無題

電子情報通信学会誌(2007年第1号)に以下の論文が載っている。

 「史上空前の論文捏造」から考える科学の変容と倫理(<特別小特集>研究者・技術者の倫理観・人生観)

『論文捏造』の著者、村松秀さんの書いたものである。グーグルから普通に行くと辿りつけないが、kojitakenの日記 でLink を貼ってくれてある。こちらには全文が転載されており、コピペも可能である。

ちなみにKojitaken さんのブログの文章も筋の通った良い文章なので、そちらもご一読をおすすめする。

ということで、以下は村松論文の抄録。

ヤン・ヘンドリック・シェーンの超電導スキャンダル

という事件が2002年にあった。これが小保方スキャンダルと瓜二つだ。

ベル研究所でそれは起きた.ベル研究所はアメリカが世界に誇る科学の殿堂,ノーベル賞受賞者が11名もいる。日本の理研と同じ位置づけだ。

そのベル研究所の若き天才科学者,ヤン・ヘンドリック・シェーンが,有機物の超伝導を全く新しい仕組みで実現した。

科学界はこれを賞賛した。「ネイチャー」誌に7本,「サイエンス」誌には9本もの論文がわずか3年のうちに掲載された。彼はノーベル物理学賞の有力候補とされた。

ところが突然、ベル研究所調査委員会は、シェーンの論文は捏造と発表した。シェーンは科学の世界から追放された。

ドキュメンタリー「史上空前の論文捏造」

村松さんはNHKの番組ディレクターとしてこの事件を取材し、上記の番組を作成した。.そこから科学界が内包する構造的な問題点が浮かび上がってきた。

共同研究者,上司,研究所,ジャーナル,他の研究者,科学コミュニティ...は、捏造をきちんと見いだせなかった。

ベル研究所は親会社の不況の波をかぶって経済性を最優先するようになり,シェーンの論文を手放しで賞賛するのみで,しかも内部告発があったにもかかわらず真っ当な調査を行うことはなかった.

事件の本質は科学そのものの大きな「変容」にある

1.成果主義

ほかよりも少しでも早く見いだすことが重視される。そのため、成果の得やすい研究や失敗の少ない研究,一般受けしやすい研究をチョイスする。

2.科学と経済性との結び付き

科学的成果が商品開発や生産技術などにたちまち生かされ,金銭的な価値を生み出して経済発展に直結する時代。

3.特許による金銭的メリット

多くの企業が献金や委託研究も含めて様々な公的研究に関与している。こうした状況の中では,秘密主義やだましといったことが生じやすくもなる.

科学の根幹だったはずの「再現性」

科学の根幹である「再現性」は,先端科学では必ずしも十二分に保証されない。

国家プロジェクト級の大規模な装置や,多額の研究資金が必要なため、追試が不可能となる。科学が「深く細く」なりすぎた弊害もある。

研究者自身の「神の手」ともいうべき真似のできないテクニックが,実は現代科学を支えていたりする。その場合は極端にいうと「再現性がない」こと自体がステイタスになることもある。

学術審査のあり方と科学倫理観の形成

旧態依然とした発表制度では不正を防ぐことができない。発表の方法やスタイルを全く違ったものにしなければならない。

より根本的には、科学の変容の是非を問い,21世紀の科学は一体どうあるべきかの議論をもっともっと深め,コンセンサスを形成すべきだ。