岩岡千景「鳥居 セーラー服の歌」
(拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語)

こんな本を図書館で見つけて、つい読んでしまった。すごい迫力で、活字だから読めるけど、声に出して聞かされたら逃げ出したくなるでしょう。

ただ、それだけではだめで、作品としてもすごいのだ。それが一番なのだ。

それで申し訳ないが、岩岡さんの文章を一回置かせてもらった上で、埋め込まれた作品を取り出して、ばらして、半分位に絞って、ジャンル的にまとめ直した。
これだと彼女の歌の力が直接わかってもらえるのではないだろうか。
鳥居


自殺した友

消えた子の 語らざる声
とつとつと
指紋少なき 教科書にあり

あおぞらが 妙に乾いて
紫陽花が あざやか
なんで死んだの

真夜中の
樹々は切り絵に なりすまし
もう友のない 我にやさしい


養護ホームの生活

先生に 蹴り飛ばされて 
伏す床に
トイレスリッパ 散らばっていく

理由なく 殴られている
理由なく トイレの床は
硬く冷たい

まっさきに
夜明けの風の 宿る場所
屋上階に 旗はそよぎて

灰色の空 見上げれば
ゆらゆらと
死んだ眼に似た 十二月の雪

虐げる人が 居る家なら
いっそ 草原へ行こう
キリンの背に乗り


自殺した母

いつの日も
空には空が ありました
母と棺が 燃える 
真昼間

お月さま 
すこし食べた という母と
三日月の夜の 坂みちのぼる

対岸に 灯は点りけり
ゆわゆわと 泣きじゃくる我と
川を隔てて

全員が 花火の方を 向いている
赤・緑・青
それぞれの顔


授業

慰めに
「勉強など」と 人は言う
その勉強が したかったのです

音もなく 涙を流す 
我がいて
授業は進む
次は25ページ


心を病んで

キッチンの 蛇口の上で
首絞めて
逆さに 吊るし上げられた花

あいつらと 同じ血が
流れているなんて
ぞっとするだろう

夜の海に
君の重みを 手放せば
陶器のように 沈みゆく 首

セパゾンを
コートに 多く 隠し持ち
「不安時」の 文字
見られぬように

心とは
どこにあるかも 知らぬまま
名前をもらう 「心的外傷」


自殺を考える

これからも
生きる予定の ある人が
三か月後の 定期券買う

つらいこと ばっかりで
なぜ生きないと いけないのか?

書きさしの遺書 伏せて眠れば
死をこえて 会いにおいでと
紫陽花が咲く

すてきな夏服を もらったから
夏まで 生きてみよう
(太宰「晩年」より)



この文章を書いたあと、すこしネットで関連文献を探してみた。

それで見つけたのがこの文章。
式守 操 さんのHP(2020-09-26)から

あらためて感じたのは、私の読んだ本は、あくまで岩岡千景さんの著作、「鳥居 セーラー服の歌」であるということ。

式守さんの読んだのは鳥居の著作だ。これはどうしようもない。式守色をできるだけ取り除きたくて細工したが、やはりそれでは外形的にしかわからない。

例えば友達の死の瞬間を見つめた以下の三首。
カンカンと 警報知らす音は 鳴り続けて 友は硬く丸まる(紺の制服)

硬い線路を 脈打たせつつ 配管をめぐらす 鉄の車体近づく(同)

ぐんぐんと 近づいてくる 急行の灯りは 鉄の暴力となり(同)
これを除外した岩岡さんの意図はわからぬでもない。目を背けたいほど、脳みそが崩れてしまうほど生理的につらい。多分、人格が裂け、心が体と別れ、自分でないものが心を支配する、憑依的な精神現象が起きているのであろう。

同じことが、服薬死を遂げた母を、死の現場で見つめ続ける三首にも言える。
花柄の籐籠 いっぱい詰められた カラフルな薬 飲みほした母(キリンの子)

冷房をいちばん強くかけ 母の体は すでに死体へ移る(曲がり角)

いつまでも時間は止まる 母の死は 巡る私を 置き去りにして(同)
とりあえず、これ以上の引用は文意が崩れる。直接式守さんの文章を読んでほしい。
あと、ちょっと…、多くの歌を読み込んでいると、文体の揺れが気にならなくもない。