だいぶ前、こんなことを書いた。
前脳は中脳、後脳と同様にまずもって感覚情報の集中点だ。中脳が視覚のセンターであるのと同様に、前脳は嗅覚とおそらくは感覚ヒゲのセンターだったのではないかと思う。
これは私の三脳説の肝である。前脳・中脳の背側には何やらいろいろ突起がある。その一つ(一対)がやがてカリフラワー状に増殖していって大脳を形成したのではないかということだ。

それは発生学的には嗅神経に一致するのだが、系統発生から言うともう一つの機能がある。それがヒゲの感覚だ。おそらく振動覚に近いものだろうと思うが、霊長類以前の動物ではきわめてよく発達している。

このヒゲ感覚はどう発達し、どう退化したのか、その中枢はどこにあったのか、きわめて興味あるところである。

それでネットで資料を探し始めたのだが案外ない。そこでまず子供向けみたいな記事から入っていくことにする。

身近にいる犬と猫、どちらにも立派なひげがある。

ひげと言っても人間のひげとは違う。口を中心とする頭部に特に長く突き出したまばらな毛を指す。これは洞毛と言われ被毛よりも2倍から3倍の太さがある。
その毛根には神経と血液が流れていて、鋭敏な触覚器として機能している。
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猫のヒゲは大体12本ずつある。イヌより発達していて長さも長い。このひげは感覚が非常に鋭く、わずかな空気の動きでも察知するといわれる。

猫のヒゲを切ってしまうと、平衡感覚が鈍るためフラフラして、壁やものにぶつかりやすくなってしまう。

リラックスしている時は少し横に寝ている状態で、何かに興味を示している時は前向きに、鼻や口の前にヒゲが出てくる。怯えているか怒っている時は後ろに引いた状態になっている。

というところで、どうもあんまり本質的な説明はない。

いろいろ探していくと下記の論文にぶつかった。

鳴海 毅亮 「ラットのヒゲ刺激方向情報処理における毛帯路系および毛帯外路系の機能差に関する研究」に刺激伝達回路と感覚中枢が示されている。

これはかなり専門的な研究で、ヒゲの感知した情報が2つの上行経路を伝わって中枢に伝達されるのだが、その2つがいかに使い分けられているのかという研究だ。

それはとりあえずどうでもいいので、基礎的なところだけつまみ食いさせていただく。
ヒゲの物理的刺激は毛根の受容器細胞により検出される。この刺激情報は一時求心性線維の神経線維束を経由して三叉神経核の主知覚核に達する。
三叉神経核からはニューロンを換えて視床核のVPMに伝達され、さらに視床核から大脳の体性感覚野のヒゲの感覚領域につながっている。
これまでの研究によると、ラット大脳皮質の一次体性感覚野で、ヒゲの感覚情報処理に用いられる皮質面積は非常に大きいとされる。
その体性感覚野には、顔面に生える太いヒゲ(洞毛)情報を処理するバレル(樽)と呼ばれるモジュール構造が存在する。
ということだ。以下、ネズミも猫も犬も基本は同じだろうという推測の上で、解説していくことにする。

解説
ヒゲ(洞毛)の毛根には神経叢が絡んでいる。ヒゲに加えられた物理的刺激は、電気信号となって知覚神経を上行する。

これは、基本的にはすべての皮膚表面に加えられた刺激が上行していく機序と変わりない。それが顔面であれば三叉神経(トリゲミナス)ということになる。違いはたんに量的な違いだけである。

まぁ、虫歯のときの歯の神経の知覚過敏を思い起こせばいいのであろう。

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多分人間と同じだと思うが、上顎神経を上行し三叉神経節から頭蓋内に入り脳橋の主知覚核でシナプスを替える。
これは視床に入っていったん終了するのだが、他の情報と突き合わせ高度情報化するために頭頂葉の体性感覚野に送られる。

体性感覚野というのは要はホムンクルスのことであって、それがネズミではヒゲ感覚に多くの領域が当てられているということである。
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結論

結局わかったのは、ヒゲ感覚はより敏感ではあるものの、所詮は皮膚感覚の延長であり、特殊な仕掛けではないということだ。触覚一般ではない特殊な知覚ではないかという私の予想は、残念だが、外れていた。

嗅神経は自分で好悪を判断すると書いたが、ヒゲ感覚は知覚経路に並走してその刺激の意味を付与する神経が走っているということになる。毛帯系と毛帯外路系というのはそういう意味だろう。

それが統合されるためには、一次感覚野まで行かないとならないみたいだ。なぜならそこには海馬のようなハードウェア(記憶装置)がないからだ。