Astro Arts というサイトに


という記事があった。

何やらさっぱり分からない。
せめてどういう言葉なのかということだけはおぼろげに掴んでおこう。

電子反跳と呼ばれる現象があるのだそうだ。

それだけなら普通にある現象らしいのだが、ダークマターの検出実験中に予想以上に出たということが話題になっている、らしいのだ。

「へえー、そう」というだけなのだが、それをうまく説明しようとすると、アクシオンという未知の素粒子を前提にしなければならない、らしいのだ。

ここまでまったく意味はわからないが、これから始まる説明で、多少は背景がわかるかも知れないようだ。



1.ダークマター(暗黒物質)

まずはダークマターの話から。

ダークマターはふたつの性質を持っている。

一つは物質だから当然、質量を持っている。したがって他者に対して重力を及ぼす。

もう一つは、光(電磁波)を発しないこと。したがって見えない。すなわち光学観測では見つからない。

これだけ聞くとあまりにも分かりやすく、ダークというのは暗黒というより暗闇の中という意味ではないかと思えてしまう。

「暗くて見えないんだったら、電気つけりゃいいじゃん」ということになる。

しかし話はそんなにかんたんなことではなさそうだ。

2.ダークマターは素粒子である

ダークマターは素粒子である。それは私たちの知る物質がすべて究極的には素粒子であるのと同じである。

しかし素粒子物理学の「標準模型」には出てこない。すなわち「未知の素粒子」である。

なぜ未知なのか。なぜなら観測不能だからだ。

なぜ観測不能なのに、分かるのか。何か、論理が堂々めぐりしているようだ。


3.ダークマターはどこにあるのか

説明にはこう書いてある。
ダークマターは原子や電子などの「普通の物質」より5倍も多く存在する。それは宇宙の全エネルギーの約1/4を占める。
我々の知っている宇宙の5倍がダークマターで埋め尽くされているのだ。

下の図を見ると、素粒子のうち目下人類が確認可能なものは5%に過ぎず、残りはダークマターとダークエネルギーが占めているということになる。
アクシオン

4.ダークマターを検出する

世界でダークマターを検出しようとする実験が行われている。

その一つがイタリアのグランサッソ国立研究所で用いられている「XENON1T」だ。
ダークマターは普通の物質とほとんどぶつからずに通り抜けてしまうが、ごくまれにキセノンの原子にダークマター粒子が衝突する。

そうするとキセノン原子は大きなエネルギーを得て、蛍光を発したり、電子を放出したりすると考えられる。

キセノンを収納した容器の周囲に蛍光や遊離電子を捉える装置を置けば、これを捉えることができるはずだ。
というのが実験の趣旨。

なにか聞いたことがある。これはニュートリノの観測と同じ理屈=“待てばうさぎが跳んできて、ころり転がる木の根っこ”という「待ちぼうけ理論」のようだ。

5.電子反跳と原子核反跳

さぁここからがお立ち会い。第二の主役、「電子反跳」のご登場だ。

キセノンの原子にダークマター粒子が衝突するとき、核にぶつかる場合と周囲を回る電子にぶつかる場合がある。これを反跳という。

しかし今のところ原子核反跳は見つかっていない。

それに対して電子反跳は非常に多いのだが、実はそのほとんどは装置自体に含まれる放射性物質やキセノン中の不純物に由来する「雑音」である。

6.キセノン実験で見つかった原因不明の電子反跳

実験チームではこのすべての電子反跳を数えてみた。すると、既知のノイズ源から予想される発生数を上回る電子反跳が観測されていることがわかった。

その過剰エネルギーの発生源としていくつかが考えられている。その中の一つが
「アクシオン」と呼ばれる未知の素粒子がキセノンの電子にぶつかった。
というものである。

つまり、もしこの「アクシオン仮説」が正しければ、そしてこのアクシオンがダークマター由来のものであるとすれば、人類はダークマターの観察に成功したということになるのだ。

ここからが話しのややこしいところなのだが、結論として「過剰エネルギー=ダークマター由来」仮説は否定されたらしい。つまり話はこれでおしまいなのだ。

下世話な話でいうと、話がおしまいということは、実験は失敗に終わり、その意義は否定され、予算は凍結され、計画は廃棄されるということだ。


7.アクシオンとはなにか

そこでチームのスタッフは「転んでもただでは起きないぞ」と懸命に考えた。

話は2段階ある。一つは過剰な電子反跳を生み出したエネルギー=物質がダークマター由来ということだが、これは否定された。しかし過剰なエネルギーを生み出したものは確かにある。それが何かということだ。そこで考え出されたのが「太陽アクシオン」仮説だ。

そもそも「アクシオン仮説」は、クォークの間に働く「強い力」に関する仮説だ。

素粒子の標準模型と、実験結果の間には食い違いがある。

逆にいうと、「予想外に多い電子反跳」を生み出した犯人がいるとすると、話がうまく説明できるのだ。

そのためには、質量が数keVの素粒子が太陽の内部でたえず作られていると考えると、都合が良いらしい。その太陽アクシオンという素粒子がはるばる地球にやってきて、キセノンの電子に衝突したと考えると話の辻褄が合う。

この素粒子がアクシオンである。その大きさは陽子の百万分の1程度と推定される。


と、ここまでがアクシオンとダークマターをめぐる最近のトピックスである。




つまり「さてこそダークマターのご登場!」と意気込んだものの、どうも別物らしいと分かってちょっと落胆気味だった。

しかしダークマターではないにせよ、新たな素粒子が見つかったことには違いないわけで、あらためてアクシオンの研究が進みはじめた。

それが23日の日経新聞に載った「宇宙の謎解明 粒子を発見?」というちょっと情けない見出しの記事。副題も「暗黒物質観測中に謎の信号」というもので、上の解説を読まないと多分誰もわからないだろうと思う。

ただしゼノン計画の紹介記事は、どの報道を見てもなにか胡散臭いのだ。大げさなばかりで、内容がない。肝心なことは「新たな素粒子の発見!」ということなのだから、これまでの素粒子モデルを紹介した上で、どこがノイエスなのかを主張すべきだが、記事のほとんどはダークマターの解説と、「ぜノン計画がいかに素晴らしいか」の宣伝ばかりだ。

記事のテーマは別のプロジェクトの研究中に、新種の素粒子らしきものが見つかったということだ

しかし自然界のトリチウムが干渉した可能性、ニュートリノの未知の性質に由来するものという可能性は否定できない。

そうならばただのコンタミネーションに過ぎない。新たな素粒子の発見というからには、それなりに、しっかりした説得力のある根拠を示すのが筋というものだろう。

9月5日 文章修正