「東京裁判」でグーグル検索をかけると、ネット右翼の花盛りである。

東京裁判で何が明らかにされどんな罪が断罪されたのかはさっぱりわからない。

やっとひとつまともな論文を発見したので紹介する。

「東京裁判における日本の東南アジア占領問題: 検察側立証を中心に」という題名で、梶居佳広さんという方の書かれたものである。立命館の客員研究員という肩書になっている。

なにしろ、うかつなことは書けないからどうしても物言いが慎重になる。そのせいかどうか分からないが、かなり読みにくい文章である。

 

はじめに

東京裁判とは「真珠湾への道」を究明し,そこに至るまでの責任者を処罰した裁判といえる。

同時に侵攻した地域で日本軍が何をしたかについても,「BC 級戦争犯罪」ととして一定程度追及している。

本稿は東京裁判『速記録』を手掛かりに、東南アジアの人々に関わって発生した諸問題を整理・検討する。

Ⅰ.東京裁判における東南アジア問題の概観

⑴ 起訴状

46年5月3日、東京裁判で起訴状が朗読された。

起訴状は、

1.日本の利益のために被征服国民の人的経済的資源を搾取し,公私の財産を掠奪し,

2.都市村落に対し軍事上の必要以上濫りに破壊を加え,

3.無力な一般民衆に対し大量虐殺,掠奪,凌辱,拷問その他の野蛮なる残虐行為を加え、

と指摘している。

⑵ 審理

検察側立証で論及されたのは

第5部 「仏印に対する侵略」,

第8部 「太平洋戦争」中の「和蘭に対する侵略」,

第9部 「戦争法規違反,残虐行為(BC 級戦争犯罪)」

においてである。

なお中国大陸における中国人への残虐行為は第3部 「支那事変」段階で扱われている。

⑶ 判決

「BC 級戦争犯罪」で起訴された24被告の内,有罪の判定が下されたのは10被告(土肥原賢二,畑俊六,広田弘毅,板垣征四郎,木村兵太郎,小磯国昭,松井石根,武藤章,重光葵,東条英機)に止まり,他は証拠不十分で無罪となった。

海軍の岡敬純と嶋田繁太郎,元外相の東郷茂徳各被告らは嫌疑不十分で「BC 級戦争犯罪」については無罪判定を受けている。

一方で武藤,木村被告がフィリピン,ビルマにおける虐殺・虐待,東条被告が捕虜抑留への虐待全般,土肥原被告,板垣被告はマレー,ジャワ,スマトラ,ボルネオにおける捕虜・抑留者虐待により有罪と宣告され、死刑に処せられている。

南京虐殺事件の広田・松井両被告とあわせ,東京裁判で死刑を宣告された7 被告は全員「BC 級戦争犯罪」で有罪となっていた。

これは「平和に対する罪」が事後法であって罪刑法定主義の原則に逸脱するとの批判に配慮し,「BC 級戦争犯罪」を重視した結果である。

「日本無罪論」として著名なパル判事(インド)は,「(中央の)指導者はなんら刑事責任を負うものでなく」,個人の行為を国際法で裁くべきでないと主張して全被告無罪と判定した。

ただし日本がアジア各地で行った残虐行為そのものは否定していない。

またベルナール判事(フランス)も、閣僚或いは軍の指揮官という地位に就いていただけの理由によって現地で発生した戦争犯罪に関する刑事責任を機械的に課すのは不当と主張している。