まえがき 工藤さんの言いたいこと

1.価値の二重性とアリストテレス
商品の価値には使用価値と交換価値という二重性がある。これはマルクスが「経済学批判」で再三強調しているように、アリストテレスが発見したものである。
2.ヘーゲルはアリストテレスを引き継いでいる。
ヘーゲルの「哲学史」はアリストテレスの影響を受けている。
3.マルクスはヘーゲル論理学の受容
マルクスはヘーゲルをそのまま引き継いでいるわけではない。
マルクスはヘーゲルの自己展開の論理を発生論的推論に置き換えている。
また展開過程を歴史的に追試することにより確認しながら進んでいる。
この2つの“逆立ち”修正操作により、ヘーゲルの論理の持つ観念論的弱点が克服され、荒唐無稽さが払拭された。そしてヘーゲルの論理学の真髄が引き出された。

資本論・商品論とヘーゲル

(1)商品分析の4つの段階
資本論第一部冒頭の「商品の分析」では次のような論理展開が行われている
第一段階: 商品が二重の価値を持つことの説明。すなわち使用価値と交換価値。
第二段階: 交換価値の本質は労働の作り出した「価値」である。
第三段階: 商品の二重の価値を労働が作り出すのだから、労働も二重性を帯びていることになる。それは具体的有用労働と一般的抽象労働である
第四段階: 市場においては、商品と商品が等価として対置される。それは人間的労働が等価の関係として対置されることである。(ということは、人間的欲望が対応しているということでもある)
このような論理展開はヘーゲルの論理学を元にしている。

(2)ヘーゲルの3つの論理
この4つの段階は、ヘーゲルの「大論理学」に示された3つの論理の応用である。その3つの論理とは
① 「分析的認識」(大論理学の「概念論」と関係)
② 「反省的思考」(大論理学の「本質論」と関係)
③ 「判断」(大論理学の「概念論」と関係)
以下、この3つの論理について詳説する。

第一の論理 分析
分析の視点は商品認識の4つの段階に共通して現れる。
ヘーゲルの考える分析の方法: 分析は何度も繰り返し掘り下げる。
① 素材を論理の塊として再構築する。素材は直観の塊であり、これを論理の塊として抽象化する。
② 認識は進展であり、区別の展開である。視点を据え、要素に分解し、要素の集合として特徴づける。
③ 進展は区別の展開の繰り返しである。区別された抽象をふたたび具体化し、さらに区別する。

第二の論理 反省
① あらゆる存在は、「媒介」されて存在する。存在を知ることは「媒介」を理解することである。
② 存在を媒介との統一として把握することを、「反省された思考」という。
③ 大論理学の「有論」では、まず物事はその直接態において捉えられる。その際に、物事の奥に隠されたものを「本質」という。
④ 物事の本質を探るためには反省が必要。

この付近から相当、腹がむず痒くなってきた。この人はヘーゲルが分かっていない。
ヘーゲルは“Reflexion”と言っているので、反省ではなく反照だろう。鏡に写った影だ。フィルムに落とした風景だ。
ヘーゲルというのはいったいに言葉の使い方が乱暴な人で、そのうえに訳語がずれてくるから、何を言っているかわからないところがたくさんある。ヘーゲルの本を読むコツは、わからないところは飛ばすことだ。ツァー会社の宣伝ではないが「ヘーゲル、5日間の旅」だ。大丈夫、彼はまた同じことを繰り返す。

第三の論理 判断
判断とは物事が存在する必然性についての理解である。
ヘーゲルの唱える判断には2つの特徴がある。
① 概念内に措定された規定性(なんやこりゃ?)
② 判断のプロセスは思考の上行過程と呼ばれる。
③ そこではまず定有の判断が行われ、ついで反省の判断、そして必然性の判断が続き、最後に概念が判断される。
この定有→反省→必然性→概念という4つの判断過程を踏むことによって新しい概念が作られる。

多分ここで言いたいのは、現象→実体→本質という武谷の三段階説と同じことだ。しかし武谷モデルのほうがはるかにスッキリしている。ここで高齢学習者である私の学習エネルギーはがくんと落ちる
ここで私は本を閉じた。

なお「分析」にかかわる記述でちょっと脈絡なく、クーゲルマンへの手紙が紹介されている。
これは分析の視点の一つとして、「概念を歴史と発展の視点から捉える」というマルクスの立場を示したものだ。

この手紙は資本論第一部の発行後1年経ってから書かれたもので、分配問題について重要な言及がある。

工藤さんによれば、
① 社会の欲望量には社会的総労働が対応する。その個別の分配割合は社会的に規定される。社会的に規定されるというのは、市場的であると否とを問わない。
② 社会的配分の仕方は生産形態によって規定されない。それ自体が自然法則であり、それをなくすことはできない。
③ 労働生産物が私的に交換される社会、すなわち商品社会では、社会的配分は交換価値を通じて貫徹される。
ということで、面白そうな話題だが、詳細不明である。あとで調べてみよう。