2.リーマンショック: レバレッジの仕掛けが世界を壊す

3.租税侵食: 超国家企業の出現と国家財政の破綻

基層をなすのは先進国における産業空洞化、労働の不安定化、マーケットの狭小化

B) 格差問題は世界で深刻化している

1.アントニオ・ネグリ「帝国」 2003年

途上国国民の貧困化と流民化

2.ピケティ「21世紀の資本」 2013年

先進国の空洞化と格差拡大。

C) 人間らしく生きる権利が侵害されている

生存権とは、もっとも簡潔に言うと、人間が人間らしく生きる権利のことである。それは「人間らしく生きる」ことを可能にする国家の義務である。

国際的には、国際人権規約のうち、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(A規約)が相当する。(A規約については別途検討)


スライド9

欧米の社会変革の動きとの響き合い

A) 2011年 反失業青年行動 

リーマンショック→欧州金融危機→PIGSの債務危機→財政引き締め

チュニジア青年失業者の自殺→アラブの春→スペイン、ギリシャの青年行動→ウォール街占拠闘争→アメリカでの最低賃金引き上げ運動

日本では東北大震災のため連動しなかったが、反原発闘争、非正規就業反対・ブラック企業告発で盛り上がる。

B) 2016年 各種選挙での躍進

ギリシャでの反緊縮政党(元共産党)の勝利→スペインでのPODEMOSの前進→サンダース現象→イギリス総選挙でのコービン現象→フランスでのメランション現象

日本でも野党共闘が大いに盛り上がった。さらに揺るぎないものにするためには、青年・学生・若ママ・非正規の要求を組み上げることがだいじだ。


スライド10

格差問題是正のために何をなすべきか

1.税制改革、財政改革、働き方改革の「3つの矢」

1.税制改革: 税制を改革し、所得再配分をすすめる。「能力に応じて負担する、公正・公平な税制」の原則。

①間接税から直接税へのシフト、②大企業優遇税制の抑制、③租税回避を許さない、④世界的な「法人税引き下げ競争」の見直し。

2.財政改革: 積極的な公的社会支出(社会保障、教育・研究、子育て)で格差と貧困を是正する。

3.働き方改革: ①労働規制の強化、②非正規から正規へ、「均等待遇」「同一労働同一賃金」の原則を打ち立てる。③大幅賃上げと最賃引き上げなどによりワーキングプアをなくす。


2. 富裕層は強大だ

わずか1%で99%の人たちを支配できる。そのくらい富裕層は強力なのだ。だから99%が本当に力を合わせなければ、この仕組みを打ち破ることはできない



スライド11

21世紀型連帯運動の三つの分野

そのⅢ 自由に生きる権利を守る闘いと連帯

1.立憲制とリベラリズム

政治的自由は、国家における民主主義の根幹をなすものである。政治的自由を支えるものとしての「立憲主義」の根幹性は、この間の運動の中で明らかになっている。

1.支配者の恣意による専制支配: 人治政治

2.法による支配: 法治主義(法定主義)

3.立憲主義政治: 国家原則(憲法)に権原を由来する政治

4.共和制国家による支配: 主権在民を前提とした民主主義のシステム

1→4の順に国民の自由度は高まる。これは人間の歴史の中で築き上げられてきたものである。

2.民主主義はリベラルでなければならない

シェリ・バーマンはポピュリズムは反リベラルではあるが、反民主主義ではないという。

これは明らかに誤りだ。ポピュリズムには多数決主義はあっても、自由権(批判的・異端的)を恣意に委ねない保障はない。それは近代的民主主義ではない。

3.立憲政治を民主主義の基礎としたのは戦争法反対闘争の成果

まだいろいろ議論が必要だが、「立憲主義」とリベラリズムを民主主義の前提条件と位置づけたのは、日本の護憲闘争の理論的成果である。

  


スライド12

国際的な連帯運動の到達を踏まえ、憲法(とりわけ9条)の意味を考える

Ⅰ 反軍事主義・平和構築のための闘争

憲法前文と憲法9条 非戦条項の実効性を証明した功績

平和国家としてのプレステージ(まったく生かされていないが)

Ⅱ 反貧困・反格差・経済民主主義を目指す闘争

憲法25条の先進性

Ⅲ 反ファシズム・立憲主義と民主主義を守る闘い

「憲法は、個人の尊重が目的とされ、人間らしい生活を保障するもの」という教訓

憲法擁護はリベラリズムの核心であり、近代民主主義の第一歩

 

最後にもう一度

「国際的な連帯運動の到達」の意味するもの

1.すべての国際連帯の課題が、わたしたち自身の闘いと分かちがたく結びついている

中東・アフリカの平和の問題は、日本の憲法改悪の問題と結びついている。

わたしたちの運動は世界の運動と結びついたときに大きく発展する。

2.平和の課題だけではなく、すべての闘いが連帯抜きに語れなくなっている

反TPP・反原発の闘い、超国家企業・投機資本との闘い、反共ポピュリズムとの闘い

響き合う各国の闘い(特にこの問題に触れたい) 

前の記事
2017年11月18日 

 とあわせお読みください。



を書き始めたのだが、どうにもまとまらない。書くための材料が何か決定的に欠けているような気がして仕方がない。

1週間悩みに悩んで得た結論が二つある。
A)憲法25条の「生存権」は、胸を張って生きていく権利
一つは「生存権」が意味のある生き方をおくる権利だとすれば、それが拒否するのは貧困一般ではなく貧富の差であり、貧富の差が生み出す「差別を伴う格差」だということだ。
貧富の差そのものが差別を生み出す。これは倫理を介在するものではない。月給10万の人は、誇りを傷つけられずに月給100万の人とともに暮らすことは不可能であろう。
格差そのものが生存権の侵害であり、これは慈善ではいかんともしがたいことだ。そういうものとして「生存権」を捉えなければならないということだ。
それで、そこまで踏み込んで条文化したのが日本国憲法の25条だということだ。これは「人を餓死させてはならない」という条文ではない。人口の少なくとも過半数を占めているのは相対的な貧困層なのだから、その人達が胸を張って生きていける社会を作らなくてはならないというのが法律の趣旨だ。
少し調べてみたが、ここまで明確に人間が人間らしく生きていく権利の権利性を文章化した条文はないように思える。国連人権規約が登場するまでは、世界でもっとも進歩的な条文ではなかったか、と思っている。

B) 日本型立憲主義の主張と「自由主義思想」の再評価
もう一つは、近代民主主義の基層をなすものとしての自由主義思想の受け止めである。
これは、一昨年の戦争法反対運動の中でにわかに巻き起こり、いわば「民主主義的立憲主義」という形で民主運動の中に定着しつつある。
この立憲主義の思想的裏付けとなっているのが自由主義思想(リベラリズム)である。リベラリズムは産業資本主義のバックボーンとなってきた思想である。ところがこれが冷戦体制の中で資本主義諸国のブランドマークとして利用され、反動政策を覆い隠すために利用されてきたため、進歩的運動野では比較的軽視されてきた。
冷戦体制が崩壊し、資本主義対社会主義、民主主義対自由主義というレッテルの張り合いが無意味になったいま、もう一度自由主義思想を民主主義の基層に位置づけ直すことが運動論の形成の上で不可欠になっている。
それは安倍政権の対米依存強化と軍事力主義への傾斜を食い止める上でも不可欠の思想となっている。またトランプを筆頭とするデマと民衆扇動によるポピュリズム(ニセ民主主義)の論理を打碎くためにも必須の論理である。
率直に言えば、諸外国では日本ほど徹底したソ連型政治システムへの批判が行われていない。したがってリベラリズムを偉大な正統な歴史遺産として受け止める雰囲気は形成されていない。
しかしリベラリズムの伝統の上にデモクラシーを構築しなければ、近代民主主義は語れないのである。逆説的に言えば、日本の憲法を守る運動はそういう理論的地平を切り開いたのであり、このことは大いに確信を持つべきだろうと思う。

この2つは、憲法9条を守る運動に勝るとも劣らない、日本の民主運動の世界的功績であろうと思う。

国際連帯の課題と現状

数年前から痛感しているのだが、あれこれの闘いを取り上げてもそれだけで連帯の課題は見えてこない。

すべての国際連帯の課題が、わたしたち自身の闘いと分かちがたく結びついている

これが21世紀型連帯運動の特徴なのではないか。

そう思って書いたのが、今年2月の総会への情勢報告だった。


国際連帯の三つの課題

(国際連帯の課題と現状  続き)

報告の構成は以下のようになっている。

Ⅰ 反軍事主義・平和構築のための闘争と連帯

Ⅱ 反貧困・反格差・経済民主主義を目指す闘争と連帯

Ⅲ 反ファシズム・立憲主義と民主主義を守る闘いと連帯

この3つの課題は

Ⅰ 平和に生きる権利

Ⅱ 人間らしく生きる権利

Ⅲ 自由に生きる権利

をめぐる課題、と言いかえることもできる。

 


Ⅰ 反軍事主義・平和構築のための闘争と連帯

21世紀の戦争は、大小の軍事主義とこれに対する報復が悪循環を形成して拡大してきた。

この2つを食い止める、とくに軍事主義の足を縛ることで平和の構築に向けて歩みださなければならない。

A) 日本の平和主義国家から軍事主義国家への変貌を許さない

B) 「新しい北東アジア」の構想を推進する

C) 核兵器禁止条約の締結がもたらしたもの

D) 平和のための4つの方向と4つの実践課題 

A) B) C) それぞれが広範な内容をふくんでいるので、ここでは触れない。

D) についてのみ、触れておく。


Ⅰ 反軍事主義・平和構築のための闘争と連帯

(続き)

A) 日本の平和主義国家から軍事主義国家への変貌を許さない

B) 「新しい北東アジア」の構想を推進する

C) 核兵器禁止条約の締結がもたらしたもの

D) 平和のための4つの方向と4つの実践課題 それぞれが広範な内容をふくんでいるので、ここでは触れない。

A) B) C)

D) についてのみ、触れておく。

 


 

反軍事・平和擁護の闘い(続きの続き)

21世紀の戦争は、大小の軍事主義とこれに対する報復が悪循環を形成して拡大してきた。

この2つを食い止める、とくに軍事主義の発生母体を崩し、足を縛ることで平和の構築に向けて歩みださなければならない。

この課題は反貧困・反格差の課題と、ある程度重複することになるだろう。

1.資源問題などでの富裕層の国際的な横暴を抑えること

2.領土問題などを利用する大小の覇権主義の芽を摘み取ること

3.民族差別を煽る極右・反動勢力の台頭と闘うこと

を土台としつつ

当面、国連などの国際協力を通じて、

1.異文化理解の強化 

2.貧困の削減と飢餓の根絶 

3.難民の受け入れと支援 

4.非軍事支援の強化

を推進していかなければならない

 


Ⅱ 反貧困・反格差・経済民主主義を目指す闘争と連帯

A) 格差問題は世界で深刻化している

B) 欧米の社会変革の動きとの響き合い

C) 格差問題是正のために何をなすべきか

1.税制改革: 税制を改革し、所得再配分をすすめる。「能力に応じて負担する、公正・公平な税制」の原則。①間接税から直接税へのシフト、②大企業優遇税制の抑制、③租税回避を許さない、④世界的な「法人税引き下げ競争」の見直し。

2.財政改革: 積極的な公的社会支出(社会保障、教育・研究、子育て)で格差と貧困を是正する。

3.働き方改革: ①労働規制の強化、②非正規から正規へ、「均等待遇」「同一労働同一賃金」の原則を打ち立てる。③大幅賃上げと最賃引き上げなどによりワーキングプアをなくす。

D) 貿易と投資のルール作り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Ⅰ 三人の老政治家が注目される理由

この1年の間にアメリカ大統領選挙、イギリス総選挙、フランス大統領選挙という注目すべき選挙戦が展開された。

この3つの選挙で、3人の老政治家が大活躍して注目を受けた。それはアメリカのサンダース、イギリスのコービン、そしてフランスのメランションである。

それぞれの個別の特徴は別にして、眼につく共通点は、彼らが一貫して左派リベラルの立場を守ってきたこと、彼ら自身は老人であるにも関わらず、若者の熱狂的支持を受けたことである。

彼らを支えたのは左派連合であると同時に老青連合でもあった。とくに青年のイニシアチブが際立っている。

青年層が老政治家を支えて立ち上がった理由には大きく言って3つあると思う。

A) 貧困化と格差拡大

「格差問題」は、富裕層への富の集中、中間層の疲弊、貧困層の拡大という3つの状況の複合である。さらに「板子一枚下は地獄」という不安感が社会的緊張(ゆとりのなさ)を招いている。

これは決して昔からのものではない。80年代にレーガン大統領が独占資本優位の経済政策を取り始めたからだ。最高税率を28%まで引き下げられた。最低賃金を抑え続けた。最低賃金はインフレによって目減りした。「69年は時給11ドル近かったが、2016年は7ドルだ」(ピケティ)

新自由主義は決して経済の必然ではない。アメリカの独占資本が利益を上げるために、国内外の人々に押し付けたルールの結果なのだ。だから変更することは可能なのだ。

B) 青少年の未来の喪失

格差問題が政治化する最大の理由は、中間層の疲弊と没落である。それは能力がある多くの青少年から未来を奪っている。

高すぎる奨学金、高学歴でも就職できない悩みが青年のあいだに広がっている。

「人口の1%の最富裕層のための政治ではなく、99%のための政治」はウォール街占拠運動のスローガンであるが、いまや世界の青年の共通のスローガンとなっている。

C) 民主主義の危機

格差の拡大の中で、政治的平等、法のもとでの平等の原則は大きく揺らぎつつある。その結果、民主主義に対する信頼が損なわれ、言論に訴えるよりも一過性の情緒に流される傾向が強まっている。

ヨーロッパでは深刻な経済危機のもとで、移民排斥を主張する極右派の台頭という事態も起こっている。

これに対し、民主主義を守る闘いが格差問題と結びつ来つつある。それは今回のフランス大統領選挙でもっとも典型的に示された。メランションは言う。「どんな問題でも解決策はある。それは民主主義だ」

すなわち格差問題も貧困問題も、「民主主義」を通じてしか解決できない。だから民主主義は何よりも大切なのだということを示している。

これらの論点について、三人の老政治家の認識は共通すると言ってよい。


Ⅱ なぜ老政治家が若者の心を捉えたか

A) 今の世の間違いが分かる世代

とはいえ、若者の心を政治に反映させるのには、若者自身が立候補するのが一番良いはずだ。なぜ老いぼれ政治家に自分たちの夢を託すのか。

率直に言えばよく分からない。例えばスペインやギリシャではみずからの世代の代表を議会や政府に送り込んでいるからだ。

ただ若者たちだけで戦えば、勢いだけで行けるあいだはいいが、高齢者や組織労働者などへの食い込みは難しい。ただ戦闘的なだけでなく安心感を与えることも必要だ。
選挙戦が白熱すれば、他党派との切り結びや戦略的思考が不可欠となるが、若者にはそれだけの修羅場経験がない。

そういう色々なことがあって戦略的に判断したのではないかと思われる。逆に言えば、青年の政治意識がそこまで熟度を増しているということだと思う。

その際の最大の選択基準が「ぶれない政治家」ということだろう。

B) 老青連合がお互い必要という事情

その他にも特徴がある。非エリートであること、党派性が薄いことなど、いずれも若者にとって「お神輿として担ぎやすい」要素を持っている。コービンの場合は2大政党の一つである労働党の党首ではあるが、議会内では少数派であり、一般労働党員の力のみが頼りである。これは逆に言えば政策的フリーハンドを握りやすいという利点にもなっている。

こういった戦略はおそらくサンダース陣営に乗り込んだ若者たちの発想であろうと思われる。しかしそれは巧まずして、世の中の空気にぴったりマッチした。

老青連合路線は教訓化され、それがイギリスにも持ち込まれた。そしてコービンの成功は、教訓としてフランスにも持ち込まれたのであろう。

日本においても、老青連合の凄まじい推進力とc破壊力はこの間試されずみの教訓となっている。


最近ポピュリストないしポピュリスムという言葉をよく耳にする。
ルペンまでふくめてポピュリストと一括する表現は、ラテンアメリカの歴史をやってきた人間としては、ひどい違和感を覚える。
20世紀の前半、ラテンアメリカをポプリスモが席巻した。それはカリスマによって歪められているとは言え、民衆の要求と抗議を反映したものだった。そこには激しい階級闘争があった。それがドイツ、イタリアではニセのポピュリスト=ファシストによって騙し取られたのだ。
その違いは言っていることにあるのではなく、「やっていること」にある。というより「やろうとしないこと」にある。それは、激しい言葉を使えば、「収奪者を収奪すること」である。
所得の再分配なしに財源を生み出すことはできない。内需が拡大しなければ再投資→経済成長へのインセンティブも生まれない。それを行わずにばら撒き経済を行えば、やがて財政は破綻し経済成長は停滞し雇用は失われる。
その時彼らは、海外市場への強引な進出と経済の軍事化(浪費の構造化)へとスイッチを入れ替えるのである。
ポピュリズムは、個別には破綻すればそれで一巻の終わりだが、ファシズムには財界がついている。必要とあれば暴力を使ってでも反抗勢力を押さえ込む。ファシズムにとっては独裁制が必然の帰結となる。
ポピュリスムは空文句で煽るだけだが、ファシズムは思想を押し付ける。カラ文句にだまされない人を排除し抹殺する。こうしてファシズムは愛国思想と選良思想、好戦思想を柱とする「原理主義」となる。

これがファシズムである。

なぜファシストをファシストと呼ばないのか。なぜ「極左」と並列するのか。そこには民主主義への軽蔑と、ファシズムへの警戒感の鈍化があるのではないか。自戒せよ。

フランスの大統領選挙は、結局白か黒かの決着なので、その意味を探るのは難しい。だからポピュリスト対リベラルみたいな括りも出てきてしまうのだが、議会選挙の結果と合わせて読むともう少し分かってくる。
フランス議会選挙の総括はもう少し勉強してからのことにして、アメリカ、イギリス、フランスの選挙を通じて見えてくる世界の動きについて、感想を述べておきたい。
1.“国栄え、民栄える”思考の後退
最大のトレンドは、“国栄え、民栄える”思考の明らかな後退だ。
19世紀後半から、世界中が“国栄え、民栄える”思考の中にズッポリはまってきた。その結果として二度にわたる世界大戦がもたらされ、その副産物として原水爆という悪魔的兵器が生み出された。
第二次大戦後に作られた自由貿易体制は、本来は世界は平等なひとつの家族という考えを表現したものである。
そこで“世界栄え、民栄える”という画期的な考えが初めて打ち出された。
しかしそれはアメリカの圧倒的な経済的・軍事的な優位を背景にもたらされたものであった。だから表面的には世界平等主義であっても、アメリカの許す範囲での世界主義であった。
この矛盾は当初より緊張をはらんだものであったが、ベトナム戦争を経てアメリカの全一的支配が破綻すると、複雑でぎくしゃくとしたものとなった。
アメリカ自身が「強いアメリカ」を主張するようになると各国もそれに倣い、“国栄え、民栄える”思考が復活しつつあるようにみえる。
2.“国栄え、民栄える”思考のもたらしたもの
しかしこの時代遅れの思考は、それを主張する国家(アメリカをふくめ)にとって利益を生み出さなかった。そしてますますその弊害が誰の眼にも明らかになっている。国が栄えて栄えるのは超富裕層であり、民はますます衰えるのが現実の姿だからだ。
“世界栄え、民栄える”という考えが、あらためて見直されている。
世界中の人々は国がどうであろうと、世界がどうであろうと、民が栄えることを望んでいる。同時に民を不幸におとしいれるような国も、世界も望んでいない。
人々は、国が栄えることを前提とした民の繁栄という路線に疑問をいだき始めている。そして民が栄えるような国の、別のあり方を求めている。それは“世界栄え、民栄える”型の国家への移行だ。
3.“超富裕層栄えて民栄える”か?
いま超国家的な超富裕層が国を屈服させ、民を不幸へと追いやっている。国家はかつての植民地の現地機構のように、超富裕層に隷属し国民収奪の道具となっている。
「強いアメリカ」、「強いイギリス」、「強いフランス」のスローガンはもはや人々の心に響かない。それらは、国家よりもっと強い超国家企業・超富裕層をどうするかという問題に答えていないからである。
この21世紀的枠組みに立ち向かっていく政府が、民を栄えさせる政府(いまは可能態にすぎないが)である。それが世界で同時多発的に立ち上げられる必要がある。
そしてその可能性がこの3つの選挙でしめされた。ここに最大の意義があると、私は思う。

今世紀の初頭、世界の人々が高らかに宣言した「もう一つの世界は可能だ」のスローガンを、我々は想起すべきだ。そして共通する目標として、“世界栄え、民栄える”を掲げるべきだ 

この時刻表は前に作ったものの増補版となるものです。

2016年05月09日

日本ではパナマ文書の追及もあまりされず、相変わらず「世界一企業に優しい」政治が続いていますが、海外では租税回避への厳しい対応がどんどん進んでいます。

そこで表題を上のように付けなおしたものです。なおFATCAとCRSの成立過程に的を絞ったものとして、以前の経過表はそのまま残しておきます。


2012年

2月8日 米国と欧州5か国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)が共同声明。欧州5か国の税務当局が米国人口座の個別情報を取得し、まとめて提供することとなる。

6月 OECD 租税委員会、BEPSプロジェクトを立ち上げ。多国籍企業等の租税回避に対応するため、国際課税ルールの抜本的見直しを開始。

10月 ロイターが喫茶店チェーンのスターバックスの租税回避を暴露。2010年以降、英国に一文も払っていないことが明らかになる。

スターバックスは英国で過去30億ポンド以上の売上があったのに対して、わずか860万ポンドほどの税を納税したのみ。ここ3年間においては12億ポンドの売上に対して税を納付していない。
法人税の安いオランダに所得移転し、差し引き8%の“節税”。イギリスは税収をまるまる失い、オランダは濡れ手に粟のぼろ儲けをした。

11月 英議会がスターバックスを呼び公聴会を開催。

12月 不買運動に直面したスターバックス、法人税の自発的納付で英当局と合意。欧州の本社機能を英国に移し、租税回避をやめる。

11月 英・独の財務大臣が租税回避を非難する共同声明を発表。仏の財務大臣も賛同する。


2013年

2月 OECD、「税源浸食と利益移転(BEPS)への対応に関する報告書」を作成。G20 財務大臣・中央銀行総裁会議(ロシア・モスクワ)に提出。

3月 英国、ドイツ、フランスの3カ国は他のG20諸国に対し、多国籍企業の租税回避を阻止するよう求めた。G20はこれを受け、OECDに租税回避防止に関する研究報告を求めた。

5月 米上院、アップルを呼び租税回避を追及する。

6月 G8首脳会議、課税逃れ対策の支持で合意。

6月 OECD 租税委員会、15 項目からなるBEPS 行動計画を採択。FATCAのモデル1をひな形として、金融口座情報等の「自動的情報交換」を多国間に拡大するもの。

7月 OECD、G20財相会議にBEPS 行動計画を提案。

7月 アメリカの消費者団体(pirg)が米巨大企業の多くが5年間納税ゼロであったと発表。またトップ100社がタックスヘイブンに保有しているお金は、1.2兆ドルに達するとする。

8月 ジェトロ、日本の対外直接投資残高が1兆ドルを超えたと報告。96年に比し4倍となる。ケイマンとオランダへの投資が突出する。

9月 サンクトペテルブルクでG20 サミット。BEPS 行動計画を全面的に支持。次年度末を目途に国内の法整備を進めることで合意。OECDによる国際基準の策定が支持される。

10月1日 OECDの発議した「税務行政執行共助条約」が日本において発効。①締約国における自動的な 情報交換、②租税債権の徴収の支援(徴収共助)、③要請による文書送達(送達共助)を定める。

10月 フランス議会、国内書店の保護を目的とする「反アマゾン法」を可決。

12月 イタリア議会、グーグル法を可決。多国籍企業がネット広告などを掲載する場合、国内事業者を通さなければならないと定める。イタリア政府は税導入を延期する措置。


2014年

1月 OECD租税委員会、自動的情報交換の共通報告基準(CRS)を承認。

2月 OECD、「課税における自動的な情報交換に関する基準」の草案を発表。

3月6日 米国財務省とIRS、最終暫定規則を発表。50以上の修正が加えられる。

4月 アップルのCEOティム・クックが上院で証人喚問を受ける。利益の多くをアイルランドで計上していることについて説明を求められた。

5月 クレディ・スイス、「米国人顧客の脱税を意図的にほう助した」と有罪を認め、米政府などに28 億1,500万ドルの罰金を支払う。

7月1日 FATCAによる規制が日本及び世界で施行される。登録金融機関は世界中で10万以上、日本の金融機関は3,624にのぼる。

日本の金融機関は、米国人対象者を特定し、同意を取得した上で、米国内国歳入庁(IRS)へ直接報告を行う
不同意口座についてはIRSが租税条約に基づく情報交換要請を日本の国税庁にする。国税庁は金融機関から情報を入手し、IRSへ提供する

7月 OECD、CRSのフルバージョンとコメンタリーを公表。金融機関の非居住者口座を政府間で自動交換するためのマニュアルとされる。

この「完全版」は「金融口座の自動情報交換のための新国際基準」(Standard for the Automatic Exchange of Financial Account Information in Tax Matters)と題されている。

9月 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議(ケアンズ)で、BEPS報告書第一弾公表。

11月 ブリスベンのG20サミット、CRSを承認。その後97の国・地域が「税に関する自動的情報交換制度」(OECD制度)への参加を表明。日本の参加は遅れる見通し。アメリカは不参加の意向。

全国銀行協会は「OECD の枠組みは、FATCA よりもさらに負荷が大きい。実務面での配慮が必要」とコメント。

12月 この時点で、欧州各国を中心に112の国・地域が米国とIGAを結ぶ。

14年 イギリスが「UK FATCA」制度を導入。「海外領土」と呼ばれるジャージー、英領バージン諸島、ケイマン諸島、バミューダなど10カ国の金融機関に対し、英国居住者の口座情報の提供を義務付けた。これにより税金上のメリットは失われ、場合によってはHMRC(英歳入関税庁)の調査対象となる。

2015年

1月16日 欧州委員会、ルクセンブルグ政府の優遇税制措置を、EU法に定められた「違法な国家補助」に当たるとの判断。

アマゾンが税率の低いルクセンブルクの子会社にウェブサイト運営のための知的財産権を移し、同社の世界全体の売り上げの5分の1を占めるEUでの売り上げを集めていた問題がきっかけとなる。

3月 欧州委員会、「課税の透明性に対する取り組み」を発表。EU加盟国間の税務情報を、自動的に交換する仕組みを導入するよう提案。

3月31日 FATCAに関する国内法が発効。「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(租税条約実施特例法の一部改正)という長たらしい名前。

4月 イギリス政府、Google税(Diverted Profit Tax)を施行。租税回避された広告料所得などに対しても課税。スペインではグーグル社が徴税に対抗してグーグルニュースのスペイン版を閉鎖。

5月 米上院小委員会がアップル社からヒアリング。アメリカの法人税率は35%であるのに、アップル社は、実質2%以下の税率だったことが明らかになる。

6月 欧州委員会、公正かつ効率的な課税を目指す「法人課税に関する行動計画」を発表。

10月 G20アンタルヤ・サミット、「BEPSプロジェクト」の「最終報告書」を支持することで合意。

15年 イギリスは、企業がタックスヘイブンを利用して逃れた利益に25%の税金を課す制度を導入。

15年 イギリスのタックス・ジャスティス・ネットワーク、タックスヘイブン全体で21~32兆ドルの資産が隠されているとの試算を発表。その半分がメガバンクの保有であるとする。


2016年

1月1日 イギリスやドイツなどの早期適用国(56カ国)で、CRSが実施される。2016年の口座情報が2017年9月に交換されることになる。日本2018年適用国(41カ国)となる。

1月 欧州委員会、多国籍企業の租税回避に対する規制方針をまとめた「租税回避対策パッケージ」を提案。

①効果的な課税: 利益が発生した場所で税を支払う原則
②課税の透明性: 課税を確実にするため、加盟国が情報を共有する。具体的には多国籍企業に関する「国別報告書」(CbCR)の提出を義務化。第三国にも実施を求める。
③二重課税のリスクの回避: EU域内市場を活用する企業が二重課税を受けないように保護。

1月22日 イギリス税務当局、米グーグルとの合意に達し、210億円を追加課税した。グーグルはイギリス国内で170億ポンドも稼ぎながら、バミューダ諸島などに利益を移して5200万ポンドしか納税していなかった。

7月12日 EU理事会、「租税回避対策パッケージ」の核となる「租税回避対策指令」(Anti-Tax Avoidance Directive)を採択。利子損金算入制限、出国課税、一般的租税回避防止、外国子会社合算税制、ハイブリッド・ミスマッチの5つの規定で構成される。

8月 欧州委員会、アップルのアイルランドでの事業に対しEUの定める国家補助(state aid)法違反だと認定。アイルランド政府に対し130億ユーロの追徴税を命じる。

アップルはEU諸国での売り上げすべてを、アイルランドのペーパーカンパニーで申告している。アイルランドの法人税率は12.5%と圧倒的に低く、納税回避目的であることは明白とする。

8月 米財務省、欧州委員会が「超国家税当局」になっていると批判。アップルへの追徴金に対し「深い懸念」を示す。

9月 G20首脳会議(杭州)において、BEPSプロジェクトとCRSの進捗状況が報告される。85の国や地域が、BEPSパッケージの実施に賛同。CRS参加国の追加税収は550億ユーロに達する見込み。100の国・地域が「税務上の自動的情報交換」(AEOI)への参加を表明。

9月 オーストリアのケルン首相が「スタバなどの多国籍企業の納税額は屋台より少ない」と批判

9月 デンマーク、パナマ文書の一部を購入。税逃れをした、数百人のデンマーク人についての脱税調査を行うとする。

16年 イタリア政府はアップルがアイルランドに利益を移して不当に法人税を逃れたとして、3億1800万ユーロ(約398億円)の追加課税をした。

2017年



北海道AALA大会

情勢報告 「当面する闘いと国際連帯の課題」


はじめに

第一次議案の討議の中でいろいろ意見が出たので、表現上の修正と若干の補足をした。今回の議案の特徴は題名の通り「当面する闘いと国際連帯の課題」であり、国内課題と連帯課題の関連に焦点を当てたところにある。

これまでは中東・中南米など、ときどきの話題に焦点を当てて情報を提供してきたが、今回はまず私たち自身の闘いを振り返り、それがどのような国際的意義を持つのかを考えてみた。そしてそれとの関連で世界の人々の闘いをとらえ直してみた。そのなかで闘いの目標の共通性、今日的な「連帯」の必要性を検討してみた。

いわば「足元からの連帯」を主要な柱とした課題提起型・行動提起型の文章となっている。これが「情勢討議」の環である。議論のなかで飜えってAALA連帯委員会の固有の役割が浮き彫りになればいいなと思っている。それが「連帯運動ルネッサンス」の土台になっていくのではないかと期待している。


1.反戦・平和構築のための闘争(核廃絶の課題をふくむ)

A) 平和国家から戦争国家への変貌を許さない

この間、日本では「一人も殺さない、殺されない」という平和国家の理念を守る闘争が大きな盛り上がりを見せた。戦後の70年間、日本国民は平和憲法を守り抜き、非戦を貫いてきた。それは「国際社会において名誉ある地位」(憲法前文)を守るという国際的な意味を持つ闘いでもあった。

戦争国家づくりを阻止するためには、憲法9条を守る、戦争法を廃棄するという闘いに加えて、戦争予算の拡大を許さない、武器輸出を許さない、軍学共同を許さないなど具体的な分野の取り組みも必要だ。これらについて世界の現状を学び広げることも大事な課題だ。

B) 平和地帯、「新しい北東アジア」の構想を推進する

日本AALAでは「北東アジア平和協力構想」への賛同署名を行い、大きな成果を上げた。

この「平和構想」は対話の中で諸問題(北朝鮮、尖閣・南沙諸島など)を解決していこうという姿勢であり、ASEAN(東南アジア諸国連合)とCELAC(中南米・カリブ共同体)の経験に学んだものである。またそれは「平和5原則」(1954年)や「バンドン平和10原則」(1955年)など、国際政治の重要な民主的原則を踏まえたものでもある。

引き続き署名活動を推進するとともに、「新しい北東アジア」の構想をさまざまな方法で広げていくことが大事な課題だ。

16年7月、常設仲裁裁判所は、南シナ海問題での中国の主張を、国際法上「根拠がない」と退け、紛争の平和的解決を促す裁定を下した。この裁定を受け、9月のASEAN首脳会談は「法的および外交プロセスの全面尊重」による平和的解決を確認した。これは尖閣問題を考える上でも貴重な教訓である。「法の支配」を貫くためにも裁定の意義を広げていく必要がある。

16年10月、CELACは平和のイニシアチブを発揮し、コロンビア内戦を終わらせた。15年7月に米国とキューバが国交を回復したが、CELACは一貫してキューバ封鎖政策を批判し、国交回復を支援してきた。これらを通じて、ラテンアメリカは「アメリカの裏庭」から脱却しつつある。日米同盟のもとに従属させられている日本が学ぶべき点は多い。

いま、中南米諸国は国際不況のもとで経済不安が広がっており、親米政策への回帰の動きも見られるが、それは決して長続きするものではない。

C) 核禁条約の締結交渉の開始をうながした連帯

16年12月、国連総会で「核兵器禁止条約の締結交渉を開始する決議」が採択された。核兵器禁止条約が締結されれば、核兵器は「違法化」されることになる。世界は新しい段階に入る。核保有国は、法的拘束は受けなくても政治的・道義的拘束を受けることになる。

決議の採択に至ったのは、一つは、圧倒的多数の途上国、先進国の一部を含めた諸政府の共同であり、いま一つは、「核兵器のない世界」を求める世界の反核平和運動…市民社会の運動である。

核廃絶運動こそは国際連帯活動の典型である。世界を動かす二つの流れが連帯したことで決議が成立した、という事実を深く噛みしめる必要がある。

D) 「平和の秩序」を取り戻すための4つの緊急課題

9.11事件とリーマンショックを引き金に、世界の平和の秩序が脅かされている。平和と安定を実現するために、以下の4点が緊急にもとめられている。この方向で国内外の人々と対話を開始し、進める必要がある。

1.国際テロ根絶: このために、①国際的な機構、国際法などを用いて“法による裁き”をくだすことを基本にすえる。②貧困、無知、格差などテロが生まれる根源を除去する。③異なる諸文明間の対話と共存
2.貧困の削減: 「2030年までに極貧や飢餓を根絶」する(15年国連首脳会議)ために、途上国への支援を強める。
3.難民支援: 世界の難民・国内避難民は6530万人に達している。日本をふくむ先進国は積極的にこれを受け入れるべきだ。
4.人道的危機への対応: 国連PKOは変質している。武力を用いる「住民保護」ではなく、非軍事の人道支援を主任務とするべきだ。

より根本的には、国際的な富裕層の横暴を抑え、大小の覇権主義の芽を摘み取り、極右・反動勢力の台頭と闘い、人々の人権を擁護することがもとめられていることは言うまでもない。

2.反格差・反貧困・経済民主主義を目指す闘争

A) 格差問題は世界で深刻化している

格差の問題は、世界的には80年代はじめからの新自由主義的な経済政策(ネオリベラリズム)がもたらした現象である。日本では97年の消費税・金融危機以降顕在化し現在に至っている。

「格差問題」は、富裕層への富の集中、中間層の疲弊、貧困層の拡大という3つの状況の複合である。さらに「板子一枚下は地獄」という不安感が社会的緊張(ゆとりのなさ)を招いている。

これは社会と経済の持続可能な発展にとって重大な障害となっており、AALAとしてもこの問題に国際的視点から取り組むことが必要である。

B) 欧米の社会変革の動きとの響き合い

今日、欧米では深刻な経済危機のもとで、移民排斥を主張する右翼排外主義の潮流の台頭という事態も起こっている。イギリスのEU離脱は「EUの崩壊」として大々的に報道された。しかし、あまり報道されないが、格差と貧困の拡大に反対する幅広い市民運動もそれ以上の勢いで発展していることを見逃してはならない。

最近の動きを見てみよう。

米国では、バーニー・サンダース上院議員が、大統領選挙の民主党予備選で大健闘した。サンダースは「人口の1%の最富裕層のための政治ではなく、99%のための政治」を主張し、青年層の大きな支持を集めた。このスローガンは5年前に「ウォール街占拠運動」を展開した若者たちの主張と同じものである。

米国におけるもう一つの重要な前進は、最低賃金引き上げを求める闘いである。サービス産業を主体とする不安定就業者は日本と同じように過酷な労働に追い込まれてきた。国民の多くに支持されたこの闘いで、昨年、ニューヨーク州とカリフォルニア州では「時給15ドル」が実現した。

2015年のギリシャ、ポルトガル、スペインの総選挙では、「反緊縮」をかかげる市民運動・政党が相次いで勝利・躍進し、ギリシャとポルトガルでは新政権樹立につながった。

イギリスでは2015年9月、労働党の党首選挙が行われ、長年「戦争阻止連合」の全国議長を務めたベテラン闘士ジェレミー・コービンが党首に選出された。躍進の基盤は米国のサンダース旋風と共通しており、緊縮政策、失業、格差と貧困の拡大などへの抗議の声が結集されたもの。青年層が積極的に政治参加しコービン勝利の立役者となった。

これらは、いま日本で発展しつつある野党と市民の共闘と響きあうものとなっている。欧米の経験を学び我々の力としていくことがもとめられている。

C) 格差問題是正のために何をなすべきか

深刻な格差をもたらした新自由主義政策は、日本では「構造改革」として進められた。したがって「構造改革」の根本的な見直しが必要であるが、当面必要な施策は以下のようにまとめられるだろう。

1.税制改革: 税制を改革し、所得再配分をすすめる。「能力に応じて負担する、公正・公平な税制」の原則。①間接税から直接税へのシフト、②大企業優遇税制の抑制、③租税回避を許さない、④世界的な「法人税引き下げ競争」の見直し。
2.財政改革: 積極的な公的社会支出(社会保障、教育・研究、子育て)で格差と貧困を是正する。
3.働き方改革: ①労働規制の強化、②非正規から正規へ、「均等待遇」「同一労働同一賃金」の原則を打ち立てる。③大幅賃上げと最賃引き上げなどによりワーキングプアをなくす。

これらの方向は世界の人々とも共通するものであろう。「強固な分厚い中間層」を擁する「格差なき社会」に向けて何が求められるのか、お互い知恵を出し合う対話を進めることが必要だ。

D) 貿易と投資のルール作り

ネオリベラリズムがおしつけたルールではなく、民主的な相互促進的な貿易と投資のルールを作り上げていくことは、

いま問われているのは、「自由貿易か、保護主義か」ではない。

「自由貿易」の名で、多国籍企業の利潤を最大化するためのルールをつくるのか、人々の暮らしを向上させる相互促進的な貿易と投資のルールをつくるのか、という二つの道の選択である。

TPPが破産したいま、それに代わる包括的な貿易と投資のルールを打ち立てることは、これまでにまして重要な課題となっている。とくに途上国との経済関係を考える上での原則を共有する努力がもとめられるであろう。

なお貿易・投資問題で国際的協力を深めるためには、先進国・途上国の双方ともにILO(国際労働機構)を一層重視する必要があることを付け加えておきたい。

3.原発ゼロの世界を日本から

フクシマは日本の体験であるが、世界の体験でもある。

2年近い「稼働原発ゼロ」の体験を通じて、日本社会は原発なしでもやっていけることが国民的認識となった。 この体験はおおいに世界に向かって普及する必要がある。

処理方法のない「核のゴミ」という点からも、原発再稼働路線の行き詰まりは明瞭である。さらに、原発というのは「自主・民主・公開」の原子力三原則どころか、本質的に何重もの軍事機密に守られた暗闇の軍事技術であることを踏まえておく必要がある(東芝事件)。

4.沖縄基地問題は世界の反基地闘争の焦点

今沖縄でやられていることは、沖縄海兵隊基地を世界への「殴り込み」の一大拠点として抜本的に強化・固定化することである。さらに本土でも出撃基地化が進んでいる。

日本は世界最強の「米軍基地国家」となりつつある。これは日本よりも世界にとっての問題である。

反基地闘争はアメリカの軍事支配との闘争の中でも特殊な鋭さを持つ闘いである。一般的には米軍の軍事基地は縮小再編の傾向にある。その中で沖縄だけが突出している意味を見つめていく必要がある。

さらに選挙で明白に示された民意の無視、度重なる制度的手続きの蹂躙という点で、一国の立憲制度に対する最大の脅威ともなっている。

これらの脅威を世界の人々と共有していく必要がある。これは日本AALAの固有の任務であろう。 

5.立憲主義と民主主義を守る闘争(人権尊重の闘い)

A) 立憲主義(法治思想)への攻撃

今日の世界において一つの著しい傾向がある。それはトランプのツィッター政治に示されているように、立憲主義の思想と基本的人権の原則に対する甚だしい侵害である。

日本における憲法改正の動きはまず何よりも「戦争をする国」作りを目標としているが、同時に「緊急事態条項」など立憲主義の無視をもふくんでいる。

それは憲法を改正するだけではなく、「憲法を憲法でなくしてしまう」攻撃となっている。立憲主義と法治思想を擁護する声を世界中で上げなければならない。

B) 憲法で規定された人権

近代国家の憲法ではさまざまな人権が保証されている。さらにそれは「世界人権宣言」としても定式化されている。

基本的人権の柱は、①個人の尊厳とその尊重、②思想及び良心・表現・学問の自由などの自由権、③法の下の平等・両性の平等などの平等権、④生活・教育・勤労などの社会的生存権、④「人身の自由」と公正な手続き、などから構成される。

なおこれらはの人権枠組みは、国際的な議論を通じてさらに豊かなものとする努力が必要であろう。

また人類共通の普遍的権利を掘り崩そうとする動きは、諸国民が一致して阻止しなければならない。

6.ファシズム・反動思想との闘い

A) 反動思想の諸形態との闘い

反動思想は往々にして「復古思想」として登場する。それは必ず「排外思想」を伴う。安倍首相の「美しい日本」も、トランプがメインスローガンに掲げた"Make America Great Again"も同様である。

安倍政権の「戦争する国」への暴走は、過去の侵略戦争を肯定・美化する歴史逆行の政治と一体のものである。

それは近隣諸国との関係を著しく悪化させる一方、日本の右翼勢力や排外主義勢力を勢いづかせている。

B) 政治にもとめられるもの

これらの流れを断つためには、政治が断固たる立場に立つことが必要である。さらに司法が法的枠組みを厳正に守る必要がある。決定的に重要なのは国民が声を上げ、その力で彼らを孤立に追い込むことである。

同時に「歴史の偽造」に対し徹底的な批判をくわえ、歴史の真実を明らかにする努力がもとめられる。

そのために諸国の進歩勢力とも共同し、歴史の真相を掘り起こし、事実をつき合わせるなどの作業が必要となっている。

7.リベラル・ウィングの形成をめぐる試み

A) 市民と野党の共闘が始まった

アメリカのサンダース現象など、世界の各国で無党派市民の立ち上がりが見られる。

これは一面ではかつて統一戦線を形成した労働組合・社会党・共産党という「既存組織」の衰退の結果であるが、一面では第二次大戦後に世界各国に形成されてきた分厚いリベラル無党派層の活性化でもある。

日本では新しい市民運動による「市民革命」的な動きが沸き起こり、それに背中を押されて国会内外で野党間の共闘が発展し、さらに選挙共闘にまで進んだ。

これを従来型の「統一戦線」という呼称で呼ぶべきかは、検討の余地がある。ここでは「リベラル・ウィングの形成」と呼んでおく。

B) リベラル・ウィング形成のための課題

「リベラル・ウィングの形成」のためには、3つの基本姿勢がもとめられる。

① 「本気の共闘」: 互いに違いを認め合い、互いを信頼し、敬意をもち、心一つにたたかうことの重要性。それは「リスペクト」という言葉に示される。

② 各組織の独自活動の強化: 共闘の一致点をともにしつつも、それ以外ではおおいに独自性を発揮すること、「金太郎アメ」にならないことが、共闘を尻すぼみにさせない保障だ。

③ それぞれの組織が、組織内外の緊張関係を忌避することなく、不断に自己改革をすすめ、唯我独尊になることなく成長していく課題が欠かせない。

これらは日本での「共闘」実践から導き出された教訓であるが、各国でのリベラル・ウィングの形成は、エスニックな要素や宗教的要素などはるかに複雑であり、そこにはさまざまな道筋がある。旧来型「統一戦線」の枠組みにとらわれることなく、事実に即して検討を加え、共通のものを汲み出していかなければならない。

1.反戦・平和構築のための闘争(核廃絶の課題をふくむ)

A) 平和国家から戦争国家への変貌を許さない

日本では「一人も殺さない、殺されない」という平和国家の理念を守る闘争が大きな盛り上がりを見せた。それは「国際社会の中で名誉ある地位」を守るという国際的な意味を持つ闘いでもあった。

戦争国家づくりを阻止するためには、戦争予算の拡大を許さない、武器輸出を許さない、軍学共同を許さないなど具体的な個別の取り組みも必要だ。

B) 平和地帯の構想を推進する

日本AALAでは「北東アジア平和協力構想」への賛同署名を行い、大きな成果を上げた。

これは対話の中で諸問題(北朝鮮、尖閣・南沙諸島など)を解決していこうという姿勢であり、ASEAN(東南アジア諸国連合)とCELAC(中南米・カリブ共同体)の経験に学んだものである。

またそれは「平和5原則」(1954年)や「バンドン平和10原則」(1955年)など、国際政治の重要な民主的原則を踏まえたものでもある。

16年7月、常設仲裁裁判所は、南シナ海問題での中国の主張を、国際法上「根拠がない」と退け、紛争の平和的解決を促す裁定を下した。

この裁定を受け、9月のASEAN首脳会談は「法的および外交プロセスの全面尊重」による平和的解決を確認した。

16年10月、CELACは平和のイニシアチブを発揮し、コロンビア内戦を終わらせた。15年7月に米国とキューバが国交を回復したが、CELACは一貫してキューバ封鎖政策を批判し、国交回復を支援してきた。

C) 核禁条約の締結交渉の開始をうながした連帯

16年12月、国連総会で「核兵器禁止条約の締結交渉を開始する決議」が採択された。核兵器禁止条約が締結されれば、核兵器は「違法化」されることになる。

世界は新しい段階に入る。核保有国は、法的拘束は受けなくても政治的・道義的拘束を受けることになる。

決議の採択に至ったのは、一つは、圧倒的多数の途上国、先進国の一部を含めた諸政府の共同であり、いま一つは、「核兵器のない世界」を求める世界の反核平和運動…市民社会の運動である。

この二つが連帯したことで決議が成立したという事実を深く噛みしめる必要がある。

D) 世界平和実現へ向けた努力

党大会は4項目の提案を行っている。なお共産党の提案には5項目目として環境問題がふくまれているが、これは別項で扱うことにする。この提案の方向で世界の人々と対話を進める。

1.国際テロ根絶: このために、①国際的な機構、国際法などを用いて“法による裁き”をくだすことを基本にすえる。②貧困、無知、格差などテロが生まれる根源を除去する。③異なる諸文明間の対話と共存
2.貧困の削減: 「2030年までに極貧や飢餓を根絶」する(15年国連首脳会議)ために、途上国への支援を強める。
3.難民支援: 世界の難民・国内避難民は6530万人に達している。日本をふくむ先進国は積極的にこれを受け入れるべきだ。
4.人道的危機への対応: 国連PKOは変質している。武力を用いる「住民保護」ではなく、非軍事の人道支援を主任務とするべきだ。

2.反格差・反貧困・経済民主主義を目指す闘争

この節は相当幅広い課題をあつかうため、多くの項に分かれている。第(1)節はアベノミクスの総括なので省略する。

A) 格差問題の深刻化した背景

格差の問題は、90年代後半以降(世界的には80年代はじめから)の新自由主義的な経済政策がもたらした現象である。

それは、富裕層への富の集中、中間層の疲弊、貧困層の拡大という3つの状況の複合である。さらに「板子一枚下は地獄」という状況が社会不安を招いている。

社会と経済の持続可能な発展にとって、この問題に真正面から取り組むことが必要である。

B) 欧米の社会変革の動きとの響き合い

今日、欧米では深刻な経済危機のもとで、移民排斥を主張する右翼排外主義の潮流の台頭という事態も起こっている。

同時に、格差と貧困の拡大に反対する幅広い市民運動が発展している。

2015年のギリシャ、ポルトガル、スペインの総選挙では、緊縮政策の転換を求める市民運動と連携した政党が相次いで勝利・躍進し、ギリシャとポルトガルでは新政権樹立につながった。

イギリスでは2015年9月、労働党の党首選挙で、「戦争阻止連合」のジェレミー・コービン全国議長が党首に選出された。緊縮政策、失業、格差と貧困の拡大などに抗議する青年層がコービン勝利の立役者となった。

米国では、「人口の1%の最富裕層のための政治ではなく、99%のための政治」を主張するバーニー・サンダース上院議員が、大統領選挙の民主党予備選で、青年層の大きな支持を集め、大健闘した。

いま一つは「時給15ドル」への最低賃金引き上げを求める運動である。昨年、ニューヨーク州とカリフォルニア州で「時給15ドル」が実現するなど大きな成果を勝ち取った。

これらは、いま日本で発展しつつある野党と市民の共闘と響きあうものとなっている。

C) 格差問題是正のために

共産党は3つの課題を提起している。この提案の方向で世界の人々と対話を進める。なお共産党の提案には4つ目の課題として産業構造の改革が含まれるが、日本の特殊事情がふくまれるため省略する。

1.税制改革: 税制を改革し、所得再配分をすすめる。「能力に応じて負担する、公正・公平な税制」の原則。①間接税から直接税へのシフト、②大企業優遇税制の抑制、③租税回避を許さない、④世界的な「法人税引き下げ競争」の見直し。
2.財政改革: 積極的な公的社会支出(社会保障、教育・研究、子育て)で格差と貧困を是正する。
3.働き方改革: ①労働規制の強化、②非正規から正規へ、「均等待遇」「同一労働同一賃金」の原則を打ち立てる。③大幅賃上げと最賃引き上げなどによりワーキングプアをなくす。

D) 貿易と投資のルール作り

ネオリベラリズムによるルール作りではなく、民主的な相互促進的な貿易と投資のルールを作り上げていくことは、重要な課題である。

今回の大会決議では以下のように記載されている。

いま問われているのは、「自由貿易か、保護主義か」ではない。「自由貿易」の名で、多国籍企業の利潤を最大化するためのルールをつくるのか、各国国民の暮らし、経済主権を互いに尊重する公正・平等な貿易と投資のルールをつくるのかである。

しかし残念ながら具体的内容には触れられておらず、宿題として残されている。

なお貿易・投資問題で国際的協力を深めるためには、ILO(国際労働機構)を一層重視する必要があることを付け加えておきたい。

3.原発ゼロの世界を(地球環境課題もふくむ

以下は日本の体験であるが、世界の体験でもある。

2年近い「稼働原発ゼロ」の体験を通じて、日本社会は原発なしでもやっていけることが国民的認識となった。

処理方法のない「核のゴミ」という点からも、原発再稼働路線の行き詰まりは明瞭である。

この体験はおおいに世界に向かって普及する必要がある。

一方、再生可能エネルギーの普及は国民の生命と安全を守り、エネルギー自給率を向上させ、経済の発展にとっても大きな効果がある。

このへんは、なかなか実証が難しい。リアルな数字に基づく検証と相互の交流が必要である。

大会決議には触れられていないが、原発というのは本質的に何重もの軍事機密に守られた軍事技術であることを踏まえておく必要がある。

4.沖縄基地問題は世界の反基地闘争の焦点

今沖縄でやられていることは、沖縄海兵隊基地を世界への「殴り込み」の一大拠点として抜本的に強化・固定化することである。さらに本土でも出撃基地化が進んでいる。

日本は世界最強の「基地国家」となりつつある。これは日本よりも世界にとっての問題である。

反基地闘争はアメリカの軍事支配との闘争の中でも特殊な鋭さを持つ闘いである。一般的には米軍の軍事基地は縮小再編の傾向にある。その中で沖縄だけが突出している意味を見つめていく必要がある。

さらに選挙を通じた民意の無視、度重なる制度的手続きの蹂躙という点で、一国の立憲制度に対する最大の脅威ともなっている。

これらの脅威を世界の人々と共有していく必要がある。これは日本AALAの固有の任務であろう。 

5.立憲主義と民主主義を守る闘争(人権尊重の闘い)

A) 立憲主義(法治思想)への攻撃

今日の世界において一つの著しい傾向がある。それは立憲主義の思想と基本的人権の原則に対する攻撃である。

日本における憲法改正の動きはまず何よりも「戦争をする国」作りを目標としているが、同時に「緊急事態条項」など立憲主義の無視をもふくんでいる。

それは憲法を改正するだけではなく、「憲法を憲法でなくしてしまう」攻撃となっている。

B) 憲法で規定された人権

近代国家の憲法ではさまざまな人権が保証されている。さらにそれは「世界人権宣言」としても定式化されている。

基本的人権の柱は、①個人の尊厳とその尊重、②思想及び良心・表現・学問の自由などの自由権、③法の下の平等・両性の平等などの平等権、④生活・教育・勤労などの社会的生存権、④「人身の自由」と公正な手続き、などから構成される。

なおこれらはの人権枠組みは、国際的な議論を通じてさらに豊かなものとする努力が必要であろう。

また人類共通の普遍的権利を掘り崩そうとする動きは、諸国民が一致して阻止しなければならない。

6.ファシズム・反動思想との闘い

A) 反動思想の諸形態との闘い

反動思想は往々にして「復古思想」として登場する。それは必ず「排外思想」を伴う。安倍首相の「美しい日本」も、トランプがメインスローガンに掲げた"Make America Great Again"も同様である。

安倍政権の「戦争する国」への暴走は、過去の侵略戦争を肯定・美化する歴史逆行の政治と一体のものである。

それは近隣諸国との関係を著しく悪化させる一方、日本の右翼勢力や排外主義勢力を勢いづかせている。

B) 政治にもとめられるもの

これらの流れを断つためには、政治が断固たる立場に立つことが必要である。また国民の力で彼らを孤立に追い込むことが必要である。

同時に「歴史の偽造」に対し、徹底的な批判をくわえ、歴史の真実を明らかにする努力がもとめられる。

そのために諸国の進歩勢力とも共同し、歴史の真相を掘り起こし、事実をつき合わせるなどの作業が必要となっている。

7.リベラル・ウィングの形成をめぐる試み

A) 市民と野党の共闘が始まった

アメリカのサンダース現象など、世界の各国で無党派市民の立ち上がりが見られる。

これは一面ではかつて統一戦線を形成した労働組合・社会党・共産党という「既存組織」の衰退の結果であるが、一面では第二次大戦後に世界各国に形成されてきた分厚いリベラル無党派層の活性化でもある。

日本では新しい市民運動による「市民革命」的な動きが沸き起こり、それに背中を押されて、国会内外で野党間の共闘が発展し、さらに選挙共闘にまで進んだ。

これを従来型の「統一戦線」という呼称で呼ぶべきかは、検討の余地がある。ここでは「リベラル・ウィングの形成」と呼んでおく。

B) リベラル・ウィング形成のための課題

「リベラル・ウィングの形成」のためには、3つの基本姿勢がもとめられる。

① 「本気の共闘」: 互いに違いを認め合い、互いを信頼し、敬意をもち、心一つにたたかうことの重要性。それは「リスペクト」という言葉に示される。

② 各組織の独自活動の強化: 共闘の一致点をともにしつつも、それ以外ではおおいに独自性を発揮すること、「金太郎アメ」にならないことが、共闘を尻すぼみにさせない保障だ。

③ それぞれの組織が、組織内外の緊張関係を忌避することなく、不断に自己改革をすすめ、唯我独尊になることなく成長していく課題が欠かせない。

これらは日本での「共闘」実践から導き出された教訓であるが、各国でのリベラル・ウィングの形成にはさまざまな道筋がある。これらの道筋からは異なった教訓が得られるかもしれない。


今宮謙二さんが赤旗経済面に「経済の劣化示す消費低迷」という短評を書いている。
中身は中身として面白いのだが、この中で下記のような一節が心に残った。
基本は資本主義の行き詰まりです。
第一に、大企業や富裕層が自らに有利な流れを作っています。
第二に、その結果として格差が拡大し、国民の間に不安が広がっています。
第三に、その中でトランプ政権のようなむき出しのナショナリズムが広がっています。
第四に、平和と民主主義の危機に対する市民の運動が広がっています。
これらが世界的な新しい局面です。
たしかにこの4つの流れに分けて考えると、物事が整理されてくるような気がする。
その際に、対立軸が第一の流れと第四の流れとの対抗としてあることも、おさえておくべきだろう。同時にほかの3つの流れは嫌でも目に入ってくるが、第四の流れは調べて掘り起こしていかないと分からない。
この構図を踏まえながら、第四の流れ「平和と民主主義の危機に対する市民の運動」を少し肉付けしてみたいと思う。
その際、共産党の大会決定から国内の闘争の到達状況をピックアップしながら、それらの闘争は世界でどう闘われているかを探ってみたい。読者の共感をより得られるのではないかと考えている。

日本における諸闘争の到達状況

第27回共産党大会の決議では、第3章に諸課題での闘争の状況と課題が展開されている。(13)から(21)までの9節に分けられ記述されている。

(13) 安倍政権の危険と、それを打ち破る可能性

(14) 「戦争する国」づくりを許さない――日本共産党の平和の提案

(15) 格差と貧困をただす経済民主主義の改革を

(16) 原発再稼働を許さず、「原発ゼロの日本」を

(17) 沖縄をはじめとする米軍基地問題――全国の連帯を訴える

(18) 憲法改悪を許さず、憲法を生かした新しい日本を

(19) 侵略戦争を肯定・美化する歴史逆行、排外主義を許さない

(20) 日米安保条約、自衛隊――日本共産党の立場

(21) 統一戦線の画期的発展と今後の展望について

この内、(13)節は序論部分、(20)節は理論課題となるため、以下のように番号付けしておく。

1.反戦・平和構築のための闘争(核廃絶の課題をふくむ)

2.反貧困・生活防衛と経済民主主義を目指す闘争

3.反原発の闘争(地球環境課題もふくむ)

4.反基地の闘争(アメリカの軍事支配との闘争)

5.立憲主義と民主主義を守る闘争(人権尊重の闘い)

6.反ファシズム・反動思想との闘い

7.リベラル・ウィングの形成をめぐる試み

これらの闘いは現在進行形で、世界の様々な場所で闘われており、それらを知ることが国際連帯運動の第一歩につながるであろう。

ワタシが以前書いた記事で

がだいぶ読まれているようだ。
実は大した記事ではない。誰かのレポートをまとめただけのものだ。ただこの記事以外にも10本くらい記事を書いているので、書いた順にまとめて読んでいただけるとありがたい。最初の方とあとの方では認識レベルが違っているので、あとの記事のほうが正確だ。
言いたいのはFATCAとかCRSの具体的内容なのではなく、租税回避(BEPS)が諸国家の破壊行為であり、このまま進めば世界が崩壊しかねない危険な動きなのだということの認識だ。
そしてそれと対決していく決定的な方途としてはFATCAとかCRSの方向しかないということだ。FATCAは結局は米国本位のシステムであり、場合によっては悪用される危険すらある。しかしFATCAがCRSを産んだということは押さえておかなければならない。
一方でそのような経過も踏まえ、他方で依然として死んだわけではない「金融取引税」(トービン税)も踏まえつつ、グローバル社会の生き残りを目指すこの動きを重視していかなければならないと思う。
しかるに、日本国内では(少なくともネット社会レベルでは)、この動きを世界経済の重要な動きとして捉えようという動きはほとんど見られない。
英語でFATCAとかCRSを取り扱う文献が山ほど出現していることと考え合わせると、日本におけるこの無関心ぶりには唖然とする。
私ごとき素人が偉そうなことを言える立場にはないことは重々承知しているが、グーグル検索で私の書いた記事が上位に登場するような事態はできるだけ早く解消していただきたいものである。

世界の富豪たち

いつも、行き倒れとか介護疲れとか減免とかしけた話ばかりなので、今回は景気良くドーンとお金持ちの話をしましょう。

最初は金持ちが信長とか秀吉のように見えて、他人ごとながら楽しいのですが、そのうち腹が立ってきます。最後にはこんな世の中変えなきゃいけないと思うようになり、どうしたら金持ちをやっつけられるかと考えるようになってくれればと思います。

Ⅰ.世界の富豪たち

最初にフォーブス誌の今年のランキング。このランキングは個人の資産に加え、公的投資や民間企業への投資、不動産、ヨット、美術品、現金や負債も考慮に入れている。


第1位 ビル・ゲイツ(60)
資産額:750億ドル(8兆5680億円)マイクロソフト/米国

 

第2位 アマンシオ・オルテガ(79)
資産額:670億ドル(7兆6541億円)ZARA/スペイン

 
null
第3位 ウォーレン・バフェット(85)
資産額:608億ドル(6兆9458億円)バークシャー・ハサウェイ/米国




第4位 カルロス・スリム・ヘル(76)
資産額:500億ドル(5兆7120億円)アメリカ・モービル(通信事業)/メキシコ

第5位 ジェフ・ベゾス(52)
452億ドル(5兆1636億円)アマゾン/米国

第6位 マーク・ザッカーバーグ(31)
446億ドル(5兆951億円)フェイスブック/米国

第7位 ラリー・エリソン(71)
436億ドル(4兆9808億円)オラクル/米国

第8位 マイケル・ブルームバーグ(74)
400億ドル(4兆5696億円)ブルームバーグ/米国

第9位 チャールズ・コック(80)
396億ドル(4兆5239億円)Koch Industries(複合企業)/米国

第9位 デイビット・コック(75)
396億ドル(4兆5239億円)Koch Industries(複合企業)/米国

ご同慶の至り、と、とりあえずは言っておこう。

Ⅱ.日本の富豪たち

順位名前(漢字)関連資産(億円)
1柳井正ファーストリテイリング(ユニクロ)17,930
2孫正義ソフトバンク16,390
3佐治信忠(一族)サントリー12,870
4滝崎武光キーエンス9,130
5三木谷浩史楽天6,270
6森章森トラスト5,280
7高原慶一朗ユニ・チャーム4,620
8毒島邦雄・秀行三共(SANKYO)4,510
9韓昌祐マルハン4,400
10伊藤雅俊セブン&アイ・ホールディングス4,290

Ⅲ.どれだけ増やしているか

と、ここまでは個人資産なので「ああそうですか」ということにしかならない。羨ましいとは思っても憎たらしいとは思わない。

しかし毎年の収入を見ていくとそうは行かない。オックスファム

このグラフを見ると、なんだかんだと言いつつも2010年まではウィン・ウィンの関係でみんな豊かになっている。それがこの5年間というもの、貧乏人の財産は大幅に目減りする一方、超お金持ちの財産は増え続けている。

つまり62人の連中は貧乏人を食い物にして肥え太っているわけだ。

Ⅳ.日本のお金持ちも同じだ

これは政府御用達、NHKの報道によるものだから間違いない。
資産の増加

アベノミクスの始まる前、2012年の8兆円に対し、15年に14兆円で差し引き6兆円増えたことになる。3年で6兆、毎年平均して2兆円が懐が膨らんだ計算だ。
これは財産(残高)であって収入ではない。収入だと、これに使った分(どのくらい使うんだろう?)がさらに上乗せされる。
これは企業の内部留保じゃありませんよ。まったくの個人資産なんです。 この守銭奴連中から14兆円全額巻き上げたって、日本経済にはなんの影響もないんです。ほっときゃまた溜まってくるんです。

ちなみに2014年に消費税が3%アップされた。これにより消費税収入は5兆円上がった。そして15年度にはさらに2兆円増えた。

合わせて12兆円。その半分が40人の超富裕層のポッポに入ったことになる。
消費税
 

むろん、財務省が耳を揃えて差し出したわけではないが、日本経済全体としてはそういうことになる。日本経済にはそういう「吸い込み構造」があるのだ、というしかない。

あとに残されたのは消費税不況と、デフレと、国民生活の悪化しかない。

財務省の責任ではない、と言われればそれまでだが、それでは国民のお財布のことは誰が考え誰が実行するのであろうか。

民主党の財政幹部で消費税の旗振りをした藤井裕久氏はこう言っていた。

消費税を広く浅く積み上げて、これを社会的弱者のために用いる。そうすれば内需は喚起され、結果として財政再建を成し遂げながら、所得の再配分を実現できることになる。

しかし、社会的弱者のためにそれが用いられることはなかった。藤井氏はそれを非難するが、率直に言ってその保証は何ら取り付けられていなかった。

アベノミクスは逆に経済を金融面から揺り動かすことで景気を回復し、もって弱者に滴り落ちる分配を増やし、内需を拡大しようとした。しかしそれも「吸い込み構造」への対応なく、弱者への再配分の保障なく行われ、結果として膨大な国債と膨大な日銀券を残したのみという結果に陥った。

それがこのグラフに示されている中身だ。
 もご参照ください。

総会準備ご苦労さまです。

民主的に討論するのもなかなか大変なことです。情勢報告というのはどうあるべきか、考えさせられました。

私も長年北海道AALAの総会で、情勢報告を担当していたので分るのですが、これは基本的には会員への情報提供サービスなのだと割り切るほうが良いのではないかと思います。

民医連総会の国際情勢だと、基本的には赤旗の記事のカットアンドペーストです。以前は私もAALAの立場からいろいろと突っ込んだこともありますが、うんざり顔で対応されるのが落ちでした。

しかしAALAの会員はそういう情報が知りたくて加入しているわけですから、要望に沿った構成で“赤旗に載らないけれどもだいじなニュース”を発信していくのが良いのではないでしょうか。

とくに各国人民の闘いの前進をピックアップしていくことが大切だと思います。

* 保守党支配を追い詰めている韓国の運動

* 南沙問題で中国の覇権主義的姿勢を追い詰めているASEAN諸国の協同

* タイの軍部独裁反対の闘い

* ネパールの民主主義の前進

* インドのケララ州での貴重な勝利

* エジプトの民主主義再建の闘い

* イランでの民主派の前進

* 中央アジア非核地帯の前進

* ギリシャ、イタリア、スペインでの左翼勢力の前進

* カナダでのリベラル派大統領の勝利

* アメリカ大統領選挙での画期的前進

* ニカラグアでのサンディニスタの前進

* チリ左翼の前進

もちろん細かく見ればいろいろ問題はあるのでしょうが、全体としてアラブの春からオキュパイ運動、全体としてのリベラル・左翼の前進はこの間の明らかな特徴だろうと思います。

会員の皆さんが期待しているのもそういう情報ではないでしょうか。

「世界政治(資料)」がなくなってから久しくなります。マルクス・レーニン主義の看板はもはや通用しませんが、一種の情報センター的な役割がAALAに要請されているかもしれません。

そんな感じの情報をAALAが発信していけたら良いなと思います。

多分、読者の皆さんより少し前に行き過ぎたようだと思います。

FATCAについてわかりやすく言うと、「外国の銀行の口座の金にも税金をかけますよ」ということだ。

と言っても、これは米国の話。

「アメリカ人が世界中に持っている口座をすべてチェックして、アメリカの財務省が把握します」という法律がFATCA法ということになる。

こういう法律が数年前に可決されて、いろいろ準備した後、14年の7月からすでに実施されている。

これで、世界中どこにも金を隠しておくことはできなくなったわけで、実に画期的なシステムなのである。

ただしこれはアメリカ政府が強引にやったことで、日本がそうしようと思ってもできるものではない。

どこがどう強引か。

米国の法律を諸外国に勝手に適用することはできない。だからアメリカ政府は各国政府と交渉して協定を結ぶことになる。というより否応なしに結ばせるわけだ。

この手の押し付けは、これまでもスーパー301条とか、キューバ禁輸法とかいろいろやってきた。米国というのはそもそも勝手な国なのだ。

これに対して、世界には3つの対応があった。ひとつはこの法律の積極面を受け止め、双方向の情報提供システムとする方向だ。

FATCAを使えば、ドイツ政府は米国にあるドイツ人の口座を知ることができる。他の国とも同じような協定を結べば、すべての外国口座を知ることができる。

FATCAを一つの基準にして、各国がお互いに情報交換をすることで、脱税の抜け道を塞ごうという考え方だ。これはヨーロッパを中心に世界の主流となっている。

ふたつ目は日本だ。報告義務は果たすが、相互主義は要求しない。つまり米国にある日本人口座の情報は頂かなくて結構。変にもらってしまうと、かえってややこしくなるということだ。

そして三つ目が、米国政府の要求を拒否するという態度だ。パナマはこれを選択した。その結果がこの度の「パナマ文書」事件だ。ICIJに悪気があるわけではないが、米国がこれを利用していることも間違いない。

実は、こういう暴露方式はスイスやルクセンブルグでも繰り返されてきた。その結果、両国は屈服し、アメリカに従うようになっている。

これからどうなるか

まずFATCAがこれからの世界基準となることは間違いない。やり方は強引だが、中身自体は間違っていないからだ。

ヨーロッパ諸国は、いまやFATCAの世界基準化に乗り出した。それがOECD(先進国機構)の提唱するCRSだ。

この徴税方式の良い所は、取引とか外形資産への課税ではなく、あくまで所得(現ナマ)への課税であることだ。ブンブン飛び回っているところを捕まえるのではなく、ねぐらを襲うのである。

そのかわり、投機資本とか高速取引などには無力だ。また、ビジネスを行い稼いだ対象国に税が還元されるとは限らない。多国籍企業の本拠の国(すなわち米国)に優しい税金となる可能性がある。

CRSのスキームはそこをなんとかしようとしているが、アメリカはそれには反対だ。「どこの国でどう稼ごうと関係ない。自分の国の会社が稼いだ金だから、その税金は自分のものだ」というのだろう。だからCRSには入ろうとしない。

ここが、これから最大の問題になっていくだろう。日本はFATCAにさえいやいや同意しているくらいで、「世界一企業に優しい国」の面目躍如といったところ。世界標準から見れば周回遅れとなっている。

菅官房長官が「パナマ文書のことなど調べるつもりはない」といったのにはそういう背景があるのだ。

という前の記事の題名は思いつきでつけたんだけど、

どうやらとりあえず、FATCA・CRS以外の道はなさそうだ、というのが現在の感想。


そもそも税というのはなんだろうか、というところから出発しないとならんなぁと、そういう感じです。

というのを作成していて、今回のFATCA年表と、特に後半部分は完全にかぶっています。

つまり、トービン税・金融取引税は失敗して、FATCA・CRSが成功したのです。

なぜかということです。

すごく悲観的に言えば、アメリカがその気になれば話は進むし、アメリカがその気にならなければドンキホーテだということでしょうか。

現象的にはわかりやすい解釈ですが、もっと基本的な問題もあるのではないかと思います。

それは、売上に対して税金を取るのか、利益に対して税金を取るのか、それとも所得に対して税金を取るのかという選択です。

こうやって3つ並べてしまえば、それだけで結論ははっきりしています。所得に対して徴収するべきなのです。

税金というのはそもそも所得の再分配であり、自由競争とか市場経済とは別の論理だからです。これが近代税制の基本理念です。

「消費税」と我々が呼んでいるものは実は売上税です。売上税というのは古代の慣習です。ショバ代みたいなものです。これと対応するのが「関税」で、これは関所代です。これに人頭税が揃えば、三役揃い踏みです。

いずれにしてもヤクザのやり方であり、独裁政治の産物です。たしかに捕捉は簡単ですが、抜け道はたくさんあります。したがって政治的民主主義とはなじまないものです。

以前、シャウプ税制を勉強していて感銘をうけたのですが、近代民主社会においては、税金というのは民主主義を支える拠金だという考えです。

したがって、税金は社会の構成員のポケットマネーから形成されなければならないのです。

その辺りを書いたのが、2012年06月11日の記事  です。

この観点からすれば、ヨーロッパで展開されたトービン税・金融取引税は問題があり、FATCAのほうが合理性があります。

合理性の観点からだけではなく、捕捉可能性の観点から見ても、発生源方式は限界があります。なんとかサンドウィッチという租税回避スキームあたりになると、売上でやっていく徴税はほとんど不可能だろうと思います。

すべてのビジネスが終わって秘密金庫に資金が入る瞬間を狙い撃ちする他ないと思います。虫を殺そうとすれば空中を飛び回っている時ではなく蛹になって羽化を待っている時こそが狙いめです。

問題は、富が金になってどこかの金庫にしまわれた時、その金はほとんどがアメリカ人(正確に言えば米国の大企業と富裕層)の金だということです。

だからこの金をいくら摘発し徴税したとしても、それはアメリカ政府の国庫に入ってしまうことになります。ある意味ではアメリカの思う壺です。

だからこうやって挑発した税金を各国間でどのように分配するのかが次の困難な課題になるでしょう。そのときに発生源の問題も出てくることになると思います。

アメリカはFATCAの言い出しっぺでありながら、CRSには加入しようとしません。そこにはこういう問題があるのです。

いずれにしても、世界は租税回避という自滅的な道から一歩抜けだそうとしています。ここが大事なことです。

2016年04月25日

大和総研の下記のレビューがとても分かりやすい。ご一読をおすすめする。

国際租税回避への対応と 金融証券取引 - 大和総研

国際租税回避への対応と金融証券取引

~金融口座の自動的情報交換とBEPSプロジェクトを中心に~

2015/03/02 
吉井 一洋/是枝 俊悟

1章 国際課税における問題点 (国際的租税回避の観点で)

1.国外における資産秘匿と脱税ほう助

A) UBS事件

UBSはスイスに本拠を置き、世界最大規模の富裕層向けのプライベートバンキング業務を行っていた。

つまり世界有数の脱税コンサルタントである。

2000 年から07年にかけて、米国の顧客獲得キャンペーンを展開した。やり方が少々えげつない。行員が観光旅行を名目としてスイスから米国に送り込まれ、スイス口座を利用した脱税を積極的に提案していたのだ。

やがてこれが発覚し(こんなやり方がばれないわけがない)、UBSは司法取引で7億8,000 万ドルの罰金を支払う羽目になった。

クレディ・スイスでも同様の事件があり、合計で28億1,500万ドルの罰金を支払わされた。

B) スイスの銀行業務見直し

スイスは歴史的に銀行法において、銀行に対し顧客情報の守秘義務が厳しく課されている。このため、かねてよりダーティーマネーの世界最大の保管場所の一つと指摘されていた。(ゴルゴ13の世界です)

二つの事件の後、スイスは、銀行の守秘義務について見直しを行った。この結果、2009 年には銀行の守秘義務を制限し、

3月に閣議決定により見直し、租税詐欺(tax fraud)だけでなく租税回避(tax evasion)の場合でも口座情報を他国の税務当局等に提供できることとした。(しかし日本の税務当局が情報提供を依頼したという話は聞いたことがない)

2.海外事業の納税額を極小化する戦略

上記の事件は明らかに法律を犯す脱税である。しかし脱税すれすれだが違法ではない「節税」法がある。

とくにグローバル企業の海外事業においてそれが甚だしくなっている。(これについては既述のため省略)

3.ハイブリッド金融商品

近年、資本と負債の中間的な性質を持つハイブリッド金融商品の発行が増加している。ハイブリッド金融商品は、ある国の法律では「債券」、他の国の法律では「株式」と定義が分かれる可能性がある。(よく分からないので省略)

2章 クロスボーダーの金融証券取引の把握

1.米国FATCA

A) 米国FATCAの本則

FATCAそのものは外国に対して直接の法的強制力はない。

しかし、口座情報の提供を行わない外国金融機関(FFI)に対しては米国源泉所得について懲罰的源泉課税(税率30%)が課される。このためFFIはFATCAに対応せざるを得ない。

2)協定の3類型と締結国

FATCAは原則的には個別のFFIと対応するが、米国と協定(声明)を結んだ国については政府による代行が許される。国内のFFIは懲罰的課税を免れることとなっている。

協定のモデルには大きく分けて3種類がある。

Model 1協定 各国が国内法を整備し、FFIが各国税務当局を通じてIRSに間接的に米国口座情報を提供する。

Model 1協定はさらに2種類がある。

a 米国から各税務当局に対する情報提供も行うもの(互恵あり)

b 米国から各税務当局に対する情報提供は行わないもの(互恵なし)

Model 2協定 FFIは「協力米国人」(情報提供について同意した人物)の口座情報をIRSに直接提供する。非協力口座)の情報についてはその総件数・総額をIRSに提供する。

OECD加盟国(米国を除く33 カ国)のうち、29 カ国はModel 1協定を締結した。そのすべてが「互恵あり」である。Model 2協定を締結したのは日本、オーストリア、チリ、スイスの4カ国だけである。(日本がModel 2協定となったのは、銀行業界の強い圧力によるものである)

3)二つのモデルがある理由

もっとも大きな違いは、「非協力口座」の情報の扱いである。Model 1では、「非協力口座」の情報も、FFIから自国の税務当局に提供する。

この場合、個人情報の保護に反するおそれがあるので、この種の情報を提供させる根拠法を整備する必要がある。

Model 2では、米国要請があった時のみ、各国の税務当局が口座情報を入手し、IRSに提供する形をとる。

私の感想だが、これは「互恵」関係を結んだ時に大問題となる。日本人の米国口座に関する情報を、日本政府は受け取らずに済むのである。アメリカにとっては、それはどうでもいいことだから、「いいよ」といったのだろうし、日本の富裕層は胸をなでおろしたのだろう。
「知りたくないの」という歌の文句そのままである。

2.自動的情報交換

1)わが国のこれまでの取り組み

2013 年10 月に改正が発効された税務行政執行共助条約では、締結国が自動的情報交換を行う旨が明確に定められた。

2)OECDのCRS(共通報告基準)への発展

他国の口座を利用した脱税の防止のため、OECDが金融口座情報の自動的情報交換を行う共通報告基準(Common Reporting Standard:CRS)を策定した。

2014年11月までに52の国・地域がCRS導入に署名。この時点で日本および米国は未署名のまま。

(中略)

3章 OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)対応PJ

1.経緯

多国籍企業などが、合法的な法的技術を駆使し、二重非課税の状況などを作り出し、租税回避を図る例が増えてきた。

他方で、各国の財政状況の悪化と所得格差の拡大が見られる中で、各国ともより公平で適正な課税を実現する要請が高まって来た。

これを背景にOECDの租税委員会では、2012 年6月にBEPSプロジェクトを立ち上げた。

(以下、かなり専門的になるので略)

いろいろあるにしても、FATCAはすごいと思う。
初めて富裕層に網がかかった、そんな気がする。
これから見れば、「金融取引税」などちゃちなものだ。
やはりアメリカがやってもらわなければ困る。
CRSもアメリカが言い出しっぺだからこそ迫力がある。
もちろんアメリカは自分がかけた網に自分がかかってしまっては元も子もないから、いろいろ策動はしてくるだろう。これを機会にアングラマネーまで含めて自分が一括管理したいという願いもあるだろう。
しかし事態はそういう一国の願望を超えて進んでいる。
オバマは核兵器の究極的廃絶を叫んでノーベル賞をもらった。しかしそれはかなわなかった。
その代わりに、苦し紛れの法律が、意外に富裕層の急所を突いた可能性はある。
「パナマ文書」もいずれアメリカ(そして日本)の支配層に向かう突風となるだろう。
アメリカが自縄自縛に陥ってくれればこれ以上の僥倖はない。
それにしても日本のメディアの沈滞、目を覆わんばかりである。

FATCA(米国外国口座税務コンプライアンス法)とCRS(OECD自動的情報交換の共通報告基準)の経過

主として重田正美さんの「米国の外国口座税務コンプライアンス法と我が国の対応」を参考にさせていただきました。

2009年10月 Foreign Account Tax Compliance Act(外国口座税務コンプライアンス法)が成立。

2010年3月18日 「追加雇用対策法」(HIRE法)が成立。FATCAはHIRE法の一部として組み込まれる。

米国外の金融機関(FFI)が内国歳入庁(IRS)と契約(FFI 契約)を結ぶことで、当該FFI の米国人口座情報をIRS に提供することを規定

2012年2月8日 米国と欧州5か国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)が共同声明。欧州5か国の税務当局が米国人口座の個別情報を取得し、まとめて提供することとなる。

2012年6月 OECD 租税委員会、BEPSプロジェクトを立ち上げ。多国籍企業等の租税回避に対応するため、国際課税ルールの抜本的見直しを開始。

BEPS: 多国籍企業や富裕層の租税回避行為(Base Erosion and Profit Shifting )を指す。
スターバックス、グーグル、アマゾン、アップルなどの租税回避が政治問題化したのを受けたもの。

2012年11月 英・独の財務大臣が租税回避を非難する共同声明を発表。仏の財務大臣も賛同する。

2013年

2013年1月17日 米国財務省規則が公表される。「特定保険会社」もFFI の対象とされることが明らかとなる。

財務省規則: ①米国人口座を特定する。②IRSが定める手続に従い、米国当局に毎年報告する。③非協力口座保有者などへの支払に30%の源泉徴収課税を行い、その額をIRS に納付する。

2013年2月 OECD、「BEPS」問題報告書を作成。G20 財務大臣・中央銀行総裁会議(ロシア・
モスクワ)に提出。

2013年6月 「国際的な税務コンプライアンスの向上及びFATCA実施の円滑化のための米国財務省と日本当局の間の相互協力及び理解に関する声明」が発表される。

FFAとして米財務省の直接監査を受けるのは煩雑なため、米国と各国が政府間協定(IGA)を締結する動きが広がった。
IGAには自動型のⅠと要請時型のⅡがあり、日本はスイス、オーストリア、バミューダ諸島、香港とともにⅡを選択した。
全国銀行協会は、Ⅱを許してもらったことに「強く賛意を表明」し感謝している。

2013年7月 OECD 租税委員会、15 項目からなるBEPS 行動計画を採択。FATCAのモデル1をひな形として、金融口座情報等の「自動的情報交換」を多国間に拡大するもの。

2013年9月 サンクトペテルブルクでG20 サミット。BEPS 行動計画をうけ、2015 年末を目途に国内の法整備を進めることで合意。OECDによる国際基準の策定が支持される。

2013年10月1日 OECDの発議した「税務行政執行共助条約」が日本において発効。①締約国における自動的な 情報交換、②租税債権の徴収の支援(徴収共助)、③要請による文書送達(送達共助)を定める。

2014年

2014年1月 OECD租税委員会、自動的情報交換の共通報告基準(CRS)を承認。

2014年2月 OECD、「課税における自動的な情報交換に関する基準」の草案を発表。

2014 年3月6日 米国財務省とIRS、最終暫定規則を発表。50以上の修正が加えられる。

2014年5月 クレディ・スイス、「米国人顧客の脱税を意図的にほう助した」と有罪を認め、米政府などに28 億1,500万ドルの罰金を支払う。

2014年7月1日 FATCAによる規制が日本及び世界で施行される。登録金融機関は世界中で10万以上、日本の金融機関は3,624にのぼる。

日本の金融機関は、米国人対象者を特定し、同意を取得した上で、米国内国歳入庁(IRS)へ直接報告を行う
不同意口座についてはIRSが租税条約に基づく情報交換要請を日本の国税庁にする。国税庁は金融機関から情報を入手し、IRSへ提供する

2014年7月 OECD、CRSのフルバージョンとコメンタリーを公表。金融機関の非居住者口座を政府間で自動交換するためのマニュアルとされる。

この「完全版」は「金融口座の自動情報交換のための新国際基準」(Standard for the Automatic Exchange of Financial Account Information in Tax Matters)と題されている。

2014年9月 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議(ケアンズ)で、BEPS報告書第一弾公表。

2014年11月 ブリスベンのG20サミット、CRSを承認。その後97の国・地域が「税に関する自動的情報交換制度」(OECD制度)への参加を表明。日本の参加は遅れる見通し。アメリカは不参加の意向。

全国銀行協会は「OECD の枠組みは、FATCA よりもさらに負荷が大きい。実務面での配慮が必要」とコメント。

2014年12月 この時点で、欧州各国を中心に112の国・地域が米国とIGAを結ぶ。



パナマ文書問題で一番衝撃的だったのは、実は菅官房長官の「調査する意思はない」発言ではなかったろうか。
世界中の政府が真剣に考え、調査に着手するとの発言を繰り返す中で、菅官房長官の発言は国際的に見ても、いかにも奇異で唐突だった。
しかしそこをつく報道はほぼ皆無である。ネット世界の口さがない連中が罵詈雑言を浴びせてはいるが、すべて感情的なものでしかない。
しかしこれは、日本政府の首尾一貫した態度であり、それはOECDとG20の合意とはまったく逆の方向であることを見なくてはならない。
これを理解するにはFATCAと、各国の対応スキームであるIGAを知らなくてはならない。
話は長くなるので省略するが、結論としては、日本は預金者(大口の)保護を最大の眼目においており、そのためには租税回避の黙認をも厭わない態度を貫いている。情けないほどに、骨の髄から階級的だ。
「世界で最も金持ちに優しい国」が彼らのスローガンである。そしてそのために「個人情報保護法」が最大限に利用されているのである。
アメリカとの二国間交渉で、日本はFATCAに関するアメリカの要求を丸呑みにした。「アメリカ人の情報はそっくりそのまま提供します。しかし日本人のアメリカ資産については公表しないでください。なぜなら、そんなことは知りたくないからです」
これが日米共同声明(2012年)の精神だ。これが受け入れられると、日本銀行協会は随喜の涙を流して感激した。そして「日本政府よ、よくやった!」と褒め称えた。
私から言わせれば、「日本政府よ、なんてことをしてくれたんだ!」である。
超富裕層の蓄財は税金逃れによって加速されている。ここを突っ込まなければ税収は出てこない。超富裕層の手先になって資産隠しと税金逃れに血道をあげる国、それが日本だ。
個人情報法保護法についてはいろいろ考えもお有りでしょうが、超富裕層の財産隠しの隠れ蓑になっては行けない。泥棒の金の隠し場所は摘発こそすれ、保護されてはならないのだ。このことだけははっきりさせて置かなければならないだろう。


JBプレスの2011年6月の記事で、下記のものがあった。

FATCAの危険な賭け 谷口 智彦

法成立前後のもので、「うまく行きっこない」というニュアンスの、やや醒めた見方となっている。

その中に、「The Banker 5月1日号」の「FATCA法案の解説」が紹介されている。

1.FATCAの法的構造

FATCAは単体の法律として存在しているわけではなく、「雇用促進法」(the Hiring Incentives to Restore Employment Act)の一部として法制化されている(11年3月成立)

2.FATCAの内容

外国金融機関に対し米国人預金の実態を報告するようもとめる。

具体的には、米国人の口座に関わる情報を、年に1度ずつ米内国歳入庁(IRS、日本でいう国税庁)へ報告せよというもの。

もちろん法的に強制する訳にはいかないから、もし順守しなければ制裁措置を発動することになる。

制裁対象となった金融機関に対しては、ドル建て金融商品へ投資して得た所得に対し、一律30%の源泉税を課す。

(3割もピンはねされてはやっていけないから、外国金融機関は従わざるをえない。基軸通貨の強みである)

3.FATCAの適用範囲

外国金融機関の定義は広く、投資顧問会社や保険会社が含まれるのはもちろん、異業種企業がもつ金融子会社も対象となる。

4.「米国人」の定義

一番きついのは「外国系企業」だ。まず、米国でドル建て商品に投資し収益を得ている企業がすべて対象となる。

この中で10%以上の持ち株比率を持つ米国人株主がいれば報告の対象となる。しかもそれについて「具体的な説明」がもとめられる。

とにかく抜け穴がない。


後は有料だそうで読めない。まぁここまで分かればよいか。

谷口さんはうまくいかないだろうと考えており、その理由をいくつか上げている。

* 外国金融機関に膨大な実務を強いることになり、外国金融機関を米国離れへ追い込む。

* 米国内にも反対は根強く、「外国資本を遠ざける規制は経済的自殺だ」という意見もある。

どうもFATCA外国口座税務コンプライアンス法)が分からないと、事件としての「パナマ文書」の意義はわからないようだ。

そこでFATCAと入れてグーグル検索をかけてみる。

出てくる出てくる。すさまじいほどのファイルが引っかかってくる。上の方に出てくるのはほとんどが銀行のサイトだ。半分は問い合わせに対するお知らせだが、抜け目なくFATCAをクリアーする貯蓄法の指南とか、自社商品の売り込みが取り混ぜられている。

察するところ、国内外の富裕層はFATCAに慌てふためいているようだ。

一応代表的な文例を幾つか示しておく。

最初に出てくるのが「生命保険協会」のお知らせ。

2014年7月から、米国法「FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)」による確認手続きが開始されています。

FATCAは、米国への納税義務を持つ者が 米国外の金融口座を利用して租税回避を図るのを防ぐ目的で制定されました。

この法律は、米国外の金融機関に対し、顧客が米国納税義務者かどうか確認するよう求めています。

日本政府は、国際的な税務コンプライアンスの向上を理解し、FATCAを円滑に実施するため相互に協力することで合意しています。

日本の生命保険会社では、米国財務省と日本当局との合意に基づき、お客さまが米国納税義務者であるかを確認します。

もし米国納税義務者である場合は、米国内国歳入庁宛にご契約情報等の報告を行っております。

対象となる米国納税義務者

①特定米国人 (これは要するに米国人ということ)

②米国人所有の外国事業体

実質的米国人所有者が一人以上いる外国法人・事業体をいいます。例えば、特定米国人が25%を超える議決権を有する場合をいいます。

(以下いろいろ但し書きや例外規定があるが省略)

脅し

新規の場合: 報告に同意いただけない場合、生命保険会社は、生命保険契約の締結を行いません。

継続の場合: 契約締結後において、確認手続きに応じていただけない場合には、米国内国歳入庁の要請に基づき、該当のご契約情報等を日米当局間で交換することになります。

ということで、いわば超法規的な条項であり、合衆国憲法で保障された財産権の実質的侵害となっている。

FATCAは基本的に米国人が対象であるが、米国はこれを各国が互いに合意しあうように求めている。すると日本政府も日本人に対して同様の措置をもとめることになる。

はたしてそれがどうなるか。少し勉強してみないと結論は出せない。

パナマ文書の重大性はどこにあるか

今回、最初に書いた「パナマ文書を打ち上げ花火に終わらせないために」の冒頭にこう書いた。

最初にこのニュースを聞いたとき、正直、またかという感想で見ていた。

これまでもウィキリークスで何回かのスッパ抜きがあって、脱税の規模・手口についてはおおよその見当がついていたからだ。

それで調べてみて、今もなおその感想が払拭されたとはいえない。

それはそれなりに、分からないけど分からないなりに、どうも「問題はそういうところにはないのではないか」という感覚が芽生えてきた。

「そういうところ」というのは、タックス・ヘイブンとか租税回避という分野である。

1.巨大かつ匿名性の高い資金プール

それでいま感じているのは、むしろこれだけの金が匿名で動いているという事実である。さらに言えば匿名性のもとにこれだけの金が貯蔵され、いつでも引き出し可能な形態で積み上げられつつあるという事実である。

それは投機性の高い金融市場のための一つのアセットとして存在している。そしてその市場とタックスヘイブンをつなぐ「導管」(Conduit)の役割を持っている。

租税回避とか節税という場合は、もっぱら関心は秘匿することにある。もちろんどこかの独裁者や麻薬王や超富裕層などはそういう目的で利用するのであろう。

しかしタックスヘイブンを使った資金プールの形成は、むしろ集めた資金の再利用にあるのではないか。だからこそ問題が深刻になっているのではないか。

2.ユーロ市場との強い関連

この点で、AFPの「租税回避の中心はロンドン」という記事は面白い。世界中のオフショア・ネットワークはロンドンを中心に形成されているというのだ。

モサック・フォンセカ社はロンドンから資金を受け入れ、それを英国領バージン諸島を中心に秘匿し、さらにロンドン市内の不動産へ投資している。

つまりシティーのユーロマネーを中心とする投機的市場のファシリティーとして存在しているものと思われるのだ。

ご承知のようにユーロマネーの市場は非常に匿名性の高い、無国籍的なオフショア市場だ。だから匿名性の高いマネーであっても、自由に市場に参加し、捌くことができる。

泥棒に故買屋が必要なように、匿名マネーには投資できる市場が必要だ。逆に言えばユーロ市場には金を自由に、しかも秘密裏に出し入れできるヤミ金庫が必要なのだ。

つまり匿名ネットワークはユーロ市場と表裏一体のシステムだということになる。

それがオフショアマネーの本質なのではないか。

3.金融市場の主導権を握りたいアメリカ

2,3年前にLIBOR事件というのがあった。私も調べて記事にしたことがある。しかしさっぱり思い出せない。

たしかユーロ市場の標準金利を決めるコール金利で、イギリスの大銀行が談合して決めている。これに世界のドル運用が規定されている。

それが不正をやって、それがバレて大問題になったが、どうも火付け役はアメリカ財務省ではないかということだったように記憶する。

あのモルガンでさえ、シティーの一角を借りて店子商売しているくらいだ。ドルはアメリカの通貨だというのに、その金利をイギリスが決めるというのは気に入らないに違いない。

そこでユーロ市場つぶしにいろいろ策を弄していることは間違いない。

此処から先は想像だが、いろいろ実情を調べていくうちに、ユーロ市場に流れ込む資金の出処が分かってきた。

それがスイスやルクセンブルグの信託銀行の匿名口座であり、あるいはシティーからパナマのエージェントを経由したバージン諸島などの裏口座である。

であれば、この流れを締めあげてやれば良いという理屈になる。口実は後からいくらでもつく。ある時は麻薬カルテルの資金洗浄だったり、ある時は中国やロシアなどの独裁者だったり、アラブのテロリストだったり種はゴマンとあるし、なければでっち上げるだけの話だ。

またタックスヘイブンを使った脱税への世論の反発も追い風になる。今回などその典型だろう。

4.アメリカは自らタックスヘイブンになるつもり?

こうやってタックスヘイブンを炙りだすと、巨大な秘匿マネーは居所がなくなる。この巨大金融資産を管理したくなるのも人情だろう。

ただ、これを積極的に呼び寄せようとしているかというと、私にはまだ確信が持てない。

状況証拠としては、外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)を成立させ各国にそのスキームを押し付けたにもかかわらず、自らはOECD合意に加入しようとしないこと、国内の幾つかの州に「タックスヘイブン特区」を設け、そこでの匿名口座の設置を容認していることがあげられる。

ブルームバーグの記事によれば、いままさに、カリブ海からネバダ州への顧客資金の地滑り的大移動が起きているという。

こういう流れの中で今回の「パナマ文書」問題を考えれば、告発者の思いは別として、それがどういう結末をたどるかはある程度予想がつこうというものだ。

どうやら少し事情が飲み込めてきた。

租税回避について、結局アメリカが本気になり始めて、タックスヘイブンつぶしに本腰を入れ始めたこと。

それはテロリスト対策や麻薬カルテルの資金洗浄対策を名目として行われていること。したがって超法規的なやばいやり口をとっている可能性があること。

そして、違法に入手した情報を“ディープ・スロート”として垂れ流している可能性があること。

同じやり方でスイスとルクセンブルクの脱税エージェントを潰してきて、今度はそれがパナマだった、という可能性もあること。

プーチンと習近平を狙い撃ちしている裏側に、政治的意図も感じられること。

ICIJがナンボのものかは知らないが、「10日午前3時に史上最大の発表をする」という胡散臭さが少々鼻につくこと。(これについてはWSJも繰り返し指摘している)

したがって、情報の全面可視化がいま何よりも求められていること。正確なコメントはそれ以降の話になるだろう。

無論、パナマ文書が暴露された事自体は悪いことではないし、大いに評価するものであるが、一定の警戒心も持っておく必要があるだろう。

肝心なことは、富裕層による租税回避の動きが今や世界の指弾の的となり、富裕層が世界経済を破壊することに警戒の目が強まっていることである。

おそらくトービン税や金融取引税などの立法以前に解決すべき問題であろう。

「パナマ文書」、何が重要か?

ニューディールをやっているうちに、「パナマ文書」に関わる材料を消してしまったようだ。

この種のネタはスピードが命だ。ニュース記事は日にちが経つとどんどん消えていく。とくに日本の新聞はスピードが早い。まだ間に合うか?

ウィキリークスに始まって、タックスヘイブンのリーク情報はこれまでも繰り返し報道されてきた。有名人や政治家の名がチラチラと浮かんでは消えていく。たしかに情報量としては膨大だが、どこがこれまでのリーク情報より重要なのかがよく分からない。

少なくとも日本での報道では、まったく差が見えて来ない。率直に言って、日本の新聞は、この手の情報では、あまり役に立たないことが多い。

幸いなことに、最近では海外紙の日本語サイトがかなり充実していて、そこである程度の感触はつかめる。日本の有力紙と違って、情報の出し惜しみはしない。



WSJ

4月6日 「パナマ文書」とは何か

パナマは長年、オフショア会社の設立場所となってきた。以前のスイスの銀行による脱税幇助も、パナマ企業を使うスキームが多く用いられてきた。

パナマを代表する法律事務所モサック・フォンセカは、富裕な依頼人がペーパーカンパニーを設立する手助けをしていた。パナマはいまだに銀行をめぐる機密のとりでである。

その「モサック・フォンセカ」の内部資料が流出した。それは最初、南ドイツ新聞に流出した。

南ドイツ新聞は国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に協力を仰ぎ、文書の解析に取り組んだ。

ICIJはこれを分析して、4月3日、一連の記事を発表した。

今回のリークを受けて(日本を除く)各国政府が調査に乗り出している。G20会議でも注目が集まる公算が大きい。


4月7日 「パナマ文書」が示す資金隠しビジネスの衰退

2月初め、スイスの検察は、マレーシアの複数の国有企業から40億ドルもの資金が不正流用された可能性があると発表した。

かつてスイス当局は、「スーツケースの中の現金が正当な手段で得られたものか、それとも不当なものかを判断するのは難しい」と考えていた。

スイスの司法長官がこの件を公表したこと自体が時代の流れを表している。

世界の規制当局は、オフショア租税回避地や資金洗浄を厳しく取り締まるようになった。

モサック・フォンセカのようなオフショア会社の利用は急激に減っている。米政府が巨額の罰金を科すようになったからだ。また内国歳入庁(IRS)の調査も厳しくなり、資産を隠すのは一層困難になっている。

モサック・フォンセカは無記名株式を利用することで儲けていた。この制度のもとでは、株券の所有者が企業の保有者となり、企業は登録名義人なしで存在することが可能になる。

人々はプライバシーのためや課税を逃れるため、不正利得を隠すためにこの業務を利用してきた。

米同時多発テロが起きた後、米国政府はテロ組織への資金供与を絶つための取り組みを強めた。一連の内部告発を受けて租税回避の取り締まりが強化された。これに(日本を除く)各国も追随した。

OECDによると、金融取引に関する情報交換や共通の報告基準の採用に今や96カ国が合意している。

モサック・フォンセカは、2005年には1万3287ものオフショア会社の設立をサポートし、企業6000社近くの代理人を務めた。これまで設立したオフショア企業は約24万に達する。

しかし15年には新規設立数が3分の1以下の4341社にまで減少し、代理する企業数は170社にまで減少した。


4月7日 租税回避の取り締まり、もぐらたたきの様相

課税逃れとマネーロンダリング(資金洗浄)を取り締まるための国際的な取り組みが強まっている。

(日本を除く)先進諸国政府は、2008年の金融危機と世界同時不況を受け、課税逃れの取り締まりを強化した。

2010年、米政府は外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)を成立させた。

これは「外国の金融機関に米国人顧客の身元とその保有資産に関する報告を義務付ける」というかなり乱暴な法律だ。これでスイスの各銀行がビビった。

EU もこれに追随し、スイスやルクセンブルクなどに圧力をかけた。その結果、EU市民が保有する口座の情報を共有できるようになった。

ここ数年で、HSBCホールディングス傘下のスイスのプライベートバンクによる課税逃れ、ルクセンブルク政府による多国籍企業の節税対策支援がリークされた。

その結果、利用者は伝統的なタックスヘイブン(租税回避地)から、より「エキゾチックな場所」に向かっている。それがパナマであり、バヌアツである。

OECD加盟国ではないパナマは、何とかして秘密性の高い管轄地域にとどまることを決意している。例えば、銀行口座情報を各国当局がやりとりすることや、税務問題での相互協力などを拒否することである。

(したがって今回のパナマ文書の暴露は、パナマ当局への脅しという側面を持っている)


ル・モンド=朝日

ウォール・ストリート・ジャーナルのあまりにも楽観的な見通しには、ピケティが異議を唱えている。

各国間で金融資産情報を自動的に交換することは悪いことではない。

しかしそれが始まるのは2018年からのことだ。財団などの保有株には適用されないし、違反へのペナルティーも一切設定されていない。

貿易制裁と金融制裁を科すことなしに、「お行儀よくしてください」と頼むだけのことだ。

そして真の問題は、経済危機に対して中央銀行が十分な貨幣を発行することで乗り切ったという経過から、そしてその後も金融緩和を続けているという経過から、世界が完全な金余り状況に陥っているということだ。

公的セクターと民間とが持っている金融資産は全体で、GDPのおよそ10倍に達している。

そして、とりわけ民間部門のバランスシートが膨張し続けており、システム全体が極めて脆弱なものになっているということだ。


以下はAFPから

4月8日AFP 米国の著名人なぜ少ない?

さすがはAFP(L'Agence France-Presse)、この疑問に切り込んでいる。ただ「米情報機関関与説」までは踏み込めていない。

要旨を紹介しておく。

理由の第一は、資産隠しやオフショア取引をしたい米国民にとって、スペイン語圏のパナマはタックスヘイブンとして魅力的ではないからだ。

米国人は、資産隠しや匿名で会社のために外国に行く必要はない。いくつかの州では、数百ドルでペーパーカンパニーを設立できる。

第二に、アメリカ政府の取り締まり強化だ。例えばクレディ・スイスは、米市民の資産隠しに協力したために26億ドルの罰金を科された。これは企業の生死に関わる。

このため、タックスヘイブンは米国人顧客を非常に恐れている。

と書いたうえで、「これは噂だが」として、ロシアなど他国の不安定化を狙うCIAによるもの、とするリーク陰謀説を紹介している。

4月7日AFP 「パナマ文書」が暴いた租税回避の中心はロンドン

「パナマ文書」問題で、ロンドンが世界中のオフショア・ネットワークを結びつける「心臓」の役割を果たしていたことが明らかになった。

ロンドンの金融街シティーの英法律事務所、英会計事務所、英金融機関がモサック・フォンセカのような会社を操作している。

英国は海外領内にあるモサック・フォンセカの仲介企業数で世界第3位を占め、3万2682人の顧問を有する。

カリブ海の英領バージン諸島には、モサック・フォンセカの顧客企業が11万社も存在していた。

モサック・フォンセカは、世界各地のタックスヘイブンに設立された数千の企業をつうじて、英国と何らかのつながりを持っていた。

その多くが英国内、特にロンドン市内の不動産に投資されていた。

4月7日AFP 流出元の法律事務所、最大市場は中国

内部文書流出元のモサック・フォンセカの活動の3分の1近くが、中国本土と香港に置かれている同事務所の支所で行われていた。

現在活動中のペーパーカンパニー1万6300社以上が、同事務所の香港と中国本土の支所を通じて設立されていた。

中国共産党の最高指導部に当たる政治局常務委員会のうち、現職または元委員少なくとも8人の親族が、オフショア企業の利用に関与していた。

複数のメディアの報じたもの。

アジアの大国中国が、腐敗と資本逃避問題で大きく揺れている。

フォンセカ中国

                          モサック・フォンセカの上海事務所(AFP)

4月12日AFP 各国のスパイも利用 独紙報道

南ドイツ新聞は、複数の国の情報員がモサック・フォンセカを情報活動の「隠れみの」として利用していたと報じた。

事務所の顧客には、1980年代のイラン・コントラ事件に際して、CIAの「仲介役」として密接に協力していた人物も複数含まれていた。


世界一のタックスヘイブンはアメリカ

パナマ文書の発表前の記事ですが、1月27日のブルームバーグの「世界一のタックスヘイブンはアメリカ」というのが面白い。

ロスチャイルド銀行やトライデント信託は、ネバダ州のリノに信託銀行を開き、バミューダなどのタックスヘブンに隠し持っていた海外顧客の資金を移動させています。

これは、OECDによる新しい情報交換基準に対抗するためと言われます。

なぜリノの信託銀行に資金を移せば安全なのか、それはアメリカがOECDの新しい情報交換基準が適用外となる地域なためです。

ロスチャイルド社の代表は、「顧客の資金をアメリカに移動させれば良い。そうすれば無課税となり、政府からも隠すことができる」と語っている。

現在多くの富裕層がアメリカの口座が最も安全と感じているというわけです。

2,010年にアメリカで、外国金融機関を利用した租税回避行為を防止するため、FATCAが施行されました。

OECDはこれに刺激されて新しい情報交換基準を作り、2014年に97の加盟地域が賛同する形で合意に至りました。

しかしこの基準を受け入ない国が3っつあります。バーレーン・ナウル共和国・バヌアツ共和国、そしてアメリカです。

財務省は「OECDの新基準はFATCAをベースに作られたものであるので同意する必要はない」と述べている。

しかしアメリカの金融アドバイザーは、「アメリカがOECDの新基準に同意しなかったことは、我々のビジネスを強く支持することにつながるのは明らかだ」と語っている。

バヌアツは初耳だったので調べてみた。

呆れたサイトがあった。

バヌアツ

というのが、サイトの見出し。「オチンチンむき出し」で不道徳そのもの、まるで「泥棒の宣伝」だ。

最初の数行をそのまま転載する。

豊かな観光資源と陽気な人々で知られるバヌアツは、租税回避国(タックスヘブン)としても世界的に有名です。

SPT VILAではバヌアツでビジネス等をお考えのお客様に以下のサポート業務を行っています。
 

タックスヘイブン(租税回避国)のバヌアツ共和国で法人設立!

この国には、所得税や法人税ばかりでなく、固定資産税や贈与税、為替管理法は一切存在しません。

更に、バヌアツ政府は他国政府との間に 情報開示協定を締結していないため、完全にプライバシーが保護されています。

パナマ文書の重大性はどこにあるか

最初にこのニュースを聞いたとき、正直、またかという感想で見ていた。

これまでもウィキリークスで何回かのスッパ抜きがあって、脱税の規模・手口についてはおおよその見当がついていたからだ。

これについては以下の記事を参照されたい。

それでパナマ文書は、①このニュースに新たな質的重要性をふくむのか、②個の事件を基に新たな動きが出てくる可能性があるのか、が分からないと、評価できない。

ということで、その新規性に的を絞って、ニュースを漁ってみたい。

まずは「パナマ文書」とは何かというあたり。これについてはウィキペディアがいち早くレビューしている。

1.「パナマ文書」の名の由来: 

オフショア金融センターを利用する企業の詳細な情報が書かれた機密文書である。

パナマのモサック・フォンセカ (Mossack Fonseca) 法律事務所が作成したもので、これが漏洩したことから名づけられた。正確にはフォンセカ文書と呼ぶべきだろう。

2.漏洩の規模

このファイルは合計2.6テラバイト、私の外付けハードディスクが3テラだからすっぽり収まる。ただここに文字情報として2.6テラ入ると相当な情報だ。

ここに過去40年分、1150万件の情報が記載されていた。そこには21万4千社の企業情報がふくまれている。

まずはこの規模がウィキリークスの情報よりケタ違いに多い。

2010年のアメリカ外交公電の流出が1.7ギガ、2013年のオフショア・リークスが260ギガとされている。

3.権威ある機関による検討と公表

ウィキリークスの漏洩も、ほとんどが真実として受け止められているが、基本的には匿名である。

今回は、ソースは秘匿されているものの、その検討には権威ある国際機関、「国際調査報道ジャーナリスト連合」 (ICIJ) があたっている。

80か国107社の報道機関、約400名のジャーナリストが、1年にわたり文書の分析を行ったとされる

この権威性がパナマ文書をより重要なものとしている。

ただし、この機関はすでに13年のHSBCホールディングスのスイス文書の時にすでに登場しているから、あまり新味はない。

はっきり言えば、規模が大きくて、権威のある研究であろうと中身が大したものでなければしようがない。そこはどうなのだろうか。

私としては、今回公表された脱税が総額でいくらになるか、脱税者は処罰しうるのかが最大の興味だが、ここらへんが明らかにされないと、前回のオフショアリークスの二番煎じに終わるような気がする。

オフショアによる脱税に関しては下記の記事を参照されたい。

カテゴリ別アーカイブ

中国経済の動向について書こうと思って調べ始めたのだが、どうも「中国こそが世界経済の牽引車」などというのは嘘だということになった。

そうではなく、ソ連・東欧崩壊後の動きというのは、一貫してアメリカがますます力をまして一国帝国主義の様相を呈してきたところに、事の本質があるように思えてきた。

日本で、並べて地方が沈滞し、ますます東京への一極集中が進むように、世界はますます沈滞し、ウォール街へすべての富が集中しつつある。中国が一時的に元気だからと言っても、それは発展すればするほどアメリカへの従属を強め、やがてはいまの日本のような状況に入るのではないだろうか。

中国経済が景気が良いと言っても、それはアメリカへの輸出を最大の条件としている。そのために各国から資本財をかき集めるから、波及効果が各国に及んでいるにすぎない。

ところが、米国の個人消費が天井を打ってしまった。実はアメリカ国民の貯金はとうの間に底をつき購買力は消失していたのだが、金融市場が悪辣にローンを押し付け、贅沢暮らしをさせてきた。

この借金バブルが崩壊したいま、アメリカ国民の多くが、ただの貧困者どころか札付きの破産者になってしまった。

ところがおかしなことに、アメリカ国民がそうやって貧しくなればなるほど、アメリカには資金が流入してくる。

米国の景気が悪くなれば世界の景気が悪くなり、資金管理者は投資先を店じまいし、それを米国に還流させるからである。好景気は世界を資本主義のもとに置き、不景気はそれを米国のもとに集中させるという循環が繰り返される。

まるでネグリやウォーラーステインをなぞるような話になってしまうが、これはアメリカ以外の国が今のような経済政策をとる限りの話であり、その先には底知れぬ滝壺が待っている。

どこかで米国中心主義から舵を切り替えなければならないし、それは可能だろうと思う。カギは各国が協調した内需拡大策、雇用・賃金の改善策、社会保障の充実策、そして税制の改革ということになる。

まさしくそれはニューディールの柱であるが、肝心なことは各国政府のイニシアチブ、そして少なくとも主要国の協調である。とくにアメリカ自身の手を縛ることが決定的に重要である。

各国政府が強調して、イニシアチブを握りながら何をするか?

それは富の生産ではない。

ここがケインズやウォーラーステインとの決定的な違いである。

モノは有り余るほどある。作る能力も保たれている。だから内需拡大はものづくりに向けられてはならない。

政策努力は、何よりもひとづくりと欲求創出に向けられなくてはならない。この一見、非経済的と思われる施策が、実は一番経済的に合理的な解決策なのである。

ただし、これを一国家だけで実現しようとすれば大変なことになる。輸出競争力は落ちるし、需要の増加はいずれは輸入の増加に繋がる。外国企業は抜け駆けを狙って、安値攻勢をかける。多国籍企業や国内の大企業は新規投資を見合わせる。


これが、社会党政権下のフランスでの1年間の経験である。

しかしこれをやっていたのでは、埒が明かない。政治幹部と経済官僚が国境の垣根を超えて変革の意識を共有する以外に方法はない。また変革を求める国民的世論を大いに喚起しなければならないだろう。

↑このページのトップヘ