G614 の話

ちょっと長い前置き

実はロシアから帰ってくるに当たり、イタリアでの新型コロナが恐ろしく毒性が強くてバタバタと死んでいる、という話でかなりスリルを感じたことを覚えている。
ブログにも、イタリアコロナは武漢コロナとはレベルが違う、中東からヨーロッパに渡る間になにか突然変異したのではないかと書いた。

ただその頃はウィルスの強弱ではなく環境因子のほうがはるかに大きいと言われ、イタリアの状況を聞いているとそれで納得したところもあった。

しかし今になって統計的に観察してみると、やはりアジアとヨーロッパではケタが違うとしか思えない。

たとえは悪いが包丁を振り回す通り魔と、榴弾砲やカラシニコフであっという間に数百人をなぎ倒すテロリストの違いみたいなものだ。

この印象の違いは米国の両岸を見ると鮮明になった。

同じ国で生活水準や医療にさほどの差があるとも思えないが、東海岸の新型コロナの凶悪さは別格である。

そこに持ってきて学会で突然変異の可能性の話が出てきたから、気になる。

おそらく数ヶ月の間にアジア型亜種はヨーロッパ型亜種により淘汰されるだろう。

秋以降に第二波が来るとすれば、それはヨーロッパ型になるのではないかと気になる。

そのためにはヨーロッパ型コロナのウィルス学的特徴を踏まえておく必要があるのではないか。

と、ここまでが長めの前置き

G614 変異の新型コロナ

4月末、世界最大の非営利生物医療研究機関、フロリダ州のスクリプス研究所は、細胞の受容体ACE2に結合するスパイクS蛋白質の2箇所のアミノ酸が変化していることを発見した。

それはひとつは、S1サブユニットの結合ドメインであり、もう一つはS2サブユニットの境界にあるN-末端から614番目のアミノ酸である。

この2箇所は、感染当初(2020年1月)はアスパラギン酸(D614)だったが、時間が経つにつれて次第にグリシン(G614)に変化していった。

突然変異(D614→G)の割合は、2020年1月、2月には見られなかったが、3月に(26%)、4月(65%)、5月(70%)と次第にG614の割合が増加していた。

3月以前は中国も含めてアジアとアメリカで殆どがD614型だが、イタリアではすでにG614が優勢だった。

それが3月以降は中国とシンガポールを除き、ほとんどがG614に変化している。日本でも3月以降はほとんどがG614型である。

D614とG614の毒性を比較するために、マウスの白血病ウイルスにD614と突然変異型G614を入れた偽ウイルスを作った。

これをヒト胚性腎細胞に感染させ、感染率を観察した。突然変異型G614のスパイクを持つウイルスの感染率はD614に比し感染率は9倍であった。同様の結果はインド各地での感染ウイルスのスパイク蛋白質の分析からも示されている。

ただし日本でも、すでに3月にはG614への変換は終了しているにもかかわらず、欧米のような爆発的な感染拡大は見られない。

日本での感染者数の少なさは、必ずしもG614からだけでは説明しきれないかもしれない。