いまはエド・ウィン・フィッシャーの演奏するバッハの「半音階的幻想曲とフーガ」を聴いている。
この曲、この演奏は東京オリンピックの頃ラジオの深夜放送で聴いたとばかり思っていたが、どうも違うようだ。

受験勉強のギヤーが本格化したのはオリンピックのちょっと前である。
この頃の私はかなり追い込まれて悲惨な状況であった。学年順位が三桁まで落ち、数学と物理が完全にお客さん状態に入っていた。

新聞部ではかなり睨まれ、「學テ特集」号は紙面の半分が白紙の状態で強行発行した。

学校から帰るとまず一眠り、その後ダラダラして8時から勉強が始まる。そして11時半になると、第二放送をつけてクラシック音楽を聞き始めるのがルーチンだった。

クラシックと言ってもルネッサンスからせいぜいバロックまでだから、お経を聴いていたようなものだ。

いまでも中身はほとんど覚えていない。オルランド・ラッソとかジョスカン・デュプレとか、いまでも名前しか知らない人たちのマドリガルを流していた。

その番組で皆川達夫さんの解説でこの演奏を聞いたように覚えていたが、今ネットを探してみると、そんなことはありえない。

皆川さんはそれからしばらくしてFM放送で解説を始めたから、そちらを聴いた記憶が連動しているようだ。

あの頃はすごい演奏だと思ったが、今聞くとかなりあらっぽい。バッハの演奏はむかしからロシア人と決まっているようで、リヒテル、ニコラエーヴァ、ソコロフも良いが、いまはころりオフをスタンダードとしている。

グールドは良くも悪しくも異端だ。本人もそう思っているはずだ。そこを考え違いしてもらっては困る。