図書館でなんのつもりか短歌の書棚に立ち止まってしまった。
「北二十二条西七丁目」(田村元)という歌集があって、何気なしに手にとってパラパラとめくって、いったん書棚に戻しそのまま行き過ぎたのが、なぜか後ろ髪ひかれる。
結局、借り出して読む羽目になった。
奥付を見ると、77年群馬の生まれ、北大で学生生活を送ったあと、東京で就職。そのままサラリーマン生活を送っているようだ。
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表紙の色さながらに薄雪模様のさらりとした歌風だが、その範囲内で、年齢とともにしみじみ感がにじみ出てきて、味わい深いものがある。

一度通読して、今度は後ろから読んでいくと、これが意外に趣が深い。

いくつかお気に入りをあげておく

しづもれる 空気がありて
昭和へと つながってゐる
乾物売り場

鎌倉で 飲もうよと
妻にメールして
「了解」とのみ 返信を受く

行ったことがないのに
とても懐かしい
友がふるさとと 呼んでゐる町

旧姓を
木の芽の中に置いて来て
きみは小さくうなづいてゐた

春の雨 われを包んで
われをややはみ出しそうなものを
ゆるして

たむらくん
根暗だよねといふことば
轍のように思ひ出します

こんなにも 冬の日差しが明るくて
寂しさの底に
ふるさとはあり

われのみが 「少し太った」
それ以外
変はらぬままの同期三人

この街のどこか
まばらに梅の咲く
登り詰めたき坂道がある

「あってはならない」こと
あまたある世の中に
酒があってもよくて良かった

帰り来て靴を脱ぐとき
ドアノブに立て掛けておく
ななめな気持ち

「上げない」ことにした案件が
消しゴムの角で
小さく丸まってをり

雨を見て 雨の向かうの東京は
見て見ぬふりをして
シャツを取り込む

彼が下宿したのが北22西7で、私はその30年前に北20西6に下宿していた。

そして彼は学問と彼女に未練を残しつつ、「平地に糧を得るもの」となった。
一時はかなり鬱々とした時を過ごしたらしいが、伴侶を得て穏やかさがめぐってきたようだ。