コンソーシアム・ニュース
2020年9月30日号

As'ad AbuKhalil (カリフォルニア州立大学教授)



はじめに

イスラエルとアラブの正常化の波が衰えることなく続いている。

トランプは外交政策の得点稼ぎに必死であり、アメリカ国民と議会に対してこう訴えている。

イスラエルとのアラブの和解に私が努力した。その結果、イスラエルは今や安全である、と。

メディア専門家と議会の超党派メンバーがこれを支持した。

ペロシ下院議長は二面的態度をとった。正常化の発表を称賛する一方で、イスラエルの安全保障に対する懸念を表明した。

これは西側の民主主義国では珍しいことではない。自由主義政党のみならず社会主義政党(たとえばフランス社会党)もパレスチナの大義を支持する一方、指導者レベルではしっかりと親イスラエルの態度をとっている。

湾岸の専制君主は、米議会下院への最短の道はテルアビブを通ることだと知っている。  

しかしそうだとしても、イスラエルがパレスチナに一切の譲歩を拒否しているのに、UAEとバーレーンがイスラエルとの平和条約に署名するというのは一体どうしたことでしょう。

そこではサルマン皇太子が重要な役割を果たしているが、それはまだ十分に明らかにされていない。

アラブ連盟

1970年にエジプトのナセルが死去した後、アラブ政治のイニシアチブはサウジ政権のものだった。

サウジはイスラエルとの平和に向け、「アラブ連盟」の進路を設定する責任を負っていた。  

1991年以降は、シリアのアサド大統領、エジプトのムバラク大統領、サウジのファハド王がアラブ連盟を支配したトリオだった。

かれらはすべて、中東への米軍の介入を正当化する役割を果たした。

その最初となったは、クウェート「解放」という名目だった。専制政治とテロリズムに反対するといっていたが、結局は米軍容認の理由の後づけだった。

サウジアラビア政府は、2002年の「アラブ和平イニシアチブ」の黒幕だっだ。

それはヨルダン川西岸、ガザ、東エルサレムを領土とする「パレスチナ国家」の承認と引き換えに、イスラエルに完全な平和と平常化を約束するものだった。

イラクでのフセイン政権の崩壊とシリア戦争は、アラブ連盟の指導体制を変えた。盟主の地位はサウジアラビアの手に委ねた。

現ナマ外交政策

サウジアラビアは、現ナマ外交で周辺国の元首や首相を買収した。レバノンの大統領はサウジアラビア政府から500万ドルを受け取り、首相(スンニ派)は2千万ドルを受け取った。

ラマラのパレスチナ自治政府は資金提供の見返りに、米国が組織した「和平プロセス」への果てしない献身を続けている。 

1970年のプロセス開始から何十年が経過し、パレスチナ自治政府は、政治的破産の段階に達した。

9月11日以降、サウジアラビア王国は米国議会の怒りを避けるためにさまざまな妥協を行った。

「宗教の対話」の名のもとにイスラエルとの会談を行うなど、前例のない措置を開始した。

MbSの影響

サルマン皇太子が実権を握るようになって以来、イスラエルとのアラブの「正常化」の波は加速しつつある。

それは権力の全面掌握に向けた最終段階を控え、より鮮明に米国・イスラエル関係の方向を示すことである。

すでに正常化したバーレーンとアラブ首長国連邦、正常化に近づいたスーダンとオマーンは、サウジアラビアの事前の許可なしにその一歩を踏み出すことはない。

言い換えれば、サルマンはすでに実質的にイスラエルと正常化していますが、形式上は、いまだ代理人を通じての正常化にとどまっている。


サウジ、変更された論調

サウジのメディアは、イスラエルとの関係正常化を祝った。そして正常化の利点について書き上げた。

サウジメディアの古い反ユダヤ主義のレトリックは、反パレスチナの論調に取って代わった。また、イスラエルの占領に反対し、武力抵抗を続けるアラブ人への攻撃に置き換えられた。

ウォールストリートジャーナルは、サルマンがメディアに命令し、政府の発表を好意的に扱うように指示したと報じた。

私はサウジアラビアのメディア内の情報源から、「正規化」という言葉をやめて「平和」という言葉に置き換えるよう命令が出ていることを知った。
そして彼らが迅速にその変更指示を実施したことを知った。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙はまた、まだいくつかの欧米のメディア上でサルマンの人物像が揺れていることをサルマンが利用していると書いた。

彼はしばしばWSJとブルームバーグを使用して観測気球を掲げる。

サルマンはこの記事で、彼自身が親欧的で平和的な人物で、反イスラエルで保守的な父親とケンカしてまで、イスラエルに接近しようとしているとの印象を与えようとした。


ジャマル・カショギ

サルマンが何よりも望んでいるのは、ジャマル・カショギ殺害について国際的な許しを得ることだ。

欧米のメディアの多くはその犯罪を忘れたようだが、ワシントンポストは元同紙のコラムニストに代わって、相変わらず容赦ないキャンペーンを行っている。

一方で、ポストは、サウジアラビア、イエメンで、あるいは内部の人々に対するサウジ政権の犯罪には興味がないように見える。

サルマンは再びヨーロッパと米国を訪問できるようになりたいと考えている。
彼はイスラエルとの平和実現が、西側政府とメディアの間で称賛されることを十分に承知いる。

イスラエルとの和平が彼の残忍な抑圧をなんとか消し去ったならば、確かにサルマンは平和条約の見返りにカショギ殺害について許しを実現できるだろう。

サルマンは莫大な対価を望んでいる。彼はおそらく王位への昇進について、アメリカの承認をもらおうと思っている。

この取引はサルマンの王位を確定し、トランプの偉大な「成果」を実現する。 

サルマンはバイデンについて少し心配しているかもしれない。しかし彼は、これまですべての民主党大統領が共和党大統領と同じように湾岸専制君主を支持してきたことを知っている。 

トランプは選挙に向けて湾岸の専制君主の支持を獲得した。しかし彼らはバイデンよりも彼を好むかもしれないが、それほど肩入れしているわけではない。 

サルマンは、トランプの義理の息子であるクシュナーが大好きで、通常の外交ルートより彼と取引する方を好む。

しかし、それらの国とイズラエルとの平和条約は、結局、専制君主の支配がどれほど永続きするかという問題でしかない。

エジプトも米国も、現在のイスラエルとアラブとの関係を維持するために、これらの専制君主の支配を維持しなければならない。

キャンプ・デービッド合意の後、米国はエジプトへ投資を続けてきたが、それはエジプト人の生活に悲惨と抑圧をもたらしただけだった。しかしテルアビブには十分な満足をもたらした。

湾岸諸国の人々にとっては、「関係正常化」は、イスラエルの支持と専制政治に対する米国の支持を勝ち取っただっけのことなのかも知れない。