フルトベングラーのまともな録音

信者にはとても嫌みな演題であろうが、やはり気になる。
他になければ我慢して聞くのだが、同じ曲に対していくつも音源があると、その中のどれを聞けばいいのかと、普通の素人は思う。しかし困ったことに、信者はそれが答えられないのだ。
しかも困ったことに、この音源は論外という結論も出せないのだ。
だから、結局私のような素人が入っていて判断するしかない。

一番の問題は第九である。

まず、音源がいくつあるのかを明らかにしなければならない。ついでそれらをリマスターしなければならないのだが、もちろんそれは原理的には無限にあるのだが、一応メインに流布されているエディションを総ざらえしなければならない。

そのためには、まず権威あるあるいは、ありそうな文献によって整理しなければならない。

思い出すと、かつて私はそれをやったことがあるのだ。それが「ウラニア盤のエロイカ」だ。

多分、第九の整理はもっと大変だろうと思う。

まずは「フルトベングラー  第九 録音」と入れてグーグル検索だ。

最初にヒットしたのが、タワーレコードのサイト。
https://tower.jp/article/feature_item/2018/10/17/1114

TAHRA原盤 フルトヴェングラー4つの”第九”が最新リマスタリングで蘇る!

という記事だ。

冒頭の文が以下の通り。

フルトヴェングラーの第9は、亡くなるまでの17年間に13種類の録音があります。

これを聞いただけで早くも戦意消失する。

ただその後救いの手が差し伸べられる。

その中でも特筆すべき演奏はつぎの4種。

それは

1.1942年3月 『ベルリンの第九』
「大戦中の緊迫感に満ちた劇的な爆演」だそうだ。

2.『ストックホルムの第九』
大戦中にストックホルム・フィルに客演した「凄演」だそうだ。

3.『1952年ウィーンの第九』
至高絶美の演奏で彼のベストではないか、と評されている。

4.1954年のルツェルン音楽祭公演
「最晩年の深い思索と境地を感じさせる感動的名演」だそうです。

ということ、まず音源的にはこれに絞っていいのだろうが、史上最も人口に膾炙されている51年のバイロイトがここには入っていないので、これを

5.1951年、バイロイトでのライブ録音
として付け加えておくことにする。

ただし私の個人的思いではあるが、フルトベングラーほど第9にふさわしくない音楽家はいないと思う。
「大戦中の緊迫感」というのは、ドイツがポーランドやユーゴ、ロシアで数十万、数百万の罪なき人々を虐殺するというジェノサイド的状況がもたらした緊迫感なのであって、到底その思いは共有できない。
ヒトラー賛美と民族浄化の進軍ラッパを吹きながら、戦後もいけしゃあしゃあと「芸術」活動を展開し続けた男に賛辞を送る気分にはならない。
藤田嗣治の戦争画を「緊迫感に満ちた劇的な美しさ」とは言えないだろうし、広島の上空に立ち上ったきのこ雲の悪魔的な美しさを、肯定的に眺めることは難しいだろう。