ソ連の戦死者数の異常な多さについて

ノモンハン事件のところで、ソ連側の戦死者が異常に少ないことが気になっていたが、その後ソ連崩壊後の資料で実は2万人の戦死者を出していたことが判明した。

ソ連が戦死者の数を意図的に操作していることがわかったので、今度は逆に、東部戦線での戦死者数の異常な多さについて気になり始めた。

とりあえずグーグルであたってみるが、Q&A の記事にはろくなものがない。

ウィキペディアにはいくつか参考になる資料が提示されている。

まずは本文から。

1.グラスノスチ以降出された史料によれば、2180万~4600万が死亡した。

2.ロシア科学アカデミーは1993年に2660万と発表、これがロシアの公式数値でもある

3.1993年にロシア国防省のG. I. Krivosheevの発表では、ソ連軍の死者数は8,668,400人であった。

4.S. N. Mikhalevはこの公式発表は不十分な計算で、ソ連軍死者数10,922,000人であると述べている

5.ロシア国防省中央資料館のS. A. Il'enkovは、ソ連軍死者数は1385万とした

しかたがないので英文で探す。

World War II casualties of the Soviet Union という項目があった。 いかに大要を紹介する。

はじめに

ソ連の第二次世界大戦犠牲者は軍・民間合わせ2千万人前後とされている。しかしこれらの数字は、現在論議の対象となっている。

ソビエト時代、犠牲者に関する情報は極秘扱いであった、グラズノスチの時代にいくつか情報が発表された。

1993年に、ロシア科学アカデミーはソ連の大戦による総死者を2660万と見積もった。またロシア国防省は軍の死者870万という数字を出している。

Total Soviet losses by demographic balance (1941–45)
Population in June 1941 196,700,000
Births during war 12,300,000
Death by natural causes during war (11,900,000)
War related deaths during war (265,600,000)
Total population Jan. 1, 1946 170,500,000

これらの数字はロシア以外の大部分の歴史家によって受け入れられた。しかしロシア国内では、これは中央国防省の公式のデータベースと矛盾すると異議が出されている。

国防省資料では、死亡および行方不明合わせおよそ1400万人の将兵の名があげられているというのだ。

ロシアの独立した研究者は、一般人と軍隊あわせ4000万以上という数字を出している。

本論文は、これらの数字について論じているソースを明らかにしていく。

軍の損失

Krivosheevの分析

1993年にロシア国防省のKrivosheev将軍らの提出した報告は、第二次世界大戦のソビエト軍の犠牲者を評価している。

彼らの分析の出典は、ソ連時代に秘密とされてきた the field and other archive documents であった。そこには1966-1968に作成された参謀本部報告がふくまれる。

この報告は死者・行方不明者数を870万としており、この数字は各所で引用されている。

Soviet World War II military casualties 1939-1945
Dead and missing Wounded and sick
World War II 1941-1945 8,668,400 22,326,905

しかし、Krivosheevの分析は、ロシア国内の独立した研究者によって議論の対象となっている。

Military dead and missing (1941–45)

KIA(Killed in action) or died of wounds

6,329,600
Noncombat deaths (sickness, accidents,etc.) 555,500
Subtotal KIA, died of wounds and Noncombat deaths 6,885,100

MIA(Missing in action) and POW (Prison of war)

4,559,000
Total operational losses during war 11,444,100
Less:Missing later Returned to Duty (939,700)
Less:POWs returned to USSR (1,836,000)
Total irrecoverable losses (from listed strength) 8,668,400

Casualties of Soviet Forces 1941-1945 According to Field Reports

Description Irrecoverable Losses Wounded & Sick Total Losses
1941 3rd Q 2,129,677 687,626 2,817,303
1941 4th Q 1,007,996 648,521 1,656,517
1942 1st Q 675,315 1,179,457 1,854,772
1942 2nd Q 842,898 706,647 1,549,545
1942 3rd Q 1,224,495 1,283,062 2,507,557
1942 4th Q 515,508 941,896 1,457,404
1943 1st Q 726,714 1,425,692 2,152,406
1943 2nd Q 191,904 490,637 682,541
1943 3rd Q 803,856 2,060,805 2,864,661
1943 4th Q 589,955 1,567,940 2,157,895
1944 1st Q 570,761 1,572,742 2,143,503
1944 2nd Q 344,258 965,208 1,309,466
1944 3rd Q 510,790 1,545,442 2,056,232
1944 4th Q 338,082 1,031,358 1,369,440
1945 1st Q 557,521 1,594,635 2,152,156
1945 2nd Q 243,296 618,055 861,351
Campaign in Far East 12,031 24,425 36,456
Subtotal Operational Losses:Army & Navy 11,285,057 18,344,148 29,629,205

この後Krivosheev報告の詳しい説明が続くが省略する。

民間人犠牲者についてはロシア科学アカデミーの報告が基準となっている。

Soviet civilian war dead estimated by Russian Academy of Science
Deaths caused by the result of direct, intentional actions of violence 7,420,379
Deaths of forced laborers in Germany 2,164,313
Deaths due to famine and disease in the occupied regions 4,100,000
Total 13,684,692

Krivosheev 報告への批判

1.捕虜となった死亡者

Krivosheevはソビエト軍のPOW570万人のうち死者を128万人としている。

しかし、西側の歴史家のほとんどは、300万と見積もっている。

ロシアの研究者Vadim Erlikmanはソビエト軍の死者を1060万としている。彼はソ連軍死者には徴兵された予備役兵150万、兵役年代であったために捕虜として扱われたもの、民兵15万、パルチザン25万が加えられるべきとする。

しかし、Krivosheevは、これらの数字を民間人犠牲者の枠に取り込んでいて、それが300万と128万の差だろうと考えられる。

2.被徴兵者数の再検討

2000年にMikhalev は公認のロシアの戦時犠牲者数に批判的な文章を発表した。彼は1989 から 1996年に国防省の戦史研究所に勤務していた。

彼は実際のソビエト軍の戦没者を1090万人以上と推定した。そして公認の数字が低すぎると主張した。

Mikhalevは2660万人の戦没者の公認の数字は確定的ではないという。

1995年にロシア科学アカデミーは戦争の前と後の人口から推定した戦死者の数字を発表した。全体の戦没者2356万8000人(中央値)とされた。

ロシアにおける非公式な研究

上記の批判はいずれも細部の計算式等の問題点を衝くもので、本質的な相違はないと考えられる。

これに対してより大胆な批判を展開するものもある。

ビクトル・ツェムコフ

ビクトルツェムコフは、公認の数字について論ずる、

彼は、戦争による人命の喪失は統計学的に見て2千万人だと主張する。その内訳は、直接死が1600万、戦時の生活状況の悪化のための死が400万だとする。

ツェムコフによると、科学アカデミーの2660万人という数字は、戦前の死亡率より高めのおよそ700万の自然死を含む。

さらにツェムコフは、Krivosheevによって出された870万人の軍の死者という数字が実際には間違っていたと主張する。

ツェムコフは、実際の軍のロスが400万人の捕虜を含めて約1150万人と考えている。

また、政府の非常事態委員会によって出された被占領地民間人死亡者数680万人という数字を誇大だと評価する。なぜならそこには後部地域に疎開した人の数がふくまれているからである。

彼は民間人犠牲者の正しい数は450万人だと考えている。その数はナチの犠牲者、あるいはドイツ占領地域で闘い殺された人の合計である。

ツェムコフはまた、ドイツでの強制的労働による民間人死者が210万人という政府の数字にも、ドイツの戦時記録に正確に依拠していないと疑問を投げかける。

 Igor Ivlev and Boris Kavalerchik

この二人はKrivosheevの数字の2~2.5倍の犠牲者があったと主張する。すなわち戦争による総ソビエト損失は3850万人、内訳は軍が2060万人、民間人が1800万人というもの。