渡辺 茂 「鳥脳力―小さな頭に秘められた驚異の能力」 の摘要

少し他の論文で補充しています。

はじめに なぜ鳥か

岡ノ谷一夫さんは鳥の脳が注目されるに至った理由を以下のように述べています。      

哺乳類の脳と比較しても、皮質と思われる部位が非常に薄いわけです。その中に丸い構造体があるのでこれはきっと基底核に違いない、線条体に違いないということで、これは全部 “striatum” という名前を昔の解剖学者がつけてしまった。

その人達が、鳥というのは基底核が発達していて上手に空を飛べて本能的な行動はちゃんとできるけれども、皮質が薄い、だから行動の可塑性がないというウソをでっち上げた。
鳥の大脳は、哺乳類の大脳皮質のそれぞれの層に対応した部分が、層をつくらずに固まりをつくって存在している。いままで基底核と考えられてきたのは、そうではなく皮質様神経だという事になってきた。

とても良い文章です。この人は慶応の文学部を出てからこの世界に飛び込んだ文系人なので、物事をざっくり捕まえる力を持っています。私はこの文章から「ユニット型とモジュール型」という分類を考えつきました。

宇都宮大学農学部の杉田昭栄先生は、もっとリアルに鳥(とくにカラス)の脳を研究する理由を述べています。

1.鳥類は人間と同様に昼行性で、視覚を主体に認知活動を行う。(したがって勤務と矛盾が少ない)

2.サルはお金が高いし管理が大変だが、カラスはキャンパスでも捕まえられる。(動物愛護論者の抵抗も比較的少ない)

3.構造的には人間とかなり違っているが、哺乳類よりもはるかに類似した行動をとる。この違いと類似の相反関係が面白い。これを「平行進化」と呼ぶ。 異なった種において、似通った方向の進化が見られることを指す。

4.人間だけの特質と言われたものが鳥にもある。カラスは道具を使うし道具を作ることもできる。鏡に映った自らを認識したり、未来に向けて計画的に動いたりする。だからカラスを調べることは人間を調べることでもある。


鳥―絶滅しなかった恐竜


鳥脳とはどんなものか

鳥の脳 によると、コンゴウインコの脳はクルミくらいです。一方霊長類の中で最も原始的と言われるマカクザルの脳でもレモン程の大きさがあります。「流石に霊長類にはかなわないか」と思うかもしれません。しかし脳神経の密度はインコのほうがはるかに高いのです。霊長類に比べて2倍、ラットやマウスに比べて2~4倍とされます。インコの脳神経細胞はマカクザルを越える数なのです。
鳥の脳

鳥の脳からは哺乳類と同数 (12対) の脳神経が出ています。マクロで見ると平衡感覚や視覚に関係する小脳と中脳がとても大きくなっています。これに対して嗅覚と味覚はあまり発達していません。

鳥の大脳は外套と呼ばれます。以前は線条体と呼ばれていましたが、不正確であることがわかったため、いまは使いません。
カラス脳断面
外套は①本能的な学習能力を司る弓外套,②訓練あるいは経験によって学習する巣外套,③連合野に相当する高度で総合的な知的判断を行うための中外套。総合的な知的判断というのは、たとえば,クルミを車に轢かせるなどの行動です。そして④人間の前頭前野に相当する高外套などに区分されています。
脳の大きさは可塑性である可能性があります。さまざまな鳥を飼育下で繁殖させ、脳の大きさを比較したところ、21種中、16種で脳が小さくなったと報告されています。平均減少率は20~30%に達しました。


鳥の脳力

以下の記述は実験による評価なので、サンプルや環境などの設定法により異なっているかもしれません。

数の理解力: ハトは5まで、セキセイインコは6まで、ワタリガラスは7まで。

記憶力: 記憶には、感覚記憶と短期記憶、長期記憶がある。感覚記憶は数秒で動物による差はない。短期記憶は、人では20秒程度で記憶できる種類は7±2。鳥では数秒~十数秒とされる。長期記憶は、カラスは必要であれば、少なくとも12 ヵ月間は記憶できる。貯食性の鳥は多くの貯蔵場所を長期にわたって記憶する。

識別力: 人の顔の識別と記憶は10人位までは問題なく可能。

道具の制作: カラスは針金を曲げてフックを作り、餌をひっかけて取り出すことができる。

カラスの特殊性

鳥の「脳力」ランキングは下記のようになっています。

1.カラス科 

2.オウム

3.フクロウ・キツツキ

4.スズメ

5.ニワトリ・ハト(劣等)

カラスの脳は他の鳥類の脳とは全くレベルが違うといわれます。カラスのは「羽をもった霊長類」と呼ばれることもあります。

カラスの脳重量は10グラムでニワトリの3倍。脳全体に対する大脳の比率は80%、ニワトリでは50%です。

カラスの神経細胞数は、ニワトリの約3,300個に対し、19,500と約6倍の密度。これは外套の占める割合が高いからです。




鳥脳に「自己」を教える
ハトがビデオ映像に映し出された自分の映像を自分として認知した。