「動物の生きるしくみ事典」より



はじめに

昆虫類の位置づけ

昆虫は節足動物門の六脚類に属し、甲殻類から分岐した。
陸上の環境に適応し、翅の獲得などにより生息環境を広げた。
現在約100万種が記載されており、確認されている全生物種の半数、全動物種の2/3以上を占める。

動物脳の進化

神経系の進化は腔腸動物の散在神経系からはじまる。
前口動物では左右相称動物の扁形動物において神経節の形成が起こった。それは軟体動物頭足類(イカ・タコ)の脳や、節足動物昆虫類の微小脳に至った。
一方、後口動物では、尾索類(ホヤ)の神経管の出現から脊椎動物における管状神経系の形成へと至った。
(なぜナメクジウオでなく尾索類なのか? 調べたらウィキに以下のように記載されていた「近年の系統研究からはむしろ尾索動物の方が脊椎動物とは近縁であるとの結果が出ている」)


昆虫の中枢神経系の構成

節足動物は体節構造をもち、各体節に1対の付属肢と神経節をもつ。各神経節は1対の縦連合で結ばれている。このことから、「はしご状神経系」と呼ばれる。

昆虫の体は10数個の体節が連なっており、頭部、胸部、腹部の3つの部分に区別される。頭部の神経節を「脳」と呼ぶ。
ショウジョウバエ

「脳」は、3個の神経節が融合した脳神経節(食道上神経節)と3個の神経節が融合した食道下神経節(顎神経節)よりなる。

胸部は3個の体節より構成され(前胸、中胸、後胸)、それぞれの体節から1対の肢が出る。

翅をもつ昆虫の場合、中胸、後胸からはそれぞれ1対の前翅と後翅が伸びる。


脊椎動物神経系との違い

少し前まで節足動物のはしご状神経系と脊椎動物の神経系とは起源が異なると考えらえていた。

しかし両者には共通の遺伝子が関与することが明らかになり、現在は共通の祖先から進化したと考えられている。

(おぉ、これはとんだ事になっている。危うく大恥をかくところだった)


昆虫脳の基本構造

昆虫の脳は約10万-100万個のニューロンで構成される。

領域ごとに機能分担がみられ、感覚中枢、高次連合中枢、前運動中枢などで構成される。これは基本的に脊椎動物と同じである。

感覚中枢としては、視覚の入力を受ける視葉、嗅覚の入力を受ける触角葉などがある。

高次連合中枢としては、記憶学習の中枢であるキノコ体、空間認識・歩行制御などの中枢である中心複合体などがある。


視覚情報

昆虫の眼には単眼と複眼があり、視覚情報の多くは複眼により受容される。

複眼を形成する個眼の数は種差があり、アゲハチョウでは約12000個、ミツバチでは約5000個、ショウジョウバエでは約800個である。

一つの個眼には8-9個の視細胞が存在し、それぞれが感度や波長感受性に差がある。

視覚の情報化メカニズムは省略する。
ショウジョウバエの脳


その他の脳に関する情報

いくつかのポイントのみ紹介する。

匂い感覚を受容するのは触角である。触角上に毛状に突出する感覚子の中に嗅覚受容神経が伸びている。触角には温度や湿度変化を検知する感覚受容細胞も存在する。

前大脳に左右一対の「キノコ体」があり、脊椎動物の海馬のごとく、学習と記憶に重要な領域である。ドーパミンによる修飾が学習の基盤となっている。 

中心複合体は視覚情報の同定が主な仕事とされる。長距離の移動のナビを司るとされる。