この動画に感動しないヒトはいないだろう。
圧倒的な力の差がある敵に対して20頭のブチハイエナが集団で立ち向かっている。
ハイエナに武器はない。あるのは連携力、スタミナ、それと勇気だ。
逆にライオンから失われていくものはスタミナとファイティング・スピリットだ。
あるものは、ライオンの一撃を食らって致命傷を負っているかも知れない。
我々の祖先も、武器を持たない時代には、このように毎日命がけの戦いを続けていたのかも知れない。
そして多くは逆に襲われる身となり、大型獣の狩りの対象となっていったのかも知れない。


ブチ・ハイエナ

生物学的特徴

4種のハイエナのうち、我らの対象となる「狩りをするハイエナ」はこのハイエナである。
ネコ目  ハイエナ科  ブチハイエナ属というのが系統樹アドレスだ。イヌに似た姿をしているが、ジャコウネコ科に近縁である。

頭胴長120-180cm、体重55-85kgでほぼ成人男性並み、かなりの大型である。強力な頭骨と顎によって、他の肉食動物が食べ残すような骨を噛み砕く。

このため草原の掃除人との異名を持つ。マサイ族は人間の遺体を放置してハイエナに食べさせる。

後ろ足の短いのがいかにも不格好だが、時速65kmを超える俊足。しかし最大の特徴は並外れたスタミナにある。数キロの距離を時速40キロで走り続けることができ、執拗に獲物を追及しかならず仕留める。

力が強く、家畜のロバなども引きずっていく。持久力に優れ、獲物を探して1日で30kmほども移動することもある。聴覚は鋭く、眼は夜でもよく見える。水はあまり飲まず、1週間程は水を飲まなくて過ごすことが出来る。

見た目が美しくない、しつこい、不気味な鳴き声などから不吉な言い伝えに包まれている。

アニマルフォトグラファー の平岩雅代さんは「野生動物の中で、ハイエナほど悪い印象を持たれている動物は他に見当たらない」とまで書いている。

野生下の寿命は33年だが、飼育下では40年以上生きた個体もいる



ブチハイエナ


ブチハイエナの生態


サハラ砂漠以南のサバンナ、低木林地帯に生息し夜行性である。

東部アフリカ(ケニア・タンザニアなど)では群れ(クラン)を形成するが、南部では家族単位、あるいはオス単独で縄張り行動を取る。ここでは主としてサバンナのブチを扱う。

生息密度は地域によって異なるが、開けた草原から半砂漠地帯、湿原や藪のある岩場まで、さまざまな環境に適応している。エチオピアなどでは標高4000mの高地にも姿を現す。

家族のリーダーは例外なくメスである。メスはオスより大きく、男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌が盛んである。このため外性器は、外見上はオスのそれとほとんど区別がつかない。
札幌市円山動物園HPより
「雌」のカミは性成熟年齢に達した後も発情兆候が見られないことから、カミが雄である可能性が生じたため、麻酔下で超音波画像検査、内分泌学的検査等の性別検査を実施した結果、二頭ともオスであることが判明いたしました。
動物なら何でも食べる。時にはスイギュウなどの大型動物も倒し、キリンやサイ、カバの子どもなども襲うことがある。時には鳥や魚、ヘビやトカゲ、昆虫や果実など、生息域や環境に合わせて、実に様々なものを捕食している。

獲物の種類によって狩りの仕方を変える。単独で狩りをするときは、ノウサギや地上徘徊性の鳥、魚などを狙う。ヌーやシマウマ、ガゼルなどの大型獣では10~25頭のブチが協力し追い回す。最後に、疲れて脱落した個体を仕留める。

ハイエナは他の肉食獣の獲物を奪って食べると言い伝えられるが、実際は食料の半分以上を自分たちで捕える。ライオンに横取りされる場合もある。

彼らは12種類の鳴き声を使い分けている。そのうち1つが笑い声のように聞こえる。このことから「笑うハイエナ」の別称がある。食べ物を見つけた時や威嚇する時には、頭を低く下げて気味悪い声で吠える。実際の声が聞けるが、なかなか不気味である。

ただ、それよりもはるかに印象的なことがある。それは彼らがきわめて饒舌なことだ。母系社会であるせいか、ここでは「沈黙は金」という格言は通用しない。それどころか「饒舌は金」とばかりにしゃべくりまくる。

ハイエナの行動はスマートで大胆だ。食糧倉庫や作物を荒らし、家畜や人間も襲うこともある。害獣として彼らは人間に嫌われ、害獣として大量に捕殺されたこともある。


家族とクラン

ハイエナの基礎コミュニティーは「パック」と呼ばれる家族単位で構成されていて、ふつうは3~4頭程である。

状況によっては有力なパックを中核とし、10~20頭の群れ(クラン)を形成する。クランは80頭に達することもある。ハグレモノのオスが一宿一飯の恩義を受けることもあるらしい。

行動範囲は生息地によって変化し、東部アフリカでは30~40平方キロ、半砂漠地帯では1000平方キロに達する。

クラン内では、メスがオスよりも常に優位である。群れのリーダーもメスである。その地位はリーダーの長女に受け継がれる。もっとも低ランクのメスでもオスよりはランクが高い。基本的にメスはクランに残り、オスは2歳半頃にクランを出る。

群れの仲間同士は強く結びついており、協力して狩りをしたり、ライオンの攻撃から身を守ったりする。


株式会社バイオーム 「ブチハイエナの知られざる社会

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