日本語のネット情報だけで、「メキシコ総選挙」の情報を書いてみました。
1.アムロの勝利は「優しさ」の勝利
のっけからやや感傷的な感想で申し訳ないが、アムロの勝利はこの国の持つ優しさの勝利ではないかという気がする。
毎年何万人という人がカルテルの抗争で殺される殺伐とした国ではあるが、それはこの国の権力を握る者たちの腐敗を示すものであって、人の持つ優しさを否定するものではない。
アムロは30年前に政界入りして以来、一貫して貧しい人々、社会を支えて働く人々、女性や子供、若者たちの目線に自らを置いて闘ってきた。優しさを闘いに変えてきた。所属政党を変えたのでなく所属政党が変わって行ってしまったのであって、アムロは一貫している。
そのようにアムロの姿勢が一貫したものだったとしたら、どうしてその優しさがこれまでは伝わらず、今回突然に国民の圧倒的支持を得ることになったのだろう。
それが、メキシコ総選挙を教訓とする上での最大の眼目である。

2.アムロってどんな人
アムロはタバスコ州出身の政治家で、現在は64歳。1976年に当時の与党「制度的革命党」(PRI)に入党し政治活動をスタートした。
1988年に党内の進歩派が分かれ「民主革命党」PRDを結成すると、アムロもそちらに移りました。2000年から05年までメキシコ市長を務めたあと、2006年にはPRDから大統領選に出馬、このときは僅差で破れた。2012年にも出馬し敗れており、今回は3度目の正直ということになる。
メキシコの大統領は任期6年で、再選は禁止されている。
PRDの右傾化に伴いこれと袂を分かち、自らの主導する政党「国家再生運動」(モレーナ)を立ち上げた。去年、大統領選に立候補するに伴い党首を辞任したが、現在も強い影響力を保持している。
PRIを離れて以降、PRIの汚職腐敗を批判する姿勢は一貫している。メキシコ市長時代も清廉潔白を貫いた。アムロの愛車は日産の小型セダンの「ツル」(サニーの旧モデル)だった。

3.暴力と腐敗根絶に高まる期待
アムロは汚職や免責の撲滅を新政権の最優先課題にすえた。
総選挙の期間中には130人以上の候補・党員が殺害された。「メキシコ近代史上、最も暴力的な選挙」だといわれる。
なお同じ時期、殺人事件による犠牲者の数は2万5000人を超えている。その多くが麻薬組織間の抗争によるもの。今年1~3月も前年同期に比し20%増と絶望的な状況にある。
どこが絶望的なのか。それは2万5千人が殺されたことではなく、殺された分が新たに補充されているという事実である。それはどこからリクルートされているのか。
アムロは治安悪化の根本的な要因として貧困を挙げており、貧困対策や雇用創出を通じて麻薬ビジネスを抑え込もうと主張する。貧困と失業がなくなれば、蛇口を開いてもギャング予備軍は出て来なくなるはずだ。
また犯罪組織との関係では、徹底抗戦よりも対話を重視した解決を目指すと主張している。具体的な内容は不明だが、とりあえずカルテルの内輪もめについては放置し、市民に影響を及ぼさないような一種の協約体制を目指す可能性もある。実のところ、国連・世界銀行データによれば、殺人事件の発生率は複数のラテンアメリカ諸国よりもかなり低いのだ。

4.青年がアムロ勝利の道を切り開いた
アムロ圧勝の道を切り開いたのはサンダースのアメリカ、コービンのイギリス、メランションのフランスと同じく若者の力だった。
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             アムロ支持派の集会
18歳から23歳の有権者約1300万人が今回初めて投票に参加した。彼らは前回選挙後の6年間に新たに有権者となった層である。彼らは少年期を汚職や薬物関連の暴力などにさらされて育った。
彼らは、既成勢力に深く幻滅しており、真の変化をもたらすことのできる道義心を持ったリーダーを切実に求めている。青年がもとめているのは社会正義であり、そのパワーを見誤ってはならない。
世論調査によると、30歳以下の有権者の47%がアムロを支持しており、分厚いアムロ支持層を形成している。アムロ現象はある意味で、サンダース現象が国境を越えて波及したものと言える。

5.経済政策とNAFTAの扱い
経済・通商政策では、アムロは「メキシコ第一主義」をとなえトランプの向こうを張るような大衆迎合政策を掲げた。他の政党はアムロを「ポピュリストで経済の舵取りは任せられない」と非難した。
農業などの国内産業の保護は譲れないが、それ以外では妥協の余地を残している。
選挙戦末期には対米避難の論調を多少緩め、米国との「友好的かつ協力的な関係」を目指すと発言し始めている。
アムロの経済政策をよく見ると、言葉上の過激主義とは異なり、成熟した政策展開が予想される。
彼は無論、市場メカニズム至上主義ともいえる新自由主義(ネオリベラリズム)には反対である。しかし市場メカニズムを完全には否定しているわけではない。民間資本や外資も有効に活用すべきと主張している。
マクロ経済政策については、公的支出の役割に重点を置いた新ケインズ的な計画となっているが、マクロ経済指標は重視し、均衡財政を維持することを大前提においている。
NAFTAについては原則として、「貿易と外国投資に対する法的信頼性を付与し、経済・通商関係の発展にとって有益な手段であった」ことを認めている。そのうえで相対的自立を目指そうとしている。
最大の資源関連イシューとなっている石油売却(ファームアウト)の契約についても、汚職の可能性を指摘し、見直しを訴えている。ただ国際入札自体を否定しているわけではない。ガソリン販売の自由化もそれ自体は否定していない。
(経済分析についてはジェトロの「AMLO氏旋風が舞うメキシコ大統領選挙」を参考にさせていただきました)

6.ラテンアメリカ情勢とアムロの勝利
アムロの当選、メキシコにおける左翼の勝利は中南米の進歩派にとって長年の夢だった。
リオグランデからフエゴ島までラテンアメリカ人の自主的国家が完成したかもしれない。
しかしアムロが当選したいま、中南米の進歩派は著しい退潮ムードの中にある。
おそらく政策的な舵取りはとても難しいものになるだろう。
逆に言えば、そのような政策選択の幅が狭い中でどうしてこれだけ多くの国民の期待が集中したのだろう、という話になる。
メディアの報道にはこの視点が欠如している。

AMLOについては過去に数多く言及しています。サイドバーの検索窓に“AMLO”と入れて検索してみてください。
振り返りをしようと思いましたが、ここ10年近くメキシコ年表が更新されていません。2,3日は更新作業に集中します。