新型コロナ肺炎についての所感

今まで水際封じ込め戦略でやってきたので、余分な意見を言って混乱を助長してもいけないと思い、発言を控えてきた。

しかしもうそのような段階を超えて、市中感染症としての扱いが必要になったので、知恵を寄せ集めることも大事かと思う。

知恵と言っても大したことはないのだが、私には2つの心当たりがある。

1.ノロとの類似点

一つは、拡散スタイルが出始めの頃のノロウィルスにとても似ているという印象だ。今でこそ連中もおとなしくなってきたし、こちらもあしらいが分かってきたので、それほどの恐怖はない。

しかし最初の頃は正体がわからなかったから、とにかくその牛若丸並みの神出鬼没ぶりが怖かった。対策チームのキャップは「ヤクザ・ウィルス」と言っていた。どこにでも難癖をつけ、こちらが弱気と見れば襲ってくる。

今はとにかく手→口の接触を避けることが第一で、とにかく「さわるな、触らせるな」が標語である。

特に医療・介護従事者は、就業時間中はつねに手袋をする必要がある。

これが一次予防。つまりスタッフの感染防止で、一種の水際作戦だ。

二次予防が手洗いとうがいである。

これだけ潜伏が長い、しぶといということは、ヒトの防御機構から見てちょいと大人しげで警戒させないのだろう。コソコソと増殖して、ここぞと思ったら一気に発症するんだろうと思う。ヤクザたるゆえんである。逆に言えば、こちらがアラートでいれば、不顕性感染しても発症を防ぐ可能性がかなり高いということだ。

その間は増殖の場たる口腔~咽頭粘膜をうろちょろしているわけで、うがいを強力にするだけでかなりウォッシュアウトできる可能性がある。ノロと違って胃酸には弱いようだから、飲み込んでしまっても構わない。口腔~咽頭粘膜の保清は二次予防・一種の治療と考えられる。

2.下気道炎型のウィルス感染

実は私は2012年に老健施設でウィルス性下気道感染の大流行を経験している。


それがRSウィルス感染である。入所者の3割が発症した。その半分が医療施設への転院を要した。ほとんど防ぎようがない。例の豪華客船並みである。

とにかく最初から下気道感染の形で発症するから、ノーアウト満塁から試合を開始するようなものだ。
熱はさほどないが咳がひどく、見る間に全身状態が悪化してくる。CRPは二桁に達する。

肺炎と言っても最初はウィルス性の気管支肺炎だから、単純写真では分からない。しかしCTをとると一目瞭然だ。CTをとるということは医療機関に送るときにも大事で、そうでないと老人医師の見立てはなかなか信用されない。これで24時間はずれ込む。

3.抗生剤の早め投与が必須

じつはRSウィルスは子供の病気で、しかも軽症で終わる病気だ。教科書にはそう書いてある。
しかし年寄では重症化する。しかも発症してから重症化するまでの間隔が短い。あっという間なのだ。このことはあまり教科書には書いてない。当時は書いてなかった。

かといって片っ端から病院に送っていたのでは、送られる方も持たない。だからICUから一般病室に移す感じで送り返された。
こちらの経営も危ない。経営的にはRSの後遺症はほぼ1年続いた。カルロス・ゴーン並みだ。だから相当真面目に考えた。

これは免疫低下の問題だ。というより、高齢者に半ば常在する肺炎双球菌(そのたぐい)の二次感染がらみだと考えた。

とすれば結論は一つ、早めのクラビットしかない。もう一つは強めの抗炎症薬、例えばロキソニンである。

後者はナースが嫌がった。低体温やら循環虚脱やらが怖いからだ。だから補液をしながら消炎剤を使った。老健だからすべて持ち出しになるが、それでもベットが空になるよりはいい。
もちろんそれでだめなら送ることになるが、かなりそれでがんばれた感じはある。

何も統計など取らないからそれが有効かどうかは分からない。

ただ大きい病院ほど、若い先生ほど抗生物質を使うのを嫌がる。クラリスロマイシンの予防投与は、ほぼ100%切られて戻ってくる。なので、どうしたものかと考えている。


4.RS感染だという根拠

別になにもない。検査はしていない。ただその時の江別保健所の感染症サーベイランスで小児のRSがとんでもない大流行をしていたと言うだけである。

そして感染経路が、床上まで水に浸かった家のように、あちらこちらから水が漏れ出してくるような発症の仕方だったからである。

とにかく面会謝絶にして、ナースや介護士にガウンもどきをさせるくらいしかなかった。

医者一人だからそれで良かったが、病院のように医者がたくさんいるところでは、意思決定は遅れるだろうと思う。タミフルを巡って果てしない議論が続いた医局会議を思い出す。
病院管理医師としてはそこら辺を留意して置かなければならないだろう。