2020年 バッタの大発生

これは1ヶ月ほど前の日経新聞。コロナ禍の状況について書かれた記事の一節である。

18年にアラビア半島南部で発生したサバクトビバッタが海を渡り世代交代を繰り返しながら20カ国以上に広がり続けている。
ケニアでは過去70年で最悪の事態になった。パキスタンは非常事態を宣言した。6月にはインドにも襲来し、ニューデリー郊外まで迫った。
中央アジアや南米でも別の群れが発生した。
国連食糧農業機関(FAO)は、東アフリカだけで2千万人が食糧危機にさらされるだろうと予測する。

ところが、最近は一向にバッタのニュースを聞かない。どうなったのだろうか。

日経の少し前の記事から、順を追ってみよう。

最初は2月4日、カイロの特派員の署名記事。

アフリカ東部で大量のバッタが発生した。1月以降、エチオピアやソマリアで大量発生し、隣接するケニアにも広がった。

現地では農薬を散布しているが、追いついていない。エチオピアでは大群が空を覆い、旅客機が緊急着陸を余儀なくされた。

1月30日、国連食糧農業機関(FAO)は過去70年で最悪の被害となり、1200万人ほどが食糧危機の状態にあると指摘した。

バッタの凄さ:
バッタは自らの体重分の農作物や牧草を毎日消費する。食料確保のため、1億匹ほどの大群が1平方キロにひろがり、約150キロメートルを移動する。
この群れは1日で3万5千人分の食料を食べ尽くす。

大発生の原因:
インド洋西部の海水温度の上昇が、東アフリカの温暖化をもたらし、バッタの大量発生を招いたとされる。
これは「インド洋ダイポールモード現象」と呼ばれる。

農業被害の重大性:
ケニア、エチオピアなど東アフリカの最近の経済成長は3%台が続いてきた。
いずれも農業生産がGDPの3,4割を占める農業国である。農産物は主要な輸出品となっており、減産の影響は各方面に及ぶ可能性がある。

次が3月3日の記事で、こちらはニューデリーの特派員の報告
カイロからの初報よりは格段に詳細である。
見出しは
バッタ大量発生、農作物の被害拡大
アフリカ東部から南西アジアへ波及

まず被害の現状:
ケニアでは1000億~2000億匹のバッタが約2400平方キロメートルの範囲で農作物を襲っている。バッタはタンザニアや南スーダンにも飛来。
東アフリカ全体で約1200万人が食糧危機に陥っている。

インド・パキスタンにおける大発生の予感:
FAOによると、パキスタンとインドの国境に近い地域では2019年8月ごろからバッタの大群が飛来した。そのうち100億匹ほどが現在もとどまり大発生のチャンスをうかがっている。
6月までにバッタの数が500倍に増える恐れがある

大発生の要因:
気象要因としては、東アフリカの温暖化のみならず、砂漠地帯への多雨の影響があるとしている。
これにより繁殖環境が整えられ、繁殖期間が長くなった事が上げられる。

3月13日には、日経と連携するナショナル・ジオグラフィックの科学的解説記事が掲載されている。これは2020年2月25日付のナショナル ジオグラフィック ニュース に載せられた記事の翻訳である。

バッタ大発生の気象学的要因

今年大発生したバッタは、正式にはサバクトビバッタという。乾燥した地域に生息していて、大雨が降って植物が繁茂すると大発生する。

海面温度の上昇は嵐のエネルギーを高め、サイクロンの発生頻度を増やす。

東アフリカとアラビア半島では、過去2年間でサイクロンに複数回見舞われるなど、異常に雨の多い天気が続いた。これが引き金となっているのであろう。

これらの台風の犯人が「インド洋ダイポールモード現象」といわれ、インド洋の東西で海水温の差が生じる現象である。早い話が大平洋におけるエル・ニーニョとラ・ニーニャのインド洋版だと思えばよい。オーストラリア東部の森林火災とも関連する。

バッタ大発生をもたらしたいくつかの偶然

大量発生のきっかけは2018年5月のサイクロン「メクヌ」だった。これがアラビア半島南部のルブアルハリ砂漠に雨を降らせ、砂丘の間に多くの一時的な湖が出現した。ここで最初の大発生が起きた。

サバクトビバッタの寿命は約3カ月で、その間に繁殖する。繁殖の条件がよければ、次の世代のバッタは20倍にも増える。

2018年のサイクロンによって、生息するバッタはざっと8000倍に増えた。

その後アラビアで再砂漠化が進むと、バッタの群れは移動を始めた。2019年の夏までに、それは紅海を飛び越えてエチオピアとソマリアに渡った。

そこにもう一つの不運が重なった。2019年10月に東アフリカの広い範囲で激しい雨が降り、季節外れのサイクロンが上陸したのだ。

またバッタの上陸地点となったイエメンとソマリアでは駆虫剤を散布するだけのお金がなく、バッタの為すがままとなった。

破竹の進撃
図を転載しようと思ったが、著作権を侵害しそうなのでリンク先のみ掲げておく。とても良い図です。


バッタの群れは繁殖を続けながら南に向かった。2020年の1月にはケニアで過去70年で最悪の規模の蝗害が発生した。

ジブチとエリトリアでも蝗害が始まり、2月9日にはウガンダ北東部とタンザニア北部にバッタが到達した。

今後の対策

FAOが国際社会に対し、蝗害に苦しむ5カ国のバッタの駆除と農民・牧畜民の援助のために7600万ドル(約85億円)の緊急支援を呼びかけた。

その後の日経記事はほとんど会員限定記事で読めない。

6月5日にはふたたびナショナル・ジオグラフィックの記事「コロナと同じ深刻さ バッタ禍の第2波が招く食糧危機」

FAOによれば、エチオピア、ケニア、ソマリア、ジブチ、エリトリアの約1300万人がすでに「深刻な食料不安」に陥っているという。深刻な食料不安とは、丸1日何も食べられないか、食料ゼロの状況のことだ。

後はバッタの駆除がいかに難しいかの話。要は高速かつ長距離の移動を行うこと、不安定な風向き次第で常に行先を変えることである。


6月29日はインド発の記事

バッタ大群が、パキスタンと国境を接する西部ラジャスタン州から入り、インド首都郊外にせまる。
地元テレビは、大量のバッタが高層マンションの壁面に張り付き、大群の襲来で空が薄暗くなったと伝えた。

バッタの群れは、27日には首都ニューデリー郊外に到達し、なおも近隣の州へと移動を続けている。


7月6日の「日経ビジネス」

西アフリカのモーリタニアなどでサバクトビバッタの研究を行う国際農林水産業研究センター研究員の前野浩太郎氏へのインタビューとなっている。

冒頭部分だけ読める。

バッタは普段はおとなしい「孤独相」という状態にあります。それが、大量に発生して他の個体とぶつかり合うなどして刺激を受けると、活発に行動する「群生相」という状態に変化し、大群となって各地に農業被害をもたらすのです。

この後記事はピタッと止まる。

9月2日付日経新聞 「世界で害虫被害多発、穀物相場の火種」といかにも日経らしい見出し

国連食糧農業機関(FAO)によれば、4200万人が食糧危機に直面する。南米や中国でも別のバッタが大量発生。中国ではガの被害も懸念される。

その後は読めず。この記事を最後に日経の紙面からバッタの話はバタッと途切れる。

ネットで見つけた最近の記事はなんとスプートニク

10月21日付の記事で「エチオピアで四半世紀ぶりの蝗害 深刻な食糧危機に

エチオピアでは今年1月以降、推定20万ヘクタールの耕地が被害を受けた。この蝗害は過去25年間で最悪のもの。

世界銀行は、バッタの襲来は今年、アフリカ東部やイエメンに85億ドルの損害を与えると予想している。