鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

AALA関連記事は「aala_newsの編集日記」http://blog.livedoor.jp/aala_news/ に移りました(6Nov.2023) 中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 「ラテンアメリカの政治」(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ )がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。

カテゴリ: 15 国際政治/アメリカ(カナダ含む)

米国勢調査局が米国民生活調査を発表した。
一世帯の年収は4万9千ドルで、昨年に比べ2.3%の減というから相当なもの。円にすると78円換算で390万円、日本より大夫低くなる。日本の世帯あたり収入は400万円ちょっとだったはず。
ついで貧困者比率。
米国統計では4人家族で2万2千ドルを貧困ラインとしている。円で言うと170万円、月額14万円である。これは貧困ではなく飢餓ラインである。
貧困層人口は4600万人。15%である。生保基準を当てはめれば20%を軽く超えるだろう。
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Wikipediaより

エスニックの問題があるが、白人でも10%に達している。母子家庭の貧困率は32%に達している。ティーパーティの財政縮小の主張は、暴動覚悟の狂気の沙汰だということが分かる。

9月8日 オバマ大統領の議会演説

アメリカの経済は危機に直面している。低迷する経済を底上げするためにも、雇用を前進させる計画がもとめられており、この法案を即時通過させるよう議会に求める。

議会の経済に対する議論は迷走している。景気回復への支援に一丸となって取り組むべきだ。われわれが政治的な騒ぎを停止し、実際に経済を支援するために何かできるかが問われている。

この法律ですべての問題が解決できるとは主張しないが、対策が緊急に求められていることも間違いない。

最終的に、米景気回復をけん引するのはワシントンではなく、米国の企業や労働者だ。だが、われわれは支援できるし、変化をもたらすことができる。

演説の中で、オバマは共和党が富裕層増税に反対していることを非難。

「億万長者への減税を維持するのか、子供たちの大学進学や就職を援助する教職員を職に戻すことに使うのか、これこそ真の対決だ」と述べた。

オバマは4470億ドル(約35兆円)の雇用創出計画を打ち出した。当初予想は3千億ドルとされ、1.5倍化されたことになる。

①1千億ドルが社会基盤への支出。350億ドルが学校の近代化と交通プロジェクト、空き施設の復旧、教員28万人や臨時職員の雇用確保などを柱とする支出。

②給与税の減税。給与の10万6800ドルまでを対象とし、およそ半額にする。小規模企業を対象に雇用主負担の給与税半減と新規雇用への税優遇措置。

③失業者支援を620億ドルに拡充。

③財源としてメディケア(高齢者医療保険制度)費縮小などを含めた約2兆ドルの財政赤字削減。

ウォールストリート・ジャーナルの10日付社説は「米国債格下げで目を覚ます米国民」と題する社説を掲載している。結論から先に言うと、経済混乱をもたらしたのはオバマ政権の責任であり、財政支出の抑制が求められているというものである。「火災警報器を解除しようとするのはやめて火を消す努力を始めたほうがいい」と表現している。

まず、オバマの登場をもたらしたものは何かという点から触れている。

誰もが終わってほしくないと思っていた数年間にわたる信用拡大は2008年に突然、金融危機に発展した。当時、政権の座にあった共和党は何の説明もしなかったため、有権者は危機にあって一番冷静に見えた大統領候補を支持した。

つまり、08年に金融が危機状況にあったことは認める。そして共和党(すなわちWSJの党)が金融危機の発生に責任があること、そして拱手傍観したことも間接的に認めている。
しかし危機打開のためオバマが打った手についてはすべて否認している。

民間の信用バブルの影響からようやく脱しつつあった経済に対し、民主党は何兆ドルもの財政出動を行ない、債務を膨らませた。金融システムが混乱をきたすなか、民主党は金融パニックを引き起こしたとして銀行を厳しく非難し、2000ページにもわたる新たな規則を課した。

ようするに、経済は自らの力で「民間の信用バブルの影響」から抜け出しつつあったのに、オバマは余計なことをしてくれたというのが、議論の根本的な出発点である。

細かいことだが、ここでは論点のちょっとしたすり替えがなされている。前段でははっきりと危機、あるいは金融危機という言葉でリーマン・ショックを捉えている。しかし後段になると、危機という言葉は注意深く避けられている。

このことで株屋たちは自らの責任を糊塗し、茶会党の尻馬に乗って投機資本への規制や金持ち減税の廃止をつぶそうとしているのではないか。危機であれば財政出動は当然だ。銀行屋や株屋を助けたいわけではないが、波及効果を食い止めるためにはやむをえない。そうやって助けてもらったのは誰なのか、挙句に被告人の身で、「余分なことをしてくれた」と嘯くのか。
医療改革や雇用の問題は、それはそれでいろいろあるが、とりあえず関係はない。国債発行額が巨額に達したのは金融危機回避のためなのだから。それが危機だったのか、ちょっとした混乱に過ぎなかったのかの判断が一番のキーポイントだ。

なおことのついでに、日本にも触れている。

債務負担が増え続けても国民が何も言わず、政治家の決まり文句を受け入れている方がはるかに心配だ。日本はそんなふうに20年にもわたる停滞を甘受してきた。

これはまったく原因と結果を取り違えている。こう言うべきだ。
日本は財界と政治家の決まり文句を受け入れて、そんなふうに20年にもわたる停滞を何も言わずに甘受してきた。そのために債務負担が増え続けてきた。

こうやって見ると、連中の論理のトリックがよく分かる。

フードスタンプというのはSupplemental Nutrition Assistance Program (SNAP)のこと。
低所得者が食料品を購入するさいに、その一部が補助される制度である。
対象者は4人家族で月収2400ドル以下となっている。ほぼ日本の生保基準に近い。
農務省の発表で、受給者数が4600万人に達した。これは国民の約15%=7人に一人に相当する。
リーマンショックの08年で2800万人だったから、3年間で1.6倍に増えたことになる。まさに貧困大国だ。

アメリカのデフォルト危機はいくつかの要因の結果である。双子の赤字といわれる貿易赤字と財政赤字だが、これをGDPの上昇と資本収支の黒字(連邦債の発行)で補ってきた。リーマン・ショック後のGDP増加率の停滞が、財政赤字に火をつけた。それが連邦債の返済を困難にさせている。
ここまでは常識。
米政府の行政管理・予算局は財政赤字の直接的な原因を次の三つに求めている。すなわち、①富裕層減税による税収低下、②失業者の増加に伴う失業給付の増加、③アフガン戦争による戦費増大。
ということで、これらはすべてブッシュ共和党政府の責任。こういう点では原発事故と似ている。

アメリカはオバマ改革になお抵抗している。金持ち優遇税制は昨年10月で失効するはずだった。しかし中間選挙での共和党の躍進によりそれは不可能となった。
しかしオバマが好きか嫌いかを問わず、いやおうなしに、アメリカはアフガンから手を引かざるを得なくなるし、金持ち減税も廃止せざるを得なくなるだろう。三つの要因のうち二つが片付けば、未だアメリカはやれると思う。オバマにとっては花見劫だ。
しかし失業問題はオバマの足を引っ張るかもしれない。
再選を勝ち取るためには金持ち階級との対決姿勢を強める以外に手はないが、メディアを使った総攻撃に果たして耐えられるだろうか。
9.11後のアメリカ国民の狂気のような愛国心を経験した私たちからすれば、たしかに見通しはかなりきついと思う。アメリカの再生は、オバマを当選させた民衆がふたたび決起するか否かにかかってくるだろう。


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