綱領改定案(世界情勢論)について

2004年綱領は、20-21世紀論を中核としていた。その根本的立場は今日も正確で有効だ。
改定案はそれを引き継ぐとともに、さらに発展させる。


世界情勢に関する3つの見直し

第一に、21世紀論の具体的展開
具体的には、
①核兵器廃絶にむけた新たな前進、
②平和の地域協力の流れの形成・発展、
③国際的な人権保障の新たな発展

第二に、いわゆる「社会主義国」問題
全面削除、および世界情勢論の全体の組み立ての一定の見直し。

第三に、第五章・未来社会論の改定
発達した資本主義国での社会変革が社会主義・共産主義への大道である。

ここまでが総論部分だ。「社会主義」諸国の削除については異論はない。

個別の改定点

綱領第三章

「世界情勢――二〇世紀から二一世紀へ」の表題を「二一世紀の世界」に変更。

21世紀論の骨子はそのまま残す。

1.人権論を書き加える。

第二次世界大戦までの時期は、人権問題は、国内問題とされ、外国からの口出しは無用という問題として扱われてきました。

21世紀の世界においては、人権を擁護し発展させることは、単なる国内問題でなく、「国際的な課題」となった――国際社会における各国の義務となった。

「人権は国境を超える」論、「民族自決」は人権より低位概念という理論。

2.植民地体制の崩壊のもつ意義を特記

20世紀論における「3つの変化」のうち植民地体制の崩壊が最大の特徴である。

そもそも植民地支配は、民主主義や人権と両立しえません。
民族自決権はあらゆる人権の土台として世界公認の原理でした。
しかし、「植民地体制が崩壊した」のだから、これからは民族自決権より人権のほうが重要になる。

というのが論建てのようです。

綱領第八節―「社会主義をめざす新しい探究…」の削除

これまで「社会主義の事業に対して真剣さ、誠実さ」を尺度としてきた。
その尺度は
*こういう国ぐにの指導勢力と接しての判断
*これらの国ぐにが現実にとっている対外路線
などから判断する以外にない。

これは、後でベネズエラ問題を考える上で重要なポイントとなります。

以下中国評価についての記述が続くがこれは省略。特に異論はない。
ただこれは、中国の話なので、キューバとベトナム、したがって「社会主義を目指す他の国」についてはこの限りではない。

結局、議論の結末としては、「社会主義を目指す」潮流そのものが存在しなくなったということになる。これは事実としてそういう他ない。いわゆる「前進的整理」であろう。

民主主義と人権を破壊し独裁を強めるベネズエラ
ここでキューバを批判するついでに、その論拠として、ベネズエラに想像もつかない非難を浴びせている。さらに「ラテンアメリカに分断を持ち込んで」いるという記述は、事実に即して見れば認めるわけには行かない。

ソ連論についてはジャンプします。

綱領第九節――「世界の構造変化」

「世界の構造変化」が、平和と社会進歩を促進する生きた力を発揮しはじめている。
これは新たに書き加えた部分であり、これまでの第9節は第10節となる。

第一〇節 
世界資本主義の諸矛盾から、世界をとらえる。いわば各論部分。
現綱領の第九節の内容をもとに書き加える。

ここで「ラテンアメリカの国ぐに」に触れられている。

米国の強い従属下に置かれていたが、「二〇世紀の終わりから二一世紀に」軍事独裁政権が倒されて、民主主義の覚醒があった。
その結果、米国から自立した地域へと変わった。
しかしこの数年間にベネズエラ危機が分断をもたらした。
今後、平和の地域協力の流れが、ベネズエラ危機をのりこえて発展するよう願う。

なんとも悲しくなるような分析である。

弾力的なアメリカ論

アメリカは、いつでもどこでも覇権主義・帝国主義の政策と行動をとるのではなく、「世界の構造変化」をふまえて、外交交渉による解決を模索する側面も見る。

これは重要な指摘です。事実に即して具体的に見ていく必要があります。
ラテンアメリカにおいては、目下そのような「弾力的」傾向は全くありません。

綱領第一一節 国際連帯の諸課題

二つの国際秩序の選択」という記述を見直す。中国、ロシアによる覇権主義も台頭しているからだ。

このため「国連憲章にもとづく平和の国際秩序か、独立と主権を侵害する覇権主義的な国際秩序かの選択」という、より包括的な規定にあらためた。

三つの流れ」という特徴づけを削除

発達した資本主義諸国・資本主義を離脱した国々・AALAの人民の運動の3つを社会主義への発展の時代的・国際的条件としたが、これをやめる。

遅れた国ぐににおける社会主義的変革の可能性を否定するものではないが、きわめて大きな困難がともなう。
発達した資本主義国での社会変革こそが、社会主義・共産主義への大道である。


この点は一般論としてはきわめてよく分かるのですが、現実的には発達した資本主義国での社会主義革命は実現していません。
逆に遅れた国々で平和的に議会選挙と通じて「社会主義」を目指している国が、現にいくつか存在しています。これらの事実から見て、もう少し謙虚に学ぶべきではないかと思います。

また非同盟運動の志、バンドン会議の精神は、反核運動の枠に押し込まず、もっと多角的に称揚すべきではないでしょうか。

何れにしても社会主義への道はそう単純ではなく、ジグザグとしたコースを歩みながら21世紀を通じて進行していくものと考えるべきでしょう。あまり振りかぶった規定はしないほうが良いのではないかと思います。

今回の綱領改定には多くの理論的前進が見られ、「20世紀の残り物」的理論も随分整理されて見通しが良くなりました。

その分、ラテンアメリカの現実に起きている変化の評価には、あらっぽさが目立ってしまうように思えます。

とりあえずの感想です。