日本の集団的自衛権受け入れは、米軍事筋の至上命題
集団的自衛権の容認と海外出兵は、憲法との関連で語られることが多い。当然それは正しいのだが、もうひとつの議論も必要なのではないか。
つまり、集団的自衛権を持つことは日本の安全保障に役立つのか、それで日本が守れるのか、少なくとも守りの役に立つのかという議論である。
1.中東情勢と日本への期待
日本に集団的自衛権を受け入れさせることは、米軍事筋の至上命題なのだろう。アーミテージも一連の発言も、常にここにターゲットがあてられている。
安部首相が96条改正に精力を注いだときは、「馬鹿なことをするな」と忠告している。集団的自衛権と憲法をリンクさせるな、解釈改憲で押し通せというのが「知日派」の意見であろう。たしかに「自主憲法」などという時代錯誤の標語で、日本国内に護憲派の大きな運動を引き起こしてしまったために、集団的自衛権の導入は大きな困難を抱えてしまった。
アメリカが世界の憲兵であろうとする限り、最低でも1つ半の戦線を維持するだけの戦力を持たなければならない。ところがイラク侵略戦争後、軍は疲弊し、アフガンの維持さえ困難になっている。
シリアでは侵攻の構えさえとれずに終わった。現在のイラクの情勢には到底対応できそうにない。もしこの状況が続けば、戦火がイスラエルに飛び火する可能性はきわめて高い。
特にロジスティックと、間接的戦闘行為(掃海など)で日本のもつ装備・人員は喉から手が出るほどほしい。
これがアメリカの本音だろう。
2.対中姿勢は日本と隔たる
今回、公明党幹部との「極秘会談」に参加したのはキャンベルとグリーンである。キャンベルは民主党で、グリーンは共和党のネオコン。
二人が揃って会談に参加したことで、集団自衛権がアメリカ側の「コンセンサス」であることを強調したのであろう。
アメリカは軍事筋の「コンセンサス」を強調するために、筋目筋目で超党派外交を展開することがある。
その典型が一昨年10月末、尖閣騒ぎの只中での超党派訪中団であった。当時私は見逃していたが、振り返ってみるとこれは大変重要な会談である。
A 派遣の目的は「尖閣諸島を巡り緊張が高まる日中関係の仲介」である
アメリカのスタンスは基本的に中立である。米側はまず、「中立の姿勢を取る」との原則論を示すことから交渉を開始した。
政治用語で言えば「中道右派」である。もちろん情勢が激発すれば、米国は日本側に立たざるをえない。「だから、そういうことをしてくれるな」というのが基本である。
「そういうこと」の具体的内容として、「尖閣問題で武力を背景とした威嚇行為」をあげたのである。
B それは最高級の会談であった
アメリカ側のメンバーは、スタインバーグ前国務副長官(民主党)、ナイ元国防次官補(同)、ハドリー元大統領補佐官(共和党)、アーミテージ元国務副長官の4人。
提案内容はキャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)が発案した。原案はクリントン国務長官、ドニロン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)による検討を経て、オバマ大統領が承認した。
中国側は次期指導部で首相候補とされる李克強、戴秉国・国務委員、楊潔ち外相が対応した。
したがって、そこには尖閣問題だけではなく、米中関係の基本的あり方に対する広範な合意がふくまれている。
C アメリカは切り札を準備していなかった
もし中国が「そういうこと」をしたとしても、それに対する具体的な制裁手段は示していない。「日米安全保障条約に基づいて米国が日本に加担すると明確に伝えた」のみである。
むしろ説得の主眼は「そういうこと」をしなければ、両国間の良好な関係を維持するというところにある。
これがアメリカの「コンセンサス」である。
これに対し、中国側は尖閣国有化宣言に対し「中立化」をもとめたという。
結果として「米国はこれを退けた」とされるが、少なくとも中国側は一定の根拠をもって米国が中立の立場を取る可能性を期待していたことになる。
(尖閣をふくむ琉球諸島を、ポツダム宣言の「付属する島嶼」にふくむか否かの判断であろう。アメリカには“含まれない”と判断して琉球・奄美を「独立」させた過去がある)
3.日本は自らを守らなければならない
A アメリカのアジアでの軸足は日本にはない
この超党派訪問団の前から、米中間の関係強化は着々と進んでいた。包括的な戦略対話が積み上げられていた。
この関係を壊さないということが最大の狙いであった。その上で日米安保の存在を認めさせるということは、かなり難しい話である。おそらく、日本の行方については、現状を現状のままフリーズするということで、合意する他ないだろう。
もはやアメリカのアジアでの軸足は日本にはない。老大国日本は、このまま固まってくれているのが最善なのである。
ただし純軍事的要請として多国籍軍へのより深い関与はあるので、それを中国側に認めさせる必要はある。
この文脈から考えると、集団的自衛権と憲法改正を結びつけることは、アメリカにとって最悪のオプションである。
とにかく米国にとっては、米中関係維持が最大の戦略目標であることは間違いない。これは厳然たる事実である。まずこのことを認めることから出発するしかない。
B 集団的自衛権で日本は守れない
何か右翼めいた言い方になるが、尖閣を守るために集団的自衛権は何の役にも立たない。
誤解を恐れずに言えば、尖閣を守るためには個別自衛権を強化するしかないのである。
個別的自衛権の強化と言っても武力の強化ではない。平和的抑止力の強化である。それは世界を味方につけることだ。
米国が「現状凍結」を希望したとしても、それを中国が順守するとは限らない。むしろ順守しない可能性のほうが大きいだろう。
まずは中国の侵略的行為に対する国際的な世論による包囲を形成することだ。「戦う前に勝つ」ことが、万が一戦いになったとしても、決定的に重要だ。
アメリカとの関係も、よりシビアーに見直すべきだ。それ以外に日本が生き残る道はない。もはや日本は相対的にも絶対的にも大国ではない。アメリカにしゃぶり尽くされれば捨てられる年増芸者だ。
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