1.宮崎さんは中国を買いかぶっている
宮崎さんの話を聞いていると、私はどうも中国経済を買いかぶっているのではないか思ってしまう。
マック価格というのがあるが、私はマックのハンバーガーは嫌いだから(モスバーガーは嫌いでない)、あまりピンとこない。それに対し居酒屋価格というのは大いに実感できる。
わたしが北京に行ったのは2004年のことだ。その時ホテルの隣の地元の人が行く食堂では腹いっぱい飲んで食って800円だった。
北京の物価は日本の10分の1、昭和40年ころの物価だなと感じた。韓国が5分の1だったから、その半分ということになる。
社会インフラはびっくりするほど遅れていて、ほとんど皆無と言ってよいほどだった。
詳しくは「中国の農村医療問題ノート」、「中国の社会保障」、「中国における失業と貧困問題」を御覧いただきたい。
これが15年前だ。それからいかに急成長を遂げたといってもまだ日本には及ばないはずだ。ただ貧富の差はすごいから、上流の人達は日本を追い越しているかもしれない。

2.中国のGDPは見掛け倒し
もう一つ、中国のGDP成長は見掛け倒しだということ。これはリーマンショックの時に相場に逆張りしたから膨らんだだけであって、働いて稼いで勝ちとったGDPではない。日本の高度成長とは中身が違う。
さらに言えば、巨額の投資を行ったにもかかわらず、GDP成長は減速しているわけだから、それは隠れ債務として積み上がっているはずだ。それがどこに潜んでいるかはわからない。こちらが専門家に聞きたいくらいである。公的債務として積み上がっていないのであれば、それは民間債務となっているはずだ。しかしそれは中国政府にとっては同じことで、かえってタチが悪いかもしれない。

3.中国は泣きを入れるだろう
日本でバブルが破綻したとき、凄まじい資産の減損が行われた。金融機関もバタバタと逝った。倒れなくても、例えばオリンパスのように、密かに莫大な不良債権を抱え続けた企業も少なくなかったはずだ。
超優良国日本ですらそうだったのだから、中国がバブル崩壊と人民元の売り浴びせに耐えられるわけがない。
だから中国は必ずどこかでアメリカに泣きを入れるはずだ。
米中の覇権争いだとか、米国が凋落しつつあるなどという見方は見当違いだし、中国経済の不当な買いかぶりだ。
私はそう思う。

4.「盛者必衰」史観の無力さ
宮崎さんの話は、結局米中貿易摩擦を世界史のレベルに還元してしまおうということで、しかもそれは唯物論と言うよりは「盛者必衰の理」という無常観に基づくものだ。
では日米貿易摩擦のとき、なぜ日本は敗れたのだろうか? なぜ中国なら勝てるのだろうか?
そこのあたりを上手く説明してもらえないと、お通夜のときの坊主の「法話」と同じで、屁のつっかいにもならない。
もしわたしがことわざで対抗するなら、「出る杭は打たれる」だ。おそらく鄧小平もそう言っただろう。
「いつかは中国は世界一になるだろう。しかしその時までは隠忍自重が求められる。今はまだ我慢のときだ」
米中の経済関係は基本的にはウィン・ウィンで推移している。トランプの中国批判は言いがかりに過ぎない。
ただしこの関係を続ける限り中国はさらに成長を続けるだろう。それは米国にとって脅威になるかもしれない。
そのように米国の一部勢力が考えたとしてもなんの不思議もない。中国は今もなお共産主義を標榜しているからだ。共産主義の名によって独裁政治を合理化しているからだ。

5.当面の主要な側面はGAFAの“開放”圧力だ
中国の成長が見掛け倒しもふくんでいるとすれば、アメリカの超巨大産業の成長は正味そのものであり、こちらのほうがはるかにでかい。
もし米中経済摩擦を論じるなら、衰亡しつつある米国の反撃と捉えるよりは、4大IT企業“GAFA”による知財攻勢の一環として位置づけたほうが情勢把握としては正確だろう。
日米経済摩擦を思い起こせば良い。たしかに最初はアメリカの自動車産業の悲鳴であったが、90年代に入って様子は一変した。彼らは次々に難題をふっかけ、日本の財産を食い物にし、ハイエナのようにたかり、すべてを奪って行った。
基本的には米国は貿易摩擦問題で決して受け身ではない。彼らは被害者ではなく加害者だ。このことをリアルにアクティブに受け止めるべきではないか。