今朝の赤旗を見て驚いた。と同時に、なんのことか分からず、訝しみが募った。

その記事は
国際刑事裁に経済制裁も 
トランプ氏、大統領令に署名 
米兵の犯罪捜査を妨害

という三段見出しで掲載されている。

見出しだけ見ればこういうことになる。

① 米兵がどこか、おそらくは国外でなにかの犯罪を犯した。

② これに対し国際刑事裁判所(以下ICC)が捜査に乗り出した。

③ これに対し米国が捜査を妨害する動きに出た。

④ こういう事実関係というか前後関係のもとで、米国は捜査妨害だけではなく、ICCそのものとの対決姿勢を強めた。

⑤ そして今回は、ICCをあたかも敵対機関であるかのように扱い、これに制裁(とりあえずは経済制裁)を課す動きに出た。

⑥ トランプは自らを発出元とする大統領令でこの処置を公式の米国政策と定めた。

ということなのだろう。いずれにしても、とてつもなく面倒な見出しだ。おそらくは現実の流れはもっと複雑なのだろう。

とにかく報道をチェックし、タイムテーブルと作るほかない。あまり複雑にせず、制裁に至る経過に的を絞って流れを整理してみたい。

1.ICCと米国との葛藤 事実経過

2002年

ICCの設立条約(ローマ規定)に60カ国が批准。ICC機関が発効する。

「反人道的犯罪」は、遡及禁止、公訴時効、一事不再理などの一般刑事原則に制限を受けないいとする。反人道的犯罪の責任者を裁くことを目的に設置された。

国際司法裁判所(ICJ)とは別の組織で国連からも独立。

米国はICCへの加盟を撤回。ICCの権限は米国民に及ばないとの立場を示す。

2004年

国連と国際刑事裁判所の地位に関する合意が成立。国際機関としての権威を承認される。

2007年

日本が105ヵ国目の締約国となる。ローマ規程およびその協力法が国会で成立。

2016年

ICCのベンスーダ主任検察官、2003年5月以降の「アフガンでの戦争犯罪に関する予備調査活動」の結果を発表。正式な捜査開始を求める。

米軍が米中央情報局(CIA)運営の秘密の拘束施設で拷問をしていたと信じるに値する根拠がある。

2019年

4月 ICC予審判事部、アフガンでの戦争犯罪調査は「正義のためにならない」と判断。調査を中止する。

19年 トランプ政権、アフガニスタンにおける戦争犯罪容疑で訴追された米軍関係者を赦免。その一方で、べんすだ検察官などのICC職員にビザ取り消しなどの制裁を科す。
アフガニスタンはICCの加盟国だが、捜査には反対の意向を示す。

2020年

2月 アメリカとタリバン、18年以上にわたる戦闘の末、和平に向けた合意に署名。

3月 ICC上訴審、「予審判事たちは間違いを犯した」と述べ、1年前の予審判事部の判断を覆す。検察側の訴えに基づき、アフガン戦争中の戦争犯罪について「真実追究」捜査を実施すると決定。タリバン、アフガン治安軍、米軍と米CIAが対象とされる。

3月 米政府はICC決定に強く反発。ポンペオ国務長官はICCを強く非難。

今回の事態は向こう見ずなものだ。説明不可能な、法的機関を装った政治機関による、まさにあぜんとする行為だ。米政府は裁判所を名乗るこの陰謀組織から米国民を守る。

4月

ICCのベンスーダ主任検察官、パレスチナの法的地位に関する調査を開始。

5月

ポンぺオ国務長官は書面の声明を発表し、この取組を非難。ICCは自らが政治的機構であることを改めて立証したとする。

6月

11日 トランプ米大統領、ICC当局者に対して経済制裁を可能にする大統領令に署名。
米国民の捜査に関与したICC職員が対象となる。該当者の資産を凍結するとともに、入国を禁止。

11日 大統領制発令に当たり、ホワイトハウスが声明を発表。

ICCは、米国・イスラエルに対する捜査を続けている。この捜査は政治的動機に基づいたもので、米国民の利益侵害と米国の主権侵害となっている。

11日 声明発表後の記者会見。

ポンペオ国務長官はICCを「いかさま裁判所」と表現。いいかげんな裁判で脅されることはないと言明。
バー司法長官も「財政上の腐敗や不正行為がある」「ロシアに操作されている」などと主張した。ただし根拠は示さず。


2.各方面の反応

ついで、この大統領令に対する各方面の反応を列挙しておく。

まずはICCそのものの反論(声明)。
ICCへの攻撃は法の支配を妨げる許されない試みだ。
ICCは残虐犯罪の犠牲者にとって正義への最後の望みとなっている。ゆえにICCへの攻撃は犠牲者に対する攻撃でもある。
次にEUの公式反応。EUの外相に相当する外交安全保障上級代表が「深刻な懸念」を表明。
ICCは国際社会に正義をもたらし、最も深刻な国際犯罪に対処するうえで重要な役割を果たしている。すべての国から尊重され、支援を受けるべきだ。

3.以上の情報から分かること

とりあえず、分かる範囲で経過を記載したが、これで最初に上げた6つの行動のつながりがわかってきた。

① 米兵がどこか、おそらくは国外でなにかの犯罪を犯した。

② これに対し国際刑事裁判所(以下ICC)が捜査に乗り出した。

③ これに対し米国が捜査を妨害する動きに出た。

④ こういう事実関係というか前後関係のもとで、米国は捜査妨害だけではなく、ICCそのものとの対決姿勢を強めた。

⑤ そして今回は、ICCをあたかも敵対機関であるかのように扱い、これに制裁(とりあえずは経済制裁)を課す動きに出た。

⑥ トランプは自らを発出元とする大統領令で、この処置を公式の米国政策と定めた。

キーワードはアフガンである。

もともとICC設立の過程でアメリカは積極的な役割を果たしてきた。冷戦構造の一方の旗頭を担ってきたアメリカには「自由と民主主義の守り手」という自負心があった。

しかし一方では世界の支配者として自分の思うままの世界を作りたいという欲望も強かった。
だからICCの創設間際になって、そこから逃げ出しただけではなく、ICCの一貫した反対者に転換した。

しかしそういう一般論だけではない。アフガンでの反人道的犯罪があって、それが白日のもとにさらされ、公式に非難されることへの恐怖が、反ICC意識を駆り立てているという事情がある。

ここを理解しないと、WHOにつづいて今度はICCかということになる。ある意味ではそこがアメリカ政府の狙い目かもしれない。

だから、我々は米軍とCIAがアフガンで何をしたのか、いかにそれが反人道的であったのかを知り、世に知らしめる必要があるのだろう。

赤旗の記事は、複数の記者の共同による力の入った記事である。ぜひ、事の真相に迫るような今後のフォローをお願いしたい。