昆虫の脳の話を聞いて、少なからず混乱している。
これまで自分なりに作り上げてきた脳神経系の発生と進化の道すじが、ガラガラと壊れていくような気分を味わっている。
昆虫進化のストーリーというのはこういうことだ。海の中で甲殻類として発展してきた節足動物の中から、取るに足らないミジンコみたいな虫が、気門を備え空気呼吸ができるようになり陸上に上がった。
彼らは海辺の生き物として天敵のいない環境で爆発的に増大した。
そのうちに羽が生えて飛翔するものが出現した。それはあっという間に陸上に暮らす節足動物の大半を占めるまでに至った。
これが昆虫であり、いまもなおこの地球上で最大の個体数と最多の種属多様性を誇っている。
彼らの体はもともと海中にいたときから体節構造を持っていたが、それはますます特徴的なものとなった。
そしてその前端に位置する3つの体節の神経節が左右が癒合し、ひとつの神経の塊となった。これが中枢神経の始まりだ。
これにより体の前端は2階建て構造となり、1階が口(原口)2階に脳が納まった。
この脳とは別に傍食道と胸部にはかなりの大きさの神経叢が形成され、能と役割分担するようになった。
脳は前大脳・中大脳・後大脳という3つの脳神経節から構成されるようになった。この3脳が脊椎動物の前脳・中脳・後脳と照応しているということではなさそうだが、気になる。
さらに「最近の研究では」という注釈付きだが、「はしご状神経節に由来する昆虫の脳は、DNA解析では脊椎動物の脳と変わるところはない」という話になると、もはやめまいがしてくる。
もう一つ、驚愕の事実。
これまで脊椎動物の直接の祖先は顎口類、すなわちナメクジウオないし八目鰻と思い込んでいたが、そうではなく脊索動物の中でも後索動物、すなわちホヤなのだということ。
これは、「ハイそうですか」と引き下がるのはなかなかつらい。しかしこれも「DNA上はそうなんだ」と言われると、沈黙するほかない。
とりあえずもう少し脊索以前の時代の神経系の進化を「DNAに従って」見つめていくほかはなさそうだ。
最近テレビの囲碁番組で、画面の上に、「どちらが優勢か」というAI診断の絵が出る。勝負どころに行くと一手ごとに端から端まで揺れるのだが、全く興ざめだ。
「なんでもAIかよ」と言っても無駄なことを知りつつ一言言ってみたくなる今日このごろである。
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