ニール・ゴードン・マンロー 「アイヌの信仰と宗教儀式」(英文)

目次

序文 B.Z.SELIGMAN

解題 H.WATANABE

上記2論文は、稿を改めて抄訳を記載する。

I. 基本概念
Ⅱ. カムイ
III.イナウ
IV . Effigies
V .Hearth and  Home
VI . House-building  rites
VII . The  House-warming  Ceremony (Chisei  Nomi )
VIII 。 The  Feast  of  all  souls  or  Falling tears
 (Shinurapa )
IX 。 Exorcism (Uepotara)
X .Various  rites
XI . Death  and  Burial
XII . Social  organization この章は SELIGMAN による



以下本文

I.基本概念

アイヌの宗教に特微的な基本概念は次の3つである。
すなわち、ramat, kamui, inau である。

ramat は人々の魂である。kamui は神々である。inau は神への捧げものである。それはカムイに提供され、彼ら自身もラマトとしての性格を持つ。

これらの8つのカムイを超えて至高のカムイが存在する。それは天空と関連するカムイである。アイヌは彼らをPase-Kamui と呼んでいる。

天空と関連するパセ・カムイの長はKando-koro Kamui, すなわち“天の所有者”と呼ばれる。
しかしKando-koro Kamuiは唯一神ではなく、Pase-Kamui の中の一員に過ぎない。

Ⅱ. カムイ

kamui は次の8つに分類される。
 (1) 存在の遠い,伝統的なkamui
 (2) 身近な信頼しうるkamui
 (3) 従属的なkamui
 (4) 獣の姿をしたkamui
 (5) spirit を助けるkamui と個人的なkamui
 (6)有害な,悪意のあるkamui
 (7 )流行病のkamui
 (8 )言うに言われぬほど恐しいもの。

第Ⅰ章では(1)遠くに存在する至高のパセカムイについて論じた。

第Ⅱ章ではそれ以外のカムイについて論じる。それらは一族の祭るカムイであったり、獣に化身したカムイであったりする。いたずら好きで悪さをするカムイ。お守り、アイコン的なカムイ。さらには疫病神のカムイまでいる。貧乏神がいないのは貧富のない社会だったからだろうか。

これらのカムイを生き生きと紹介するマンローは、鬼太郎らを紹介する水木しげるのような趣きがある。

III.イナウ

第三章ではイナウについて論じる。
イナウは超人間的力を持ち, 人間とカムイとの間の媒介者となる。

イナウにはさまざまなタイプがある。マンローはイナウを形態別に分類し,説明している。
イナウに彫刻されたekashi 、itokpa ,ikubashui などの「印」について述べている。また,戸外でのイナウの正しい並べ方も説明している。

Ⅳ. 木偶(EFFIGIES)

形態は大体inau に似ているが、カムイ を表した像とされる。シュトゥ・イナウカムイと呼ばれ別扱いで尊重される。

Ⅴ. 囲炉裏と家

礼拝の場所としての家,屋根,絶対に汚すことの許されない炉,席順,器物の配置,宝物,pu、便所について記述される。

風水みたいなものでしょうか。

VI.  家を新築するときのみそぎ

「家を暖める儀式」(エピル)と言われ囲炉裏にくべる新しい火を作る。 日本では上棟式に当たるのか。
聖なる醸し酒が醸造され、パーセ・カムイに捧げられた後、客に振る舞われる。聖なる醸し酒の重要性が強調されるいっぽう、酒を飲むときのエチケットが述べられる。むかしからアイヌには酒癖の悪いのがいたのだろう。

VII. 上棟式の続き (CHISEI NOMI)

悪霊を追い払うために屋根に矢が放たれる。

世帯主が賓客と儀式的交礼を交わした後、家の神聖な窓が開けられ、窓の外のカムイへの祈りが捧げられる。

VIII. すべての魂の饗宴(シヌラパ)

ここから饗宴が最高潮に入る。ここでの主役は女性である。女性は戸外に出て、東窓の外の広場に集まり、ヌサと戸口の霊への挨拶を行う。
先祖の霊への呼びかけを女性が行い、女性によるダンスが始まる。このとき戸外に儀式用の座席がしつらえられる。(実はこのへんから私の役は怪しげである。雰囲気だけ味わっていただきたい)

IX. 厄祓い (UEPOTARA)

厄払いには多くの種類があり、目的ごとに方法はことなる。ほとんど私の力では翻訳不能。

X. さまざまな儀式

厄払いだけでなく狩猟や漁業などの幸運を祈る儀式もある。これも詳細は省略する。

XI. 死と葬儀

死と葬儀はさまざまな哲学を内にふくむだけに、多様かつ複雑である。死後の世界も善人と悪人では異なってくるので、交通整理が必要である。とりあえず葬式の次第のみ箇条書しておく。
  体からラマトの別離と出発。死体の処理。
親族の順序・主な会葬者。
別れの挨拶。お悔やみ。
葬儀での行動・葬式の食べ物
埋葬の準備。埋葬儀式。墓柱の儀式。
妊婦の死体の儀式。
水とブラッシングによる会葬者の浄化。  
などなど
マンローは葬儀屋の社長のごとく書き連ねる。


XII. 社会組織の編成

第Ⅻ章はマンローの英国における庇護者であったC.G.Seligmanの未亡人B.Z.Seligman(彼女自身も民俗学者)が、手紙や遺稿を編集しながら自説を構築したもの。母系社会と父系社会の混交した様式が見られるとしている。