鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

AALA関連記事は「aala_newsの編集日記」http://blog.livedoor.jp/aala_news/ に移りました(6Nov.2023) 中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 「ラテンアメリカの政治」(http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ )がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。

カテゴリ: 41 臨床医学(一部医療問題を含む)

炎症論 まとめ 仕切り直し

あれ程警戒していたのに、やはり自爆してしまった。

軽い話題ならそれで済むのだが、やはりこれだけの重い課題になると、人のふんどしでは相撲はとれない。

やはり、「免疫」という言葉が重くのしかかる。急性炎症における、とくにさまざまな液性因子の働きは、生命が進化の過程で身につけてきた一種の免疫だ。それは抗原抗体反応を起点とする「免疫反応」と結合して慢性炎症の中核を担っている。

急性炎症という括りが適切かどうかも疑わしい。細菌・ウィルスの感染症はいかなる急性期といえども免疫の問題を抜きには語れない。

新型コロナであれよあれよという間に亡くなる人を前に、「急性炎症に免疫は関係ないよ」とは絶対に言えないのである。

つまり感染症に急性と慢性の差はないのだ。急性感染性炎症の上に免疫反応が乗っかった二階建ての炎症が慢性炎症なのだ。

ということを前提しつつ、非感染性の急性炎症に的を絞った議論を進めよう。急性炎症の機転は白血球の3つの成分、これと絡みながら炎症を促進するさまざまな液性因子、炎症を身体各所に波及させる炎症物質(ケルススの4徴をきたす因子)から論じることになる。

ただし液性因子の話は、免疫発動へのインデューサーであり、白血球遊走関連因子及びサイトカイン以外は免疫の方で、という整理になる。

つまり、いまここで私が整理すべきことは「非感染性の生体障害と、それに対する生体反応、および一次的修復過程」についての「炎症モデル」の構築である。それがあらゆる炎症モデルの一階部分を形成することになるだろう。

感染症については、急性であると否とを問わず、リンパ球の関与の如何を問わず、免疫学というコンセプトのもとに統一して論じるべきであろう。

……………………………………………………………………………………………………

炎症は生体損傷そのものではなく、損傷の修復過程である。しかし病的状況に応じて発動している過程であり、それ自体が正常な生理的過程ではなく、「歪められた過程」である。

その過程は液性・細胞を含む多様な過程の連結・集合と考えられる。

炎症をふくむ生体反応が起きなければ、生体は死に直面することになる。したがって、炎症は全体としてポジティブで、合目的的な過程と考えられるが、しばしば有害な副次的要素を含んでいる。

それらを修復全体の流れの中で、常に総合的に把握していくことが求められる。

…………………………………………………………………………………………………

とりあえずこんな形で把握しておこう。



「炎症学」と「免疫学」

本日は急性炎症のみ学ぶ

“”急性炎症のみ” というのは2つの意味を持つ。

一つはあまり複雑な免疫の絡まないレベルで、「炎症の本質」を総括したいからである。

確認しておきたいのは「炎症学」と「免疫学」は異なるということである。あくまで炎症が本家であって、免疫は炎症への対応を行うための応用系である。

まずは炎症学がある。これは原因と、原因ごとの炎症の形態、局所の炎症の全身絵の波及効果、そしてその帰結をトータルに見ていく。さらに言うならば、生物の進化に伴って炎症の有り様がどう変化してきたかの歴史も、そこには含まれるだろう。

ところが実際には、炎症が炎症として語られることは少ない。特に医学の分野では、炎症に対応する機構としての「免疫学」のみが語られる。

これは主として教官が教えたり試験に出すのに簡単だからである。と私は思う。

とにかく「炎症学」は大学の講座にない。これは医学をどう捉えるかということでは由々しき問題だ。

(「腫瘍学」という範疇は結構あるが、形態的に腫瘍であるからといって、それを一つの病的概念にまとめる必然性は乏しい。しかし炎症は全身を通じてユニバーサルであることに最大の特徴がある)

またも余談が長くなった。

これから「急性炎症の話」を勉強する。
滋賀医大の病理教室のHPだ
http://www.shiga-med.ac.jp › immunology › lecture_03

とにかく炎症が起きるということは細胞が壊されるということである。どう壊れるのかは炎症の性格を規定することになる。

その場で即時に起きることは次の2つ。

障害部位での局所反応

1.局所マクロファージの出動

2.血管内の好中球動員、血管壁透過性を高める

血管内の体液成分に動員を求める

1.補体系の活性化

2.止血系の活性化


急性炎症をめぐる疑問

この説明はいくつかの疑問を呼ぶ。


Q1 マクロファージとはそもそも?

それを急性炎症の主役と考えて良いのか?

Q2 白血球の役割

急性反応の主役は好中球だが、ほかに単球も働くようだ。

Q3 補体系の活性化は何のため?

免疫反応が主役となる慢性炎症へのつなぎ?

Q4 T細胞の関わるのは慢性炎症?


Q5 止血系は単なる止血系?

キニン・カリクレイン系、プロスタグランディン系との関わり。

血小板そのものの炎症への関わり。


それでは順番にやっていこう。


Q1 マクロファージとはそもそも?

サステナブル・タイムズというHP
https://www.euglena.jp/times/archives/16938

から

① マクロファージは、元は単球とよばれる白血球ですが、血管から組織へ出ていくと、「マクロファージ」と呼ばれるようになります。

② 貪食: マクロファージは末梢組織に侵入した病原体などを呑み込みます。

③ マクロファージは貪食後に活性化し、ホルモン様の低分子タンパク質であるサイトカインを放出します。

④ サイトカインは他の免疫細胞を活性化し、応答をフルサウンド化させます。
サイトカインの世界はマクロファージとは別世界になるので、この項は一旦閉じ、後で「Q6 サイトカインの世界」を置くことにします。


Q2 血中の白血球の役割

感染がおこると好中球が最初にその場に集まり、それに続いて単球が集まってくる。(白血球が最初に集まる理由は後述する)

単球の役割は、血管外に漏出してマクロファージとなることにある。

これは好中球の作用とは異なる。それらの関係は東邦大学名誉教授 小林芳郎さんが「マクロファージ・好中球・単球」と題して解説している。
https://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/macrophage/introduction/int-01.html

マクロファージは大きな食細胞という意味である。普段は死んだ細胞などゴミ収集にあたっている。

これに対し好中球はかつてミクロファージと呼ばれたこともある。二人揃えば貪食細胞と言われる。

重要: 好中球は、細菌を取り込んで殺菌する能力にすぐれた細胞だが、死んだ細胞を取り込むことはない。

これはメチニコフという学者の発見で、それが評価されてノーベル賞を得ている。


Q3 補体系の一部も早期に活性化される?

これについては、目下のところよくわかりません。どうも滋賀医大のHPの記述は怪しい。あまり整理がついていない印象です。

一般的には抗原と抗体反応が起きて、結合したあとに、抗体を助太刀するのが補体の役割です。

急性期においての役割は不明です。あとでもう少し調べてみます。

何れにせよ、慢性炎症と免疫反応はきわめて複雑で整理しにくい。それをスッキリ理解するには、急性炎症像をクリアカットにスケッチしなければなりません。


Q4 急性炎症にもT細胞が関わる?

これも滋賀医大のHPからです。同じ理由でよくわかりません。

どうも急性炎症の範疇が曖昧のままで議論を進めている印象です。


Q5 止血系は単なる止血系?

滋賀医大の話は諦め、他の文献を探します。 

「高岡駅南クリニック」のHPから「「炎症期の意味と消毒の有害性」というページを読ませてもらいます。

まずは長めに引用。間然する所のない堂々たる文章です。

① 止血: 損傷した血管の攣縮や血小板の凝集に始る止血機転によって血栓ができ、創面からの出血は止まります。

② 血管作動物質の放出: このとき損傷を受けた組織や血小板などから、ヒスタミン・プロスタグランディン・ブラディキニンなどの血管作動物質が創周囲に放出されます。

③ 選択的血液成分漏出: この血管作動物質は毛細血管壁の透過性を亢進させる作用を持ちます。その結果、血管壁細胞間の結合が緩くなり、そこから白血球や血漿が創周囲および創面へと出てきます。





炎症論 まとめ その1


じつにすてきなHPがあって、「久美接骨院」という。ウィキを元にまとめたものらしいが、とても要領よくまとまっている。
以下これに従って話を進める。

接骨院

Ⅰ.炎症とはなにか?

組織のダメージに対する生体の防御反応を「炎症」という。

a 炎症は、生体が侵襲に満ち溢れた環境の中で、生き抜いていくために長い時間をかけて獲得してきた防御手段の一つである。

b 祖先から、遺伝子によって統御された精緻な反応形式を引き継いだものである。

c 急性炎症がやや長引くと、さらにもう一つの防御機構である免疫反応が加わる。

炎症論はやたらと裾野が広い学問だ。どうかすると固有名詞の洪水の中に埋もれてしまい。わけがわからなくなる。だからどうしても炎症は演劇の過程として捉えなければならず。それぞれの幕ごとに出てくる登場人物と役割を覚えて置かなければならない。


Ⅱ.炎症の原因

a 微生物の感染

b 物理的刺激 (機械的、光熱線)

c 化学的刺激

d 過剰免疫

Ⅲ.炎症の3つのフェーズ

炎症の4兆候:  疼痛・発熱・発赤・腫脹 (ケルスス)

①第一期:急性炎症(循環障害と滲出)

4兆候がこの時期に集中する。この時期には免疫系の関与はなし。

a 局所の肥満細胞からヒスタミン、セロトニンなどの起炎因子を放出。
b 壊れた組織からブラジキニン、プロスタグランジンなどが出て局所の動静脈血管を収縮→血流を遮断。
c 毛細血管に動脈血が貯留し、内皮細胞の隙間が開き、血漿成分が血管外に滲出する。

②第二期:浸潤と増殖

ここから免疫系の働きが開始する。擦り傷、切り傷、やけどはここまで行かずに治ってしまう。

a 細菌: 多核白血球が貪食

b ウィルス+それ以外の異物: 骨髄由来の単球がマクロファージとなって、組織の破壊されたものや異物を貪食する。

c マクロファージから情報を得たリンパ球系が活性化し、免疫グロブリンや補体を産生し病原体を中和したり解毒したりする。

ここがしばしば暴走するので、観察、評価、調整が必要となる。

③第三期:修復

a 線維芽細胞が増殖し、毛細血管が新生し、肉芽が形成される。

一般辞書は肉芽を“にくげ”と読むことを頑なに拒否している。グーグル辞書でもニクゲでは肉芽は出てこない。

「象牙」を「しょうが」ではなく「ぞうげ」と読むのと同じです。医学の世界では呉音で読むことが少なくありません。
「外科(げか)」「小児科(しょうにか)」
「解熱(げねつ)」「静脈(じょうみゃく)」
「壊死(えし)」「脚気(かっけ)」
この回答の下に、「読みとしては「にくが」が正しいです」というコメントがあります。ガリレオのセリフですね。
ここで頭の中を整理整頓してから、第一期と第二期を対照しながら詳述していくことにする。

本日は2週間ぶりの外来日。
といっても受診のための外来日で、座る椅子は違うのだが…

おそらくは手術日が決まるのではないかと思う。

体調、というよりも “体調感” は異常に好調だが、これは紛れもなくステロイドのせいである。12時間毎に薬が切れてくると、背中に重しが抱きついてくる。脳みその中に可聴域を超えた音波が響いてくる。

一言で言って依存症患者となっているのだが、この持ち上げられている感覚、悪いものではない。

この感覚の由来には、それがステロイド中毒ではないという一種の確信があるからだ。麻薬はその薬理作用が直接脳神経に作用して快感をもたらすが、少量のステロイドは(もちろん直接作用があるが)それよりも主要には抗炎症作用によって不快物質(サイトカイン)を抑制するのが主作用だ。

その根拠は2つある。

一つは好調なのが快感ではなく、“不調感の軽減”であることだ。痛感したのだが、老化という現象のかなりの部分をさまざまな不調感の重なりが占めている。人はそれを老化と受け止めているのだが、不快物質の産生抑制を積極的に図るのはかなり大事なことのように思える。

そしてもう一つは耐性が生じていないことだ。依存性と耐性は違う。依存性に耐性が加わり、用量が増えてくれば副作用も出てくる。これは慢性薬物中毒症だ。

ステロイドの大量投与時はその辺のさじ加減が難しい。昔は「ステロイド医者」といって、誰にでも何にでもバンバン投与する医者がいて大問題になった。今のところの使用量は、決して少ないとは言えないがギリギリ長期投与での危険性を回避できるものだ。

「うつ病は炎症だ」といった人がいるが、私はさらに敷衍できるのではないかと思う。

「老化は炎症だ」

川上での幻の抗原に対する不要な免疫反応、川下でのプロスタグランディンの活性化が、一方では生命構成体の変性を引き起こし、他方では不快物質の増加により生命機能の不調を過張する。

これらを少量のステロイドと少量のNSAIDSでコントロールできれば、それは万能の「幸せカクテル」になるのではないだろうか。

ただしこれには今のところ、高感度CRPによる裏づけがない。それが科学となるためには客観的な指標が必要だろう。

もう一つはアスピリンの脳梗塞予防に関する大規模試験で、なにかメタデータがとれないかということも検討してほしいと思う。



読後感
エドワード・ブルモア「うつは炎症で起きる」(草思社 2020年)

一言で言うと、このドグマに対しては共感できる。
しかし「何故そうなるのか」というメカニズム、その過程については独断が目立つ。

例えば、この数年間で私は結構な病気にかかっているが、それらの本態が炎症であることを知っている。帯状疱疹後神経痛ではリリカの不思議な効能を実感した。

炎症を起こせば、当然、抗炎症薬を使って治療する。しかしそれらの薬は効能が違うし強さも違う。

今回痛感したのは、高度の炎症に際してはロキソニンだけでは炎症は抑えられず、プレドニンの服薬が必須であったということである。

箇条書きにすると
1.ロキソニンは下流で効くが上流までは抑えきれないということ
2.プレドニンは火元に直接作用すること、従って二次的な炎症(感染後)でなければ根治性につながること。
3.プレドニンには気分変調作用、自律神経作用などがあり、これらは抗炎症作用のみでは説明つかないこと
4.今のところ長期使用による蓄積作用はないが、今後の課題として残ること

ブルモアは炎症を、免疫の過剰反応→サイトカインの全身作用で説明しているが、私にはそうは思えないこと。

思いつくままに上げても、遅発性過敏反応の問題、マクロライド効能(中和抗体による調整?)、ステロイドにとどまらない内分泌環境の変化、炎症の下流で起こるプロスタグランジン・カスケードの変化、後障害(線維化や色素沈着などに起因する)などがある。
「炎症」全体を包括的に捉える視点が必要だろうと思う。

そのためには「炎症学」の総論的レビューが必要だ。

やったから病気が良くなるわけではないが、そんな勉強をしたくなった病気に敬意を表するのも悪くはなかろう。

「The Inflamed Mind」 を読んで その1

思考の原動力としての「情動」 

入院中の二泊三日で、文庫本2冊を読んだ。他にすることがないというのは大変なことで、日常生活でこれだけのことをしようとすれば、1ヶ月かかる。それもやる気になった時の話だ。

1冊目は「『うつ』は炎症で起きる」という、キワモノっぽい題名の文庫本。エドワード・ブルモアという英国人の精神科医が書いた本で、副題は「うつ病への革新的アプローチ」となっている。

正直言って、中身がそれほど革新的かどうかはわからない。むしろ予言的と言ったほうが良いかもしれない。

再三にわたりブルモアが主張するのは、心と身体の二元論というドグマ(デカルト)を否定し、心も脳機能の一つだという立場で統一しようとする志向だ。

これ自体は別に目新しいものではなく、デカルトも担った「人間機械論」の進化系だ。

ブルモアはこれを、うつ(単極性うつ病)という疾病を例に取り上げ、歳炎症物質による脳組織の損傷、それに続発する一連の機能障害としてモデル化する。

内科医としては、その考えそのものは別に珍奇なものでもなく、ある意味できわめて素直な発想だが、ブルモアの問題意識はそれから先にある。

精神科医療においては、未だに心と体を分離し、心の医療を別体系のもとに構築しようとする流れが主流を占めている。内科医として出発し研修を積んだブルモアは、この分離思想を断ち切らなければだめだと思い定めた。

サイトカインがキー物質

ブルモアが描く炎症像は、全身性の炎症がまず発症し、これに反応してT細胞系の免疫が働く。これが第1段階である。

ついで刺激された食細胞がサイトカインを拡散し、これが身体各所で二次性の炎症を促す。脳ではグリア細胞系が不活化され、神経細胞を標的とする免疫反応が起きる。

サイトカインは同時に神経伝達物質を抑制する働きも示すため、両者が相まって脳神経の不活化をもたらす。


BBBは「身体と脳を隔てる関門」ではない

これが炎症による脳神経の不活化→うつ状態をもたらす機序であるが、ブルモアはもう一つの仮説を持ち出す。それがサイトカインのBBB通過説である。

一般的に脳血液関門(BBB)は髄液と血液を遮断し、身体的な異変を脳内に持ち込ませないようにしていると考えられてきた。しかし最近では身体と脳神経系がさまざまな形で交通していることが確かめられている。

血液の中の再炎症性物質が直接、血管を経由して脳内に流れ込んだり、血管から“染み出したり”するのではなく、他の物質に“バトンタッチ”する形で身体情報が、脳内に送りこまれることは十分考えられる。

つまりBBBは関門ではなく中継点であり、港なのである。これはブルモアが意図せずに発した重要な視点であり、もっと広く発生学的に、進化論的に展開すべき点であろうと思う。


炎症と免疫反応との厳密な使い分けが必要だ 

この理論に対して、いくつか保留しておきたいことがある。

ブルモアの言う「炎症」は脳を病院の主座とする「脳神経炎」ではなく、脳以外の炎症性疾患による免疫反応が脳に波及したものと考えられる。いわば自己免疫疾患の部分症=サイトカイン脳症としての炎症だ。

それが炎症のすべてではない。

この区別が曖昧なことから来るのだが、炎症という表現が果たして適当かどうかという疑問が残る。

「人体機械」を扱ってきた臨床医学では、炎症はあくまでも機械の局限された一部の不調である。そこにはフィルヒョウ的な顕微鏡が世界が広がっている。

これに対し免疫反応はあくまでも生化学的な動的変化であり、病気を過程において捉えている。

だから物事を物自体と現象との関係にまで還元しようとする場合は、定義というか概念としての炎症をどう捉えるかについて相互確認を行って置かなければならないだろう。

それまでは「サイトカインを軸とする免疫反応」と言っておくべきではないだろうか。

      The European respiratory journal 2002Mar01
      今回,シンバスタチンによるびまん性間質性肺炎が組織学的に非特異的な間質性肺炎パターンを呈したので報告する.超微細構造解析では、II型肺細胞、組織球、内皮細胞に細胞質内ラメラ封入体がびまん性に集積しており、両親媒性薬剤による中毒性肺障害との病態の共通性が示唆された。スタチンの処方が増えていることから、スタチンによる間質性肺障害はより頻繁に観察される可能性があり、早期の発見が求められる。 

      Potential link between HMG-CoA reductase inhibitor (statin) use and interstitial lung disease
      Med. J. Austr 2007
      スタチンを服用している患者 7 名が,3 年間に間質性肺炎を発症し,呼吸器科を受診した.臨床経過はさまざまで、3人の患者はプレドニゾロン治療とスタチンの中止が奏功し、他の3人はこの管理にもかかわらず緩やかに進行し、1人は関連する心疾患により死亡した。

      A case of drug-induced pneumonia possibly associated with simvastatin
      Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi
      .2005
      59歳女性が,高脂血症治療薬としてシンバスタチンを投与して約5ヵ月後に,全身倦怠感,咳嗽,進行性の呼吸困難のため入院した.胸部X線写真とCTスキャンで,右中下肺野にground glass opacityとreticular opacityを認めた.
      シンバスタチンを中止し,プレドニゾロンの投与を開始したところ,好酸球と網状陰影は改善した.シンバスタチンの薬剤リンパ球刺激試験(DLST)が陽性であった。シンバスタチンを中止し,プレドニゾロンの投与を開始したところ,好酸球と網状陰影は改善した.

      Statins and Interstitial Lung Disease A Systematic Review of the Literature and of Food and Drug Administration Adverse Event Reports
      Chest 134(4) Sept.2008
      スタチンと間質性肺疾患(ILD)の関係を検討するため、発表されたすべての症例報告、および米国食品医薬品局(FDA)の有害事象報告(FDA-AER)データベースから系統的にレビューした。

      PubMedによる文献検索では、スタチン使用に関連するILDの合計14例の報告を記述した8件の論文が得られた。FDA-AERシステムデータベースには、2007年6月現在、スタチンによるILDの報告例が162例含まれていた。
      スタチンによるILDは、スタチン治療の副作用として新たに認識された可能性がある。しかし肺傷害のメカニズムは定義されていない。

2020年9月の記事だからもう2年になる。

精神疾患「ミニ脳」で調査
理研など原因に迫る

という記事があって、これを写真にとっている。

りけんと入れたら「利権」と返してきた。パソコンはときどき味なことをする。

「ミニ脳」というのは記者の造語で、正式名(一応)は「脳オルガノイド」、これも怪しげだが、ミニ脳はその危うい側面をさらに誇張して、漫画にしてしまった。道理で、この手の記事について来る記者名はない。

要するにIPS細胞を脳組織に分化誘導し、培養した細胞群である。ガンもどきだといえば話はわかりやすい。

それで今回の「実験」は、「統合失調感情障害双極型」の患者のIPS細胞を培養したもの。
培養脳組織では、発達の初期で抑制性神経細胞への分化が過剰に進んでいた。
従来の研究では、「統合失調感情障害双極型」において、抑制性神経細胞の減少が観察されている。
この二つを継ぎ合わせると、この疾患では最初から抑制系神経細胞が最初から少なかったわけではなく、何か異常があって減ったわけでもなく、生後早期に異常に抑制系細胞が増殖して、最終的には枯渇してしまったと推測しうる。
すなわちこの疾患の本態は生後早期の段階で抑制系細胞が特発的に増殖することにある、と考えられる。
統合失調症の一型で破瓜型というのがあって、若年で発症し激烈な経過をとる。やがて人格が荒廃して、抜け殻になって余生を送ることになる。
このような病態経過については、従来もかなり説得力のある説明がいくつかあり、今回の実験もその一つの説明になる可能性がある。

ただそうびっくりする話でもなさそうだ。科学部の記者は「脳科学」の話になるとやたらと燃え上がるが、もう少し臨床現場に寄り添った判断を願いたいものだ。

精神経誌(2012)114巻2号
特集精神疾患の病態研究の最前線


精神疾患の神経炎症仮説
門司晃

1.はじめに

従来より精神障害のなかに「器質性精神疾患」と一括される疾患群があることが知られている。

「器質性精神疾患」は、病歴やMRIをはじめとする画像検査法によって、「器質的原因」が推定されるもので、アルツハイマー病がその代表となる.

器質性疾患の代表的な症状は急性期におけるせん妄であり、慢性期における認知機能の低下・人格変化である。

「機能性精神疾患」は、逆に「器質的原因」が推定できないものを指す。気分障害や統合失調症がその代表である。

ところが「機能性精神疾患」の中に、診断技術の進歩によって、「器質的原因」の存在が明らかになったものが出現しいる。

とくに最近、うつ病や統合失調症においても神経炎症が関与している可能性が浮かんできた。


2.うつ病と認知症

機能性精神障害と器質性精神障害のあいだには、移行型ないしは中間型がある。典型的なものがうつ病と認知症との関係である。

老年期うつ病は、うつ病の中核的症状である抑うつ気分が少なく、一方記憶障害や反応や動作の緩慢化が目立つ。このため認知症との鑑別が問題になり、「うつ病性仮性認知症」と呼ばれる。

抗うつ薬治療によりこれらの症状は改善するが、観察を継続していくと、認知症に移行していく危険性が高い。一方、アルツハイマー病の初期にうつ状態を合併することも少なからずある。

臨床報告によれば、25年以上前のうつ状態であっても、アルツハイマー病発症リスクは約1.7倍になるとされる。また、うつ病を繰り返す例で、認知症のリスクが高まるという報告もある.

また死後脳研究において、うつ病の既往のある患者群では、老人斑や神経原線維変化などの病理変化がより強く、生前の認知機能障害の進行もより早と報告されている。

これらの報告は、老年期うつ病のみに限らず、気分障害全体がアルツハイマー病を含む認知症のリスクファクターとなることを示している。


3.リチウムの神経細胞保護作用

気分障害という病名はかつての「躁うつ病」に相当する。その後の研究で、狭義の躁うつ病とウツだけが現れるうつ病とは異なる病態だとされるようになり、それぞれを双極性障害、単極性障害と呼ぶようになった。そしてそれを一括する概念として「気分障害」という病名が用いられるようになった。

両者の違いは主要治療薬の相違により明らかである。双極性障害ではリチウムを含む気分安定薬が主剤となり、単極性障害ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が主剤となる。

この対照的な薬理学的効果は、様々な精神疾患における反応にも関わって興味深い。

リチウムはGSK-3の抑制効果を有し、Bcl-2の効果を増強する.リチウムは神経細胞に対して、直接的な保護作用があると考えられている。抗うつ薬にはこのような作用は明瞭ではない.


4.異質的神経疾患における炎症の過程

ミクログリアは脳内マクロファージとして、中枢神経系の神経炎症の中心的役割を果たしている。

活性化ミクログリア由来の炎症性サイトカインやフリーラジカルは、シナプス病変、神経新生抑制、白質病変形成などの組織学的変化をきたす。それが機能性精神疾患発症に関与している可能性がある。

アルツハイマー病やパーキンソン病のような神経変性疾患では、神経免疫システムの異常があるとされる。その結果、ミクログリアやアストロサイトなどの免疫担当細胞からサイトカインなどが過剰産生され、慢性の炎症状態が発生していると考えられている。

最近、気分障害においても血中CRP、炎症性サイトカインや接着分子の高値の状態が生じているとの報告が多数ある。

炎症性サイトカインなどは、それ自体が神経細胞に対する組織障害性を有し、気分障害脳に認められるシナプス病変、神経新生抑制、白質病変などの組織学的変化をもたらす可能性がある

一方、炎症性サイトカインはserotoninの産生を減少させるという報告がある。


5.神経細胞の新生とその障害

成体脳では新たに神経細胞は作られないと考えられていたが、近年の研究では海馬歯状回などで神経新生が生じることが証明されている.この海馬の神経新生は精神疾患に頻発する睡眠障害で抑制される。

マウスの海馬神経をX線照射すると神経新生が抑制され、抗うつ薬投与に伴う行動変化が生じなくなる。また照射後に抗炎症剤を投与し、照射後の炎症を抑えることによって、神経新生が回復することも報告されている。


6. ストレスとステロイドと神経系

精神的・身体的ストレスが、気分障害などの精神疾患と深く関与することは周知の事実である。

ストレスに対する反応として、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA系)を介して、副腎皮質ステロイドの分泌が増加する。この反応が一過性に収束すれば、生体の適応反応である。しかし慢性・長期的に持続すると中枢神経系に対して、有害な作用をもたらす。

いっぽう、炎症性サイトカインもこのHPA系を活性化する。

血中グルココルチコイドの高値が維持されると、記憶形成に重要な海馬錐体細胞や顆粒細胞数が脱落する。同時にシナプスを形成するspineの減少が生じ、海馬におけるBDNFが減少し、神経新生の抑制が起きる.

海馬錐体細胞や顆粒細胞はHPA系受容体(GR)を脳内で最も高密度に含む場所である。すなわちHPA系の異常高値を最も敏感に察知し、HPAシステムに抑制をかける機能を持つ。

持続する過剰なグルココルチコイドは、海馬神経のネガティブフィードバック機構を障害する可能性がある。このことは炎症性サイトカインやフリーラジカルの神経細胞障害性と共に気分障害が認知症へと進展することをうまく説明できる。(このような持って回った言い方には何か抵抗を感じる。サイトカインの直接障害作用であっては何故いけないのか?)
最近の研究では心理的ストレスがミクログリア活性化をもたらす可能性も示唆されている。

一方、多くの慢性疾患で気分障害の合併が多いが、それらには慢性の炎症性変化が付随していることが明らかになっている。

諸研究によれば、糖尿病はアルツハイマー病のリスクを約2~3倍にする。


7.抗精神病薬の有効性と神経炎症調節作用

神経免疫系においては、ミクログリアは最も重要な役割を果たす.ミクログリアは中枢神経系細胞の約10%程度を占め、「脳マクロファージ」とも呼ばれる。

ミクログリアはLPS、IFNγなどによって活性化されて、炎症性サイトカインやフリーラジカルを産生する.

一部の抗うつ薬はミクログリアからのサイトカインやフリーラジカルの産生抑制効果を有する。抗精神病薬は、本来は統合失調症の治療薬であるが、うつ病や双極性障害に対しても臨床利用されるが、一部の抗精神病薬にもミクログリア活性化抑制作用を有することが近年明らかになった.


8.BDNFを介した海馬保護作用

抗うつ薬の慢性投与によって、セロトニンおよびノルアドレナリン受容体を介して、BDNFの発現が増加することが知られている。BDNFは海馬で含有量が高く、学習・記憶やシナプス伝達の長期増強などに深く関与している.ラット海馬のBDNF発現は、長期間の拘束ストレスの負荷によって減少する。

種々の抗うつ薬投与だけでなく、気分安定薬や電気痙攣刺激でも海馬のBDNF発現は増加する.


9.精神疾患におけるミクログリア活性化の意義

アルツハイマー病などの神経変性疾患での、ミクログリア活性化の報告は多い.

統合失調症の発症初期では、前頭前野や帯状回で有意にミクログリア活性化が亢進するが、慢性期統合失調症では必ずしもそのような所見は認められていない。

うつ病および統合失調症死後脳における組織学的検討では、生前診断に関係なく自殺者の死後脳においてのみ、ミクログリア活性化の所見が前頭前野や帯状回で認められている

可能性として、ミクログリア活性化は各々の精神疾患の急性期(発病初期、再燃期、自殺企図時など)に顕在化し、各々の疾患の予後に重要な影響を与えている。


10.終わりに

精神疾患における神経炎症仮説をミクログリア活性化を中心に概説した.

テトラサイクリン系の抗生物質が、気分障害や統合失調症への有用性が近年指摘されている。

ミノサイクリンの神経系への作用のうち、ミクログリア活性化抑制はその重要な作用の1つである.

ニュースイッチというサイトに「うつ病は炎症で起きる」という本についての解説が掲載されている。中身は解説というより感想で、「詳しくは本文を」ということになるが、とりあえずのつなぎということで…

https://newswitch.jp/p/18946
「うつ」は炎症で起きる
(エドワード・ブルモア)


歯の炎症が脳の炎症を合併した?

著者エドワード・ブルモアは、ケンブリッジ大学精神医学科長.

ある日虫歯が化膿した。歯科を受診し、
歯根の奥までドリルで穴を開ける治療を受けた。

治療中は元気だったが、すべて終わった途端、急激に気分が落ち込む。家に帰り一人になると、眠りにつくまで、延々と「死」について思いをめぐらせるになった。

翌朝、ほの暗い思いは消えており、「軽いうつ症状だった」と自己診断をする。

しかしその後、彼は別の因果関係の可能性を思いつく。

治療前の彼の歯肉は炎症を起こしており、歯科医師がガリガリ削ることで、細菌が血流に広がった。つまり歯肉の炎症が“直接”うつ症状の原因になったのではないかという推理だ。

要は、うつは脳の炎症反応だということだ。それは結局、心の病気も体の病気も変わりないのではないかという考えに行きつく。

デカルトが最初に提唱した「心身二元論」は再考の余地があるのだ。


「ストレス→うつ」ではなく「ストレス→炎症→うつ」

すべてとは言わないが、うつ状態に陥る過程にはそういうコースもあるのではないか。

その場合、うつ特有の落ち込みや希死念慮は「体の故障」の症状の一つであり、性格や発想は関係ないということだ。

………………………………………………

実によく分かる。もっというと、うつ状態の人を見たらまずロキソニンのませたら、ということになる。本当のうつ病はなかなか手ごわい病気で、手間もヒマもかかる。

しかしロキソニンで効果が出るようなら、24時間で決着はつく。だめだったらそれから腰を落ち着けて、治療に取りかかればよいということになる。

こういう考えはブルモア先生いの本意ではないだろうが。

…………………………………………………

この記事が気になったのは、以前逆の記事があったからだ。

長時間、強度のストレスにさらされ続けると脳が萎縮し機能も落ちる。それは脳ナインにステロイドが蓄積しそのステロイドが脳細胞を破壊するからだ。

こう言うことを主張する研究者がいる。

小児科の医者だ。皆さん、小児科の医者が常識に反するようなことを言い出したら、一刻も早く逃げ出してください。

彼らは食事アレルギーを過度に強調し、薬はすべて毒だと言いふらす。

熱は下げるな、抗生剤は使うな…と母親をがんじがらめにし恐怖に陥れる。

ステロイド脳症を疑うなら、最低でも動物実験で血中濃度、組織内濃度との相関を実証すべきだ。ステロイドを使うからには重症の炎症があったはずなので、そちらが犯人だった可能性は否定できない。

たとえば、タミフルで異常行動が出るから使うなという。熱のせいなのかも知れないのに。

…………………………………………………

ブルモアは内科の研修医時代に、リウマチ性関節炎と診断されていた女性患者がうつ病を合併していることに気づき、指導医に報告した。

指導医はリウマチがその患者にストレスとなっているからうつ病を発生したと答えた。

この「ストレス」というわかったようなわからないようなものを病気の原因に仕立て上げるととはまずやめなくてはいけない。

そして細胞が疲弊し死滅していくのは、炎症の積み重ねによるものだという、脳以外の組織では当たり前のことを脳にも適応することだ。

ましてや抗炎症剤の使用に細胞死の原因を求めるのは、文明のたたりを叫び立てる巫女のような行いだと腹を固めなければならない。

…………………………………………………

実は私にとって至極真っ当な考えであるうつ病炎症説が、未だに異端であるのは、学会に牢固とした思想があるからだ。

私はマクリーンの『脳の三位一体論』になぞらえて考えている。

大まかに言うと
ストレス→脳機能障害→器質的傷害→壊死・萎縮という議論だ。
もし炎症説を採用すれば、最初の2つのステージは必要うなくなる。パスツールの外部起因説で事足りるわけだ。

以下は1975年(昭和50年)の「医学のあゆみ」に載せられた概念図である。驚くのは、この図は2005年の日本医学会のシンポジウムで用いられたものだということである。
https://jams.med.or.jp/event/doc/129006.pdf


うつの発症経過

もっともそれからさらに17年経っているから、さすがに変わっているかも知れない。いずれにせよストレス悪人説には牢固たるものがある。

だから、私はうつ病炎症説を手がかりに、ストレス→脳機能障害を打ち破り、事のついでにステロイド傷害説を葬り去らなければならないと感じているのだ!(まあ無理だろうけど)

 

18 Mar 2022

国際平和と安全に対する脅威に関する安全保障理事会に対する

上級代表のブリーフィング

中満泉軍縮担当上級代表のステートメント

High Representative’s briefing to the Security Council on Threats to International Peace and Security: Statement by Ms. Izumi Nakamitsu, High Representative for Disarmament Affairs


https://reliefweb.int/report/ukraine/high-representative-s-briefing-security-council-threats-international-peace-and

 

 

議長閣下

安全保障理事会の皆さん

ロシアがウクライナの生物兵器プログラムの疑惑に関する文書を提出しました。しかし国際連合は、そのような生物兵器計画について一切承知していません。


また、国際連合には現在、このような情報を調査する権限も技術的・運用的能力もないことを申し添えます。


先に安保理でお伝えしたとおり、国際法の関連文書は1972年の生物兵器条約であり、生物・毒素兵器の開発、生産、取得、移転、備蓄、使用を事実上禁止しています。


ロシア連邦とウクライナは、ともに生物兵器条約の締約国であります。


中満
   中満 泉 上級代表

 

議長

 
生物兵器禁止条約(BWC)には、締約国が他国の活動に対して懸念や疑惑を抱いたときに、利用できる

措置があります。

5条で、締約国は、いかなる問題についても互いに協議・協力することになっています。

それは締約国間の二国間ベースで行われることもあれば、適切な国際的手続きによって行われることも

あります。

このような生物兵器禁止条約の国際的手続きの1つは「協議会議の開催」です。このほかにも、条約第5

条や第
6条のもとで、締約国間の懸念に対処できます。


BWCは、将来の課題に直面するために制度化が必要になっています。今度の第9回再検討会議は、条約

を包括的に強化する機会を提供するものとなっています。

国連軍縮部は、生物兵器禁止条約の下で締約国が決定するであろういかなる手続きも、支援する用意が

あります。


 

議長

 

ウクライナに存在する原子力発電所の安全・安心について発言します。

国際原子力機関(IAEA)事務局長によれば、ザポリージャ原子力発電所において、全国の電力網をつな

ぐ第
3の外部送電線との接続が喪失しました。しかしその後も、昨日までにすべての安全装置が完全に

機能したとのことです。これはウクライナ当局による情報です。

ウクライナ南部の施設にはロシア国営原子力会社の関係者が入りましたが、引き続きウクライナ人スタ

ッフが原発を運転しています。

チョルノブイリ原発は、314日に国の電力網に再接続されました。その後も、接続状態は維持されて

います。しかし、ウクライナ人の運転員や警備員は
3週間も交代できていません。

IAEAは、ウクライナ当局から、同国の15基の原子炉のうち8基が運転を継続しているとの報告を受けて

います。

核保障措置に関しては、チェルノブイリ以外の原発からはIAEA本部にデータが送られてきています。し

かしチェルノブイリ原発に設置された監視システムからの遠隔データ送信はまだ受け取っていないと聞

いています。

この機会に、ウクライナの原子力施設の安全および保安に関する枠組みを確立する必要があります。そ

のため
IAEAによる取り組みを事務総長が支持することを改めて表明していただきたいと思います。それ

と同時に、すべての関係者がこの目的のために努力することを強く求めます。

 

議長閣下


私はまた、この紛争が一般市民に与えている恐ろしい犠牲を強調したいと思います。316日現在、人

権高等弁務官事務所は、
780人の死者を含む2032人の民間人の犠牲者を記録しており、うち58人が子ど

もでした。

実際の死傷者数はもっと多いと思われます。

これらの死傷者の多くは、広範囲に影響を及ぼす爆弾の使用によるものです。それは重砲、多連装ロケ

ットシステム、弾道ミサイルや巡航ミサイル、空爆などによる攻撃をふくみます。


また、民間人に向けた攻撃は国際人道法で禁止されていることを、改めて強調したいと思います。私た

ちはこの戦争に外交的解決策を見出し、暴力に終止符を打たなければなりません。

 


グテーレス事務総長
がこう述べました。

私はそれを引用します。

「国連憲章と国際法の原則に基づき、敵対行為の即時停止と真剣な交渉が必要だ。

私たちには平和が必要だ。ウクライナの人々のための平和。世界のための平和が必要だ」

 

私たちには今、平和が必要なのです。ご清聴ありがとうございました。

 

日経新聞9月27日号に「COP26の延期提言が問うもの」という記事が載った。編集委員の小平龍四郎さんが書いたものだ。
以下は内容の紹介というより私の読後感。

もちろん、温暖化阻止は地球上のすべての人の希望だ。
しかしそれを声高に語れる人と、そうでない人がいることを念頭に置かなければならない。そうしないと、正義を語ることが、とても残酷な行為になってしまう可能性がある。
そのことが、図らずしもコロナのパンデミックによって明るみに出た。

新型コロナ対策は世界共通の課題だった

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コロナワクチンの接種には息を呑む較差


世界のワクチン接種率(2回接種)は世界平均で32%だ。しかし地域のばらつきは大きい。ヨーロッパで51%、北米で46%なのに比べ、アフリカでは4%にとどまる。この較差にはホモサピエンスの一員として息を呑むほかない。
ワクチン接種率

ワクチン較差は経済格差に直結した

そこには科学に名を借りた先進国のエゴイズムがある。それが実効的にどういう状況を生み出したのか。それが株価の変動だ。

ワクチンなくして成長なし。しかし先進国は途上国にワクチンを与えなかった。環境問題では途上国の協力を求めるが、その果実を途上国に与えるかどうかについては回答を保留したままだ。

先進国株価と途上国株価は今年6月を境に明らかに拡大した。
小平編集委員は言う。「株価はワクチン接種の較差を、残酷なほど明らかにしている」

株価格差

「真理も誇張すれば誤謬となる」

この2つのグラフから分かることは、社会経済的な配慮なしに、ユニバーサルな基準を押し付ければ、それはすべて途上国に皺寄せされざるを得ないということだ。

議論そのものにはやや飛躍があり、論理の運びにも強引さが見られる。しかし気持はよく分かる。

コロナが残した最大のネガティブな置き土産がこれだ。トランプ派も反トランプ派も、最後は自国第一主義にはまり込んだ。地球に深く刻み込まれたその傷をどう癒やしていくかが残された課題となる。

もっと大事なものがないだろうか。「COP26」もその文脈上であらためて語り始めなければならない。


それでも伊勢丹、行きますか?

このあいだ日経新聞の記事()を紹介したばかりだが、息継ぐまもなく続編が登場した。
こちらは「Diamond Online」で、週刊誌系だから遠慮会釈はない。

8月13日付で見出しは
伊勢丹新宿店でもコロナ感染者続出
新たな「感染防止ルール」に外部社員反発

編集部の山本記者の署名記事だ。


コロナ感染と階級差別

まず新たな「感染防止ルール」の出された背景が説明される。

伊勢丹新宿店では約1万1500人が働いている。このうち三越伊勢丹HDの自社雇用従業員は約2000人で、残る約9500人(83%)は取引先の外部社員だ。

従業員の感染者も外部社員が中心だ。7月29日から8月4日までの7日間の感染者数は70人。このうち自社雇用の従業員は1人で、外部社員の感染者数が69人とほとんどを占めている。

外部社員は接客業務に従事するケースが多いため、もともと感染リスクが高い。これに加え、外部社員のコロナのワクチン接種が進んでいないという要因もある(勧めていないのだから当たり前だ)

と、ここまでは日経新聞と同じ。


驚くべき「内部資料」を入手

しかし、日経新聞は記事の裏取りに、担当者の談話をとっただけだったが、山本記者は現場取材に取り組んだ。

その結果、驚くべき内部資料を手に入れたというのが、記事の売りだ。

それは三越伊勢丹HDが取引先の従業員に示したもので、「感染防止に向けた11のルール」なるものが記されている。

記者は「関係者の言葉」を借りて、「取引先従業員に対しての事実上のPCR検査“阻止令”だ」と断罪する。

本当にそのような「断罪」に値するものだろうか。中身を見てみよう。

…………………………………………………………………………………………………………

伊勢丹新宿店の “ルール”

とくに関係者が問題としたのが次の行だ。
① テナントが従業員の検査を実施する場合には、「必ず検査受検計画を事前にお知らせください」
② PCR検査を個人的に受ける場合には、「結果判明の2日前から休んでください」
わかりにくい指示だが、これを忠実に実行すると、結果的には、「検査で陽性者が出ても伊勢丹の濃厚接触者は常にゼロになってしまう」のだそうだ。

なぜなら濃厚接触者の対象は発症2日前までの接触者だからだ。

直接の効果はそういうことだが、間接的には「必ず事前申請」をすることが求められるから、強力な検査抑制になる。

事実、スタッフに伝達して以降、「検査を受けたい」という声は出ていないそうだ。悪知恵と言うより、悪魔の知恵と言うべきだ。


担当者の言い分

以下が伊勢丹担当者の記者への回答である。

「当社は“取引先が雇用する従業員”のPCR検査について事前報告を指示しているわけではなく、お願いをしているだけだ。それは(検査の禁止ではなく)陽性が判明した場合の対応を準備するためだ」

実に巧妙な言い回しだが、結局は感染隠し対策だ。それ以上にこの担当者の外部社員への白々しさが際立つ発言だ。

こういうやり方なら、“書類上” ではクラスターが見えなくなり、保健所からチェックも受けず、営業停止に追い込まれずに済む。

だがこれは感染隠し対策であって感染対策ではない、むしろ感染促進策なので、ほとんど人道犯罪だ。

記事には医療関係者のコメントが掲載されている。
本来なら、「だらだらと感染者を出し続けて」いる伊勢丹は、全従業員に対して一斉検査を行い、全員分の検査結果が出るまで、一時休業とすべきだ。
しかし、だらだらと感染者を出し続けても、担当者にはその自覚がないらしい。(それにしてもこの担当者ってどんな顔しているのだろう)
カネは出さない、責任は現場にかぶせる、本社には傷をつけない、下請けなんぞ知ったこっちゃない。客が感染しようと「我々が社」の責任じゃない。
これでうまく行けばよいが、そうは問屋が卸さない。案の定、外部社員からクラスターが発生した。メディアに漏れた。「誰の責任だ」と上層部から怒声が聞こえてくる。そこで今度はクラスター隠しに奔走する。それもまた皺寄せはテナントと外部社員だ。一番きつい冗談は、それでも自分は頬っかぶりしようとしていることだ。

佐川財務局長並みだ。

ということで、いささか羊頭狗肉に属する記事ではあるが、日経記事と読み合わせると面白い。

百貨店は「自粛の枠から外せ」と働きかけてきた。さらに、自分勝手に「感染予防対策をした安全な施設」と称し、無原則的に営業枠を拡大した。その際に根拠となるように、店員への職場接種を推進した。
しかし伊勢丹はそれすらもケチった。7月上旬から現場社員5千人にコロナワクチンを接種したが、外部社員を接種枠からオミットしたのだ。
その結果、大規模クラスターが発生した。この1週間の感染者は94人、先週より2.2倍増えている。そのほぼすべてが職場接種から弾かれた外部社員だ。
これを報じた日経新聞(7日付)は感染対策の「死角」だったと書いている。冗談じゃない、どこが「死角」だ。
伊勢丹新宿本店の勤務者は取引先やバックヤードをふくめて1万5千人、そのうち自社社員は870人、たったの5%だ。これで外部社員分の340度が「死角」になる視神経というのがどういう構造になっているか、それこそが問題だ。
伊勢丹の担当者はこううそぶいている。
「直接の雇用関係にない取引先社員に接種を強制はできない」
まことに白々しい。そうじゃなくてこう言うべきだろう。
「直接の雇用関係にない取引先社員への接種を強制される義理はない」
これ自体はただのケチだが、おそらく日頃から、外部社員は人間ではないと思っているから、こういうセリフが出てくるのだろう。こういうヒラメのような目の会社に「安全」を云々する資格はない。
一般人にとっては伊勢丹の自社社員が「安全」であるかどうかはどうでも良いことだ。むしろ外部社員が安全ではないこと、その違いが見た目ではわからないこと、にたいする不安のほうがはるかに深刻だ。
ただちに不要不急の金持ち目当ての営業を停止させるべきだ。これは根拠のない、ほとんどデマに近い「安全神話」を振りまいたことに対するペナルティだ。
日経新聞は、次のような美談も添えて、(富裕層御用達の)伊勢丹への不信を煽っている。
地方に好例がある。熊本の鶴屋百貨店だ。この店では「同じ館で働く全従業員の健康を守るため」に、取引先の理解も得た上で、職場接種を実行した。
外部社員とその家族を含む6千人が職場接種を7月までに完了した。7月以降の新規感染者数は2人にとどまっている。
記事は最後に、企業の側に「一層の対策強化と説明責任が求められる」と控えめに指摘しているが、気分としては日本有数の高級ブランド、「三越伊勢丹」の低級な企業精神に対する弾劾文であろう。

皆さん 焦らないでください。
ワクチンはないんです。
早いもんがちではないんです。
それは嘘です。

「皆さん整然と行動しましょう」というべき人が、
「皆さん、早いものがちですよ」と混乱を煽っています。
そんなこんなで、お年寄りは電話をかけまくった末に、
疲れて頭がおかしくなってしまいそうです。
皆さん 政府は皆さんをだましているんです。

政府は医者が足りないとか、市役所や町役場がとろいと言っているが、
ほんとうはワクチンが現場に届いていないのです。
日本の政府の力は後進国並みなので、
恥ずかしくて人に責任を押し付けているのです。

みなさんが打てるだけのワクチンが来るには3ヶ月はかかります。
それだってオリンピックに回せば遅くなります。
自衛隊が、おためごかしにしゃしゃり出るから、ますます混乱しています。

待っていてください。政府のアオリには乗らないでください。
それは選挙目当てかも知れません。オリンピック目当てかも知れません。
やるべき予防策をやって、自宅にこもっていれば、
感染はかなりの確率で防げます。

最後に、こんな政府には一刻も早くやめてもらいましょう。

5月11日の日経「オピニョン」が痛快だ。書いたのは日経コメンテーターの秋田浩之さん。
むかし読んだ「失敗の本質」という本を想起させる。いわばコロナにおける「失敗の本質」を論じたものだ。
日本の根本欠陥

見出しは「80年間、なぜ変わらない」というただ1本。

コロナ対応が、対米開戦へと突き進んだ戦前の政府とダブるというのだ。

ことは結局ワクチン接種の遅れに尽きる。

有事に機動的な対応ができない政治の欠陥を指摘する点では、伝統的右翼と同じ問題意識だ。
しかしそこからが違う。「だから国家統制を強化せよ!」との伝統的右翼の主張は拒否される。

秋田さんはきっぱりと主張する。そのような右翼的伝統こそが、80年間変わらずに日本を責め続けていると考えるのだ。

それが以下のフレーズである。

明治維新後、日本は日清・日露、第一次世界大戦、日中戦争と有事の連続だった。この間、国家は社会の統制を強めていった。
ではそれで危機対応力が高まったかといえば、そうではない。
大国との対立を調整できず、日米戦争に突入、国が滅びる寸前にまで行った。

いわば有事への「悪なれ」である。

それは次の3点に集約される。

① 行きあたりばったりの泥縄体質
② 縦割りを盾にした責任逃れ
③ 根拠のない楽観論

これが日本軍・政府の体質であり、それは戦後80年を経た今も色濃く残っている、というのが秋田さんの主張だ。

ここまでは快調なのだが、そこから先の「なぜ?」の議論が進まない。すぐにマニュアルとかプロトコールなど実務的な手続きに行ってしまう。彼らはもう、社会変革の実践の経験がない世代なのだ。

悪なれ体質は、批判・自己批判・相互批判の欠如が最大の原因である。踏まれた足は痛いが、踏んだ足は痛くない。「踏んだ足」はただ踏むだけでなく、「踏まれた足」を踏みにじるようになる。

私としては、統制ではなく議論の強化を望むし、その前提としての情報公開の強化こそが「悪なれ」を防ぐ唯一無二の保証だと思う。

明治維新は封建体制の打破、「万機公論に決すべし」の理想を掲げた。しかしそれは、80年にわたる「有事」の積み上げの中で窒息させられていった。

その80年と戦後の80年の積み上げを踏まえるなら、「実事求是」とたゆまぬ「公論」の育成こそが、「有事対応」に向けた最大の保障となるのではないだろうか。

日経新聞の奮闘に期待するところ大である。

ウソのようなホントのはなし

「血液型がO型ならコロナにならない」というので、てっきり都市伝説か、悪くすればフェイクかと思っていたが、なんとNEJMに載った論文なのだそうだ。(New England J of Medicine は世界で最高の医学雑誌と言われている。しかし時々先走ることもある)

出処は 7/25 日経Gooday 30+


イタリアとスペインの患者を対象に行われた臨床研究。

新型コロナで重症化するリスクは、血液型がA型の人で45%高く、O型の人では35%低いことが明らかになった。

「新型コロナの重症化にはどんな危険因子が関係しているのか」
それを探す研究が、世界中で行われている。

その一つが重症化群と非重症化群に分けてゲノム解析の比較をすることだ。

ゲノム解析と言っても、全ゲノムをチェックするような面倒な話ではない。

疾患関連SNPを見つけ出し、その近くの疾患感受性遺伝子を推定するという方法である。(ちょいと面倒なので詳細は略)

今回はイタリアとスペインの4都市の7病院で、呼吸機能の低下した1610人と健常者2200人を比較した。

その結果、A型の重症化リスクは、他の血液型(B型、AB型、O型)の1.45倍になることが明らかになった。

一方、O型の重症化リスクは、他の血液型の人の0.65倍にしかならないこともはっきりした。

これまでも武漢での疫学調査により「新型コロナウイルス感染者はA型の割合が有意に多い」ことが認められていた。

今回の研究ではそれがゲノム解析によって裏付けられた。

いま引きこもりを主人公とした映画を見終わったところである。とても感動的だった。たぶん数多くの実例を踏まえているのだろうと思う。

深く考えさせてくれる映画ではあるが、たぶんそれが病気だということから目をそらそうとする、希望的観点に基づいているのではないか。

「引きこもり症候群」という症候群があるとすれば、それは「自閉症」に基づく症候群であろうと思う。しかし「自閉症」という疾患単位はあるにせよ、そういう本質規定はまったくの誤りである。誤りであるだけでなく、本人と家族をますます窮地に追い込む罪作りな病名であろうかと思う。

自閉症はまず何よりも微細脳損傷と理解すべきかと思う。その損傷部位は一時記憶装置である。

大体が脳の働きの大部分は記憶装置である。判断とか対応というのは、さまざまなイベントを視覚化させ、その画像を短期記憶装置により連続的な事象と捉え、その事象をハンドルにより操作していく技能のことである。

一つ一つの画像に意味はなく、パターン化したシンボルに過ぎない。、それが連続した時にはじめて現象としての意味を持ってくる。いかに画像が鮮明であろうと、その時間軸上での再構築と動態化能力がないと無意味になってしまう。

自閉症の人はこのパターン化、シンボル化ができない。画像はいつまでも画像のままである。

これは一次的には頭頂葉の障害であり、さらにこの情報を二次処理する特定の脳分野の障害であり、反応系の連結障害である。どちらが原因でどちらが結果なのかは不分明である。聴覚情報(嗅覚・触覚も)というのは本質的に連続的なので、生物は発達のどこかの時点で聴覚と視覚を結合させる能力を手に入れたに違いない。

病理学的には発達障害と認知症は同じ病気であるが、病因としてはことなる。こういう視点からの取り組みが必要である。

なぜこのような当たり前の話をするかというと、児童精神医学や教育心理学には変なカリスマがたくさんいて、それを信じる変な実践家がたくさんいるからだ。

くれぐれも「脳科学者」を名乗る怪しげな輩には騙されないように、ご用心を!

8月6日 北海道新聞にこのような記事が掲載された。
私の名前も紹介されているので、転載させていただく。

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続き

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堀川さんからは御丁寧なご質問を受け、答えさせていただいた。
しかし何分にも30数年前の調査なので、記憶は不鮮明で、ご期待には添えなかった。
忸怩たる思いである。
ただあの頃は未だ話題にもならなかった、原爆被災者における内部被曝の問題を、おぼろげながらに指摘できたのではないかと密かに考えている。

G614 の話

ちょっと長い前置き

実はロシアから帰ってくるに当たり、イタリアでの新型コロナが恐ろしく毒性が強くてバタバタと死んでいる、という話でかなりスリルを感じたことを覚えている。
ブログにも、イタリアコロナは武漢コロナとはレベルが違う、中東からヨーロッパに渡る間になにか突然変異したのではないかと書いた。

ただその頃はウィルスの強弱ではなく環境因子のほうがはるかに大きいと言われ、イタリアの状況を聞いているとそれで納得したところもあった。

しかし今になって統計的に観察してみると、やはりアジアとヨーロッパではケタが違うとしか思えない。

たとえは悪いが包丁を振り回す通り魔と、榴弾砲やカラシニコフであっという間に数百人をなぎ倒すテロリストの違いみたいなものだ。

この印象の違いは米国の両岸を見ると鮮明になった。

同じ国で生活水準や医療にさほどの差があるとも思えないが、東海岸の新型コロナの凶悪さは別格である。

そこに持ってきて学会で突然変異の可能性の話が出てきたから、気になる。

おそらく数ヶ月の間にアジア型亜種はヨーロッパ型亜種により淘汰されるだろう。

秋以降に第二波が来るとすれば、それはヨーロッパ型になるのではないかと気になる。

そのためにはヨーロッパ型コロナのウィルス学的特徴を踏まえておく必要があるのではないか。

と、ここまでが長めの前置き

G614 変異の新型コロナ

4月末、世界最大の非営利生物医療研究機関、フロリダ州のスクリプス研究所は、細胞の受容体ACE2に結合するスパイクS蛋白質の2箇所のアミノ酸が変化していることを発見した。

それはひとつは、S1サブユニットの結合ドメインであり、もう一つはS2サブユニットの境界にあるN-末端から614番目のアミノ酸である。

この2箇所は、感染当初(2020年1月)はアスパラギン酸(D614)だったが、時間が経つにつれて次第にグリシン(G614)に変化していった。

突然変異(D614→G)の割合は、2020年1月、2月には見られなかったが、3月に(26%)、4月(65%)、5月(70%)と次第にG614の割合が増加していた。

3月以前は中国も含めてアジアとアメリカで殆どがD614型だが、イタリアではすでにG614が優勢だった。

それが3月以降は中国とシンガポールを除き、ほとんどがG614に変化している。日本でも3月以降はほとんどがG614型である。

D614とG614の毒性を比較するために、マウスの白血病ウイルスにD614と突然変異型G614を入れた偽ウイルスを作った。

これをヒト胚性腎細胞に感染させ、感染率を観察した。突然変異型G614のスパイクを持つウイルスの感染率はD614に比し感染率は9倍であった。同様の結果はインド各地での感染ウイルスのスパイク蛋白質の分析からも示されている。

ただし日本でも、すでに3月にはG614への変換は終了しているにもかかわらず、欧米のような爆発的な感染拡大は見られない。

日本での感染者数の少なさは、必ずしもG614からだけでは説明しきれないかもしれない。

間違えないでください。マルクス思想ではありません。
軽薄にいうと、2020年の世界の流行は第一に新型コロナですが、第二の流行はマスクです。

日本人、それに一部の東洋人の間ではマスクは比較的馴染みの深いものでした。
しかしそれ以外の地域、とくに欧米や中東、アフリカでは決して一般的なものではありませんでした。
新型コロナのパンデミックが始まった頃、外国ではマスクをした日本人は奇異の念で見られ、ときにはそれが「ヤバい人種」の象徴のようにさえ受け止められました。

しかし新型コロナがヨーロッパ全土を覆い大変な状況になると、おしゃれの本場イタリアやフランスでもマスクが当たり前のモードになりました。いわば、コロナ・リテラシーの象徴となったのです。

マスクはやがて新型コロナとともに米国に渡りました。そして2つのイデオロギーの衝突の中で、進歩派の象徴となりました。逆に言うとマスクを着けないことが保守派のクリードとなりました。

3つの写真を提示します。
トランプ集会
トランプ集会です。密密密+ノーマスクスです。空中に飛び交うウィルスが見えるようです。
白人至~1
白人至上主義者の集会です。当然マスクは未着用です。
BlackLivesMatter
ニューヨークで開かれたBlack Lives Matterの集会です。100%マスク着用です。
なお写真はクレームあり次第外します。


ここでマスクの本来の意義を確認します。これは本人のコロナ防御用にも役立ちますが、圧倒的な意義は他人への感染予防のためです。つまり利他主義→社会的予防→自らの感染防止という三段階を踏んだ防御アイテムなのです。

つまりそこには① 利他のコミュニティの思想があり、② それを前提とする予防手段というリテラシーがあり、③ それを共有する世間という道徳的枠付があるのです。

これが、東洋の風俗がパンデミックの圧力を受けて、ヨーロッパのモードとなった経過です。


ではなぜアメリカで白人原理主義者がマスク思想を敵視するのか。これが次の問題です。

これはコロナが人類に突きつけた「命の平等性」が基礎にあります。新型コロナは白人優位主義を打ち砕きました。それは3月以降に西欧各国で猛威をふるい、本家の中国を上回り、最悪記録を次々と更新しました。

これを機に欧州のみならず世界の国々が、社会ぐるみの予防対策を取るようになりました。そのためには「お互い様」の我慢がもとめられ、我慢が困難な弱者への配慮がもとめられました。

この2つ、つまり無差別な「命の平等性」と「お互い様」の思いやりは、ともに白人優位思想の根っこを揺るがすような危険な思想です。

だから、白人原理主義者はマスクが嫌いなのではなく、マスクに象徴されるようなアジア・ヨーロッパの「無差別・平等・博愛」思想を敵視するのではないでしょうか。

もちろん、このような時代遅れの考えはいずれコロナの前に吹き飛ばされるでしょう。「マスクか死か」と問われれば、真理の前に膝を屈するしかありません。

最後はちょっと読み過ぎになったかもしれません。


新型コロナ 各国比較は超過死亡が正確

感染者数は到底各国比較の対象にはならない
我が国のように、なんの理由か知らないが、検査をさせないために調査の何倍もの労力を割いた国もある。
なにせ原発事故のときもホ。甲状腺ホルモン検査させなかった国だから、コロナごときではびくともしないようだ。

貧困国ではそもそも検査セットさえ入手困難だろうから、当然、日本と同じように感染者は低く出る。

だから死者数で比較するのが良いと考えていたが、実はこれもかなりばらつきが出るようだ。

白状するが、私もむかしは何でも心不全だった。事故死や自殺でもない限り、最後は心臓が止まって人間は死ぬのだから、みんな心不全である。

むかしは人聞きが悪いと言ってガンを病名にするのを嫌ったものだ。なんせ本人に病名を告知しないのだから、ある意味自然の流れであった。

こういう風習は、伝染病ではもっと強いものがある。だから結核で死んでも死因は肺炎である。「何が悪い、心不全よりよほどまともな病名だろう」という具合だ。

これをうんとマクロに見てしまおうというのが超過死者数だ。

もちろんこれは理論上非コロナ死を含んでしまう。特に医療機関の受給が逼迫してくると、皺寄せ死や、関連死が乗ってくるからだ。

だがコロナ関連死も乗せることは決して悪いことではないだろう。

そこを指摘したのがBBCの「“超過死亡”という数え方は役に立つ」というニュース解説。


それでBBCが同一の方法で各国の超過死者数を調べた。

日本(3月)

日本の超過死者数は平年より 0.3% 高く、平年より 400 人が多く死亡した。

いっぽう政府発表による同時期のCOVID-19死者数は51人に過ぎない。超過死者数の8分の1だ。

ということはこれまでの公式死者数約千名とされているのは、超過死者数では8千人ほどになると予想される。

これを人口で割れば超過死亡率が出てくることになるが、世界水準に比うと、やはり間違いなく低いようだ。どう見ても非の打ち所のない、「世界の神秘」である(何も政府はしなかったのに)


米国(2月16日 - 5月02日)

大流行の前半分だけを切り取った形になっている。死者数は平年より 97300 人が多く死亡した。死亡率は平年より 16% 高かった。

政府の死者発表は7万266人でありかなり高率に捕捉されていると見られる。

分母が違うので比較は難しいが、超過死亡率は少なくとも日本の10倍を超えることは間違いない。


イギリス(3月07日 - 6月05日)

ほぼ全期間をカバーしていると思われる。

死者数は平年より 64500 人が多く死亡した。死亡率は平年より 43% 高かった。

政府の死者発表は51804人でありかなり高率に捕捉されている。

イギリスの人口は日本の3分の2,6千6百万人ほどであるから、単純計算で超過死亡率は日本の230倍ほどに達する。

まことに凄まじい数である。


韓国(2月01日 - 3月30日)

何かと比較されることが多いが、この期間に年より 2400 人が多く死亡している。これは平年に比し5%多い超過死者数である。

これに対し政府発表によるコロナ死者数は163人にとどまる。日本の3倍だ(期間は異なるが)

見事に日本と同様の文化習慣が認められる。しかもはるかに強力だ。日本で死因が公開されたのが8人に一人だが、韓国では15人に1人という計算になる。

東洋と西洋の死者数はまったく比較の意味がないことが分かる。これなら感染者数の比較のほうがまだマシだ。もし強引に比較しようとすれば、東洋諸国の死者数に10~15倍をかけた数字を念頭に置く必要がある。

これは統計学というより比較文明論の問題だ。とはいえ、東洋人が(平然と)ウソをついているのは間違いないので、決して良いことではない。できるだけ科学的に厳密な数字を出すようにしなければならない。

以下は省略。本文を参照されたい。

どうも最近のアメリカのニュースを見ていると、現実感にかけているように見えてならない。

いまアメリカでもっとも深刻で国民の関心が集中している問題は、他ならぬ新型コロナである。そしてそれが恐ろしい速度で全土に拡大しつつあることなのである。

だからトランプは破れかぶれになって「中国が悪い」と騒ぎ立て、とにかく自分以外の誰かが悪いと見苦しいざまを見せているのだ。

我々は米国における新型コロナのパンデミックがいかに凄まじい状況になっているのかを、実感として知っておく必要があるだろう。

以下「赤旗」などより引用


1.新型コロナの全般的状況

米国では感染者230万人、死者12万人を出してきた。

現在では50州すべてで外出制限が緩和されている。厳しいロックダウンがなくなり日常が戻りつつある。

しかしいくつかの州では、新型コロナウィルスの感染者数が大幅に増加している。つまり封鎖解除は明らかに時期尚早なのだ。

6月19日には、アメリカ国内の1日当たりの新型コロナ感染者が3万人をこえた。これは4月下旬以来の最悪の数字である。

感染者急増の背景には検査の拡充もあるが、顕性者の増加が主因であることは明らかだ。ICUの病床が不足している州も出現している。

NBCの番組で、ある専門家は新型コロナウイルスについてこう語った。

新型コロナは山火事に近いものだ。夏にかけて、あるいは秋に入っても感染が収まらず、第1波、第2波、第3波と分かれるのではなく連続的に全米を襲うのではないか

コロナ 米国地域別



2.ニューヨークの次はフロリダだ

南部と西部での拡大が顕著で、8つの州で、1日当たりの感染者数の1週間平均が過去最多を記録した。

フロリダでは18日、新たに3207人の新型コロナ感染者が登録された。さらに22日には、感染者総数が10万人を突破した。

研究者のモデルを基にした予測では、

フロリダ州はコロナ感染の次の中心地となるだろう。感染規模は「過去最悪」になる恐れがある。

とされる。ある医師はCNNに対しこう語った。
入院患者もタンパからオーランド、マイアミデード郡に至る各地域で増えている。
これが倍増し始め、制御不能になっても全く不思議ではない
これに対し各州の指導者は、感染者数増は検査の拡大のせいだとすぐ分かる嘘をつく。(陽性率もしっかり上がっている)

連邦政府の責任者ペンス副大統領は「50州中、半数以上で新規感染者は減少しており、われわれは見えない敵とのたたかいで勝利している」と強弁した。

フロリダ州知事は、移民世帯の過密な住環境が増加の一因だなどと、逃げ口上を繰り返している。

フロリダだけではない。テキサスでは1日あたり新規発生が4135人、アリゾナで3465人に達している。

トランプは23日の選挙集会で、我々は戦闘に勝利した。武漢風邪(新型コロナの感染症)は消えつつあると嘘をついた。


3.対策センターの評価と対応

アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士らは議会で発言し、感染者の急増は憂慮すべきサインであると発言。今後数週間の対策が重要になるとした。


若者の無症候感染が増えている

特に若者の間での感染拡大が著明で、テキサス州では30歳未満の若年層が新規感染者の過半数を占めるようになった。検査件数が増えただけではなく、陽性率も上がっている。

若者は大半が無症状で、治療を必要としない。そのため対策を無視し、ウィルスを撒き散らしている可能性がある。

一般米国民の無知は相当のもので、たとえば国民の23%が、新型コロナウイルスは意図的に作り出されたと考えている。
愚や愚や、汝をいかにせん!


4.トランプは最強の支持基盤を危機に追いやった

今後南西部の感染拡大がどうなるかは見当がつかない。感染者数は加速度的に拡大し、そのスピードに鈍化は見られていない。
基本的にまだ住民の間に危機感が見られていないと考えざるを得ない。
コロナ 米国とEU
フロリダとテキサスはトランプの、というより共和党と草の根保守勢力の本拠地だ。ここの地域で感染が広がり医療崩壊が起こりロックダウンが広がれば、保守派の動きは止まる。一度止まった動きは大統領選挙を超えて不活化状態が続くだろう。
中西部のラストベルトの選挙民だけでは到底必要な票を集めることは出来ないだろう。そもそもラストベルトの退職者たちが忠実なトランプの支持者とも思えない。

我々は、ポストコロナの時代を、そろそろトランプ抜きで考えるべき季節に入ったのかもしれない。

新型コロナ ゲノム解析でわかったこと

日経新聞日曜版にスレヴィン大浜華記者の署名記事として掲載された。

やや入り組んでいて読みにくいが、主だった中身を列挙する。

1.進む新型コロナのゲノム解析

遺伝情報の変化を遡ることで、系統樹を作っていく作業だ。

これでアダムとイブの発生時期が特定できる。

これまでの結果は予想よりさかのぼるようだ。それだけでなく衝撃的なのは、武漢で最初の患者が確認される前に、人から人への継続的感染が起きていた確率が高いことである。


2.ヒトコロナ感染者は武漢1号患者より数代さかのぼる可能性

武漢で発端者が発見されたのは12月8日。その発端者を遡ることは出来ていないが、武漢以外の可能性はある。

おそらくは夏の終わり頃に、コウモリに常駐する新型コロナが人へ、そして人から人への伝播を繰り返した後に、武漢で感染爆発したのだろう。


3.新型コロナは武漢から広がったのではないかもしれない

武漢で感染爆発に至ったのは12月中旬から下旬であったが、その時点ではすでに広東省などで少なくない新型コロナの発生とヒトーヒト感染が見られており、むしろ武漢以外の地が発生源にあった可能性を示唆する。

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武漢の食肉市場からの発生の可能性は、むしろ低いと言わなければならない。現在中国当局は武漢の市場を発生源とする見解を取り消しており、WHOも白紙に戻して検討するよう促している。

欧米の感染も思ったより早かったのではないかとの報告が相次ぐ。

フランスで12月下旬にインフルエンザ類似の症状で入院した40代男性の検体を、4月に改めてPCR検査したところ、新型コロナが検出された。

これはヨーロッパでのコロナ感染が、武漢での感染と並行、あるいはひょっとすると先行していた可能性を示唆する。

米国のCDC(疾病対策センター)も、早ければ1月中旬には感染拡大が始まった可能性があると報告している。

4.現時点での結論

新型コロナの発生源が中国であることは間違いない。新型コロナが、もともとコウモリに起源を持つこともほぼ確実である。

これが直接、あるいは他の動物を介してヒトに感染し、さらにヒトーヒト感染が起こり始めたのは去年の秋だった。

最初の感染拡大は武漢より南の地方であったが、それは大流行にはならなかった。

それらの新型コロナの一部が武漢市に入りパンデミックに発展した。残りはほぼ同時期に西方へも拡散し、その先端はすでにヨーロッパにまで達していた。それはさらに大西洋を渡り、1月中旬には米国内での拡大を開始していった。

* ウィルスの人工作成説、武漢のウィルス研究所の拡散説、武漢の市場発生説はこれらの研究によりすべて否定された。確実なのはコウモリ起源説、確実と思われるのは中国南西部のどこかで発生という説である。

スレヴィン大浜華さんの丹念な文献検索に敬意を評します。



新型コロナウィルスの研究の変遷

基本的な知識は東洋経済ONLINE 2月12日号「新型コロナウイルス:専門家見解で人工で製造することは不可能」が詳しい。これは中国の民間誌『財新』の提供記事だそうです。

1月12日 中国科学院武漢ウイルス研究所、新型ウイルスの遺伝子情報を解析。WHOに提供。

中国科学院が武漢に持つウイルス研究所は、中国で唯一のバイオセーフティーレベルP4の実験施設を有している。幹部研究員の石正麗氏はコウモリを宿主とするウイルス研究が専門。コウモリを求めて雲南省の洞窟などに通う姿から、「バットウーマン」とも呼ばれる。
2017年SARSがコウモリを起源とする、SARS型コロナウイルスによるものであることを明らかにした。
石済麗

1月21日 中国科学院上海パスツール研究所などが新型コロナの人感染機序を明らかにする。新型コロナと一体化したS-タンパク質が、人のACE2受容体を介して呼吸器官の表皮細胞に侵入すると推定する。

1月22日 中国の研究者の共同論文が「Journal of Medical Virology」に掲載される。新型コロナウイルスは、コウモリのコロナウイルスと起源が未知のコロナウイルスとの間で遺伝子が組み替えられることによって発生したとされる。

1月23日 石正麗ら、bioRxivで、「新型コロナウイルスの発見とそれがコウモリを起源とする可能性について」という研究論文を発表。
雲南キクガシラコウモリに存在するRaTG13コロナウイルスとの一致率は96%に達していることが明らかになる。この研究は『ネイチャー』誌の2月3日号で発表された。

人工ウィルスではない証拠
ただし相違点4%は、遺伝子変異1200カ所起こるのに当たり、人工的操作では不可能。
またDNAを切り離し接合するにはエンドヌクレアーゼを挿入する必要があるが、新型コロナにそのような形跡はない。

1月26日 親人民解放軍系民間軍事サイト「西陸網」が、「新型ウイルスはアメリカがつくった中国人だけに作用する生物兵器だ」という陰謀論系の記事を掲載。

1月末 「新型コロナウイルスは人間が造った生物化学兵器だ」(陰謀論)が中国内外に広がる。また石氏の実験施設がウイルスの発生源ではないか、という「疑惑」が飛び交う。

1月31日 デリー大学の研究者がbioRxivで「2019新型コロナウイルスの棘突起タンパク質に含まれる独特な挿入配列とエイズウイルスのHIV-1 dp120、Gagタンパク質との間で見られる奇妙な相似性」という研究論文を発表。

まもなく論文を撤回し、以下のコメントを残す。
このストーリーはすでにソーシャルメディアとニュースメディアにおいて異なる仕方で解釈され、拡散してしまいました。私たちには陰謀論にその議論の根拠を提供する意図はありません。私たちはさらなる分析を行ってから修正版を提出することにしました。

インド論文に対する批判が集中。
エイズウイルスは逆転写ウイルスでありコロナウイルスとの間には大きな違いがあるためDNA間で組み換えが起こる可能性が低い。従って相同性があったとしても生物学的な意義はない。
とされる。

2月2日 石正麗氏、微信(WeChat)のモーメンツに投稿。

新型コロナウイルスは、大自然が人類の愚かな生活習慣に与えた罰だ。私、石正麗は自分の命をかけて保証する。実験施設とは関係がない。不良メディアのデマを信じて拡散したり、インドの“科学者”の信頼できない分析を信じる人にご忠告申し上げる。「お前たちの臭い口を閉じろ!」と。

2月3日 亡命富豪の郭文貴、「西陸網」の記事を引用し、「新型コロナウイルスが生物兵器であることを軍が公式に認めた」と報道。

2月4日 石正麗は中国の独立系メディア「財新」に対し「陰謀論者は科学を信じません。私は国の専門機関が調査を行い、私たちの潔白を証明してくれることを望んでいます」と語る。

2月9日 法輪功の衛星テレビ番組、「新型コロナウイルスは人工ウイルスの可能性が高い」と報道。

2月18日 ワシントン・ポストのインタビューで、専門家の意見を報道。「人工的なものを示す痕跡は皆無であり、生物兵器である可能性は強く排除できる」

3月28日 米国立保健機構(NIH)のコリンズ所長、新型コロナウィルスは人為的産物ではないとコメント。

「武漢コロナ」に関するトランプ発言の変遷

4月14日 ワシントン・ポスト、「2年前に科学分野の外交官が武漢の研究施設を訪問し、安全管理に対する懸念を報告していた」と報道。

4月15日 FOXニュース、複数の情報筋の話として「新型コロナは生物兵器として開発されたのではないが、武漢の施設での研究過程で漏洩したもの」と報道。

4月15日 トランプ大統領、「それぞれの報道について徹底的な調査を進めている」と語る。

4月17日 リュック・モンタニエが、ニュース番組に出演。新型コロナは人工ウイルスだと断言。(これに関してはこちらを参照)

4月17日 中国が武漢の死者数を約1.5倍と大幅に上方修正。トランプは「中国は情報を隠蔽している」と非難。

4月18日 トランプ「もし故意ならば中国は報いを受けるべきだ」と先鋭化する。

4月21日 WHOのシャイーブ報道官、「武漢の研究施設が発生源とはみていない」とし、モンタニエの「研究施設で加工されたもの」との主張を否定。

4月22日 ポンぺオ米国務長官、新型コロナは武漢の研究施設から流出した可能性があると発言。市内数カ所の研究施設の調査を求める。

4月30日 トランプ 記者会見

「武漢の研究所が新型コロナの発生源だ」と強く確信させる証拠を発見している。

ただしその数時間前に出された国家情報長官室(ODNI)の公式声明文ではこう書かれていた。

情報機関は全体として、新型コロナウイルスは人工でなく、遺伝子組み換えでもないと考える。
情報機関(複数)は武漢の研究施設でのアクシデントの可能性を検討するため、さらに調査を続ける。

4月30日 ニューヨーク・タイムズが以下の記事を発信。(発信時刻は)トランプの記者会見の直後。

見出し「トランプ政権高官が、ウイルスと武漢の研究所をつなげるよう、スパイに圧力をかけている模様」

情報機関の分析官たちの一部は、それによって情報分析が歪められ、中国批判のため政治的に利用されることを危惧している。
ほとんどの情報機関では、
①研究施設からウイルスが流出した証拠は見つからないだろう
②所外で動物から人間に感染した可能性が圧倒的に高い
と考えている。

4月30日 CNNも、「トランプ大統領の主張は、情報機関と矛盾している」と報道。さらにポンペオ国務長官が圧力の先頭だと指摘。

5月1日 AP通信によれば、国土安全保障省は「中国は新型コロナの深刻さを隠し、その間に自国用に医療器具を確保しようとした」と分析。

5月3日 トランプ、FOXテレビで発言。ウィルス流出について「彼らはひどい過ちを犯しそれを隠そうとした。非常に決定的で強力な報告書が出るだろう」と語る。

5月3日 ポンペオ国務長官、ABCテレビ番組で「新型コロナが武漢の研究所から流出したという多くの証拠がある」としたが具体的な内容には触れず。

5月4日 トランプ、「関税引き上げは中国への最も重要な罰則だ」と語る。

5月初め SNSで「中国科学院武漢ウイルス研究所の幹部石正麗が、秘密文書を持ってフランスの米大使館に亡命申請した」との情報が拡散。

5月6日 ポンペイオ長官、記者会見で「研究所から流出したか、ほかの場所からなのか確信があるわけではない」と述べ、従来の発言を修正。

5月7日 トランプ、「報告書が出てくるが、君たちに見せるかどうかはわからない」と述べる。

5月7日 米軍のミリー統合参謀本部議長、新型コロナは「人工的に作られたものではない。決定的な証拠はないが、意図的に流出されたものでもないだろう」とかたる。

5月11日 武漢ウイルス研究所の袁志明研究員、「危険度の高い病原体を扱う実験室では密閉性を確保しており、流出の恐れはない」と説明

5月24日 武漢ウイルス研究所の王延軼所長、「新型コロナの遺伝子情報はこれまでの研究対象と大きく異なり、ウイルスが流出した可能性はまったくない」と疑惑を否定。
所長

5月25日 石正麗、流出説を否定。さらに科学の政治化を憂慮すると発言。

5月29日 トランプ「新型コロナの初動に問題があった」とし、WHOを中国の「操り人形」と批判。関係解消を表明。


帯状疱疹と「やる気」の減少

とにかく、この病気になってからやる気が出ない。知らず識らずにため息がついて出る。

始めても根気が続かない。検察庁法についての文章を書きたいのだが、途中で思考の結び目がほどけてしまう。

以前書いたコロナショックの意味についての文章を少し手直しし、体系立ててみようと思うのだが、到底その気にならず、キーボードを前に佇んでいる。

多分帯状疱疹というのは、これまで考えていたよりはるかに広範かつ多彩な病気で、経過も長いらしい。

ヘルペス・ツォスター・ウィルス(HZV)感染症と言うべきであろう。私にとっては「やる気ホルモン減少症」が一番の問題だ。


「やる気ホルモン」とは?

ところで医者のくせに「やる気ホルモン」の本体がよくわからない。

私の「三脳セオリー」によれば、脳全体、とくに大脳を動かすには電源(エネルギー)が必要で、それを作り出すのが前脳ということになっている。

前脳というのは脳の先端の膨大部だが、ここには視床下部という液性ホメオスターシスの中枢があって、そこからホルモンが分泌されて身体各所に指令を発する。

その一方で前脳(視床)を駆動し、視床からいろいろな脳内アミンを分泌させて脳全体を動かしていく。

これが私の考える脳の駆動モデルだ。

それで、いろんな教科書をよく見るのだがあまりにもたくさんのホルモンや化学物質があって、実はよくわからないのである。


通俗ページを通覧する

通俗と書いたが馬鹿にしているわけではない。現在の物の考え方を端的に知りたいということである。最初のページにはこう書いてある。

「やる気ホルモン」は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)。集中力をサポートすると言われています。
脳内ではドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が活発に分泌されていると言われています。

この文章ではTRHとドパミンの関係が曖昧にされているが、私の「三脳セオリー」とはうまく合う。

「脳内三大神経伝達物質」について

で、TRHとドパミンの関係は後の話にして、脳内アミン(神経伝達物質)に御三家というのがあるそうだ。

やる気を起こさせるのがドーパミンと、ノルアドレナリン。これに足して安定や安らぎの要因となるセロトニンを加えたものを「三大神経伝導物質」と呼ぶらしい。

これから先は、ちょっと分かりやすさが優先して、正確さにかけるかもしれないが、もう少し聞いておく。

① ドーパミン:脳を覚醒させる。
側頭葉を刺激すると、喜びや快楽が生じる。
前頭連合野を刺激すると、精神機能が活性化する。
不足すると無気力になり、過剰になると総合失調症になる。

② ノルアドレナリン:ノルアドレナリンはドーパミンから合成される。
脳内で強い覚醒作用をもち、気分を高揚させる。不足するとうつ病の原因となり、過剰になると躁状態を引き起こす。

③ セロトニン:ドーパミンやノルアドレナリンの分泌をコントロールしている。
体温維持や睡眠を司る。

実際にはもっと色々書いてあるが、占いの本を読んでいるようで、「本当かいな」と一歩引いてしまう。
多分なんかの「くすり」の宣伝につながっていくのだろう。

なお「三大神経伝達物質」だが、Wikipediaと脳科学辞典には記載されていない。

Wikipediaでは
①アミノ酸 ②ペプチド類 ③モノアミン類
二分類されていて、そのうち③のモノアミン類の中にノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン、アセチルコリンが記載されている。

脳科学辞典では
ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの神経伝達物質の総称として、「モノアミン」の名称が用いられている。

あまり「三大神経伝達物質」というのは、公の場では用いないほうがいいようだ。恥をかくかもしれない。


ドパミンの謎

ドパミンが「やる気物質」のメインのようだ。研究もこれを中心に展開されてきている。

二つの謎 その一:なぜドパミンなのか

ここからさき、大脳生理学の先端は行き詰まる。一つはドパミン、ノルアド、アドレナリンという3つのカテコールアミンのうち、なぜドパミンが主役なのかが説明できていない。

二つの謎 その二:セロトニン由来の「やる気」との違いはどこにあるのか

もう一つは、「やる気物質」のうち、ドパミンなどのカテコールアミンと、セロトニンは明らかに違う物質であるから作用部位も作用機序も違うはずだ。

さらに「やる気」と言ってもドパミンによって賦活される「やる気」とセロトニンによって賦活される「やる気」とは中身が異なるはずだ。

その違いを系統発生学的な見地から説明しなければならないと思う。

これらの問題を解決しないまま、次々に新たな神経作動物質を列挙していくのが、現在の学問水準である。それが「脳科学」を怪しい学問にとどめている最大の理由である。

発生学的トレーシングの結果に待つほかないが、私はカテコールアミン系の作動物質がプライマリーで、それを修飾=部分的抑制する形でセロトニン・GABA系が付加されたのだろうと予想している。


真の脳神経学が「脳科学者」とは独立してやらなければならないこと

もともとは「やる気」を獲得するというプラグマチックな興味から始まった学習だったが、やっているうちに科学の目(つまり「脳科学」への反感)がむくむくともたげてきた。

視床下部から視床へと影響を与えるのは、TRHホルモンにとどまるものではあるまい。

むしろ視床から全身の臓器へと影響を与える多くののホルモンが、後ろ向きにも視床=前脳へとフィードバックしているのであろう。

そして、その多彩さがホルモン作用を神経へと翻訳し伝達する神経伝達物質の多彩さを生んでいるのであろう。

しかしその多彩さは最終的には電気信号としてのオン・オフ系まで単純化されなければならないのであり、その変容過程が突き詰められなければならないのではないか。


この論文が私の抱えてきた疑問にかなり答えている。専門家委員会の一人として疫学派の旗振りをしていた押谷東北大教授が、メディアの前に登場しなくなった理由を知ろうと思ってグーグル検索したところ、上記の記事が飛び出したのである。

押谷教授は、これまでPCR検査拡大に否定的であるクラスター対策の中心人物であった。彼は現職に就任する以前、1999〜2006年に「WHO 西太平洋地域事務局感染症対策アドバイザー」を務めており、尾見氏の子分だ。尾身氏は90年から同機関に勤務、99年に事務局長に就任している。

3月22日のNHKスペシャル番組では、こう言い放っている。
日本のPCR検査は、クラスターを見つけるためには十分な検査がなされていて、そのために日本では〝オーバーシュート〟が起きていない。
PCR検査を抑えていることが日本が踏みとどまっている大きな理由なんだ。
ところが4月13日、日本内科学会の「新型コロナ」緊急シンポジウムでは打って変わってこう語る。
我々は、検査数を増やすなということは一度も言ったことがなくて、感染者数が増えている中でPCR検査が増えないということは、非常に大きな問題です。
教授がPCR検査拡大にきわめて慎重ないし反対ともとれる論を唱えてきたという印象があっただけに、驚いた参加者も少なくなかった。

さすがの提灯持ちNHKもいささか頭にきた。

内科学会の前夜、デスクが「前回ご出演頂いた時は、むやみにPCR検査を広げるのは院内感染を起こして危険だという話もされていたと思うんですが」と尋ねた。

押谷教授は「すべての感染者を見つけなくても、クラスターさえ起きなければ、感染は広がらず、多くの感染連鎖は自然に消滅していく」と、従来の自説を述べた。
そしてその上で、「⼗分なスピード感と実効性のある形での『検査センター』の⽴ち上げが進んでいないということが、今の状況を⽣んでいる」との見解を示した。

これって支離滅裂じゃない?  180度の方針転換だ。しかも方針転換したという認識すらない。二つの人格が平然と同居していて、なんの矛盾も感じない。そして専門家会議にはシレッと居残る。

親分の方は5月に入っても、メディアに「PCRの実施率が低い」と喋っている。もはや完全に頬っかぶりモードだ。あんたなんぞに新生活などと説教されとうない。

どうも見るところ、この先生、尾身氏の引きで専門家委員会に選ばれて舞い上がったんじゃないだろうか。そして尾身氏におだてられて疫学派の旗振り役を引き受けた。「友がみな、我より馬鹿に見える日よ」という心境だったのではないか。

小此木さんは以下のように厳しい目を注ぐ。
NHKのスタジオで手元のメモに目をやりながら慎重に言葉を選んでいるように見えた押谷教授の説明からうかがえるのは、感染者が急増してきたからPCR検査を増やす必要があると判断して、これまでの検査抑制論を転換したらしいということだ。
この後は有料会員しか読めないが、ここまで読めれば十分だ。

結局、山本五十六のようなものだ。緒戦でのクラスター作戦の勝利に酔いしれて、彼我の力関係を読み誤り、ミッドウェーの敗北の後も方針を変えられないまま、日本を焦土へと導いてしまう可能性がある。

一つ、この記事へのコメントを紹介しておこう。
事態が収束したら、誰がどのような意図でPCR数を抑制して来たのか(政府側も含めて)検証してほしい。
もしそうなれば、この教授も間違いなくその片割れだろうね。

専門委員会が「新しい生活様式」なるものを発表した。
「面会は記録、横並びで食事を」と言っている。発想が国防婦人会だ。
もうこんな委員会早く解散せぇ!
何が専門委員会だ。馬鹿にすんな。
何ということはないただの尾身委員会ではないか。
誰が決めたか知らないが、俺達はお前らを日本を代表するほどの専門家と認めたことはないし
今やますます、日本を仕切るような資格などないと確信するようになった。

「新しい生活様式」というのは権力を傘に、金も出さずに、戸の開けたてから、ゴミの始末までいちいち指図する。
欲しがりません、勝つまでは
パーマネントはやめましょう
贅沢品より代用品
飲んでて何が非常時だ
の滅私奉公、隣組の世界だ。
こんな標語が政策ならば、頭丸めてとっとと消えちまいな。

だいたいが、厚生労働省で普通に仕切っていれば(厚労省ならいいとは言わないが)、
もうちっと風通しが良くなって、天一坊みたいな連中に世の中牛耳られることはない。

岡田先生、懇願の理由

本日のテレビ朝日の「モーニングショー」での一場面である。
「PCR、なぜ早期にやれないのか」というテーマでのトーク。レギュラーの玉川さんときれいなお化粧の女性、ゲストとしておなじみコロナおばさんの岡田先生。出始めの頃とは打って変わり、むかしの「あんみつ姫」がそのまま育って、前髪ハラリが可愛くさえ見える。

本日はイギリスの某大学在留中で、WHO事務局長の上級顧問という肩書きをもつ渋谷さんが登場し、PCR問題について話が進んだ。岡田さんが、ここで突如「渋谷さん、PCR問題についてもっと社会に発信して」と、詰め寄るかのように懇願した。
だれの眼にも異様な光景であり、さすがの羽鳥アナも言葉が引き取れなくて沈黙。
渋谷さんはこの質問をサラリと受け流した。そのまま議論は進んでいったが、終わり頃にふたたび岡田先生が同様の発言。

これをどう読むか。

まず岡田先生が「出る杭」としてバッシングを受け、かなり孤立感を深めているという背景がうかがえる。「だいじょうぶかな? ちょっと来ていないかな?」

そして背景には、岡田さんら臨床派と疫学派とのあいだにかなり断裂があること、しかも疫学派が足を引っ張る傾向があること。岡田氏はような背景を暗示している。
たしかに、当初はクラスター潰し、今は封鎖一本槍の疫学者に、私ら臨床医は現場性を感じない。現場を見ずして何を語るのだろうと懸念を抱いてしまう。

いうまでもなく疫学派の代表は尾身氏である。彼は厚生官僚からWHO西太平洋地域事務局長に就任した。その経過はかなり強引でカネまみれであったと思われる。(自治医大ホームページを参照)

そこから天下って、地域医療機能推進機構の理事長に就任した。これは社会保険病院、厚生年金病院、船員保険病院という3つの病院グループを統合し設立された巨大法人である。

臨床の経験がほとんどない人が理事長に数人するのは、それなりの政治力の反映であろう。

報道によれば、地域医療機能推進機構は、先日成立した補正予算で“特別枠”ともいえる65億円が付いたそうだ。誠にご同慶の限りである。

いくら渋谷氏がWHOの幹部とはいえ、いま単身、尾身氏に盾突くような真似は到底できるものではない。風車に突っ込むドン・キホーテのようなものである。

渋谷氏にとって尾身氏はWHOにおける先輩でもあり、なかなか容喙できる立場にはない。それに渋谷氏もふくめ疫学畑の人は、医師免許を持っているとはいえ政策官僚であり、臨床医のように自由に動ける身分ではない。

WHOなど国連系諸機関で働き名を揚げている人は少なくない。尾身氏も渋谷氏もそのような人々である。私たちは彼らを「国連マフィア」と陰口している。むかしなら野口英世みたいなもので、正直のところさほど信用しているわけではない。やっかみ半分ではあるかもしれないが、「英語がお上手ですね」くらいの気持ちだ。英語がうまいのは、その国の後進性の証だ。

デクエヤル、ガリ、ハンギムン、明石などなど… みんな国内で主要ポストを狙ったが、無残に敗退している。国内で汗をかいていない人は所詮は根無し草なのだ。

それはひょっとすると、本来は対応の中心となるべき厚生労働省の思いかもしれない。

問題は臨床が重視されていないこと

岡田先生が孤立しているわけではない。事実はその逆だ。

専門家会議において臨床畑の意志が尊重されていないことは、ほぼすべての臨床医と多くの疫学者の一致した感想であろう。

しかし岡田先生があせる必要はない。疲れたら、心が折れる前に少し休んだほうが良い。

声を上げるかどうかは別にして、臨床医のほとんどは先生と同意見だ。二人のノーベル賞医学者、山梨大学の学長まで発言している。

先日書いた「加藤厚労相は辞任せよ」といういささか過激な文章で言及したが、その時「どうも厚労省の頑迷固陋ぶりの背後に何かがありそうだ」と書いた。それは「専門家会議」と尾身「副会長」辺り、すなわち官邸筋だろうなと感じていたが、徐々にあぶり出されてきたようだ。

それは結局は、安倍首相の独裁体制と官邸主導政治と、各省庁の忖度という構造であろう。

日本におけるコロナ病は「安倍病」の様相を呈している。それは米国においてコロナ病が「トランプ病」であるのと同様である。


厚労省というのは本当に大変な組織である。厚生行政と労働行政は独立した大きな仕事である。
コロナを見てみればわかる、PCR問題、収容施設問題、院内感染防止問題、など医療面でも課題山積であるのに、雇用助成金などもやらなければならないというのでは体がいくつあっても足りない。
ところが、この間の衆参両院の予算委員会質疑を聞いていると、加藤厚労相なら平気でこなせることがわかる。
やれません、やりません、やる気はありませんの三点セットですべて終了である。
この人には、なにか積極的に取り組もうという気はサラサラない。その日をなんとかしのいでいくこと、間違っても言質は与えないこと、このことだけ守って任期をまっとうすればOKということだ。
この人はもともとが大蔵官僚である。今回の内閣人事では財務省が幅を利かせているようだが、加藤も財務省から厚労相に送り込まれた刺客なのかもしれない。
この間、PCR問題で厚労省の審議官という人がNHKの取材に応じていた。平気で嘘をつく。「厚労省はPCRの適応拡大に注力してきたが、行政末端がなかなか反応してくれない」というのだ。
こういう連中が霞が関を取り仕切っている。彼らにとって加藤厚労相は、まことに使い勝手の良い衝立てであろう。
色々事情もお有りと思うが、とりあえずは早くお辞めいただくことが一番だ。総理への道は絶たれたとお考えいただきたい。



最近は随分と便利になったもので、審議官の発言がそっくりネットに残っている。

「NHK クローズアップ現代」というシリーズで、「新型コロナ どう増やす? PCR検査」という4月28日(火)の放送だ。
中身はここで読める。今なら「見逃し配信」も見られるようだが、腹が立つので見ないほうが良い。


迫井正深さん(厚生労働省 審議官)

(状況が変わったので、それに応じて)
判断を少し弾力的にやっていかなければいけない。…その弾力的な判断がまだ浸透していない。
私たちは何度も注意喚起(してきた)
一方で、どうしても検査の件数が限られるので(現場が)絞っていくっていうのは事実です。
(今後は)医師会の適切なご判断のもとで好循環を作っていきたい。

武田:確認ですが、医師が判断して必要だと思われた患者さんについては、すべてきちっと検査をしていくと。そういう態勢は今、できているんだということでよろしいでしょうか。

迫井正深審議官: 現時点で必ずそれが、基本はその通りだと思います。医師が判断したものは必要だという必要性が当然あるという前提でありますので、そういった検査をしっかりやっていくということが基本だと思います。
答えになっていないどころか、日本語にもなっていない。質疑応答を準備していなかったということなのか。

武田:今やろうとしているような検査の拡充であるとか、どうも少し後手後手に回っているんじゃないかなというような印象も禁じ得ないんですけれども、そこはどういうふうに振り返って感じていらっしゃるのか。

迫井正深審議官: すべて完璧だということではない。
必要な対応はやりつつ、(PCRについても)スピード感をもってやってほしい、という指摘と思う。
そのためにも感染実態をしっかり把握することが必要だ。

「不安がある、だから検査をしたい」というのはだめだ。(これからも)PCR検査そのものの性質、限界を理解して対象は制限する。

未だにクラスター解析が本筋で、PCRは二の次だという認識だ。これには誰か裏がいる。それも相当強力な官邸筋と強くつながった人物がいる。この人物を洗い出して、早急に排除しなければならない。

今井佐緒里さんのレポート
がすごい。これだけの報告を書き上げた集中力に心から敬意を表する。

レポートの最初の言葉。
この原稿を書くのに5日間かかった。
一度は困難さに発表をやめようかと思ったが、あまりにも誤解が拡散しているので、不十分でも発表することにした。
一言で言ってヘビーだ。しかしトランプのWHO攻撃と韻を踏んで、ネトウヨどもによって拡散されている現在、この問題から目を背けるわけには行かない。

これを読むとわかるのは
1.ニュースそのものが本当に存在したのか。フェークではないのか

2.モンタニエが、正味のところ何をどう喋ったのかということ

3.モンタニエの理屈がどこが筋が通っていて、どこが「トンデモ」なのか

4.モンタニエがどのくらい怪しげで、どのくらいまともな人物なのかということ。モンタニエの背後にはどういう人達がいるのか。
などということだ。

これは私用の心覚えなので、どうか皆様には本文にあたっていただきたい。

最後に、ついでに本庶先生のこと(こちらはまったくのフェークで、それ自体が犯罪行為)にも触れておく。

1.できごとは本当に実際に存在した

4月16日、フランスの「どうして?ドクター」という番組でのインタビューが始まりだ。

モンタニエはこの中で「新型コロナウイルスは人為的なものであり、武漢の研究所でつくられたのだろう」と述べた。

4月17日、24時間ニュースチャンネルで同様の主張を行った。

とりあえず、核心的な事実はこの二つである。
モンタニエ
この件に関して論文は書いていない。つまり学問的な方法で自説を提示しているわけではない。

2.モンタニエは、正味のところ何をどう喋ったのか

彼の言葉は片言隻句ではない。ひとかたまりの論拠らしきものも付け加えられた主張である。

今井さんの記事から書き出してみよう。

① 「武漢の研究所」が、20年前からコロナウィルスを研究してきたのは周知の事実である。

② 今回の新型コロナウィルスは、人工的に作られたものだ。コウモリのウイルスを組み替えたものだ。
③ 海鮮市場から出たというのは、美しい伝説だが、そのような可能性はきわめて乏しい。
④ 以上から見て最も合理的な仮説は、この新型ウイルスが「武漢の研究所」で作られたものということだ。
⑤ 「誰か」がエイズのワクチンを作りたかった。そのためにコロナウイルスを使った。そのウィルスの一つが、研究所から「逃げた」ということだ。
⑥ 中国政府が知っていたのなら、彼らには責任がある。
このような内容を音声インタビューでもテレビインタビューでも言っている。

3.モンタニエの理屈のどこが「トンデモ」なのか

その前に、今井さんは日本のメディアにしっかりと釘を刺す。この怒りが難しい作業をしとげた原動力になっているのだろう。
すべてのフランスの信頼に足るメディアは、彼の主張に対し検証か批判をつけて記事を流した。しかし日本での報道では、この批判部分をわざわざ削除した上で報道している。
記事の信憑性をチェックする組織は、日本のメディアにはないのだろうか。
ということで、どこが「トンデモ」なのかの分析に入っていく。

① エイズウイルスとの「奇妙な類似性」

新型コロナ・ウィルスが人工的なものであるとする最大の根拠がこれである。
奇妙な類似性
モンタニエはこう語っている。
インドの研究者グループが新型コロナのシーケンス分析を公表した。驚いたのだが、そこには別のウイルスの配列が入っていた。それは自然に混ざったものではない。
彼らは公表しようとしたのだが結局撤回した。しかし科学的真実というのは重い。隠そうとしていても、現れるのだ。
② 「奇妙な類似性」への正統な反論

たんなる偶然か、意味のある類似かの判別は統計的(というより常識的)になされる。

もちろん我々しろうとの常識ではなく、専門家仲間での常識である。

奇特な人もいるもので、ある「科学コミュニティ」ではエイズと新型コロナに共通するシーケンスを他のウィルスと比べてみた。そうするとサツマイモ・ウイルス、ネクタリン・ウイルス、スズメバチ・ウイルスなどが次々とリストアップされた。

とにかく、それに意味をもたせようとするには、指摘されたシーケンスが短すぎる。エイズの配列を挿入しようとすれば、断片ははるかに大きくなるだろう。これが専門家の一致した意見である。

③ 余談: 青森のキリスト渡来伝説

青森の戸来村にはキリスト渡来伝説がある。
「キリストの里伝承館」には村とユダヤのつながりを示す数々の“証拠”が展示されている。
言い伝えではイエスの弟イスキリが身代わりとなって十字架にかかり、本人は戸来で106歳まで生きたのだそうだ。
キリスト記念館

④ シーケンスは作ることができるのか

答えはイエスだ。現代の遺伝子工学では可能である。しかしそれは既存のウイルスの組み合わせという操作にとどまる。

図で示されたようなマイクロ・シーケンスの変更は不可能であり、ましてそれにウィルス的意味をもたせること(遺伝的借用)は不可能である。

以上より、新型コロナ発生への人間の介入は不可能であり、それが人工的なものである可能性はゼロであるといえる。

したがってモンタニエの主張は青森キリスト説に匹敵する「トンデモ」説である。

4.モンタニエはどのくらい怪しげなのか

今井さんは、多分ここまで書いてきてブチギレているのだろう。悪口雑言撒き散らしている。

しばらくはその言うところを拝聴しよう。
モンタニエ氏の評判は全くかんばしくない。「トンデモ学者」「オカルト学者」とすら言われている。
パスツール研究所は彼との縁を切っている。フランス国立医学アカデミーも彼を非難している。彼はその言動により、科学界から批判と嘲笑をたっぷりと受けてきた。
あるとき彼はインタビューでこう述べた。
良い免疫システムをもっていれば、人は数週間でエイズウイルスを追い払うことができる。
彼はホメオパシー療法の伝導師となった。
植物、動物組織、鉱物などを水で100倍薄めて振る作業(活性化)を、10数回から30回程度繰り返して作った水を、砂糖玉に浸み込ませた「レメディー」と呼ばれる治療薬を飲むのだ。
なぜそれが有効なのか。水が、かつて物質が存在したという記憶を持っているためだ。

ホメオパシーについては、日本医師会および日本医学会が公式見解を発表している。

2012年には、約40人のノーベル賞受賞者が、彼を弾劾する共同声明を発表している。
医学は嘲笑され、患者はだまされ、同胞は悪用された。これらの虐待を非難するのに、公的権力と保健機関は、何を待っているのでしょうか?
もはやこれに付け加えることは何一つない。
付け加えるとするならば、怒りを忘れた日本のメディアの無責任ぶりであろう。

5.フェークが意図的に拡散されている

本庶先生の名を語った偽情報が世界中に拡散しているようだ。どうも出どころはインドらしい。新型コロナのシーケンスにエイズ・ウィルスのゲノムを発見したというのもインド人だ。
本庶フェーク
これは素人っぽいフェイクだが、米国ではもう少し怪しげな話があるようだ。

朝日の鵜飼特派員名の記事(20日)でこう書かれている。
米国の世論調査では国民の約3割が「ウイルスは人造」と考えている。
43%がウイルスは「自然発生した」と答えた一方、23%は「意図的に作られた」と答えた。とくに18~29歳の若い世代では、35%が人造説だった。
FOXニュースのキャスターらは「研究所から流出」の説を後押ししており、米メディアによるとトランプ政権の中でも注目されている。
ということで、こちらはかなり深刻な話になっている。とりわけ、若い世代が影響を受けているというところが怖い。世は乱世であり、ひょっとすると末世かもしれない。

我々も、「バカバカしい」と切り捨てるだけではなく、しっかりと根拠を持って反論していかなければならないようだ。

不勉強で、未だにHIVウィルスを発見したのはギャロだと思いこんでいた。

今回突然、「新型コロナは誰か(中国)が作り出した」と主張して話題になった人物がいる。リュック・モンタニエという名前で、HIVウィルスの発見者としてノーベル賞を受賞している。

常識ある人々の間では信じられないガセネタとして相手にされていないが、ネトウヨにはバイブルのように崇め奉られている。(25日日経)

ということで、私の頭の中でまずはギャロ→モンタニエという道すじを辿らなければならない。この話はウィキでは慎重に避けられている。

エイズ、ギャロ、モンタニエのどの項目を見てもウィルスの発見者が誰かを大抵するような表現はない。

ただノーベル賞をもらったのがモンタニエで、ギャロは何ももらっていないこと、しかしギャロは学会を追われたわけではなさそうだということである。

例によって年表だ(新納氏論文より作成)


1981年

6月 米寄生虫病センターのフォード、カリニ肺炎患者が多発していると報告。同じ頃米防疫センターのカラン、男性同性愛者に性器ヘルペスが多発していると報告。

7月 米防疫センターの週報、同性愛者の間でカポジ肉腫が多発、これらの患者にTリ ンパ球の 減少があることが報告される。

1982年

9月 防疫センター、一連の症候をを示す疾患群を後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome:AIDS)と命名。

国立がん研究所(NCI)のロバート・ガロがエイズ研究を開始。ガロは日本のT細胞白血病の病原体のレトロウィルスを発見した実績を持つ。

1983年

4月 仏パスツール研究所のリュック・モンタニエ、バレシヌーシ、シャーマンら、エイズ患者のリンパ節からウィルスを発見。

パスツール研はガロにウィルスを送り、確認を依頼する。ガロはエイズ・ウィルスであることを否定。

4月 モンタニエ、ガロに電話し。サイエンス誌への投稿推薦を依頼。その後、「サイエンス」は、要約がついていないことを理由に受け付けを拒否。

5月 モンタニエ、上記研究を別の雑誌で発表。“LAV”(シンパ節症関連ウィルス)と名付ける。

12月 パスツール研究所、“LAV” の検索法に関し、米国での特許権を申請するが無視される。

1984年

5月 ギャロ、「サイエンス」誌に「エイズ患者の末梢血からウイルスを分離した」と発表。“HTLV-Ⅲ” と命名。ガ ロが最初の発見者ということになる。

1985年

12月 ガロ、“HTLV-Ⅲ” の検索法に関する特許権を申請し認められる。

1987年

パスツール研、両者のウィルスの遺伝子構造が98%以上一致することを指摘。確認のためガロのもとに送られたウィルスが盗用されたと主張。

レーガンとシラクが会談し、特許権を両国で二等分することで合意。

1990年

シカ ゴ ・トリビューン紙のク リュー ドソン記者、「ギャロの“HTLV-皿”は、モンタニエらの“LAV-BRU”を盗用したもの」と報道。NIHが調査に乗り出す。

1991年

2月 「ネイチャー」誌、両者のウイルスは全 く違うものであると発表。

5月 ガロ、「ネイチャー」誌に投稿。“HTLV-皿” がパスツール研から送られてきたウィルスだったことを認める。

この間、製薬業者からNIHに、年間600万ドルの特許権料が支払われていた。


25日付け日経新聞の1面にローレンス・サマーズのインタビューが掲載された。
オバマ政権で国家経済会議委員長を務めた人で、米国の典型的なリベラル派の見解を表していると思われる。

1.先進国システムへの試練としてのコロナ危機

グローバリズムの進行した世界では、相互依存関係が強まるため、影響は一国にとどまらない。それは分かってはいたが、前例はなかった。

21世紀の先進国に共通するシステムは、「民主主義と資本主義の複合体」だ。このシステムがこの危機に対応し機能できるのかが試されている。

2.「システム」への不安

「システム」を率いる政府が不適切な方針を出した場合どうなるか、トランプ政権を見ているとそういう不安がある。それはいわばシステムの抱える脆弱性だ。

トランプはコロナに対する経済政策を誤解している。そのために感染者や死者の増大に歯止めがかからなくなっている。いまは医療専門家の意見に従い感染を抑えるための努力に集中すべきだ。


3.「システム」を支える社会保障制度

米国にはお金がないために病院に行けない人が少なくない。オバマ政権は社会保険制度の拡充を主張し続けてきた。コロナがその正しさを証明している。


4.格差の拡大がコロナ危機をもたらした

「システム」の経済的土台である資本主義経済がひずみを強めている。資金が溢れている一方で、実体経済は長期停滞を続けている。

投資機会を失った余剰マネーが金融市場に流れ込み、金融資産を押し上げた。この結果富裕層に集中が集中している。

富裕層はさらに富を求め、役員報酬を引き上げ、多くの株主還元をもとめ、自社株買いに走っている。

政府の支援は労働者やその家族を対象にすべきだ。向こう見ずな行動をとってきた企業を救うべきではない。


サマーズといえば、日本ではむしろ「悪役」として名高い。クリントン政権期に財務長官を務め、金融自由化を遮二無二推し進め、日本に無理難題をふっかけ、アジア通貨危機の引き金を引いた人物である
「たかが金貸し風情が出過ぎたまねをするんじゃないよ」を参照されたい。

そんなやつにお説教されとうはないが、さすがに歴史を俯瞰する眼は持っているようだ。「民主主義と資本主義の複合体」という観点は、民主主義の方に“?”は着くものの、理念型としてはアクチュアルだと思う。


米国はWHOへの資金拠出を停止したが、今度はコロナ薬開発についても共同を拒否した。
理由は同じで、EHOが中国寄りだということだ。
どこまでこの考え方で突っ張るのだろうか。
当然、学会や医療界はこんな考えを支持していないのだが、そのように総スカンを食らってでもトランプは突っ走るのだろうか。共和党と支持者はこのような愚かな考えに追随するのだろうか。

コロナショック、それとどう闘うか

1.社会防衛システムの脆弱化との複合

新型コロナはきわめて異例なスタイルでアウトブレイクし、パンデミックに至った。

それ自体はいずれ様々な分析がなされるだろう。

同じコロナウィルスによる感染であったが、武漢を発火点として東アジアに広がった第一次流行は比較的一旦収束の兆しを見せたが、イタリアで始まった第二次流行は凄まじく、あたかも100年前のスペイン風邪を彷彿とさせる拡大ぶりを示した。

“いわゆる文明先進国” に進出した新型コロナウィルスは、毒力・感染力ともに、武漢出発当初とは比較にならないほど強力になったかのように見えた。

しかし統計を詳細に分析してみると、公衆衛生的、社会医学的分析の示したものは、ウィルスの強さではなく、生活習慣の問題でもなく、社会防衛体制の脆弱さだった。それは、この間の緊縮財政による社会保障制度の改悪と医療供給体制の骨抜きがもたらしたものであった。

言い換えれば社会システムの足元が脆弱化していたことが、アウトブレイクの主要な理由であった。かつての欧米先進国は、すでに支配層の手によって「後進国化」していた。そのことがコロナによって暴露されたことになる。

次いで流行の主舞台となった米国においては、とくに貧困層の環境衛生、労働者の無権利状態、無保険状況が砂漠のように広がっており、その必然的な残酷な反映であった。

かくのごとくして、コロナ大流行は、国民の医療を受ける権利、ひいては生きる権利が毀損されている現状こそが最大の問題であることが明確になった。


2.生活インフラが崩壊するという特殊性

人々が社会の一員となって生きていくためには、生産活動と生活(消費)活動が必要である。生産活動のためには水道・電気、土木・建設、交通・運輸、通信などの生産インフラが必須だ。

一方生活インフラとしては、教育・学習、医療・保健、安全・保清、文化・スポーツなどのシステムがあげられる。

生活インフラの多くは、「対人サービス」として提供される。いわば人材集約型インフラである。それは社会が豊かとなり消費が多様化するにつれて、多種多彩となる。

こうして社会の生産力が高まるにつれて、ますます多くの労働人口が生活インフラ(いわゆる第三次産業)に関わるようになる。

このシステムは生きた、労働と消費が同時進行する “生身のシステム” なので、一定期間以上休むことができない。作り置きが利かないのである。

たとえ部分的に補償されたとしても、被害が長引けばそれは腐朽化し干からびて、最後は倒壊することになる。

コロナ危機の特徴は、それが生活インフラ崩壊と需要減退との複合危機だという点にある。だから内包する深刻さはリーマンショックや大恐慌とは異次元のものになる。


3.コロナ・ショックはリーマン後10年の集大成

コロナ・ショックはリーマン・ショック(欧州ソブリン危機をふくめ)以来の10年間の集大成となるだろう。

リーマン・ショック以来の経済・金融政策は金融崩壊の危機から世界を救った。しかし問題を解決したわけではなく先送りしただけだった。

大量に発行された通貨はすべて富裕層の手に落ち、新興国から強引に回収された富も富裕層のものとなった。それは貧富の格差を一層強めた。

同じような傾向はすでにコロナショックでも出現している。欧米では企業補償・支援として給付された資金が株主還元、あるいは自社株買いに回される事例が頻発している。

この間に起きた出来事は、ひとくるみにすればモラルハザードの進行と、金融操作の行き詰まり、ドルをもふくめた通貨の不安定化だ。

民衆は失業と国家からの排除により、国のうちにあってもディアスポラ化し、喪失感と不安定さと過激さを増している。


4.まず必要なのはコロナとたたかう「戦費」の調達

すでに多くの国で開始されているが、医療の維持、補給線の維持、就業支援、休業補償などは籠城戦を目的とする出資だ。生産・雇用維持には高い効率をもたらすが、経済復興の投資枠には括れない。

これは戦線を維持するための費用であり、どんどん消えていく金だ。これで直接景気の改善が見込めるわけではない。戦費に経済効率を云々しても始まらない。経済産業省の役人が出る幕ではない。

このような資金を手当するには「戦時公債」型の資金調達しかない。

韓国では「これは安全保障費の一部なのだから防衛予算の組み換えで原資を捻出せよ」という意見がある。構えとしてはそういうことだ。


5.金融安定化政策

これで戦線後退を避けながら、中期的な経済再建に臨むことになる。その際重要なのは現金(真水)の潤沢な供給で、これは欧州通貨危機でも試され済みだ。

今回は10年前の苦い経験を踏まえ、ECB、FRB、IMFが揃って機動的出動の構えを見せている。

新興国の債務との関係で一番前面に出るのがIMFであるが、伝家の宝刀のSDR引き出し権をどこまで拡大できるかは、米国の出方にも関わってくる。

これは正念場であり、トランプの介入を許さずにG20とFRB、IMFの連携がいかに大胆に進められるかが鍵を握っていると思う。


6.WHOへのトランプの介入を跳ね返す

WHOなしにコロナとたたかうのはレーダーなしに航海するのに等しい。専門機関の助言と国際間の協力がなければコロナ危機の克服は不可能である。ブーメランが繰り返されるのみだ。

このことはとくにアフリカなどの国々において明らかである。南アフリカではコロナ流行の只中に鉱山操業を再開したとのニュースを聞いた。生活が立ち行かなくなったからだという。実に暗然たる気持ちにさせられる。

トランプは知性の欠片も感じられない罵りと、常軌を逸した介入を繰り返している。目障り極まりない。しかしこういう危機にはこういう人物がお定まりのごとく登場するのであり、それもふくめて我々は乗り越えていかなければならない。

繰り返す。WHOを始めとする国際諸機関の活動を断固として支持し、国際協力を深めていかなければならない。そのことを通じてWHO分担金拒否がいかに犯罪的なのかを暴露し、抗議を集中させていかなければならないと思う。


7.共通の敵には共通した闘いを

コロナは国境や人種を超えた人類共通の敵である。短期には各国別の取り組みになるのもやむを得ないが、この闘いはかならず中長期のものになる。

どこの国が悪いとか誰の責任だと言っていても始まらない。対岸の火事と思っていれば必ずしっぺ返しに合う。ののしりやあなどりは自らの「科学的文盲」の証にほかならない。

各国が連帯し協調して取り組まなければならない。国連や国際諸機関(WHOやUNICEF、UNESCO、UNEP)に結集して取り組まなければならない。

その際は、経済原則とは別にもう一つの価値観として、「人間の安全保障」という価値を打ち立てておく必要があるだろう。(日本がその提唱国であることを念頭に置く必要がある)

世界のすべての人が安全にならない限り、私たちは安全に暮らせるようにはならないのだ、ということを肝に銘じておく必要がある。


ちょっと古い記事(20年03月26日)だがニッセイ基礎研究所のレポートでこんな物があった。

欧州の新たな危機-ドイツの大規模財政出動だけではコロナ危機は克服できない」というもので、筆者は経済研究部 研究理事の 伊藤 さゆりさんという方。


要旨の要旨

1.コロナ・ショックはリーマン・ショックを超えるおそれがある。EUの持続可能性が危ぶまれる事態も想定される。

2.ユーロ圏の債務危機でECBの初動には問題があった。流動性の危機への配慮が不十分であった。それは後に修正された。

3.しかしコロナ危機では資金供給という対策では不十分であり限定的である。事態を回避する鍵は危機対応での「連帯」と「協調」にある。

4.債務危機の際の経験は教訓化されているが、不十分だ。「コロナ対策投資イニシアチブ」は少額であり、回収を前提とする「投資」の枠にとどまっている。

5.新規募集する「コロナ債」の可能性は依然として不透明である。
前回も流産に終わった共通債構想は、南北間の対立の構図から抜け出せていない。
国際的にも自国主義の流れが強まるもとで、主要国の協調が難しくなっており、情勢は流動的である。

本日の赤旗にコロナに関する大型特集が掲載されている。相当の調査に基づく気合の入った文章で、説得力が高い(何かネタがありそうな感じもするが…)

23日の欧州連合首脳会議が、波乱要因含みとはいえかなり前向きな合意を実現したことが重要である。

私も詳しくは知らないが、メルケルの強いイニシアチブがドイツやオランダの保守派を押し込んだことが要因と考えられる。

それはまた、リーマンショックに続いた欧州金融危機でドイツ、オランダだけでなくECBやIMFなども南欧危機に背を向けたこと、それが金融危機を長引かせ、経済再建を困難にし、労働問題や難民問題を深刻化させ、それがひいては極右の進出と社会の分裂を招いたことへの、一定の反映も見なければならない。

試行錯誤のすえ、EUはその危機を金融緩和(量的緩和とマイナス金利)と国民大衆の生活切り捨てでしのいだ。しのいだというより表面を糊塗したのだが、じつは問題は構造的にはむしろ深化していたのだ。

富の不均衡は資金分布の不均衡をもたらし、金余りとカネ不足のまだら模様が蓄積している。

ベンチャーという名のペーパー・カンパニーが万円し、その日暮らしで借入金依存の財務体質が広がっている。

それが露呈されたのが今度のコロナ危機ということになる。

コロナ危機は、10年間にわたり蓄積された経済構造の歪みが、大雨で決壊したようなものである。

これからは、二つの経済危機の複合体としてのコロナ危機が拡大していくであろう。

今度はもはや、米連銀頼み、量的緩和一本槍の政策対応では乗り切れない。バケツの底が抜けてしまったのだから、まずそこを修復しないとマネーが持たない。

全世界が団結しないと、世界はトランプと習近平のものとなる。

1.コロナ問題が金融危機に発展する可能性

すでに実態経済の落ち込みは始まっているが、これが金融市場の混乱や金融機関自体の危機に発展するかどうかだ。

焦点は二つある。
一つはクレジットの市場の動向だ。外貨資金調達、米国債、社債がどう反応していくかだ。金融市場が実体経済とのあいだに負のシナジーを起こす危険がある。

もう一つは新興国の動向だ。こちらはコロナそのものの影響がこれから出てくると考えられ、これが債務等にどのように反映されていくかは未知数だ。

2.長期の金融緩和による不均衡

コロナ問題は普通の金融状況のもとで起きているわけではない。

リーマンショック以来の大規模な金融緩和が長期化する中で、資金分布の不均衡が蓄積している。

低金利のもとで借入金依存の財務体質が広がっている。投資家は運用利回りをもとめて規制外のファンドに集中している。

一言で言って金融危機の出現する条件が整いつつある。


3.グローバル化はどうなるか

急速な経済グローバル化は、世界に格差や難民問題、貿易戦争の激化をもたらした。これはすでにコロナの前から深刻な問題となっている。

このような矛盾を前にポピュリズムや極右という扇動政治のスタイルが広がっている。

その背景には、グローバル化の成果を実感できない中間層の「超グローバル化」への拒否反応がある。

このような状況の上にコロナが来たのだから、グローバル化が後退を見せても不思議ではない。


4.国際化の必要はむしろ高まっている

ただ、格差の増大を伴うとはいえ、グローバル化が国際的な生産力向上と結びついているのも確かである。

これが本当に逆回転を始めると、すぐに生活水準の低下がもたらされ、人々はますます不満を募らせることになる。

政治家や政策当局者は、このようなグローバル化の両面の真実を認識する必要がある。そしてその上で、各国の協力関係が後退しないよう努力しなければならない。

これが新しい国際化ということであり、その必要は高まっている。

5.コロナ危機と中央銀行

中央銀行の意義は大変大きい。

第一に、資金流動性の確保による市場機能の維持である。現在主要中銀間でのドル融通の強化とFRBによる資産買い入れが柱となっており、目下のところ有効に機能している。

第二に、コロナ危機という特殊な経済環境においては、産業活動の強力な抑制がもとめられており、金利政策は有害無益だ。
もっぱら通貨供給の維持に力を注ぐべきだ。

資金を投下しても、「流動性の罠」が形成されれば情勢は複雑化する。金融機関の信頼が持続されなければならない。

これらが新次元の国際金融政策の骨格となるだろう。

6.コロナ危機からの経済再建

危機の性格から言えば、資金の潤沢な供給と、手厚い国民生活保障があれば、実体経済の回復と急成長は可能だ。

その際、中銀や金融界はあまり手出しをせず、市場を信頼して臨むことが大事であろう。

白川方明前日銀総裁の談話を元に編集した。


ドイツ連邦共和国大使館 ホームページより


事態は深刻です。社会全体の結束した行動が、ここまで試された試練はありません。

未だ、新型コロナウイルスの治療法もワクチンも開発されていません。

こうした状況において、唯一の指針は、ウイルスの感染拡大速度を遅くし時間を稼ぐことです。

単なる抽象的な統計数値で済む話ではありません。実際の人間が関わってくる話です。そして私たちの社会は一人ひとりの人間のいのちが重みを持つ共同体なのです。

何よりもまず、我が国の医療体制で活動してくださっている皆さんに呼びかけたい。皆さんが果たされる貢献に心より御礼を申し上げます。

喫緊の課題は、ウイルスの感染速度を遅らせることです。そのためには、社会生活を極力縮小するという手段に賭けなければならない。

休業措置は生活や民主主義に対する重大な介入であることを承知しています。かつて経験したことがないような制約です。

次の点はしかしぜひお伝えしたい。それは渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利だということです。それが前提となっていることです。

それを経験してきた私のような人間にとり、絶対的な必要性がなければ正当化し得ないものなのです。生活の制限は、民主主義においては、決して安易に決めてはならないものです。

しかし今は、命を救うためには避けられないことなのです。

大企業・中小を問わず企業各社にとり、また小売店、飲食店、フリーランスの人たちにとり、状況はすでに非常に厳しくなっています。そしてこれからの数週間、状況は一層厳しくなるでしょう。

私は皆さんにお約束します。政府は、経済的影響を緩和し、特に雇用を維持するため、あらゆる手段を尽くします。

(中略)

感染症の拡大は、私たちがいかに脆弱な存在であるかを見せつけています。しかしそれは、結束すれば、互いを守り合うことができるということでもあります。

困難な時期であるからこそ、大切な人の側にいたいと願うものです。思いやりということを、本当に全員が理解しなければなりません。

事態は流動的です。私たちは常に学ぶ姿勢を維持していきます。

例外なく全ての人、私たち一人ひとりが試されているのです。ご静聴ありがとうございました。


大事なことは民主主義を守ること、思いやりを基本とすること、弱者を守ること、学ぶ姿勢を貫くことだ。そこを外さないでいるところが正しい。
半年前、まだ「メルケルの賞味期限は切れていない」と書いたが、その通りだ。さすがだ。

まことに暗然とする記事だ。日経19日付けでニューヨークとロンドンの特派員の共同執筆記事。

基礎事実: 米国はコロナ対策で支援の条件に自社株買いの禁止を盛り込んだ。ドイツは旅行大手のTUI支援に際し、貸付期間中の配当停止をもとめた。フランスは支援の条件として配当と自社株買いの停止をあげ、救済資金を雇用の維持に使うようもとめた。

以下、欧米諸国における自社株買いと配当の状況がるる述べられているが、読めば読むほど酷いものだ。

ひと昔前は「ハゲタカファンド」とか言ったが、いまはファンドはみんなハゲタカかハイエナだ。これが富裕層の論理であり倫理なのだ。

このことは同時に、企業に資金を投入しても、企業に使いみちがないことを示している。もちろん企業に金融面での下支えは必要だが、もっと必要なのが市民・労働者の所得の底上げだということを示している。

このことはコロナ後の世界でますます明瞭になるだろう。

日経新聞19日社説「WHOの機能を低下させるな」

1.課題はあるにせよ、いまは何よりも新型コロナの拡大防止に力を合わせるときだ。WHOの機能を低下させてはならない。

2.WHOは新型コロナの情報を集め、対策を助言している。その役割は他に代えがたい。

3.WHOは他にも積極的な役割を果たしている。治療薬の臨床試験、ワクチン開発の国際プロジェクトを組織している。
途上国への支援、新型コロナ以外の予防治療計画も進めてきた。

4.WHOが機能を低下すれば、途上国などの感染を深刻化させ、改善した国に再びウィルスが持ち込まれる恐れがある。

5.日本や欧州諸国は米国にWHO支援停止の撤回を求めるべきだ。同時にWHOの運営には積極的に関与すべきだ。

* テドロス事務局長に親中国姿勢などの問題があることは確からしい。

* 4の「感染ブーメラン」論が最大のポイントだが、これだけだと「ソロバン勘定」にも聞こえる。やはり「人間の安全保障」の観点まで姿勢を持ち上げるべきだろう。

厚労省の切り替え遅延が大流行を招いた

現場で頑張っている人には申し訳ないが、行政機構におけるクラスター対策からPCR励行策への切り替えの遅れが、大流行をもたらしたと言わざるを得ない。

北海道保険医会

その証拠が北海道保険医会の会員アンケート調査だ。この会は医師会と異なり任意加入組織だが、北海道では開業医の大多数が加入している。

開業医の現場の声を反映していると見てよい。赤旗に調査結果の一部が報道されている。

衝撃の数字

この中で最も衝撃的な数字が、
「医療現場の焦点、医師がPCR検査を必要と判断しても保健所に拒否されたのは111例ありました」という記載。

回答数が284件と比較的少ないので、比率としては判断できないが、回答者の多くが相当腹に据えかねていることは察せられる。

拒否の理由

理由は「海外渡航歴、居住歴がない」「感染者、渡航者との濃厚接触がない」「集中治療の必要がない」を挙げています。

拒否された人の中には「肺炎を発症していた」「撮影から肺炎を疑った」との事例もあったといいます。

「十分な時間があったにもかかわらず、政府の対応は行きあたりばったりで現場は混乱している」

加藤厚相の姿が見えない

コロナの二次拡大が始まり、市中感染としての扱いが必要になったころ、テレビから加藤厚相の姿が消えた。

官邸筋の対策チームの医師は出てくるが、対策を立てるべき本家の姿が見えない。エリート官僚の出身でなかなか優秀な人材と思ったが、一体何があったのだろう。

まさしく危機なのだから、医者や疫学者が危機あおりをするのに別に反対はしませんが、
危機管理プロパーの専門家が、「医療崩壊を防ぐことが最重要課題だ」と強調するのには違和感を感じます。

患者さんの命を守ることこそ最重要課題であり、

そのためにご協力願います、と頭を下げるべきではないのか

というのが、私の率直な感想です。
そうでないと、医療崩壊を防ぐためにPCRをやらない、あるいは軽症者は自宅待機とするという発想に行ってしまうのです。私はそういうのを目的合理主義と言っています。

医療崩壊を防ぐことは最緊急課題であることは間違いありません。しかし最重要目標とは必ずしも言えません。中長期的に見るなら、現代世界がコロナを克服するために最重要な課題は、死亡者をできるだけ少なく抑えることであり、流行の終焉を遅滞なく迎えることです。そして闘いは間違いなく中長期化するのです。

そのためにはとりわけ社会的弱者に疾病の拡大と蔓延を防ぐことです。社会的弱者は一つは高齢者ですが、もう一つは貧困者です。これが最重要な戦略課題です。そのために貧困者に最大限の支援をつぎ込むべきです。

医療崩壊の防止に注力するのは、現下の状況では致し方ないことでしょうが、決して無条件に正しい議論ではなくて、それだけでは「社会防衛思想」に横滑りしかねない側面を持っています。

“致し方のない選択なのだ” という保留は必ずしておくべきだと思います。

もう一つは集団的叡智を寄せ集めるために、医療リテラシーの向上が必須だということです。みんながコロナの専門家になり、PCRの適応や結果の受けとめなどに高いレベルでの社会的合意を実現することです。専門家任せにすることなく、非常事態を主体的に受けとめ、多集団的に対処することが大事だろうと思います。

気になるのですが、我々のスローガンは「医療を支えよう」ではないと思います。「医療」だけではありません。多くの関係部署のスタッフが、危険を顧みず、激務をいとわず奮闘しているのです。

業者やフリーランサーの皆さんは生活を犠牲にして、真っ暗な将来への不安と闘いながらいまを耐えているのです。

近未来を見据えるならば、「みんなで支え合おう。弱者を守り抜こう!」こそが真の呼びかけであろうと思います。

前の記事の時刻表内に組み込んだが、あまりに長いので、別記事として再掲する。

ファウチ問題をまとめて掲載する。詳しくは東京新聞
アンソニー・ファウチ博士 Anthony Stephen Fauci (79歳)は免疫学・感染症学の専門医である。イタリア系移民の子孫としてブルックリンの薬屋に生まれた。ギャング映画にありそうなキャラだ。
84年から国立アレルギー感染症研究所長を務め、エイズやエボラ出血熱など多くの感染症対策にあたってきた。レーガン以降の歴代大統領に専門的立場から助言してきた。
2月半ば、ファウチら新型ウイルス対策チームは外出自粛などの措置を提言したが、トランプは受け入れなかった。
3月半ばから対策チームは、連日記者会見を開催、これにトランプも参加するようになった。
このためファウチ博士は、科学者として公の場で「対決」しなければならなくなった。
たとえば、トランプはインフルエンザに比べると死亡者数は少ないと語ったが、ファウチはコロナウイルスの致死率はインフルエンザの10倍と訂正した。
すぐにでもワクチンを開発できると述べたトランプの発言は1年から1年半はかかると否定した。
トランプが検査器具は十分あると発言する一方で、ファウチは議会で外国に比べ十分な検査が行われていないと証言している。
トランプはマラリア治療薬「クロロキン」が新型ウイルスに有効だと発言し、「すぐ利用でき非常に強力だ。状況を一変させるゲームチェンジャーだ」とまで語った。
しかしファウチ博士は、「期待はしている」としながらも「いまのところ有効との証拠はない」と水を指した。*
ファウチとしては、そもそも隔離の原則に反する説に水を指してほしくないのだ。肝心なことは国民の覚悟を促すことだ。
ファウチはトランプを懸命に説得。「対策を怠れば死者は最悪220万人」との予測を示し、「復活祭での経済正常化を」という目論見を抑え込んだ。
それはトランプの選挙戦にも跳ね返る。民主党が大規模な集会を中止したのに、トランプは集会を開催し続けた。ファウチは集会の自粛を強くもとめた。
ファウチへの国民の信頼は保守層の間にも高まった。フォックス・ニュースの新型ウイルス対応に関する世論調査で、トランプの51%に対し、ファウチ支持は77%に達した。遠慮せずに本音を語る姿勢と高い教養に、今や「ファウチドーナツ」などが発売されるほどの人気だ。
こうなるとトランプ陣営も気が気でない。支持者の一人が、演説するトランプの背中にファウチがまわり、頭を押さえつける「写真」をねつ造した。このフェーク写真がネットで拡散されると、「ファウチは反トランプの秘密結社の一員だ」との書き込みが数千回共有され、約百五十万人が閲覧した。
その後の経過はよくわからないが、博士の政治生命が風前の灯だというのはよく分かる。トランプ家の裏庭に、また一つ墓碑が立つことになるであろう。

* これらについては MIT Technology Review に詳しい。


トランプのWHO攻撃の経過

東京新聞トランプ語録
            東京新聞より

1月

1.22 トランプのツイッター、「我々にはウイルス対策の計画があり、中国も順調だと思っている」

1.24 トランプのツイッター、「中国は多大な努力をしている。アメリカは中国の努力と透明性に深く感謝している。すべてうまくいくだろう。習近平主席に感謝したい!」

1.29 ナバロ大統領補佐官(通商担当)、コロナが数百万人もの米国人を襲い、数兆ドルの損失をもたらす危険があると警告。アザール保健福祉長官も懸念を伝えたという(NYタイムズ)

1.30 WHO、コロナ感染を「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」と宣言する。

2月

2.26 ペンス副大統領が新型コロナウイルスの対策チームの責任者に任命される。
ペンスはインディアナ州知事時代にHIVウイルスの感染を拡大させた過去がある。注射針の交換を提案されたのに、「家に帰って神に祈る」と答えて迅速な対応をしなかった。

2.27 WHOのテドロス事務局長(以下テドロス)、封じ込めるかどうかの「岐路に立たされている」と述べる。

2.27 バチェレ国連人権高等弁務官、「中国や東アジアの人々への偏見を引き起こしており、各国に差別などをなくすように強く求める」と述べた。

3月

3.11 テドロス、新型コロナが「パンデミック」に突入したと宣言。

3.13 トランプ、態度を豹変。国家非常事態を宣言。

3.13 手ドロス、「今や欧州がパンデミックの震源地となった」と語る。

3.16 トランプが態度を豹変。感染拡大を「制御できない」と告白する。

3.16 ホワイトハウスの対策チームは、対策を講じなければ、死者が最大220万人に上ると試算していた。(NYタイムズ)

3.18 WHO上級員のライアン、トランプの「中国ウィルス」論を非難。
ウイルスに国境はなく、地域・民族・肌の色・財産に関係ない。ウイルスを民族と関連づければ後悔することになる。H1N1インフルエンザの大流行は北米で始まったが、誰も北米ウィルスとは呼ばなかった。いまはウイルスと戦わなければいけない時であり、誰かを責める時ではない。

3.19 湖北省で新規感染者がゼロとなる。これまでに6万7800人が感染、3245人がしぼう。

3.19 トランプ、中国の初動の遅れを指摘し、「世界はその代償を払っている」と批判。
新型コロナを「中国ウイルス」と繰り返したことについて
人種差別的では全くない。ウイルスは中国から来たのだから、そう呼んでいる。正確を期したいのだ。

3.20 イタリアの死者数が中国を上回る。この時点で感染者数は中国の半分。

3.20 全米の感染者数は1万人を越える。感染者数は2日間で2.5倍(ニューヨーク州では2日間で5倍超)に膨らむ。

3.23 記者会見。「これは中国で起きたことだ。私は正直、中国(の初動対応)に少し頭にきている」

3.22 中国外務省報道官、「中国は終始公開し、透明です。中国人民はウイルスと戦ってきました。世界のウイルスとの戦いのために時間を稼いだのです」

3.24 トランプが記者会見。3週間後に経済活動を再開させると述べる。またNY州より要請のあった人工呼吸器を400台提供すると発表。

東京新聞によれば発言要旨は以下の通り。
大不況になれば何千人もの人が自殺する。インフルエンザで平均年3万6千人死ぬが、そのために国を閉鎖したことはない。
新型ウイルスよりウィルス対策のほうがより有害だ。こんな外出禁止や営業規制を続けて経済が停滞すれば、もっと大勢が死ぬ。

3.25 クオモ、「3万台必要なのに400台? 死なせる人々を選んでくれ!」と絶叫。法律に基づく増産態勢も取らない姿勢を「全く理解できない。問題の大きさ感を見失っている」と批判した。

3.28 米国の感染者数が10万人の大台を突破(半数がニューヨーク州)。中国を抜き最多、全世界の17%に相当する。

4.01 コロナ死者、米で同時テロ超す3千人(同時テロでは2977人)。世界では感染者84万、死者は4万人突破。

4.01 テドロス、アフリカや中南米などへの打撃を懸念。経済崩壊を回避するため、国際社会に債務の免除を求めた。

4.03 トランプ、疾病対策センター(CDC)が指針を変更しマスク着用を勧奨することとなったと報告。しかし「自分はしない」と宣言。

4.05 米政府のアダムス医務総監、「米国人にとって最も深刻で悲しい1週間が来る」と語る。

4.05 クオモ、「死者数が初めて前日より減った」と述べた。感染者、重症者数は以前増加。「ベッドはあるが、人工呼吸器と医療スタッフが足りない」と訴える。

4.05 全米の感染者数は33万7千人。死者数は9600人。

4.07 トランプ大統領、ツイッターで、WHOが「すごく中国に偏っている」と批判。
WHOは新型ウイルス対策を台無しにした。アメリカが大部分の資金を提供しているのに、その方針は中国中心だ。だから我々は資金拠出を停止する方針だ。(米国は19年度、WHOの年間予算の15%弱に当たる4億ドルを拠出している
4.08 トランプ、「WHOは優先順位を正す必要がある。今後も拠出を継続するかどうか判断するために調査する」と述べる。

4.08 ポンペオ米国務長官、「WHOへの資金拠出を見直している」と発言。

4.08 テドロス、トランプに反論。
時間を無駄にできない。大勢の命が失われている。必要なのは各国が連携することだ。我々はすべての国家と密接な関係にある。我々は肌の色で区別などしない。私自身、過去3カ月間に黒人であることを理由に個人攻撃されてきた。しかし命が失われている時に個人攻撃を気にしている理由はない。
新型コロナと政治を切り離すべきだ。政治に利用しないでほしい。国家レベルでの団結をお願いしたい。世界レベルでの誠実な連帯、そしてアメリカと中国からの誠実なリーダーシップをお願いしたい。
4.08 国連のグテーレス事務総長もトランプを批判。
今は団結する時だ。国際社会が連帯して、新型ウイルスの感染拡大と破壊的な影響を止めるために共に取り組む時だ。対処方針を評価するのは、今後の課題にすべきだ。
4.10 テドロスが台湾から人種差別攻撃を受けたと主張。台湾当局は「中国によるでっちあげ」と反論。蔡総統は「台湾が差別と孤立に直面しながら世界に貢献しようと努力していると知ってほしい」と訴える。

4.11 新型コロナ、世界の死者10万人突破 感染は160万人超。

4.12 新型コロナによる米国の死者は2万人超す。死者数はイタリアを抜き世界最多となる。

4.12 トランプ、「フェークニュースを流した」咎でファウチを解任すべきと主張。
ここでファウチ問題をまとめて掲載する。詳しくは東京新聞
アンソニー・ファウチ博士(79)は免疫学・感染症学の専門医である。84年から国立アレルギー感染症研究所長を務め、エイズやエボラ出血熱など多くの感染症対策にあたってきた。レーガン以降の歴代大統領に専門的立場から助言してきた。
2月半ば、ファウチら新型ウイルス対策チームは外出自粛などの措置を提言したが、トランプは受け入れなかった。
3月半ばから対策チームは、連日記者会見を開催、これにトランプも参加するようになった。
このためファウチ博士は、科学者として公の場で「対決」しなければならなくなった。
たとえばトランプは、インフルエンザに比べると死亡者数は少ないと語ったが、ファウチはコロナウイルスの致死率はインフルエンザの10倍と訂正した。
すぐにでもワクチンを開発できると述べたトランプの発言は1年から1年半はかかると否定した。
トランプが検査器具は十分あると発言する一方で、ファウチは議会で外国に比べ十分な検査が行われていないと証言している。
トランプはマラリア治療薬「クロロキン」が新型ウイルスに有効だと発言し、「すぐ利用でき非常に強力だ。状況を一変させるゲームチェンジャーだ」とまで語った。
しかしファウチ博士は、「期待はしている」としながらも「いまのところ有効との証拠はない」と水を指した。
ファウチとしては、そもそも隔離の原則に反する説に水を指してほしくないのだ。肝心なことは国民の覚悟を促すことだ。
ファウチはトランプを懸命に説得。「対策を怠れば死者は最悪220万人」との予測を示し、「復活祭での経済正常化を」という目論見を抑え込んだ。
それはトランプの選挙戦にも跳ね返る。民主党が大規模な集会を中止したのに、トランプは集会を開催し続けた。ファウチは集会の自粛を強くもとめた。
ファウチへの国民の信頼は保守層の間にも高まった。フォックス・ニュースの新型ウイルス対応に関する世論調査で、トランプの51%に対し、ファウチ支持は77%に達した。
こうなるとトランプ陣営も気が気でない。支持者の一人が、演説するトランプの背中にファウチがまわり、頭を押さえつける「写真」をねつ造した。このフェーク写真がネットで拡散されると、「ファウチは反トランプの秘密結社の一員だ」との書き込みが数千回共有され、約百五十万人が閲覧した。
その後の経過はよくわからないが、博士の政治生命が風前の灯だというのはよく分かる。トランプ家の裏庭に、また一つ墓碑が立つことになるであろう。

4.14 トランプ米大統領、WHOへの資金拠出を停止するよう指示したと表明。(詳細は前記事

4.14 国連のグテレス事務総長、「WHOは新型コロナウイルス感染症との闘いでの勝利を目指す世界の試みにおいて極めて重要なので、支援しなければならない」

4.15 トランプ、改めてWHOを批判。「WHOは中国の道具だった。ウイルスの発生の隠ぺいと管理のミスの調査を待っている。その間WHOへの資金の拠出を保留する」

4.16 習近平、「中国政府は一貫して透明性、責任ある態度に基づきWHOや関係国に情報を報告してきた」と主張。

4.16 テドロス、「WHOへの資金拠出停止は残念。不足分をどう補っていくか各国と相談したい。世界のすべての人が最高水準の健康を享受することがWHOの理念であり共有してほしい」

4.16 ビル・ゲイツはツイッターでこの件について発信している。
世界的な健康危機の最中に世界保健機関への資金を停止するなど、まさに危険そのものだ。…WHOが機能できなくなれば、代わりになる機関はほかにない。世界はかつてないほど、今こそWHOを必要としている。
4.16 米国医師会のハリス会長の声明。「トランプ声明は間違った方向への危険な一歩だ。それは新型コロナ制圧を難しくするものだ」

4.16 世界の感染者が200万人を超え。米は61万人に達する。NY州は感染者が20万人、死者が1万人。1日当たりの死者数は700人台で高止まり。

コロナは「人間の安全保障」を問いかけている
 
1.パンデミックが我々に問いかけるもの

韓国のNGO『参与連帯』はこう論評しています。
4/9 徐台教記者による)

新型コロナウイルスのパンデミックは、世界大戦に匹敵する危機となっている。

これに対応して、「ニュー・ノーマル」(新しい社会スタイル)を念頭に置いた全面的な社会の転換が必要になっている。

予算構成の見直しと国防費削減もその一つだ。軍備増強のみではなく、平和的な方法で平和を守り構築するという考えが必要である。

そのためにも全面的な政策転換が必要だ。(防衛予算削減の具体的提言については省略)


2.「人間の安全保障」の考え方

その際の国際的な基準として国連での「人間の安全保障」決議をあげています。
これは非常に参考になる発想だと考えます。

2012年、国連総会において「人間の安全保障」が決議されました。それは次のような基本的視点を謳っています。(MOFAホームページより)

「人間の安全保障」とは、生存・生活・尊厳に関する脅威から人々を守り、諸個人の能力強化を通じて持続可能な社会づくりを促す考え方である。

今日の世界においては、グローバル化により相互依存が深まっている。貧困、環境破壊、感染症などは国境を越え、人々の生命・生活に深刻な影響をもたらしている。

このような課題に対処していくためには、従来の国家中心のアプローチだけでは不十分になってきている。

「人間」に焦点を当て、様々な関係性をより横断的・包括的に捉えることが必要だ。

3.「安全保障」予算の機動的出動を

このような「人間の安全保障」の考えに基づくなら、現下の非常事態においては、限りある資源のもとで、「安全保障」予算の大幅組み換えもふくめた資金創出が考えられてもいいのではないでしょうか。

例えば大規模災害においては自衛隊が出動するのですが、このようなパンデミックでは、人員の出動で事足りる状況ではないと思います。

財政の面での機動的出動がもとめられてもよいのではないでしょうか。

日経の18日紙面にビル・ゲイツの提言が形成されている。非常に示唆に富む発言なので私なりに解釈して紹介したい。

1.新型コロナに国境はない

しかし各国政府は自国の対応に集中してしまっている。

2.低開発国で新型コロナを抑え込まれなければパンデミックは終わらない

世界は武漢発の新型コロナを一旦抑え込んだかに見えた。しかしそれはイタリアへと飛び火し、世界に広がっている。

これが第3次流行、第4次流行と続かない保証はないし、それがさらに強力化する危険も否定できない。

3.もう一つのグローバリゼーションがもとめられる

それは低開発国、感染症に対して脆弱な国で遷延する可能性がある。

なぜなら経済のグローバリゼーションが、世界に著しい格差をもたらしているからである。

だから私たちはもう一つのグローバリゼーション、新型コロナとのグローバルな闘いにいどまなければならない。

4.それは資本の論理とは異なったものでなければならない

最も初歩的な一歩は、医療・衛生資源が必要に応じて、効率的に配分されることだ。お金の有無による配分は有害無益だ。

「私は資本主義を強く信じる。けれども、市場はパンデミック下では機能しない」

どのように配分するかはWHOなどの意見に基づいて行われるべきだ。

そのための資源投下を惜しむべきではない。

5.すべての人々との連帯

目前の非常事態に対応することは緊急かつ重要である。

しかし賢明に考えればわかるように、世界の貧しい人々のために連帯することは、中長期にはもっと重要なのである。

「このパンデミックの下、私たちは全員がつながっている。だからこそ、私たちは一緒に闘わなければならない」



大きな声では言えないが、12日から19日までペテルブルクとモスクワを観光旅行してきました。
毎日、刻々と状況が変わり、帰る前の日には午後と夜の行事がキャンセルとなりました。

帰りの飛行機は肘掛けを上げて、3席独占。臥床して寝ることができました。
それでも成田についたときには思わず客席から拍手がでました
機内ではイタリア帰りという若者が、「あちらではとんでもないことになっている」と話していました。
帰ってきたときは、むしろ日本のあっけなさに「大丈夫かな?」と訝しんだくらいですが、いよいよ本物になってきたようです。

23日、イタリアから到着した40代男性の新型コロナ感染が確認された。

22日のツイッターにはこのような発言も: 「この時期に旅行する神経が分かりません。何故行ってしまったんですか? 帰国して、しかも待機せずとか…」

イタリアのコロナは別物?

どうも日本で感じていたコロナ像と、ヨーロッパを席巻しつつあるコロナは、別人のような印象を受けます。例えて言えばインフルエンザのAとBくらいの違い。

とにかくやたらと人相が悪い。感染力も毒力もエグくて、ファシストの顔をしています。

これから日本に来るのは別のコロナと考えたほうが良いのではないでしょうか。

イタリア・コロナの特徴

とにかく報道の範囲から、イタリア・コロナの特徴を探ってみたいと思います。

1.感染スピードがやたらに早い

25日の時点で全世界の感染者は40万人を超えました。前の日に比べて4万712人増えています。絶対数はばらつきがありますが増加数は圧倒的です。

感染者が10万人に達するまで67日間、次の10万人はその11日後、さらに次の10万人はわずか4日間でした。その多くがイタリア、スペインなど南欧系諸国です。

以下は岩田デノーラ砂和子さんによるものです。
イタリア政府は7日に北イタリア14県の封鎖(行動抑制)を決定しました。各州知事は北イタリアから来た人に14日間の自主隔離を通告しました。
しかし煽る報道も手伝って非常識な人々、およそ数万人が全国に散ったのです。それが各地でトラブルとなりました。実家に到着するも家に入れてもらえず、車で自主隔離を迫られることもあったようです。
これらの混乱は、コンテ首相が「私は家にいます #iorestoacasa」とテレビで語った後、沈静化したようです。
レッドゾーン
            14の封鎖県
2.いまさら仕方ないが “感染者No.0”

イタリアで最初のコロナは1月下旬です。中国人観光客2人がイタリア旅行中に発症しました。

これは孤発に終わったようです。しかし「ステルス・キラー」を通じて生き延びた可能性も否定できません。

1月30日、クルーズ船「コスタ・スメラルダ」でマカオ人女性の疑似患者がいましたが、検査では陰性でした。このため下船予定者1千人がそのまま下船した。

次のケースが2月18日、ミラノ南東60キロでの38歳のイタリア人男性(診断は21日)です。それから1週間以内に900人の感染が確認され、そのうち21人が死亡しました。

経路は明らかになっていませんが、1月中旬に中国とコンタクトがあったドイツ人男性がイタリア人男性と接触していることがわかりました。このドイツ人の勤務先でも陽性者が数人発覚しています。


2.毒性がべらぼうに強い

イタリアで死者が7500人を超えました。すでに中国の2倍に達しています(CSSE)

北部ベルガモ医師会の会長は「自宅で死亡した患者はカウントされていない」と述べています(読売)

注目される研究があります。陽性が確認された約5800例をさかのぼって調査したものです。
これによると、2月20日以前にウイルスはすでに同州南部の広い範囲に拡散していた可能性があるといいます。疫学の専門家の間では、コロナ肺炎に似た症状が昨年秋から確認されており、欧州での感染が早く始まっていたとの見方があるようです(朝日新聞 =河原田慎一)
ソーシャルメディアでは「自分より若い患者に」と人工呼吸器を譲った72歳の神父が話題になっています。(BBC)

スペインでも3400人に到達しました。

木村正人さんによれば

マドリードの高齢者介護施設で17人が死亡、アルコイでも21人が死亡。高齢者介護施設を支援するために軍が動員されています。

遺体を受け入れる場所がなくなり、スケートリンクを臨時の遺体安置所としているそうです。

アメリカは感染者が6万6千人、死者が737人です。インフルエンザが大流行した上にこの数です。


ハグやチークキスとは関係ない

木村一人さんは次のようなイタリア人の意見を紹介しています。
南イタリアではキスしてハグする男性を見かけますが、北イタリアでは基本的にはそんなことはしません。
つまり、もしキスが原因なら“クールな北部人”に多発する事象を説明できない、というのです。

とにかく、そんな生活習慣でこの病気がわかったような気になることは、ぜったいだめです。全く不明のエイリアンが戸口の向こうまでやってきているのです。武漢から昨日まで2ヶ月の経験は、もはや役に立ちません。もう忘れてください。


こういうひどいやつもいる。

古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員というひとで

イタリアの悲劇は中国依存のツケ」というとんでもないデマを振りまいている。
米欧の専門家たちの間では、イタリアが近年「一帯一路」への参加などを通じて、中国との絆を異様なほど緊密にしてきたことが今回の感染拡大の最大の温床となったとする見解が広まってきた。
むかし、朝鮮人部落の子と遊ぶと「あそこの家の子と遊んじゃいけないよ、悪い病気が移るからね」と言われたみたいなものだ。それで病気にでもなったら「ほらご覧、言ったじゃないの」という具合である。この男が違うのは、それを飯の種にしているところだ。

ここまで調べた範囲で中国オリジン説にはなんの根拠もない。欧米では「東洋人は来るな」と殴られたりすることもあるそうだが、この人はそういうリスクも甘受するのか、それとも白人もどきの面立ちなのか?

いずれにしても、学問的に否定されているウワサを、人が苦しんでいるときに垂れ流すのは、しかも他人が言っているように書いて自分の責任を免れようというのは、人間として卑劣の極みだろうと思う。

もうこんなことを言っても役に立たないかもしれないが、もし生き延びる人がいたら、2020年の今日、こんな馬鹿なことを言う人間がいたことを覚えておいてほしい。

「ベトナム 手洗いダンス」という歌が評判のようだ。

「内閣官房」というサイトがいろいろの映像をアップしている。

こちらのページは元の映像に日本語の字幕付きでおすすめ。


このページは若者二人のダンス付きで左に英語、右にベトナム語の歌詞がつく。もはや明らかにヒット狙い。


こちらはタイ・バージョンでベトナムの曲にタイ語の歌詞と美男美女のダンスをつけている。


こちらはUSバージョンで、どうもベトナムの米公館でのパーティーのように見える。

新型コロナ肺炎についての所感

今まで水際封じ込め戦略でやってきたので、余分な意見を言って混乱を助長してもいけないと思い、発言を控えてきた。

しかしもうそのような段階を超えて、市中感染症としての扱いが必要になったので、知恵を寄せ集めることも大事かと思う。

知恵と言っても大したことはないのだが、私には2つの心当たりがある。

1.ノロとの類似点

一つは、拡散スタイルが出始めの頃のノロウィルスにとても似ているという印象だ。今でこそ連中もおとなしくなってきたし、こちらもあしらいが分かってきたので、それほどの恐怖はない。

しかし最初の頃は正体がわからなかったから、とにかくその牛若丸並みの神出鬼没ぶりが怖かった。対策チームのキャップは「ヤクザ・ウィルス」と言っていた。どこにでも難癖をつけ、こちらが弱気と見れば襲ってくる。

今はとにかく手→口の接触を避けることが第一で、とにかく「さわるな、触らせるな」が標語である。

特に医療・介護従事者は、就業時間中はつねに手袋をする必要がある。

これが一次予防。つまりスタッフの感染防止で、一種の水際作戦だ。

二次予防が手洗いとうがいである。

これだけ潜伏が長い、しぶといということは、ヒトの防御機構から見てちょいと大人しげで警戒させないのだろう。コソコソと増殖して、ここぞと思ったら一気に発症するんだろうと思う。ヤクザたるゆえんである。逆に言えば、こちらがアラートでいれば、不顕性感染しても発症を防ぐ可能性がかなり高いということだ。

その間は増殖の場たる口腔~咽頭粘膜をうろちょろしているわけで、うがいを強力にするだけでかなりウォッシュアウトできる可能性がある。ノロと違って胃酸には弱いようだから、飲み込んでしまっても構わない。口腔~咽頭粘膜の保清は二次予防・一種の治療と考えられる。

2.下気道炎型のウィルス感染

実は私は2012年に老健施設でウィルス性下気道感染の大流行を経験している。


それがRSウィルス感染である。入所者の3割が発症した。その半分が医療施設への転院を要した。ほとんど防ぎようがない。例の豪華客船並みである。

とにかく最初から下気道感染の形で発症するから、ノーアウト満塁から試合を開始するようなものだ。
熱はさほどないが咳がひどく、見る間に全身状態が悪化してくる。CRPは二桁に達する。

肺炎と言っても最初はウィルス性の気管支肺炎だから、単純写真では分からない。しかしCTをとると一目瞭然だ。CTをとるということは医療機関に送るときにも大事で、そうでないと老人医師の見立てはなかなか信用されない。これで24時間はずれ込む。

3.抗生剤の早め投与が必須

じつはRSウィルスは子供の病気で、しかも軽症で終わる病気だ。教科書にはそう書いてある。
しかし年寄では重症化する。しかも発症してから重症化するまでの間隔が短い。あっという間なのだ。このことはあまり教科書には書いてない。当時は書いてなかった。

かといって片っ端から病院に送っていたのでは、送られる方も持たない。だからICUから一般病室に移す感じで送り返された。
こちらの経営も危ない。経営的にはRSの後遺症はほぼ1年続いた。カルロス・ゴーン並みだ。だから相当真面目に考えた。

これは免疫低下の問題だ。というより、高齢者に半ば常在する肺炎双球菌(そのたぐい)の二次感染がらみだと考えた。

とすれば結論は一つ、早めのクラビットしかない。もう一つは強めの抗炎症薬、例えばロキソニンである。

後者はナースが嫌がった。低体温やら循環虚脱やらが怖いからだ。だから補液をしながら消炎剤を使った。老健だからすべて持ち出しになるが、それでもベットが空になるよりはいい。
もちろんそれでだめなら送ることになるが、かなりそれでがんばれた感じはある。

何も統計など取らないからそれが有効かどうかは分からない。

ただ大きい病院ほど、若い先生ほど抗生物質を使うのを嫌がる。クラリスロマイシンの予防投与は、ほぼ100%切られて戻ってくる。なので、どうしたものかと考えている。


4.RS感染だという根拠

別になにもない。検査はしていない。ただその時の江別保健所の感染症サーベイランスで小児のRSがとんでもない大流行をしていたと言うだけである。

そして感染経路が、床上まで水に浸かった家のように、あちらこちらから水が漏れ出してくるような発症の仕方だったからである。

とにかく面会謝絶にして、ナースや介護士にガウンもどきをさせるくらいしかなかった。

医者一人だからそれで良かったが、病院のように医者がたくさんいるところでは、意思決定は遅れるだろうと思う。タミフルを巡って果てしない議論が続いた医局会議を思い出す。
病院管理医師としてはそこら辺を留意して置かなければならないだろう。

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