年末にNHKで放送された経済番組で「貨幣」を主題とした番組を見た。

NHKの自社制作でそれなりに力が入った番組だ。岩井克人さんという経済学者の論調を柱に構成されて行く。

これがいかにもNHKらしくいいとこ取りしながら、結局何を言いたいのかわからない話で、イライラしながら最後まで見てしまった。

仮想通貨の実験が明らかにしたこと

番組の前1/3はビットコインの話。
これまでの経過は
ホスキンソンが最初に仮想通貨を提唱した。これは貨幣の交換手段としての機能よりも価値の蓄蔵手段としての働きに注目したものだ。
蓄蔵手段であれば、交換はバーチュアルな交換でも良い。その代わり人に盗まれないように保護する機能が重要になる。このため仮想通貨という資産形態は「暗号資産」とも呼ばれる。
② 実際の交換場面で最大の難問は「二重支払い問題」であった。これを克服したのがSatoshi Nakamoto 理論であった。これにより仮想通貨が実用化する可能性が生まれた。(この項、さっぱりわからず)
③ 仮想通貨の位置づけを明瞭にするために、ハイエクの「通貨自由化論」が援用された。
ここでは「仮想通貨は貨幣ではない」という特徴付けが行われた。交換手段でもなく蓄蔵手段ですらもなく、純粋な「資産価値の表象」だとされた。

私が考えるには…
それは結局、蓄蔵ではなく退蔵のための手段だということに行き着く。極度のリバタリアニズムに裏づけされた、闇の中をうごめく蓄蔵貨幣の表象だということになる。
そういう地下金脈を経済の撹乱要因として取り締まるのではなく、事実上容認していくという点では、完璧に退廃的な概念である。
④ 仮想通貨に対する批判はフランスの経済学者ジャン・ティロールが代弁している。
ティロールによれば仮想通貨の欠点は、2つに集約される。
一つは通貨として役に立たないということであり、社会から切り離された存在であるということである。それはカジノのコインのようなものである。形は似ていてもそもそも本質が違う。
これはホスキンソンの提案からも明らかである。
一つは銀行券の役割を破壊する。貨幣が流通手段であり得るのは、致富や蓄蔵の手段でもあるからだ。貨幣が交換のみの手段であればそれはクーポンや、食堂の食券みたいなものになってしまう。
また中銀は貨幣を発行し流通させることで発行益をとり、これにより金融運営を行っているが、貨幣の役割が限定されると経営基盤が脅かされることになる。(ここはなるほど!と唸らせる)

ということで、ここまでは仮想通貨を巡る議論で、それなりにNHKらしく要領よくまとまっている。(的を得ているかどうかは別として)

労働価値説を比定する貨幣論

しかしこの後、延々と岩井克人さんによるマルクス批判が続くのである。それはスミスまで巻き込んで労働価値説の批判に行き着く。

しかも批判はいいとして、「それでお前、何を言いたいんだよ」というのがさっぱり見えてこない。アリストテレスからカントまで巻き込んで講釈を垂れるが、これはウソを付くときの常套手段だ。長年大学教授をやっていると、こういうテクニックばかり上手になる。

とにかく話が長くなるので、ここで一旦記事は切る。