この記事は「基軸通貨 75年 ドルへの不安」という日経記事の紹介です。筆者は日経新聞国際部長の発田さんです。

大変要領よくまとめられていて、参考になります。しかしこの記事1発でわかるほどデジタル通貨は甘くありません。

少し話の順序を変えて、議論の流れが飲みやすくなるよう工夫してみました。いくつかの部分には補足的説明も折り込みました。

そのため原文よりかえって長くなってしまいました。ご容赦の程をお願いします。


問題意識 デジタル人民元はドルを揺るがすだろうか?

中国が発行するデジタル人民元が普及しつつある。
問題はこれがドルを基軸とする国際金融体制を揺るがすことになるか否かである。

それは2種類の議論を内包している。ドルの単一支配体制が人民元により破綻するのかという問題、もう一つはデジタル通貨が国債決済の主役になっていくのかという問題だ。

1.ブレトンウッズ体制とドル本位制

ブレトン・ウッズ協定以来75年間、ドルは世界の基軸通貨であり続けている。

貿易の半分はドル決済だ。各国の外貨準備、証券発行、新興国の対外債務の3分の2がドル建てだ。新興国の中には、普通にドルが国内流通している国も珍しくない。

もともとのドル支配体制は金本位制を背景としていた。フランスが60年代にドル覇権に挑んだことがある。しかし金の大幅流出にも関わらずドル覇権が揺らぐことはなかった。

73年に、ベトナム戦争と財政破綻によりブレトン・ウッズ体制は崩壊した。ドルは金の裏打ちをなくし、世の中は変動相場制の時代に移行した。

アメリカは双子の赤字を抱え困難に直面した。ドルの価値は大幅に下落した。

このとき「基軸通貨ドルを防衛せよ」という共通認識が形成された。実質的には通貨システムの押し付けであったが、形としては先進諸国の合意による通貨システムの再建であった

その後、ドル基軸体制はそのまま続いている。

理由は単純だ。米国に代わる強国が登場しなかったからだ。世界第二の経済大国にのし上がった日本も、総合力において到底かなうものではなかった。


2.中国もドル覇権から抜け出せない

だが21世紀に入って状況は大きく変わりつつある。中国という強力なライバルの登場だ。

いまや中国のGDPは購買力平価ベースでは米国を逆転している。このまま行けば、2030年には市場実勢ベースでも米国を抜くことになる。

とはいえ、中国もかつての日本同様にドル支配の軛のもとにある。

あらゆる通貨の中でドルは特権的地位にある。その特権はとてつもないものだ。

ドルが貿易の決済通貨である以上、各国はドルを持たなければならない。そのために、日本や中国は1兆ドルを超す米国債を保有している。

外国企業はドル調達や為替差損の調整にコストとをかけざるをえない。

一方、米国は経常収支が赤字でも世界から資金を集めることができる。米企業はドルに関する手当てをまったく必要としない。


3.通貨覇権と軍事覇権

米国以外の多くの国にとって、最大の脅威は通貨覇権が軍事覇権を支えていることだ。

イランはトランプ政権成立後に石油収入の8割が減った。外貨準備はあるのに、その9割にアクセスできない。

どうして米国はこのようなことができるのか。それは送金情報を送る国際銀行間通信協会(SWIFT)が決済網を握っているからだ。

米国が対イラン制裁を発動したとき、それが実効化できたのはSWIFTがイランの銀行を決済網から締め出したからだ。そしてSWIFTの運営を握っているのが米銀だからだ。

同じ手口はベネズエラにも適用された。中国の党幹部はSWIFTなどの国債決済網は「米国の覇権維持ド道具」と見ている。


4.米国第一主義がドルへの信頼を揺るがせている

ドルによる通貨覇権への不安は、中国や途上国だけでなく先進国や、金融中枢からも湧き出ている。

ドルは世界システムとしての安定性を欲するが、トランプの自国第一主義はこの考えと激しく衝突するからだ。

自国第一主義というのは、自分の立ち位置を中心に土俵を作るようなものだ。土俵際まで追い込まれたら自分を中心に土俵を書き直すことにする。

これではルールも何もあったものではない。

先年、米国は「世界の警官は続けられない」と宣言した。安全保障分野と同じように世界経済システムの守り手の役割も放棄するなら、もはやドル支配体制の維持に意味はなくなる。

その不安感を典型的に示したのが、昨年8月のイングランド銀行カーニー総裁の講演だ。

デジタル通貨容認論だけが全面に出る形で報道されたが、最も重要なことはトランプ政権への不信感と、ドル依存体制への危機感である。

カーニー総裁は「経済政策をめぐる不確実性」や「あからさまな保護主義」が、通貨システムを介して世界経済を破壊する危険性があると指摘した。そして世界はドル基軸体制から脱却する必要があると訴えたのである。

その延長線上に代替システムの一つとしてデジタル通貨(中銀主導型)の可能性を示唆したのである。



5.デジタル通貨が切り札となるか?

デジタル通貨には長所と欠点がある。

最大の長所は通貨を介入することから来る為替リスクがないことだ。その他にも銀行を通さないことから、金融介入をシャットアウトできること(公的介入さえも迂回できる可能性がある)、簡素でスピーディな手続きも長所としてあげられる。

一方で、大銀行や政府・中銀のバックアップがないから、外部の干渉に弱い。あまりに投機性が高いためにアメリカでは半ば犯罪扱いされてきた。

大資本がバックアップすれば短所はカバーされる

この欠点はピア・トゥ・ピア評価が安定しないことから生じる。それは各国中銀や大手銀行がシステムに介入し、取引の信頼性を担保すれば克服できる。

特に先行しているのが中国人民銀行だ。

いま、IMFや世銀を先頭に多くの国際的銀行ネットワークは米国の影響下にある。これに対して中国は、ブロック・チェーンを使って銀行を通さない決済を広げようとしている。

このブロック・チェーンの先にビットコインを接続すれば、大手金融網とは関係なくもう一つの経済圏が構築される可能性がある。


6.人民元そのものの弱点はそのまま残っている

そこでデジタル人民元に未来はあるかという話になる。

発田さんの指摘によれば、人民元は個人の両替は年間5万ドル以下、海外投資には事実上使えない、浮遊ペグではあるが完全変動相場制ではない、などの制限が残っている。
その結果外国為替市場での取引シェアは2%にとどまっている。

まずは国際通貨にふさわしく、さまざまな制限を撤廃し、ブラッシュアップしなければならない。どちらにしても、人民元が国際化されなければデジタル人民元も国際的なものにはならないだろう。

ただし、ドルの側から人民元に押し込むようなプッシュ要因が今後出現しないとは限らない。あるいはユーロとの協調のような局面も考えられる。

いずれにせよデジタル通貨元年のような様相を呈している2020年、動向を慎重に見極めていく必要がありそうだ。