12時間 眠るの記

起きてすでに1時間半、頭は依然ボーっとしてる。ボーっとしているというのは、頭の中にボーっという音が流れていることだ。

理由はおそらくリリカのせいだ。


おばさんを30時間も寝かせるの記

むかし30年も前、訴えが多く興奮気味の初老のおばさんを入院させたことがある。

とりあえず、トリプタノール10ミリを飲ませて寝かせつけたのだが、これが寝ること寝ること、24時間立っても目が覚めない。

流石に心配になって精神科の医師に相談したが、「バイタルが安定しているなら、そのまま、起きるまで寝かせときなさい」というつれない返事。
おかげでその日は病院泊まりで様子を見るハメになった。

夜の10時ころ、ナースから「目が覚めました」との連絡。急いで駆けつける。

延々30時間、ひたすら寝続けたことになる。尿失禁なし。まだ寝ぼけてはいるが、外来を受診したときとはうって変わって落ち着いた症状。

ただ話を聞くとどこか変だ。入院する前、あれだけ喋り続け訴え続けていたのが、借りてきた猫さながらにニコニコと、すっかりおとなしくなっている。

記憶もなくなっているわけではないが曖昧だ。とくに激しく訴えていた行動そのものに対する記憶が曖昧だ。

結局、そのおばさんはそのまま落ち着いた状態に戻り、現状を受容しそのまま退院となった。その後の外来での精査も異常なく、トリプタノールも使うことなく経過した。

原因は爺さんの金遣いが荒くなり、家計に支障をきたしたことだったと記憶している。それ以上の詮索はしなかった。

トリプタノールについて

トリプタノールというくすりは、難しくいうと三環系の抗うつ剤で、うつ病ないしうつ状態に使うくすりである。いまだに現役ではあるが、古典的なくすりで、副作用もふくめ究明され尽くしたくすりである。

ただ、私が勉強し尽くしたかと言われると、かなり心もとないところもある。

ただこれは睡眠薬ではなく、普通に使っても人によって多少眠くなる程度のものだ。

私はこのときの結果から、睡眠に入るにはいくつかのかぎ穴があるのだなと思うようになった。ベンザリンやレンドルミンのようないわゆる睡眠薬は、万人に効く睡眠薬であるが、人間には個別に秘密のかぎ穴があって、トリプタノールが選択的にすごく効いてしまうような受容体があるのだろうということである。

「トリプタノール受容体の活性化」仮説

これから先はただの空論であるが、それがある種の人間に特殊なものなのか、つまりDNAに規定されたものなのか、それともある特定の環境に置かれた際に誰にでも出現するものなのか、という選択である。

それが、この度、12時間の連続睡眠をもって一つの結論に達した。トリプタノールによる過剰睡眠現象は人間にとって普遍的なものである。

異なるのは前提となる精神状態であり、うつないし類うつ的な状態のときに、このかぎ穴が開くということである。

話が長くなったので、一旦話を終わる。今日も外来だ。