People's Democracy
May 01, 2022


R Arun Kumar


インド洋・大平洋における米国の新戦略


1.米国のインド太平洋新戦略(2022年2月)

今年2月、ウクライナ戦争が始まる数日前に、米国は新しいインド太平洋戦略を発表した。この文書は中国だけでなく、インドも対象としている。

最近行われた米印2+2閣僚協議(4月11日)と合わせて考えると、米国のインド太平洋戦略はインドとの防衛取引と不可分に結び付いていることが明らかだ。

米国の最新のインド太平洋戦略は、「米国はもはや、以前のような圧倒的強さを誇ることはできない」という国際的現実を受け入れるところから出発している。

米国は不本意ながら、「この戦略を実行するためには同盟国に依存しなければならない」という事実を、受け入れざるを得ない。


2.新戦略のポイント

以下、いくつかのポイントを引用する。

*この戦略の特徴は、それが単独では達成できないということである。戦略的状況を変更したりと歴史的課題に挑んだりするには、意志を共有する人々との前例のない協力を必要とすることになるだろう......。

*我々は、同盟国やパートナーが地域で指導的役割を担うように支援し、強化する。
そして、ときどきの重要問題に立ち向かうために、最適な総合力を発揮できるグループ編成を選択する。そのなかでも重要なグループがクワッドである。

*我々は、諸グループとの関係を調整し協調しながら、基本構想に沿った計画を実行する。


3.EUのインド・太平洋構想構想(2021年9月)との関係

米国は、EU構想(2021年9月)との調整も図っている。EU構想の骨格は、フランス、ドイツ、オランダの三国が、自分たちの利益をもとに主導して構築したものである。

インド・太平洋地域には、フランスが小規模な海軍部隊を駐留させている。

ただ、EU構想は米国の戦略構想ときわめて符合しているので、調整はさほど困難ではない。米国は、EUがこの地域に持つ関心を利用して、NATOをゆっくりと呼び込もうとしている。

米国の文書では、こう書かれている。
インド太平洋地域以外の同盟国やパートナー、特にEUと北大西洋条約機構(NATO)もこの地域に新たな関心を寄せるようになってきている。

4.米国がインド・太平洋地域を重要視する理由

米国がインド・太平洋地域を重要視するのは、この地域が今後数年間で世界の経済成長の3分の2を担い、世界経済の原動力となると見ているからだ。

この地域は世界人口の60%を抱え、世界のGDPの60%を生み出している。
2030年までに新たに生まれる24億人の中産階級のうち、90%がこの地域に住むことになる

米国とこの地域の貿易額は、輸出入併せて1兆7500億ドル(2020年)に達した。この地域は米国内で300万人の雇用を支えている。また、EUの対外貿易の40%は南シナ海を経由している。

米国とEUはこの巨大な経済的潜在力を引き出そうと狙っており、そのために手を握っている。


5.中国封じ込めは資本主義にとって死活的な戦略課題

しかも両者には決定的に重要な共通点がある。

この地域には、世界第2位の経済大国であり、最も急速に経済成長を遂げている中国がある。肝心なのは、中国が社会主義国であることだ。米国とEUはともに、中国を経済的な競争相手であるだけでなく、イデオロギー的な対立国であると認識している。

それゆえ、この地域は死活的な重要性を持つと考えており、この地域を自分たちの影響下に置きつづけるため、努力を集中している。

その一例がインド太平洋地域の定義である。米国はその地理的な領域に、小さいながらも重要な変更を加えていた。

2017年の国家安全保障戦略文書は、インド・太平洋地域を「インドの西海岸から米国の西海岸まで」と定義していた。
これにはイラン、ペルシャ湾、紅海が含まれていた。

今回の文書では、これらの地域が除外され、「我が国の太平洋沿岸からインド洋に至る地域」と再定義されている。
これは、中国を「封じ込め、孤立させる」米国の努力をより強調するためのものである。


6.米国流価値観の共有を強制する

米国は、以下のごとく、その意図を恥ずかしげもなく公言している。

*インド太平洋にしっかりと定着させなければ、米国の利益は前進しない......

*このようにアメリカの関心が高まっている背景には、インド太平洋地域がPRCからの挑戦的な動きに直面しているという事情がある。(PRC:中華人民共和国、略せば中共)

*PRCは、世界で最も影響力のある大国となることを目指している。

*我々の目的は、中国を変えることではなく、中国が活動する戦略的条件を策定することである。

*そして、我々が共有する利益と価値観に最大限有利な勢力バランスを構築することである。

米国が他国に共有させようとする利益と価値観は明確である。

民主主義と人権の名の下に、米国は世界中に介入してきた。経済力と軍事力を駆使して、不安を煽り、クーデターを指揮し、政権転覆を実現する。

数十年前、このインド太平洋地域でも、CIAがインドネシアで共産主義者を虐殺し、軍事独裁政権を樹立させた。


8.「中国を変えることが目的」だ

米国は「中国を変えることが目的ではない」と言っているが、実際のところ、まさにそれを試みている。そのことは様々な米国高官の発言やUSAIDのような機関の行動から明らかである。

米国国務省は、中国共産党は「現代の中心的な脅威となっている」と言う。東アジア・太平洋局次官補のデビッド・R・スティルウェルは、2020年10月30日のインタビューでこう述べている。

*中国共産党は、我々の基本的な生活に現実的な危険をもたらしている。それは我々の繁栄、安全、自由すべてに影響を与えている。

*我々の任務は、それを認識し、他者に警告し、自由を守るために必要な措置を一緒になって講じることにある"  

国務省の方針を受けて、USAIDは香港でも新疆ウイグル自治区でも、不安と騒乱の種を撒き続けている。


9.中国敵視政策とインド

この中国敵視政策を推進するために、米国はインドを反中国の軌道に乗せようとしている。

戦略文書にはこうある。

*我々は引き続き、米国とインドの戦略的パートナーシップを強化し、経済・技術協力を深め、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて貢献する。

*我々は、インドが南アジアとインド洋における主要なパートナーであり、地域のリーダーであると認識する......。

*インドはクワッド同盟の主要な推進力である。


10.インド軍を反中国の歯車に

この戦略的視点と連動して、米国はインドが米国にしっかりと従いてくるようにさまざまな努力を傾注している。
最近行われた閣僚級2+2会談も、この関係を推進するのが狙いだ。

会談後に発表された共同声明では、インドがいかに米国の懐深く取り込まれ、国防と主権が損なわれてきたかが詳細に記されている。

*会談は両国の軍隊が追加訓練の機会について議論し、米国は新規かつ高度な領域へインドが参加することを歓迎した。

合意事項は軍事訓練にとどまらない。

*両政府は領域を越えてリアルタイムで(軍事)情報を交換し、互いの軍事組織に連絡将校を配置することに合意した。

これはつまり、我が国の各将校と任務を同じくする米軍将校が、軍務において常時対応することになったということだ。


11.インド軍をロシア流から米国流に

さらに、防衛産業協力の強化のために下記の合意がなされた。

*双方は、米海軍艦艇の修理のため、米海上輸送司令部(MSC)の艦艇がインドの造船所を利用可能にする方向で合意する。

*インド軍の活動範囲を拡大し、より広い地域における協力の機会を可能にする。

*海上補給、空対空、地上給油などの二国間補給活動を奨励する。また兵站交換覚書(LEMOA)などを通じて、このような協力を拡大することに合意する。

閣僚会議では、両国間の防衛貿易をさらに拡大し、インド軍装備のロシアへの依存度を下げることについても話し合われた。

インドの防衛産業を民営化し、防衛貿易を推進することも議論された。

インド政府が最近、ロシア製ヘリコプターの購入中止を発表したのも、こうした背景があるからだ。


12.新戦略はただの反中国ではなく世界覇権の一環

米国が世界全体を自らの覇権の下に置くために、長期的な戦略的視野で動いていることは明らかである。
インド・太平洋戦略は、この世界秩序の確立を目指す一環である。
中国を封じ込め、孤立させることだけが目的ではない。

この目的を達成するためには、当面の課題としてインドを完全に意のままにしなければならない。それが、アメリカの明確な考えだ。

その方向性は戦略文書に示されており、そのフォローアップの行動は、日米政府間の閣僚会合などの取り決めに見られる。

インド太平洋地域での米国のプレゼンスと関与は、地域に分断と不安定もたらす。それは明らかにこの地域の平和を脅かす道である。

米国のインド太平洋地域への覇権に反対することは、この地域の平和を守るために不可欠であるだけでなく、我々インドの主権と独立を守るためにも重要である。(編集部訳)

(Peoples Democracy はインド共産党M の理論誌です)