日中間の外交関係は、尖閣諸島をはじめ、複雑な懸案を抱えています。
11月末に、「ミスター6ヵ国協議」と呼ばれる王毅外交部長(外相に相当)が訪日し、首相・外相などとの一連の会議が持たれたようです。
日本側は慎重な構えを崩さず、目立った進展はなかったように見えますが、「日中両国が、ともに責任ある大国として、こうした国際社会の諸課題に取り組んで貢献していく」という確認がなされたのは、希望を抱かせるものです。

会談後に発表された「王毅メモ」により、尖閣問題にも解決の糸口が見えてきそうな雰囲気が生まれてきました。そこで編集部で動きをまとめてみました。


Ⅰ.王毅外交部長の訪日の意味

26日、菅義偉首相は訪日中の王毅外交部長の表敬訪問を受けた。日中両国が、ともに責任ある大国として、こうした国際社会の諸課題に取り組んで貢献していくことを確認した。

一連の会談後、王毅外交部長は次のようなメモを発表した。(中国大使館HPより)

「王毅メモ」があげた「六つの具体的成果」のうち関連部分は5項と6項である
5、来月、新たな中日高級事務レベル海洋協議を行い、両国外交主管部門と海上法執行部門間の意思疎通と交流を強化する。
6、年内に両国防衛部門海空連絡メカニズムのホットライン開設を目指し、リスク管理コントロールを一段と強化し、安全保障面の相互信頼を増進する。
上記ニュースに関して、会員の間からいくつかの感想が出されています。

A 尖閣海域での危機管理と漁業問題についても議論がなされたと聞いています。日本のマスコミではほとんど流れてませんが、そこはちゃんとやっているなと思いました。
やはり両国が会わないのではなく、会えばそれだけでも「まし」にはなります。

B たしかに一般報道の論調だと、日本国内の反中国ナショナリズム的な雰囲気と共鳴してしまいそうで、危ないですね。

C 尖閣問題の一連の流れのきっかけは、日中漁業協定を菅直人政権が一方的に放棄したことです。それが、この海域での漁船操業を難しくした側面も無視できません。
そのことは日中友好協会も尖閣問題のブックレットで主張しています。


1.「原状復帰」への道(ブックレットから)

日中漁業協定が97年に調印され、両国の批准を経て2000年に発効している。両国の漁船操業については、この協定が国内法に対し優先する。

この協定では、当該海域は「暫定措置水域」とみなされ、「既存の漁業秩序を守る」ことが約定されている。

これは ①双方が自国の漁船を取り締まる、②相手国漁船に対しては外交ルートで注意喚起する ことを意味する。

尖閣諸島週域の漁船操業問題については、まず日中漁業協定の合意に立ち戻ることが出発点となる。その上で、97年漁業協定の線上に、王毅メモの第5,第6合意の方向での解決が見えてくる。


2.南沙問題解決の方向性

南沙問題は尖閣問題よりはるかに厄介です。

最大の理由は、第一に、利害関係者の間に歴史的経過をふくめて根深い考えの違いが横たわっていることです。第二に、この違いを平和的に解決していこうという気風が、必ずしも生まれているとは言い難いことです。

論理的には国際仲裁法廷の裁定が出発点となるのでしょうが、実際に問題を解決していくための糸口になるか、この点はこれまでの経過から見て少々疑問です。

そこで、日本AALAの国際部員で中国問題専門家の大西広先生は、中国の「共通の庭」提案に注目しています。これは裁定への対応で、「基地化は完了したから、これ以上はやらないよ」という意思表示と考えられます。この原則は王毅外相にも支持されているようです。

「共通の庭」論は2016年8月、中国南海研究院院長の呉士存氏によって提唱されました。肩書きは学者みたいですが、フィリピン大統領特使との会談でこの提案を行った人です。日本でいうと竹中風のヤバい人です。

南シナ海の海域の先住民は「マレー・ポリネシア系住民」です。かれらはボルネオやフィリピンに住むだけでなく、ベトナムや中国にも少数民族として住んでいます。

南シナ海は、このような「マレー・ポリネシア系住民」全体のものであるとすべきだ、というのが「共通の庭」論の骨子のようです。

呉士存はこうした理念に基づき、運命共同体的紐帯のもとに新たな関係を構築していこうと提案しています。そのためには「中国の側も抑制が必要」とまで踏み込んでいます。

複数国の思惑が絡むだけに一筋縄で行く話ではありませんが、ACEAN主導のRCEP成立などを見ると、ASEAN側にも南シナ海問題を踏み絵にはしないという合意が形成されているようです。