4月8日(2014) Counterpunch

マライア・フローレス・エストラダとのインタビュー

コスタリカの選挙からの教訓

by LAURA CARLSEN

コスタリカでの2月2日の選挙の結果は、中米諸国の左翼に冷水を浴びせるものとなった。

少なくとも左翼は2位になると確信していた。そうすれば4月の決選投票に進めるのだ。しかし左翼「拡大戦線」のビジャルタは3位にとどまり、レースから脱落した。

(訳注: コスタリカの大統領選挙は二次投票制になっていて、1位が過半数に至らなければ1位と2位の間で決選投票が行われる。今回の選挙は中道右派の現与党、中道左派、左翼の三つ巴となった。世論調査では左派候補が優勢だった)


ファイナル集計によるとの得票率はわずか17.3%だった。与党候補のジョニー・アラヤが29.7%、そしてなんと市民行動政党(PAC)のソリスが 30.6%もとったのだ。

選挙日の何週間か前に、世論調査はリードしているビジャルタを示した。ソリスはかろうじて顔をのぞかせる程度だった。

ビジャルタ有利の情報は、コスタリカの政治に激震をもたらした。

(訳注: ここまで冒頭の記載は、事情に通じていないものには分かりにくいだろう。コスタリカの政権はここ20年間PLNという政党が握ってきた。今回の選挙も当初は与党楽勝と見られてきた。しかし失業と貧困化への怒りが国民の間に高まり、それに乗って36歳の左派候補が一気に首位に踊りでた。この世論調査に慌てた企業・マスコミは、与党候補では勝てないと見て、中道左派の弱小候補を支援する大キャンペーンを展開した。これにより、選挙本番では“予想外”の結果がもたらされた。つまり、二つの“予想外”が重なっているのである)


予想外のもう一つの動きが、3月5日におこなわれたアラヤの撤退宣言だった。そしてソリスに無競争での勝利を与えたことだった。

(訳注: この3つ目の“予想外”は前の二つほど衝撃的ではない。企業・マスコミはソリスを選んだ以上、ソリスとの不必要な摩擦を避けたのである)


編集部は、拡大戦線の法律顧問で、選挙コーディネーターを務めたマリア・フローレス・エストラーダにインタビューを行い、一体何が起こったのか、コスタリカの将来にとって、それがどんな意味を持つのかを質問した。

フローレス・エストラダは、長年の政治家であり、活動家でありフェミニストである。

彼女は率直かつ前向きな自己批判とともに、選挙プロセスの落し穴を強調した。


編集部  義務的質問から始めよう。2月2日の投票結果は驚きであった。これについての見解を知りたい。

我々は思う。もっとすべきことがたくさんあった。

 恐怖のキャンペーン: 拡大戦線に対する「恐怖のキャンペーン」、「拡大戦線は共産党だ」というキャンペーン、「外国の投資に反対し、企業活動や仕事を取り上げる」というキャンペーンだ。

 露骨な選挙違反: 多国籍企業、たとえばAvon、Subwayなどは、拡大戦線に投票しないよう従業員に圧力をかけた。選挙管理委員会ですら、それは法律違反であり犯罪だと判断している。若干のセクターでは、拡大戦線に反対する企業キャンペーンがあった。

 争点ずらしと集中攻撃: カトリック教会や伝道派協会の一部では「中絶推進」派の政党に投票しないようにとの呼びかけが行われた。拡大戦線はそんなことは言っていない。

しかし、たとえば綱領では、必要なケースにおいては中絶することを認めた現行法の維持を求めている。必要なケースとは母体の生命に危険が及ぶ場合であり、また強姦によって妊娠したケースについても議論を求めている。

いずれにしてもこの問題に集中してすさまじいキャンペーンがあり、少なからぬ影響を及ぼした。

 根拠のない楽観論: 我々の側にもいくつかのミスはあった。実際起きたように、世論調査では常に1位か2位を確保していた。どう転んでも決選投票には進出するだろうと見られていた。

しかしそれらの世論調査では常に多くの決めていない層が存在した。そして選挙の最終盤で、彼らは代わりの候補、見栄えのしない、ほとんど支持のない候補へとなだれ込んだ。なぜならメディアが拡大戦線の対抗馬としてスポットライトを浴びせ始めたからだ。

 偽りのオルタナティブ: 彼らにとって、PACは他の二つの悪玉に比べればより無害に見えた。我々からみればPACはある点では進歩的な政党であり、手を組みうる相手だと思う。しかし最終盤になって彼らは旧勢力と組み、我々を攻撃するキャンペーンに仲間入りした。

全てのこれらの要素は一緒に来た。そして有権者の重要な一部がどたんばでPACへ行くようにしむけた。

 歴史的な前進: にもかかわらず、拡大戦線の勝ち得た結果は歴史的なものである。左翼であろうと、進歩的であろうと、フェミニストであろうと、エコロジストであろうと、それらはすべて拡大戦線に含まれるのだが、そういう政党がこんなに票を取ることはなかったし、国会に9議席を確保することもなかった。


編集部  大統領選から国家解放党のアラヤ候補が撤回したが、その背後に何があるのか?

アラヤと国家解放党の公式見解は、4度の世論調査でソリスに打ち勝つのはきわめて困難だということが分かったからだというものである。それが彼の撤回の理由である。

しかし私の見るところ、この撤退宣言には二つの意味があると思う。

第一は、決選投票で本当にどうしようもない最悪の結果をきたすの避けるためだ。それは他の政党との関係が極端に弱体化することになるかもしれない。

第二は決選投票で棄権を増やすことで、PACの合法性を貶めようというものである。、

 ソリス政権への疑問符: すでにPACはPLNとの間で「秩序ある移行」に関する対話に入っているようだ。PLNは「議会において国民合意の推進のためPACと協力する用意がある」と発表している。

確かなことはPLNとPACの間には一連の深いつながりがあるということだ。PACの指導部はソリスや、党創立者のOttón SolísをふくめPLNの出身だ。

例を挙げるなら、2012年にはPACはPLNと議会内連合して税制改革法を成立させている。

 反ネオリベの流れは止められない: この国でますます明らかになっていることがある。それは反PLNの変化だ。そしてこの変化の担い役としてソリスが突然浮上した。これは拡大戦線への「恐怖キャンペーンがもたらしたものだ。

しかしおそらくPACの改革への熱意と能力は、4月6日以降急速に試されることになるだろう。


編集部: 放送・メディアへ行こう、これらは選挙へ大きい影響を与えた。そして、大陸を通じて選挙での主要プレーヤーになった。ここではメディアはどんな役割を演じたか?

反共ヒステリー: マスコミは非常に需要な役割を演じた。すべてのまともな論理を放棄し、ジャーナリステックな客観性のイメージを捨て去った。

たとえば、それ自体は何のニュース価値の無いものも、拡大戦線に都合の悪いニュースに見せかけてカバーした(訳注:電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みんな拡大戦線のせい)。投稿記事では拡大戦線反対の意見ばかりが取り上げられた。イラストには「槌と鎌を持つ巨人」(訳注:旧ソ連の象徴)が繰り返し描かれた。

「ラ・ナシオン」紙(訳注:コスタリカ最大の民間紙で日本の朝日に相当)でのケースだが、多くの賞を獲得した花形の調査記者Giannina Segniniは、このキャンペーンに抗議して辞職した。

マスコミの一体化: 伝統的に、「ラ・ナシオン」紙はウニメール社の世論調査を発表している。この会社の調査がもっとも信頼性が高いと考えられているからだ。今回、「ラ・ナシオン」紙はウニメール社の最終調査結果の発表を拒否した。その調査では拡大戦線が決選投票に進むことを示していた。

これがまさに1月中旬に起こったことである。そしてそれから「ラ・ナシオン」紙は広範なメディアキャンペーン(訳注:読売、産経、日経)に参加した。PACは天まで持ち上げられ、拡大戦線の候補はゴミ扱いされた。そしてPACの支持率は上昇し始めた。

マスメディアは、変化に対する反動を強め、伝統的保守派の役割を演じた。

ネットの役割は大きい: いっぽう、ソーシャルネットワークは連絡と交流を強める上で重要な役割を果たし、選挙キャンペーンを発展させた。それは疑いなく拡大戦線の成長を助けた。もしソーシャルネットワークがなかったら、もし我々が単にマスメディアによって伝えられる情報だけに頼らなければならなかったら、おそらく我々はもっとひどい選挙結果を受け取ることになったろう。


編集部: ここ数年、コスタリカは世界でその役割を変えた。それはひとつはアメリカの麻薬戦争という名の軍事作戦に門戸を開放したことによるものであり、もうひとつはCAFTA(中米自由貿易協定)に加え、環太平洋条約(TPP)に署名したことだ。これらの地政学的論点は選挙において重要だったのか。そして、我々は将来この領域において何を予想することができるか?

現実性においては、それは大きい論点ではなかった。TPPはいま問題になり始めている。大統領が署名して、事態が動き始めてから、ビジネス・セクターから、とくに産業会議から反対論が出てきて、我々が気付き始めたということだ。

コスタリカでの外国の直接投資は多くの雇用を生じている。公的分野の雇用も促進されている。それは国内市場における雇用よりも高給だ。

私の個人的意見だが、自由貿易地域の人々の多くがPACに投票している。彼らは恐れているのだろうと思う。宗教的、文化的問題はさておいても、失業者があふれているこの国で仕事を失うことが怖いのだ。

それは敏感なものであると思う。外国の直接投資(基本的にアメリカ)が逃げるかもしれないと考えれば。

PAC政権もコスタリカの地政学的位置を変えるとは思わない。多分チョットした微調整ということになるだろうと思う。

たとえば、PACは新しい税を自由貿易地区に置こうと提案していた。しかし選挙になるとそれを引っ込めてしまった。


編集部: あなたは拡大戦線がフェミニスト政党であると述べた。そして女性の権利を掲げている。それは「恐怖キャンペーン」の攻撃対象の一つとなった。政治状況の変化は女性の権利に対してどのようなインパクトを持つのか?

実は、私はそれが非常に難しいと思っている。政権は変わったが、新しい議会の基本的政党構成はあまり変わっていない。

拡大戦線は8倍にその存在を増やした。しかし、問題は拡大戦線の中にさえ性と生殖、同性愛の権利について保守的な議員がいる。

前の議会よりもっと公然と保守的な議会を持つことになると、私は思う。この問題を論争ではっきりと取り上げたことで、宗教グループが動員され溝が深まった。

コスタリカの社会はこれらの問題について非常に保守的であり続けるであろう。あらゆる政党内で、保守的な考えが支配している。

拡大戦線では全ての代議士が綱領によって行動する。それは有権者に対する責任である。だから女性の権利と人権に賛成して一般に行動しなければならない。しかし我々は代議士の一部が実際問題としてふるまう方法を見ている。


編集部: 国が直面する主な問題は何であるか? 雇用に加えてだが

失業と不平等と貧困: 私は不平等と貧困の問題と考える。それはコスタリカで過去30年の間用いられた開発モデルによって発生・成長した問題だ。

以前、コスタリカはより平等主義の社会であった。それを理想化するつもりはないが。しかしペルーなどのラテンアメリカの他の国では、かつて著しい不平等の下にあったが、いまやそれは改善されつつある。その間、コスタリカは悪化を続けた。

機会均等のメカニズムの破壊: 人々のためにより多くの機会均等を許す社会動員メカニズムは壊れてしまった。貧困は増加する傾向にある。過程という重要なセクターが貧困の淵にある。このままインフレーションが増加するならば、それらは貧困者の資格を得る事になるだろう。

貧困と失業の経済の状況は、国が直面する主な問題である。

国内市場と中小企業の重視を: 国内の市場を支えて、外国の直接投資ではなく、国内市場の中小企業の仕事をつくる意志がないのなら、多くの矛盾と対立が生まれるだろう。


編集部: 次のステップはどんなものになるだろうか。拡大戦線は議会活動を展開するだろうが、それだけではなく、これからの選挙に向けどのように社会を動員するかという課題も含めて話してほしい。

一般に、私は難しいと思う。 我々は非常に微妙な経済環境にある。失業率は高止まりし、外国の直接投資は減少している。したがって人々は職を失うことに非常に恐怖を感じている。

私は、議会はより保守的になると思う。私の主な懸念はPACが公共雇用を減らそうとすることである。それはビジネス部門と国際組織の明確な要求である。

PACは未知の要因である。経済と文化的な問題では保守的で伝統的だ。しかし進歩的なセクターもある。しかし、進歩的な部分は少数派であると思う。

私は思う。今は運動にとってつらい時期である。私は想像する。微妙な経済的環境のもとで、より多くの闘いとより多くの対立がやってくると。