鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

AALA関連記事は「aala_newsの編集日記」http://blog.livedoor.jp/aala_news/ に移りました(6Nov.2023) 中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 「ラテンアメリカの政治」(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ )がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。

カテゴリ: 15 国際政治/アメリカ(カナダ含む)

環球時報
May 01, 2023

ファーストリパブリックの買収で強まる景気後退懸念:
専門家は世界的なドミノ倒しを警告
   
First Republic takeover adds to concerns over a possible US recession;
expert warns of a global domino effect



要約

米国の規制当局は、経営難に陥っている金融機関「救済」のために、ファースト・リパブリック銀行を差し押さえ、その事業の大部分をJPモルガンに売却する契約を月曜日に締結した。 
しかし、この「もぐら叩き」のようなやり方では、苦境にある米国の銀行システムを修復することはできない。専門家たちは、この後さらに多くの国に影響が及ぶ可能性があると、警告している。
米国政府が米国の金融機関を管理するのは今年で3回目だ。それは、規制当局による救済措置にもかかわらず、最近の銀行危機が治癒していないことを示す。専門家は、さらに多くの銀行が追随する可能性があると警告している。
世界最大の経済大国を引きずり込む潜在的な景気後退に対する不安はさらに高まっている。

この間の動き

月曜日のロイターの報道によると、銀行大手のJPモルガン・チェースは、ファースト・リパブリック銀行が保有する920億ドルの預金を含む1730億ドルの融資と約300億ドルの証券を引き受けることになる。
ファースト・リパブリックの84の支店はブランド名を変更し、月曜日には通常通り開店する予定だ。

月曜日未明、カリフォルニア州金融保護局(The California Department of Financial Protection and Innovation)は、ファースト・リパブリックを手中に収め、連邦預金保険公社(FDIC)がその管財人として活動すると発表した。

ファースト・リパブリック銀行とは

サンフランシスコに本拠を置くファースト・リパブリックは、米国史上2番目に大きな破綻した銀行である。ロイターの計算によると、同銀行の株価は今年に入って97%暴落した。

北京の、ある銀行の投資マネージャーは、月曜日に環球時報にこう語った。
「前回の救済措置で危機が緩和されたと考えられていた。今回の買収は、問題が最初に予想されていたよりも深刻であることを示している」

シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻が米国の銀行業界に衝撃を与えた後、米国の大手銀行は3月にすでに300億ドルをファースト・リパブリック銀行に注入していた。

匿名希望の投資マネージャーはこう述べる。「一時的な "モグラ叩き "の手法が有効でないことが判明した今、流動性不足に陥って破綻する銀行は今後も増えるだろう」

ロイター通信によれば、月曜朝、財務省の広報担当者はこう述べた。「財務省は、ファースト・リパブリック銀行が預金保険基金への負担を最小限に抑えて解決したことを心強く思っており、米国の銀行システムは健全で弾力的であると考えている」

3月の演説ーシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の問題を取り上げた際の演説で、ジョー・バイデン米大統領は次のように述べている。
「このような銀行破綻が再び起こる可能性を減らし、アメリカの雇用と中小企業を守らなければならない。そのため、議会と銀行規制当局に、規則の強化を求めるつもりだ」

金融危機への対応手段を失いつつあるバイデン政権

月曜の環球時報でこのバイデン発言へのコメントを求められた北京・中国社会科学院の高リンユン氏は、こう答えている。
「最悪なのは、バイデン政権がジレンマに決着をつける方法を失ってしまう危険があることだ。FRBの利上げサイクルは続いている。このことで金利がゼロに近かった頃に銀行が行った融資の価値が目減りしてくる。それはまさに銀行にとってのリスクであり、今後より厳しいものになることは避けられない」

高氏は、銀行破綻は米国の景気後退懸念にも拍車をかけるとし、世界的なドミノ効果を警告している。

商務省のデータを引用して27日にウォール・ストリート・ジャーナルが報道した内容は、米国の経済成長が今年第1四半期に低迷し、1月から3月までのGDPはインフレ・季節調整後の年換算1.1%にとどまった。これは昨年第4四半期の2.6%の成長から大きく減速している。

「2017年の真実?」

集英社文庫から落合信彦「決定版 2039年の真実」という本が発売されている。
私も忘れっぽいほうだが、この著者がむかし「2018 年 歴史の真実」という本を出して、私も買ったことを覚えている。
あの頃からトッぽいことを書き散らす人だったが、それにしてもアコギなことをするなと思っていて、流石に買う気もせずそのままになっている。

この間、NHKでケネディ暗殺事件の「その後」報道をやっていたが、オズワルドの奇矯な行動ばかりが取り上げられ、単独犯行説の方向で印象操作しているように見える。
なまじ「再現フィルム」などを挿入するので、この事件で一文をモノした私としてはイラッと来る。

NHKの報道はどうもアメリカでの資料解禁の動きに合わせて組まれた企画らしく、ネットを見るとトランプ政権からバイデン政権へとかなりの動きが出ているようだ。
この中からいくつかを取り上げて検討してみる。

まず最初はBBC日本語版で「米ケネディ大統領暗殺の記録、1万3000点を公開 編集なしで」という記事。2022年12月16日のアップとなっている。(英語記事 Thousands of JFK assassination records released)


報道事実

バイデン大統領は15日、1963年に起きたジョン・F・ケネディ大統領(当時)暗殺事件に関する文書について、初めて「全文」(黒塗りなし)の公開を命じる大統領令を出した。
これを受け、1万3173点のファイルがオンラインで公開された。ただ、新たに公開された文書には、大きな新事実はないものとみられている。
米国立公文書館は、文書515点が完全に、別の2545点は部分的に、非公開のままになるとした。


これまでの経過について

連邦政府「ウォーレン委員会」は1964年、ソヴィエト連邦で暮らしたことがあった米国人リー・ハーヴィー・オズワルド容疑者の単独犯行だったと断定した。

ケネディ氏の暗殺をめぐっては、多くの記録が作成された。1992年に成立した法律は、すべての関連文書を2017年10月までに公開するよう政府に義務付けた。
これが「2017年、歴史の真実」の根拠である。

しかし2017年、当時の大統領トランプは数千ページを公開したが、他は非公開とした。
4年後の2021年10月、バイデン大統領が約1500点の文書を公開。しかし、それ以外は封印したままとなった。

オズワルドとCIAの関係が調査の焦点

ここから先は、私の主張も混じるのでご容赦を。

現在ウォーレン委員会のオズワルド単独犯行説を信じるものはほとんどいない。その多くはCIA主犯説をとっている。しかしその明らかな証拠はない。
CIAはオズワルド容疑者と「一切関わりがなかった」とし、連邦政府による調査に対して彼の情報を隠したことはなかったと主張している。
調査資料の公表が遅れたのも、歴代大統領が全面公開に失敗してきたのも、すべてCIA絡みの資料が隠蔽されていることに絡んでいる。端的に言えばオズワルドなどどうでも良いのである。

注目すべき新事実

新たに公開された文書の1つにはこういうものがある。
…メキシコのソ連大使館に米当局が盗聴器を設置した。メキシコ大統領はこれを知りながら、自国の政府関係者に知らせなかった。

CBSニュースは、これまでの文書では、この情報は編集されて隠されていたと報じている。

たしかに重大な情報ではあるが、これでは泰山鳴動して鼠一匹である。


私のケネディ暗殺関連文書は下記のとおりです。

1.ケネディと暗殺者たちの年表

2.キューバ革命史 第7章
http://www10.plala.or.jp/shosuzki/history/cuba/307.htm#%E7%AC%AC%E4%B8%83%E7%AB%A0%E3%80%80%E3%82%A8%E3%83%94%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B0

Truthout
November 29, 2022
イーロン・マスクによって、
ウォーレンとサンダースは10万人のフォロワーを失った

Warren, Sanders Lost Over 100k Twitter Followers Each After Elon Musk Takeover


BY  Sharon Zhang, Truthout


10月下旬に右派の億万長者イーロン・マスクがTwitterを買収した。
それから数週間、最近の報道では、共和党の議員が数十万人のフォロワーをあらたに獲得し、一方で民主党議員のフォロワーがパージされた。

Twitter 右翼が復権し左翼が追放された

ワシントン・ポスト紙がProPublicaのデータを分析したところ、共和党のフォロワー数はほぼすべて増加していた。

@propublica


最大の勝者は白人民族主義者のマージョリー・テイラー・グリーン議員(ジョージア州)、次が極右議員のジム・ジョーダン(オハイオ州)で、ともにそれぞれ30万人以上のフォロワーを増やした。
テッド・クルーズ上院議員(テキサス州)とランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)はともに約20万人のフォロワーを獲得し、マット・ゲッツ下院議員(フロリダ州)は10万人以上のアカウントを獲得している。
一方、民主党のフォロワー数はHakeem Jeffries議員(ニューヨーク州)を除いて、すべて減少した。
最も大きな損失を被ったのは、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)とバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)のアカウントで、両者とも10万人以上のフォロワーを失っている。
「1月6日委員会」のアダム・シフ議員(カリフォルニア州)は、ケビン・マッカーシー下院「少数党」党首(カリフォルニア州選出)や、偽のソーシャルメディア投稿の標的になった。彼も約10万人のフォロワーを失っている。

この変化は、所属党派に沿ったものというより、イデオロギーの色合いに沿ったものだ。
最も右寄りの議員が最もフォロワーを増やし、最も左寄りの議員が最も減らしている。

ポスト紙は、これらは左派やリベラルなユーザー、がマスク時代を迎えて急速に逃げ出したことの象徴と指摘する。
一方、右派のユーザーは新たに参加し、より積極的になっている。

これは、マスクが左派のアカウントを意図的に追放している結果である。
反ファシスト活動家のチャド・ローダーや左派のCrimethInc.など、著名なアカウントを片っ端から禁止しているのも、その一因だろう。


マスクは極右の素顔をさらけ出す

この期間、マスクが右翼の一員であることが明らかになった。
彼は政治的に中立だと主張してきたが、中間選挙を前に共和党に投票するようフォロワーに呼びかけた。共和党への寄付を繰り返した。
また、ナンシー・ペロシ下院議長の夫への極右の襲撃などについて、危険な極右の陰謀論についてツイートしている。
マスクはさらに反労働者、反組合的な経営スタイルを宣伝し、人種差別反対などの運動に対する敵意を幹出しにしている。

マスクは、ドナルド・トランプ前大統領のツィッター復帰も示唆している。
2021年1月6日の国会議事堂襲撃事件前後に暴力を煽ったとして禁止された人物をである。

マスクはすでに他の極右の人物のアカウントを復活させている。
反トランスのヘイトスピーチで禁止されたジョーダン・ピーターソン、COVIDの偽情報と暴力的な言辞で抹消されたグリーンなどである。
他の極右の人物のアカウントも復活させる方向を明らかにしている。

つまりマスクは、Twitterを右翼的な宣伝手段にしようとしていると考えられる。


マスクの狙いはTwitterを極右の武器とすることだった

"マスクがTwitterを極右の強力な武器とするつもりなのは明らかだ。この新たな現実を無視することは、今や不可能だ"
MSNBCのコラムニスト、ジーシャン・アリームは先週の論説でこう書いている。
“彼は地球上で最も裕福な男として、そして高慢で強欲な経営者として、マスクは右翼の力を強めようと狙っている、

”彼は、労働組合への敵意を共和党と共有している。さらに企業や超富裕層への増税、企業に対する規制などに対する敵意を共有している。また、左派が政財界の大物を批判することを不快に思って、自分の権威に挑戦することを嫌っている”


2021年6月18日
「社会主義の明日のために:過去2年間の総括」
「アメリカ民主社会主義」全国政治委員会草案

若い人たちの組織で、サンダースの大統領キャンペーン組織から衣替えしたもののようです。ツッコミどころはいろいろありますが、なにせ勢いが良い。こうでなくっちゃと思います。


全国政治委員会が2年前に発足したとき、大統領選挙が私たちの最大の政治的焦点だった。

去年春にCOVID-19が発生し、5月にはジョージ・フロイドの殺害をきっかけとした大規模な暴動が起き、政治情勢を大きく変えました。

活動スタイルは変化しました。人々へのアプローチは、社会的距離、バーチャル集会、個人の活動制限などに適応する必要がありました。

パンデミックは資本主義から仮面を剥ぎ取り、社会を構築する人々に真実を明らかにしました。

あらゆる場面で、資本家の利益が公共の安全と福祉に優先されました。営業再開、ワクチン接種、学校の​​再開に関する情報は覆い隠されました。

これらの失敗は、非常に多くのコミュニティを壊滅させた。それは横行する反アジアの暴力の一因となった。国家はますます暴力で対応するようになり、警察による殺人が相次ぎ、人々の怒りが広がった。

1月6日の「議事堂の反乱」が明らかにしたように、極右は消えておらず、国家はこれらの勢力に反対する意志はない。

去年のトランプ駆逐作戦は、共和党による投票権への攻撃の激化を促しました。

資本家が引き起こした気候危機は、冬の嵐を引き起こし、非常に多くの命を奪った。さらにこの夏には干ばつ、竜巻、ハリケーンが土地を荒廃させ、より多くの死者をもたらしている。

アメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)は、容赦なく残酷で不正な機関であり続けています。それは移民家族の分離と黒人女性と茶色の女性の強制的な不妊手術を強化しています。

すでにアメリカ帝国主義によって搾取されている多くの国々は、ワクチン特許の独占と禁輸・封鎖・制裁による医療資源の不足によって悪化し、壊滅的な人命の損失に苦しんでいます。

ナイジェリア、コロンビア、パレスチナで、警察と軍隊は「尊厳を持って生きる」権利を要求する大衆に暴力を振るいつづけています。

この2年で、私たちがどれほど強力であるかが示されました。しかしそれらすべてが、一層迅速に進めなければなりません。この仕事でお互いを支え合いながら、いま私たちは、この間に奪われた命と機会を残念に思い悼みます。

それでも、社会主義を展望するだけでなく、社会主義組織を構築するという日々の仕事がそれ自体希望であります。

昨年のたたかいは、たんに選挙に勝利しただけでなく、集合的な力を獲得したことでも評価されるでしょう。

それは私たちが闘った時、どのくらいの階級的な力を持つことができるかを示しました。

今後、より直接的な行動に向かっとき、皆が一緒に働くとき、私たちは最も強力であることを学ぶべきです。

私たちは国際連帯に向けて努力しなければなりません。私たちの任務の一部は、このアメリカで帝国主義に立ち向かうことでなければなりません。

この闘いは人種的正義のため戦いであり、檻と警官のいない世界(a world without cages and cops)のための戦いであり、豊かさと尊厳、民主の社会主義世界(socialist world of abundance, of dignity, and of democracy)の実現を目指すものです。

私たちは全国各地で支部を設立し、その活動を前進させ、国と支部の間で活動を一体化させるための措置を講じました。

地方リーダーと話をして、国の組織としてどのように行動できるか、南部の同志、地方の同志、組織を始めたばかりの同志が直面している特定の問題について学びました。

私たちは、「組織化権の保護法」を成立させるためのキャンペーンや、郵便事業救済キャンペーンなど、これらの教訓を全国的なキャンペーンに組み込むよう努めてきました。

私たちは新しい支部への訓練を開始しました。全国教育委員会の訓練プログラを作り、基本的カリキュラムに沿って指導しています。

それぞれの支部が地元の大衆組織や組合と強力な同盟関係を築き、労働者階級に私たちの運動を根付かせるために働いています。

国際的なつながりを深めるため、ペルーとベネズエラにそれぞれ2人の代表団を派遣しました。

急速に成長している社会主義組織であるがゆえに、私たちは間違いを犯しました。

私たちは、DSAをより成熟させるためにやるべきことがたくさんあり、多くのことを学ぶ必要があることを知っています。

最も重要なことは、支部が行動キャンペーンに焦点を当てて、どのように主体的力量を成長させるか、真剣な議論を積み重ねることです。私達はそれを支援することを約束します。

「バーニーを勝たせるキャンペーン」は、人々の出会いの大切さと、ビジョンの共有に向けての取り組みの重要性を教えてくれました。

100K Recruitment Drive(他人種・労働者・社会主義組織を今年中に10万人まで増やす計画)は団結して働くことでどれだけ成長できるかを示しています。

BIPOC(黒人、先住民族、有色人種)の優先決議は、組織が多民族であることを保証するためにも、文化と構造の転換の必要性を明確にするためにも役立ちます。
私たちのPRO Actキャンペーンは、それらの優先度を通知しています。

過去2年間はあっというまでした。私たちはいま、これから構築する中身を楽しみにして集中しています。

労働者階級はみずからのものを取り戻さなければならない。そのための手段となる組織を築き上げなければならない。

私たちはもはや、6年前の結成時とは異なる組織であり、6年後にどのような組織に成長するか、夢を膨らませている。

永遠の連帯を!

「レディット」騒動のその後

日経に「レディット」騒動の続報が出た(2月14日号7面)。

前回の報道は腰が定まらず何が何だか分からない記事だったが、果たして姿勢が明確になったのだろうか。

正直のところ、ますます混迷を深めているとしか言いようがない。

ただこちらも多少勉強したおかげで、混乱の理由がわかってきた。

さきにそこを言っておこう。

問題点のおさらい

最初の問題はレディットに結集して行動した個人投資家が、「義賊」なのか「サイバーテロリスト」なのかという評価だ。

多くの金融関係筋や公的機関、メディアは後者の立場に立っている。個人投資家たちが相場を荒らし、多くの株主に損害を与えたと非難している。

一方で民主党左派には、これをヘッジファンドの横暴に対する零細投資家の集団的抵抗とする味方もある。

義賊とは言え賊であることには違いないのだから、決して正義の味方と誉め讃えているわけではない。

ただ「彼らの思いは汲むべきではないか」という議論がある。彼らの抗議の対象である「巨悪」を蔑ろにして問題は解決しないだろうということについても大方の一致派あるのだろうと思う。

さらに、個人投資家のオプション取引への参入は必然的な歴史の流れとして受け止めるべきではないかという評価もある。

以前にビットコインが出てきたときもそうだった。最初はバクチ並みに扱われ敵視された。長期的には、むしろオプション取引の透明化を考えるべきなのかも知れない。


日経新聞のためらい

ただレディットを批判する人々はそのことについては口が重い。

日経の記者はその間で、“前向きに” 動揺しているのかも知れない。

第2の問題は、最初は個人投資家グループの「買い」を黙認したロビンフッドが突然、取引を停止したことだ。これはトレーダーからの要請を受けたものらしい。


規制当局の動き

これだけの前説きをしておいても、なお記事は複雑で錯綜している。

今回の事件を受けて、マサチューセッツ州当局は、個人投資家が危険な取引に乗り出さないように動き始めた。ロビンフッド社の関連部門を提訴した。

先程も述べたように「義賊」といえども「賊」なのだから当然である。

今回の記事ですこし分かったのだが、この騒動の舞台は普通の株式市場ではなく、オプション取引を行うデリバティブ市場だ。

以前勉強したロンドン・ホエール事件と同じで、入れ物が小さいから値動きが激しく、いわば鉄火場市場だ。
(2012年05月25日 
こんなところに素人が手出しするのはご法度だが、最近はテラ銭がただなので、みんなゲーム感覚で入ってくる。「投機の民主化」現象が起きていると言われる。

このような目先の対応問題だけでなく、背景までふくめて深堀りしようという動きも見られる。

それが米議会下院の金融サービス委員会で、明日からこの問題で公聴会を開催する。

この公聴会には今回糾弾の対象となったロビンフッド社、マーケット・メーカー(シタデル・セキュリティーズ)、空売りしていたファンド会社(メルビン・キャピタル・マネージメント)、SNSを運営しているレディット運営会社の各CEOが証言することになっている。


メルビンとシタデル社

また新しい横文字が出てきた。

マーケット・メーカー: これはマーケットで直接取引を行う会社だ。ロビンフッドはスマホ証券会社で、資金調達を行う。
マーケット・メーカー(シタデル社)はその資金を運用する。運用益の一部がロビンフッドに支払われる。これでロビンフッドは御飯を食べていくことになる。

メルビン・キャピタル・マネージメント: これが空売りを仕掛けたヘッジファンドだ。

こいつがある会社にカラ売り攻撃を仕掛けた。株価が下がれば会社の資産価値は低下し、資金ショートになり破産する。

こんなやり方に義憤を感じた一個人投資家がレディットで行動を呼びかけた

壮絶なシテ戦の末、メルビンは相当の痛手を被ったらしい。ここから先はよくわからないが、メルビンがシタデル社に泣きを入れて、シタデルがロビンフッドに取引停止を迫ったらしい。

早い話、ぐるになって顧客を裏切ったわけだ。

民主党左派のエリザベス・ウォレン上院議員はロビンフッドにこう言って迫った。

「米国民はロビンフッドと大手金融会社(メルビンとシタデル社)の関係について明快な説明を必要としている」

日経新聞はこう解説している。
個人の買い注文を止めたのがマーケットメーカーの要請だったとすれば容認できない」というのがウォレン議員の態度だ。

日経新聞の結語は納得できる。

変わりゆく時代にあった規制を実現し、秩序ある市場をどう守るかが問われている。

「レディット」騒動のてん末


① レディット: 

「レディット」というのは日本の「2ちゃん」と同じで、いろんなスレッドが建てられ、誰でも自由に出入りできるオンライン掲示板だ。

掲示板型ウエブサイトの一つで、日本の「2チャンネル」と同じようなもの。誰でも無料で入れる掲示板サイト。


② ウォール・ストリート・ベッツ(WSB)

2チャンネルと同様、レディットにもたくさんのスレッドが有る。レディットではこれをフォーラムと呼ぶ。

フォーラムの一つで、株取引を専門に掘っていくフォr-ラムがあり、これをウォールストリート・ベッツ(WSB)と称する。

メンバーの主体は、組織と無縁な個人投資家で、半ばゲーム感覚で投資活動を行っている。

米国ではネットでの株式売買が進み、にわかじたてのトレーダーが激増している。彼らが集まるのがこういうスレッドだ。

ロビンフッド:

スマートフォン向けの投資窓口を提供する会社。手数料無料が売り物で、レディットの参加者など小口投資家の受け皿となっている。

今回、当初は投資家の買いを積極的に受けた。しかし途中から怖気づいて取引制限を行った。これが投資家に批判された。

しかし軋轢はあるものの、レディットとロビンフッドは基本的には持ちつ持たれつでやってきた。

ただこれが問題になった筋書きは、少々複雑だ。

④ ヘッジファンド(カラ売り業者)

最初に悪だくみを仕掛けたのは彼らではない。名前が明らかにされていないヘッジファンドだ。
これが時代遅れの潰れかけたゲームソフトの会社にカラ売り攻勢を仕掛けた。

理由はよく分からない。残存資産にそれなりの価値があったのかも知れない。

それにある投資家が怒ったのだ。株式を公開している以上、リスクは覚悟しなければならないかもしtれない。しかし生きた会社を、自分の都合だけでなぶり殺しにする権利などないはずだ。

その投資家はWSBを通じて「こんな悪党を許しておいていいのかよ!」と呼びかけたのである。


立ち上がったレディットのミニ投資家

レディットはたちまち沸騰した。
「けっして売るなよ」
「(標的企業の)株を買え。空売り勢を締め上げろ」

やり方を伝授するのはレディットならお手の物。購買禁止への対抗手段はスマートで破壊的だ。

コールオプション(買い注文の権利)を一斉に購入する。買い気配が高まれば、コールの売り手は株式を買わざるを得なくなる。

一つの取引にそれなりの手数料が上乗せされれば、あっという間に株価は上昇する。空売り勢はたっぷりペネルティを払って買い戻す羽目になる。

現にそうなった。ざまを見ろ!




三人の悪漢

この事件には3人の悪漢がいる。

一番悪いのは空売りを仕掛けたヘッジファンドだ。

レディットも悪気はないが違法行為を犯している。トレーダーたちが合意の上で統一行動を取ることは「共謀行為」とみなされる。

「目には目を」の掟が、証券業界にモラルハザードをもたらす危険も無視はできない。

しかしそれは悪代官に対する民衆の仕返しと見ることもできる。まさにレディットこそが現代版「ロビンフッド」なのだ。


悪徳株屋の無法ぶりを黙認してきた責任

結局話は行くところに行き着く。3人目の誰かが悪徳業者の横行を許し、黙認してきたからこういう事件が起きたのだ。

だから黙認してきた悪代官(SEC その他諸々)を見つけてとっちめなければならない。これが3人目の悪漢だ。

そこであのオカシオ・コルテス議員がレディットの連中をこう讃えたのだ。

「ヘッジファンドが自由に売買できる一方で、個人投資家が買いで抵抗した。この抵抗を止めるのは正しいことなのだろうか」

1月30日の日経新聞記事とは結論部分が異なる。日経の記事は、滑り出し好調だが最後が端折られていて、結局何を言いたいのかがよく分からない。

日経新聞の本社レベルで評価がまだ定まっていないのかも知れない。

すこし経過を待とうと思う。


この記事は、とりあえず根本的に書き改めました。
最初は日経新聞の記事の紹介ということで書き始めたのですが、この記事に一部不正確な記載があり、当初の記載を修正しました。




2021年1月12日

かなり長いので、ちょっと端折って紹介します。

1.積極財政主義者サンダース

4年前の大統領選挙の直前、共和党幹部のポール・ライアンは、共和党全国委員会でこう語った。

「誰が上院予算委員会の委員長になるか知っていますか?」と問うた。そして答えた。「バーニー・サンダースという男です。彼のことを知ってますか?」

共和党は長い間、バーモント州の自称民主社会主義者であるサンダースが、予算委員会の指揮を執ることを恐れてきた。

なぜなら彼は「大きな政府と、より多くの連邦政府の借入金による、より大きな支出」を提唱してきたからだ。

民主党が上院を取り戻すことで、その恐れは、いままさに現実になりつつある。

サンダースは、アメリカ議会の最も進歩的なメンバーである。そのサンダースが、民主党の歳入・歳出計画を立案し、中心的な役割を果たすことになる。


2.“攻撃的” 財政の展開

サンダースは、「積極財政で経済刺激策を推進する。そのために新しい役割に迅速に取り組む」と述べた。

さらに、「危機は非常に深刻であり、可能な限り迅速に行動しなければならないと信じている」と述べた。

「“攻撃的” という言葉に下線を引いてください」と彼は言った。「私はそこからそこから始めます」

僅差での上院支配にもかかわらず、サンダースは税金、医療、気候変動などに大きな影響を発揮するだろうと予想されている。

なぜなら、あまり知られていないが、予算委員長としての役割には、信じられないほど強力なツールがあり、特定の法律については単純な過半数で承認を得られるからである。

「和解」(reconciliation)と呼ばれる予算メカニズムにより、議会は60票を獲得することなく法律を成立できる。

これは、トランプやブッシュのおこなった減税や、オバマの医療法案など、主要な対立法案を成立させた手段である。

(このあと「和解プロセス」の説明があるが省略)

「プロセス」の利用により、サンダースは新しい税金と財政支出を決定する上で主導的な役割を果たすことになる。


3.コロナ下の緊急対策

サンダースは、「最初の緊急の景気刺激パッケージは大規模なものにしたい」と述べた。

彼は、市民への直接支援のために、議会が通過したばかりの600ドルに加えて、1,400ドルを追加したいと考えている。

さらに州や都市へ、ワクチンの配布、検査、接触トレーシングのための資金を提供する必要があるという。

また、パンデミックの際に誰でも治療を受けることができるように、緊急の国民皆保険プログラムを作成しようとかんがえている。これには現在保険に加入しているかどうかは関係ない。

「このアイデアについては、規模とタイミングについてバイデンとすでにバイデンと相談していますわ」と語った。

彼は「すべての人のためのメディケア」など、長年訴えてきた自身の優先政策と関連付けるつもりはないと付言した。

そして「それはそれ、コロナは緊急対策である」と強調した。


4.米社会の構造的問題とサンダース

彼は、民主党が従来型の予算編成方針を超えて「アメリカ社会の構造的問題」に対処できる政策を実現したいと考えている。

そのために「和解」方式をどのように使えるかを試そうとしている。

サンダースもバイデンも景気刺激法案の規模を明らかにしていないが、木曜日に計画の概要が説明される予定である。

サンダースは、1兆ドル以上の費用がかかる可能性のある法律は、「漸進的な方法」で歳入を増やすことを目指すべきであると述べた。

これは富裕層と企業に対する増税を示唆したものである。上院の手続きの下では、増税案は財務委員会からていあんされる。担当議員は民主党進歩派のワイデン議員である。

すでにワイデンは、企業や金持ちを対象とする増税に積極的に取り組むことを明らかにしている。

ワイデンはインタビューで言った。「誰もが、公正な支払いを負担しなければならないという前提から始めなければなりません」


5.バイデン・サンダース関係は緊張をはらんでいる

バイデンの補佐官は、政策目標を法律化するために、サンダースなど議会委員会と緊密に協力すると述べている。

しかし、それにはいくつかの保留がある。サンダースの提案は、バイデンの全面的支持を得ているわけではない。

バイデンは、すべての人をメディケアの対象としては考えていない。また刺激策の優先順位を決める際に、一時的な医療保険の拡大を強調しているわけではない。


6.民主党穏健派の離反のリスク

バイデンは民主党内穏健派からの脅威にもさらされている。共和党との僅かな票差から言って、穏健な上院民主党員からも挑戦がもたらされる可能性がある。

民主党議員の一部は、バイデンが提案した支出プログラムのいくつかと、サンダースが支持する多くのプログラムに反対している。民主党の一致した政策のように見えたものでさえ、障害にぶつかる可能性がある。

ウェストバージニア選出の上院議員は、議会で最も保守的な民主党員である。彼は、刺激法案で1人あたり1,400ドルの現金給付を行うことは優先度が高くないと述べた。しかし最終的に賛成票を投じる可能性を否定はしなかった。

サンダースは上院の民主党指導者と協力して働くと言明しており、「全国民のメディケア」のための戦いは、すべて健康委員会に任せると述べた。

彼は、「和解立法」が「民主党の間で強力な支持を得るだろう」と確信しているようだ。

元民主党上院の指導者ハリー・リードは、「上院議員としてのサンダースは大統領選挙で主張したほど思念的ではなかった」と述べた。リードは2014年にサンダースを予算委員会のランキングメンバーに選んだ。民主党の同僚から「サンダースは民主社会主義者である」と懸念の声が上がったが、それを受け入れなかった。

「彼は本当の進歩的な社会主義者として知られている人だが、上院のコーカスにとって問題だったことはなかった」とリード氏はインタビューで述べた。「彼は反逆者になろうとはししなかった」


7.上院共和党による攻撃準備

共和党のリンゼイ・グラハムやノーキス上院議員は、サンダースが動けば連邦債務が増えるだけと攻撃している。

保守派の恐れについて尋ねられたサンダースはこう答えた。

「共和党の議員が私を嫌ったとしても、世論調査は私を支持するでしょう。そして増税と支出の増加が共和党員を含む幅広い有権者の間で受け入れられると思います。共和党議員は有権者から見放されることを心配するべきでしょう」

トランプ批判のてんこ盛り

see you in DC

6日 トランプが提唱した抗議集会が開かれる。トランプは「抗議はワイルドなものになるだろう」と語り、「戦い」を挑発する。

6日 トランプの呼びかけを受けた支持者数千人が連邦議会議事堂に乱入。議事堂のドアが破られたとき、景観の低渡航はなかった。警察との衝突で4人が死亡した。上下両院の合同会議は中断され、議員らは一時避難する

6日 襲撃のTV中継を見ながら喜ぶトランプ一家の映像がトィッターにアップされ100万回の視聴。
https://twitter.com/ReesusP/status/1347227775975870469

6日 ソーシャルメディアで、群衆のためにバリケードを取り去ったり、建物内で侵入者らとセルフィーを撮る警官や警備員の姿などがシェアされる。この日の議事堂警察は暴動鎮圧のための特別武装をしていなかった。

6日 午後8時 両院会議が再開。深夜にバイデン当選が確定される。共和党の重鎮ロムニー上院議員は、演説でトランプを激しく非難。

6日 共和党の中からも怒りの声。
チェイニー下院議員(元副大統領の娘)は「大統領が暴徒を扇動した。火を付けたのは大統領だ」と投稿。
ギャラガー下院議員(トランプ支持者)は「米国の議事堂で途上国のような騒ぎが起きている。トランプはこの事態を止めるべきだ」と投稿。
ブッシュ元大統領は「一部の政治指導者が米国の制度や伝統を無視したことににがくぜんとしている」と発言。

7日 メルケル首相、騒動への「激しい怒りと悲しみ」をあらわす。「トランプが敗北を認めていないことは極めて遺憾だ」と語る。ジョンソン英首相も、「米議会の恥ずべき様相」を非難。マクロン仏大統領は、「民主主義を疑おうとする少数派の暴力に、われわれは屈しない」と誓う。イランのロウハニ大統領は、米議事堂での混乱が「西洋の民主主義がいかに脆弱であるかを示した」と述べた。
Qアノンの容疑者

7日 ティム・ライアン下院議員、「警官配備策を調べるほどに憤懣が増す。厳密なる取り調べが必要だ」とコメント

7日 マッカーシー陸軍長官、「事前に国家警備隊への要請はなかった」と述べ、防衛計画の欠如を示唆する。

8日 ツイッター社はトランプ大統領のアカウントについて、「暴力をさらにあおるリスクがある」として永久停止にする。これに対しメルケル首相は、「言論の自由への介入は、メディア側ではなく、法に基づいて行われるべきだ」とコメント。

9日 財界保守派もトランプを批判。全米製造業協会(NAM)会長は、「この暴動は製造業者が信じる米国の姿ではない」とかたる。さらにペンス副大統領に対し、憲法修正第25条を発動しトランプ大統領の即時、職務停止を真剣に検討するようもとめる。

10日 シュワルツェネッガー、ツィッター動画で「トランプは史上最悪の大統領」と批判。
「議事堂への乱入はナチス・ドイツを連想させる。うそが国をどこに向かわせるか私は知っている」と語る。

10日 アップルとグーグル、親トランプのソーシャルメディア「パーラー」の配信を一時停止する。

11日 全米プロゴルフ協会、全米プロゴルフ選手権の開催地に、トランプ氏のゴルフ場を使用しないと発表。

12日 統合参謀本部、「トランプ支持者の議会乱入は、憲法に対する直接的攻撃である」と非難。「言論と集会の自由は暴力や扇動、反乱に訴える権利を誰にも与えていない」と強調。軍は引き続き憲法を守ることにかかわる」と述べる。

12日 陸軍は襲撃者に現役兵士が参加していたかを確認する作業を開始したと発表。

12日 下院本会議、トランプ解任をもとめる決議を採決し可決。ペンスが応じなければ、弾劾訴追の決議案を採決の予定。

12日 アメリカンフットボールの強豪「ペイトリオッツ」のベリチック・コーチが、「大統領自由勲章」の受け取りを辞退すると表明。ベリチックNFL屈指の名将。前回っ選挙ではトランプを支援した。

12日 大手企業が続々と政治献金の停止を打ち出す。ホテルチェーン大手マリオット社はバイデン当選を認めない議員への献金を停止。政治献金そのものの見直しの動きの広がる。

12日 FBI、大統領の就任式に武装集団による抗議デモが計画されていると警告。インターネットを通じての参加を呼びかける。

13日 トランプが6日ぶりに記者会見。事件の責任は自分にはないとし、さらなる騒乱が起きれば民主党の責任と強調する。

バイデン政権はこのままでは持たない
(フィナンシャル・タイムズ評論員)


1.多様性の尊重とマイノリティーの権利尊重とは異なる

バイデンは組閣に当たり「多様性」を強調してきた。しかし左派がもとめているのは多様性ではなく、多様な人々の権利の尊重だ。

ただし、それは共和党が多数を握る上院では拒否されるだろう。バイデンは共和党との妥協の道を探るほかないし、急進派はそれを渋々受け入れざるを得ない。

それに、左派にとって多様性よりはるかに重要な問題がある。それは富裕層の懐に手を突っ込み、貧困層の人権と未来を保障し、政治的平等の土台を再建することだ。

それなしの目くらましの多様性では、さらに民主党への絶望は深まるだけだ。


2.2・3位連合のもろさ

選挙の結果が示すのはバイデン政権が2・3位連合政権だということだ。

1位はトランプであり、2位がサンダースを先頭とする民主党左派、3位がバイデン派だということだ。

政治力学から見れば、3位の候補が勝者となるのはきわめて不自然である。バイデン=左派連合はきわめて不安定な連合であり、むしろ終わりの始まりとして理解すべきものだ。

議会選挙ではこの傾向が一段と鮮明になっている。

民主党は下院で微減、上院で微増となっている。
しかし、その内容を見ると、バイデンに代表される民主党主流派が惨敗し、左派候補は接戦を勝ち抜いている。これはサンダース自身が指摘したとおりである。

FT紙も言っている。
…つまり、バイデン氏は勝ったが、民主党としては負けたのだ。


3.民主党への絶望

FTは選挙と同時に各州で行われた住民投票をレビューし、次のような結論を引き出している。
国民はマイノリティー問題より国民全体に関わる経済問題に力を入れるよう政治にもとめている。
ということだ。
民主党の大敗の理由は明らかだ。

民主党は白人の労働者階級(高卒)が貧困問題に直面しているのに、彼らを人種差別主義者だと切り捨てたからだ。

民主党は人種差別反対を掲げるだけで、非白人の貧困克服・生活向上の課題に取り組もうとしなかったからだ。

非白人層についてのFT紙の以下の論及はきわめて印象的である。
大量の非白人票がトランプに流れた。ヒスパニックとアジア系では3分の1が、アフリカ系の男性ではほぼ2割がトランプに投票した。
彼が人種差別的な言動を繰り返したのにである。民主党はどこかに問題がある。


3.民主党の再建は可能か

FTは次のように提起する。
重要なのは共和党が非白人層を取り込むより早く、民主党が白人労働者階級の支持をとり戻せるかどうかだ。
新政権と民主党の命運はそこにかかっているだろう。


12月16日 フィナンシャル・タイムズ(21日日経新聞「米新政権、命運にぎる政策」より引用)



11月11日 Today's Debate


Opposing View: But the lesson is not to abandon Medicare for All, Green New Deal, living wages, criminal justice reform and universal child care.

バイデンの勝利は民主主義と科学の勝利

全米の進歩勢力は、ジョー・バイデンを大統領に選出するために多くの努力を費やしました。私はそれをとても誇りに思っています。

ここで明確にしておきたいのは、この選挙が2人の候補者間の通常の競争ではなかったということです。

それは通常よりもはるかに重要な選挙でした。

それは、“私たちの民主主義” を維持し、法の支配する社会を守り、科学の正しさを信じるための選挙でした。

それは、ホワイトハウスの内側にはびこる “病的な嘘” を終わらせるための選挙でした。

そしてアメリカ人は、記録的な投票率で、ドナルド・トランプ大統領を拒否しました。

その人種差別、性差別、同性愛嫌悪、外国人排斥、宗教的偏見、権威主義を投票という行為によって拒否しました。それはとても良いニュースです。


下院と上院での停滞を革新派のせいにする親企業派

それでも、正直なところ、下院と上院での選挙結果は期待外れでした。

ジョー・バイデンが500万票以上を獲得して勝利したのに、民主党は下院でいくつかの議席を失いました。上院でも、これまでのところ1議席しか増やすことができず、過半数は達成できませんでした。

現在、この結果を巡って民主党内で一部の人々が非難を繰り返しています。

企業よりの民主党員は、彼らのいうところの極左グループ、例えば「みんなのメディケア」とか「緑のニューディール」のおかげで、上下議会選挙で負けてしまったと攻撃しています。

下院と上院での選挙敗北のためのメディケア・フォー・オールやグリーン・ニューディールのようないわゆる極左政策を攻撃しています。それはとんでもない間違いです。


実際の中身は革新派の躍進

ここに動かしがたい事実があります:

►今度の選挙には、メディケア・フォー・オールに協賛する112人が立候補しました。そして112人全員が当選しました。

►同じく、グリーン・ニューディールの協賛者98人が今度の選挙に立候補しました。そのうちのたった1人だけが、残念ながら負けました。

パンデミック時に国民皆保険を支援することは、たんに良き公共政策の選択にとどまるものではありません。

気候変動による地球の脅威に直面しているいま、再生可能エネルギーへの大規模な投資を実施することは、公共政策のあれかこれかを選ぶのではありません。

それは総体としての良い政治を選ぶことなのです。


医療・環境・雇用は国民共通の願い

フォックス・ニュース社(社会主義どころか保守の牙城)が投票所で出口調査を行っています。これによると、有権者の72%が「政府が運営する医療計画への変更」を支持していました。

また有権者の70%が「グリーンエネルギーと再生可能エネルギーへの政府支出の増加」を支持しました。

教訓は、「みんなのメディケア」、「グリーンニューディール、生活・賃金・仕事、犯罪に関する司法改革、無差別な育児支援など、国民のための政策を放棄してはならないということです。

そうではなく、いますべての働く人々が感じている経済的困難や絶望について議論し、手を打つことです。

黒人、白人、ラテン系、アジア系、そしてネイティブのアメリカ人。多くの人々は傷つき、助けを求めて叫んでいます。 

私たちはこの声に応じなければなりません。


各州での住民投票について

アメリカ全土で、有権者は進歩的な政策を承認しました。それは何百万もの人々の生活を改善するための方針です。

►フロリダの有権者は、最低賃金を1時間あたり15ドルに引き上げる法案を可決しました。

►コロラド州民は、12週間の有給の家族休暇を提供することに投票しました。

►アリゾナ州は、公教育への資金を増やすために、25万ドル以上を稼ぐ人々への増税に賛成しました。

►アリゾナ、モンタナ、ニュージャージー、サウスダコタの有権者は、「麻薬戦争」からの脱却に投票し、マリファナの合法化を承認しました。

アメリカの人々は億万長者とウォール街がどんどん豊かになるのを見てきました。もううんざりです。

退役軍人が路上で眠り、私たちのインフラが崩壊し、若者は借金が返せずに学校を去っていきます。

彼らは、ほんの一握りの人のためでなくでなく、すべての人のために働く政府を望んでいます。

 それは正しいことであり、道徳的なことです。

それが民主党にとって、選挙に勝つ唯一の方法です。



AALAニューズ向けの話題ではないのですが、選挙の評価をふくめたサンダースのきちっとした発言が、日本語の世界にはまったくないので、ここに紹介しておきます。
過去最多となったバイデン票を押し上げたのは、左派陣営の無私の頑張りだったことがわかります。
いっぽうで上下両院議員選挙で民主党が伸び悩んだのは、国民の声を受け止めきれなかった企業寄りの候補が落選したことを意味します。(サンダースはそこは言葉を濁しているが…)
つまり「エスタブリッシュメントはもはやアメリカで単独支配するのは不可能になった」ということが証明された、ここに今回の選挙の歴史的意義があります。
一方、トランプ善戦の原因は、エスタブリッシュに不満を持つ層を彼らなりの(間違った)方法で掘り起こしたからです。
だからバイデンとエスタブリッシュメント層は選挙に勝ったからといって、「はいご苦労さん」とサンダースたちを投げ捨てるわけには行かないのです。一旦トランプに流れた人々を政権の側に戻すには、右翼ではなく左翼との連携が必要です。このジレンマが今後バイデンを苦しめることになるでしょう。




トランプ時代とはなんだったのだろうか

アメリカ大統領終わろうとしている。
僅差だがバイデンの勝利に終わったようだ。何となく後数年もすれば「あれは悪い冗談の時代だった」ということになるのかもしれない。

今はまだそのように歴史的な出来事とするにはナマナマしすぎるが、そういう視点を持っておくことも必要だろうと思う。

2つの見方がある。一つはきわめて僅差であり、民主対共和という2つの勢力が伯仲していたという考えだ。

もう一つは唯一の超大国である米国で、超大国であるがゆえに生じた現象であり、世界の人々から見れば、歴史的・地理的にきわめて限られた現象だったという見方である。

私は後者の立場に立つ。

その上で、メディアやネット世界でくだされたこの民主対共和の二項対立的な評価を子細に見ていきたい。

というのはその二項対立的評価の世界史的再評価を通じてトランプ現象というものが浮かび上がってくるかもしれないとの思いがあるからである。

下記の評論から学ぶ。



第一の対立 思想的・文化的反動
中絶や同性婚などで、保守対リベラルの対立。ただしこれらは最高裁判決を経て、すでに社会的には容認されている。したがってこれらの主張は、保守主義というよりは反動思想というべきかもしれない。
「保守」はキリスト教原理主義と親和度が高いため、宗教戦争の色彩を帯びる。「宗教の自由」の名のもとに不寛容の雰囲気が支配する。

第二の対立 アメリカ第一主義
ポピュリズムは、従来からの南部プアホワイトと中西部の元産業労働者を基盤とする。白人の負け組集団である。
彼らは2つの攻撃目標を設定する。それは「エリート」と「移民」である。しかし反エリートは口先だけで、反移民は反途上国・反新興国まで広げられ、さらに反有色人種へと拡大した。そして最大の生贄として中国に攻撃が集中された。
攻撃対象が拡大され、攻撃内容が強化されるたびに人々は共感を強めた。

第三の対立 白人至上主義
第二の対立の裏返しとして白人至上主義がある。
この20年の間に、白人有権者の比率は76%から67%へと急激に低下している。フロリダ州とアリゾナ州ではとくに減少が著しい。
白人中間層を基盤とするティーパーティは、白人至上主義を公然と掲げ、社会的分断を促進した。

この3つの対立はいずれも偽りの対立でありトランプの側の主張には根拠がない。

彼らがリベラルとよんで敵視しているものは、法治主義、立憲主義、民主主義そのものである。

彼らがアメリカ第一主義の名のもとに敵視する有色人種とは、アメリカ人以外のすべての国の人々である。

「根拠」とされるものをすべて取り去れば、そこに残るのは憎しみ(ヘイト)だけだ。そこからはなにも生まれない。

中岡さんの議論を聞いていて、

第一の対立 思想的・文化的反動を「思想的・文化的反動」と括ることにいくばくかの違和感を感じざるを得なかった。トランプの思想的後退はもっと根深い、悪魔的なものがあるのではないか?
バイデン自身もここをもっと強調している。
それは科学と科学的真理、まっとうな「良心」に対する挑戦であったと…

今回の学術会議の問題を巡っても、一番の根っこは科学への軽視だ。「科学よりもガバナンスの重要性のほうが上だ」という発想を政府自身がしてしまうのは、とても深刻な問題だ。

とりわけ加藤官房長官の鉄仮面ぶりがとても気になる。彼は自分自身をひどく貶めている。彼は全裸になって股をおっぴろげているみずからに対する自覚がない。佐川の心性に限りなく近づいていくすがたは悲しくさえある。

赤旗にワシントンの遠藤特派員が良い記事を書いている。というより4つの記事を1本にするという離れ業を演じていて、これが流れもよくスラスラと読めるのだから、すごい筆力だと思う。

1.トランプ流「経済再開」の失敗
南部・西部で5月アタマから強引な経済再開を初めたが、感染拡大で悲惨な結果。

2.コロナ感染拡大の責任を問う世論調査で堂々の1位
7月1日に発表された世論調査、「感染拡大に誰が責任を追うべきか」で、「大統領」との答えが34%で堂々の一位。以下「経済再開が早すぎた州」、「マスクをしない人」、「中国」と続く。

3.差別反対運動への敵視が度外れなものに
トランプは平和デモまで敵視し、米軍投入を打ち出した。これが軍の総スカンを食らった。
最近ではツイッターへの投稿が度外れたものになっている。例えばミズーリ州で平和的に行進するデモ隊に拳銃を向けている白人夫婦の映像をリツイートしている。
デモ隊に銃口

また有名になった「Black Lives Matter」(国人の命は大切だ)のスローガンを「憎悪の象徴」とツイートしている。市当局は5番街のトランプタワー前の路面に同スローガンを描く計画を立てた。これに対しトランプは「美しい通りを侮辱するものだ」と反対した(共同通信)。

4.トランプの負け犬化が明らかに
同じ1日発表の世論調査で、大統領選挙の支持率が出た。バイデン49.9%、トランプ40.4%となった。中西部や南部のいわゆる激戦6州はすべてバイデンが上回った。しかし逆に言うと、いまだに岩盤支持層はほとんど無傷でいることになる。まさに「神州不滅」だ。


上院選については情報が少ないので、別途検索をかけてみたい。
オバマ二期を通して議会は共和党のものだった。オバマに失望を訴える人はこのことを考慮すべきだ。その議会が今度は動く可能性がある。上院選で、アリゾナ、ノースカロライナ、コロラドの各州で民主党が逆転する見通しとなった。
幸せなバイデンは、議会とのねじれなく思い切り政策展開できることになりそうだ。



貧困、肥満、人種格差…新型コロナで次々と露呈する米社会の恥部」(猪瀬聖 yahoo ニュース20年5月23日)より

米国で、黒人の死亡率は白人の2.4倍

ニューヨークの地下鉄や路線バスを運営する公益法人のMTAでは、職員の半数以上はマイノリティだという。
仕事を休めないこのような職員の数千人が新型コロナに感染し、100人以上が死亡した。

ブロンクス地区は黒人とヒスパニックが住民の過半数を占める市内で最も貧しい地区で、人口10万人当たりの死者数も断然高い。

ニューヨーク・タイムズは独自調査の結果、「新型コロナの影響を決める最大の要因は人種と所得」と報道した。

APMリサーチ・ラボが20日に公表した調査リポートによれば、人口10万人当たりの死者数は黒人が断トツに多く、50.3人。次いでヒスパニックの22.9人、アジア系の22.7人と続き、最も少ないのが白人の20.7人だった。

マイノリティに死亡率が高い理由

低所得層や貧困層が多く住む地域は「フード・デザート(食の砂漠)」と呼ばれ、生鮮食品を販売するスーパーがほとんどない。

このため、住民の食事は高カロリー、高糖質のいわゆるジャンクフードに偏りがちだ。

肥満率も、疾病対策センターによると、黒人が49.6%、ヒスパニックが44.8%で、いずれも白人の42.2%より高い。

しかし肥満は米国人共通の問題でもある。米国の肥満率の高さは、主要国の中で断トツだ。


現在、ニューヨーク州などがロックダウンされており、それがいつまで続くかが焦点になりつつある。

いうまでも都市封鎖をふくむ緊急対策の司令官は各州知事にあり、それは憲法で規定されている。これがトランプには気に入らない。

14日の記者会見で、トランプは都市封鎖(ロックダウン)の解除にも言及している。そして「経済活動を再開させる権限は州知事ではなく自分にある」と述べた。まさに横車押しの介である。

ニューヨーク州のクオモ知事は「トランプはけんかをしたがっている」と斬って捨てた。

じつはWHO非難の理由はこの点にある。

10日にテドロス事務局長は記者会見し、こう語った。
「規制の緩和が早すぎると、ウイルス感染が致命的に復活してしまう。きちんと手はずを整えなければ危険だ」
つまり医学的な妥当性が最優先されるべきだと述べているのだ。

これがトランプには気に食わない。だからWHOとクオモを敵に回してでも、「自分の手でコロナ制圧を宣言した大統領」になりたいのだ。

ことここに及んでもなお、大統領選挙に勝つことがトランプのすべてだ。

またも驚きのニュース

コロナ騒ぎの最中にトランプがWHO拠出金停止を表明した。

赤旗・池田特派員によれば、発言の内容は以下の通り

① WHOの批判: 

WHOは基本的な義務を果たしていない。
新型ウイルス初期拡散について深刻な不手際を行った。
具体的には、中国からの渡航制限に反対した。公衆衛生上の緊急事態宣言を遅らせた。
いくつかの重要な事実を隠ぺいした、非常にに中国寄りで不公平だ。

② 中国での初期対応:

中国は初動を誤り、情報公開が十分ではなかった。

WHOは医療専門家を中国に派遣し、中国の透明性の欠如を指摘すべきだった。

だがWHOは中国の言葉をうのみにし、正確な情報の共有を怠った。

③ WHOへの対応:

WHOが犯した深刻な不手際と隠ぺいについて調査する。
その間、WHOへの資金拠出を停止する。

④ その他(封鎖解除に関して)

これについては次の記事へ

質疑応答

このあと記者との間で質疑応答があった。これについてはForbs日本語版に記載されている。

パンデミック(世界的流行)の最中にWHOへの拠出を差し控えることが正しい決断なのかと尋ねられると、トランプはその発言を撤回したように見えた。「いや、おそらくそうではない」と述べ、「そうするとは言っていないが、その選択肢を考慮する」と付け加えた。

恐るべきことに、この男は思いつきで物を言っていることがわかる

拠出金はいくらなのか?

このForbs日本語版 では、分担金についても解説されてる。
議論のときに揚げ足取られないように数字を上げておく。

WHOへの支払いには、分担金と任意の拠出金の2種類がある。1つ目は、各国がWHOの加盟国として支払う必要があるもので、総額は各国の資産と人口に応じて計算される。2つ目は、その名前が示すように自発的なもので、奨励はされるが強制ではない。

これまでアメリカは分担金の約5790万ドル(約63億円)と奨励金6500万ドルを払ってきたが、トランプはすでに2月に奨励金のストップを提示している。

今回の措置は、分担金の5790万ドルも止めようというものになる。



すみません。トランプのWHO攻撃の記事は、多分不正確だと思います。

トランプは4月に入ってからの記者会見で、二度にわたってWHO攻撃を繰り返しています。

一度目は7日の記者会見です。

このときは、「WHOは中国寄り」 だとし、資金拠出の停止示唆しました。

そして14日の記者会見で、拠出金停止を表明したのです。

赤旗の記事は2度の記者会見における発言をまとめたものの可能性があります。

いずれにしても、この間のトランプ発言の経過をまとめる必要があるので、ちょっとお待ち下さい。

コロナ 一国主義をどう乗り越えるか

“我ら”と”彼ら”の社会史

“我ら”の社会と”彼ら”の社会は先史時代から存在している。

それらの集団は、ほとんどは小さいままだったが、一部が大きくなり連合を形成し、単一王国を形成し、中には大陸をまたがるような巨大な帝国となることもあった。

しかしその大きさとは関係なしに、“我ら”の社会と”彼ら”の社会は隔絶した関係のままであった。”彼ら”は、可能性としては客人かあるいは奴隷であり、ユニバーサルな「人間」の概念はそこには存在しなかった。

近代国家の概念はカントリーという枠組みを超えて、ネーションというもう一つ広い範疇を創出した。

ネーションは民族であり、国家でもある。それは超階級的概念であり、多くの場合、言語・宗教を媒介とした民族的一体感に基づいて成立した。

そして“我ら”と”彼ら”の関係に代わるものとして、概念的には対等な「諸国家」の関係を打ち立てた。

いわば国家概念をめぐる天動説から地動説への移行であり、ウェストファリア条約型の国家関係への移行である。

これらは政治経済上の必要から生まれたものであり、近代国家においては広範な分業と市場のために生まれたものである。

しかし、それらが拠って立つ社会関係の基層には“我ら”と”彼ら”の関係があり、それは往々にして国家対国家、民族対民族の対立として噴出する。

その典型が今回のコロナ騒ぎであろうと思う。とんでもない災難は人々の間に不安を掻き立てる。そこで人々は“我ら”の外にいる”彼ら”を不安の対象として仮託するのだ。

しかし現代に生きる私たちは、それが誤ったイメージであることを知っている。経験と教育と訓練に拠ってリテラシーを獲得しているからだ。

イリュージョンそのものはある程度致し方がないことであるが、同時に人類は、それを国際法上でうまく調整する仕組みも手に入れてきた。

それは人間が本来肉欲の権化であるにも関わらず、それを抑制することにより、社会を潤滑に動かしてきたことと同じである。

私たちは、チンポコをおっ立てて吠え回るトランプというケダモノを世界一の権力者に据えてしまったが、世界の圧倒的多数がそれが間違いなのだと認識していることに確信を持っていいだろう。

CPM.Library というサイトに 「メディア・バイアスのランク表」があった。
BiasChart
              左クリックで拡大
説明は以下の通り。
「評価バイアス」は怪しさを伴います。私達がニュースをもとめる際は、既存のバイアスを強化する方向で情報源を選択する傾向があります。
私たち自身の信念は保守的なものだったり、リベラルなものだったりします。
ゆえに私たちは、保守的なニュースだけ、またはリベラルなニュースだけを見がちになるということです。

この視点から評価していくと、中道派の情報源さえも、中道ではなく左右に傾いていると考えるようになります。これが「評価バイアス」です。

これを回避して、より全体的な情報を獲得するためにどうすればよいか。そのためにはあなたの「評価バイアス」にチャレンジするような情報源を選ぶ必要があります。

そのために偏見のスペクトルとして、「情報バイアス」表を提示します。参考にしてください。
ということだが、私は右半盲のウルトラ・バイアス人なので、左半分だけ見るとこうなる。  

 

リベラル

中道

報道

 PBS

AP Reuters BBC  Bloomberg ABC CBC 

論評

BuzFeed WashintonPost NewYorker theguarudian THE_HUFFINTON_POST
TRUTHOUT CurrentAffairs Jacobin

 NYTimes Time Forbs Fortune CNN


WashintonPost がリベラルとは、この記事も相当のバイアスぶりだ。この他に極左として
Patribotics BipartisanReport Wonkette   Jacobinなどが掲載されているが、聞いたことがない。
一度あたってみることにする。

 

*Patribotics は個人ブログに毛が生えた程度のもので、この半年間は更新が止まっている。
*Wonkette も投稿者が多いツイッターで、あえて訪れるほどのものではない。
*Jacobin はサンダーズ陣営の準機関誌みたいなサイト。ニュースと言うよりも社会評論が中心

1月19日の日経日曜版のトップは米国債の動向についての海説。後藤達也記者の署名記事だ。私の所感を交えつつ記事を紹介する。

1.米政府の債務が途方も無い水準になっている

世界経済で最大の問題は米中摩擦だが、金融に絞ってみると一番の懸念はアメリカの財政赤字だ。

赤字額は単年度で1兆ドルを超えた。債務残高(累積赤字)は年間GDPの額と同じだ。これは第二次世界大戦の直後以来の数字だ。

借金が増えれば当然利子もかさむ。利払いは年間4千億ドルに膨らんだ。

2.トランプ減税と赤字

財政赤字の原因ははっきりしている。大型減税だ。就任後3年、そのための歳入欠陥により財政赤字は5割増えた。

医療費なども歳出を押し上げている。これは医療・薬品・保険業界の法外な要求を丸呑みしているからだ。

3.債務は国債で相殺されている

債務が国債の発行でカバーされるのは当たり前の話だが、他の国では当たり前ではない。

日本のように国債が国内で消化されるのなら、それで回らないこともない。しかし多くの国では対外債務となる。アメリカも例外ではない。

しかし返済能力に不安が生じれば、国債は見向きもされなくなる。外貨は逃避し、通貨は暴落し、悪性インフレが襲来し、あっという間にデフォールトを起こす。

4.しかし米国債は絶好調だ

米国が財政危機にあるのだから、米国債も危機にあるはずだ。外国の資金が逃げ出しても不思議ない。なのにますます米国債は買われるようになっている。

それでも1%以上の金利が付けばマイナス金利の独仏に比べ御の字である。日本などは買おうと思っても、そもそも市場に国債がない。

株高にも関わらず国債も売れる。10年物の利回りは1年前より0.1%低下した。すなわち買付価格は上昇した。
株との間に奇妙なウィン・ウィン関係が成立し、国債高が株高を支えている。

5.誰が米国債を買っているのか

数字があまり系統的に掲載されていないので、よくわからないが財政赤字が年間1兆ドルとすると、その多くが国債残高の増加分となる。

その中で、外国人が持つ国債の増加分は4700億ドルとされる。単純化すると、新規発行分の半分は外国人が買ったことになる。ちなみに一昨年は600億ドル程度だったようで、8倍の激増だ。

国別に見ると、日本が1200億ドルを占めダントツである。中国は逆に400億ドルを減らしている。欧州はまとめても日本をかろうじて上回る程度だ。

つまり、日本(とアジア新興国)が米国の財政赤字、財政危機を支えている構図となる。

6.この道は「持続不可能な道」

この奇妙な蜜月関係は、しかし最初から絶望に終わる運命を担っている。

利払い費は20年に4600億ドルに達する。そして25年には7200億ドルに達すると見られる。これは現在の国防費7000億ドルを上回る。

チャールストン大学のバンデンバーグ教授は「米財政は持続不可能な道を進んでいる」と指摘する。

これは自然死への道をたどったとしての仮定であるが、おそらくその前にさまざまな形での資金ショートがやってくるだろう。

いずれにしても「最後の日」は遠くない。そのときまっさきに火だるまになるのが日本であろう。

その3

FRB、マネー制御難しく
短期債を月600億ドル購入、長期債は温存
金利安定を急ぐ

ワシントン駐在の川浪記者の署名記事

リード部分

短期金融市場の資金が逼迫している。短期金融資金の不足は短期金利の乱高下を招いている。
FRBは短期国債を月600億ドルづつ買い入れると発表した。

量的緩和の後始末としての量的縮小が、今回の短期資金不足の原因となっている。

FRBはバランスシートを再び拡大することになり、金融政策の「正常化」は一段と遠のいた。

一連の経過は、量的縮小が予想以上に困難であることを示している。

11日のFRB発表の概要

① 短期債の購入を開始する。
② 「これは現在の金融政策を変更するものではない」

量的縮小と短期金利の経過

リーマンショック以降10年でFRBの金融資産は4.5兆ドルに達した。

17年から量的縮小に転じ、これまでの2年間で3.9兆ドルにまで減少した。ただしショック前の資産量は1兆ドル足らずだった。

しかしその量的縮小の影響が短期資金市場にシワ寄せされた。市場から余剰資金が吸い上げられ、民間銀行がFRBに預ける準備預金は3分の2にまで減少した。これが短期金利の乱高下する理由となっている。

政策金利は2%弱なのに、銀行間金利は1時10%まで急上昇した。FRBは引き締めすぎたとの声が上がっている。

7月以降2度にわたる利下げが続いている。今月末に追加利下げが行われたとしても、もはや利下げ効果は期待薄である。
とすれば量的緩和に再び頼らざるを得なくなる可能性が出てくる。

量的緩和の今後

たしかに通貨量は不足している。グローバルには新興国の経済発展がドル需要を高めている。国内的には、財政の拡大と赤字幅増大が民間マネーの吸い上げを引き起こしている。

量的緩和はたんなる金融政策ではなく、経済の拡大に伴う必然的な経過という側面もある。

記事の最後は次の言葉で結ばれている。
量的緩和後のマネーの流れは、いまだに金融当局すら予期できずにいる。
その先にナイアガラが待っているのかどうかは誰にもわからない。


リーマンショック以来の連銀の金融政策は基本的には量的緩和であった。というより金利はすでにゼロ金利まで済ませており、それ以上やるとすれば量的緩和しかなかった。
だから、景気が回復したとき連銀が真っ先にやりたかったのは量的縮小であり、その後に適正金利への復帰という路線であったろうと思う。
私としては以前から気になっていたのだが、量的引き締めのテンポが早すぎたのではないか。
金利の上げ下げは見せやすい。トランプももっぱらそちらに目が向いている。
しかしこの10年間、もっとも有効な金融施策は量的緩和だったのであり、通貨量の調整こそもっとも慎重に行うべきではなかったのかという思いがある。

ということで、この記事には非常に興味があった。

1.ウォーレンに注目すべき理由

これまで我が国の、とくに左翼層の中ではウォーレンはあまり注目を浴びて来なかった。

彼女はエスタブリッシュメントに片足突っ込んでいるし、「社会主義」という過激な言葉も口にしない。

しかし、彼女は1%の富裕層の懐ろにいかに腕を突っ込むかという点では十分に過激だ。

これまでの所、議論の方向としては、サンダースが「民主的社会主義」というスローガンで、正義の社会のイメージ構築に勢力を注いでいる。これに対しウォーレンは、いかに富裕層から金をむしり取るかという議論に集中している。

それはなかなかクロウト受けする議論である。世界の未来を占う上でも、たいへん興味のある、実りのある議論になっている。

おそらくウォール街の銭ゲバたちにとっては、ウォーレンのほうがはるかに気にかかる存在、一番出てきてほしくない候補なのではないだろうか。

サンダースが心筋梗塞で倒れてしまったから、というのでなく、まじめに、21世紀の資本主義にどう立ち向かっていくのかという観点から、ウォーレンの議論を検討して見る必要があるだろう。

2.ウォーレンとは誰か

まずはウィキペディアから。

エリザベス・ウォーレン。今年70歳を迎えた。サンダースほどではないが決して若くはない。

まずこの年齢を我々はしっかり受け止める必要がある。今世界中で、この歳の人間が立ち上がる必要があるということだ。

彼女は1949年、オクラホマで「中流階級の底辺」として生まれた。12歳の頃、父は心筋梗塞で倒れて働けなくなった。彼女は叔母が経営するレストランでウエイトレスとして働いた。

NASAのエンジニアと結婚し専業主婦となったが、娘が2歳になると法学部に進学した。1976年に司法試験に合格し、自宅で弁護士の業務を開始した。

彼女は必ずしも法学者としてのエリートキャリアを上り詰めてトップに来たわけではない。テキサス大学、ペンシルベニア大学、ハーバード・ロー・スクールと積み上げてきた。

おそらくは、かなり論争的で戦闘的なリベラルの代表格として注目される存在であったのだろうと思う。

それが2008年のリーマンショックを機に、政界に踊り出ることになった。

オバマ政権は「不良資産救済プログラム」(TARP)を立ち上げ、その監督のために議会監督委員会メンバーを組織した。ウォーレンは乞われて議長を務めた。

彼女は一気に多忙となり、大統領補佐官、消費者金融保護局の顧問を兼任した。

マイケル・ムーアの映画などに出演し、知名度が上がっていった。

この後のウィキペディアの記載は一方的であり、あまり論理的とはいえない。


3.今必要なのは「勝てる候補」なのか? 「勝つにふさわしい候補」なのか?

いまやバイデンでもウォーレンでも、ひょっとすればサンダースでも勝てるかも知れない情勢になっている。

とすれば大事なのは、「どう勝つのか」ということになる。バイデンで勝っても勝ったことにはならない。ではウォーレンならどうなのか?

フェイスブックのザッカーバーグは「それは最悪だ」という。まずウォーレンはIT大手について、市場を独占し「競争を無力化している」と主張している。

仮にウォーレンが民主党の指名を獲得すれば、ウォール街の大口献金者は共和党のトランプ大統領支援に回るだろう。だがもしウォーレンが勝利すれば、それは自殺行為となるかも知れない。

ここまで主旨を貫けるのであれば、私たちはウォーレンで十分である。はたしてどうだろうか?

4.ウォーレンの政策

そんな状況の中ではじめて日経(10月7日号)がウォーレンの政策を正面から取り上げた。

最初にも取り上げたように、ウォーレンの政策はバラ色の未来を語ることをしない。その代わりに1%の富裕層を徹底して糾弾し、いかにして彼らから金をむしり取り草の根の大衆に振り分けるかに集中している。

その2つの柱がトランプ減税の見直しと富裕層への課税強化策である。

① トランプ減税の見直し

トランプ減税は法人税を35%から21%に引き下げた。これを35%に戻す。
ただしこれをすべての企業に適用するわけではない。法人税再引き上げの対象となるのは、全世界での税引き後利益1億ドル以上の企業のみである。
これは約1200社が対象となるだろう。

② 富裕層減税

最上位層への課税を強化し、10年間で3兆ドル(300兆円)の税収を確保。
これにより改装への社会保障給付を引き上げる。引き上げ幅は25%に達するだろう。

③ いくつかの独占禁止措置

トランプが破棄したグラス・スティーガル法を復活させる。
GAFAを分割し、権力の集中を排除する。
金融機関監視委員会の機能をさらに強化させる。

このように5寸釘を脳天にブスブス打たれてはさすがのGAFAも年貢の納め時というものだ。

まことに驚きました。寝耳に水、まさかこんな線があるとは思いませんでした。

これまで私の書いてきた情勢分析は一体何だったのでしょうか。茫然自失とはこのこと、しばらく自信喪失です。

「日米同盟を重視する知日派としても知られており、安倍政権とも太いパイプを持つ」(毎日)とされ、安倍首相にはかなりの衝撃だろうと思います。一連のファッショ的路線は、トランプを取り込んだボルトン+ネオコンを本筋と読んでの判断だったと思います。

一番気になるのは、トランプの「彼の提案の多くに私は強く反対してきた。他の政権メンバーも同意しなかった」というセリフです。

いちど、ボルトンが安保担当補佐官に就任して以来の変更事項を総ざらえしてみなければなりません。

イラン核合意、中距離ミサイル(INF)に関してのサイドの変更があるのか。イスラエル政策や対中政策、中南米政策に変更があるのか。



本日早朝5:36の入電(現地は10日の夕方)
日本経済新聞ワシントン支局永沢毅記者の第一報だ。

ツイッターを通じて解任するのはこれまでと同じだが、言い方ははるかにきつい

昨夜、ボルトン氏にホワイトハウスにはもう要らないと伝えた。…だから私は辞任を促した。

ポンペオ米国務長官が直後に記者会見した。彼は「トランプ大統領とボルトン氏は多くの点で意見の違いがあった」と語った。ポンペオにまでそう言われるんだから、ボルトンの暴走ぶりはすごかったようだ。

ニューヨークタイムズ紙によると、トランプ政権の安全保障チームは、もともと大統領を抑制する任務を負っていた。しかし後にはトランプ自身がボルトンを抑制するようになっていた。

10:36 のCNNニュースではこう書かれている。
ある政権高官の話によると、トランプ氏はイランやベネズエラ、アフガニスタン情勢などをめぐるボルトン氏の発言に対し、いら立ちを募らせてきた。

解任の直接の背景は、米軍が長期駐留するアフガンへの対応だと書いている。最近のアフガンがらみの政権内協議に、ボルトンは出席していないという。

済まないが最近のアフガン議論は記憶にない。何かそんなに揉めていたっけ?

産経の黒瀬記者の第一報(01:33)には、
トランプはタリバンを大統領山荘キャップデービッドに招くつもりだった。ボルトンはこれに強力に反対した。
となっている。これは先程のCNNニュースでも確認されている。

しかし後知恵になるが、わたしはイラン爆撃をいったん承認し取りやめた事件が一番ではないかと思う。

高橋浩祐の公式サイト

イランが6月20日にアメリカの無人偵察機を撃墜した際、ボルトンはその報復としてイラン攻撃を主導した。しかしトランプが「FOXニュース」のキャスターの助言により攻撃を回避した。
トランプはその後、ボルトン氏を「タカ派」と呼ぶようになった。

BBCの記事で、トランプは「ジョンには気に入らない戦争なんかないんだ」と冗談を言ったことがある。
borutonn
とここまでがニュース。

次は同じく日経新聞の本日15:46のニュース

ツイッター発表から90分後のポンペオ会見の詳報で、おそらくワシントンの最終初だろう。無署名だが永沢毅記者のものだろう。かなり重要なニュースだ

解任は驚きではない。ボルトン氏と私の意見の相違は多かった。

会見にはムニューシン財務長官も同席しポンペオ見解を補強した。

イラン制裁では制裁をさらに強化する一方、9月下旬の国連総会でトランプ・ロウハニ会談を“無条件”に実現することに前向きな姿勢を示した。

これは13:30のBBCニュース。事実とすればかなりのスクープだ。

トランプ政権の元高官は匿名を条件に語った。

本来なら大統領に政策助言を行う国家安全保障会議(NSC)が、ボルトン補佐官の指揮の下、ホワイトハウス内で独立した存在へと変化していった。

「ボルトンは、ホワイトハウス内のほかの人から独立した状態で仕事をして」おり、会議には出席せず、自らの戦略にこだわっていた。
…ボルトンは大統領に『あなたの優先事項は何ですか』とは尋ねなかった。ボルトンの優先事項を大統領のものとしている」
ボルトン氏は、「自分のやり方が気に入らなければ結構」というスタンスで、大統領を含む、政権内の多くの人を激怒させた。

BBCニュースの内幕暴露はさらに続く。

トランプはロウハニ大統領との会談に前向きだったが、ボルトン氏はこの提案に反対していた。

北朝鮮との2回目の会談が物別れに終わった際には、政権内からボルトン氏を非難する声が上がった。

トランプはキャンプデイヴィッドで予定していたタリバンとの「秘密会談」を取り止めた。これはボルトンが強硬に反対したためだった。

トランプ氏は今春、ヴェネズエラをめぐる外交政策が失敗に終わった際に腹を立てた。マドゥロ大統領を退陣させることは簡単だとボルトンが説明したが、そのことで、トランプ氏は判断を誤ったと愚痴をこぼした。

BSドキュメンタリー「偽りの後見人」がすごい。
見ていてふとハメットの「血の収穫」を思い出した。「悪」が10階建てで積み上がっている。
最初にこの壁を見せられたら絶望するしかない。しかしこの絶望の城壁を、人々は「絶望しながら」登っていくのだ。
まさにハードボイルドだ。大変に塩っ辛いが、リアルで、したがって感動的だ。
いまならまだネットで全編閲覧可能なので、ぜひご覧頂きたい。

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1.トランプ減税の意味

トランプ米大統領の政権と与党・共和党は2017年末、法人税を1兆ドル減税する法案を強引に議会で通過させた。

財政赤字は1兆ドルになると米財務省は予測している。これは、景気後退期を除く平時の単年度としては、どの国も経験したことがない巨額の赤字である。

2017年の税制改革パッケージが史上最も逆進的で、時宜を得ない税制法案だったということを理解しつつある。
何百万もの貧困世帯や未来の世代が、億万長者のための減税のツケを払っていくのである。

企業は労働者にスズメの涙ほど還元した後、利益のほとんどを自社株の買い戻しと配当に回してきた。

経済全体の生産性が向上したとの証拠はない。それに対し、社会と個人の脆弱性と格差が拡大したとの証拠はあり余るほどある。

米国の平均寿命は先進国の中で最も短いのに、この税制法案は健康保険の加入者が1300万人減少するように設計されていた。

2.トランプと1%の人々の目指すもの

1%の人たちは、市場経済のルールを書き換えようとしている。
特に金融セクター(ウォール街)は、GDPの2.5%から8%にまで成長し、ルールの書き換えを先導している。

彼らは多数者の費用によって少数者を利し、経済の生産性を阻害しようとしている。それが目先の利益を追い求める短期的思考を生み、経済・人財・技術への投資不足につながり、生産性の向上を鈍化させた。

こうしたルールの書き換えが誤りだった。それをもう一度「もっと平等になるように」書き戻すべきだ。




田中宇さんのブログを読んでいて、どうも話が良くわからない。目眩いがしてくる。

軍産の世界支配を壊すトランプ - 田中宇 その他

これはどうも、私が「軍産複合体」の定義を曖昧にしたまま話を勧めているからだと気づいた。

すこしウィキペディアその他で基礎勉強をしておくことにする。

軍産複合体(Military-industrial complex)とは、軍需産業を中心とした私企業と軍隊、および政府機関が形成する政治的・経済的・軍事的な勢力の連合体を指す概念である。

この概念は特にアメリカ合衆国に言及する際に用いられ、1961年1月、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領が退任演説において、軍産複合体の存在を指摘し、それが国家・社会に過剰な影響力を行使する可能性、議会・政府の政治的・経済的・軍事的な決定に影響を与える可能性を告発したことにより、一般的に認識されるようになった。アメリカでの軍産複合体は、軍需産業と国防総省、議会が形成する経済的・軍事的・政治的な連合体である。

軍産複合体の概念を広く知らしめたアイゼンハワーの退任演説は1961年1月17日に行われた。なお、演説の最終から2番目の草案では、アイゼンハワーは最初に「Military-industrial-congressional complex(MICC)、軍産議会複合体」という概念を用いて、アメリカ合衆国議会が軍事産業の普及で演じる重要な役割を指摘していたが、アイゼンハワーは議会という語を連邦政府の立法府のメンバーを宥めるために削除した。
いわゆる「レーガン革命」は軍産複合体の優位性を建て直した。ジョージ・メイソン大学のヒュー・ヘクロのいわゆる「防衛官僚により聖別されたアメリカの展望」でロナルド・レーガンは、1980年代から共和党の合い言葉になり民主党の大半も同様だったやり方で、国家と国家の安全の状態をプロテスタントの契約神学の覆いの下に隠した。
ブッシュ家は、軍産複合体を生業としてきた。第43代大統領の曽祖父サミュエル・ブッシュはオハイオ州で兵器を製造していたバッキー・スティール・キャスティング社を経営していた。
祖父のプレスコット・ブッシュは東京大空襲の焼夷弾E46の製造社に関与していた。
父ブッシュはCIA長官、副大統領、大統領時代において、海外との兵器貿易を押し進めた。

冷戦終了後の1990年代、兵器メーカーは議会工作を強めた。献金を受けたタカ派シンクタンクが仮想敵国の軍事的脅威を強調した。

有力なロビイストが国防関係の議員達に働きかけるようになった。1997年だけでもロビー活動費として5,000万ドルが費やされ、870万ドルが1998年にかけての選挙資金として提供された。
レーガン政権時代には、多くの反対を押し切って「スターウォーズ計画」が進められた。15年間に550億ドルの巨費を投じられたが、具体的な兵器は一切完成しなかった。
1990年代、ホワイトハウスは「イラン」「イラク」「北朝鮮」の3カ国を「ならずもの国家」と名指しし、他に、「スーダン」「シリア」「キューバ」などを敵視した。これは多大な軍事費を引き出すための呼び水となった。
2001年の9・11同時多発テロのあと、アメリカの軍事費は一気に増額し、国防総省の総予算は3,750億ドルに膨れ上がった。
アフガニスタンとイラクでは、主戦闘以外のあらゆる侵攻作戦上の業務を米国の民間会社へと委託するようになった。戦争そのものが新たな産業として確立した。
新型兵器の開発も一段と進んでいる。F-22「ラプター」戦闘機や「ジョージ・H・W・ブッシュ」、「ジェラルド・R・フォード」原子力空母が新たに配備された。防衛研究費だけでもGDPの1.2%に上る。

21世紀になると、軍産複合体という概念は米国のそれに対する固有名詞となった。

軍事産業は巨大な労働市場を提供するようになった。四軍の基地も有力な就職先を提供しており、議員選挙時の支持票とも密接に結びついている。
ユダヤロビーについてはここでは省略する。
下記記事を参照されたい。


ということで、古典的にはアイゼンハワーの時代から続いていることになっているが、現実的に目に見える存在となったのはレーガンの時代からだということで、意外に新しい事象なのだ。

レーガンというのはただの見栄えの良い置物で、実体としては父ブッシュが仕切っていた。だから実質的には2期勤めたようなものだ。

この時期はさきに上げたキッシンジャー、ベーカー、シュルツ、ヘイグらの国務長官と時節を合わせている。クリントンが2期勤めた後、子ブッシュが政権を取ると副大統領にチェイニーが就任し政権を牛耳った。

政策的には幅があるものの共和党の中でも右派に属する集団であろう。固まった機構とか社会構造というよりは、政治的ムーブメントであり、しかも“欲と二人連れ”といってもおかしくないくらい利権色が濃厚だ。日本でいうとかつての「原子力ムラ」がそれに近い存在かもしれない。

田中宇さんはボルトンは「タカ派」であって軍産複合体の主流ではないとしているが、歴代国務長官がボルトンを推薦しているという事実は受け止めておくべきだと思う。やはりそれはシステムと呼ぶべきではないだろうか。

ということで、国務省官僚出身者と共和党の右派政治家を頂点とし中央・地方の軍事関係者、さらにユダヤロビーや南部プロテスタントなどを巻き込む、巨大な反共と利権の集団であり、民主党といえどもうかつに踏み込めない領域になってるものと予想される。(民主党版の軍産複合体もある)

とりあえず上記のごとく把握した上で、田中さんの記事を読むと、どうも少しづつ枠組みがずれて居るような気がしてくる。これがめまいの原因だろう。

ジョン・ボルトンと彼を支える「システム」

はじめに

前回、ハノイの米朝首脳会談が潰れたとき、テレビのニュースを見ていて、「アッ、こいつが潰したんだな」とかんじたので、なんの論証もなくそのまま文章にしました。

それが以下の記事です。
この話には伏線があって、第一回目の首脳会談のときにも妨害活動の先頭に立ったのがボルトンだったのです。
それについて書いたのが下記の記事です。

私の第一感は正しかったようです。まもなくニューズウィークがそれを裏付ける記事を組みました。それが下記のものです。

ハノイのボルトン
  1日目の会談に出なかったボルトンは突如2日目に会談に姿を表した
ボルトンは、ハノイでの27日夜の夕食会には出席しなかった。
米朝会談の2日目、突然ボルトンがこれみよがしの席に着席した。会談の準備を進めてきたビーガンは後方席に座った。
周知の通り、その後会議は流産した。トランプは本気で会議を成功させようとしたのに、どうしてか。

韓国統一部元長官がこう語っている。
会談2日目の28日朝の時点では「ほぼ100%楽観的」だった。
しかし土壇場になって、ボルトンが「核兵器だけでなく、保有する生物・化学兵器についても報告義務を課す」と言い出した。
この結果、会議は合意に至らなかった。

ニューズウィークは不思議なことにそれ以上は掘り下げず、もう一つの謎に迫ろうとしない。「なぜトランプはボルトンのちゃぶ台返しを許したか」を書いていない。しかしそれは明らかに取引だ。

米朝交渉の流産と、ロシア疑惑追及の中止をトレードオフするという取引だ。現にロシア疑惑はうやむやに幕引きされようとしており、トランプ再選の芽すら出てきた。
それをできるのはFBIにこれ以上の追及を思いとどまらせる力を持った「システム」だけではないか。ボルトンはその「システム」の尖兵と考えるべきであろう。



今後のこともあるので、この際ボルトンについてのまとめ記事を掲載します。

1.ボルトンの経歴と実像

ウィキペディアによれば
ボルトン(John Robert Bolton)は1948年ボルチモア生まれ。
1970年にイェール大学を卒業、1974年イェール・ロー・スクール修了。
高校時代からゴールドウォーターの選挙運動に参加するなど保守派で、転向者という意味でのネオコンではない。親イスラエル派、親台派の代表的人物と見なされている。
ヘルムズ上院議員の補佐官を経て国際開発庁および司法省に勤務した。クリントン政権期は保守系シンクタンクに在籍し、クリントン批判を続けた。
2001年、ブッシュ政権によって国務次官(軍備・安全保障担当)に任命された。金正日を「圧政的な独裁者」と呼び、北朝鮮で生きることは「地獄の悪夢」などと発言した。北朝鮮はボルトンを「人間のクズ」と評した。
対イラク開戦では開戦推進派として戦争への流れをつくった。彼は大量破壊兵器疑惑が誤りだったと判明したあとも、戦闘継続を主張した。

2.ボルトンの国連観

2005年、国際連合大使に任命されたが、上院で承認されず未着任のまま満期辞任する。
しかしこのときの推薦名簿は、そのまま彼の支持母体を示している。ウィキペディアによれば、5人もの共和党政権の国務長官が連名で推薦した。すなわちキッシンジャー、ベーカー、シュルツ、ヘイグらである。これがおそらく「システム」の国務省系列であろう。
ウィキペディアによれば彼の国連観は以下のようなものであった。
「国連などというものはない。あるのは国際社会だけで、それは唯一のスーパーパワーたるアメリカ合衆国によって率いられる」

浪人中は極右の大物としての発言を続けた。
イランの核爆弾を止めるために、イランを爆撃せよ(To Stop Iran’s Bomb, Bomb Iran)
イランへの爆撃や北朝鮮への先制攻撃も主張している。
またオバマの広島訪問を「恥ずべき謝罪の旅」と強く批判している。



3.「悪魔の化身」となったボルトン

トランプは大統領選挙のさいにボルトンを国務長官候補として検討していた。そして3月にマクマスター大統領補佐官を電撃解任したトランプは、ボルトンを後任に任命した。
3月29日、ボルトンと会った当時の「狂犬マティス」国防長官は、「あなたのことは悪魔の化身だと聞いている」と挨拶している。
4月9日、国家安全保障担当補佐官に就任したボルトンは、1回目の首脳会談を前にして突如「リビア方式」を提唱。日本や韓国のタカ派と共謀して会議の流産を図った。
会談のぶち壊しに失敗したボルトンだが、今度はシリア軍事攻撃をトランプに強くもとめた。さらにアサド政権の後ろ盾であるロシアやイランへの対処を含む「より大きな戦略」を訴えた。
その後も中距離核戦力全廃条約(INF)の破棄や、イラン核合意からの離脱を推進した。18年秋には、国防総省に対し、イラン空爆のための軍事オプションを提示するよう求めた。
こうしてただの反共ポピュリストに過ぎなかったトランプは、極右のハードライナーとしての姿勢を露わにしていくことになった。


景気減速という暗雲が漂い始めている。とくにそれをもたらしているトランプ政権の横暴に懸念が集まっている。
Oct18産経

IMFや世銀は、「米国の景気次第で世界が景気後退入りする」とコメントしている。
主要国GDP予測
米国の景気後退入りは、すなわち世界経済の大きな転換を意味する。
鉱工業生産
主要国の金融緩和であふれたマネーは、景気悪化を懸念し米国債を買いに集まっている。米国債10年物金利はこの半年で1%も低下している。
一方で、貿易を巡る緊張は高まったままだ。いくつかの大きな新興国市場や途上国経済は資金不足を経験しつつある。
新興国投資

米国は量的緩和策とゼロ金利を6年続けた。消費者支出と投資が回復し、アメリカ経済を景気後退から引き戻した。

これが各国の輸出を促し、日欧の苦境を救う結果となった。その代償として米国以外の国のドル建て債務は9兆ドルに達した。

長期の低金利により、金融システムが疲弊している。今や銀行間の金融市場は機能せず、証券市場と為替市場が景気を左右するようになっている。

FRBは金利引き上げは慎重だが、マネタリーベースの年間マイナス11%超という金融緊縮路線は続けている。
FRBの路線は、低金利=株高の継続を目論むトランプ政権と矛盾し、先行きを不透明にしている。

土曜の朝のテレビの目玉は衛星第一の、ニューヨークだよりである。
日本語の堪能な青年がニューヨーク現地のトピックを伝えてくれる。その独特の切り口、語り口が面白く、毎回愛聴している。
それが23日の朝は「始まった大統領選挙」ということで、ニューヨークの市民の声を拾っていた。画面に流したのは左派、右派、中間派と一通り並べた無難なものだったが、その後にレポーターがとんでもないことを言ってしまった。
「いろいろ意見はあったが、驚いたことに、8割以上が“民主主義的社会主義”を支持していた」と発言してしまったのだ。日本のスタジオでこの発言を受けた二人の女性キャスターはあせった。
「その感想がたまたまの偶然であったのだろう」ということをレポーターに念押しした。向こうも雰囲気を察したらしく、その後は言葉を濁し次の話題に移っていった。

ニューヨークでは先日の下院選挙で27歳の“オネェちゃん候補”オカシオ・コルテスがぶっちぎりの勝利を上げたが、その目玉は皆保険制度と奨学金だった。
この2つでの国民の要求は強烈なものがある。共和党はこれを社会主義の脅威だと攻撃している。民主党の主流派もイマイチ煮え切らない。
そこで多くの市民が「社会主義でもいいんじゃないの」と感じ始めている。
そのことは私も度々指摘してきたが、この度の発言で、その浸透ぶりが想像以上のものだということがわかった。

とりあえずの最大の話題は、「民主的社会主義」の言い出しっぺ、サンダースが大統領候補になれるかどうかということだが、なかなか道程は遠いだろうし、反共攻撃も激化してくるだろう。とくに中西部でトランプに流れた「不安な労働者」層を以下に奪回できるかどうかが鍵になるだろうと思う。今後とも注目していきたい。

ブロゴスでサンダースがグリーンスパンを相手に行った質問(というか糾弾)を紹介している。

サンダースと連邦銀行議長グリーンスパンとの論争」という題名で保立道久さんが執筆している。

保立さんという方は、本職は歴史学者のようだ。大変背筋の通った文章を書く人で、サンダースに惚れ込んでいるようだ。

サンダースの議会発言についてだが、サンダースは何度も上院で質問しているようだ。その一つがYouTubeにアップされ、それを保立さんが紹介したという経過らしい。
Bernie Sanders tell Alan Greenspan, in 2003, that Americans are not living the way that Mr. Greenspan imagines they are.
と紹介されている。
あなたは我々の国の中流や働く人びとの方をむかず、強大な企業の利害を代表してばかりいる。
億万長者のカクテルパーティの方ばかり見るな。あなたは数千万の労働者を侮辱している。

あなたが正直な人間であることは知っているが、あなたは現実世界で何が起きているかを知らない。
中流階級の崩壊、巨大な格差、普通の家庭からは大学にもいけない。これはあなたの時代に起きたことだ。

それにも関わらず「経済はよくなっている」というのか?
最低賃金を抑え、飢餓賃金を強制し、億万長者には減税…
一体あなたは何をやっているのか?
サンダースの批判にもかかわらず、グリーンスパンはそのウォール街優遇や最低賃金の抑圧方針をかえなかった。

そして金融緩和一本槍の方針をとり続けた。
結局、彼はリーマンショックの後、自己の誤りを認めるところに追い込まれた。

サンダースは議会で、「あなたのイデオロギーがまずかったのではないか」と詰めよった。
これに対しグリーンスパンはこう答えた。
私のイデオロギーに欠陥があった。それがどの程度の意味をもち取り戻せないものかはまだわからないとしても、非常に苦しんでいる。
最後に保立さんはこうコメントしている。
リーマンショック後のグリーンスパンは真面目な人だけにショックは強かったようだ。 しかし、個人はどうあれ、客観的には、ようするにマネタリズムとは無能と不作為の弁明…にすぎない。
アメリカ特有の実務学問である。


これについての私の感想。

そういうのをプラグマチズムというのではないか。さらに言えばマネタリズムのプラグマチズム版だ。
現象を束にして実体であるかのように概念操作する。刺激→反応系で見ていくから一見科学的で“弁証法”的でさえある。
しかし、彼らは「物自体」に迫ろうとはしないから、結局「現実に盲る」ブザマなカント主義者に陥っていくのである。

サンダースのビジョンと言葉 
Morality and Justice May 9, 2016の演説

サンダースの政策とか調べたが、どうも羅列的で、いまいちピンとこない。
彼の思想は結局言葉で示されたものを、我が解釈しふくらませ、突き合わせ、整序していくべきものなのだろう。

ここではニュージャージーでの演説を取り上げている。下記は保坂展人さんが和訳したものである。


冒頭部 略

…大勢の人たちが長時間労働を強いられ、誰が見ても低い賃金で一生懸命働いています。それでも、家で待っている子どもたちがまともな食事にありつけるだけの収入は得られない。

そんな状況に正義はありません。

アメリカ合衆国が、世界の主要国の中でもっとも子供の貧困率が高いという状況に正義はありません。
私たちの国は、世界で最も多くの人間を投獄するために多額の金をつぎ込んでいます。それなのに、自分の国の若者たちに仕事や教育の機会を与えるための金を惜しむのです。

私たちの国は主要国の中で唯一、権利として全国民に医療の保障をしていません。
全員、神の子なのです。貧しい人も、病気になったら医者に診てもらう権利があるのです。

考えてみてください。この偉大なる国が持つ可能性を。

他の主要国と同様、すべての人に権利としての医療を保障できる国になれるのです。
あらゆる働く親が、安くて質の高い保育を受けられる国になれるのです。
あらゆる子どもたちが、親の収入に関わらず大学教育を受けられる国になれるのです。
あらゆるお年寄りが、尊厳をもって、安全に暮らせる国になれるのです。
あらゆる人が、どんな人種や宗教、障害、性的指向であろうとも、生まれながらに十分保証されている、アメリカ国民としての平等の権利を享受できる国になれるのです。

みなさん、私たちはそのような国を作ることができるのです。
ともに立ち上がましょう。人々を分断させてはなりません。

アメリカの歴史は、人間の尊厳のために闘ってきた人たちの歴史であり、もがき苦しんできた人たちの歴史です。
彼らは「私は人類の一員だ。私には権利がある。あなたには私を不当に扱うことはできない」と闘ってきた人たちです。

人々は労働組合を結成し、抗議しました。そして命を失い、暴行され、投獄されました。
大勢の人々が立ち上がり、闘うとき、彼らは勝利するのです。



サンダースの社会主義はきわめて倫理的なものである。それは魂を揺り動かす社会主義である。
道徳というのは天の道であり、正義とは個々人におけるその表現なのだ。

さらに諸個人・諸組織の関係が公正であること、生存権において平等であること、個人の尊厳にもとづいて権利が尊重されること、隣人愛にもとづいて福祉がもたらされていることなどが加わる。
そしてこれらこそは、「自由と民主主義」を奉じる現代社会において、強者の手によって著しく毀損されているものだ。

実はこれが社会主義なのではないか。ジャングルの掟にもとづく弱肉強食の世界が資本主義であるとするならば、社会主義はそのような資本主義へのアンチテーゼである。

それと同時に、社会主義は超歴史的に人類のあるべき社会を描いたものであり、今後、資本主義を超えたところに作られるべき未来の人間社会を描いたものなのではないか。







去年末に行われたアメリカの中間選挙について、日本では「トランプよくやった」論が蔓延している印象を受ける。一度しっかりした数字を把握し、それに基づいて議論すべきだろうと思う。

中林美恵子さんの「中間選挙における女性当選者の大幅増加」という文章から、要約紹介する。

反トランプを示した中間選挙

中間選挙としては過去100年で最高の投票率49.6%となった。

投票所に行った理由として、38%がトランプ大統領に批判票を投じるため、26%がトランプ大統領を支えるためと答えた。

女性投票者のうち59%は民主党に投票。共和党は40%にとどまった。一方で男性の51%は共和党、民主党に投票したのは47%であった。

30歳未満の若い有権者の67%が民主党に投票し、32%が共和党に投票した。

女性とマイノリティーが支えた民主党

選挙結果では、下院で民主党が共和党を約4%ポイント上回り(51.2%対47.1%)、上院では民主党が約15%ポイント上回った(56.9%対41.5%)

知事選挙では6つの州で勝利し、とくにラストベルト3州で知事を奪還した。また南部の「サンベルト」3州で善戦した。

上下両院の女性議員は総計126人で史上最高。新人議員は、そのうち39人を占める。民主党106人、共和党20人だった。有色人種の女性が47人、1人を除き民主党。

注意すべき数字

中間選挙直後のトランプ大統領の支持率は全体では38%だった。
しかし共和党支持者の中では91%にまで達した。共和党は「トランプ党」に変貌しつつある。

共和党がもっと大きく議席を減らすと信じていたリベラル派にとって、別の世界が着実に広がっている。

アメリカの民主社会主義

中間選挙後、米民主社会主義者(DSA)が声明を発表。
「私たちは、長年の停滞期を経て、米国の社会主義運動の復活を示した」と述べる。
オカシオ・コルテスら連邦議員に加え、州議会議員も含めて約40人を当選させた。
支援候補も健闘した。総計330人の候補を擁立し、そのうち90人が当選した。
2016年以来、DSAに5万人近いメンバーが加わった。カリフォルニア州やワシントンDC、メリーランド州など、海岸沿いのリベラルな地域を中心とする。

地方に根強い保守主義

地方の民主党は、この動きに強い反感を抱いている。都市部と地方の分断が深まっている。
都市部では民主党支持が計62%、共和党支持が計31%となっている。

一方、地方では共和党支持が計54%、民主党支持が計38%となっている。これは南北戦争前夜を思わせる分裂だ。

私のメディア上の進歩は、このブログを以って終わっている。
ケータイはガラパゴス止まりだし、ツイッターというのもさっぱりわからない。
メールボックスには、何やら知らないが続々と飛び込んでくるが、そのまま消してきた。
だいたい電話とか手紙とかが苦手な人間で、年賀状もやめて久しい。
インプット型人間には、情報はインターネットをサーフィンできれば十分である。活字、映像、放送とネットという4つの媒体を駆使して、情報をインプットするのが私のウェイ・オブ・ライフだ。

ただ、先日のファーウェイがらみのニュースで「GAFA」という言葉が頻出するのを見て、いまやフェースブックがマイクロソフトを抑えて、4強の一角を占めるということを知った。
電車の乗客の8割は黙々とアイフォーンに没頭している。一昔前には猛烈なスピードでメールうちしていたが、今やそのような光景は見られない。

こちらとしては昭和も知らずに大正から平成に来てしまった気分だ。基本的知識は持っておかないと、と痛感する今日このごろである。

ということで、前置きが長くなったが、勉強を始める。最初はグーグルで最初にヒットした文章。


というもの
斎藤美佳子さんブログの記事だ。
3つのアプリともSNSとよばれる。

Facebookはリアル重視
実名で登録することが条件らしい。私は最初から実名だから全然問題はないが、だからどうだというのだ。
友達申請というのがあって、別にそんなベタベタした友達はいないし、いればこんなもの使わずに別の伝達手段をとる。

「友達限定」というのは、メーリング・リストで送り込まれてくるサークルの回覧メールみたいなものだろう。
自分がその発信元になるということか。私はそのようなうざったいことはしない。

フェースブックは色んなブログの「購読」をする機能があるらしい。これが「フォロワー」という機能だ。
しかし、これも新聞社の記事一覧がわんさかメールボックスに溜まってくる状況はかえってうっとうしい。一時メールマガジンというのが流行って、私も田中宇さんとかルモンド日本語版とか何種類か購読したが、いまではすべて解約している。

「いいね!」したり、「シェア」したり!
ということができるそうだ。そういえば私のブログにもついていた気がする。
使ったこともないが、使われた経験もない。

結局、フェースブックというのはブログとメーリングリストの間くらいのものみたいだが、相変わらずよくわからない。それほどの世界的大流行をした理由がよくわからない。

Twitterは軽く、拡散力が高い
というのだが、軽いというのは短いということで、140文字以内なのだそうだ。
つまりは軽い会話、天気がどうだとか、日本ハムがどうとかいう範囲の話題だ。べつにそんな会話したくもない。喋りたくなったら近所の飲み屋に行くだけだ。
拡散力というのは「リツイート」という機能によるらしい。誰かが私の記事をフォローして、それを
#(ハッシュタグ)をつけてツイートすると、一気に拡散するのだそうだ。
どうもここがキモのようで、「いっきに拡散・炎上して知らない人にさらされたり叩かれることにも」なるらしい。
私のように、実名さらして無条件全面公開で最初からやっている人間にはあまり関係のない話だ。

それで使い方なのだが、多分基本的にはブログと大差ないのだろう。ただブログは文字情報の世界だが、ツイッターはシャベリの世界のようだ。それこそ一昔前に、女子高生がケータイのキーボードでしゃべっていたときの感じの世界だ。

知人から、「ブログは過去のアプリ。もっと読まれたいのならツイッター」といわれたが、多分それは違うだろう。ツイッターの人はブログは読まないだろうと思う。生きている世界が違う。


Instagram(インスタグラム)

インスタグラムは、写真を中心にしたSNSです。
画像にエフェクトをかけて、キャプションを添えて投稿されるのが一般的です。

というので、プリクラ感覚だろう。これも無縁の世界である。



ついで、フェースブック、ツイッター、インスタグラムがふくまれるソーシャル・ネットワーキング・サービス(social networking service)というのはどういう概念なのだろうか、それはブログとどう違うのかを調べることにする。

ウィキペディアによれば広義には、社会的ネットワークの構築の出来るサービスはすべてSNSである。だから一方通行でないサービスはすべてSNSになる。コメントやトラックバックつきのブログも広義のSNSに属する。
しかし普通はブログはふくまれない。では狭義のSNSとは何か。
それは人と人とのつながりを促進・サポートする、「コミュニティ型の会員制のサービス」なのだそうだ。いわば“囲い込み型で会話志向のブログ”と考えればよいのかもしれない。
つまりサービスの形態とか機能よりも、その目的によって規定されたネットワークなのである。

ただ面倒なのは、ツイッター社は「ツイッターはSNSではない」と否定していることである。
では何なのかと言うと、「社会的な要素を備えたコミュニケーションネットワーク」なのだそうで、よくわからない。

実はフェースブックとツイッターだけでなく数多の運営会社があったようだが、この間かなり淘汰されているらしい。

私が聞いたことがあるものをあげておくと、Ameba、Google+、LINE、LinkedIn、mixi、Skypeなどがある。

それで会社はどうやって儲けているかというと、広告収入なのだそうだが、それが結構怪しい。

登録情報や様々にサービス側に蓄えられた履歴情報などをもとにターゲティング広告が、インフィード広告などでユーザーに露出する。

のだそうで、アドレスをかき集め、利用者を監視する側の補償金みたいなものだ。あまり利用したいサービスではない。

 
ということで、あまりやってみたいと思うサービスではない。とりあえず、ブログでごちそうさまだ。
むしろ私に必要なのは、“情報の後方基地” ブログの記事を整理して図書館分類で閲覧可能にするサービスである。いわばレポジトリ作成機能だ。とりあえずはディレクトリ作成機能でもよい。
まさにAIの必要となる場面である。これ自体は余り金にはならないから、有料サービスになるかもしれない。
類似サービスがないか、ネット上を検索中である。


それを社会主義と呼ぼうじゃないか  再論

2年半前に「それを社会主義と呼ぼうじゃないか」という記事を書いて、あまり反響があったわけではないが、実はこのキャッチフレーズを気に入っている。

「社会主義」という思想
記事はバーニー・サンダースの民主的社会主義について語ったものだが、実は「バーニーの言っているのは社会主義じゃないよね」というのが本音だ。
バーニーの主張を聽く限り、彼は「遅れてきたニューディーラー」に過ぎない。
にもかかわらず、彼はあえて自らを社会主義者と規定するのだ。
なぜなら、かつてFDRが社会主義者呼ばわりにひるまずに、改革を成し遂げたように、バーニーも社会改革を目指すからだ。

あえて「社会主義」という意味
アメリカは異常なまでの反共主義の国だ。リベラルとか民主党と言っただけでもアカと同じだとみられる。「9.11」のあと、私たちはこの国の内包する狂気を垣間見せられた。それは強烈な体験だった。
そこであえて社会主義を名乗ることの意義を、我々ももう一度とらえて見る必要があるのではないだろうか。

社会主義と民主主義は表裏一体
社会主義というのは民主主義と裏表の関係にある考えなのだろうと思う。
「国民が主人公」というのを政治的な平等にひきつけて捉えれば民主主義だが、経済的な平等にひきつけて捉えるならそれは社会主義ということになる。

経済的平等と社会主義
もちろん政治的な平等が権利としての平等であるように、経済的な権利も権利としての平等である。所得を平等にということではない。そこには「才能と教育に応じて」平等にとか、「市場原理を勘案して」平等にとか入ってくると思う。何よりも公正と正義が求められる。能力の差を超えた「格差」が忌避される。
要はその辺もふくんでの「同一労働・同一賃金」である。それと同時に社会としての福祉と人間としての尊厳が守られる最低線が引かれる必要がある。

社会主義の本家あらそいは不要
「それを社会主義と呼ぼうじゃないか」というのは、実はもう一つの側面をふくんでいる。
すなわちそれは「それを科学的社会主義と呼ぶのはやめようじゃないか」という呼びかけである。
社会主義を固有名詞にしないで、いくつかのクライテリアを満たすものを社会主義に括ろうというのだ。その最低限の基準は、政治的な民主主義と一体のものとして提起されていることだ。

日本国憲法と社会主義
日本国憲法では国民主権、平和的生存権がうたわれ、13条で表現の自由など政治的自由がうたわれる。さらにそのうえで社会的権利も明記されている。
私は日本国憲法の25,26,27条の尊重を社会主義的性格の表れとして重視したいと考えているが、いかがであろうか。

演題 「サンダース・コービンのめざす社会主義」

はじめに
今サンダース議員の唱える「民主的社会主義」が話題になっている。
サンダースの「社会主義」は「社会第一主義」である。「個人第一主義」はやめようということだ。
むかし「健全なる心は健全なる身体に宿る」と言われたが、本当はこう言うべきであろう。
健全なる心は健全なる社会に宿る
この「健全なる社会」を築き上げることを政治の第一目標にしようというのが社会主義である。

格差社会と対決する社会主義
世の中、人の能力や仕事の性質で収入が異なってもおかしくはない。しかし1%の人が99%の富を独占するのは、能力社会ではなく格差社会だ。99%の人がそれなりに暮らしていればいいが、貧困がもたらすさまざまな問題に苦しんでいるのであれば、それは間違った不正な社会だ。
それを治すことから始めようという運動が社会主義だ。

格差社会がもたらしたトランプ現象
世の中は景気が悪くなるとギスギスしてくる。利己的になって、些細なことで喧嘩を始める。それが集団化すると「いじめ」も出現する。トランプ現象はそれが原因だ。ただしトランプは大金持ちであり、貧しい人の心の歪みを利用しているだけだ。
トランプ現象にはもう一つの側面がある。貧しいがまともな人達は、「みんながまとまって格差社会に立ち向かわなければならない」と思うようになる。富裕層は、その人たちの声が大きくならないように、貧しい人の心の歪みを増幅するのだ。そしてこう叫ばせる「社会主義者は出てゆけ!」

格差社会と戦い続けたサンダース
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63年にシカゴ南部の黒人地区で公民権を要求して座り込み、警官に排除される髪ふさふさのバーニー

彼はルーズベルトの崇拝者だ。ルーズベルトが勤労者・中間層を擁護し、大企業と対決したことに共感している。いわば「遅れてきたニューディーラー」だ

サンダース派を支える若者たち
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 私は裕福な家庭ではなく、自宅の郵便番号で運命が決まるような場所に生まれた

28歳のヒスパニック系女性で、タコスの屋台の売り子をしていた。その彼女が民主党のニューヨーク選出下院議員の候補になった。
こんな話が沢山飛び交っている。サンダースブームがふたたびやってきたのだ。
追加: その後マサチューセッツ州でもカシオ・コルテスと同じ傾向の若い黒人女性アヤンナ・プレスリーさんが民主党の予備選に勝利しました。この選挙区では共和党が立候補していないので。自動的に下院議員に当選です。

レクサンドリア・オカシオコルテス
Alexandria Ocasio-Cortez

ジャパン・フォーブスに彼女の記事が掲載されている。

選挙活動の映像からの引用。
https://www.youtube.com/watch?v=h-0Tn2cpAH8
“私のような女性は、選挙に出るべきではないとされている。私は裕福な家庭や有力者の家庭ではなく、自宅の郵便番号で運命が決まるような場所に生まれた”
ブロンクスの高校を卒業した後ボストン大学で学ぶが、卒業後はブロンクスでタコスの屋台のウェートレスなどで暮らしていた。(ウィキペディア参照のこと)
ocasiocortez
     当選後NBCニュースに出演したオカシオコルテス
オカシオコルテスは若者、有色人種、英語が第2言語の人、労働者階級の人、2つの仕事を掛け持ちしているため忙し過ぎて投票できない人を対象として働きかけを強めた。
資金はたったの30万ドル。対するクローリーは、335万4370ドルを集めた。
ニューヨーク・タイムズは、オカシオコルテスの選挙活動を報じなかった。
投票が終わる8分前、彼女は次のようにツイートした。
“20歳の有色男性2人がさっき私に近づいてきて、投票したばかりだと教えてくれた”
 勝利演説で彼女はこう語った。
今日、証明されたのは、真夜中の暗闇のような政治の支配する中でも、この国にはまだ希望があるということだ。
okasio
一方で、共和党の予備選ではトランプ派の優勢が目立ち、両極化とエスタブリッシュメントに対する嫌悪感が広がっていることが示唆される。

なお、Single-payer healthcare という言葉が彼女の主張の中に出てくるが、これは全国単一医療保険制度を指すらしい。
Healthcare system financed by taxes that covers the costs of essential healthcare for all residents, with costs covered by a single public system Wikipedia

もご参照ください。

久しぶりに小気味よいニュース
本日の赤旗国際面にワシントンの遠藤特派員がレポートしている。
見出しが正直のところ散漫で、それだけではよくわからないが、「躍進するサンダース派」ということで、11月中間選挙前の民主党予備選挙でサンダースを支持する進歩派の健闘ぶりを報道したものだ。
① 下院ニューヨーク選挙区
28歳の女性新人候補が、民主党全国幹部の大物候補に勝利した。
彼女の名はアレクサンドリア・オカシオコルテス、28歳のヒスパニック系女性である。
彼女はサンダース旋風のときの運動員で、弱者優先の「民主的社会主義」を標榜する。またトランプの「不寛容」政策に反対し、移民関税捜査局(ICE)の解体を訴えた。
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② メリーランド州知事選
安保世代にはなつかしい全米有色人地位向上協会(NAACP)の元会長、ベン・ジュラス(Benjamin Jealous)さんが予備選に勝利した。彼も進歩派候補としてサンダースが押す候補の一人だった。

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彼の選挙スローガンは「公的医療保険制度の維持拡充」、「最低賃金を15ドルに引き上げ」、「大学学費の無料化」などであった。
ジェラスさんは母親が黒人だが、本人は黒くない。おそらくマライア・キャリーと同じクオーターなのだろう。こちらはオクスフォードとコロンビア大を出た秀才。
③ ジョージア州知事選
アトランタを擁する南部の大州だが、ここでも黒人女性のステイシー・エイブラム(Stacey Abrams)さんが予備選に勝利した。
最終学歴はエール大学の法学校、ウィキペディアによれば肩書きは lawyer, romance novelist, and businesswoman となっている。
stacy abrhams
米国の知事選で主要政党の候補者に指名された黒人女性は初めて。しかしそれ以上に重要なのは、当選すれば南北戦争後の再建期以来ディープサウスで生まれた、初のアフリカ系米国人知事となることだ。
彼女は「有権者に進歩的な政策を正面から訴えた」ことが勝利につながったと語る。逆に言うと正面から訴えても受け止めるだけの有権者の構えが作られているということだろう。
④ ニューヨーク州知事選
進歩派は大物を担いだ。人気テレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』に出演した俳優のシンシア・ニクソンさんだ。日本語のウィキペディアにまで記事があるのでかなり有名なのだろう。とはいっても、私はまったく知らない。
投票日は9月に入ってからなので、まだだいぶ先ではあるが、今後の躍進が期待される。
Cynthia Nixon
ということで、ちょっとこれらの情報は深追いする必要がありそうだ。

ペンタゴン・ペーパーズ事件そのものは、1~2ヶ月で終わり、その後はウォーター事件に移っていく。
この事件そのものは主として政府とニューヨーク・タイムズ(NYT)の間で争われたのであり、ワシントン・ポスト(WP)に関する経緯はサイドストーリーと言える。
しかし前後の経過から見て、WPがNYTとタッグを組んで政府・権力と対抗したことの意味はきわめて大きい。そういう点でスピルバーグがこのエピソードをあえて取り上げた意味は決して小さくない。
ただそれだからこそ、そういう取り上げ方に留意しつつ、その基本的枠組みを政府権力との言論の自由をめぐる戦いととらえ、NYTの戦いを深く知って思いを致すことを訴えたいと思う。


64年 エルズバーグ、ランド研究所を経て国防総省に移り、国防次官補補佐官となる。核兵器、核戦争計画などを専門に扱う。
ダニエル エルズバーグ: 1931/4/7シカゴ生。ハーバード大学経営学部卒。ケンブリッジ大学に留学後、1954年海兵隊に志願、57年中尉で退役後にハーバード大学に戻る。59年、ランド・コーポレーションの戦略アナリストに就職。
65年 エルズバーグ、サイゴン米大使館に勤務。ゲリラ対策顧問として実戦も経験する。
65年9月 日本テレビ「ベトナム海兵大隊戦記」放送。第二部第三部の放送は中止。
65年 NYTのサイゴン支局にはニール・シーハンなど3人の優秀な記者を配置。シーハンはエルズバーグとも知り合っていた。一方、当時のWPは戦争支持で、反対の姿勢を打ち出したのは69年半ばであった(Newsweek)。
66年ころ 国防総省内でペンタゴン・ペーパースの作成開始(ニッポニカ
マクナマラ国防長官らが戦争に疑問を持ち始め、将来二度と同じ失敗を繰り返さぬ教訓とするため、客観的な分析記録をつくるように命じた。執筆者の多くは政策に携わって失敗を認めた学者グループであった。しかし何度も執筆者がかわり、最後は未完成に終わった。

なおこのマクナマラとペンタゴン・ペーパーズの関係については、エルズバーグが自著『ベトナム戦争報告』で描くもう一つの説がある。
67年初め、エルズバーグはサイゴンに向かうマクナマラに同乗し、みずからの意見を具申した。マクナマラはこの報告を聞いてペンタゴン・ペーパーズの作成を決断した。
というのが大意である。ただ、ニッポニカではすでに66年には、作業が始まっていたとされる。正直の話、この頃の彼にはちょっと、焦りがもたらす大言壮語があるかも知れない。
1967年
1月 エルズバーグ、ポーター次席大使の補佐官として、平定計画を担当する。この頃からベトナム戦争に批判的になったという。
7月 エルズバーグ、ベトナムから戻り、国防総省からランド研究所に復帰する。
7月 ペンタゴン・ペーパーズの作成開始時期についてはニッポニカ説に対し異論がある。隅井孝雄さんによれば「1年半かけて作成された」とあり、逆算すると67年7月となる。これはエルズバーグがランド研究所に戻った時期と一致する。(国家とメディアその1 ベトナム戦争の場合 隅井孝雄
10月30日 TBSの社長ら幹部が自民党に呼ばれる。翌年3月には田英夫キャスターが解任される。
1968年
1月 ケサンの包囲戦、フエ占拠、続いてテト攻勢が始まる。
2月 マクナマラ国防長官がジョンソンと衝突し辞任。後任はクラーク・クリフォード。
2月 CBSテレビの名物キャスター、クロンカイトがベトナムを訪問しレポート。
海兵隊と行動をともにしました。現地の海兵隊やヘリの中に,この戦争の現実を見たのです。血が流れるベトナム戦争はいまや終わりに近づき、袋小路にはまっています。
私はベトナムの真実を私の見たまま率直に語りました。ベトナム戦争から手を引いて,アメリカはベトナムから出て行くべきだと。交渉をはじめることです。怪物や妖怪とではなく、自らの祖国を守ろうとしている尊敬しうる相手との交渉です。
これを聞いたLBJは “I lost Cronkite , I lost the war” と語った。
5月 2年前におこなわれたミライ村虐殺事件がフランスのジャーナリズムにより暴露.米兵が子供を含む非戦闘員567人を殺害.
6.05 ロバート・ケネディ,ロサンゼルスで銃撃される.
1969年
1月15日 7000ページに及ぶペンタゴン・ペーパーズが作成される。レポートは退陣直前のクリフォード国防長官に提出される(提出者はレスリー・ゲルブ)。これにて全作業が終了。
正式名称は「ベトナムにおける政策決定の歴史、1945年-1968年」国防総省内部で作成された非公開の報告書。3000ページの本文と4000ページの資料47巻からなる。
戦争目的に対する批判はないが、戦争遂行時の判断基準がないままに逐次投入していた経過が明らかにされている。
1月 クリフォードは「米国はもはや戦争を拡大するべきでない」とジョンソンに報告するもジョンソンは対応せず。これを知った作成者の一人エルズバーグは、ペンタゴン・ペーパーズのコピーを上院外交委員会に手渡している。またフルブライト上院外交委員長、マクガバン上院議員、キッシンジャー補佐官とも接触し説得を試みている(これもエルズバーグの自著による)。
1月20日 ニクソンが大統領に就任。我々は“名誉ある平和”を達成する」と演説。
5月 アシャウ渓谷の戦い。米軍は600名の兵の内46人が死亡、400人が負傷した。激戦が人間の肉をミンチにしたことから、ハンバーガーヒルと呼ばれる。10日間の激戦の末に勝利するが、司令部は確保困難と見て放棄。
5月末 NYT、カンボジアにおける秘密爆撃を暴露報道する。ニクソンはFBIにジャーナリストの電話盗聴を命じる。またニュース漏洩の源を知るため、政府幹部職員13人の盗聴も開始。
6月 現平成天皇の教師を勤めたバイニング夫人が逮捕される。ベトナム戦争に反対する彼女は、ワシントンの国会議事堂階段で、ベトナム戦争の戦死者の名前を読み上げていた。
6月 ライフ誌、最近の週にベトナムで戦死した242人の兵士の生前写真を掲載。死者たちの微笑んでいる若い顔は、全アメリカ人へ衝撃的な影響を与える。
8月 ウッドストック音楽祭、少なくとも40万人を動員。
10月 全米で反ベトナム戦争の大デモ展開,2百万人が参加.
12月 セイモア・ハーシュ記者、雑誌『ニューヨーカー』にミライの虐殺の真相を掲載。ピューリッア賞を受賞。
1970年
1月 ベトナム米軍放送局のニュースキャスターをつとめるロバート・ローレンス、検閲の廃止・言論の自由を主張。米軍はローレンスを告発。映画「グッドモーニング・ベトナム」のモデルとなる。
1.10 ニューヨーク・タイムズ紙,韓国軍がベトナムで数百人の民間人を虐殺したと報道。

4.30 ニクソン、カンボジアへの越境攻撃を開始。
5.04 オハイオ州のケント大学でベトナム反戦デモ。学内に侵入した州兵の発砲により、4人が射殺され9人が負傷する。
5.16 クリフォード前米国防長官。ライフ誌上でカンボジア進攻を批判。
70年 エルズバーグ、ランド研究所在籍のまま、マサチューセッツ工科大学の研究員となる。

1971年
1月 最後の大規模作戦となるラオス侵攻作戦が始まる。B52爆撃機400機の支援を受けた米・南兵2万9千人がケサンから越境攻撃。2ヶ月後に壊滅的打撃を受け撤退。
3月8日 反戦活動家がFBI庁舎に潜入。左翼運動に対する秘密調査文書を盗み出し、報道各社にリーク。FBIは情報活動を公式に中止。
3月 WP紙のアンダーソン記者,カンボジアの秘密爆撃を指示した国防総省の秘密文書を暴露.
3月 執筆者の1人であるダニエル・エルズバーグがコピーを作成し、NYTのニール・シーハン記者に手渡す。その後ワシントンポストにも同コピーが持ち込まれる。
タイムズ紙面
5月2日 ワシントンの反戦行動が激化。復員軍人が闘いの先頭に立つ。数日間に1万人以上が逮捕される。
6月1日 ニクソン米大統領が記者会見。「南ベトナムを共産主義者に引渡すようなやり方で戦争を終結させてはならない」と言明。
6月13日(日曜日朝) ニューヨーク・タイムズが連載記事として報道を開始。ワシントン・ポストなど他紙も文書の掲載をもとめ情報源探しに動く。
6月14日月曜日 NYTの長い1日
朝 ニクソン政権は司法長官名で記事差し止めを要求した。以後の司法関連の動きは隅井さんの記事が詳しい。
要請内容: 資料には合衆国の極秘扱の国防情報が含まれている。この情報の掲載は憲法793章、スパイ防止法第18章により禁じられている。今後掲載せず、文書を国防省に返還するよう要請する。
昼 NYT編集長のエイブ・ローゼンタール、印刷中の紙面を一旦止める。ロンドン出張中の社主ザルツバーガーとの協議に入る。
夜9時 NYTの社主と編集長は政府の要望を拒否すると発表した。
NYT声明: この記事はアメリカ国民の利益になる記事である。したがって司法長官の要請は拒否する。裁判になれば争う。しかし最高裁の最終決定が出ればそれに従う。
6月15日 連邦地裁で掲載停止の仮処分(手続上の処置)が出される。NYTは16日水曜日の掲載を見合わせることを決定。
6月16日 WPが株式を公開。資金導入による経営拡大に動く。
6月17日金曜日 WPの長い1日
朝 WPのバグディキアン編集次長がエルズバーグとの接触に成功。ケンブリッジの隠れ家でエルズバーグから報告書のコピーを入手。この時点でNYTの掲載は止まったままであった。
昼 WP、幹部会で18日からの掲載開始を決定。経営幹部からは強い難色が示される。
裁判で政府と争うことになれば公開直後の株式が動揺し、下落の程度によっては株主に違約金を払う必要が出る。また傘下のテレビ局の免許更新が直近に迫っており、政府が更新を認めない危険性もあった。
午後3時 政府はWPの秘密報告掲載の停止を求め、ワシントン連邦地裁に申立てする。
午後8時 ワシントン連邦地裁、1.政府の申立ては却下。2.最高裁決定が出るまでは掲載禁止の仮処分。3.すでに刷りあがっている18日付の紙面は発行を認める、との判断を示す。
ワシントン連邦地裁の踏み込んだ判断: 国の安全は自由主義体制によって守られる。国民の知る権利は報道機関によって守られている。憲法修正一条によって保護されるのは論説委員やコラムニストの意見ばかりではない。国民が政府の活動について十分知らされるようにするための情報収集の自由も含まれる。
6月 アラスカ選出のマイク・グラベル上院議員、徴兵制に反対してフィリバスター(議事妨害)の戦術を取る。このとき演説で「ペンタゴン・ペーパーズ」を読み上げる。
6月22日 米上院、政府に対する拘束力を持たない決議(マンスフィールド議員)を採択。年末までにすべての米兵部隊のベトナムからの撤退をもとめる。下院はこれを否決。
6月26日 NYTとWPを併合した最高裁での審理が始まる。ここまで連邦地裁は政府側の訴えを却下したが、連邦高裁は逆転し差し止めを認定した。
6月28日 エルズバークが、連邦調査局に出頭。記者会見で「裁判で闘う」と宣言する。
6月29日 最高裁は「政府は証明責任を果たしていない」として却下する。
最高裁の判断: いかなる表現の自由もそれを事前に制限することは憲法に反する。制限を正当化する理由を政府は明示しなければならないが政府はその義務を果たしていない。
7月 アーリックマン首席補佐官とチャールズ・コルソンが「鉛管工」部隊を組織。エルズバーグの監視とリーク防止を目的とする。コルソンはさらに反ニクソンの著名人200人を「政敵リスト」に載せ、監視を開始する。
7 NYT紙,SALT交渉に関する情報を暴露.政府の抗議に対し,最高裁は6対3で,「ジャーナリズムが事実を公表する権利を持っている」との判断を示す.
8月15日 ニクソン,国家非常事態宣言.金ドル交換を停止.ドル防衛策をうち出す.
8月 世論調査。大多数のアメリカ人は戦争が「不道徳である」と感じ、61%が全面撤退を支持。
9月 ニクソン政権はエルズバーグに対する信頼性低下に攻撃目標を転換。鉛管工グループのハントとリディー,エルズバーグのかかりつけの精神科医ルイス・フィールディングのオフィスに侵入.
後にこの鉛管工グループがウォーターゲート・ビルへの潜入にも流用された。この差右旋が露見したことがニクソン政権の命取りとなる。

この後、話題の中心はニクソン政権の方に移っていく。これについてはウォーターゲート事件関連年表
、またベトナム戦争全般については、米国年表 その3ベトナム戦争 その1 ベトナム戦争 その2を参照していただきたい。 

無罪判決
                告訴の棄却

1973年 エルズバーグは、「政府による盗聴」が判明したことから、告訴は棄却される。
エルズバーグは窃盗、情報漏洩など12件の重罪に問われ、115年の刑期の可能性も あった
7月 ビーコン・プレス、全文の出版に踏み切る。ユニテリアン協会の非営利小出版社。
72年 ニューヨーク・タイムズの記者デイヴィッド・ハルバースタム、『ベスト&ブライテスト』を発表。マクナマラを中心とした「最良の、最も聡明なはずの人々」が、いかにして政策を過まったかの過程を明らかにする。
ラスク国務長官、マクナマラ国防長官、バンディ兄弟、ロストウ、ガルブレイズ、カッツェンバックらが相当する。
2011年6月13日 「ペンタゴン・ペーパーズ」の機密指定が解除され、全文が閲覧可能となる。

『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』という映画を見てきた。
うーむ、これほどまでに真相は明らかになってきたのかと感動を覚えた。
じつは1990年ころにウォーターゲート事件については勉強したことがあって、その成果がウォータゲート事件関連年表になっている。

帰ってきてから、その年表を読み返してみたが、今日の映画が与えてくれた情報のほとんどは90年ころには明らかになっていなかった。
どちらかといえば鉛管工グループの民主党本部忍び込み事件のほうが本流で、たしかにニクソンを追い込んだのはそちらの方なのだが、この一大スキャンダルの本流はトルーマンからアイク、ケネディ、ジョンソンへと至る、ベトナム干渉の歴史なのだ。

当時なぜ私がウォーターゲート事件にここまで首を突っ込んだかというと、鉛管工グループがそっくりそのままケネディ暗殺グループであり、もっとさかのぼるとキューバ反革命グループであるからだ。

この視点は当時としては斬新であったから、それなりにネット社会での注目を集めたものだ。

しかし本日スピルバーグの映画を見ると、それは「やり口」の卑劣さであって、15年にわたり米国国民に隠し世界の人々を欺いたベトナム侵攻作戦の本質的な汚さに比べれは、枝葉末節のことだったのである。
graham
     ワシントン・ポストの記者を相手に演説するグラハム

スピルバーグの映画は、いつものことだが、掘り下げは浅く技術的な巧みさと制作予算の豪華さだけが浮き上がる。レッドフォードの「大統領の陰謀」のかっこよさには到底及ばない。

そういうわけで見終わった後の感想は正直すごいというほどのものではなかった。

しかしちょっと感想文を書いておこうと思って、自分の年表を開いた途端、それはまったくの間違いだということが分かった。

この映画のエピソードのほとんどは1971年の前半の期間に集中する。それらの話はウォーターゲート事件の始まる前のものと認識されてきた。しかしそれは前奏曲ではなく、第一楽章そのものであった。
私の年表に記載されているのは以下の行である。

1971年
3 ワシントン・ポスト紙のアンダーソン記者,カンボジアの秘密爆撃を指示した国防総省の秘密文書を暴露.国防総省はドナルド・スチュアート首席捜査官を中心に漏洩元の調査に乗り出す.
6.13 ニューヨーク・タイムズ,ランドコーポレーションの職員でキッシンジャーの元同僚ダニエル・エルズバーグの漏洩した,国防総省の秘密調査の内容を暴露した「ペンタゴン・ペーパーズ」の掲載を開始.
7 アーリックマン首席補佐官,エルズバーグに関する特別調査班を編成.責任者としてヤング補佐官とエージル・クローグ補佐官を任命.ヤングとクローグは行政府ビル地下に本部を設営.オフィスのドアに「鉛管工」の看板を掲げる.元CIA諜報員でチャック・コルソン補佐官の部下ハワード・ハントと元FBI捜査官のゴードン・リディーがスタッフとして参加.
7 ニューヨーク・タイムス紙,SALT交渉に関する米国側の譲歩の内容を暴露.情報源はデジタル情報中継センターに勤務する陸軍下士官スティーブン・リンガー.
9 鉛管工グループのハントとリディー,エルズバーグのかかりつけの精神科医ルイス・フィールディングのオフィスに侵入.実行犯はピッグス湾参加者のフェリペ・デ・ディエゴ,CIAの航海士として350回以上もキューバに侵入したエウヘニオ・マルティネス,元CIA職員のバーナード・バーカーの三人組で,いずれもハントのマイアミにおける手下.
というレベルの情報しか流布されていなかった。

このときはまだボブ・ウッドワードもディープスロートもまだ登場していない。

事件はまだウォーターゲート事件ではなく、エルズバーグ事件であったのだ。

とりあえず、もう一回ウォーターゲート事件を勉強する必要がある。それも一連の流れを、権力による盗聴事件として捉えるのではなく、ベトナム戦争の本質暴露事件として把握する必要があるようだ。

メリル・ストリープは名演だ。一人の英雄のエピソードを、一人の女性のエピソードとしても演じきっている。

女性も土俵に上げろと主張した宝塚の女性市長と相通じるものがあるが、それよりはるかに強い。厳しいリスクテイクをしている。周りもしっかりと支えている。

そう簡単に比べる訳にはいかないが、とにかく宝塚市長さんにはぜひこの映画を見て、じっくりと考え込んでほしいと思う。


伊藤大一さんによる「アメリカ労働運動の新潮流とサンダース現象」という講演の要旨が紹介されていて、面白い。
http://www.minpokyo.org/journal/2017/03/5060/

2 大統領選挙が示したもの
新自由主義路線に対抗する道は、サンダースの社会民主主義路線か、トランプの「ネオ・ナショナリズム」かのふたつの道しかないことが示された。

3 アメリカの労働運動の新潮流
労働組合の組織率は、全体で11%、民間部門は6%で、長期衰退傾向は変わらない。
しかしその内容は大きく変わっている。1980年代に始まり、1995年にAFL―CIOが採択した社会運動的労働運動(Social Movement Unionism:SMU)がその中心となっている。
SMUは、労働組合の目的を、組織維持でなく、「社会正義の実現」とそのための組織の拡大におく。
そのため、組織化の対象を従来顧みられなかった女性、マイノリティ、低賃金労働者などに拡大し、企業だけでなく、NGO、地域コミュニティ、宗教コミュニティとの連帯を重視する。
その先進的な取り組みとして、農業労働組合、ビル清掃労働者の組織化、訪問介護ヘルパーの組織化、ホテル・レストラン従業員国際組合、ファストフード労働者の最低賃金獲得要求などの運動がある。
最低賃金要求のたたかいは、過大な生活負担に苦しむ労働者・国民の切実な要求として多くの支持を得ている。そして多くの州・都市において実現を見つつある。

4 アメリカの労働者の窮状
アメリカの労働者の生活は本当に厳しい。都会のアパートの家賃は1LDKで月額3500ドル(約35万円)である。ほかに過大な学費もある。公立であるニューヨーク州立大学でさえ年間学費約180万円、私立の名門スタンフォード大学では約480万円に達する。また過大な医療保険代・医療費はよく知られている。

5 SMUとサンダース
SMUが掲げる要求はサンダースの政策とよく一致している。

*我々はすでにオキュパイ運動の影にその片鱗を垣間見ている。以下の記事を参照されたい。

「トランプ減税」という赤旗記事が要領よく内容をまとめてくれている。

合田寛さんの談話によるもので、見出しは「財政基盤の掘り崩し」となっている。

まずは中身の紹介。読み込んでいくと、

1.巨大多国籍企業への優遇

2.富裕層への優遇

3.法人税概念の放棄

の3つに分かれるようだ。

1.巨大多国籍企業への優遇

まず、巨大多国籍企業への優遇としては、

A) タックスホリデー構想

タックスヘブンには現在2兆ドルが溜め込まれていると言われる。これを国内に還流させるために、1回限りの低率課税を行うというもの。

税金泥棒に恩赦を与えて、返さなくてもいいよという仕掛けだ。

法の意味は根本的に失われる。

合田さんは、

資金は還流しても、それは自己株の買い取りに向かい、国内投資には向かわない。したがって経済効果はない。

としている。

B) 国外所得免除方式

現在は「全世界所得課税」と言って、会社の全利益に対する課税方式になっているが、この内、海外子会社からの配当には課税しないようにするというもの。

ちょっとややこしいが、海外の子会社の利益をそのまま送金すれば税金を取られるが、タックスヘブンのダミーに送金して、親会社はダミーからの配当を受ける、と言うかたちにすれば税金はかからないということだ。

企業がどうするか、猿でもわかる。これは「国外所得への課税免除」そのものだ。

その結果どうなるか、ますますタックスヘブンに所得を留保することになる。

2.富裕層への優遇

大企業の利益は最終的には個人=富裕層に還元される。直接税中心主義の思想からすれば、そこからしっかり取ればいいという理屈も成り立つ。

しかしトランプ減税はここにもしっかり手を打っている。

A) 個人所得税

個人所得税の税率は、最高税率39%を35%に引き下げる。税率7段階を3段階に「簡素化」するというもの。

「代替ミニマム税」の廃止についても書かれているが、内容がわからないので省略。

B) 遺産税の廃止

日本でいう相続税だ。

これは大きい。直接税思想の根幹に触れるものだ。世襲制が公認され、社会が固定化される。これは社会の自殺行為だ。

アメリカの遺産税の税率は最高で40%、これでも低すぎると思うが…。

3.法人税概念の放棄

トランプは法人税を現在の35%から15%に引き下げると言っている。半分以下だ。これは引き下げというより、そもそも法人税という概念の放棄を意味する。

率直に言って、これは国際問題だ。世界各国が法人税の引き下げ競争をやっている。行き着く先は全世界のタックスヘブン化だ。

もちろん各国は法人税減税以外にも各種の優遇策により企業の税率を抑えている。

トヨタの社長が告白したように、5年間1文の税金も払わないで済ましている会社もある。

それはそれで大問題だが、法人税減税という正面からの攻撃は、税制の根幹に関わってくる大問題だ。

いったい、国家の財政基盤はそれで成り立つのか、国家というものを「夜警国家」に変質させるのか、という根本的な疑問がある。


テレビを見ていたら、「なんとか先生の熱烈討論」とかいうアメリカの討論番組をやっていて、トランプ支持派の人が一生懸命に「アメリカ・ファースト」論を擁護する論陣を張っていた。

司会者のなんとか先生は、かなり意図的にトランプ支持派の意見を引き出し、「アメリカ・ファーストで何が悪い?」みたいな雰囲気を作り出そうとしていた。

不愉快で途中でやめてしまったが、「アメリカ・ファースト」論の擁護者は一つも間違っていないのである。だからそこを論点にしてもしょうがないのだ。

問題は、①アメリカ・ファーストが、アメリカン・ピープル・ファーストにはなっていないことだ。②それはアメリカン・エンタープライズ・ファーストであり、③いますでに世界はアメリカン・エンタープライズ・ファーストであり、そのためにアメリカン・ピープルが苦しめられていることだ。

そしてトランプがやろうとしていることは、アメリカン・ピープルの犠牲の上にアメリカン・エンタープライズ・ファーストの世界をさらに広げようとしていることだ。

ということを、事実を持って具体的に明らかにしていくことだ。おそらくアメリカ・ファーストを支持している人たちは、「99%の人たち」であり、本来我々のもっとも心強い味方の人たちのはずだ。

彼らは反ヒラリーであり、反富裕層であった。本来はバーニー・サンダースと心を通わせ合うべき人たちであった。

問題はむしろ、彼らを見る我々の目線の問題にあるのかもしれない。我々はバーニーが彼らを見るように、彼らを見なければならないのだろうと思う。


赤旗のワシントン特派員の遠藤誠二さんが素敵な写真を掲載してくれた。
記事の題は「反トランプで満員」という囲みもの。
週末の午前中、ワシントンに向かう地下鉄はいつもガラガラですが、この日は違いました。
郊外の駅にはピンクのいでたちの人だかりができ、来た電車も満員でした。
利用者はすべて、トランプ政権に抗議して開かれる「女性の行進」参加者。郊外のホテルに宿泊し、「いざ出陣」となった面々です。
…8両編成の車両は「反トランプの貸切列車」といったところか…
女性の行進
クレアモントというネオンがついていますが、これはマンションの広告だと思います。このマンションは市街中心部から北に向かうウェブスター街に沿って散らばっているので、おそらくそちら方面の駅だろうと思います。
間違っていたら教えて下さい。
この集会には50万人が参加して夕方まで続いたといいます。全米では100万人が立ち上がったそうです。ウーマン・パワーはすごいエネルギーですね。男どもは株価の動きにあたふたしているだけです。これからは女性が世界を支えることになるでしょう。(ただし写真を見るとカラード・ピープルの少なさが気になるが)

アントニオ・ネグリ的な「帝国」が姿を現しているのかもしれない。
資本はその本質上祖国を持たない。マルクスは「資本が祖国を持たない以上、労働者も祖国を持たない」と言った。しかし当時は、それは「万国の労働者よ、団結せよ」という呼びかけに終わるしかなかった。
世界資本主義が成立しようとする今、労働者は祖国を失い、砂のように流動化しつつある。それはゴビ砂漠が万里の長城を飲み込むように、いたるところで国境を超え、既成政治を越えて流動化しつつある。これがマルチチュードだ。それはネット世界のヴァーチャルな存在ではない、生贄としての生身のマルチチュードだ。

では国家はそうやって世界資本主義の前に無力化し、消滅し、1%の富裕層による単一市場国家、ネグリのいう「帝国」が誕生するのだろうか。それはありえない。
グローバル資本は、寄生虫が宿主を必要とするように、本質的に国家と国境を必要とするからである。彼らはゲバルトを必要とし、ゲバルトにより囲まれた安全地帯を必要とするからである。
イギリスの移民排斥、その延長線としてのEU離脱は、古き良き時代への懐古に過ぎず、決して庶民本来の要求ではない。
イギリスは移民先進国である。ロンドンの下町に行けば、生粋のイギリス人を探すほうが難しいくらいだ。
イギリスの庶民の苦しみは移民の増加によるものではなく、実体経済の空洞化によるものである。イギリスはあらゆる経済自主権を放棄することによって、「世界一金融資本に優しい国」となり、金融マーケットとしての地位を確保した。
その過程で庶民の暮らしは無視され、その多くが無為徒食の民となることを強いられた。
今そうやって獲得した金融マーケットとしての地位がEUによって侵食されようとしたから、金融資本家は離脱の動きを煽った。彼らには彼らの意のままになる「国家」が必要だったのである。
貧富の差の拡大を基盤として、この金融資本家たちの相矛盾した行動が、社会の混乱を煽っているのである。
トランプには国内産業の保護と、みずからもその一員である金融資本やグローバル企業の保護という政策矛盾がある。同じようにヒラリーについた金融資本家にも矛盾がある。
いま世の中はこうした矛盾に満ち溢れているが、それは1%の超富裕層対99%の貧民という構図がもたらしたものだ。そしてその構図がいまだ多くの人に明示されていないという過渡的状況がもたらしたものだ。
しかし多くの人々がエスタブリッシュメントの支配に耐えきれず、行動に移り始めたという根本的な流れを、我々は見落としてはならない。
「民」を先進国に移転するのではなく、「富」を途上国に移転すべきだ。劣悪な労働条件を先進国に持ち込むのではなく、ディーセントな労働条件を途上国に広げるべきだ。
世界中に膨大な貧困があり、有り余るほどの欲求があり、世界中に未開拓の労働力があるのだから、社会の生産力はまだまだ大幅に向上できるはずだ。
そのために諸国家にはまだし残したことが莫大にあるはずだ。EUの積極的側面を無視するわけではないが、その前に国家が資本から自立し、庶民政治の拠点として再活性化されるべきだ。「死滅する」には早すぎる。
これが2016年から17年にかけての流れだ。たしかに物騒な局面を含んではいるが、この庶民の動きの底流を信じよう。

ネグリ自身について書いた記事もあったはずだが、目下見当たらない。


トランプを押し上げたティーパーティー

トランプとティーパーティーの関係を取り上げた記事は意外に少ない。

中では

2016/09/23 米保守派ティーパーティー、トランプ氏支持を表明 - WSJ を紹介する。

ティーパーティー運動の有力団体である「ティーパーティー・パトリオッツ」が、トランプのために、激戦州に資源を投入すると発表した。

団体代表の発言

ヒラリー・クリントンはティーパーティーが象徴する全てのことと対立している。一方、ドナルド・トランプはわれわれが核としている価値観を守るために戦うと約束した。われわれはトランプを選ぶ。

上下院で共和党が多数派を占め、トランプがホワイトハウスに入れば、ティーパーティーの政策が法制化される可能性がはるかに高まる。

ただしWSJは「今年5月までは、ティーパーティー系はトランプを冷ややかに受け止めていた」とあるが、地下ではいくつかのティーパーティー系組織が動いていたとの報道もある。いずれにしても9月の正式見解発表よりはるかに前からトランプ支持で動いていたことは確実である。


ところで、日本ではティーパーティーは既に過去のものという見方が広がっていた。冷泉彰彦 トランプ「大統領選撤退」に見るティーパーティーの凋落

しかしブームとしてのティーパーティーは終わっても、思想としてのティーパーティーはその勢力を拡大させていた。

思想としてのティーパーティー

ウィキによればTEA は「もう税金はたくさんだ」(Taxed Enough Already)の頭文字だそうだ。彼らの旗には「俺を踏みつけるな」と書かれてる。

ペイリンをアイドルとする組織から、今ではさまざまな潮流に分かれ、それぞれが運動を積み上げている。ただそれが地方で草の根で展開されていたために見逃されていただけだ。

中西部の町はどこも日本の地方都市と同じだ。職がない。商店街はシャッター通りだ。

労働者はいまやいない。残るのは公務員ばかりだ。だから公務員に非難の眼差しが注がれる。

教師、看護婦、警官、消防士エトセトラだ。

彼らは税金泥棒だ。給料を下げろ、年金を下げろ、組合も政治活動も禁止しろ、病院も学校も民営化しろ、黒人やヒスパニックに対する援助などまっぴらだ…という具合に話は進んでいく。

火事や泥棒などは自分で自衛する。スラムは放っとけばよい。当然、社会保障や医療保険など問題外ということになる。

これは本来大金持ちのリバタリアンの主張だ。弱者は共同体の中で助け合わなければならないのだ。

こうやって金持ちにうまいこと乗せられて、自分で自分の首を絞めているということがわからない、自分が弱者だということがわからなくなってしまっているのだ。

一通り、ニュースとしては出回った。
抜けているのは、トランプ当選を支えた地方の保守原理主義運動の実態である。この運動がかつて基幹産業で栄えた北部にも拡大し、力関係を逆転させてきたという経過だ。
これからいろいろ評価が出てくるだろう。
全体としてトランプ見直し色が強まるだろう。
庶民の声を反映しているのだという捉え方も、運動の視点としてはだいじだと思う。
そこまで切羽詰まってしまった世の中の矛盾の表現だ、という見方も出るかもしれない。
経済、外交、軍事では、公約そのままでは到底やっていけないから、何らかの手直しはされるだろう。
それを見て「トランプも案外常識人だ」などと考える向きも出てくるかもしれない。
しかしそれで評価を見誤ってはいけないと思う。
だからこれからの新政権を見ていく上で、評価の基準をはっきりと定めて置かなければならない。
① 白人優位主義と異人種排斥→民族浄化の動き
② 医療保険と最低賃金制度への攻撃→新自由主義のさらなる徹底
③ 反対派への逆襲→言論の自由への攻撃
とくに③については、地方でこれまでもティーパーティにより反リベラル・反労働者行動が展開されてきた。これがオハイオやウィスコンシンなどから全国に拡大し、一層強化される危険がある。国際ニュースにはなかなか載らないので、注意深く見守る必要がある。

下記の記事をご参照ください
2011年11月14日

2011年11月11日

2011年11月10日


トイレの男女別がなくなる?

別に差別主義者ではないと思っている私だが、流石にこのニュースには驚いた。

単独のトイレ、男女の区別は禁止-NYが制度化 2016 年 6 月 22 日のWSJ

というもの。

ニューヨーク市では来年1月1日から、共有スペースのないトイレはすべて「ジェンダーニュートラル(性別不問)」にすることが義務づけられることになった。市議会が21日、共有スペースのないトイレに男女別の表示を禁止する条例を47対2の賛成多数で可決したためだ。

デブラシオ市長は“自己の性認識に基づいた公衆トイレ利用”のため、2200カ所の公衆トイレに対して必要な対応を行うことを義務付けた。

「からだと心の性が一致しないトランスジェンダーの人たちにとって好ましい環境を作る簡単な方法だ」とされているが、ポリティカル・コレクトネス(政治的・社会的に差別や偏見がないこと)が度を超した一例だとの批判の声も出ている。

これだけでは良く分からないが、WSJは相当気合を入れてこの問題を報道している。

例えばノースカロライナ州では、出生証明書に記載された性別に応じて公衆トイレを使うよう義務付けるという「反動」的な法律が、成立している。

何故この法律が成立したかというと、この州法に先立って、同州最大の都市シャーロットの議会が、男性用あるいは女性用を自己の性認識に基づいて利用できるとする条例を可決したからである。

一方で明らかに憲法に違反すると思われるような例も出てきた。

テキサス州ヒューストン市の住民投票では、性別による差別の禁止をゲイ(同性愛者)やトランスジェンダーにも広げる条例を圧倒的多数の反対で否決している。

言い方はややこしいが、つまるところ、ゲイやトランスジェンダーに対する差別は許される、差別しても構わないということだ。この論理を拡大していけばリベラルもムスリムにも差別が許されることになる。

しかしこれは、そもそも住民投票にかけること自身がおかしいので、これでは下からの民主主義破壊になってしまう。

また、いくつかの州では「宗教の自由」法の制定が検討されている。これは宗教の自由を口実にして、企業が宗教上の観点から同性愛者と働くのを拒否することを可能にしようというもので、もはや憲法もへったくれもない。

学生の頃、学校には女子トイレが圧倒的に少なく、女子トイレを作れという女子学生の運動が盛んだった。

トランスジェンダーの選択の自由は、その先の段階にある話なのだろうが、やはりピンと来ないところはある。

むくつけき男が「私は女よ」と言って女子トイレに入ってきたとき、他の女性にはそれを拒む権利はないのか。

答えは「ない」ということだ。そもそも女子トイレという概念がなくなってしまうからだ(ただし共有スペースのないトイレの場合)。

こういう独善と押し付け倫理の傾向はアングロサクソンに特有なもので、かつての禁酒法、いまが盛りの禁煙運動などと軌を一にするものだ。(と、密かに私は思う)


ニューディールの経過を勉強しようと思って、ネットを探したが、まともに取り上げた文章はほぼ皆無である。そのあまりの徹底ぶりに思わず苦笑してしまうほどだ。

ブログ記事はほとんどがフリードマンもどきの懐疑的な見解で埋め尽くされている。学術記事もケインズの業績と関連して刺し身のつま的に扱うだけだ。要するに批判はするが知ろうとはしない。これにはかなり愕然と来た。

国際的には依然ニューディール神話は健在だし、オバマもニューディールを標榜した。安倍首相お気に入りのスティグリッツも現代版のケインズと目されている。

強調しておきたい。ニューディールはあれこれの政策選択ではない。それは大衆運動の圧力のもたらしたものであり、大衆の呻吟を受け止めるポジティブな姿勢の反映である。

大恐慌のときニューディール批判派は何をしていたか。何のオプションも提起せず、大衆を弾圧し、大衆の苦労については、ただ手をこまねいて見ていただけだ。だから、そもそも批判する資格はない。

ニューディール評価をケインズに収れんさせるのは、政策イシューにことを矮小化するためのレトリックに過ぎない。

フリードマンの批判は、50年も経ってからの後付け批判に過ぎない。しかもそのフリードマン理論の下で展開された新自由主義は、世界経済を目茶苦茶にした。その経過を我々はリアルタイムで見つめてきた。

何よりも、ニューディールはファシズムが世界を支配しようとする瀬戸際に、それと真正面から立ち向かう姿勢を貫いた。戦後世界の民主的立場を代表した。たとえその政策に瑕疵があったとしても、この歴史的役割を我々はしっかり評価しなければならない。

現在、ニューディール本流の伝統は赤狩りの中で途絶えてしまって久しい。リーマンショック後の世界経済が世界大恐慌と通底している以上、我々はその積極的側面を大いに引き出し、その教訓を改めて確認しなければならないと思う。

サンダースとニューディール政策

サンダースのルーズベルトに寄せる強い親近感については、ピケティも注目している。

朝日新聞の「ピケティコラム@ルモンド」という記事にそのことが触れられている。いずれ消える可能性がある記事なので、要点だけ紹介しておく。

1.ルーズベルトのやったこと

ルーズベルトの時代、米国は不平等の是正のため、野心的な政策を進めた。

高い累進性を兼ね備えた所得税と相続税とを生みだした。

また米国は、30年代にはすでに最低賃金を定めている。現在のドルに換算すると、その額は60年代末に時給10ドルを超えていた。

2.戦後のアメリカ

年収100万ドルを超える層に課された最高税率は、ケネディ大統領までの時代は91%だった。相続税にも70~80%の高い累進税率が課された。

ドイツやフランスで最高税率が30~40%を超えたことはほとんどない。

高い生産性と教育体制のおかげで、失業はほとんど生まれなかった。

南部でまだ合法的に続いていた人種差別に終止符を打ち、新しい社会政策を打ち出したのもこの時期だ。

3.レーガンのやったこと

この一連の政策は白人有権者のうち少数の反動的な人たちと、金融エリートの間で大きな反発を生んだ。

レーガンは、こうしたあらゆる不満の波に乗り、当時すでに神話と化していた原初の資本主義を復活させた。

86年の税制改革では最高税率を28%まで引き下げた。

クリントンやオバマも本当の意味でこの決定を見直さなかった。

格差は爆発的に拡大した。しかも経済成長は低調で、大多数の人たちの所得は停滞した。

レーガンはまた、最低賃金の水準を抑え続けた。80年代以降、最低賃金はゆっくりと、しかし確実に、インフレによって目減りした。69年は時給11ドル近かったが、2016年は7ドル程度だ。

その後の民主党政権も、レーガンのイデオロギー(レーガノミクス)を根本的に変えることはなかった。

4.ピケティの結論

現在のサンダース氏の成功から分かるのは、米国のかなりの数の人たちが、不平等の増大と見せかけの政権交代とにうんざりし、革新的な政策で平等を目指す米国の伝統 と和解しようとしているということだ。


正直のところ、ピケティの上げた数字については、別の資料での確認が必要かと考えている。

また、コラムという性格上踏み込んでいないのだが、何故そのような改革が可能だったのかという背景には踏み込んでいない。しかしそれがないと、何故アメリカ国民はやすやすとレーガノミクスを受け入れてしまったのか、ということも見えてこない。

いずれにしても、時代背景をも踏まえたニューディールの全面的な検討(ケインジアンとの交錯もふくめ)が必要だろう。

それは日本の戦後改革や日本国憲法の形成過程とも関わっているはずだ。従って、日本国民が直面する民主主義と国民生活防衛の運動とも根っこを一つにしているはずだ。

バーニー・サンダースの闘いは我々(日米両国人民)の闘いなのかもしれない。


ということで、ネットでサンダースの演説を探したが、日本語ではろくな記事はない。

仕方ないので赤旗の記事を要約紹介する。これは去年11月19日、ワシントンDCのジョージタウン大学での演説だ。この演説はルモンド・ディプロマティークでも重要演説として引用されている。

1.ルーズベルトの思想と行動

* ルーズベルトの就任演説(1937年1月20日)

ルーズベルトは米国を見渡し、目にしたものを語った。それは国民の悲惨な生活である。

ルーズベルトは行動した。数百万人を職場に戻し、民衆を貧困から救いた。そして政府への信頼を確立した。

当時の支配階級はこれに激しく抵抗した。ルーズベルトは彼らを「経済反動主義」と糾弾した。

それが今日、我々のやらなければならないことだ。

これは彼の2期目の就任演説だ。この時米国は依然として大恐慌の余波の中にあった。しかも欧州ではナチスがひたひたと侵略の歩みを始めていた。

すでに前年7月からスペイン内戦が始まっている。この演説からまもなくの4月にはゲルニカ爆撃が行われている。7月には第二次上海事変が始まり、そのまま泥沼の日中戦争へと移行する。

* ルーズベルトの「社会主義」

その頃、ルーズベルトの提案したことのほとんどは「社会主義的」と非難された。

社会保障年金、最低賃金制、失業保険、児童労働の廃止、週40時間労働、団体交渉権、強力な金融規制、預金保証などはすべて「社会主義的」と称された。

しかしこれらの事業こそが米国を形作り、中産階級の基礎となっている。

2.支配階級に挑む運動を

* 「覚悟のある運動」が生み出されなければならない

いま、現実の米国は過去40年の間に偉大な中産階級は没落した。そして政治制度への信頼はきわめて低い。

米国を本気で変えようと思うなら、政治活動を生み出す必要がある。私たちの国を破壊する貪欲な支配階級に挑み、打ち負かす覚悟のある運動だ。

* 不平等を維持する権力構造

今日、米国には巨大な富と所得の不平等がある。しかし肝心なことは、それだけではない。米国にはその不平等を維持する権力構造があるということだ。

だから我々は、今の政府を変えるだけではなくこの国の階級制度を変えなければならない。それが民主的社会主義だ。

3.民主的社会主義とは何か

* 新たな経済の仕組みを生み出すこと、そのために政治制度そのものを変えること

民主的社会主義とは何か。それは富裕者だけではなく、全ての人に役立つ経済の仕組みを生み出すということだ。

ウォール街や億万長者、大企業だけでなく、労働者世帯のために民主的社会主義を実現すべき時だ。

第二に、そのためには今日の米国の政治制度そのものを改革せねばならないということだ。

それは全体として不公平なだけでなく、多くの面で腐敗している。

* 社会主義者は国営化も私企業の収奪もしない

私は政府が生産手段を所有すべきだとは考えていない。しかし米国の富を生み出す中産階級と労働者には相応の配分をすべきだ。

私は私企業を収奪するつもりはない。しかし雇用を海外に移出し利益を上げる企業は信じない。米国内で努力し、投資し、成長するような私企業を信じる。

私が大統領に立候補しているのは、一部の人ではなくなく、すべての人に希望とチャンスがある、そういう国に住む私たちすべての出番だからだ。


この主張は、この間勉強したばかりのジェームズ・ミルの主張と瓜二つです。これは社会主義どころか、ベンサム、ジェームズ・ミル、リカードウと続く初期資本主義の本流の考えでしょう。

赤旗にバーニー・サンダースの演説の要旨が掲載されていて、いくつか分かったことがあった。
とくに、彼がなぜあえて、自らを民主的社会主義者と呼び、その立場を貫いて来たかという理由が見えてきた。
彼はフランクリン・D・ルーズベルト(以下FDR)の崇拝者だ。FDRの採用した個々の施策というより、FDRが勤労者・中間層を擁護すべく、大企業やそのイデオローグと対決する姿勢を貫いたことに共感している。
いわば、「遅れてきたニューディーラー」なのだ。
FDRは最低賃金制や、独占資本の規制策により「社会主義」のレッテルを貼られ攻撃された。しかし今ではその基本構想は米国社会に根付いている。それをもう一度無きものにしようとするのが今の支配層だ。
であれば、今あえて、自らを社会主義者と呼ぼうではないか、というのが彼の一貫した思いだ。
別に旧ソ連や中国型の国家づくりを目指すわけではない。むしろFDRとニューディーラーが思い描いた「良き社会」を取り戻そうと言うのが、彼の目指す方向だ。それが資本主義であるか否かは問わない。
彼が社会主義者を標榜するのは、それによって退路を自ら絶とうという決意の現れなのだろう。
かつてFDRが社会主義者呼ばわりにひるまずに、改革を成し遂げたように、バーニーも社会改革を目指す。
「それを社会主義というなら、よかろう。俺はまぎれもなく社会主義者だ!」

BuzzFeed News というサイトに

「社会主義者がアメリカ大統領候補に? バーニー・サンダースってこんな人――大統領選の注目は、ドナルド・トランプだけじゃない」

という記事があった。溝呂木佐季さんという方が書いたものだ。

非常に親切な記事なので一読をおすすめする。

そこにリンクされたChicago Tribuneをたどると、下記の写真(63年)があった。直接あたってもらえれば良いと思うが、著作権を無視して転載する。クレームあればただちに消します。

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63年にシカゴ南部の黒人地区で公民権を要求して座り込み、警官に排除される髪ふさふさのバーニー。


ルモンド・ディプロマティーク国際版に簡単なバイオがある。

1941年 ブルックリンの生まれ。両親はポーランドからのユダヤ系移民。

1960年ころ、バーニーはシカゴ大学で社会主義青年同盟(YPSL)に参加し、公民権運動、ベトナム反戦運動を担っている。

その後バーモント州で小さな政治結社「自由統一党」の候補として活動を続け、80年に州都バーリントンの市長に当選。市街地の再開発に敏腕を発揮した。

地元週刊紙ヴァーモント・ヴァンガー ド・プレスは、「バーリントン人民共和国」という特別号を発行して敬意を表した。

90年に連邦下院議員に当選。唯一の無所属議員として活動。2006年には上院議員に当選。2010年には高所得者層への減税措置に反対し、8時間にわたるフィリバスター演説を敢行した。

1年前に民主党に入党。大統領候補になるためだ。気楽に受けた民主党幹部はさぞかし臍を噛んでいることだろう。

ルモンドによれば、彼は革命の信奉者ではないし、英国労働党左派のジェレミー・コービンのような急進派でもない。サンダースが重視しているのは、所有と支配ではなく、再分配をめぐる闘いだ。



日航争議団長の山口宏弥さんには申し訳ないが、やはりパンナムは潰れるべくして潰れたと思う。
反論するからには、財務内容の経過とか示さないとダメなのだろうが、そこまでやらなくともパンナムの経営悪化の原因は明らかである。パイロットやスチュワーデスはハリウッド・スターではないのだ。
パンナムを狙い撃ちしたテロは確かにあったし、そのためにパンナムが大きな被害を被ったことも間違いない。しかしそれがなくてもパンナムはダメだっただろう。テロは崖っぷちに立ったパンナムの背中をひと押ししたにすぎない。かつてパンナムに乗った乗客の一人としてそう思う。
航空業界の競争はたしかに熾烈だ。しかしそれは、業界全体としては空前の規模拡大を遂げていることと表裏一体だ。平たく言えば、儲かるからどんどん新規参入があるし、そのために競争が厳しくなるのだ。
パンナムという偉大なノレンがあるのだから、棲み分けして、ニッチ化すれば生きる道はある。帝国ホテルになるかビジネスホテルに徹するかだ。
日航争議団としては、パンナムと串刺しにされて議論されては困るだろう。それは分かる。だからといってパンナムを弁護する必要はない。日航はちゃんと黒字を出し優良経営に転化している。パンナムとは違うのだ。
その辺は、乗っている客にはちゃんと分かるのだ。
ただ住み分けは必ず必要だ。高価格路線を取るなら、それなりの根拠を示さなければならない。有機野菜と同じで、納得すれば乗客は必ず日航を選ぶはずだ。

本日の赤旗に日航争議団長の山口宏弥さんが談話を寄せている。
見出しは「航空機がテロの対象に」というのだが、パンナム破産についての話が面白い。というより、初めて知った。
そのまま引用させてもらう。
米国のパンアメリカン航空(通称・パンナム)はかつて世界の航空界のリーダーとして、世界中に路線網を巡らせていました。
しかし、1991年に運航停止。その後、98年にふたたび経営破綻をして、会社そのものが消滅してしまいました。
米国の象徴として、軍事報復テロの標的となったことが原因の一つです。
82年、パンナム機内で爆弾が爆発する事件がありました。86年にはテログループにハイジャックされ、機内で銃撃戦となり、乗員乗客20人が死亡しました。
88年、イギリスのスコットランド上空でリビアのテロに爆破されて、乗客乗員259人が死亡し、墜落現場の住民11人も巻き添えとなりました。
パンナムは「テロの標的」というイメージが定着しました。利用客が激減し、遺族への補償金支払いなど致命的な打撃を受けました。
(以下略)
まあ、それだけではないのだろうが、少し調べてみるか。

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