1.何でもウィルス説のおとしあな

日経新聞土曜版の科学面にウィルス学の進歩に関する連載が掲載されている。
先週は、気候変動に及ぼすウィルスの影響が取り上げられていた。

当然ウィルス屋さんに取材して書くわけだから、ほっとけば「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのも」みんなウィルスのせいということになる。

そこは取材する側の節度がもとめられることになるのだが、確認しておきたいのはウィルスは生命の起源に位置するものではないということだ。

生命の規定としては内と外、物質代謝、世代交代が必要である。だからそのためのアイテムとしての膜、蛋白・酵素、核酸が必須アイテムとなる。

これらの本質的な生命の要素をウィルスは備えていない。だからウィルスは本質的に寄生的であり、他の生命を前提としている。

したがって、それは何らかの生物から脱落した核酸を主体とする、不完全な「生命」ということになる。

これを前提に話を進めていく。


2.ウィルスの起源

ウィルス論というのは、本質的にウィルスの起源論である。しかし探したら、これが意外とない。ウィキペディアの「ウィルス」の項目では起源問題は触れられていない。
獣医学会のホームページに「人獣共通感染症 連続講座」の一つとして「ウイルスと現代社会」という講義が掲載されている。


この書き出しが面白い
ウイルスがどのようにして生まれたか、その起源については、1940年代にバーネットが3つの仮説を提唱しています。
その後、議論はほとんどなく、1994年にモースがバーネット説について、あらためて詳細な解説を加えています。
ということで、「ウイルスの起源」については50年以上もまともな議論はされてこなかったということにる。今日の日進月歩の科学の発達の中できわめて珍しいことではないだろうか。

そこで3つの仮説だが
① 微生物(たとえば細菌)が退化
② RNAワールドの遺物
③ 細胞の遺伝遺伝子(の一部)が飛び出したもの

ということで、最初は①が有力視されたが、最近はほぼ否定されている。②は面白いが「RNAワールド」そのものが仮説の世界なので、なかなか通説にするにはハードルが高い。消去法で行くと③が有力ということになる。

いずれにしてもすべて仮説であり、結局の所「なにも分かっっちゃいない」ということになる。

これは稿を改める。


3.ウィルス進化説、またはウィルス=ロスチャイルド説

ウイルスが遺伝子を運び、生物を進化させたという仮説がある。これをウィルス進化説という。これを拡大解釈していくと最初に言った「郵便ポストが赤いのも」論になっていくので、他の問題をいろいろ片付けてから「応用問題」として取り組む必要があるだろう。

一応ウィキで概要だけあたっておく。

細胞核ウイルス起源説(viral eukaryogenesis): 2001年にベルにより提唱され、日本でも東京理科大学の武村が主張している。

一言でいうと、DNAウイルスの祖先が古細菌に感染した結果、両者が統合共生するようになり、真核生物の細胞核となったというもの。

だがこの議論はウィルスがなんなのか、どのように発生したのかという、肝心の問題をスルーしているから、いまのところは「お話」である。

なお武村は、「ウイルスだけが生物を進化させたわけでは決してなく、生物が多様な発展を遂げてきた仕組みのごく一部に、ウイルスによる影響があったというにすぎない」と強調している。


4.RNAワールド論についての感想

素人がいうのもなんだが、私はRNAワールド論にはきわめて懐疑的である。

まず第一に核酸が先か蛋白(酵素)が先かというのはタマゴとにわとりの議論であり、少なくとも「タマゴが先」論はありえない。ミラーの実験から見て、「タマゴがなくても子は育つ」ことについては決着済みである。

第二に私は染色体という言葉が嫌いだが、これは有性生殖に伴うシーンなのであって、三種の核酸(RNA)の本来の仕事は、自己複製と蛋白の生成という機能である。DNAはRNA機能のバックアップ媒体であり、DNAによる種の保存というのは核酸に付与された後づけ機能である。
そして自己複製機能の中心はRNAにあるのではなく、リボゾームというカードリーダー付きのアミノ酸チェーン製造機にあるのだ。